タイトル:【DR】再会は罠の中マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 02:25

●オープニング本文


 ウダーチヌイで激戦は続いている。人類側司令部のあるヤクーツク基地は軍服でごった返していた。この軍服の群に白い学生服が混ざった。一見不自然な服装だが、誰も不思議に思わないのは、それがカンパネラ学園の制服だったからだ。
 カンパネラ学園は若手の能力者のための教育機関だ。バグアとの戦いは能力者が重要な役割を担っているから、カンパネラ学園の学生は学生の身分のままUPCの戦線に加わることがよくあった。
 白い制服の少年は不慣れな様子で司令部を行き来し、配属の手続きを終えると、配属先の部隊に向かった。
 配属先で上官への挨拶が終わったあと、少年が真っ先に向かったのは整備場だった。
 整備場には1機のKV、HA−118翔幻が搬入されていた。
 少年の愛機だった。
 機体をチェックしている整備兵に少年は挨拶した。
「‥‥カンパネラ学園高等部2年、黒崎啓二です。本日、配属されました。大規模作戦のあいだお世話になります」
 整備兵はチェックシートから顔を上げた。
「我が部隊にようこそ。きみがうちらの部隊を護衛してくれる能力者か。なんだか気合いの入っている様子だな。でもうちらのいまの役目は戦闘でなくて要救助者の回収だぞ。なんで気張っているんだ? 気張りすぎると必要なところで脱力するぞ」
 戦場の各地には救難施設が設置されている。ここにたどり着いた要救助者を回収してくることがこの部隊の役目だ。最前線と比較して敵から襲撃を受ける機会は少ない。
「実は兄が行方不明になっているんです」と黒崎啓二と名乗った少年はいった。「兄も能力者なので死んだとはおもっていませんが、でも、その、なんというか、非常に心配で‥‥」
 啓二ははこうして部隊に参加することに慣れていないのか、かちこちになっている。整備兵は啓二の緊張した面持ちの中に陰りが混ざっているのを見た。
「フムン。ふがいない救難部隊に変わって『この俺が兄貴を助けて出してやる』ってわけか」
 整備兵がそういうと、啓二は顔を赤らめて小さくうなずいた。

 一方そのころ啓二の兄こと黒崎創一北米UPC軍中尉は親バグア派と行動を共にしていた。創一は親バグア派の部隊とともに人類、バグアの両方から目をつけられていない廃墟の町に身を寄せていた。
「では、通信をはじめてくれ」と創一は担架の上からこもった声でいった。
 撃墜された際に創一は重傷を負ってしまい、野垂れ死ぬところだったのだが、いま行動を共にしている親バグア派の部隊に救助された。
 UPCに呼びかける通信機を親バグア派の隊長は心配そうに見ながらいった。
「我々の投降を受け入れてもらえるようにどうか上手く説得して下さい」
「大丈夫だ。我々UPCの目的は人類を守ることだ。それにあんたらは好きこのんでバグアに与していたわけでなくて嫌々だったのだろう」
 この親バグア派の部隊は生活に困窮した者の集まりで生活物資と引き替えにバグアと与していた。ためにバグアの活動には協力的でなく、標的が同じ人類とあっては密かに見逃すこともあり、それが露見した結果、バグアから追われる身となった。
 骨の随が凍って砕ける永久凍土を死ぬまで彷徨うはめにこの元親バグア派の部隊は陥っていたが、大規模作戦が運良く発動してUPCが身近なものとなり、さらに幸運なことにUPC軍人の創一と接触できた。
 創一は元親バグア派の隊長から熱い視線を浴びながらUPCと通信を交わす。
 しかしこの通信を傍受している者があった。

 小型ヘルメットワームが荒野に紛れるようにして着陸している。コクピットではバグア兵が創一の通信を傍受していた。
 救助部隊の派遣が決定されたところでバグア兵は部下に命じた。
「UPC救助部隊の到着まで待機を継続する。UPC救助部隊の到着後、これを敵と認定して撃破、さらに廃墟に潜伏する裏切り者を粛正する」
 バグア兵は元親バグア派の部隊がUPCと接触するのを待っていた。その目的はUPCの親バグア派への不信感を煽るためだった。せっかくの救助部隊を撃破されたらUPCは親バグア派の投降に対して慎重になるだろう。それに他の親バグア派への見せしめという意味合いもあった。
 バグア兵はディスプレイのレーダーを剣呑な視線で見つめる。通信機からは救助部隊からの呼びかけが流れ続けていた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

○01

 撃墜されて行方不明となっていた黒崎創一中尉からUPCは親バグア派部隊の投降の報告を受け、黒崎中尉とこの部隊を回収するために輸送機を派遣した。1機の輸送機とこれを護衛する9機のKVがロシアの空を飛ぶ。
 シュテルン(そのパーソナルネームをカリバーンという)のコクピットでシャーリィ・アッシュ(gb1884)が独り言をもらす。
「1機の輸送機に9機のKVが守りにつくか。UPCとしてはやはり罠の存在を疑っているのだな。当然の判断だろう」
 アッシュの独り言は無線のマイクが拾っていたらしい。雷電(こちらのパーソナルネームは忠勝といった)に搭乗している榊兵衛(ga0388)がいった。
「そうとはいっても生きる為にバグアに与したというのが本当ならば、捨て置く訳にはいかぬだろう。速やかに保護を成功させて、バグアに一度与しても情状酌量の余地があり、いつでも手を差し伸べる用意があることを示すのは今後のUPCの戦略上必要なことだろうな」
 無線を聞いていた霞澄 セラフィエル(ga0495)が同意した。
「黒崎中尉の墜落は救助した元親バグア派の部隊の方々にとっては僥倖だったかもしれませんね。今回のような人達の投降は今後増えると思います、これからの為にも救助作業を成功させましょう」
 3人のやりとりに柿原 錬(gb1931)が混じる。声音が困惑していた。
「それはそれとしてメイン回線はどうしたものでしょう。‥‥姉がいるのでなんだかあっちのやりとりは他人事とはおもえません。既視感があります」
 ここまでのやり取りは実はサブ回線のもので、メインの回線は現在、事情があって使用が適わない。
 レミィ・バートン(gb2575)が恐る恐るいった。
「これってスーパー説教タイムって奴?」
 メイン回線では黒崎創一が弟の黒崎啓二をまくし立てるような調子で叱りつけていた。最初は2人して再会を喜んでいたのだが、啓二が兄を助けに来たといった瞬間に、創一の態度は変わってしまった。能力者の力と立場はみなを助けるためにあるのであって自分の都合で使ってはいけないといいたようだった。
 怪我人の創一を湯気が立つほど熱くさせてはいけないし、まだ任務中なのに啓二を泣かせるのは都合悪い。2人の様子を気にしていた六堂源治(ga8154)が「まあいいじゃないッスか」と割って入った。
 第三者の言葉で創一は冷静さを取り戻したようだった。
「みっともないところを見せて申し訳ない。すまないが、うちの啓二をよろしく頼む。こいつは一人前のつもりだが、まだまだ未熟者だ」
 創一は六堂にそう言った。次の瞬間、ちょっと兄さん、恥ずかしいんだけどと啓二が小さく悲鳴を上げた。すると再び説教タイムが始まる。
「あ、いや、請け負ったのでもう勘弁を」と六堂が呆れた様子で呻いた。
 メイン回線のやり取りを聞いてソーニャソーニャ(gb5824)は首をひねった。ソーニャには幼い時の記憶がない。物心ついたときには能力者の研究施設にいた。
「お兄さん、無事だったんだ。良かったねぇ」と依神 隼瀬(gb2747)が安穏な口調でいった。これを聞きつけてソーニャは尋ねてみる。
「家族ってこんな感じなんですか。まるで2人は尖った石がぶつかり合ってるみたいです」
「尖った石? むしろあの2人は仲良しだよ。お兄さんが怒っているのは照れているだけ。お互いに心配し合っているのさ」
「そんなものですか」とソーニャは不承そうにいい、啓二の翔幻を見る。啓二の翔幻は叱られているせいか、時々、姿勢を崩していた。

○02

 警告音が鳴った。小型ヘルメットワームのコクピット、そのディスプレイにUPCの航空戦力が表示される。1機の輸送機と9機のKVだった。これを見てバグア兵は僚機に命令を下した。
「輸送機が粛正対象を搭乗させる時を狙う。ヘルメットワームはこのまま待機、ゴーレムは配置につけ。行動開始」
 ディスプレイには地形情報が表示されている。これによれば輸送機の着陸できる場所は限られている。
 ゴーレムは光学迷彩で姿を地形に合わせながら移動し、滑走路の代わりになる道路を挟むような位置についた。
 やがて輸送機がKVを伴って降下し始める。

○03

「こちら霞澄、着陸に成功しました。道路上に障害物、破損などはありません。滑走路として使用可能です」
 輸送機に先行して着陸した霞澄は輸送機にそう呼びかけた。
 依神機がセンサーで周囲を探る。コクピットの中で依神は不審そうに呟いた。
「順調なのはいいことだけどね」
 輸送機が道路を滑走路に見立てて降下してくる。着陸地点ではソーニャ機、アッシュ機、バートン機、黒崎機が待機している。
 輸送機の着陸は成功した。
 アッシュがカリバーンを守護者のように仁王立ちさせる。ヒートディフェンダーを地面に突き立て、柄尻に両手を重ねるように置いた。アッシュが黒崎創一中尉と投降する元親バグア派部隊に呼びかける。
「到着した。出てきてくれ」
 すると黒崎中尉から「いまいく」と短い返事。
 街路から元親バグア派の一団が現れた。一団の先頭に2本の松葉杖で器用に歩いている男がいる。この男はある程度近づくと、黒崎機のほうへ松葉杖を突き上げた。「しっかりやれよ」といいたいらしい。これが黒崎創一中尉だった。
 これをみてバートンは啓二にいった。
「元気そうでよかったじゃん」
「‥‥安心しましたよ。本当に。ま、いま歩けているのは強がっているだけでしょうけど。見てたらよろけますよ。あ、いま転んだ」
 兄の無事な様子を確認して啓二は安心したらしく口数が増えた。
 場が和やかな雰囲気になっていく。元親バグア派の部隊の人々もどこか表情が明るかった。
 そんな雰囲気に水を差すのはいやなのか、柿原がおそるおそるいった。
「申し訳ないですけど、なんか変ですよ、絶対! 僕のいうことでは信用ないかもしれませんけど、変ですよ!」
 反論に怯えるような声色だったが、かけられた言葉は同意だった。
「柿原さんもそうおもわれましたか」とソーニャが眉を寄せた。
 さらに依神が加わり、根拠を述べる。
「ここは滑走路に使える場所が限られている。罠を張るには最適ってことだ。‥‥柿原君、索敵を開始、電子戦機の出番だ」
「はいっ!」と柿原は返事。即座に各機のセンサー情報を搭乗しているイビルアイズに吸い上げる。入手した情報を照合、それらは一見問題ないかのようにみえるが、どこかおかしいずれがある。ずれは輸送機の周囲に生じている。
「これは挟撃?」
 嫌な予感を感じたかのように柿原がそうもらした。瞬間、戦場の雰囲気が微妙に変わる。同時にソーニャ機と依神機が周囲に発砲した。
 光条が輸送機の翼をかすめた。

 小型ヘルメットワームのコクピットでバグア兵がわめいた。
「なぜ露見した! くそう。あの射撃さえなければ輸送機をやれたのに」
 輸送機を狙った攻撃の射線がKVの射撃のせいでずれてしまった。
 バグア兵はディスプレイをいらただしそうに殴りつけた。だが、すでに戦端は開かれてしまった。バグア兵は僚機に攻撃続行の命令を下した。
 4機の小型ヘルメットワームが空へ舞い上がる。

○04

「――よくやった、柿原君」
 輸送機上空で哨戒していた榊は低空に小型ヘルメットワーム4機を発見した。愛機忠勝の4連バーニアと機体の自重で一気に急降下、小型ヘルメットワーム4機と無理矢理高度を合わせて、K−02小型ホーミングミサイルを放った。
 ミサイルの連続発射で空が真っ白になる。あまりの弾幕に柿原が声をもらす。輸送機がミサイル群の傘に覆われたように見えた。
 だが、小型ヘルメットワーム4機はミサイルが追随できないほどの急上昇を行って被弾を避けた。といってもあまりの弾幕に無傷な機体はない。
 小型ヘルメットワーム4機は今度は輸送機を目指して急降下を行おうとする。だが、その上空から六堂機が降下する。
「そうだよな。あれだけのミサイル群なら上に逃げるしかないよな。だったらもっと上に逃げてみたらどうだ、例えば天国とか?」
 降下する六堂機の翼が閃いた。違う。K−02小型ホーミングミサイルの一斉射撃だ。
 ミサイル群の傘が小型ヘルメットワーム4機を覆った。さらにスラスターライフルが閃き、その一撃がミサイルの雲の中で逃げ惑う小型ヘルメットワームを貫いた。
 六堂は伏兵を索敵しながらいった。
「お前等に天国は無理か」

○05  

 輸送機前方を警戒していた霞澄と依神の前にゴーレム2機が出現する。
 だが、霞澄はレーダー状で輸送機の後方にもゴーレムが2機出現しているのを見て取って指示を飛ばした。
「ソーニャさん、シャーリィさん、レミィさん、黒崎君、各機連携を重視して下さい」
 後方では4対2の戦いになっている。一見有利にみえるが、それは連携が成立した場合の話だ。場合によって数の多さに足を引っ張られて不利になることもある。
 輸送機から連絡が入る。
「人員を回収した。出られるぞ。滑走路を空けてくれ」
「了解。――おおっとそっちには入ってくるなよ?」
 依神はそう返事をするとトリガーを引いた。滑走路に見立てた道路にゴーレムが入ろうとする。どうやら輸送機の進路を遮るつもりのようだが、依神の放ったレーザーの雨が逆にゴーレムの進路を遮り、その侵入を阻んだ。
 依神の射撃に霞澄の射撃が加わる。レーザーの雨に支援されながら輸送機が加速を始める。
 一方後方では、
「ガァァトリング! ナァックル!!」
 バートンがゴーレム2機に向かって吠えていた。
 バートン機の腕に備えられたガトリングナックルが火を噴き、突進してきたゴーレム1機を突き飛ばした。さらにソーニャと黒崎が連携を成立して弾幕を展開させた。炎の網がゴーレム1機を包み込み、輸送機への接近を阻んだ。
「絶対、負けないんだから! ここは、いかさないよ!」とソーニャ。
 だが、もう1機のゴーレムは弾幕を無視して輸送機に突っ込んだ。雨の飛沫のように銃弾を浴び、全身にフォースフィールドの光点を浮かび上がらせる。ついにフォースフィールドが貫かれる。しかしゴーレムは突進を止めない。装甲が砕け、無数の破片が周囲に飛び散った。
 一撃さえ与えられたら目的は達成できる。そうとでもいうようにゴーレムは突進する。その前に白銀の騎士が立ち塞がった。アッシュの機体カリバーンだ。
 ゴーレムが加速する。カリバーンも走り始める。両者は正面衝突コースに乗る。
 カリバーンのヒートディフェンダーが通電開始、刃が輝いて陽炎が立った。
 けれどもゴーレムは捨て身らしくさらに加速した。これに合わせるかのようにカリバーンも加速する。ついに2機は正面衝突した。と思われた瞬間、ゴーレムが身体を捻り、2機はわずかな距離を挟んで擦れ違った。
 しかしカリバーンもまたその場で身を捻っている。振り返るような仕草でスラスターライフルを抜き放ち、連続発射した。
 スラスターライフルの銃口はほとんどゴーレムに接している。2本の火線がゴーレムの膝関節を貫き、ゴーレムは倒れ伏した。
 それでもゴーレムは輸送機に近づこうとして右腕を上げようとした。駆動系がおかしくなっているのかわなわなと右腕が震える。
 だが、カリバーンのスラスターライフルの先端部が押しつけられ、ゴーレムの右手の甲が地面に縫い止められる。
「我等の力を甘く見たな‥‥その甘さを己が身に刻み、地獄で後悔するがいい」
 発砲音。
 空ではK−02小型ホーミングミサイルの噴射煙が消えたところだった。

○06

 帰りの航路は静かだった。
 啓二のいうとおり黒崎中尉は空元気だったらしくいまは眠っている。
 レーダーに敵影はなく、映っているのは味方機だけだった。
 静かな空をKVと輸送機は飛ぶ。
 そこに近隣の都市からSOSが入った。
「こちら都市復興支援部隊、周辺のKVに告ぐ、大型キメラが出現した、排除してくれ。当部隊には対応できる装備がない。周辺のKVに告ぐ――」
 大規模作戦に合わせて都市から住人が避難している。これらの住人が戻る前にUPCは危険要素の排除を行っている。SOSを発信している部隊はどうやらアタリを引いてしまったらしい。
「幸運の青い鳥がいるんだから、ハッピーエンドはきまってるの」
 ソーニャは青い右目を輝かせて宣言した。
 9機のKVはSOSの発信元の都市へ降下し始めた。