●リプレイ本文
●シシリー海峡
UPCはアフリカ大陸のバグアがスペインのバグアと合流するのを防ぐため奇襲を展開する。能力者とUPCパイロットで構成されたKV編隊はアフリカ大陸アルジェリア、チェニスを目指す。だが、シシリー島とチェニスのあいだシシリー海峡でバグアからの襲撃を受ける。
海面がうねる。ビームが夜空へ走った。ビームで夜空が縞模様になる。KV編隊が照らし出される。九条・命(
ga0148)の赤いKVディアブロが闇から浮かび上がる。
九条は機体を傾けて敵を視認する。
(「海戦仕様のヘルメットワームが哨戒していたか。よし。やってやる」)
九条がKVに攻撃意志を伝えようとしたとき、UPCパイロットから無線が入る。ここは我々が食い止める。チェニスの同朋を援護してくれ。
この無線と同時にUPCパイロットのKVが一斉に降下した。
海面間近で爆発が連続する。
能力者のKV編隊はチェニスへ向かう。九条は戦火をみた。
(「戦火がみえる。燃えているのはチェニスか。なんにしろ地上部隊が上手く侵入できたようだな。彼らが逃げる隙を作らねば」)
KV編隊とは別に地上部隊が組織されている。海底トンネルを利用してチェニス周辺に奇襲を仕掛ける手はずになっている。KV編隊の任務の一部にはこの地上部隊が撤退する時間を作るというものが含まれている。
ヴァシュカ(
ga7064)が九条に注意を促す。ヴァシュカの乗機、妖精のようなKV、アンジェリカの翼を振る。
「さて。新しい子の空戦性能はいかほどでしょうか。‥‥九条さん、敵機、来ますよ!」
「了解」と九条。
能力者たちの編隊を海戦仕様のヘルメットワームが追ってくる。ヘルメットワームはトビウオのように海面を跳ねていた。
九条は仲間に先に向かうようにいう。同時にヴァシュカと一緒にインメルマンターンを決める。赤い機体と白い機体が急上昇する。機体が垂直になったところで宙返りを打って機首を海面に向ける。急降下してヘルメットワームの後部につく。
背後をとられたヘルメットワームは回頭しようとする。が、正対する前に攻撃が開始された。バルカンの雨にヘルメットワームが赤く瞬く。フォースフィールドがレーザーによって貫かれる。ヘルメットワームは撃墜、海面に激突する。
水柱が上がった。
ディアブロとアンジェリカが水柱をぶった切って飛ぶ。
●チェニス周辺
シシリー海峡での戦闘に呼応するかのようにチェニス周辺でも戦闘を起きる。バイパーを駆る鯨井昼寝(
ga0488)はすでに複数のヘルメットワームを撃破していた。バディのファルロス(
ga3559)は岩龍で出撃している。ファルロスから電子支援で昼寝はバイパーの砲戦能力を最大限に生かしていた。
ファルロスが報告する。
「前方の都市にキューブワームの群を発見。現在、地上部隊が殲滅中です」
ファルロスはスナイパーライフルD−02の光学センサーで地上部隊の動きをみる。待機中なのか、地上に停まっているキューブワームがみえた。地上部隊のKVがキューブワームの中に割って入り、フレア弾らしきものを設置している。これを邪魔するために上空からヘルメットワームがKVを狙撃しようしている。
ヘルメットワームが地上部隊のKVを狙撃するまえにファルロスは撃った。敵の落下するさまなど無視してファルロスは鯨井にいう。
「今の狙撃で敵がこちらに殺到する。バイパーの火力で圧倒しろ」
「了解した。‥‥私の力がどれほどのものか確認するとしよう」
ヘルメットワームやキメラが迫る。蚊柱のように固まっている。一直線になって突撃してくるこれらへ鯨井はホーミングミサイルを放つ。続いて鯨井はKVを歩行形態へ変形して滑空しながら全武装を一斉射撃する。ホーミングミサイルの爆炎に銃弾が、レーザーが、電撃が突き刺さる。撃破されたヘルメットーワームが飛行型キメラを巻き込んで墜落した。
電子支援をしていたファルロスが仲間たちにいう。
「地上部隊より連絡。フレア弾を使用する。退避せよ」
KV編隊は空へ逃げる。鯨井もまたKVを飛行形態に戻して空へ飛び込む。これをヘルメットワームやキメラが追ってくる。
地上が爆発する。一瞬だけ夜が死んで昼が生まれる。太陽のような火の玉が市街地を押し潰す。火の玉から鯨井機が逃れる。追っていたヘルメットワームやキメラは火の玉に飲み込まれて消えた。
夜が戻ってくる。地上には死のような静寂が現れた。
ファルロスの平坦な声がKVのコクピットに響く。
「レーダーに感あり。西方から敵が迫ってきます」
能力者たちは脳に針を刺すような音を聞きつけて身震いした。
●中央突破
丘を背景としてキューブワームが星の欠片のように浮き上がる。地上からヘルメットワームが飛び立って編隊を組む。そして丘が動いた。丘ではない。ギガワームだ。直径は1km程、おそらく最も小型のものだろう。それでも内部には数十機のヘルメットワームが格納されているはずだ。
ギガワームはカタパルトを展開するとヘルメットワームやキメラを吐き出す。
鯨井がコクピットで唇をなめた。強がる。
「ふふふ。なかなかやるな。そうこなくては。‥‥弾薬を温存した甲斐があったぞ」
「ギガワームだと」九条がうめく。「さすがバグア域だけあるということか。この数をどう片付ける。墜としきれんぞ」
一筋の光が走る。中型ヘルメットワームが貫かれて墜落する。漸 王零(
ga2930)のディアブロだ。
「フムン。よかろう。これこそ我に値する戦場だ。皆よ、敵陣を中央突破せよ。我と絢文はギガワームを倒す。‥‥ついてきてくれるな、絢文?」
「わかりました」と絢文 桜子(
ga6137)。「あなたを信じて全力を尽くします」
周防 誠(
ga7131)がいう。
「なるほど。あえて敵陣に飛び込み、大出血させる。敵にこちらを殲滅するか、逃がして体勢を整えるか、どちらか選択させるんですね」
九条が呟く。死中に生を求めるか、と。
雑賀 幸輔(
ga6073)は歯を剥く。
「腹は決まった。敵が逃がしてくれるほうへ賭ける。目当ての賞品は地中海の遊覧飛行だ」
いろいろ混じっていますよと絢文が口元をほころばせた。
KV編隊は二等辺三角形の隊形を作る。剣のように敵の群へ突撃する。暗殺者の短刀のようにKV編隊は敵陣の懐奥深くにねじ込まれた。
漸機と絢文機が編隊から外れる。
ヘルメットワームとキメラはKV編隊を上下左右から包囲する。攻撃によって墜とされるが、すぐに代わりのものがKV編隊にまとわりつく。
ギガワームはカタパルトを展開すると、ヘルメットワームを排出した。濃くなっていく包囲網の一点が閃く。漸機と絢文機は高火力で進路をなぎ払うとギガワームへ突撃する
漸の視界一杯にギガワームが広がる。その口のようなカタパルトからヘルメットワームが体当たりするかのように発進してくる。高速ミサイルのようなヘルメットワームと漸機はすれ違う。ヘルメットワームは両断されてしまった。漸機のソードウイングによって。
漸機は歩行形態に変形してカタパルトへ着地する。
漸は呟く。搭乗するディアブロが人間のように構えをとる。
「‥‥聖闇倒神浄影滅魔流・狂鬼神剣舞!」
ディアブロがカタパルトで舞った。赤い翼が閃く。ソードウイングが発進口をズタズタに斬り裂く。
絢文のアンジェリカが歩行形態で滑空する。ヴァルキリーのように漸機のもとへ降り立つ。
「ギガワームの発進口の破壊を確認しました。これ以上包囲網が濃くなることはありません。皆様、地中海へ脱出です」
『了解した!』
全員が応じる。弾幕を張るギガワームとヘルメットワームやキメラ相手に無傷という訳にはいかない。各KVは大破こそしていないものの、よくても中破という状態だ。
KV編隊は地中海へ向けて火線を展開する。炎と雷の剣が包囲網を斬り崩す。巻き込まれたヘルメットワームが爆発する。
雑賀がいう。
「死中に生を得た。全機、今度は火中を征け。ではお先に!」
KVの攻撃によって炎の道が空に生じる。雑賀を筆頭にKV編隊は炎へ突っ込む。
●チェイス
炎の道に雑賀機が飛び込むと、周防機は追随した。
コクピットで周防はつぶやく。トリガーに触れる。スナイパーライフル発射用意。
「まいったね。脱出の先陣を切るってのは真っ先に逃げたみたいだ。‥‥でも!」
周防はトリガーを引く。スナイパーライフルが銃弾を吐く。眼前に出現したヘルメットワームが砕け散る。
「でも、本当は道路掃除なんだよね」
雑賀が相づちを打つ。
「まったくまったく。同感だねえ。‥‥後ろやばいぞ」
雑賀機はKVならでは急旋回をして周防機を追うヘルメットワームの背後に回り込む。ソードウイングで叩き斬り、叩き墜とした。
空中の炎が消える。前方に敵影無し、とファルロスが報告する。
KV編隊はサルディニア半島へ機首を向ける。全機、ブーストを使用、余剰エネルギーが機体をはい回る。KV編隊は地表すれすれをゆく流星のように飛行して、追ってくるバグアをアフリカに置き去りにした。
ファルロスが報告する。
「前方に敵影を確認」
「おっと道を間違えたか?」といいながら雑賀は目を凝らす。朝が近い。紫の空の下に海が広がる。巨大なクラゲが浮かんでいる。
「まいったな。また海戦仕様のヘルメットワームですか」
さらにファルロスが報告する。
「後方に敵影を確認。さっきの敵の一部が追ってくる。加速中だ」
挟み撃ちに遭うというファルロスの指摘を聞きながら周防機と雑賀機は敵のいる海面へ突撃した。
残存するミサイルを放ちながら雑賀は叫ぶ。
「ピンチじゃない。おれたちのピンチじゃない。バグアめ、おれたちがお前たちの水先案内人だ。死の川へ連れていってやる」
「サルディニアはもうすぐです。ファルロスさん、サルディニアの部隊へ連絡を。対空砲火を要請して下さい」
周防機はワイバーンを歩行形態へ変化する。海面のヘルメットワームに着地、これを足場として跳躍、滑空しながらヘルメットワームを撃破、他のヘルメットワームに取り付き、跳躍する。
ヘルメットワームが降下してくる周防機を回避しようとする。
「足場になったらもう数秒生きられたぜ」
雑賀はこのヘルメットワームを撃ち抜いた。
鯨井が警告する。
「後方の敵が到達。もう弾薬が!」
九条が叫ぶ。
「よかろう。無手で相手をしてやる!」
そこに、
「下がれ、能力者。奴らのホストは我々UPCが務める」
別れたきりになっていたUPCパイロットのKV編隊が出現する。このKV編隊が後方から迫る敵の側面を突く。
さらにすべてのKVにサルディニアのUPC部隊から無線が入る。
「花火とシャンパンの準備は出来た。あとはお客様の到着だけだ」
UPCのKVと能力者のKVが合流する。ブーストを使用してサルディニアへ向かう。ヘルメットワームもまた超加速して後を追う。
夜に偽物の朝が現れる。
近くは海面から、遠くはサルディニア島から、火線があがる。
死の花が空中全体に咲いた。
次々とヘルメットワームが脱落していく。
能力者たちはその光景を見守った。そこに無線が入る。
「無事に帰投したな、ブーメラン飛行隊の諸君。そんなきみたちに教えよう。戻ってきたブーメランというものは再び投げられるということを。作戦は無事成功だ。しかし、あまりに連れてきた連中が多い。補給と簡易修理が済み次第、再出撃だ」
能力者たちは苦笑いすると滑走路へ降り立った。
KVの周辺に整備兵が集まってくる。
空では戦いが繰り広げられていた。
鯨井はうめく。RTBは宣言できない。