●リプレイ本文
○01
北米の空を4機のKVが飛翔する。その様子にはなぜか、空の守護者、鋼鉄の怪鳥という威容が見られず、どこか怯えているかのようだった。
それはこの辺りの戦場にはバグアのクリーナー部隊、UPCの遊撃部隊を専門に掃除する部隊が出没するからで、さらにこれらのKVはクリーナー部隊を誘い出すための囮でもあった。
KVの排気音が赤茶けた大地に到達すると、大地がもぞりと動いた。
それは迷彩をまとったクリーナー部隊だった。
リーダーの強化人間兵は僚機に命じる。
「あのトンビ共を落とす。奴らのいる空を見上げると、自分が飛蚊症なんじゃないかと疑ってしまう」
僚機はすべてAIだったので、軽口に対する返答はない。
その代わりに僚機は迷彩を一斉に排除した。
レックス・ワームの砲身が露出、その先端が剣呑に輝いた。
「対空攻撃は二段階で行う。準備!」とリーダーの短い指示が飛ぶ。
レックス・ワームは射撃体勢に入り、屈強な足を大地にめり込ませ、砲がKVの進路の先に向けられる。
「撃て!」
砲撃はさながら地上から空への時雨だった。
4機のKVは、突然の攻撃に動揺したらしく、ふらついた。
コクピットの中で強化人間兵が唇を曲げた。ディスプレイではKVが陸戦を仕掛けるつもりらしく着陸の様子を見せている。
「ゴーレム、近接戦闘用意。レックスワーム、離陸中を狙え」
強化人間兵自身も自機の長距離砲を用意する。強化人間兵が遠距離攻撃に気を向けた瞬間、それは現れた。
○02
クリーナー部隊のそばに、シュテルンとロジーナが落雷のごとく強行着陸を試みる。同時に火器が火を噴いた。シュテルンは天宮(
gb4665)の搭乗機で、ロジーナはミリー(
gb4427)のものだった。
「くう!」と強化人間兵は突然の攻撃にうめく。ディスプレイに映る敵の更なる増援にはまだ気がついていないようだった。
「君たちは、ずいぶんと目移りしているね。その態度、戦場じゃあ、命知らずじゃないかな。もっと注意深くないと」
ミリーはクリーナー部隊にスナイパーライフルやガトリング砲を浴びせる。
「みなさん、今のうちに着陸を!」
シュテルンにロケットランチャーを連射させながら、天宮は仲間に呼びかけた。
先行して着陸した2機の弾幕が形成されるなか、続々とKVが降下する。
能力者はクリーナー部隊の側面に回り込んだ形で戦端を開いた。奇襲攻撃は成功したかのように見えたが‥‥。
「こちらも弾幕を張り返せ。火砲で押し潰してやれ」と強化人間兵の指示が飛ぶ。
レックス・ワーム何体が被弾しながら、着陸途中のKVへ振り向いた。対空攻撃、来ますという天宮の叫びのなか、背中のプロトン砲が瞬く。
「そう簡単に落とせるとは思わない事ね」とアズメリア・カンス(
ga8233)が冷ややかに告げる。
視界一杯に広がる光の雨のなかをアズメリアの雷電が突っ込み、被弾を重装甲で無視して着陸、そして陸戦形態に変形すると、強化を重ねた試作型「スラスターライフル」で逆襲した。
戦場を横薙ぎする火線。赤茶けた大地に点在する植物にパッと燃え上がり、被弾したレックス・ワームがたじろいだ。
強化人間兵は唇を噛んだ。
「やるな。敵を甘く見たか。‥‥僚機、フォーメーションを整えろ」
強化人間兵が長距離砲を構えると同時に、僚機のゴーレムとレックス・ワームが立ち位置を変える。連携することで攻撃効率を上げたいらしい。
そんなクリーナー部隊の様子は、時枝・悠(
ga8810)の目には、壁のように見えた。
悠は、搭乗機のディアブロに命じて、ビームコーティングアクスを掲げさせる。
「行こうかディアブロ。名に違わぬ力を示そう」
ディアブロのパニッシュメント・フォースが発動する。悠のディアブロがオーラに包まれる。焼けた大地でそうする様子はまるで伝説の中の存在が現実に戻ってきたかのようだった。
しかしリーダー除く機体がAIで制御されるクリーナー部隊はまるで恐れを知らないかのようだった。
畏怖すべきものがあるということを知らしめるために能力者の突撃が始まる。
○03
突撃するKVに対して強化人間兵はゴーレムを突撃させた。
ゴーレムとKVが衝突する。
「多少の被弾は承知の上ッス!」と六堂源治(
ga8154)が剣を振り上げるゴーレムの身内に飛び込んだ。
六堂のバイパーがゴーレムと頭突きをする格好になる。
大揺れするコクピットの中で六堂は歯を食いしばりながら機杭のトリガーを引くと、ゴーレムの背中の装甲が吹っ飛んで杭が突き出した。
そして次の瞬間、六堂は別の敵目指して回頭する動きを利用して、ソードウイングを使用、ゴーレムを横一文字に切り裂いた。
「数で負けてんだ‥‥速攻で潰し尽くすッスよ‥‥!」
気炎を吐く六堂に鹿島 綾(
gb4549)が「待て」と声をかける。
「そう簡単に奴らを掃除できなさそうだ。敵砲撃、来るぞ」
ゴーレムがKVの突撃を食い止めているあいだに、後方ではレックス・ワームと肩にキャノンを装備した強化人間兵機がKVを狙っていた。
鹿島の注意喚起の間もなく、砲撃が来る。
能力者はそれぞれの方法で砲撃を凌ぐ。盾を持つ者は盾で、持たない者はランダムな回避運動を行った。
「敵も味方もお構いなしの砲撃かッ」とアリステア・ラムゼイ(
gb6304)が歯を噛んだ。
「あの砲撃はまずいな」と鹿島。「いいか、アリステア、悠、天宮。レックス・ワームの群に飛び込む。接近戦を仕掛けて砲撃を阻止する」
「レックスは任せる。こちらはゴーレム隊を抑える」と月影・透夜(
ga1806)が重機関砲をばらまきながらいった。
「ここは俺たちに任せろ」と六堂は、居並ぶレックス・ワームにスラスターライフルの射撃を加え、その隙に近寄ってきたゴーレムに機杭を突きつけた。
○04
強化人間兵はレックス・ワームに更なる砲撃を命じた。
だが、その瞬間、ゴーレムとKVがもみ合っている地点が爆発した。
レックス・ワームを狙う鹿島たちを支援すべく六堂、月影、ミリー、アズメリアが一斉射撃したのだ。
味方の砲火を追うように鹿島、悠、天宮、アリステアがレックス・ワームの群に突っ込む。
鹿島はコクピットの中で見た。自分を睨み付けるレックス・ワームの砲口を。おもわず唇をなめた。
鹿島のディアブロの腕が跳ね上がり、試作型「スラスターライフル」の火線が、レックス・ワームの砲口に吸い込まれた。
撃たれたレックス・ワームは砲塔を吹き飛ばされて、地面に倒れた。
「悪いな? 害虫駆除はお手の物でね」
鹿島の冷ややかな声の響くなか、レックス・ワーム掃討が始まる。
「せめて新型機の情報を回収したかったんだけど‥‥」
アリステアがスパークワイヤーを足下へ射出する。
砲戦から近接戦闘に切り替えたレックス・ワームは、KVに襲いかかったものの、ワイヤーに足を取られてしまう。
そこに、
「余り時間をかけてられないんでね‥‥一気に仕留めるっ!」
アリステアのフェニックスがデアボリングコレダーを起動、倒れたレックス・ワームに痛恨の一撃を叩き込んだ。
今の今までレックス・ワームの群は秩序を持っていたが、KV4機の突撃で、混乱に陥った。
混乱の中で天宮のシュテルンが、錬力循環システムから生成される黒い霧を不吉な運命のようにたなびかせて走る。
「この様子からして敵は、無人機ですね。適切な判断ができていない」
だが、最初の動きからして、なにかの制御を受けているのは明白だ。リーダー機の類がいるように見える。
「指揮を執っているのはあなたですね。‥‥あなたの死神はどうやら私のようですよ」
そういって天宮は、肩に長距離砲を備えたゴーレムの背後に忍び寄る。KVウォーサイズがゴーレムの首にかけられた。
KVウォーサイズがゴーレムの首を刈り取るかのように思われたが‥‥。
ゴーレムは自分にかかった死神の手を払いのけ、長距離砲を天宮のシュテルンの胸部装甲に押しつけた。死神の演者が入れ替わる。
だが、長距離砲は火を噴くことなく、ゴーレムは崩れ落ち、シュテルンにもたれかかった。
天宮は脱力して息を吐いた。
「これでは死神の鎌でなくて暗殺者の短剣ですね」
シュテルンの腕がゴーレムの脇腹にめり込んでいる。長距離砲を突きつけられた瞬間、試作型「雪村」を装備している腕を、光刃を発生させながら、ゴーレムの脇腹に押しつけたのだ。
無線に乗って「‥‥レックス・ワームの排除に成功」という悠のぶっきらぼな声が流れてきた。
そこに月影の声が重なる。
「こちらもゴーレムを撃破した。ミッションコンプリート、カウンタークリーニング成功だ」
囮を務めた部隊からも「周辺に敵反応無し」との報告が入る。
能力者から声量は小さいものの、満足げな歓声が上がる。
歓声は無線に乗って空へ昇っていく。
能力者のいるその戦場こそいまは敵のない清浄なものとなったが、空の高みからはまだ敵の闊歩する汚れた戦場がそこかしこに広がっていた。