タイトル:【授業】高速戦闘マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/24 16:35

●オープニング本文


 カンパネラ学園の訓練設備にはもちろんKVシミュレーターもあるのだが、それはおおむね年中フル稼働している。
 今日も今日とて誰かが架空の空を飛んでいるが、快適とはいえない状況にあるようだ。
 頭上の空も足下の空も鈍色の雲海だ。
 KVの編隊が雲の回廊を飛翔しているのだが、パイロットの顔には焦りが浮かんでいる。コクピットには残り時間を示すカウントダウンが表示されている。
 残り時間がゼロになる前にゴールに到着しなくてはならない。それがこの訓練の成功条件のひとつだ。
 イビルアイズのパイロットが叫ぶ。
「後方から敵接近、高速です!」
 雲海から敵機が浮上する。数は3機。敵機はブースターらしきものを装備している。能力者がいつかの大規模作戦で使用したものに似ている。敵機はKV編隊に急速接近する。KV編隊の下をくぐり抜けて前に出るつもりらしい。
「やらせてたまるかよ」とパイロットの1人。「ここは食い止める。先にいけ。鈍足の機体はなにもするな」
 パイロットは心にもない毒舌を吐くと、自機のワイバーンを編隊から外して旋回、敵機と正対する。
 イビルアイズのパイロットが僚機に告げる。
「ゴールは近い。各機、駆け抜けろ!」
 KV編隊の前方にゴールが見えてきた。穴だ。中空にぽっかり穴が空いている。制限時間内にこの穴に到達すれば成功だ。
 KV編隊がブースターを使用して最後の加速する後方では、交戦中のワイバーンもまた敵機を振り切ろうともがいている。
 敵機の攻撃がついにワイバーンを捕らえた。
 ワイバーンは爆散。同時にそれぞれのコックピットに「Failure」と表示されてシミュレーターが落ちた。
 訓練の成功条件のもう1つは全機の生還だった。

 ブリフィーングルームで訓練教官は学生や聴講生にいった。
「この訓練の成功条件は2つだ。ひとつは制限時間内にゴールすこと、もうひとつは全機が生存すること」
「戦場は雲の回廊。スタートからゴールまでの距離は100スクエア、制限時間は6ターン、単純だな」
「しかし当然のように敵は出現する。行く手を阻む者もあれば、追ってくる者もあり、伏せている者もいる。ちなみに敵機はS−01の外見をしているが、これは単なるガジェットに過ぎず、性能はS−01と異なっている」
「これらを退けて全機でゴールに到達してほしい。‥‥‥‥これが今年初の訓練になる者もいるだろう。見事突破して一年の初めに弾みをつけてくれ」

●参加者一覧

御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
トロ(gb8170
15歳・♀・GP
火絵桃香(gb8837
16歳・♀・ST
YU・RI・NE(gb8890
32歳・♀・EP
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
和 弥一(gb9315
30歳・♂・FC
蒼翼 翡翠(gb9379
15歳・♂・SN
能見・亮平(gb9492
23歳・♂・SF

●リプレイ本文

●01
 KVシミュレーター上の仮想空間に8機のKVが出現する。
 その空域には雲海が設定されており、8機のKVは上方に設定された雲海と下方に設定された雲海に挟まれた形になっている。雲の回廊だ。もっとも訓練に参加する8人の能力者にとってはここは回廊というよりレーシングコースのような印象があるようだ。
 ナイトフォーゲルMk−4Dロビンのコクピットで蒼翼 翡翠(gb9379)はスクリーンに視線を走らせた。訓練開始までのカウントダウンが始まっている。能力者は時間内にこの回廊を突破してゴールにたどり着かなくてはならなかった。
「そろそろ訓練開始です。全員でゴールしましょう」
 YU・RI・NE(gb8890)が相づちを打つ。
「がんばりましょう。私はもっともっと強くなる必要がある」
 雷電に搭乗する御崎緋音(ga8646)が自分に言い聞かせるように呟いた。
「シミュレーターって何気に久しぶり‥‥‥‥かも。ドジらないようにしないと」
 火絵桃香(gb8837)もまた胸中で自身と搭乗機のサイファーを鼓舞する。
(「高速戦闘、サイファー頑張ろうね‥‥‥‥」)
 ワイバーンに搭乗する能見・亮平(gb9492)もまたカウントダウンを見つめている。凪いだ湖面のような静かな表情だが、その双眸の奥ではなにか楽しんでいる気配があった。
(「どこまで俺の腕が通用するのか、楽しみだ」)
 ディアブロに搭乗する和 弥一(gb9315)は対照的に緊張の表情を浮かべている。
(「なかなか面白い訓練だが、この状況が実際におこったらかなりヤバい」)
 能力者はそれぞれの思いによってテンションを高めているなか、カウントダウンがゼロになる。
 阿修羅に搭乗するトロ(gb8170)がゼロになったと同時にブーストオンする。阿修羅はスラスターからアフターバーナーを伸ばして急加速し、トロの身体がシートにめり込む。
 トロはそれに耐えながら阿修羅に呼びかける。
(「たまに乗ってやるからってすねないアルよ?」)
 トロの阿修羅はひさしぶりの出撃らしかったが、別にすねはせず、僚機のKV同様に空間を切り裂くように飛翔する。
 ウェイケル・クスペリア(gb9006)もまたアンジェリカのコクピットで高加速に耐えていたが、同時にスクリーンに目をやって周囲に気を配っていた。
(「人事を尽くして天命を待つ。この訓練は詰め将棋じみているぜ」)
 ウェイケルはこの訓練の目的を達成するために仲間と綿密な議論を重ねていた。目的達成のための条件は厳しいが、用意されたデータから成すべきことのほとんどは事前に把握することができ、あとはいまこの場で実行、達成するだけだ。
 レーダーに感あり。
 敵の出現に「来やがったか」とウェイケルは口角を上げた。

●02
「逃げろーっ」
 トロは声をあげた。
「‥‥敵機接近‥‥お出ましだ」と和が言い添える。
 KVの後方の空に黒い点が3つ現れ、瞬く間に能力者の機体に接近、まだ小さいながらも細部が明瞭にわかるようになる。
 黒い塗装を施されたS−01の形を模した標的機だ。形は旧式だが、中身は違う。また加速し続けるために増加燃料槽を装備しているが、いま、排除した。パージされた増加燃料槽が下方に広がる雲海に落ちて沈んできた。
 緋音が仲間に告げる。
「落ち着いて下さい。敵が増加燃料槽を排除したということは戦闘を挑んでくるというだけでなく、もう長距離を加速して移動する手段を捨てたということでもあります」
 ユリネもまたいった。
「とりあえずいまは加速し続ける状況ね。特に燃料に余裕のない人は先を急いで」
 いわれてトロはこたえる。
「もちろんアルよ! こんなところで落ちるわけにはいかないアル」
 標的機は増加燃料槽を捨てたためとブーストの使用のため能力者側KVと一旦距離を詰めるものの、人間でいえば息切れたしたような挙動を示して、加速が鈍くなる。
 能力者側KVが標的機を置いてきぼりにする形に見えたが、和は油断せず、ミサイルを放たれた時に備えて、ユリネとともにラージフレアの射出を用意する。
 能見は後方に注意を向けてから前方と周囲にも注意を向ける。今回の戦場は主に前方と自分たちの周辺と後方の3つに分類できる。とするならば、敵の行動は、次に来るのは雲海から突然上昇してくるか、前方から現れて進行を防ぐという風に考えられる。後方から再度進行する可能性もあるが、加速能力ではどうやら能力者側KVのほうが優秀らしいので、それはないだろう。もしその手が来たら楽勝だが。
 能見はつぶやく。
「楽な手で来られたら訓練にならないし、力も試せない」
 能力者側KVは後方の標的機を彼方に置き去りにして雲の回廊の果てにあるゴールへと飛翔する。
 高加速のなかでウェイケルが唇をなめた。
「‥‥下から来るぜ」

●03
 ウェイケルのつぶやきの瞬間、能力者側KVの下方にある雲海で3筋のラインが生じた。
 灰色の雲海が引き裂かれて黒い標的機が上昇してくる。
 能力者がそれぞれの対応に移ろうとした瞬間、翡翠が警告を発する。
「前方からも来ます!」
 ゴールのある方角の空に3つの黒い点が現れ、徐々にその細部を明確にしていく。標的機だ。
 能力者側KVは間近と前方から標的機に挟まれた形になってしまった。
「まあ」と和はいう。「予測済みだな」
 訓練前の議論でそのような可能性は示唆されていたので、大きな驚きはない。しかし時間制限や全員生還という条件のあるこの訓練で、この状況が厳しいことに違いはない。
 燃料に余裕のないトロがいった。
「駆け抜ける、いや飛び抜けるアルよ!」
「追従します」と翡翠はいったと同時にレーザーを発射する。
 標的機は翡翠のレーザーの射程外にいたが、まぐれ当たりを嫌ったのか、編隊を散開させた。
 翡翠は再びレーザーを発射すると、レーザーの輝線を追うようにトロと一緒に飛ぶ。
 雲海から出現した標的機の1機が翡翠機とトロ機にアフターバーナーを噴かしながら迫る。
「やらせないって」とウェイケルはミサイルを発射、ミサイルは標的機に追い込み、標的機は回避のために先行したKVの追跡を中止する。
「スラスターを狙おうとおもったけど、なかなかやれないな」とウェイケルは残念そうにいまの攻撃を評価した。
 先行しているトロと翡翠は前方の標的機に接近して目を剥く。
「ミサイルが来るアルよ」
「煙幕、いけます」
 標的機はミサイルを発射する。
 トロはミサイルの先の目玉を連想させるセンサーと目が合って息を呑み、翡翠はとにかく煙幕を展開する。
 しかしミサイルの狙う先は後続の能力者側KVだった。
 緋音のコクピットではミサイル接近警報が鳴り響いている。そんな中で冷静にいう。
「前方の敵機は私たちを先に狙ってきました。先行している2人は無視してこちらを襲うつもりです」
 その先の言葉、どう対応するかを言葉にしないのは、すでにやるべきことは決まっていて、全員が把握しているからだ。
 桃香機が、和機が、能見機が煙幕を一斉に展開させ、能力者側KVの姿が見えなくなってしまうが、標的機は構わず攻撃を仕掛ける。
 標的機のミサイルが発射。ミサイルが煙の中に飛び込み、さらに前方の標的機が放ったミサイルも同じように飛び込む。
「嫌がらせの強化月間なのよ、いまは」
 ユリネはそういってラージフレアを射出した。ミサイルは重力波を感知するタイプだったのか、明後日の方向に飛んでいく。
「いまが、攻撃のチャンス!」と桃香がトリガーを引いた。ミサイルが発射される。
 桃香のミサイルは煙幕の雲を突き抜け、標的機の1体に命中した。
 被弾した機体に緋音機がとどめの一撃を加え、標的機は爆発した。
「よく考えられた一撃です」と緋音は桃香の攻撃に対していった。
 ありがとうございます、と桃香は照れくさそうな表情でもごもごと答えたが、カウントダウンの残りがもう少ない。
「全速で駆け抜ける!」と和が戦意を現し、各機はゴールするために行動を開始する。
 能力者側KVはラージフレア、煙幕などを射出、文字通り標的機を煙に巻いて、前進する。そしてついに前方から迫ってきたほうの標的機とすれ違った。
 すれ違われた標的機は旋回、追いつこうとするが、そのあいだに能力者側KVは距離を進み、ゴールに突入した。

●04
 スクリーンに『mission complete』の文字が表示され、能力者をねぎらった。
 ユリネが深い息を吐いた。訓練は終了したが、それぞれのコクピットとはまだ通信がつながっている。
「うん、スパイスがよく効いてた訓練だったわね」
 桃香は額の汗をぬぐった。正直なところいやな汗を流してしまった。
「もっと、うまくならなくちゃ‥‥‥‥」
 その言葉を聞いて能見が小さくうなずいた。
「なかなか厳しい訓練だったな」
 そういってコクピットから出ながら能見は訓練内容の評価と反省を頭の中で始めた。
 ここで訓練は終わりだが、カンパネラの外ではバグアとの戦いが続いている。
 この訓練を次の戦いにつなげるため、能力者は訓練後の反省会へと向かった。