●リプレイ本文
●罠
未明のコンテナ港に2匹の竜が現れる。船からコンテナを運び出すクレーンがスライムに乗っ取られたものだ。スライムはクレーンを骨組みに自身を筋肉として暴れ回る。クレーンドラゴンはあごでコンテナをくわえて持ち上げると、首をふって放り投げた。
港の入り口にバリケードを気づいている警官隊にコンテナは落下する。蜘蛛の子を散らしたように警官たちは逃げ出した。コンテナに潰されたパトカーが燃え上がる。
この事件の犯人フランツ・センスワンダーはコンテナ船の船底へ向かっていた。傾斜の急な階段を落下するように降りて機関部へ到達する。エンジンに燃料を送るパイプに爆弾を設置、さらに船殻にも設置した。それから船の上層へとって返した。
センスワンダーはつぶやく。
「海上封鎖の準備は整った。着火する」
そういって船上へあがるとコンテナの影に隠れた。伏せてグレネードランチャー付きのマシンガンを構えた。榴弾の代わりに焼夷弾が装填されていた。
●接近
そのころ能力者たちは海上からの接近を試みていた。8人を3つのチームに編成し、2つはチームはクレーンドラゴンを、残りは犯人の確保および救助の役割を担当する。
朝日で輝く海をモーターボートが突っ切る。
船上には3人の人影がある。黒ずくめの男が操船しているが、少年に舵を任せて、自分は防水シートで保護した銃を手にする。
運転を代わった少年のネコミミフードが風で外れる。阿木 慧斗(
ga7542)だ。
阿木はいう。
「速攻で片付ける。船は使い捨てるよ」
銀髪の美青年終夜・無月(
ga3084)がこたえる。
「了解した。狙撃準備をする」
「いささか派手な展開だな。船で突撃、港に飛び降りて即座に攻撃する。どこかでみた覚えがある」
御影・朔夜(
ga0240)がスナイパーライフルから防水シートをはがした。
阿木が付け加える。
「港は大事だ。物流の要だから。早く解放しなきゃ。それに船の人たちも」
すると終夜が阿木の頭をわしゃわしゃとなでた。阿木はほほを染めると終夜の手を払ってネコミミフードで頭を守った。
「照れるな。阿木くんはよい子だ」
御影は2人のやりとりに口角をあげた。
「ああ、もう。接敵するんだからね!」
そう阿木がわめく。コンテナ船越しにクレーンドラゴンがコンテナを投げているのがみえる。船尾よりのクレーンドラゴンへ船首が向けられる。終夜と御影は狙撃を開始する。
「‥‥アンカーは基部に埋め込まれている。スナイパーライフルでは破壊不可能だ」
そういう終夜に御影はこたえる。
「対物ライフルでもあればよかったんだがな。私は制御系のコードを狙うとしよう」
「アームの関節部も狙って」と阿木はサイエンティストらしくいう。「コンテナを投げるなんて動作を想定してないから損耗しているはずだよ。それに的も大きい」
「‥‥やはり阿木くんはよい子だ」と終夜。
「ああもう! 頭なでないでよ!」
「‥‥あまり笑わさないでくれたまえ。指が震えるのだよ」
そういって御影は発砲する。口のわりには銃弾はクレーンドラゴンに命中し、火花が散った。電気系統が切断されてクレーンの上部にある赤色灯がきれる。
阿木は視界を横に走らす。海上を5台の水上バイクが走っている。仲間だ。
「よし。上手く連携できそうだ」
そういった瞬間、腹にこたえる爆音があがった。コンテナ船の腹部が吹っ飛び、燃える破片が海面に落下、水柱があがる。
「ほう」と御影がもらす。「既視感がある。速度をゆるめな。もっと出せ。次の攻撃が来るぞ」
阿木は頭を下げたまま船をさらに加速させる。御影は狙撃を中止して伏せる。
「終夜も伏せたまえ。燃料の臭いがする。火がつけられるぞ」
終夜が伏せた瞬間、海上が燃え上がった。船から流出した燃料が海面を覆い、燃え上がった。炎の舌が能力者たちをねぶりまわす。
●突破
船体腹部が爆砕された。炎が横殴りに噴き出し、破片で水柱があがる。
水上バイクに瓜生 巴(
ga5119)が抱きつく。波打つ海面に翻弄される。
(「陸上を封鎖された以上、海上でなにかあるとおもいましたが、やはり!」)
瓜生は仲間へ叫ぶ。ハンドサインも繰り出す。
「ハリィハリィハリィ! 第2攻撃が来る前に上陸して下さい!」
海面に光の翼が広がる。覚醒した霞澄 セラフィエル(
ga0495)が低空飛行する戦天使のように突撃する。誘爆を起こして破片が降ってくるが、回避運動をとらず加速することで落下地点から逃れた。水上バイクが波に乗ってジャンプ、空中に翼が広がった。
「瓜生、船体上部になにかいるぞ!」と崎森 玲於奈(
ga2010)が叫ぶ。
瓜生は船体を右から左へ走査した。
(「艦橋にはいない。コンテナ倉にもいない。いや、なにかいる。あれがフランツ・センスワンダーとやらか!」)
コンテナ倉の男は丈の短い銃器を構えている。その先端になにか機器がついている。瓜生はグレネードランチャーと判断する。
(「まずい。いま打ち込まれたら燃料に着火する。この状況で狙撃はとても」)
「主導権をとるんだ。やられる前にやれ。私は対空防御する」
崎森のエミタが高稼働する。双眸が青く輝く。同じ色の光が右手から刀に伝わる。
瓜生は意図を理解して発砲する。同時に頭を下げる。
瓜生の銃弾は破れた船体に命中して火花を飛ばした。その回りには流出中の燃料がある。もちろん一部はすでに気化している。
海上が爆発した。
崎森は瓜生を先導するように海面を走る。燃える破片が飛んでくるが、剣先で弾く。海面に影が映る。頭上に圧迫感のある破片が落下してくる。崎森の腕から剣光が迸った。破片は両断される。同時に剣圧で波が割れた。
霞澄、瓜生、埼森はクレーンへ到達した。
●船上
フランツ・センスワンダーは伏せたまま目を覆う。視界が真っ白い。2度目の爆発を直視してしまったからだ。
燃料が海に広がってから着火するつもりだった。しかし能力者は燃料流出箇所に火をつけることで燃料の拡散を無理やり停め、海上に火が回るのを防いだ。
(「まさか能力者め、こんなに思い切りがいいとは」)
センスワンダーはコンテナを支えにして立ち上がった。目をこする。マシンガンを強く握った。
瞬天速!
ジーン・ロスヴァイセ(
ga4903)は覚醒、皺がなくなって若いころの姿に戻る。同時に水上バイクからコンテナ船上へ移動した。コンテナに身を寄せながら周囲を索敵する。
敵の気配がないのでロスヴァイセは海上へ手をふった。
エメラルド・イーグル(
ga8650)が船上へ上がった。顔が煤けている。拭うと隈取りのようになってしまった。
「危ないところでした。それでは探索を開始します」
「頼んだよ。歳のせいかあたしは目が弱くてね」
「その冗談の出来、判定しませんよ」
「やれやれ。最近の若者は‥‥」
2人は横跳びしてコンテナに隠れる。銃弾を浴びて盾にされたコンテナから火花が散った。ロスヴァイセが銃口を突きだして応射する。
ロスヴァイセの銃が弾切れになる。合わせてイーグルが射撃する。イーグルのギュイターはホースから水をまくように弾丸をぶちまける。
「私の見立てでは罠はありません。頭を押さえているうちに捕縛して下さい」
「了解した」とロスヴァイセは再び瞬天速を使用する。姿がかき消える。
影がコンテナの上を走る。銃声にコンテナを駆け抜ける音が被さった。
ロスヴァイセはマシンガンを再装填中の男を発見、上空から奇襲をかける。
男は銃口を突如出現した女に向ける。が、女の拳が一閃して腕の自由が利かなくなる。男は女の腕が右鎖骨のあたりにめり込んでいるのをみて失神した。
ロスヴァイセは拳をセンスワンダーの身体から引き抜いた。
「やれやれだらしのない男だね」そしてスライムのまとわりついたクレーンをみて「あちらは面倒そうだね」
●クレーンドラゴン
霞澄が水上バイクを加速、波に乗り上げて跳躍する。エミタが高稼働して光の翼が展開する。霞澄は水上バイクからさらに跳躍する。堤防で転がる。
霞澄は立ち上がる。朝日に照らされて長い影ができる。影が唐突に大きくなる。クレーンドラゴンがコンテナを投下してきたからだ。反射的に前方へ跳んだ。さらにその前にコンテナを投下される。右か左に逃げようとして霞澄はクレーンドラゴンに動きを読まれてしまったことに気づく。
クレーンドラゴンのあごが天使に迫る。
「オマエが破壊の意志を示すのならば、こちらからは絶望を示さねばなるまい。渇望の皇が剣を担う者として。‥‥紅蓮衝撃!」
赤い閃光がクレーンドラゴンの首をなぎ払った。フレームが明後日の方向へ曲がり、まとわりついていたスライムの一部が剥落した。
やったのは崎森だ。霞澄へ叫ぶ。
「ここは任せろ。電源を掌握するのだ」
「すいません。お任せします」と霞澄は姿を消した。
「近接して下さい。支援します」と瓜生がコンテナの影から叫ぶ。
瓜生はコンテナの影から影へ移動しながら発砲する。崎森の接近する隙をつくる。
「やれやれ。効いている様子がありません。でもこれだけ大きいと外れなくて助かります」
瓜生はつぶやく。コンテナのあいだから崎森がクレーンドラゴンに飛びついたのを確認する。銃を捨てて瓜生もまた近接攻撃すべく突進した。
●クレーンドラゴン2
炎上する海をボートは押し割るように突進する。勢い余って堤防へ乗り上げて滑り、クレーンドラゴンの根本にぶつかって横転した。
クレーンドラゴンはボートにくわえると、持ち上げてメリメリバリバリとかみ砕いた。
ボートのエンジンが爆発してクレーンドラゴンの頭部が燃え上がった。
3人の能力者の影が堤防に映る。
「‥‥アクセス」と御影の双眸が金色になる。「『双月の狼』を舐めるなよ。私と無月が組んで出来ない事などない」
「双月の狼の真髄をみせてやろう。いくぞ」
御影と終夜の両手が跳ね上がる。それぞれの銃が火を噴く。竜の吐息のような銃撃を受けてクレーンドラゴンから無数のスライムが剥落する。
阿木は落ちたスライムを電撃で焼き払いつつ、駆動系にも攻撃する。
「ハハハハッハハ。その流動体の身、何処まで削れば息絶えるか拝ませて貰おうか!」
「‥‥長期戦になるかもしれない。体力を温存するんだ」
阿木が叫ぶ。
「敵の動きが鈍っています。霞澄さんがやってくれました!」
コンテナをくわえたクレーンドラゴンの身体が傾げていく。
クレーンの駆動音がなくなっている。電源を落とされて緊急停止したからだ。
クレーンドラゴンはコンテナとスライムの自重をモーターの補助無しで支えられない。地響きを立てて横たわった。
「まな板の鯉だな」と御影が笑った。
能力者たちは無力化したクレーンドラゴンへ襲いかかった。
●エピローグ
「やれやれ。終わりましたね。水上バイク、どうしましょう」
瓜生は眉を寄せた。貸与された水上バイクは何台か沈没してしまった。スライムにまとわりつかれたクレーンをみると根本に見覚えのあるボートの残骸が転がっている。
ロスヴァイセが瓜生の背をばしばし叩いた。
「たかだか始末書1枚や10枚やオペレーターからお小言をいわれる程度のことさ。大したことじゃない。気にするもんじゃないよ。若いんだから」
「ULTも決して裕福ではありません。この調子で依頼毎に高価な機材を消費するようならば、遠からず貸与申請の許可が難しくなるかもしれません。それは我々には死活問題です」ホークは無表情に続ける。「私のみるところ若者よりも老人のほうがおおざっぱです。死期が近いので雑事から逃げられるからでしょうか。それともすでに人生を楽しんだからでしょうか」
ホークは無表情過ぎて意図不明だが、あまりの弁舌に瓜生は顔色を失う。しかしロスヴァイセは吹き出した、ホークは毒舌ねと。
ホークは少しだけ口を尖らせた。
「毒舌ではありません。人生に関するシリアスな問いです」
するとロスヴァイセはいよいよ笑い出す。こらえきれなかったらしい。ホークはかわいいといいながら能力者へいった。目尻に涙がたまっている。
「そろそろあたしたちは帰投しよう。傭兵は邪魔よ」
能力者たちはうなずいた。
港湾関係者たちは復旧作業を始めていた。ブルドーザーが瓦礫を取り除き、港湾関係者が配線を調べている。
復旧作業の物音に紛れて能力者たちは姿を消すと、新たな戦場へ向かった。