タイトル:再生の炎マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/09 16:51

●オープニング本文


 アメリカのとある州、国立公園上空を小型ヘリコプターが旋回している。機体には森林レンジャーのマークが記されていた。
 小型ヘリコプターは燃え上がる森の煙を避けつつ、木々の枝葉をかすめるような低空飛行を続ける。
 森林火災は2日前から続き、大きめの都市ほどの空間を焼かれていた。もっとも国立公園自体は日本ならひとつの県に指定されかねないほどの規模なので相対的にはさほど焼けてはいない。
 それに炎は森にとって必要なものだ。
 ヘリコプターが炎と煙を迂回して焦土の上を飛ぶ。周囲を目視確認をしていたサブパイロットがいう。
「やあ。今年もよく燃えてるな」
 パイロットがいった。
「それはいいとしてなんかみえましたか。うっかり山火事に遭遇して逃げ遅れた観光客とか」
「いや。影も形もない。人間どころか鹿も熊もとっくに逃げてしまったようだ。まあ森の連中はこの炎とは付き合いが古いからな。‥‥川沿いを飛んでくれ。湖のほうに人がいないか確認する。まさかいるわけもないとおもうが」
 了解とパイロットは森の間を走る小川を飛ぶ。木陰のあいだで銀の糸のように水が光っている。パイロットは森林レンジャーになるまえはUPC空軍にいた。視界不明瞭な状況などお手のものだった。
 パイロットがいった。ちらりとサブパイロットをみやる。その首元に松ぼっくりで作ったペンダントがある。
「その首からさげてるヘンテコな飾りは娘さんからもらったんですか。‥‥たあ、ひっぱらないで下さい。これでも口が大きいのを気にしてるんですよ」
「口の大きい奴は好きだぞ。おれの娘も大きいしな」とサブパイロットには小さな娘がいた。小学校に来年あがる。「こいつはな、娘が俺らの仕事をおもって作ってくれたんだ。お前も研修で勉強しただろう。この松ぼっくりの殻は90度以上にならないと割れない。こいつは森林火災のときだけ発芽できる植物なんだ。俺たちの仕事は破壊も含めた生物連鎖を見守り、次の世代へ残すことなんだ」
「いい話ですね。うんうん。心が和みます。‥‥たあ、だから口をひっぱらないで下さい。あ、前方に白煙を確認、すげえ煙が立ち昇ってます。迂回しますよ」
 サブパイロットはパイロットの唇から手を放す。目を細める。
「変だ。さっきまであんな煙はあがってなかった。それにあれは‥‥」
「消化活動の際に煙に似ている、ですか?」
「それをいおうとおもった。煙の発生源を確認したい。悪いが、突っ込んでくれ」
「了解。昔とった杵柄ですよ」
 ヘリコプターはさらに低空飛行、地面に湖に突っ込むように飛行する。森から立ちのぼり上空へ広がる煙を突っ切って湖に出る。ヘリコプターは湖面に波紋を作りながら旋回する。機体の側面を煙の発生源へ向ける。
 湖岸をみてサブパイロットが叫んだ。
「なんだ、ありゃ、馬か魚か、ひょっとしてキメラか!」
 湖岸には上半身が馬、下半身が魚の生き物が乗り上げている。
 魚馬はたてがみをゆらしていななくと口を開けた。霧状の塊が発射される。高圧力を加えた水塊だ。炎上する樹木に命中する。燃え上がる枝葉をまき散らしながらその木は倒れた。
 サブパイロットが歯を食いしばった。
「森を荒らしやがって。とはいえ、俺たちではやりようがないな。帰投する」
 パイロットがいう。
「先輩、偵察させてください。せめて湖岸に寄せるだけでも。せめて数くらいは確認しなくては」
「おうよ! 俺が目になる。お前は翼だ。お手柔らかに頼むぜ。戦闘は初めてなんでな」
 ヘリコプターは湖面に波紋を刻みながら岸に迫る。機内ではサブパイロットが消火活動中のキメラを数える。
 馬のような魚のようなキメラの1体がヘリコプターの接近に気づいたらしく回頭する。高圧水流の空へ放つ。
 命中。
 ヘリコプターは横揺れする。側面の昇降ドアがへこんでいる。
 機内でパイロットが叫んだ。
「くそう。撤退します」
「まだだ。あと10秒。なにかいるぞ」
 糞野郎、娘を大事にしやがれ。パイロットは無視してヘリコプターを上昇させる。
 このときサブパイロットはみた。まだ燃えていない森、その暗がりのなかで何かが動いたことを。サブパイロットは森林レンジャーの経験から高速移動するもののほうが暗がりでは目に映りやすいと知っていた。
 次の瞬間、ヘリコプターが横揺れする。側面の昇降ドアがぶち破られ、巨大な鎌のようなものが差し入れられ、床を傷つけた。ヘリコプターの上昇が鈍る。
 パイロットが叫んだ。
「ハリイハリイハリイッ」
 ヘリコプターは力を振り絞るように上昇する。サブパイロットはぶつんという音をきいた。鎌と持ち主が自身の重みによってちぎれた。ヘリコプターは空へ跳ね戻り、基地へ帰投した。
 
 ULTのオペレーターは能力者にいった。
「森林レンジャーから依頼がありました。現在、国立公園で森林火災が起きています」
「この火災は生態系に必要なもので放置されているのですが、キメラが消火活動を始めました。おそらく生態系の破壊もしくは改良が目的と推測されます」
「敵戦力ですが、現地からの報告によりウォータービーストを確認しています。また鎌状の器官を持ったキメラが確認されています。おそらくウォータービーストの護衛と考えられます」
「現場は火災と森林のために移動困難です。森林レンジャーが湖岸付近までヘリコプターで移送してくれます」
「危険な任務ですが、能力者のみなさん、生態系を守ってください」

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
炎帝 光隆(ga7450
31歳・♂・FT
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

●能力者、到着

 森林レンジャーのヘリが木々をかきわけるように低空飛行する。空地へ飛び込むように着陸する。能力者たちを吐き出すとヘリは飛び立った。
 霞澄 セラフィエル(ga0495)はいう。
「木々の間隔は疎です。扇状隊形で前進します。接敵後は散開、各自のペアと行動して下さい」
 能力者たちはうなずく。
 隊の右翼は比良坂 和泉(ga6549)と煉威(ga7589)のペア、中央はロジー・ビィ(ga1031)と並木仁菜(ga6685)のペア、左翼は炎帝 光隆(ga7450)と斑鳩・八雲(ga8672)のペア、殿は霞澄と六堂源治(ga8154)のペアが務める。
 能力者たちは森林を前進する。
「敵発見。散開します」
 ビィが木々の隙間から大蟷螂の影を捉えた。
 大蟷螂は能力者たちをみつめてから身を翻した。湖岸へさそうかのような動きだ。
 能力者たちは散開、炎帝と斑鳩はウォータービーストのもとへ向かう。大蟷螂とウォータービーストの連携を阻止するためだ。
 炎上する森を舞台に戦いが始まった。

●囮チーム
 炎帝と斑鳩は木々のあいだをすり抜けるように走る。前方の視界が開けてくる。湖だ。
 側面から物音がする。薄暗がりの中で光が袈裟懸けに走った。
 木々が2人に倒れかかってくる。2人は加速する。影だけが木に潰された。
 背後から大蟷螂が迫るが、2人は疾走をやめない。
 風が鳴った。
 霞澄の矢が大蟷螂の頭部をかすめた。同時に六堂が体当たりして吹っ飛ばした。
 あちらこちらからSES搭載武器の稼働音が鳴り始めた。
 大蟷螂の相手を仲間に任せて2人は湖岸に飛び出た。
 3体のウォータービーストが燃えている側の湖岸に馬の姿の上半身を乗り上げて消火している。残りの2体は湖面から馬の首を突き出して消火している。
 炎帝はいう。
「湖岸のキメラを討つ。支援を」
「了解しました。任せて下さい」
 炎帝は煙と火の粉の中を走る。
 湖岸のウォータービーストが回頭する。口が閉ざされ、首がふくらみ、水弾の発射態勢になる。
 炎帝は槍イグニートを前方へ突き出す。穂先が地面に刺さる。槍がしなった。炎帝の身体が宙を舞い、その下で水弾が炸裂した。
 湖面のウォータービーストが空中の炎帝を目で追う。その首がふくらんで水弾が発射されようとした瞬間、銃声が響いた。
 斑鳩は銃デヴァステイターを連続発砲する。一度に3発の弾を撃つ銃が連射されると雨のようだ。湖面が乱れ、銃弾の何発かがウォータービーストの首をかすめた。するとウォータービーストは首の傷から高圧水流を噴出させて湖面できりもみ回転する。
「よし」と斑鳩。炎帝の支援に向かう。残された槍を拾い上げて主へ放った。
「すまん。助かる」
 炎帝は後手で槍の石突きのあたりを掴む。投げられた勢いに自分の力を加えてウォータービーストを横殴りにする。ウォータービーストは転倒しながら明後日の方向へ水弾を吐いた。
 が、攻撃のあとにできる隙を狙ってウォータービーストは炎帝へ水弾を吐きかけようとする。その瞬間、ウォータービーストの口元で横一文字に光が走った。炎帝へ水弾を命中させるべくすぼめられていた口が引き裂かれ、あごが垂れ下がり、集束率の低い水弾が吐き出された。炎帝による穂先の斬撃だ。
 しかし放水銃のような一撃で炎帝は地面に叩きつけられる。
「炎帝さん!」
 斑鳩がウォータービーストの口元を刀で斬りつけ、水弾を封じながら、叫んだ。
 ウォータービーストの武器は水弾だけではない。その前足で炎帝を踏みつぶしにかかる。足が背中に押し当てられる。
「!」
 炎帝の喉が鳴った。肺から息が絞り出された。
 駆けつける斑鳩だが、その前に無傷のウォータービーストが立ち塞がった。その首がふくらむ。水弾の発射態勢だ。

●煉威、比良坂のペア
 火事の勢いが増している。煙と枝葉のせいで森の中は薄暗い。
 煉威と比良坂は闇に溶けるながら大蟷螂を探す。
 2人を追走する気配が現れる。
 煉威は薄闇に紛れる。姿消え声だけが響く。
「さあて。一番乗りになろうぜ、比良坂さんよお」
 出撃前に煉威と並木はどのペアが最初に大蟷螂を下すか競争だと軽口を叩いていた。
 声と同時に風が鳴った。木々を縫うようにして煉威の矢が飛ぶ。
 大蟷螂は鎌を盾にして弾く。同時に後方へ跳躍しようとするが、比良坂が突撃する。
 ずどん。腹に堪える音が響く。
 比良坂の一撃は大蟷螂に受け止められたものの、勢い余って右の鎌をひきちぎっていた。
 大蟷螂のまだ左の鎌が残っている。ギロチンのように展開する。
「煉威、やりなさい」
 比良坂は身体を振る。瞬間、背後に立っていた煉威が攻撃した。比良坂の髪一重のところを矢は飛び、大蟷螂の頭を突き刺さる。
 頭を失った大蟷螂が発狂したように跳ねた。噴水のように体液をまき散らしながら木々にぶつかる。
「うわ、気持ち悪!」煉威が不快を表す。
 比良坂は斧を振り上げる。
 大蟷螂の胴体がふたつにへし折られる。それでもまた動く。比良坂は残っている鎌を踏み押さえながら胴体をずたずたにしてやった。
 斧にまとわりついた腸らしきものをとりながら比良坂は身震いした。
「いやはや大きくなると気味の悪さも倍増ですね」

●ロジー・ビィと並木仁菜のペア
 森と煙の薄闇の中で大蟷螂は目を光らせた。両腕の鎌の威力は死神のそれに例えても申し分ない。しかし、
「狙うは一番乗りですわ」
「はい。そうしましょう!」
 2人はまったく動じない。同時に覚醒してビィは双眸を紫に、並木は赤く染めた。
 大蟷螂は予備動作無しで跳躍する。両腕の鎌が闇の中で光った。
 ビィは後の先をとる。バスタードソードが鎌と噛み合った。
(「まずはその物騒な代物を無力化します!」)
 ビィのエミタが高稼働を始める。身体から青い闘気が立ちのぼる。同時にバスタードソードの搭載SESが作動、エアインテークが展開する。
「はっ!」
 ビィの背から翼のような闘気が迸る。バスタードソードが振り下ろされた。
 ぶぢんと両腕の鎌をちぎりながらビィは地面に大穴を穿った。
 大蟷螂は吹き飛ばされる。木々を巻き込んで止まる。ちぎれた両腕から体液が滴る。
 並木は一瞬だけ追撃の手をゆるめてしまう。
 大蟷螂は羽根を展開する。穴だらけのそれで飛ぶ。消えた。
「‥‥逃げたの?」と並木。
「!」ビィが目を見開く。
 空を覆う煙、木々の枝葉越しに並木は大蟷螂の降下をみた。
 体当たりしてくる大蟷螂を並木は射抜いた。大蟷螂は胴体を貫かれて落下、勢い余って木々や地面に激突、身体をバラバラにした。
 並木とビィは仲間の支援へ向かう。

●霞澄セラフィエルと六堂源治のペア
 囮チームが駆け抜けたあと、大蟷螂をねじ伏せていた六堂は吹っ飛ばされた。
 木の枝にぶつかって地面に落下、六堂は着地するや否や、抜刀した。
 大蟷螂は隙ありとみたのか、両腕の鎌を振り上げて六堂に襲いかかる。
 霞澄は鎌を六堂が弾いたのを目撃した。
(「器用です。なんというか見た目と中身が違う人ですね」)
 六堂はヤクザ映画に出演していても違和感のない外見だが、なにかと優しいところがある。まさかヘリの乗るときに手を取ってもらえるとはおもわなかった。もっとも少々重たくもある。一回り年上の男性から霞澄先輩と呼ばれるのは。
 大蟷螂の連続攻撃を六堂は剣先で弾く。カチンカチンという音が連続して響く。弾くたびに星が散った。
 霞澄は六堂の器用さに感心しながら森を走る。今の位置では射線が上手く通らない。
「ぶった切ってやるぜ。‥‥ってなかなか厄介な奴だな。こいつは!」
 言葉と同時に六堂は蹴った。大蟷螂は足を踏ん張る。だから六堂のほうが吹っ飛ぶ。
「いまですぜ、霞澄先輩!」
 風が鳴った。木々の隙間を縫って矢が飛ぶ。大蟷螂の頭が吹き飛んだ。
 やったと霞澄はおもった。しかし、
「あぶねえ!」
 頭のない大蟷螂は鎌を振り回しながら跳ね回る。かまいたちのようなそれが霞澄に襲いかかる。霞澄は目をつぶった。
「大丈夫ですかい、先輩?」
 霞澄は目を開ける。そこには大蟷螂の鎌を防ぐ六堂の姿があった。右の鎌を刀で制し、左の鎌には腕を食い込ませている。
「ろ、六堂さん、腕が!?」
 六堂はニヤリとした。
「さっきのやり合いで鎌の刃を潰して置いたんでさあ。申し訳ねえんですけど、霞澄先輩、とどめ刺してくれませんか。俺は手が空いてなくて」
 霞澄は大蟷螂にとどめを刺した。
 2人は仲間の支援へ向かう。
 走りながら霞澄はいう。
「六堂さん。先輩と呼ぶのはよしてもらえませんか。面映ゆいです」
「それは失礼しやした。霞澄先輩」

●合流

 ウォータービーストに踏みにじられている炎帝がうめき声をもらす。
 斑鳩は無傷のウォータービーストとにらみ合う。
 ウォータービーストの首がふくらむ。水弾が来る。
 しかし斑鳩は銃で炎帝を踏みつけるウォータービーストを狙った。
「気遣いは無用だぜ」
 森から影が飛び出す。弾丸のような勢いでウォータービーストに体当たりし、炎帝を救い出す。六堂だ。
「助かりました!」と斑鳩の手が跳ね上がる。銃声が響いてにらみ合っていたウォータービーストを撃ち抜いた。
「俺が一番乗りだ!」「私が一番乗りです!」
 煉威と比良坂のペア、並木とビィのペアが茂みから飛び出す。
 対岸に回り込んでいた霞澄が無線でいう。
『湖面のウォータービーストが岸へ移動中です。迎撃して下さい』
 煉威と並木が睨み合う。
「一番乗りは俺んだからな」「い・い・え。わ・た・し・です!」
『もう好きになさって下さい。今度はウォータービーストで勝負したらいいんです』
 湖のウォータービーストを攻撃しながら霞澄は無線で突っ込んだ。
「今度こそ」と煉威と並木は勝負を始める。
 ほどなくしてウォータービーストの群は全滅した。
 煉威と並木の勝負は結局つかず、今度は何で勝負かといいあっている。
 ほほえましい口げんかを眺めている炎帝に六堂が話しかけてくる。
「大丈夫スか? すごいひしゃげてましたよ」
「ありがとう。大丈夫だ。‥‥あ、いや暑くて参ってる。冷たい水が飲みたい」
 そういいながら炎帝は空を見上げた。雨でも降らないかとおもったが、雲ひとつない。やがて森林火災の音に混じってローター音が聞こえてきた。森林レンジャーのヘリが煙を迂回しながら回収にきたのを炎帝は認めた。