タイトル:【北伐】Not flyingマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/29 18:53

●オープニング本文


●廃物利用
 その目的はともかく、極東ロシアの鉱山の動きが活発になっている事実は、衛星軌道を押さえたバグアには筒抜けだった。しかし、防衛に戦力を割かねばならぬ現状、その妨害のために戦力を割くことは困難だ。
「それで、戦力を出せと? うちがカツカツなのは知ってるだろう」
「‥‥実験部隊『ハーモニウム』だったかな。余り僕が面白いと思う素体はいなかったけれど。アレ、使えないものかな?」
 瞳孔を細めるハルペリュンを、イェスペリは一瞥した。
「アレか。役に立つかどうか。いや‥‥」
 考え込むイェスペリ。力には、それに合わせた使い道がある。その特性が敵に知れていないならばなおの事。黙した彼の顔を、異形のバグアが覗き込んだ。
「少なくとも、子供の強化人間ばかりというのは悪くないよ。人間は、外見に騙されやすい種族だからね」
 ハルペリュンは、青白い触腕をゆらゆらとたなびかせてそれだけを言う。
「‥‥気に入らん、な」
 イェスペリが吐き捨てるように呟いたのは、ハルペリュンの言葉の中身、そしてその言い分に従わざるを得ない自分も、だった。

●『ハーモニウム 不要者の足掻き』
 資源を積んだ輸送機が2機のKVロジーナに護衛されてグリーンランドへ飛び立ったが、途中でその進路が乱れた。
 パイロットはロジーナの機体をわずかにロールさせて、輸送機のコクピットを視界に入れるようにしながら、呼びかけた。
「予定の進路から逸れている。どうした、トラブルか?」
 開発が急ピッチで進んだとはいえ、ロシアは自然の猛威振るう土地、その極寒は機器も人間も簡単に損傷する。
 だが、返ってきた返事は断末魔だった。
 輸送機の風防が赤く染まった。
 温かい血を連想させる赤。
「まずい、あちこち飛び散った。ショートしないといいんだけど」
 輸送機から送信される無線。
 それは若い男の声、まるで子どものようだ。
 風防の赤が内側から拭われ、ロジーナのパイロットから輸送機のコクピットが覗ける状態になる。
 首をぱっくり裂かれたメインパイロットとサブパイロットが操縦席に座り、そのわきに制服を連想させるユニフォームをまとった少年が立っている。
 少年とロジーナのパイロットは目が合った。
「しくじったよ。無線を入れっぱなしだった」
 輸送機を乗っ取った少年は舌を出す。
 対してロジーナのパイロットは相棒のもう1人と一緒に火器管制装置をONにする。
 2人は護衛任務に失敗、バグアに資源を渡す事態となったら、輸送機を破壊しろと命じられている。
「ばれちゃった。後始末をよろしく」
「――――初歩的なミス犯したな。‥‥ゼバスチアン、同時攻撃、タイミング合わせろ」
「――――あんま責めるなよ、マルチン。どのみち後で消すつもりだった」
 無線に割り込む2人の少年の声。
 低空から高空へ火線が走り、剣のように護衛機をなぎ払った。
 墜落する護衛機のロジーナ2機と入れ替わるように低空から2機のロジーナが上昇して輸送機と並ぶ。
 落ちた護衛機の爆発。
 輸送機は鹵獲ロジーナに付き添われて飛ぶ。
 少年は死体の代わりに操縦席に座ると、ラプテフ海に進路を向けた。
「ヨナタンはラプテフ海の持ち場にちゃんと付いている?」
「問題ない。ちゃんとおまえを回収してくれる、はず」
「それなら、OK。溺死は寸止めでもきついからね」
「まったく。水圧耐久試験なんぞ二度とやりたくない。‥‥おっとUPCが追ってくる。マチアスを呼ぶか?」
「様子を見る。マチアスのは新型機だ。できれば、お披露目は遅らせたい」
「あの新型、役に立つのか、本当に」とゼバスチアン。「量産型が良い出来なのはわかってるけど、おれらハーモニウムに渡ったのはその試作機だ」
 少年は仲間の不景気な指摘に表情を曇らせた。
「ぼくらはあるもので戦うしかない」

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

●01
 レナ河河口付近の上空を1機の輸送機と2機のロジーナが飛行している。ロジーナはバグア機で、輸送機はいまだUPCの識別信号を発信していたが、強化人間によって強奪されている。
 バグア機のパイロット、マルチンが輸送機を奪った強化人間、ウリーにいった。
「そろそろヨナタンとのランデブーポイントだ。輸送機は海に墜とすんだな? ……風邪を引くなよ」
 仲間の心配にウリーは照れ臭そうな表情になる。
 ウリーの輸送機はラプテフ海に墜とされる予定だ。ラプテフ海では仲間の1人、ヨナタンの操るヘルメットワームが控えていて輸送機の物資を回収することになっている。ウリーたちハーモニウムの拠点はグリーンランドにあるが、鈍足の輸送機をそこまで飛ばすのは難しい。途中でどうせ撃墜が確実なら、都合のよいところに墜とそうとということで、海に墜とすことになった。水中用KVは続々とロールアウトされているが、まさか貴重なKVをわざわざ物資の回収に使うまいというのがハーモニウムの面々の読みだった。
「――――レーダーに反応。UPC機が来た。機数6、おそらく傭兵だ」とセバスチアンの緊張した声。
「ポイントの海域まですぐだよ」とウリー。「この機が墜ちたら君ら、全速で逃げなよ?」
 物資は回収せねばならないし、人員は生還せねばならない。ハーモニウムはバグア上層部から見捨てられている。最近上層部からてこ入れがあったが、それも気まぐれのようなもので、いつ途絶えるかわからない。頼れるのは自分たちだけだ。

●02
 バグア機を追って6機のKVが飛翔する。最新鋭機と高級な電子戦闘機という豪華な構成だ。
 バグア機の無線を傍受してホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が呟いた。
「‥‥戦場で遊ぶなよ」
 無線から流れてきたのは少年特有のソプラノだった。少年兵とわかったからか、ホアキンの声にどこか苦い響きがある。
「子供!?‥‥俺と同じぐらいか‥‥?」とドラグーンのアリステア・ラムゼイ(gb6304)が呻く。「子供を使うなんてふざけたマネを‥‥っ!」
 敵機がカンパネラの学生と同じく自らの意思で戦う者たちであることをアリステアには知るよしもなかった。
 乾 幸香(ga8460)が冷静さを求めるかのようにいった。
「子どもがやっていても悪事は悪事です。あたし達できっちりけじめをつけねばなりません」
 御山・アキラ(ga0532)は無言でうなずいた。
 アキラの胸のうちではバグアとこれに与する者への憎悪がくすぶっている。アキラという名はA killerをもじったもので、バグアと対するとき、彼女は1人の殺す者として振る舞う。アキラにはバグアに与する者を容赦する理由がない。
「各機、段取りはわかっているな」と翡焔・東雲(gb2615)が場の空気を切り替える。「敵1機に対してこちらは2機で攻撃する。最優先の目標は輸送機の撃破だ」
「輸送機を墜とす間、ロジーナを引きつけておくのですね」リティシア(gb8630)が相づちを打つ。「‥‥翡焔さんはちょっとためらいがあるんじゃないですか」
「敵機は同型機だからな。ま、それ以上、いうなよ?」
 東雲の搭乗機はロジーナだ。敵機とは型番が違う可能性があったが、東雲としては同種類の機体と戦うのは、自機を攻撃するかのようで、いささか戦意が萎えるらしかった。
 幸香は仲間に告げる。彼女の機体はイビルアイズ、電子戦闘能力を持つ。
「いまのところ目標機以外の機影はありませんが、この辺りの地形はどこにでも伏兵が隠れられます。いまのうち敵機を撃破しましょう」
『了解』と全機からの応答。
「では、俺から先陣を切らせてもらう」とホアキン。「敵の初撃は受け止めてみせる」
 重武装重装甲の雷電が加速する。大型ブースターの光が尾を引く。

●03
 輸送機からはUPC機が編隊を崩したのがわかる。雷電とイビルアイズが突出するように飛び、他の機体が輸送機やバグア機を脇から囲むように移動する。
「敵接近! まずいぞ、重装機の狙いは輸送機らしい」と動揺するセバスチアン。
 UPC機の行動は迅速だった。輸送機は回収のヘルメットワームとのランデブーポイントにはまだたどり着いていない。あと少しなのだが。
「‥‥敵の攻撃を食い止めるぞ」とマルチン。
「悪いね」とウリーは輸送機を加速する。エンジンの限界など無視だ。逆にハーモニウムのロジーナは速度を落として輸送機の盾となる。
「‥‥狙いはやはり物資なのか。まずはそこをどいてもらう」
 ホアキン機の前にロジーナ2機が立ち塞がる。ホアキンはトリガーを引いた。
 K−02小型ホーミングミサイルが雷電から放たれる。
 2連続で発射されたホーミングミサイルは雨のようにロジーナと輸送機に降り注ぐ。敵機の姿はミサイルの煙でできた雲の中に消える。
「ブラボー、チャーリー、いまだ。この隙を逃すな」
 チャーリーチームはアキラとリティシア、ブラボーチームはアリステアと東雲なのだが、アリステアがいってくる。
「その必要はなさそうだ」
 ミサイルの噴射炎と爆発の中から輸送機とロジーナが下降する。明らかに致命的損害を受けている。
 1機のロジーナはエンジンが突然爆発して空中で粉々になる。もう1機は錐もみ回転をしながら下降し、その勢いで機体がへし折られ、海面に衝突する前に空中分解した。
 輸送機もまた墜落していく。自重を支えられなくなったのか、損害箇所付近から順に機体が崩壊していく。貨物室はぱっくりと裂けており、コンテナがばらまかれる。まるで腹を割かれた鳥が内臓をこぼすかのような有様だった。
 落下したコンテナが海に落ちる。海面から白い柱が幾本も立ち昇った。
「余裕、余裕でしたね。今回は本当に」とリティシアがいった。その声はどこか不安そうだ。あまりにあっさり決着がついたせいかもしれない。
 幸香は応える。
「皆さん、帰投しませんか。目的は果たしました。敵増援の恐れもありますし、これ以上この場にいる必要はないでしょう」

●04
 KVは編隊を組み直すと、帰投する。この様子を殺意のこもった視線で見送る者たちがいた。1人はレーダーを無効化する電磁波吸収膜をまといながら高空で、1人は冷たい海の底で。
「あいつら、殺してやる!」と海底で待機させたヘルメットワーム、そのコクピットでヨナタンが吠えた。スクリーンに映る海面は泡立って真っ白になっている。その中をコンテナが雪のように降ってくる。
 マチアスは新型機を太陽の背にして待機させながら、ヨナタンをいさめる。
「グリーンランドから5人きて誰も帰らないのではまったくの無駄足になる。戦いは続く。物資を回収して生還せねばならない。ウリーたちもそれを望んでいる」
 マチアスの冷静な声。その指はトリガーにかかっている。プロトン砲の照準はKVに定められている。しかし発射されることはなかった。
 帰投するなか、アリステアが呟く。
「輸送機を強奪したのはおそらく強化人間。‥‥子どもの強化人間兵なんて。いや、ドラグーンも似たようなものか」
「‥‥帰投したら酒でも飲みにいくか」
 ホアキンもまた後味が悪そうに呟いた。
「だが、それでも戦いをやめるつもりはない」
 仲間の無線を聞きながらアキラはそう呟いた。その声の冷たさは剣をおもわせる金属質のものだった。
 アキラは不意に首をねじって空の高みを見上げた。誰かの視線を感じたかのような仕草だった。何者かの視線を跳ね返すようにアキラは空を睨め付ける。