タイトル:過去の舞う空マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/09 20:49

●オープニング本文


 ULTのオペレーターは能力者へいった。
「KVで航空祭に参加して下さい。もちろん観客を楽しませるほうですよ」
 依頼主はアメリカ南西部にある都市の航空祭委員会で、毎年この時期になると都市の郊外に臨時飛行場を設けて、様々な飛行機械を集めてのイベントを行っていた。
 オペレーターは続ける。
「この都市は今でこそ農作業機械の部品製造が盛んですが、かつては飛行機部品の製造で栄えたそうです。プロペラ機時代にはエンジンの動力をプロペラに回すチェーンやゴムを作ったそうですが、時代の波に乗り切れず、農作業機械の製造へ向きを変えたんだとか。もっとも今でも航空機部品は製造していて、ネジやボルトを作っているのですが、高品質で業界中から引っ張りだこなんですって。たとえば、一部のKVの部品(ネジやボルト)はこの都市で製造されてるんです」
「今回、我々に依頼が来たのもKVとの関連です。委員会曰く『世界に貢献する地方都市』だそうです。郷土愛が見え透いていますが、かわいらしいかもしれませんね。それでは、みなさん、がんばってください。KVで歩いたり、飛んだりするだけですが、それでも戦闘機を使いますから、念のために気をつけて下さいね」

 航空祭当日、複葉機時代の飛行服姿の男がお祭りを楽しむ人々のあいだをすり抜けていた。
 この男は飛行機を使うサーカス団の一員で、このあとアクロバットを披露することになっていた。けれどもその前に、機体の最終チェックも終わっていたから、観客の気分を確認していた。必要なものを必要なところへ、客に合わせた芸をするのが男の信条だった。
 幕間から舞台をのぞくピエロのように男はあたりを歩く。子どもの手をすり抜けて空へ昇る風船を取り戻してやったりしつつ、骨董品のような飛行機を囲んでいる客をみる。
 飛行機は年代順に並んでいる。かごに入れられた文鳥(男は小さな先達に敬礼した)から複葉機、プロペラ機、ジェット機などが続き、KVの巨体で終わった。
 KVは飛行形態も歩行形態も他を圧倒する大きさだ。さすが戦闘機と男が感心していると場違いなものをみつけた。
 農作業機械が並んでいる。男は都市の主要産業を思い出した。祭りに託けて宣伝しているのだろう。一応これらを眺めている客も男はみていく。そのときトラックが男の眼前に止まった。
「やあ。ひかれるかとおもったぜ。気をつけてくれよ」
 男はお祭りなので鷹揚にふるまい、トラック荷台に気づいて、笑った。
「これってV1飛行爆弾だろ、なんでまた積んでるんだい?」
「これは中身が花火なんです。今日のために復元したんですよ」
 トラックの運転手がおりてきて謝りつつ説明した。
「そうかい。いいね。父方のじいさんはイギリス人で、母方のじいさんはドイツ人なんだよ。顔を合わすといつもケンカさ。母方のほうは戦時中にV1飛行爆弾をつくってたらしくって自慢するだけんど、父方のほうは『V1なんざ複葉機で墜とせるじゃねえか』ってこき下ろすのさ。なにしろ父方のじいさんは自分の乗ってた飛行機の翼をV1の翼に当てて撃墜したからな。母方はぐうの音もでないんで代わりに手がでる。殴り合いになって親父とお袋が止めに入るってわけさ。仲良しのじじい共だったよ」
 ここで男は時計をみた。もうすぐ出番だ。
「おっとおれはショーの時間だ。これからアクロバットさ。花火師さんもがんばっておくれよ」
 男が立ち去ると、トラックの運転手は安堵のため息をもらして、V1を発射状態にする。トラックの荷台が持ち上がって斜めになる。細長いラグビーボールに翼を生やしたような形状のV1は空を睨んだ。
 このトラックのそばに複数のトラックが集まってくる。どれも荷台にはV1飛行があり、停車すると即座に発射状態にされた。
 トラックの運転手たちは発射タイマーをセットすると航空祭の人混みに紛れて会場を脱出した。
 そのころ、さきほどのパイロットは複葉機に乗り込んで宙返りを打っていた。そのまま背面飛行して口をあんぐり開けている子どもたちに手をふり、手をふりかえしてきたKVに微笑んだ。
 その瞬間、大音響が響き渡った。パイロットは噴射炎をみた。トラックのあたりから炎をあがり、人間の焼かれる悲鳴があがる。
 パイロットは地上を見下ろしながら思わず硬直する。火だるまになった人々が転げ回り、消火しようとした人々に炎が燃え移った。パイロットの手が硬直して機体がきりもみ回転し始める。
 V1飛行爆弾は墜落する複葉機を嘲笑するかのように上昇した。
 人々は複葉機の墜落の瞬間、目を覆った。
 轟音が響き渡る。人々が目を開けるとそこには墜落するV1と上昇する複葉機の光景があった。複葉機は墜落寸前で持ち直し、自分の翼をV1に当て逆に墜落に追い込んでいた。V1は人気のない滑走路上に墜落する。土煙をあがった。
 複葉機のパイロットは歯をかみしめる。
(「しくじった。あのトラックの運転手。バグア側の人間だったのか」)
 複数のV1が上昇する。機体は水平となって巡航状態になる。噴射炎が空に尾を引いた。
 パイロットは地上をちらりとやる。人々は避難をはじめ、KVたちが動き始めているようだ。それからV1の行き先をみた。そこには都市があった。
(「あいつらの狙いはKVか。KV部品の製造工場を吹っ飛ばすつもりなんだな。‥‥やってみやがれ。全機、落としてやる。じじい仕込みのV1の落とし方をみせてやる!」)
 横隊で飛翔するV1飛行爆弾に複葉機がドッグファイトを挑む。さながら半世紀前の空戦を再現するかのように。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
オットー・メララ(ga7255
25歳・♂・FT
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF

●リプレイ本文

●事件前

 航空祭の当日、空は晴れていた。だからというわけではないが、山崎 健二(ga8182)はコンパニオンの女性をナンパしてみた。
「やあ。お姉さん、よい天気だね」
 そういって山崎はにっこりとスマイル。人好きのする笑顔だ。コンパニオンの女性も微笑み返す。
「そうですね。絶好のお祭り日和です。‥‥ところで後ろの男性がご用みたいですよ」
「それよりも俺はあんたに興味があるな。‥‥痛、耳が!」
 月村・心(ga8293)の骨っぽい指が山崎の耳をつまんでいる。
「なにを油を売ってるんだ。仕事を疎かにしてはいけない。警備にいくぞ」
「いいえ。警備ではないでしょう。今日の仕事は」
 瓜生 巴(ga5119)はつっこみを入れた。
「それ、月村さんの職業病ですか。警官時代でも思い出しました?」と飯島 修司(ga7951)がフォローする。
 月村が警官や民間軍事会社にいたのを依頼で一緒にいるあいだになんとなく知った。
「それにしても平和でござるな。けっこうけっこう」
 オットー・メララ(ga7255)は子どもに手を振りながらいった。さっきメララのKVのコクピットをみせてやった。
「本当に平和ですね。それにちょっと暇になってきました」と石動 小夜子(ga0121)がいった。パンフレットで予定を確認する。「次はアクロバット飛行のショーですか。お客さんはそちらにいかれたのでしょう」
「じゃあ」とシエラ・フルフレンド(ga5622)は魔法瓶とティーカップを手にして「ちょっと休憩、お茶にしませんか?」
「いいですね」と石動はぽんと手を合わせて上品に首を傾けた。「お手伝いします」
 フルフレンドの手で用意されるお茶を能力者たちは囲む。KVを眺めている客たちにもふるまう。
「あれ、レイアーティさんは?」とフルフレンド。レイアーティ(ga7618)の姿がない。すると、
「プリフライトチェック中です。もう少しで終わりますのでお先にどうぞ」
 レイアーティのナイトフォーゲルR−01のコクピットから白い手がひらひらとふられた。
 瓜生は紅茶を一息で飲む。熱くて後悔するが顔に出さない。
「我々の展示飛行も近いですね。私もプリフライトチェックします。ごちそうさまでした」
 瓜生も自分の機体ナイトフォーゲルS−01に乗り込む。
 そのときだった。
 V1飛行爆弾が地面を揺るがすような噴射炎をあげたのは。

●離陸
 複葉機に撃墜されたV1飛行爆弾が会場の外れに落下する。
 能力者たちはそれぞれのナイトフォーゲルの搭乗、起動を開始する。
 コクピットのシェルが閉鎖される前からフルフレンドは無線で連絡を取り始める。国際緊急周波数だ。警察や消防等に叩きつけるように情報を流す。
「これでは離陸できません」と瓜生はもらす。コクピットから逃げ惑う人々やこの騒ぎをショーと勘違いして棒立ちの人々がみえた。「フルフレンドさん、祭の運営委員会と連絡を取ってください。周辺から人々を排除しなければ飛べません」
「はい!」とフルフレンドは無線のチャンネルをいじって運営委員会に連絡、さらに警備にも客を誘導するように伝える。
 他の能力者も外部スピーカーで客に離陸の危険と退避を伝える。
 このあいだ瓜生はいち早く起動完了したレイアーティといっしょにV1の情報を収集開始する。他の機体とデータリンク開始、起動完了した機体から順にディスプレイに戦闘情報が表示される。
「こちら瓜生です。管制を務めます。起動完了した機体から順に離陸して下さい」
「こちらレイアーティ。管制、ありがとう。離陸します」
 レイアーティはディスプレイの誘導情報にそってナイトフォーゲルR−01の足を踏み出す。降ろされた足からタイヤが展開する。避難の完了した区域に滑るように移動して地面を蹴った。
 ナイトフォーゲルR−01は歩行形態のまま空へ舞い上がり、地面に大きな影を作った。
 人々が腕を振り上げて歓声をあげる。その声を稲妻のような音がかき消した。レイアーティ機のスラスター音だ。
 二度目の稲妻。レイアーティ機は空中で戦闘機に変形する。最大出力をだす。会場全体に衝撃波が落ちる。テントが吹き飛び、老人や子どもが尻餅をついた。
 瓜生の管制のもと他のナイトフォーゲルも離陸する。
 メララとフルフレンドのナイトフォーゲルS−01が同時に空へ、石動と月村のナイトフォーゲルR−01が後に続く。さらに山崎と飯島の最新鋭機ナイトフォーゲルF−108ディアブロが赤い稲妻のように飛翔、他の機体を追い抜いて空へ飛び込んだ。最後に瓜生機が爆音轟く会場を後にした。
 ナイトフォーゲルは隠していた牙をむき出して飛ぶ。

●撃破
 複葉機はV1飛行爆弾を追撃する。が、機体が不安定で速度が上がらない。風防からパイロットはみた。翼に亀裂が走り、表面がめくれあがっている。
 パイロットは翼をみて、V1の噴射炎をみて、唇をかむ。さらに彼方の都市をみてから覚悟を決め、速度をあげる。
 複葉機はうねったものの、パイロットの決意が通じたのか、じりじりと速度を上げる。そこにレイアーティからの無線が入る。
『V1を追撃中の複葉機へ、こちらはスクランブルしたKVです。聞こえますか、ソードフィッシュ・ドライバー』
パイロットは風にあおられながら笑う。
『こちら複葉機だ。ソードフィッシュはじいさんが乗ってたマシンだ。こちらの機体は損傷している。追撃を頼む』
『了解。そのために来たのです。あなたは離脱して下さい』
『助かる。武器無しで落とす方法は判るか?』
『もちろん。我が祖国はイギリスですから』
 レイアーティの無線機からパイロットの笑い声がもれる。
 複葉機は翼を振ると空域から外れていく。レイアーティはいう。
「ふん、こんな劣化コピーが通用すると本気でおもっているんですか。彼のためにも全機落とします!」
『やれやれ新旧対決か。まさかあんな遺物を新型機で落とすはめになるなんて』と山崎。
『おっと複葉機が離脱しました。大人しくいってくれて助かります。ディアブロで脅しつけずにすんでよかった』と飯島。
『でも威力をみせつけられなくて残念では?』という山崎に飯島はこたえず、ニヤリと笑う。ディスプレイにフルフレンド機とメララ機からの情報が表示される。
『観測を始めるよ』『観測するでござる』
 フルフレンドとメララはディアブロのペアを追いながら地形情報を集めて瓜生機に伝達する。瓜生機は現状でV1を撃墜した場合の欠片の飛散を推定する。このあいだに、
『石動、V1に先行する!』『了解!』
 と月村機と石動機はV1を落とし損ねたときのフォローのために先回りする。ブーストを使用、大気を裂いた。
『計算完了』と瓜生。『情報出します』
 レイアーティ機、山崎機、飯島機のディスプレイにアプローチ情報が表示される。3人がそれにOKを出すとAIが機動の支援を開始する。3機は群舞するように、もしくは観閲式の兵士のようにぴったりとした機動を始める。
 3機は、人類の最新鋭の戦闘機械は火線を展開、過去の復元物をなぎ払った。
 V1飛行爆弾は休作中の農地に落下する。農地にクレーターができる。
『V1飛行爆弾、全機撃破。破片は農地に落ちました。作戦は成功です!』とフルフレンドの心からうれしそうな声を石動は無線できいた。息を吐く。
『やりましたね』
『いや。待て』と月村が遮る。
 月村は農地を低空飛行する件の複葉機を捉えていた。複葉機の下ではトレーラーが列をなして走っている。月村には追跡しているようにみえた。トレーラーをズームアップすると荷台にはミサイルかロケット弾のカタパルトらしきものがみえた。
『犯人だな。捕縛するぞ』
『はい!』
 KVが近づくとトレーラーはパニックを起こしたように道を外れた。運転手たちが窓から身を乗り出して拳銃を発砲する。
 拳銃弾などKVに届くはずも効くはずもない。月村と石動のKVは轟音とともに急降下、歩行形態に変形、風圧で地面に線を残しながら機動、散開するトレーラーに踊るようなステップで近接、すれ違いざまにひっくり返した。
 月村は歩行形態のKVでホバリングしながらトレーラーを見下ろす。ガトリングガンを向ける。
『投降しろ。逃亡する者には発砲する。撃たれてから文句をいうなよ。こちらは口さえ聞ければいいんだ』

●未来の舞う空

 能力者たちは犯人をUPCへ引き渡すと会場へ戻った。編隊を組んで展示飛行を開始する。
 KVはV字型編隊で会場上空を飛ぶ。戦闘機形態だ。
 この編隊に複葉機が加わる。翼を振って挨拶する。
 KV編隊は一斉に翼を振って返す。
 会場が沸いた。
 歓声が空に昇っていく。