タイトル:【PN】アイギスダウンマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/29 05:31

●オープニング本文


 イタリア半島の東に位置するクロアチア、その夜空にヘルメットワームの編隊が飛ぶ。
 小型機が中型機を守るように囲んでいる。中型機の腹部にはコンテナを連想させるカプセルが装備されている。
 バグア軍はクロアチアの制空権をまだ奪っていない。ヘルメットワーム編隊は木々の枝葉にふれるくらいの低空飛行をする。さらに速度を落としている。大地に影が落ちる。これほどの低空低速ならレーダーに映らない。レーダーは高速で飛ぶものだけをオペレーターに報告する。
 そうやってヘルメットワーム編隊はクロアチア内陸部へ侵攻すると、一旦ザグレブへ向かったあと、方向転換する。
 目指す先はザグレブ近郊のレーダー基地だ。
 このレーダー基地こそはコルシカ・サルディーナ・シチリア島に展開するUPC部隊の生命線だ。ここを落とせば、これらの部隊へ補給をおこなうジェノバを守るレーダー網に穴が開く。穴さえあけば、ジェノバを落とすのは容易だ。そしてジェノバさえ落ちれば、人類側は総崩れ、敗退は必至だ。
 ヘルメットワーム編隊は高圧電線に沿うようにレーダー基地へ近づく。中型機がカプセルを投下した。編隊はまた方向をかえる。機首の向いた先には都市への明かりがある。
 ヘルメットワームはもはやレーダーの目を気にしない。加速しながら上空へ舞い上がり、都市へビームを斉射した。そして都市の明かり目指して突撃する。さらに一斉射すると都市は炎上して輝きを増した。
 レーダー基地の破壊はカプセルの中身がおこなう。ヘルメットワーム編隊はレーダー基地へ援軍を到着するのを阻止すべく陽動を始めた。町が生け贄にされる。
 一方、降下されたカプセルは山肌に激突する前に割れた。4体のバフォメットが出現して降下する。
 バフォメットは着地する。余勢で山肌を削り、木をへし折った。
 膝をついて降下姿勢をとっていたバフォメットは立ち上がる。巨体だ。樹木を越えるほどの身長がある。月明かりに照らされてその体がぬらりと光った。
 バフォメットの逆三角形の体には半透明の全身鎧が装備されていた。バフォメットは体を前に倒す。鎧の背がうごめいて、翼を展開するスペースを作る。4体のバフォメットは翼をから打ちさせると空へ舞い上がった。
 バフォメットは燃え上がる町に照らされながらレーダー基地を目指す。
 そのころレーダー基地は混乱していた。突如レーダーに感あり、そばに無数のヘルメットワームが出現したからだ。
 指揮官は対空防御を命じた。しかしヘルメットワームは対空兵器から逃れて近隣の都市へ侵入した。ヘルメットワームは空爆を始める。指揮官は住民をおもって部隊を動かそうとしたが、そのとき対空兵器破壊の報告が入って、指揮所のディスプレイに監視カメラの映像を回させた。
 投光器が闇を裂く。滑空するバフォメットに光が照準される。その全身にぬらりと光った。
 高射砲が火を噴いた。火線がバフォメットの軌道を追いかける。別の方向からも火線が上がる。バフォメットは対空砲火に挟まれた形になる。
 バフォメットの半透明の鎧がうごめく。腕の部位に集まって紐状になった。バフォメットは腕をふるう。紐がムチのようにしなって高射砲にからみつく。さらに紐は収縮、バフォメットを引き寄せた。バフォメットは火線を避け、高射砲のひとつを踏み潰して着地した。
 対空要員がバフォメットを狙う。発射角を限界まで下げた移動式小型高射砲だ。
 高射砲の複数の銃身が回転、雨のように弾丸をぶちまける。
 しかしバフォメットは腕を向けるだけでいなす。鎧の形状が変化、盾となり、銃弾を逸らす。そのまま盾は反撃する。自分の一部を対空要員へ放った。
 半透明の塊に小型高射砲と対空要員が覆われる。もがく対空要員の体が燃え上がる。強酸が出ているのか、高射砲から煙が上がった。
 対空要員の悲鳴をマイク越しに指揮官はきいた。
 オペレーターが報告する。
「対空砲座が攻撃を受けています。基地東部の上空にバフォメットを3体確認」
 別のオペレーターがさらに報告する。
「東部のバフォメットが接近します」
 そういってオペレーターはヘッドセットを外した。破壊音が聞こえてくる。
「対空砲座壊滅。東部からバフォメット3体が侵入しました」
 指揮官は無表情を作る。内心は焦っていた。
(「くそう侵入を許したか。抵抗する。抵抗するしかない。この基地が落ちたらジェノバ防空網の要ともいえるレーダー網に隙ができる。敵に侵攻する機会を与えるわけにはいかない。だが、守るだけの戦力が今、この基地にあるか。‥‥いずれ増援が来るにしても、それまで持ちこたえられるか」)
 オペレーターが指示を求めてくる。指揮官は声のふるえを隠くすために低い声を出した。
「レーダーを死守せよ。整備班に伝達、補助電源の起動を準備せよ。主電源を落とされてもレーダー機能を停めるわけにはいかない。手空きの者は武装せよ、レーダー本体を守る。増援が来るまで持ちこたえるぞ!」
 指揮官は汗ばんだ手をこっそりと拭った。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

●増援到着

 ナイトフォーゲルの噴射炎が夜空を切り裂く。8機のナイトフォーゲルはバフォメットに襲撃されているレーダー基地へ降下する。機首を地面に突き立てるような急降下だ。ほとんど垂直に降りる。
 4体のバフォメットはアリを潰すように抵抗する兵士を潰していたが、迫ってくる噴射炎と音に気づいて、口を開いた。口中が瞬く。閃光で周囲が真っ白く染まる。白色の光筋が走った。
 兵士たちは地面に伏せる。耳を塞いで口を半開きにする。対ショック姿勢だ。
 8機のナイトフォーゲルはブーストを使用、4条の光筋を加速して回避、陸戦形態に変形、衝撃波で地上を揺らしながら着地した。
 レーダー基地全体がビリビリと震える。兵士たちが歓声をあげる。バフォメット目がけて火線が飛んだ。
 カルマ・シュタット(ga6302)は無線とスピーカーを同時に使用する。
「援護します。いまのうちに後退して下さい」
 基地指揮官から能力者たちに無線が入る。
『増援に感謝を。我々はレーダー機能を維持する。バフォメットは頼んだぞ』
 能力者、全員で、
『了解!』
 能力者たちは2機1組のバディを作るとバフォメットに襲いかかった。

●玖堂兄弟の場合

 レーダー基地南部から侵攻するバフォメットに玖堂 鷹秀(ga5346)は対峙した。兄にいう。
「KV戦の初陣がいきなり新鋭機。‥‥では兄上に頑張っていただくとしましょう。新型が羨ましいだなんて事はありません。ええ、ありませんともっ!」
 玖堂 暁恒(ga6985)はこたえる。コクピットの中で双眸と紙を赤く染めている。
「機体も武装も性能は不明だ。この戦いで性能を確認する」
「了解。スライムを鎧にするたぁ、バグアってのも案外発想豊かだねぇ‥‥‥‥ま、人間もいるから当然っちゃ当然か。さあいこう」
「おう。いつまでも戯れているわけにはいかん。こいつにはとっとと消えて貰う。いくぞ! 戦術機動『鬼哮無双(きこうむそう)』!」
 玖堂兄弟は同時に動く。
 暁恒機のバルカン、その短い銃身が回る。火を噴いた。
 バフォメットは両腕を暁恒機に向ける。腕のスライムが展開して透明な壁となる。スライム壁はフォースフィールドと自身の厚みでバルカンを防ぐ。火線が透明な壁にブツブツと泡を作る。
「OK! そう来るとおもったよ」
 鷹秀機はバフォメットの右側面に回り込むように機動しつつ、レーザーを放つ。鷹秀のナイトフォーゲルS−01とのバフォメットの間に白い線が張られたようにみえる。レーザーはざくりとバフォメットの右腿を切り裂いた。
 鷹秀機はさらにバフォメットに迫る。脚部の装輪がアスファルトを削る、火花を散らす。ライトディフェンダーが突き出される。
 バフォメットは鷹秀機の体当たりを凌ぎきれず、吹き飛ばされる。その方向には暁恒の突撃姿勢をとるディアブロがあった。
 ディアブロのアグレッシブ・フォースが発現、高められたエネルギーが機槍グングニルのSESに伝達される。グングニルのエアインテークが展開、余剰エネルギーで赤く発光、さらに熱で表面に塗装されたパーソナルネーム『塵角』が蒸発する。
 暁恒機は突撃する。赤い残像が描かれる。攻撃、命中、バフォメットの身体が爆砕された。
 暁恒機は残心を残す。新たな敵のもとへ向かった。その背後を守るように鷹秀機が追った。
 
●砕牙九郎と並木仁菜の場合

「山羊頭なんかにやらせません」
 並木仁菜(ga6685)はコクピットで宣言した。トリガーを引く。ヘッドマウントディスプレイは並木の視線を認識する。連動する火器管制装置がバルカンを照準する。多銃身が回転して弾丸を吐き出す。バフォメットに並木の戦意を叩きつける。
 弾幕がバフォメットに迫る。バフォメットは右腕で顔をかばいながら左腕を伸ばす。左腕のスライムが施設に伸びて本体を牽引する。バフォメットは横跳びした。
 並木のバルカンが追撃する。バフォメットは施設の影に跳び込む。盾とされた施設が穴だらけになる。
『砲身加熱、砲身加熱、砲身加熱』
 並木のコクピット、ディスプレイに警告が表示される。バルカンの砲身が熱を帯びている。このまま発砲すると故障もしくは誘爆の可能性がある。並木は装備を変更、スナイパーライフルを構える。並木の視線はバフォメットの盾としている施設を射抜き、背後のバフォメットに届く。スナイパーライフルの照準用レーザーが火器管制装置に命中の可能性を伝える。並木はトリガーを引く。
 ナイトフォーゲルS−01の構えるスナイパーライフルが発砲、銃口から火が迸り、銃身が跳ね上がった。弾丸は施設の穴を抜けてバフォメットに命中しなかった。
 バフォメットは着弾寸前に空中に逃げていた。兵士たちが投光器を操作して滑空するその姿を照らし出そうとする。バフォメットの姿がちらつく。
「‥‥おまえ、遅いぞ。スライムの分だけ」
 砕牙 九郎(ga7366)のナイトフォーゲルS−01が施設を踏み台にして跳躍した。
 バフォメットと砕牙機が交錯する。バフォメットの口が開く。口中が輝くのを砕牙はみた。
(「――光線が来る。回避は間に合わない!」)
 砕牙はとっさに尾翼を動かす。空力抵抗が変わって機体の滑空する速度が減速する。コクピットのわきを光線がかすめる。砕牙は死んだような気分になる。時間が減速したような錯覚に陥る。凍りついた時間の中で機体を操作、ナイトフォーゲルS−01の脚部がバフォメットの顔面を捉える。装輪が駆動、山羊面を破壊する。
 もう一発蹴りを入れて砕牙機は上空へ跳躍する。ライトディフェンダーを取り上げながら急降下する。バフォメットのフォースフィールドが発現してライトディフェンダーを弾こうとする。だが、KVの自重と跳躍の勢いで赤い障壁は粉砕される。
 バフォメットは施設の屋上に墜落する。施設の1階部分が潰れる。砕牙機は施設ごとバフォメットを両断した。
 
●藤田あやことエルガ・グラハムの場合

 戦闘が始まると藤田あやこ(ga0204)は無線をいじった。エルガ・グラハム(ga4953)からの通信の音量を下げる。グラハムは覚醒すると声が大きくなるからだ。
 グラハムのナイトフォーゲルS−01が瞬く。藤田から借りたレーザーを放っている。さらに声を出力している。バフォメットへの挑発だ。
『てめー、ヨーロッパは俺の故郷だ。足踏み入れた奴はこんがり焼くぜ、レーザーでよう』
 空気がビリビリと震える。藤田の耳は少しばかり痛んだが、心強いことには変わりなかった。
 散発的に放たれる光の矢にバフォメットは頭を下げている。
『でてきやがれー。蜂の巣にしてやるよー。でてこねえならこっちからいってやんぞ』
 グラハム機が施設の上に飛び乗る。軍の施設だけあってよく補強してある。屋上に足形がついただけだ。グラハム機は高射砲のようになる。光の矢とバルカンを降らす。
 バフォメットは状況を変えようとした。スライムをムチにして他の施設へからみつける。横跳びしようとするが、弾幕に切断される。弾幕を受け止めて飛ぼうにも羽根を展開させた瞬間、建物の影から飛び出したそれにレーザーがかすめて火がついた。
『おーし藤田、得意のロンゴミニアトでぶっすり頼むぜー』
『これで機槍(決まり)だ!』
 バフォメットが弾幕で動けないあいだに藤田機は接近する。
 KVの接近に気づいてバフォメットは逃れようとする。
『そうはさせません。あなたはここで終わるの』
 藤田機は試作型機槍ロンゴミニアトを構えて突撃する。バフォメットとのあいだにはレーザーと弾丸でスカスカになった施設がある。藤田のナイトフォーゲルF−104バイパーはバルカンを発砲する。バフォメットの盾となっていた施設が削り取られる。藤田は自らの間合いを作りだし、ロンゴミニアトで突いた。
 ロンゴミニアトの矛先がバフォメットのフォースフィールドを貫く。
『ロンゴミニアト、シュート!』
 藤田とグラハムが同時に叫ぶ。
 ロンゴミニアトの矛先からパイルが射出される。パイルはバフォメットの右眼窩を捉え、その身体を引きずって飛ぶ。バフォメットは施設の壁に釘付けにされて絶命した。

●西島百白とカルマ・シュタットの場合

 バフォメットはレーダー本体に迫る。
 施設の影から兵士がライフルを発砲するが、フォースフィールドを突破できない。バフォメットは兵士たちを無視してレーダー本体を狙う。その口中が光った。
「残念だけど、快進撃はここまでだな。ここから先は地獄の門を潜ってもらおうか」
 その瞬間、一筋のレーザーがバフォメットの口を貫く。光線の発射が阻止される。カルマ・シュタット(ga6302)のディアブロだ。
「‥‥お前はここで終わりだ。これ以上進めない」
 西島 百白(ga2123)のナイトフォーゲルR−01が上空からバフォメットへ迫る。戦闘機形態だ。ブーストを使用して加速、陸戦形態に変形、滑空してバフォメットに体当たりする。脚部の装輪がアスファルトを掴む。火花を散らして機体を押し出す。
 西島機の装甲にスライムがとりつく。西島機は煙をあげながらバフォメットをレーダー本体から離す。施設にめり込むようにして停まる。
 シュタットはおもわず声をかける。
『西島機、大丈夫か。動けないのか。いま助ける。キャノピーは開けるな。スライムはまだ生きている』
『‥‥大丈夫。でも、まだ。いや近づくな!』
 シュタットは瞬きする。
 建物と西島機に挟まれたバフォメットから触手が伸びる。触手は先端を槍のように尖らせて西島機に触れる。急所を探っている。
 西島機は装輪で後退する。同時にバフォメットが体当たりしてくる。西島機のバランスが崩れる。転倒しそうになりながら西島はあきらめない。インラインスケートのトリックをおもわせる動きでバフォメットと自機の位置を入れ替える。図らずもシュタットのほうへバフォメットを投げ飛ばしたことになる。
 シュタットはバフォメットを照準する。ヘッドマウントディスプレイの中でバフォメットがとんぼ返りして着地する。その全身から棘が生えた。スライムの形状がミサイルのように変化している。シュタットは危険を感じる。
(「あの棘は飛び道具か。俺の背後にはレーダー本体がある!」)
 棘の根元がふくらむ。次の瞬間、投射された。シュタットの視界が棘ミサイルの群で埋め尽くされる。
 コクピットでシュタットの双眸が青く輝く。ファンクションキーが叩かれる。ディスプレイにフルオープンアタックと表示される。緊急操作だ。トリガーが引かれた。
 シュタット機は装備する火器全てを使用して棘ミサイルを迎撃する。
 高分子レーザー砲が棘ミサイルをなぎ払う。棘ミサイルは誘爆する。その中から小型爆弾が放たれる。
 ガトリング砲の弾幕が撃ちもらした棘ミサイルと小型爆弾を誘爆させる。炎の壁が立ち上がり、シュタット機に、レーダー本体に迫る。炎の壁から棘ミサイルが飛び出す。
 飛び出した棘ミサイルをショルダーキャノンが撃ち落とす。
 爆風と炎がシュタット機を揺さぶった。
 シュタットはケルベロスが冥府から出る者を決して見逃さないようにミサイルを迎撃してみせた。
 だが、煙の中からバフォメットが現れる。スライムの鎧を失ったその身体は素早い。シュタット機を突き飛ばし、レーダー本体へ迫る。しかし、その背にソニックブレードが突き刺さった。西島機だ。
 だが、それでもバフォメットは進もうとして、身体から刀身を抜こうとして、力尽きた。
『‥‥敵勢力の全滅を確認。任務完了』
 シュタットは西島の声を無線で聞いた。ため息をつく。

●次の戦場へ

 レーダー基地は防衛された。しかしまだジェノバ防空網が守られたわけではない。いまだ夜は燃えている。そばの町ではヘルメットワームの攻撃が行われ、基地へ電力を供給する変電所にはキメラがまとわりついている。
 KVは戦闘機形態に変形してバグアの赤い本星を貫くかのように急上昇する。能力者たちは新たな戦場へ向かった。
 西島がもらす。
『大規模作戦‥‥始まる‥‥のか』
『次は‥‥本番か。楽しみじぇねえの』
 暁恒が唇を歪めた。
 能力者たちは鋼鉄の翼で戦火広がる地上へ急降下する。