●リプレイ本文
●離陸
滑走路の脇に格納庫がある。緊急用のもので屋根と壁しかない。この広大な空間に8機のナイトフォーゲルがアイドリング状態で停まっている。
パイロットスーツをまとった能力者たちはそれぞれの愛機に向かった。
王 憐華(
ga4039)が恋人の漸 王零(
ga2930)の袖を引っ張った。つま先だってささやく。
「零、あまり無茶はしないでね。あなたがいなくなったら私は悲しいわ。‥‥‥‥だから、これは二人の無事を願ってのおまじないよ」
王と漸の姿が重なる。
稲葉 徹二(
ga0163)は乗機ナイトフォーゲルXN−01ナイチンゲールのプリフライトチェックを終了する。性能を発揮させよとエンジンが唸りを上げる。稲葉は喧騒の中で王と漸が離れたのをみた。
全ナイトフォーゲルのプリフライトチェックが終了する。KVは緊急用格納庫から暗い滑走路へ移動する。滑走路は無灯で明かりは月光だけだった。
KVは月光浴びながら離陸し始める。暗い滑走路からふわりと機体が浮かび上がる。そしてブーストを使用、叩きつぶすかのような圧力波を地上にぶつける。KVは急上昇して高度を得る。そのまま戦場へ向かう。
五十嵐 薙(
ga0322)はコクピットでささやく。その視界には時ならぬ朝焼けが映っている。空襲を受けている町だ。
「みんなを‥‥力のない人を、一方‥‥的に傷つける‥‥のは、許せません」
●燃える夜
中型のヘルメットワームは町の上空でホバリングすると、ビームの雨を降らせた。
ビームの雨が路上駐車されていた車を射抜く。町中で爆発が起きる。
消防団あがりの老人が消火栓にホースを接続した。さきほどの爆撃で吹っ飛び燃え上がった車が向かいの建物に突き刺さっている。老人は延焼を防ぐべき放水し始めた。
これをみて逃げようとしていた人々が手伝い始める。
町の人々は2種類だった。疎開しようにも行くところのなかった人と疎開したくなかった人だ。町は守られなくてはならない。ここで生きるから。
小型のヘルメットワームが降下しながらビームを放つ。消火活動中の人々が火だるまになる。
若い男がホースを握っていた老人を突き飛ばす。同時に若者はビームに射抜かれて火だるまになった。
老人は起き上がると怒りに震えた。放水で若者の炎を消す。老人は消防団にいたことがあったので若者がもうだめだとわかった。老人は若者の死体で家族を思い出す。すると老いた身体に力がみなぎってくる。老人は石を拾い上がると、若者を殺したヘルメットワームに投げつけようとした。
不意に小型ヘルメットワームが急上昇する。あっという間に投石の射程から逃れる。
しかし老人は上空へ向けて石を投げた。構う者かと。こんなものにただ殺されてたまるかと。
●第一次攻撃
稲葉機が町の上空に到着する。機体を斜めに傾け、町の周囲を回るようにする。
(「町を直接襲いやがるでありますか。は、はは。‥‥巫山戯ンじゃねェぞこの糞蟲共。叩き落とす」)
町の中央、その上空ではヘルメットワームの中型機が地上を攻撃している。ヘルメットワームたちはKVの存在に気がついたのか、対空攻撃を始める。
路地で虐殺していたヘルメットワームの小型機がビームを連射しながら上昇する。
稲葉機はブースト使用して対空攻撃を避ける。ビームは噴射炎に命中するだけだ。
稲葉機はKV編隊に戻ると状況を報告する。各機は町の現状及び敵の配置を把握する。
阿木・慧慈(
ga8366)がいう。
「敵戦力を確認した。こちらはいつでもいける」
榊 刑部(
ga7524)がいう。
「榊機も確認しました。いつでも突撃可能です」
暁・N・リトヴァク(
ga6931)がいう。
「市街戦か。戦闘ヘリに乗っていたときが恋しいな。せつないからさっさと終わらせましょう」
比良坂 和泉(
ga6549)がいう。
「まったくです。さっさと連中にはご退場願います」
「そうだね。地獄へご退場だ」
阿木が混ぜ返した。刃物の冷たさを連想させる冷静な声だ。
ヘルメットワームの中型機がKV編隊にビームを放つ。
KV編隊はかすめていくビームを無視する。ただ飛行する。
町の路地からヘルメットワームが浮上する。それがKVからもみえた。
この瞬間、KV編隊は全機ブースト使用する。KV編隊の噴射炎が翼のように広がる。夜空に巨鳥が出現する。
炎の巨鳥は町へ急降下する。
ヘルメットワーム群の対空攻撃。
無数のビームが炎の巨鳥に注ぐ。
炎の巨鳥は爆発する。KVの一斉射撃だ。
地上から注がれるビームとKVのレーザー、バルカン、ミサイルがすれ違った。
稲葉機がヘルメットワームの小型機に突撃する。小型機はもまた自爆覚悟で突撃する。稲葉機は小型機は正面衝突するコースに乗る。稲葉はコクピットでヘルメットワームの醜悪な姿を捉えた。その瞬間、機体を傾けてすれ違う。ヘルメットワームはバグアならではの超技術で高速回頭、稲葉機の背後に狙いをつける。が、ヘルメットワームの背後に前もって放っておいたハンマーがめり込む。ハンマーのワイヤーが巻き取られて、ハンマーの鉄球部分が稲葉機を追うように飛ぶ。
五十嵐機はヘルメットワームの小型機に突撃する。アグレッシブ・ファングを使用する。五十嵐機は余剰エネルギーで火の玉のようになる。バルカンの安全装置を切って発射する。火線が槍のように放つ。威力はドラゴンの吐息のようだ。ヘルメットワームはフォースフィールドを展開するも火力に押し潰されてしまう。
比良坂機のリニア砲が唸りあげる。バルカンがかん高い音をあげてヘルメットワームの小型機に襲いかかる。ヘルメットワームの表面にフォースフィールドが現れて着弾面が発光する。ヘルメットワームは赤い斑点だらけになる。ヘルメットワームは逃れようとするもバルカンの雨で動きを妨げられている。そこへリニア砲が一撃した。リニア砲の弾体がヘルメットワームを貫通する。この大穴をみやりながら比良坂機はすれ違った。
ヘルメットワームの小型機が暁機にビームを浴びせる。暁機に描かれたエンブレム、アホウドリの絵柄が削り取られる。これと引き替えるように暁機のレーザーが命中する。ヘルメットワームと暁機は眼前から撃ち合う。双方の装甲が蒸発する。が、暁機は陸戦形態に変形する。ヘルメットワームのビームはKVが変形したせいで狙いが狂ってしまう。暁機はヘルメットワームに飛び乗って押し潰すようにしながらレーザーを放つ。ヘルメットワームが両断される。暁機は跳躍、戦闘機形態に変形、ブーストを使用、飛び立つ。
阿木の視界一杯にヘルメットワームの姿が映る。接近警報を聞きながら阿木は敵の意図を推理する。
(「ふむ。自爆攻撃か。いや自壊だな」)
阿木機は陸戦形態に変形する。エンジンの呼吸部を閉鎖して滑空する。ヘルメットワームと阿木機がキスしそうになる。その瞬間、ヘルメットワームは自壊してバラバラになる。破片が周囲に飛び散る。コクピットを破片で叩かれながら阿木はおもう。
(「やはりな。エンジンに破片を吸い込ませてこちらの機動力を奪うつもりだったか」)
阿木機は滑空しながら戦闘機形態に変形する。急上昇する。
榊は焦る。接近警報が鳴り響く。ヘルメットワームがビームを乱射しながら体当たりしてくる。
(「くそう。KV戦は初めてだってのに。アドバイスをもらう間もなくピンチだ」)
榊は反射的にミサイルを発射する。榊はしまったとおもう。爆発に巻き込まれるのを恐れる。しかしミサイルは距離が近すぎたので爆発しない。ただヘルメットワームに衝突した瞬間、運動エネルギーをぶちまけた。ヘルメットワームは吹っ飛ばされて家屋にめり込んだ。
榊機は陸戦形態に変形して滑空する。急降下。ディフェンダーで家屋ごとヘルメットワームを両断した。即座に跳躍、戦闘形態に変形して編隊に戻る。
●燃える夜その2
ヘルメットワームに投石した老人はみた。
(「不死鳥が降りてくる!」)
KV編隊が急降下と同時に一斉にミサイルを放った。ヘルメットワームたちにミサイルは命中する。さらにKV編隊はロッテに別れてヘルメットワームに立ち向かう。まるで侍が戦場ですれ違いにざまに斬りつけるように。
老人から投石を受けたヘルメットワームは恐慌に陥ったかのようにビームを連射する。
KVは戦闘機形態から陸戦形態に変形すると、滑空しながら腕の武器でビームをことごとく防ぎ、すれ違った瞬間に斬り捨て、戦闘機形態に戻って上昇した。
あまりの早業に老人は口を開ける。その前に石が落ちてきた。老人はこの石に見覚えがあった。さっき投げたものだ。
●第二次攻撃
KV編隊は機体を空へねじ込むように急上昇する。ほとんど垂直に上昇する。そして宙返りして地上へ急降下する。インメンマルターンだ。KV編隊はヘルメットワームに向かう、まるで剣のように。
KV編隊が燃え上がる。SESの余剰エネルギーが炎のようにみえる。KV編隊は再び一斉射撃を行う。
空を埋め尽くすようなミサイルの雨。ヘルメットワームは対空攻撃する。撃ち落とされたミサイルが他のミサイルを巻き込みながら爆発する。地上と空を間に炎の壁ができる。
KV編隊の攻撃はやまない。ミサイル、バルカン、レーザーのすべてが炎の壁を突破してヘルメットワームに降り注ぐ。KV編隊もまた炎の壁を突破する。
ヘルメットワームはたじろぐ。フォースフィールド上で爆発が連続する。ついに赤い障壁にひびが走った。そこに漸機が戦闘機形態のまま突撃、余剰エネルギーで青白く燃え上がる翼で両断した。
2分割されたヘルメットワームの中型機は地上へ落下する。町の一区画を潰すかとおもわれたそれは直前で自爆機構を発動、分解して、雪のように散った。
王が仲間たちに報告する。
「今ので全機敵機を撃破したはずです。しかし念のために哨戒をお願いします」
各機が了解と返事をする。
KV編隊は一斉に陸戦形態に変形する。町の周辺を回るように滑空する。
漸がいう。
「敵の撃破を確認した。これより帰投する」
KV編隊は戦闘機形態に変形すると急上昇した。能力者たちは上昇しながら世界中に戦火が広がっているのを目にした。地上では町が燃えていた。近くではレーダー基地が燃えていた。遠くではアドリア海が燃えていた。
誰かがもらす。
「‥‥まだ戦いは終わらない」