タイトル:【PN】女神の目に針をマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/01 17:06

●オープニング本文


 ザグレブ一帯を受け持つ電力会社、その技術センターで混乱が起きていた。
 技術者たちはディスプレイをのぞきこんで顔を見回せた。
 ディスプレイには故障箇所が映っている。ある都市の変電所だ。レーダー基地があるので電力消費こそ大きいが、平和な田舎町だ。すでに自動で配線が切り替わっている。電力供給は問題ないが、技術者は首をひねった。原因がわからない。
「おかしいな。雷でも落ちたか」
「まさか今夜は月が冴えてますよ、怖いくらいに。このあたり先月、線を交換しましたね。なにかミスがあったのかもしれません」
 というわけで技術者2人は直接、故障箇所を見に行くことにした。
 現場について車から降りた瞬間、2人は腰を抜かした。
 ほとんど同時に爆発が起こる。レーダー基地と都市から。
 1人の技術者はレーダー基地のほうを向いていたので、バフォメット4体が高射砲の火線を避けながら閃光を吐くのを目撃した。
 もう1人の技術者は都市のほうを向いていたので、ヘルメットワームの群がビームで街をなぎ払ったのを目撃した。
 空が赤く染まった。
 技術者の1人がもらす。
「‥‥夕焼けが戻ってきたみたいだ」
「しっかりしろ、呆然としている場合じゃない!」
 呆然としている同僚を技術者は助手席へ押し込む。自分も乗り込みながら変電所をみた。
 戦火で施設と電線が照らし出される。
 窓ひとつない長方形の施設、変電所に人ほどもある昆虫がたかっている。
 変電設備と高架を結ぶ電線にはテントウムシを巨大化させたような虫がつかまっている。どうやら電線を利用して作られた巨大な蜘蛛の巣に掴まっているようだ。
「ああ、たわんでる。たわんでる。線がきれちまうぞ!」
 技術者は同僚に携帯電話を押しつけると逃げるためにアクセルを踏み込んだ。
 周囲には鉄塔が林のように群立っている。車ほどもある蜘蛛が鉄塔や電線に巣を作っている。そのうちの1体が体と電線を結びつけて技術者の車へ降下する。
 しかし電線がたわんだ。糸が短すぎる。蜘蛛はあと一歩のところで車にたどり着けない。蜘蛛はバンジージャンプのように空中へ跳ねた。

「助力を。貴殿らの力が必要だ。」
 ブリーフィングルームでUPCの士官は能力者にいった。
「ザグレブ近郊にレーダー基地がある。その基地へ電力を供給する変電所がキメラによって占拠された。現在のところ動作しているが、いずれは停止させられるだろう。電力の供給が途絶えてもレーダー基地は補助電源で機能する。それでも一時的にはジェノバ防空網に穴が空く」
「ジェノバには補給基地がある。ジェノバが落ちたらコルシカ・サルディーナ・シチリア島に展開中の部隊への補給が途絶える。一瞬でも隙を作るわけにはいかない」
「これ以上バグアの好きにさせるわけにはいかんな。ヨーロッパへの上陸は許さないし、これ以上都市も電力系も破壊させない。奴らはどうか知らんが、我々は戦争の終わったあとも地球で生きていかねばならんのだ」

●参加者一覧

ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
兎々(ga7859
21歳・♂・BM
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
The SUMMER(ga8318
22歳・♀・DF
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

●能力者の奇襲、ラージビートル撃破

 月が変電所を照らし出す。四角い制御室を中心として鉄塔が森林のように群立っている。鉄塔と鉄塔のあいだには電線が走り、さらに銀の糸が走っていた。
 銀の糸に垂れ下がるのは人ほどの大きさもある巨大な蜘蛛だ。蜘蛛は長い足を使って鉄塔や電線を歩き回り、糸を吐き出して、巣や新たな道を作っていた。
 縦横の張り巡らされた蜘蛛の糸にラージビートルが引っかかっている。テントウムシのように丸い身体が月光でうっすらと光る。月のようだ。短い足をわしゃわしゃと動かした。
「うへえ。気持ち悪い」
「『静かに』です!」
「あ、いや。もう息潜めても仕方ないんじゃないかな」
「キルゾーンに入りました。相手が我々の」
「‥‥また蜘蛛かよ。もう慣れちまいそうだぜ」
「聞いたことがある。‥‥蜘蛛はチョコレートの味がするらしい。そしてカレーの隠し味はチョコレートが基本だ。奴らを使わない手はない」
「やめておきたまえ。私は忠告したからな。それはともかく害虫駆除を始めるとしよう」
 鉄塔の下で交わされるささやきに変電所を占拠した虫たちは向かう。
 蜘蛛は鉄線や自らの糸の上を渡る。ラージビートルもまた向かおうとするが、糸に絡まって動けない。電線がたわむ。変電所にまとわりついていたドラゴンフライが羽ばたく。
 風が吹く。電線が一斉にしなった。泣き声のような音が響く。雲が月を隠す。夜が深くなる。そばの基地や町から戦闘音が響く。ザグレブ駐留部隊から発進したKV編隊が上空を過ぎる。
 その瞬間、昼が召還される。花火のように地上から空へ火線が走る。空を覆うように張り巡らされた蜘蛛の巣を火線が切り払う。
 蜘蛛たちは足場を失って次々と地面に落下していく。
 ラージビートルもまた蜘蛛の巣から解放されて地面に落下する。丸い身体は地面を転がり、鉄塔に当たって停まった。これをみてラン 桐生(ga0382)がいう。
「なんだかかわいいというか格好悪いというか。どっちにしろやらせてもらうよ」
 桐生は小銃を撃つ。着弾する。ラージビートルの表面で火花が散った。
 桐生はビートルの片側に弾丸を集中させる。ラージビートルは踊った。くるりと回って正面を向いた。
(「はい。それを待ってたんだよね!」)
 もう1丁携行していた小銃に桐生は持ち換える。さらに一発ラージビートルに撃ち込むと、ラージビートルはあごにアッパーを喰らったボクサーのようにのけぞった。柔らかい腹部が露出する。桐生の口元が歪む。ラージビートルの腹部めがけてすべての弾丸を放った。
 煉威(ga7589)がいう。
「やるじゃん。桐生の姉ちゃん」
「でしょう。でしょう。でもスナイパーは弾がないとダメなんだよね」
 ラージビートルを片付けた桐生は小銃に弾を込める。
 蜘蛛と戦闘中のティーダ(ga7172)が叫ぶ。
「ドラゴンフライ、来ます。迎撃急いで下さい!」
 煉威の両腕が跳ね上がる。両手にハンドガンが現れる。2丁拳銃だ。

●能力者VS巨大蜘蛛

 地面に墜落した蜘蛛は足を広げて着地した。襲いかかってくる能力者たちに糸を吐き付ける。
 仮面の女戦士The SUMMER(ga8318)のショットガンが跳ね上がる。散弾が蜘蛛の糸をずたずたに引き裂く。
「ははは。そんなもの、当たるものか!」
 いいながらThe SUMMERは横跳びする。真後ろから追っていたユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が蜘蛛と正対する。
 ヴェルトライゼンはギュンターのトリガーを引いた。弾丸の雨が蜘蛛に命中する。フォースフィールドを貫き、糸を発射する口を裂き、腹部に穴を穿った。
「糸は封じた。‥‥空からも気配が。トンボが接近。蜘蛛を早く!」
「了解している。行動中だ」
 ティーダが銀の狼のように走る。
 蜘蛛はティーダに向かって糸を投射しようとするが、側面から現れた兎々(ga7859)の動きにとまどう。蜘蛛は2人の能力者を交互にみながら糸を発射する。糸は「W」の字を描いて飛ぶ。
 兎々は糸の機動にとまどう。突破に失敗する。右足に糸がひっかかる。これをみて蜘蛛は方向転換、兎々へ向かう。蜘蛛の口にある獲物の体液を吸い出す管が月光に光った。
 おもわずティーダが熱くなる。
「ティーダの前で仲間をやらせるかあッ」
 ティーダはルベウスを装備した両腕を身体の前で組む。攻撃範囲に入ったら即座に斬り裂く準備で突撃する。
 しかし蜘蛛は糸を投射する。糸は鉄塔にからみつく。糸をまきとって蜘蛛は高速移動する。もがく兎々に襲いかかった。
 が、蜘蛛の管は地面を穿っただけだ。
 瞬速縮地で兎々は糸ごと飛び退っていた。
 蜘蛛が再び糸を投射する。
 空中に白い線がひかれる。
 兎々がティーダに叫ぶ。
「今、隙を作ります。そこを狙って!」
 兎々はその場でクルクルと回り、ハンマー投げよろしく遠心力を利用してハルバードを投擲した。元々投擲するために造られていないハルバードはもちろん、明後日の方向へ飛んでいく。だが、空中で上手く糸と絡まり、ハルバードに引っ張られる形になった蜘蛛は体勢を崩す。
 その瞬間、ティーダが上空から強襲した。
 一方そのころ、夜十字・信人(ga8235)は蜘蛛と正対していた。唇をなめる。
「巨大な蜘蛛。一体カレー何人分だ」
 夜十字はぼけているつもりはないし、蜘蛛は物事を解釈する知性がなかった。蜘蛛は糸を投射する。
 夜十字の腕が跳ね上がる。クロムブレイドで糸を受け止めた。糸はクロムブレイドごと腕にからみついている。
 蜘蛛は夜十字の体液をすするべくにじりよった。
 夜十字は眼前に迫る蜘蛛にいう。
「ありがとう。これでお前を逃さない。だが、もう少し近づくつもりはないか?」
 夜十字は綱引きの要領で蜘蛛を引っ張った。蜘蛛は足を突っ張らせるが、フォルトゥナ・マヨールーで足を吹っ飛ばされて、引きずられる。夜十字は糸を腕で巻き取りながら蜘蛛にいった。
「遠慮せずにもっと近づいてくれ。でないと外してしまう。フォルトゥナ・マヨールーは装弾が2発なんだ。もっともお前が片腕を糸から解放してくれるなら撃ち放題になるんだが。そのつもりはないか?」
 蜘蛛は地面に跡を残しながら引きずられる。フォルトゥナ・マヨールーの銃口が蜘蛛の腹部に押し当てられ、火を噴いた。

●ドラゴンフライは落とせない

 空一面に広がった蜘蛛の巣と電線を月光がくっきりと浮かび上がらせる。
 ドラゴンフライは鉄塔の森上空をさまよう。眼下では仲間の蜘蛛やラージビートルが撃破されつつあったが、支援にいこうにも、蜘蛛の巣に邪魔されて降下できない。羽根が蜘蛛の巣に触れるとねばねばに絡め取れて損傷する危険があった。蜘蛛の巣の隙間を通るにはドラゴンフライは大きすぎた。
「それじゃあ、小さくしてやるよ!」
 煉威の唇が歪む。両腕が跳ね上がる。その両手には2丁のハンドガンがある。同時に火を噴く。
 銃弾は蜘蛛の巣の隙間を通ってドラゴンフライの羽根を穿つ。ドラゴンフライは羽根をもがれて墜落する。スマートになった身体は蜘蛛の巣の隙間を通って地上へ落下する。
「1匹目撃破だ」と煉威は落下中のドラゴンフライを狙う。しかし火線は外れてしまう。
 頭から落下するドラゴンフライをThe SUMMERが捕捉する。地面に激突する寸前にショットガンで頭を吹き飛ばす。
「残念だったな。私がもらったぞ」
「むう。次こそは俺が墜とすぜ。とはいえナイスキャッチ!」
 桐生が発砲する。
「はい。2匹目入ります」
 羽根をもがれたドラゴンフライが落下する。
 あわあわと兎々が走る。オーライ、オーライといっている。夜十字がヘッドスライディングしながら発砲した。ドラゴンフライが跡形もなく吹き飛ぶ。
「敵が柔らかいぜ」と煉威はいいながら最後のドラゴンフライへ発砲する。右手のハンドガンがドラゴンフライの向かって右側の羽根を、左手のハンドガンがドラゴンフライの向かって左側の羽根を撃ち抜く。
 ドラゴンフライは垂直落下する。煉威の放つ火線がドラゴンフライを追う。しかし命中しない。照準が合っていないようだ。
 桐生がアドバイスする。横撃ちしてと。
 煉威はハンドガンを水平から横に構え直して発砲する。右手のハンドガンから空薬莢が上方向に排出され、左手のハンドガンから空薬莢が下方向へ排出される。
 ドラゴンフライの頭に、身体に、尾に、銃弾の雨が浴びせられる。ドラゴンフライは地面に落下しない。その残骸が落下した。
 煉威はハンドガンを指にひっかけて回す。
「サンキュー。桐生の姐さん。垂直落下する標的を狙う時は照準機が邪魔になって当てにくいんだな」
「ご名算」と桐生。「拳銃は普通、横方向にだけ動く相手に合わせてあるからね、上下に高速移動するものは狙い難いの」
「勉強になったぜ。‥‥おしっ、この戦い方もいけるな」
 2丁拳銃に自信を持ったらしい煉威に桐生はアドバイスする。両手がふさがっていると弾倉を換えにくいよと。
 指摘に煉威は眉を八の字にした。使われてないのには理由があるのかなと。
 煉威と桐生が銃器談義をしているとき、兎々は蜘蛛の残骸に膝をついていた。
(「ごめんね。‥‥貴方達は何も悪くないのに。きっと私も貴方達の仲間の手でそっちにいくから。‥‥待っててね」)
 The SUMMERはこの様子をみながら仮面をさすった。下の火傷がうずいたような気がしたからだ。身体に満ちていた戦いの歓喜が大気に拡散したような気がした。
 夜十字がいった。
「作戦終了。‥‥別作戦を遂行中の同胞達の幸運を祈る」
 ティーダがこたえる。
「そうですね。あとは仲間たちの勝利を信じるのみです」
 能力者たちは基地のほうをみて、町のほうもみた。
 まだ夜は炎上している。空からKVの飛行音が降ってくる。能力者たちには涙声のようにきこえた。