●リプレイ本文
●互いに捕捉
鉱山の麓に人気のない町がある。昔は抗夫や技術者が暮らしていたが、鉱山の閉鎖とともに姿を消した。今、この町にいるのは12人の傭兵だけだ。
この傭兵たちはバグアから依頼を受けていた。人類から異星人へ寝返ったわけではなく、襲来以前と同じく、自分の技術を高く買ってくれるほうについただけだった。
天井の抜けたガレージで旧式の対空砲が組み立てられている。バグア襲来以前の骨董品だから砲弾が小さい。そのせいで威力がないが、おかげで炸薬も少ない。炸薬ということは発射音も煙も少ないということだ。だから傭兵は廃墟の広がるゴーストタウンを戦場に選んだ。家屋内から発砲すれば、位置が露見しにくい。
傭兵の対空攻撃は補給部隊にとっては青天霹靂だった。すでに輸送機とKV合わせてすでに10機以上撃墜されていた。
この日も傭兵は撃墜すべく廃墟に潜伏していた。
物陰にいた傭兵の隊長が空を見上げる。耳を澄ませているようだ。首に下げていた望遠鏡をのぞくと部下にハンドサインで指示を出す。
部下は無言でハンドサインに従う。対空砲が指示された方角に向けられる。砲口が空をにらみつける。視線の先には3機のKVがあった。
KVの飛行音が空から降ってくる。
3機のKVが町の上空を通過しようとする。ディアブロ、岩龍、S−01の順で直線の編隊を作っている。まるで岩龍を守るかのようだ。
町の外れでキリッとした顔つきの少女がこの編隊をちらりとみた。櫻小路・あやめ(
ga8899)だ。
「ご武運をお祈りします」
「といっても1機は確実に撃墜だがね」
艶やかな黒髪の印象的な青年がいった。御影・朔夜(
ga0240)だ。戦闘開始前の一服する。猫のように目が細められた。
地上部隊は櫻小路と御影として前進する。櫻小路は特殊能力・探査の眼を使って罠や待ち伏せを警戒する。御影は探査の眼に反応したものを手慣れた動きで確認する。
御影は口の端を上げる。
(「この感覚、懐かしい。手を抜く必要のない連中らしい。今回はどうやら楽しめそうだ」)
御影の指が素早く警報装置を解除した。警報装置は多重だった。最初の警報装置は見せ罠で本命は別にあった。
飯島 修司(
ga7951)が手伝いながらいう。彫りの深い顔に髭がはえている。影が張りついているようにみえる。
「周到な手口です。敵はどうやら臆病者のようです。やれやれ私と趣味が合いそうで困りますね」
本気でやらねば後の憂いとなるでしょうと飯島は付け加える。紳士的な口調の裏に容赦のない戦意が隠されていた。
龍深城・我斬(
ga8283)はゾクリとした。しかし唇を噛む。
(「俺は人間と戦う為に能力者になったわけじゃない。‥‥‥‥それでもバグアに与する者相手なら容赦はしない。一片たりとも」)
地上部隊は傭兵の警報装置、罠、それに武器保管庫を発見しながら前進する。
一方そのころKV編隊は対空砲火を誘っていた。
ディアブロに搭乗する風羽・シン(
ga8190)は2機にいう。
「こちらウィンドフェザー。敵ゲリラの出現ポイントを通過する。地上を警戒せよ」
「ウィンドフェザー02、了解」と岩龍のファルロス(
ga3559)がこたえながら微妙な操作する。
ファルロスは機体の速度を下げて先頭のディアブロとのあいだに距離を作った。すると衝突を回避するために後続のS−01も速度を下げる。3機の編隊は互いのあいだに隙間ができる。
「こちらウィンドフェザー03、02の速度が落ちている。機器の不調か」
ウィンドフェザー03ことS−01の三枝 雄二(
ga9107)が演技と判っていて心配する。
KV編隊のパイロットは地上に広がる町を意識する。針のような視線、無線を盗み聞きする耳に居心地の悪い気分になる。
そのとき前方に黒い雲が出現、遅れて砲撃音が地上から聞こえてきた。
KV編隊は演技を続ける。岩龍が上昇する。地上と岩龍のあいだにディアブロとS−01は立ち塞がる。
対空砲火は標的を岩龍からディアブロに変更する。ディアブロが黒い雲に包まれる。
対空砲弾は爆発すると無数の欠片をまき散らしてた。欠片の雲の中心にいる風羽のディアブロは大揺れする。風羽はコクピットの中でうめく。警報が鳴り響く。ディスプレイの損害表示が点滅して風羽の顔を赤く照らした。
ディアブロに重大な損傷はないが、風羽は墜落の演技をする。エンジン周辺に設置しておいた発煙筒を発火させる。さらに燃料を放出する。推力を失ってディアブロは一気に落下する。迫ってくる地表に圧倒されながら風羽は『超絶技巧修得者』の称号に恥じず演技を完遂した。
上空で三枝が眉を寄せる。放出した燃料が引火、ディアブロは火だるまになって落下した。
(「UPC軍の消防隊が資料に欲しがりそうな見事な墜落っぷりです。‥‥墜落現場をみてパイロットを辞めた奴がいましたっけ。びびって当然です。ところで死んでないよね?」)
●狙撃のセオリー
傭兵の指揮官は双眼鏡を外した。赤いKVが火だるまになって落下していく。爆発音がしてガレージの天井から埃が降った。指揮官は望遠鏡を再び覗く。このとき部下は対空砲に砲弾を装填する。
KV2機は速度を上げながら高度を下げた。町の上空を旋回する。
指揮官の目には健在の2機が対空砲を探しているかのようにみえた。部下にハンドサインを送る。部下は対空砲を墜落したKVへ向けた。
指揮官は部下にいう。
「もう十分稼いだ。休暇に入るぞ。休むのも兵士の仕事だからな」
台詞に部下たちは笑いをもらす。了解ですと返す。
部下たちは指揮官の考えを理解している。2発目を撃たなければKVはこちらを発見できない。発見できないからKVは撃墜された味方機の救出に向かうはずだ。この瞬間を狙う。大昔の狙撃兵は敵兵の膝を撃ったという。殺さなければこの敵兵を助けるために他の敵兵が現れる。1人を殺さないことでもっと多くを殺す機会を得られた。
傭兵はこれに近いことをやろうとした。
2機のKVが地上を睨め付けるように飛ぶ。衝撃派で廃墟がびりびりと震えた。老朽化した屋根が飛ばされて宙を舞った。
傭兵は息を詰める。2機のKVは撃墜された味方機のほうへ機首を向ける。
KVのエンジン音が響くなかで指揮官はハンドサインを出した。そのとき副官が指揮官を突き飛ばした。副官はアサルトライフルをぶっ放す。
どこからか声が響く。
「よく気がついた。ほめてやろう」
御影だ。KVは傭兵の位置を大まかに把握、地上班の能力者に伝達していた。
地上班の能力者たちはすでにガレージを包囲する。
ガレージの出入り口を側面と正面の2つだけだ。副官は正面に手榴弾を転がし、部下は対空砲を盾にしながら拳銃を側面に撃ち込む。
能力者たちは遮蔽物に盾にする。敵の弾切れを待つ。
手榴弾が副官によって再び転がされた。
龍深城は影から足を伸ばす。手榴弾を明後日のほうへ蹴飛ばす。手榴弾が爆発した。
櫻小路が顔を上げる。
「爆発音が重なっていました。なにか来ます!」
ガレージの壁が崩れる。傭兵は能力者に手榴弾を放つと同時に壁を爆破していた。傭兵たちは脱出する。発砲する者の数が減れば、弾幕は薄くなる。
櫻小路がガレージに突撃する。対空砲が回頭する。砲口が少女をにらみつけた。
櫻小路は加速、抜刀、対空砲の操作要員を斬りつけた。しかし対空要員は引き金を引いている。
御影の両腕が跳ね上がる。手には銃がある。
「突撃したまえ。能力者と常人の違いをみせやろうじゃないか」
龍深城と飯島は影から飛び出す。対空砲を黙殺して傭兵を追う。
爆音。対空砲が跳ね上がる。煙で周囲がかすむ。煙をぶち抜いて砲弾が飛ぶ。
龍深城と飯島は顔を引きつらせながら砲弾とすれ違う。2人は顔の産毛を熱で焼かれた気がした。
眼前に迫る砲弾に御影は弾丸を集中する。御影の銃弾が砲弾の弾頭部に命中する。火花が瞬く。御影の銃弾は弾頭部に当たった瞬間、赤くなってひしゃげると、表面を滑って明後日の方向へ飛んだ。
(「ふむ。既視感があるな。2度目くらいか。どうやって回避したか」)
御影は体をひねりながら発砲する。砲弾とニアミスする。すれ違いながら砲弾の側面に銃を押し当てる。発砲する。砲弾の機動がねじ曲げられる。
龍深城、飯島、櫻小路は背中で爆音を聞いた。3人はまさか御影が死ぬはずないとおもってさらに速度を上げる。能力者と常人の身体能力の差が歴然と現れる。能力者と傭兵の距離が縮まる。すると傭兵の半分が足止めするためか三人に立ち向かってきた。
足止め要員の傭兵はアサルトライフルと手榴弾を預かっていた。他の傭兵も廃墟に隠してあったらしいマシンガンを手にしている。
弾幕が形成される。3人は物陰に隠れた。が、龍深城は一瞬だけ遅れる。するとマシンガンの火線が龍深城の尻を追跡した。這々の体で龍深城は飯島の物陰に飛び込む。
飯島はこのとき照明銃を手にしていた。照明弾はKVに爆撃させる合図だ。
龍深城は叫ぶ。
「まだやる気か。傭兵なら金は勿論命はもっと大事だろう。今逃げねえと死ぬぞ!」
傭兵は逆に怒ったらしく飯島と龍深城の隠れていた影が銃弾の雨で吹っ飛ぶ。2人は別の影に飛び込もうとしたとき、銃声が途切れる。
能力者のトランシーバーが周防 誠(
ga7131)の声を流す。
「『やれやれようやく登場』なんていったら悪ふざけが過ぎますかね。まして人間相手の戦闘で口にしたのでは」
物陰に隠れていた傭兵が姿を現す。とある家屋目がけて発砲する。が、次の瞬間、狙撃されて倒れた。
傭兵たちが苦しげに叫ぶ。くそう。どこから狙ってやがるんだ。こちらの銃声に被せやがって。発砲音が聞こえねえじゃねえか!
トランシーバーから周防の声。
「先に進んで下さい。ここは食い止めます」
声が途切れた瞬間、遮蔽物ごと傭兵が撃ち抜かれる。
龍深城、飯島、櫻小路は傭兵のあとを追う。
道路にマンホールのふたが転がっている。傭兵はマンホールを降りていく。
3機のKV(歩行形態)が傭兵を威圧するかのように駆け付ける。
「敵は手練れです。閉所で戦うのは得策とはいえません。KVに潰させましょう」
飯島は鋭い目でいった。言い含めるような口調だ。反撃を警戒している。
3機のKVは下水道に弾薬をぶち込もうとした。その瞬間、地面が揺れる。能力者がアースクエイクかとおもった瞬間、3機のKVの下半身が地面に陥没した。しかしそれっきりだ。
呆然とする能力者にようやくかけつけてきた御影がいった。
「追跡を振り切るために爆薬を使って通路を塞いだのだ。おそらく最初から下水道が逃亡ルートの1つだったに違いない」
「ということは」と飯島。「遺恨を残しましたね。次遭うときが恐ろしい」
御影が返す。
「なら、バグアに雇われる前にUPCで雇ってしまおう」
こうして補給ルートは防衛された。