タイトル:【庶事】仮想の迷宮マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/29 20:15

●オープニング本文


●取材の束
 バグアが跳梁しはじめて20年。とかく、表面に出るのは、派手な大規模作戦や、大掛かりなキメラやワームとの『軍事的な』ことばかり。だが、世の中には、それ以上にぶっとんだキメラだってたくさんいる。ある日突然、隣の住民がバグア派だったなんて事も、今や珍しくはなくなってしまったのだ。
 そんな人目につきにくい事件でも、救援を要する事は多発する。そんな日々の『隣村の大事件』を担当するUPCオペレーター本部に、1人の若者が足を踏み入れていた。受付で彼はこう事情を話す。
「まいどっ! 突撃取材班ですっ! 何か面白そうなネタありませんか!?」
「は!?」
 よくみりゃカンパネラの制服だ。おまけに腕章に『報道部』と書いてある。なんでガッコを飛び出してこんなところにいるんだと、受付の人は思ったが、口には出さずに、オペレーター達の事務室へと案内してくれる。そこにうずたかく積み上げられた報告書から、ネタになりそうなものを捜せと言う事らしい。
「アリガトウございます。じゃ、これ借りて行きますねっ」
 閲覧可と印字されたその束には、こう書かれていた【庶務雑事】と。
 これは、そんな日々起こっている事件をまとめた報告書の束である。

●Landing down dungeon
 仮想空間で3機のKVが同数のヘルメットワームと交戦している。カンパネラ学園の演習だった。ほどなくしてヘルメットワームは撃破され、KVは基地へ帰投する。
 隊長機が僚機に警告する。
「警戒を継続しろ。基地の滑走路に着陸するまでが作戦だ。KVシミュレーターだからといって気を抜くな。脱力が習慣化したら実戦で死ぬぞ」
 僚機から返事が来る前に3機のKVが飛んでいる空域が真っ暗になった。深海のような闇だ。
 言ったそばからと隊長がぼやく。各種センサーのデータを総合させて眼の代わりにしろと命じる。
 僚機の1機が、
「了解。‥‥‥‥!」という無線を残して爆散する。もう1機はなにかと衝突したらしく声も残さずに消え去った。
(「何が起こっている!」)
 隊長はディスプレイを見た。一瞬の間に高度が下がっている。地上までの距離が数メートルしかなく、そのうえ上空数メートルのところに巨大な障害物がある。
「上のは、まさか、天井かっ」
 自分の声と解釈に驚いたかのように隊長は瞬きをした。でも戸惑ったのは一瞬。KVに着陸態勢をとらせる。
 ランディングギアを出した途端にKVが接地、隊長は下からの衝撃に突き上げられた。隊長はコクピットで眼を見開いた。闇に慣れたその眼に無数の長大な柱の列なりが映る。
 いつの間にか隊長機は巨大な回廊で着陸を行っている。KVの背丈の倍はある柱と擦れ違いながら機体は減速して止まった。
 隊長はオペレーターに怒鳴った。
「なんだこれは。空飛んでいたら、いつのまにか、建物の中を飛んでたぞ。どんな作戦なんだ。これは、おい、何とか言えよ、言えったら」
 スピーカーから雑音が流れてくる。隊長は舌打ちするまえにKVを陸戦形態に変形させた。センサーに反応がある。
 KVが振り返ると、薄暗い回廊の奥から何かが姿を現した。巨大な闇の塊はKVに近づくにつれて輪郭がはっきりしてくる。天井まで届く巨大な背丈、鎧のような筋肉で構成された身体、そして人間のものではない首。牛そっくりの顔、その鼻から蒸気が噴き出した。ミノタウロスはKVを包み込むかのように腕を広げた。
 KVのコクピットでびゅと舌が不快そうに鳴らされた。
「現代の超兵器KVがファンタジーじみた回廊でファンタジーじみた怪物とやり合うか。ふざけてやがる! 演習でも許さんぞ!」
 KVがミノタウロスに突っ込んだ。そしてKVの残骸が薄闇の中に散った。
 この演習の終了後、カンパネラ学園生徒会執行部は学生と聴講生に向けて依頼を募集した。
 執行部委員は集まってきた能力者に言った。
「近ごろKVシミュレーターで奇妙なバグが発生した。出撃すると迷宮の内部のような空間に出現してしまう。技術者が復旧作業中なのだが、いまのところ復旧のめどは立っておらず、わかったのはあの空間に出現する敵機、いやこの場合はモンスターか怪物だな、それらを倒すことが復旧に関係するとのことだった」
 執行部委員は咳をした。
「KVシミュレーターが使えないと訓練できずカンパネラは困ってしまう。だが、見方を変えれば、今の状況は普段できない訓練ができるともいえる。というわけで訓練と復旧支援を兼ねてこの迷宮を攻略してくれ。‥‥悪いが、技術者には『カンパネラの実力を見せてやる』と見栄をきってしまった。すまない、だが、実力は本物だろ?」

●参加者一覧

リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
シェリー・神谷(ga7813
23歳・♀・ST
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
アーシュ・シュタース(ga8745
16歳・♀・DF
五條 朱鳥(gb2964
19歳・♀・DG
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP

●リプレイ本文

○地下1階
 回廊は広く静かだった。水面を思わせる漆黒の床は広大で、わずかな光を放つ柱は回廊の果てまで居並んでいた。回廊は耳の奥の血流の音が聞こえそうな静寂に満たされていた。
 だが、突如として静寂が破られる。一条の稲妻がほの暗い回廊に走り、この轟音をかき消すようにKVの排気音が回廊を揺るがした。
 8機のKVが稲妻から飛び出し、着地する。
「本当にファンタジー映画に入ったような感じですね」とPT−054Kロジーナに搭乗するマヘル・ハシバス(gb3207)が周囲を目視確認して言った。
「シミュレターのバグとは難儀なものですが、こういう事も有りなのですね」とこちらもPT−054Kロジーナに搭乗する番場論子(gb4628)は応じる。「なにはともあれ、修復のお手伝いといきましょう」
「だね。でもよ、どうバグればダンジョンにモンスター、RPGになるんだっての」とDH−179アヌビスに搭乗する五條 朱鳥(gb2964)は呆れた口振りで言った。
 F−108ディアブロに搭乗するアーシュ・シュタース(ga8745)が皮肉っぽく笑う。
「単なるバグか、それともバグアかどこかの陰謀か知らないけど。なかなか面白いことになってるわね」
 コクピットでアーシュはマイクの拾わない小声で呟いた。
(「ダンジョンに潜ってモンスター退治。ハッ、まるで物語の勇者ね、私は魔王だっていうのに」)
 その声にはどこか疲れの色がにじんでいた。
 S−01Hのリュス・リクス・リニク(ga6209)とES−008のルナフィリア・天剣(ga8313)が互いに背中を預け合って周囲を索敵する。幸いにも敵影はない、いまのところ。
 だが、リクスはセンサーに厳しい視線を注いでいる。
(「さて…初の陸戦はどんなものになるだろうか。期待半分、不安半分…生身よりは楽に戦えるのかな? なんて‥‥」)
 リクスのそんな思いを察したのか、ルナフィリアが声をかけた。
「問題ない。リクスに手を出した者は――デリートする」
 面映ゆかったのか、格好悪いところは見せたくないんだけどねと言いたげにコクピットでリクスは肩をすくめた。
 XN−01ナイチンゲールに搭乗するグロウランス(gb6145)が淡々とした口調で言った。
「エラーチェック終了、オールグリーン、機体の動作に問題なし。作戦行動への移行を提案する」
 グロウランスのコクピットのディスプレイにエラーチェック終了と表示されている。
 今回の依頼はKVシミュレーターのバグを取ることだ。バグが生じた結果、シミュレーター内部にダンジョンが生成されてしまい、これを排除するにはダンジョンの奥にいるミノタウロス型の仮想敵を撃破する必要がある。
 バグの生じた仮想空間という特殊な環境のため、KVが動作する確証がなく、能力者は、入る前にすでに行っていたが、入った後もエラーチェックを行った。
「では各班に別れて探索を開始」とR−01改のコクピットからシェリー・神谷(ga7813)がいった。
 生成されたダンジョンの詳細は不明、能力者は8機を4機ずつの2班に分割して探索する。
 ほどなくしてA班(リクス、ルナフィリア、朱鳥、論子で構成)からB班(神谷、アーシュ、マヘル、グロウランスで構成)に連絡が入った。
「こちらA班」と論子。「下の階層への入口らしきものを発見した」
「おそらくそれで下の階層へ侵入できるでしょう」と応じるマヘルのコクピットディスプレイにはこの階層のマップが表示されている。「B班はそちらに向かいます」
 そのマップは各班で丸き回った結果やセンサーの情報を総合したものだ。
 A班の発見した入口の前に全機が集結、入口は見立てどおり地下2階へのもので、能力者は地下2階に侵入する。

○地下2階
 A班では、
「つ、つまらない。これなんて糞ゲー?」と朱鳥がうめいた。
「そんな汚い言葉、言っちゃいけません」とマヘルの無線。
 朱鳥はしなしなと元気ない様子で、そうだなあとマヘルに返した。
 地下1階と同じく能力者は2班に別れてこの階層を探索するのだが、地下1階と見た目の差はない。
 この依頼にTVゲーム的な面白さを期待していたらしい朱鳥は拍子抜けしてしまったようだ。
 愚痴を言っても仕方ないとおもったのか朱鳥は口を閉ざして探索に戻る。
 一方そのころB班では、
「こういうダンジョンにはトラップや雑魚モンスターが付き物だけど、まさかそこまでお約束じゃないわよね?」
 そうアーシュが班員にしゃべりかけていた。半ば軽口、半ば注意喚起という様子だ。
「俺たちは、袋のネズミには違いない」B班の最後尾を守るグロウランスが注意喚起のほうに応じた。「敵の掌中にいる、ということだ。後方の警戒を継続する」
 能力者は緊張と退屈に挟まれ、ぎりぎりと集中力を削り取られているようだった。
 そんな状況でもB班は探索を続行する。KVの足音がほの暗いダンジョンに陰鬱に響く。
「!」
 神谷が上を見てから、センサー類に目をやった。センサーは警告を発していない、だが、、違和感を感じたように神谷は眉を寄せた。
 と、天井から四角い塊が降ってくる。ダンジョンを構成している大理石のような外見の構造物だ。
 驚きの表情を作るよりも前に神谷は危険回避。神谷のR−01改Storm Maidenが跳ね、落下物の落下地点から逃れた。
 Storm Maidenのつま先が安全な床につく。ついたはずだが、機体は沈み込んだ、急速に。
 B班の視界から神谷のR−01改が消える。
 B班のメンバーがどよめき、これを拾ったA班が状況報告の無線を飛ばす。
「無事よ。問題ない」と神谷。
 アーシュは神谷機の消えた場所を覗き込んだ。
「落とし穴、か。嘘から出た真になっちゃたわね」
 床が四角形に抜けてしまっている。穴の底は見えない。
 Storm Maidenはというと、KV長刀を落とし穴の壁面に突き刺し、落下を免れていた。
 マヘルが感心した声で言う。
「上手い罠です。ダンジョンの構造に紛れ込ませているうえに、大昔、機械の未発達な時代のものを再現しているようで、標的を感知するためのセンサーがありません。能動センサーがないならこちらの受動センサーでは探知不可能です」
 罠に対するマヘルの感想が滔々と続くが、神谷は遮るように言った。
「――悪いが、手を貸してくれ。単機ではここから脱出できない」

○地下2階から地下3階
 仕掛けられた罠が能力者の行く手を阻むかと思われたが、KVのセンサーで探れば、罠のある箇所付近は、構造が他の箇所と比べて分厚いので、罠の発見は容易だった。
 能力者は罠の大半をすり抜けて、地下2階から地下3階に到達すると、朱鳥が俄然やる気を見せた。
「迷宮にモンスターなんて‥‥‥‥全部クリアしたら財宝か囚われのかわいいお姫様を期待しちゃうね。上等っ、カンパネラのポテンシャル見せてやろーじゃん!」
 ダンジョンは、なるほど、いよいよらしさをそれっぽさを増してきた。
 闇の奥から跳びかかってきた3匹のケルベロスに、朱鳥機、アヌビスが古代エジプトの文字をかたどった機杖「ウアス」を振り上げる。
「――お姫様は期待できないね」とリクスはガトリング砲を発射する。
 なにしろお姫様はあたしのそばにいるという呟きはガトリング砲の発射音にかき消された。
 ケルベロス3匹はガトリング砲の攻撃に進路を制限され、一塊になったところを朱鳥機の一撃でまとめて潰された。
「こちらA班、扉を発見した。B班、集結して下さい」と論子。「ケルベロスの数は不明、錬力に余裕があるうちに、下の階層へ急ぎましょう」
 ボスを倒せば、この状況からKVシミュレーターは復旧する見込みだ。復路の心配をする必要はないから、このまま押し切るつもりらしかった。
 論子機が扉に手を触れようとしたが、思い直したらしく、止めた。
「扉の意匠が気になるよ。あれは一体、鍵?」とリクス。
「そう見えるが‥‥」とルナフィリア。「センサーには反応がない。またセンサーの効かない仕掛けがあるという示唆か」
「いいか?」とB班、グロウランスからの無線が入る。「鍵と聞こえたが、鍵らしきものを発見した。出現するケルベロスが首輪をはめていることには気づいているとおもうが、やつらの中に首輪に鍵を吊しているものを発見した」
 A班のもとへB班が合流した。
 アーシュ機はケルベロスの死体を運んでいる。
「鍵の意匠に、鍵を持ったケルベロス。いかにも使って下さいって場面だけど、二重の罠かもしれないわ」
 そういうとアーシュはケルベロスの死体を扉に投げつけた。
 すると稲妻が瞬いてケルベロスの死体が消える。
 遠くで重量物が落ちる音がした。どうやら死体が別の部屋に飛ばされたらしい。
「‥‥触れなくて良かった」と論子。「鍵を使ってみましょう」
 A班が鍵を扉に挿入し、B班は部屋の隅からそれを見守る。どこかに飛ばされたら合流を第1番に行動すると打ち合わせてある。
 扉は、何事もなく開いた。
 能力者は一斉にため息を吐く。

○地下4階から地下5階
「天井が高いですね、それに馬小屋、馬小屋?」とマヘルが地下4階に踏み入れるなり、言った。
「‥‥静かなのが不気味だ」とルナフィリア。視線はセンサー情報に注がれている。既存の罠は映っていない。が、
「天井が高いのが、気になる」
「なんつーか、ゲームだとボス戦の前に一呼吸置いてセーブポイントとかあるよな、そんな感じか?」
 という朱鳥にアーシュが相づちを打つ。
「さっきの階層もヒントがあったわ。ゲームの類を真似しているのかしらね」
 コクピット内に持ち込んだ乳酸菌飲料を啜ってから神谷がいう。
「先に進みましょう。行き当たりばったりは気に食わないが、ノーヒントならそうする他ない」
 能力者は地下5階の入口へ向かう。途中、グロウランスが馬小屋を振り返り、中を確認、馬具を発見して瞬きした。
 能力者は地下5階に降り立つ。そこは大広間で、広間の奥には玉座と、そして天を突くような牛頭巨人ミノタウロスが屹立していた。
 ミノタウロスが唸ると、ダンジョンが鳴動し、薄明かりが揺らめいた。
「敵機を確認、奴を落とせばこの状況は終わりだ」グロウランスがA班に告げる。「床の各所に罠を確認、罠はB班が処理する。A班は撃破に集中しろ」
 B班のKVが射撃武器を構えて散り、A班のKVがミノタウロスに突撃する。
 A班の進路上に罠が点在しているが、落石程度ならB班が射撃で無効化できる。
「出たなぁっラスボスっローストビーフにしてやんよ!」
 その通りだが、身も蓋もないことを叫んで朱鳥が搭乗するアヌビスを駆った。
「“悪ヲ戮ス魔帝”ルナフィリア・天剣、征くぞ‥‥!」
 様式美を守るかのようにルナフィリアは宣言して突撃、これをリクス機が追従する。2機は舞踏のように美しく同期した動きを見せる。
 アーシュがコクピットで唇をなめた。双眸に火器管制装置の表示が映っている。
「‥‥我は天を撃つ魔王、覚悟なさい」
 A班のKVが広間を駆け抜ける。罠が連続作動するが、KVのほうが速い。
 落とし穴は床が消える前にその場からKVが先に進んでしまい、落石は天井から剥離した直後にB班の射撃で沈黙させられた。
 対するミノタウロスは床を踏みしめた。
「なんのつもりだ」といぶかしげにリクス。
 ミノタウロスの踏んだ場所には罠が仕掛けられている。
 と、リクスはルナフィリア機を突き飛ばした。
 おかげでルナフィリア機は落とし穴に嵌るのを免れた。
「すまない、リクス」とルナフィリア。「考えたな、ミノタウロス。この階層の罠はおまえが踏んでわたしたちを攻撃するためにあるのか」
 ミノタウロスは次々と罠を発動させる。
「なら、スイッチを壊すだけよ」とアーシュ。同時にA班が左右に散開、空いた中央のスペースを無数の弾丸が疾走し、ミノタウロス付近の床に着弾した。
「スイッチがなければ、作動はできまい」
 ミノタウロスは恐れるかのように退いた。だが、罠はまだ残っていた。ミノタウロスのかかとがスイッチを踏む抜いた瞬間、天井一面が崩壊した。
「!?」
 各機は、反射的に、射撃武器を上方を連射した。
 落ちてきた天井が粉々になるが、まだ続々と落ちてくる。
 落石と粉塵まみれの空間で、ミノタウロスが、降ってきたなにかを取り上げた。それは地下4階にあった馬具だった。続いてかすかに馬に似たいななき。そして巨大ペガサスがミノタウロスのもとに舞い降りた。
 落ちてきた天井の一部をリクスはGFソードで打ち砕いた。そして目を剥く。
「広い。これは、天井が落ちて、4階と繋がったのか」
「動きやすくて結構」と朱鳥が自機に積もった瓦礫を吹き飛ばした。「だが、戦闘の条件が変化しちまったぞ」
 そのとき薄闇の中で白いものが閃いた。巨大ペガサスだ。背にはミノタウロスを騎乗させている。
「‥‥美しくない」と誰かが感想をもらした。
 ミノタウロスは飛びながら壁に触れる。すると再び落石が始まった。
 落石と敵の高々度をいくせいでKVの地上射撃は命中しない。
 各機は上方に向かってありったけの火器を発射する。
 落石の代わりに粉塵が広間に積もるなか、マヘルのロジーナが戦闘機形態に変形、垂直離着陸能力を使用して、離陸した。
 離陸と同時にマヘルは特殊能力ストームブリンガーを使用。嵐を思わせる高機動をとって巨大ペガサスに追従すると、すれ違いざまにR−P1マシンガンを放った。
 白い羽根が散った。翼を傷つけられたペガサスは暴れ、騎乗者を振り下ろした。
 広間に落下するミノタウロスをルナフィリアが待ちかまえている。
「これで‥‥仕留める!」
 ルナフィリア機が真ツインブレイドを構え、跳躍、空中でミノタウロスに二連続攻撃を叩き込んだ。
 上空のマヘルは、ルナフィリアによるミノタウロスの四分割を見るどころではなく、コンマ数秒後に迫る壁との激突を回避しようとしていた。
 だが、閉所でのKVの飛行は無理がありすぎる。マヘルは次の瞬間の衝撃に耐えるかのように身を竦ませた。だが、その身体を衝撃が襲うことはなかった。
「のわ!」
「うひゃ!」
「解放感があるな」
 といった仲間のどよめきがマヘルのコクピットに無線から流れてきた。
 マヘルは目を開ける。
 そこは真っ白い広大な、レーダー派の戻ってこないほどの広大な空間に変化していた。
 次の瞬間、空間が弾けた。
 フレア弾の爆心地にいるかのごとき衝撃に能力者は目を閉じたが、これはすぐに終わり、聞き慣れたアラーム音が響いた。
 各機のディスプレイに『訓練を開始します、機体データを入力して下さい』と表示されいる。
 KVシミュレーターの通常メッセージだ。
「‥‥どうやら元に戻った、らしいわね」と論子。
「だね」と朱鳥。「いや、けっこう楽しかったね」
 朱鳥はヘルメットを脱いだ。毛先から汗が滴る。コクピットの壁面越しに技術者の慌ただしい動きが伝わってくる。バグを排除したあとも技術者には仕事が残っているようだったが、朱鳥は心地よさそうに身体を伸ばした。