タイトル:【DR】故郷への帰還マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/08 17:42

●オープニング本文


 ラインホールドは倒れ、『ゲート』は破壊された。天から人類の滅亡を召喚する者達は消え去った。とはいえロシア戦線では撤退戦という形で戦闘が継続していた。さらにまた新しい戦いが起ころうとしていた。それは戦争以上に難しい行為、復興活動という名の戦いだった。
 勝利の楽観に乗って各種メガコーポレーションがロシアの資源を開発するために技術者を派遣し始める。その動きのかげで大規模作戦のせいで避難してた人々が故郷に帰還を始めた。
 UPCやULTなど能力者を配した組織でこの帰還への支援が始まり、それはカンパネラ学園も例外ではなかった。
 カンパネラ学園執行部が掲示板などで復興支援の依頼を出すと、学生や聴講生が集まってきた。執行部委員は能力者たちにいった。
「今回の依頼は復興支援としてある都市へ探索してもらいたい。この都市は大規模作戦の戦場に近いため住民の避難が行われた。現在は無人となっている。ためにキメラなどの危険要素が存在している可能性がある。みんなに都市へ潜入後、危険の有無を確認、可能ならば排除してもらう。これが今回の依頼だ」
「戦う理由はそれぞれだとおもうが、結局のところ俺たちは生きるために戦っているはずだ。避難した人々が故郷で生きられるように手助けしてやってほしい」
 執行部委員は次に詳細説明に移った。
 一方そのころ探索予定の都市では1匹の狼型キメラが群からはぐれ、ビル街を走っていた。
 狼型キメラは走りながら鼻をひくひくと動かす。まるで何かを探るようだ。時々立ち止まると鼻先を空に向けて風からなにかを読み取ろうとしているようだった。だが、その度に失敗するらしく小首を傾げるような仕草をしてその場を走り去り、群へ戻っていった。
 この光景を1人の男が震えながらうかがっていた。男は避難することを頑固に拒み、密かに都市に居残っていた。男の震えは恐怖だけではなかった。というのは燃料を節約しているからだった。
 男はビルに居座るとき、下の階にはバリケードを築き、上の階には生活必需品を備蓄した。息を潜めて生活したのでバリケードは無事だが、生活必需品はもうだいぶ少なくなっていた。
 男は空腹と寒さで力の入らない身体を壁に預けた。
「もうだめだ。食料と燃料を探しにいかなければ」
 男は、狼型キメラの目と鼻を恐れながら外へ出るか、この場で干からびるか否かのチキンレースをするか、迷っているようだった。
 ひとりぼっちの空間で男の腹が虚しそうに鳴った。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN

●リプレイ本文

○01
 ダイヤモンドリング作戦の終結に伴い、UPCは復興支援活動を開始した。
 この活動のひとつに疎開の実施された都市に民間人を帰還させるというものがある。
 UPCの兵員輸送ヘリがヤクーツク周辺のある都市に向かって飛ぶ。
 ヘリが運ぶのは探索部隊だ。
 向かう先の都市は、今回の作戦のUPC司令部のあるヤクーツクに近いために疎開が実施されたが、大きな戦闘には巻き込まれず、目立った被害はないとされていた。
 兵員輸送ヘリの窓から九十九 嵐導(ga0051)が都市を見た。
「何もなければいいが、‥‥そうもいかんか」
 九十九の独白はUPCの意思を代弁していた。この都市はつい最近まで戦場の直中にあった。そのような都市には警戒すべきだ。危険要素の確認をせずに民間人を帰還させることなどできない。そのために九十九の加わった部隊が編成された。
 ヘリは都市に近づく。窓から都市の全景が見える。レールズ(ga5293)が感想を口にした。
「この天気の中、静まり返った町を捜索してるとまるで人類が滅んだ後の世界みたいですね‥‥」
 アグレアーブル(ga0095)が赤髪をかき上げながら相づちを打つ。
「日常が戻るといいですね」
 着陸を報せるアナウンスが機内に流れた。
 Anbar(ga9009)が任務を確認するように呟く。
「戦争が終われば、次は復興だよな。危険が残っていてはおちおち暮らしていくわけにもいかねえから、俺たちに与えられた任務は重大ってことだな」そこまで言ってから照れたように付け加える。「まあ、報酬分はきちんと働かせて貰うさ」
 兵員輸送ヘリが着陸に入った。

○02
 部隊は都市に到着すると、分隊に別れた。都市は広大だから複数の探索区域に区切られた。分隊はそれぞれに割り当てられた区域に向かう。
 九十九たちの分隊が担当する区域は、繁華街のある5キロほどの空間だった。効率良く探索するために九十九たちは分隊をさらに2つの班に別けた。
 能力者は割り当ての区域を横断するように探索する。
 A班(レールズ、ルクレツィア(ga9000)、アンジェラ・ディック(gb3967)、猫屋敷 猫(gb4526)の構成)の猫屋敷は周囲を警戒しながら探索しながら言った。
「静かな街ですね、ゴーストタウンみたい。でも、もし人がいたらどうしますか」
「保護するに決まっている。でも、残っている人なんているかしらね。理由が思いつかない」
 ディックは猫屋敷と喋るよりも建物の屋根に昇ったルクレツィアが気になる様子だった。
 ルクレツィアは仲間を地上に残して三階建てのビルの屋上にいた。目立つの避けたらしく物陰に隠れながら、探査の眼を使用、周辺をうかがっている。
(「一見無人みたいですが、何かいますね」)
 ルクレツィアは地上の仲間に向かって腕を向けた。ハンドサインで警戒の度合いを高めるように連絡した。

○03
「‥‥まずいな。飢え死にするのとキメラに食い殺される確率が同じくらいなんじゃないか」
 男が呟いた。男はおぼつかない足取りで窓に近づくと、地上を見下ろした。
 窓からは街をうろつくキメラの姿はみえない。
 男は空腹に急き立てられてようにして隠れている建物か出た。

○05
 A班のいる方向で銃声が鳴った。けれども残響音を残してすぐに止んだ。
 B班のロジー・ビィ(ga1031)がA班に連絡を取ると、少数のキメラと接触するも排除したと返ってくる。お気をつけてと言い添えてロジーは通信を終えた。
 ロジーはほほに片手をあてた。
「あちらでも野良キメラさんがいらっしゃるようですね」
「やっかいなことだ」
 九十九は地図に印をつけながら相づちを打った。UPCに都市の被害状況を報告するためだ。
 2人の目の前にある建物は崩壊している。撃墜されたKVか戦闘機の破片が直撃したらしかった。破片の元自体は建物のそばにはない。どうやら郊外に落ちたらしい。ある意味で運がよいといえた。
 アグレアブールとAnbarが戻ってきた。
 Anbarが報告する。
「中を見てきた。柱とかは無事だから、今日明日崩壊するなんてことはないだろうよ」袈裟懸けに斬られたかのような建物を示して「ま、持ち主が見たら青くなるだろうけどさ」
 そっけない口調でアグレアブールが言い添える。
「火災などはありませんでした。UPCの事前説明にあったとおりこの地域のライフラインは止めてあるみたいです」
 追加の情報を地図に書き加えながら九十九はいった。
「整然と避難した印象を受けるな。それだけにキメラがうろついてるのは残念だ」
 能力者はこの区域の建物の内部も探索しようとしたが、ほとんどの建物は施錠されたり、シャッターを降ろされたりしていて、侵入できなかった。建物の周囲は荒らされた形跡はほとんどなく、荒れたものといえば、能力者の目の前にある残骸の直撃を受けた不運な建物くらいだった。
 そこにレールズから無線が入った。
「多数のキメラを発見しました。応援をお願いします!」

○06
 空腹のわりには男は盗みをすることに迷いがあったようだ。商店の扉を破るために用意したバールを男は振り上げるに時間をかけた。
 バールを振り下ろそうとしたとき、男はびくりと動きを止めて、通りのほうを見た。
 男のほうへ音が近づいてくる。無数の呼気と爪のアスファルトを叩く尖った音の塊だ。
 音の塊が角を曲がってきた瞬間、男はバールを捨てて、逃げ出した。
 キメラの群が男を呑み込もうとする。

 A班はキメラの群を発見、応援を要請したところ、キメラは逃亡を図った。
「どうして逃げるの。ひょっとして罠に誘導?」と猫屋敷は追いかけながらいった。
 ディックが答える。
「どうかしら。あの感じ、疲弊している。戦闘を避けたようにみえる」
 どちらにしろ発見した危険要素は排除しなくてはならない。能力者はキメラの群の追跡を続ける。
 レールズが走りながらいった。
「B班と連絡が取れました。共同して撃破します」
 だったらとルクレツィアが作戦を提案する。
「追い詰めて十字砲火といきましょう」
 ルクレツィアは地図を把握しているし、さきほど高所から区域を観察したので、この辺りの道はだいたい掌握している。
 キメラの群は十字路などにさしかかると散開しようとするが、そこにレールズとディックのアサルトライフルが火を噴いた。
 散開しようとしたキメラは飛び退き、アスファルトが散った。
 ルクレツィアの的確な誘導が功を奏した。キメラの群は一本道に誘導され、その鼻先にB班の面々が姿を現した。
 が、B班は一様に緊迫した表情だった。というのはB班とキメラの群の間に民間人らしき男が挟まれていたからだった。
 戦闘に民間人が巻き込まれるという予想外の状況にいち早くリアクションを返したのはアグレアブールだった。
「ごめんなさい」と同時に瞬天速が発動、アグレアブールは言葉をその場に残して、キメラの奔流に呑み込まれた男性のそばに移動した。続いて男を側溝へ突き飛ばし、今まさに男を噛み砕こうとしたキメラの首を掻き斬った。
 側溝は降雪地帯らしく深いものだった。男の身体が側溝に隠れたと見るや九十九は言った。
「おい、そこの人、絶対に身体を表に出すなよ。――よし今だ、一網打尽にするぞ」
 言いながら鋭覚狙撃を使用、九十九は、アグレアブールに殺到するキメラの頭部を単発発射モードのスコーピオンで撃ち抜いた。
 これを合図に能力者の挟撃が始まる。

○07
「大丈夫ですか。お茶とお菓子はもっといかがですか?」
 猫屋敷は保護した男が空腹と知ると、常備しているとお茶とたまたま持っていたお菓子を振る舞った。
「そんな勢いで食うと胃がびっくりしちまうぜ」
 がっつく男にAnbarが制止を呼びかける。
 お茶とお菓子を平らげた男にレールズは尋ねた。
「この地域一体には避難勧告が出されていたはずですが‥‥取り残されたんですか?他にも生存者は?」
 男は悪戯をとがめられた犬のような表情になった。
「いや、その、実は事情があって‥‥」
 能力者たちは顔を見合わせた。
 レールズが柔らかいくせに断固とした口調でいった。
「とにかく生存者を発見したからには強制的にでも保護させていただきます。見たところあなたの体調は悪そうですしね」
 男はうなずき、保護されることを受け入れた。しかしUPCの元へ連れて行かれるまえに寄っていきたいところがあるといった。能力者はこれを承諾した。
 そこは男の隠れていた建物で、オフィス街の中にある教会の廃墟だった。
 教会の中は荒れ果て、装飾の類はなかったが、代わりに彫刻の作業場になっていた。
 破れたステンドグラスから光が降り注ぐ中、彫像が影を落としていた。それは抽象的な造形だったが、誰の目にも、子供を抱く母親を見守る天使と判った。
「まあ」とロジーが息をもらした。「これを完成させるために居残っていらしたのですね」
 彫刻家の男はうなずくと、自分の作品に保護シートをかけた。