タイトル:黒い疾風マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/19 13:41

●オープニング本文


 放課後のカンパネラ学園、1人の教官が訓練施設へ急いでいた。学生の自主訓練に付き添うためだ。カンパネラ学園はバグアから未来を勝ち取るためにあるので教官としてはできる限り付き合ってやりたいが、授業だけが教官の仕事ではないので、今日は遅刻してしまった。
「すまない。遅刻してしまった。みんな訓練しているか?」
 教官はそういって訓練場の扉を開けた。
 だが、そこではAUKVを装着した学生の一団が死屍累々と横たわっていた。
 教官は手近な1人に駆け寄った。
「大丈夫か? 一体何があった?」
「‥‥乱取りをしていたら、黒い‥‥黒い突風が‥‥俺たちを‥‥」
 そこで学生の身体から力が抜けた。気を失ったようだ。
「黒い風だと? わからん。どういうことだ? 一体ここで何があったというんだ」
 だが、教官の問いに答えられる者はいなかった。

 一方そのころ校舎の片隅、人気のないスペースでは、
「てめえ。俺らに指図しようとは何様のつもりだ?」
「執行部のつもりだ。執行部としてきみたちに素行の改善を求める」
 5人の不良学生と1人の執行部委員が睨み合っていた。
 放課後を訓練に費やす学生がいる一方でサボタージュを繰り返すうえに学園の風紀を乱す学生もまたカンパネラ学園にはいる。そのような学生、とりわけ素行の悪い者たちには執行部から叱責が飛ぶこともあり、いまがそのときだった。
 だが不良学生は聞く耳を持たなかった。
「やい。面倒臭い奴だな。ひねり潰してやろうぜ」
「おうよ」「あいさ」「仕方ねえな」「可愛がってやるぜ」
 まずい状況だと執行部委員はおもい、即座にきびすを返してダッシュした。生身で5対1では勝ち目がない。そう生身では……、じつはちょっと離れた場所に前もってAUKVを隠しておいてよかった。問題はそこまでたどり着けるかということだ。
「!」
「捕まえたぜ。偉そうな口を利いたツケを払わせてやる」
 あっという間に執行部委員は不良学生の1人に腕を掴まれてしまった。腕を振り払おうとするけれども他の不良学生も拘束に加わってきたせいで解放できない。
 だが、そこに声が降ってきた。
「1人殴るのに5人も必要とはな! 恥を知るがいい!」
 執行部委員は声の降ってきた方向、校舎を見上げた。
 校舎の屋上のぎりぎりのところで漆黒の、みたこともない形状のAUKVが見下ろしていた。
「なんだ。てめえは!? カラスか!? 見下ろしんじゃねえよ!」
 不良学生の1人が目を剥いて恫喝、だが、次の瞬間、その表情は驚愕に変わった。
 屋上から漆黒のAUKVが掻き消え、同時に執行部委員を拘束していた不良学生2人が吹き飛んだ。 
 解放された執行部委員を守るように漆黒のAUKVが立った。
「別に執行部の手助けをしたいわけじゃない。ただお前らが汚らしいからぶちのめすことにした。さあ、かかってこい。そして俺の戦闘欲求を満たす餌になるんだ」
 残った不良学生3人は漆黒のAUKVを敵と認識、一斉に襲いかかった。
 執行部委員の目には漆黒のAUKVは尋常ならざる使い手にみえた。だが、それでも3対1は分が悪すぎる。生身ではあったが援護に加わる。だが!
 漆黒のAUKVは疾風の動きで不良学生に迫る。不良学生の瞬きするあいだに接敵、同時に漆黒のAUKVを囲もうとした2人が吹き飛んだ。
 残された不良学生1人は仲間を倒されたことに気がつかずにパンチを繰り出そうとした。だが、その腕が伸びきるまえに漆黒のAUKVの拳がほお骨にめり込んだ。
 執行部委員は加勢する余地もなかった。あまりの早業におもわず拍手をした。
 すると漆黒のAUKVが振り返って小首を傾げた。
「次はお前だ。その様子だとそばにAUKVを隠してあるんだろ? 早く装着してこい。そして俺を満足させてくれ」
「ちょっと待ってくれ。助けてくれたんじゃなかったのか。それに執行部として私闘は推奨していない。やめるんだ!」
「俺とこの新型AUKVパイドロスに必要なのは戦闘だ。執行部ってのは凄腕揃いと聞いている。さあその力をみせてくれ。それともお前は未装着でもやれるくちか、ならばっ」
 漆黒のAUKVは拳を握った。猛烈な闘志が発散される。執行部委員は逃げ切れないことを悟った。
 放課後の学園に戦闘音が木霊した。

 執行部委員は集まってきた学生や聴講生にいった。委員は戦闘の痕跡も生々しく、三角巾で腕を吊り、湿布の臭いを漂わせていた。
「すでに知っているかもしれないが、近頃、学園では漆黒のAUKVが乱暴狼藉を働いている。この学園は多種多様な人間が集まっているし、校風もあのとおりだから、過激に元気なところがあっても仕方がないだろう。しかし件のAUKVはいささか度を超えてしまった。不良学生とはいえ怪我をさせるべきではないし、ましてや一般学生の自主訓練に乱入するのも良くない」
「本来ならこれは執行部が解決すべきところだが、相手は手強い。未確認情報だが、新型AUKVというだけある。捕縛に参加した委員はみな自分のような有様になってしまった。そこで手練れのきみたちに協力を要請する。どうか漆黒のAUKVを捕らえて乱暴狼藉をやめさせてやってほしい」

●参加者一覧

瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
美空(gb1906
13歳・♀・HD
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST
ファーリア・黒金(gb4059
16歳・♀・DG
エル・デイビッド(gb4145
17歳・♂・DG
郷田 信一郎(gb5079
31歳・♂・DG

●リプレイ本文

 カンパネラ学園で黒色の暴風が吹き荒れていた。その名前をパイドロスという。新型のAUKVだ。新型AUKVパイドロスは実戦テストの名目で訓練を邪魔したり、学生を襲撃したりしていた。
 これに対してカンパネラ学園生徒会執行部はパイドロスの撃破を決定した。だが、生徒会執行部の討伐隊は返り討ちにあい、手練れの学生及び聴講生に撃破の依頼が回ってくることになった。
 依頼を受けた周防 誠(ga7131)は病院を訪れていた。パイドロスに怪我を負わされた人々の一部はまだ入院している。これらの人々から情報を得られないかと考えていた。
「‥‥‥‥パイドロスというのか? あいつはあまりに速かった。とても俺の目では追えなかったよ」
「まいったね。そいつを撃破するのが自分たちの役目なんです」
 ベッドの上で悄然としている学生に周防は相づちをうった。
 周防は学生の様子が気になった。怪我をしているせいで気が塞いでいるわけではないと気がつく。
(「‥‥‥‥誰かを助けるためにドラグーンになって訓練を重ねてきたのにチンピラみたいな奴に叩きのめされて傷ついたんでしょうね」)
「能力が上なら作戦で補えばいいので」といいながら周防は、仇はとってやるとでもいうように学生の肩を叩いた。
 一方そのころ同じく依頼を受けた美空(gb1906)は研究棟に来ていた。研究棟には各種メガコーポレーションの研究室が集まっている。パイドロスは新型機だから研究棟でなにかつかめるのではと美空は考えていた。
 だが、そんな美空の前に何の変哲もない入り口の扉が立ち塞がった。
 扉は一般的なものだ。研究棟のような高い価値のある情報を扱う場所の常識的装備として電子キーが備わっていた。
 ごく当たり前の学生の美空はごく当たり前に研究棟に入れなかった。とはいえこのまま回れ右するのも悔しいのでどうしたものかと考えていると、白衣を着たいかにも研究者という印象の男が現れた。
 男は首にIDカードを下げていた。研究棟の関係者と一目で知られた。
 美空は反射的にいった。
「中に入れてもらえませんか? ちょっとIDやらパスワードやらを忘れてしまって」
 男は変な顔をした。見知らぬ少女、おそらく学生が何のようだろうとおもっているのは明白だった。男はためらいがちに答える。
「‥‥‥‥悪いが、私はあなたがここの関係者かどうか判らないんだ。でも警備の人を呼んであげるから相談してみなさい」
 男が携帯電話を取り出したのをみて、美空はじりじりと後ずさりする。男の行動は困っている学生を見かねてのものなのだろう。しかし実際のところ美空は研究棟と無関係なので、警備員が来たら一騒動になってしまう。
 それには及びませんと撤退する美空を男は見送り、不思議そうに小首を傾げた。そしてなにか察知した。
 美空が慌てているころ、大神 直人(gb1865)は生徒会執行部との打ち合わせを終えていた。
 パイドロスは戦闘のあるところに現れる。この性質を利用して大神は模擬戦闘を行い、パイドロスをおびき寄せる計画を立案した。そのための地下訓練場の用意や無関係の学生が巻き込まれないようにするための連絡など生徒会執行部と協力する必要があった。
 パイドロスにへし折られた腕を吊っている委員が得意げにウインクする。もっとも顔が腫れていて無様だったが。
「敵の高機動を削ぐのが狙いなんだろう? 用意した訓練場はけっこう使えるはずだ。期待してくれ」
「なるほど。面白ギミックあり、というわけですか」
 大神は借りた訓練場の概要をみて目を細めた。
 一方そのころ瞳 豹雅(ga4592)は大神の借りた訓練場に足を運んでいた。
「一見したところはただの体育館みたいに見えますが」
 いいながら瞳はあちらこちらに視線を飛ばした。隠れられそうな場所を探している。
 パイドロスとの戦闘の際、メインとなるのはドラグーン6人だ。瞳と周防は奇襲要員として最初は隠れている手はずになっている。
 だが、訓練場はまっさらで隠れる場所は見当たらない。排水溝らしきものが壁際にあるが、とても人間の入れる大きさではない。
「これは選択ミスですかね。とおもいながらぽちっとな」
 訓練場を借りた際に渡されたリモコンを瞳は操作した。
 するとモータ音が響いて床の一部がせり上がり、壁となった。
「なるほど。遮蔽物を任意に設定できるようになっているですね。これなら床下に潜り込めそうです」
 隠れる場所には不自由しそうになかった。
 カンパネラ学園の地上では掲示板の情報が更新され、学生の目に触れていた。更新された情報にはもちろん、パイドロスを誘い出すための模擬戦闘の実施も載っている。
 時刻はちょうど昼時で休憩中の学生や聴講生が掲示板を参照している。その様子を郷田 信一郎(gb5079)とファーリア・黒金(gb4059)は注意深くみていた。
 パイドロスはAUKVであり、AUKVならば乗り手はカンパネラ学園の学生に違いない。それが撃破依頼を受けた能力者の一致した読みだった。
 郷田はお手製の学生帽を目深に被った。ファーリアに低くささやく。
「‥‥‥‥どうだ。気になる奴はいるか?」
「今はまだなんともいえません。もう少し様子をみないと」
 掲示物を貼ったエル・デイビッド(gb4145)が2人のところへ戻ってくる。
「貼ってきた。効果あるかもね」
 そういうエルに対して郷田とファーリアは揃って「まだ判らさないさ」と首を傾げた。
 だが、エルは掲示物(他のところにも貼る予定のものだ)を2人に見せた。
「迫力十分。戦闘狂なら面白がってくるよ、うん」
 疑問符を頭の上に浮かべて郷田とファーリアは掲示物を覗き込んだ。連絡先の欄に主催者の顔写真が載っているが、郷田の写真は戦場で撮影されたもので、なるほど、戦火で汚れたリンドヴルムをまとうその姿は勇ましかった。
「ふふふ。いい写真ですね」とファーリアが相づちを打った。
 郷田は答えずに学生帽を被り直した。いささか写真写りが良すぎて照れ臭かった。
 3人がこうしているうちにも学生は掲示板を参照して情報が学園中に伝わっていく。
「模擬戦の情報はちゃんと伝わっているらしいな」
 聞き込み中の芹沢ヒロミ(gb2089)は独り言をいった。
「‥‥だが、大丈夫だろうか」
 校舎の裏、不良たちの会話を盗み聞きしていると芹沢は不安になった。
「知ってるかよ? 模擬戦闘があるんだってよ」
「訓練なんてだりぃよ。やってたまるかよ」
「それがよ、勝ったら今後一年間学生食堂が無料になるんだってよ」
「まじかよ!? いいな、参加しようかな。あっ‥‥でも、最近パイドロスとかいう面倒臭いのがでてくるんだろ」
 どうやら模擬戦の情報は伝言ゲームの結果、変質してしまったらしい。
 一抹の不安を抱きながらも芹沢はさらなる聞き込みに向かった。依然としてパイドロスの正体は不明だ。しかし聞き込みを続ければ、正体は判明するかもしれないし、そうでないとしても戦闘で有利になる情報を得られるかもしれない。
 一方そのころ研究棟では密談が交わされていた。
「‥‥パイドロスを用意してくれ。放課後、また模擬戦闘が行われるらしい。参加したい」
「構わないが‥‥‥‥大丈夫か? 今日、研究棟に見慣れない学生が現れた。研究棟に用があるみたいだったが、IDを持っていなかった。私たちを探っているのかもしれない」
「だからちょうどよく実施される模擬戦闘は罠だというのか? 構わないさ、力ずくで潰せばいい。それにどこかの誰かが俺とパイドロスを不意打ちしかできない腰抜けとぬかしやがった。許せん。‥‥だから使用許可を」
「‥‥挑発か、大した自信だな。いいだろう、踏み潰してこい」

 模擬戦の実施日、訓練場の床下に隠れた瞳と周防は一抹の不安を覚えた。
(「なんだか足音の数が多いみたいな気がしますが‥‥‥‥?」)
(「まいったね。招かざる客が千客万来だ」)
 模擬戦はパイドロスをおびき寄せるためのものだが、一般学生が集まってきてしまった。とはいえ巻き込まれないように配慮してあったのでその数は少ない。
「あの勝ったら学食が一年間タダになるって聞いたんですけど」
「‥‥私は購買部のクーポン券がもらえるって聞いたよ」
「えっ私用のリンドヴルムがもらえるってんでおれは‥‥‥‥」
 郷田と美空は顔を見合わせた。
(「どうするでありますか」)
(「どうしたものか。とりあえず訓練場の外に連れ出すぞ」)
 郷田はうなずくと一般学生に声をかけ、整列させ、準備運動を呼びかけた。準備運動として外でランニングさせ、訓練場から追い出すつもりだった。
 そこに、
「‥‥‥‥‥準備運動なんてかったるいことできるかよ」
 黒い突風が疾駆した。整列した学生はボーリングボールにはねられたピンのように吹き飛ばされた。
 倒れ伏す学生のなかで黒い影が屹立する。パイドロスだった。
 パイドロスは郷田たちに指を突きつけた。
「来てやったぜ。俺とパイドロスを罠にかけるつもりなんだろう。さあかかってこい。目にもの見せてやるっ」
 いきがるパイドロスに芹沢が鼻で笑った。
「‥‥はっ偉そうに。てめのやってることはガキの変身ヒーローごっこと大差ねえよ。学生ばかり殴ってまわりやがって。どんだけ弱虫なんだよ、戦場に出やがれっ」
 いいやがったなとパイドロスが拳を作り、獲物を狙う狼のように腰を落とした。
 対する芹沢はミカエルを装着して立ち塞がる。拳のみを赤く染めた漆黒のアーマーをまとい一対の翼型オーラを広げたその姿は告死天使のようだった。
 芹沢とパイドロスのあいだで緊張が高まり、爆発した。
 告死天使がパイドロスの背後に出現、その拳が赤い残像を残して走る。
 だが、パイドロスは芹沢の赤い流星を裏拳で弾き、反撃として大鎌のような回し蹴りを放つ。
 大振りな一撃を芹沢は肘で受け止めると同時に床を蹴った。壁際に激突する勢いで後方へ吹っ飛んでいく。
 壁に当たって動きの停まったところを狙うべくパイドロスが壁際に詰め寄る。が、その脇を竜の翼を使用した芹沢が駆け抜けた。
 芹沢がパイドロスを振り返る。鋭くいった。
「いまがチャンスだ!」
 美空のアームガトリングガンが弾幕を展開する。
 銃弾の雨から逃れようとするパイドロスの足下に大神の的確な射撃が放たれた。
 美空と大神の攻撃によってパイドロスの前方への移動は封じられた。だからパイドロスは迂回しようとする。機動力の高いパイドロスならではの方法だったが、その前に突如として壁が生じた。
 床下で、
「ふふふ。そんなに上手くはいきませんよ」
 瞳は呟きながらリモコンを操作した。床の一部がせり上がって壁となり、パイドロスを包囲し始める。
 障害物で移動力を削がれたパイドロスに能力者が殺到する。
 ファーリアとエルが左右から同時にパイドロスに迫る。ともに扱うのはポールウェポンだ。ユニゾンした動きで攻撃を繰り出す。
 能力者たちの攻撃は詰め将棋のようにパイドロスの戦力を奪っていく。業を煮やしたパイドロスは一点突破を試みるべくファーリアへ躍りかかった。
(「速い! だが、ここで通すわけにはいかない!」)
 ファーリアの視界のなかで全てのものが遅くなっていく。極度の集中がファーリアの知覚力を上昇させた。だが、それでもパイドロスの連続攻撃はかまいたちのように鋭い。
「まずい!」
 エルが叫んだ。
 パイドロスの打撃が嵐のようにファーリアに襲いかかった。
 無数の打撃にファーリアは押される。が、鋭敏となった視覚で重たい一撃と軽い一撃を見分け、重い攻撃は紙一重で回避、軽い一撃はあえて受け止めて隙を誘った。わずかな隙に斧槍でパイドロスの足をなぎ払った。
 攻撃を失敗したパイドロスは後方へ跳んだ。唸る。
「おれの攻撃を見切っただと!」
「当然です!」とファーリアは穂先を突きつけた。「戦場に出る勇気もないあなたの力なんてゴミ同然ですから!」
 それはファーリアの正直な気持ちだったが、パイドロスには挑発に聞こえたらしかった。
 パイドロスから怒気が膨れあがる。能力者たちは一瞬、気圧される。
 次の瞬間、パイドロスに搭載されているSESの力が解放される。荒れ狂うエネルギーは竜の咆哮のような力を発揮して能力者たちを吹き飛ばした。
 倒れ伏すか、膝を着く能力者の間をパイドロスはすり抜ける。
「‥‥手こずらせやがって。俺とパイドロスをここまで追い詰めるとは」
 逃亡を図るパイドロスに対してどこからか声がかかる。
「もしかして逃げる気ですか? この程度で逃げるとは案外大したことないんですね」
 パイドロスはぎくりと動きを停めた。周囲を見回すが、どこにも人影がない。
 周防の声が響く。
「タフぶる奴ほど退屈といいますが、まったくその通りです。あなたは退屈で弱くて救いようがない」
「黙れっ」
 パイドロスが躍りかかった。壁のひとつに拳を打ち込み、粉砕する。
「外れです。こちらですよ」
 パイドロスの背後から声。周防のアラスカ454の銃口がパイドロスの首の後ろに突きつけられる。
 銃声が重く響いた。 

 パイドロスは至近距離で銃弾を受けてのびてしまった。能力者たちはパイドロスのAUKVを動作不能に破壊した(相手が相手とはいえ意識のない人間の装備に手を加えるのはいささか良心が痛んだが、仕方のないことだった)。
 大神はパイドロスの部品を手にとって目を細めた。パイドロスの製造元がカンパネラ学園に出張している研究室のどれかとは判っている。しかし確定はできていない。部品からなにか手がかりはないかと考えた。
 パイドロスを倒しても製造した研究室にお灸を据えられなければ似たような事件がまた起こるだろう。
 大神は部品をぽいと捨てた。
「秘密の実験をしていたのにそんな簡単に判るわけありませんね」
 郷田がうなずいた。
「なら、こいつには引かれ者の小唄を唄ってもらうとするか」
 パイドロス本人をだしに研究所をひとつひとつ当たっていくということだ。
 恥ずかしい思いをするであろうパイドロスにいささか同情しながら周防はうなずいた。
「まいったね。それは面倒そうだ。もっとも一番面倒な思いをするのはこの彼自身みたいですけどね」
 パイドロスを撃破した能力者たちは大元を絶つために研究室に向かった。