●リプレイ本文
●01
バグアの奪取したKVS−01はUPC所属KVにバルカン砲を発射する。
UPC所属KVは銃弾の雨に各所を破壊されると、膝を着くような格好で機能停止した。そして漏れ出した燃料が引火、爆散する。
炎が夜空を焦がす。バグアの手に渡ったS−01の影がオフィス街にかかり、笑うように揺らめいた。
ビルの一室からバグア兵セプテンバーはこの様子を眺めていた。傍らにはステアーのパーツを発射するための装置が設置されている。
セプテンバーは夜空の彼方を見ながら仲間のバグア兵に通信機で呼びかける。
「KVの出現を確認。数は1機、機体はシュテルンだ。気張れよ。パーツの発射時刻まで持ちこたえられたら俺たちの勝ちだ」
『旧型で新鋭機を相手するのか。分が悪い。支援はしてくれるな?』
「その余裕はない。おそらくUPCはこっちも同時に攻略するつもりだろう」
セプテンバーは話しながらアンチマテリアルライフルを取り上げた。
ここからだとビルとビルが重なり合っているように見えるのだが、その隙間で何かが動いた気がしたのだ。スコープを覗くとシュテルンが地上を移動しているのが判った。
「悪いニュースだ。シュテルンがもう1機いる。地上からだ」
仲間からの返信はない。
新条 拓那(
ga1294)のシュテルンが噴射炎で夜空を切り裂くようにしながら地上に降下、これにバグア機がバルカンを浴びせる。
戦闘音が夜の街を揺るがした。
●02
(「まさかKVでKV相手に実戦をやることになるとは。同士討ちしてるみたいで
いい気分じゃないな。さっさと片付けよう」)
新条はシュテルンの機上からオフィス街のバグア機を確認、急降下する。
予測の通り、バグア機からの反応は早い。降下中の新条機に向けて、バルカン砲が浴びせられる。
普段なら回避するところだが、今回は、新条はバルカン砲を受け止める。弾丸が装甲を叩く音を聞き、コクピットをドラム代わりにされたような衝撃におもわず胸の中で嘆息する。
(「敵機を止める。建物を壊さない。両方しなくちゃならないのが正義の味方の辛いところだね。やれやれだよ、ホント!」)
新条がシュテルンの機体を盾にしたおかげで、今回の攻撃は周囲にさほど被害を及ぼさない。またさすが新鋭機、新条機もまた損害は軽微だ。
バルカン砲の切れ目を狙って新条機は陸戦形態に変形、盾にもなる近接兵器ヒート・ディフェンダーを構えて前進すると、バグア機は性能差に戦いたのか後退する。
コクピットの中で新条は薄く笑った。
(「引っかかった。アーク、任せたぞ。一撃で撃墜するんだ!」)
そのころアーク・ウイング(
gb4432)のシュテルンもまた街を移動していた。
ディスプレイに敵位置と地図が重ねて表示されている。アークは新条と挟撃できる位置で攻撃を仕掛ける予定だ。
だが、狙いは一撃必殺だ。
(「ステアーのパーツか。奪取できれば、戦況を好転させる切っ掛けになるかもしれないから、今回の任務は絶対に失敗できないね」)
アーク機の機刀「玄双羽」が展開、起動する。人間の武器でいえば小太刀に相当する近接兵器だが、照らされて光るその刃の輝きは必殺の威力を秘めた暗殺者の針と同じだった。
これでコクピットを貫く。
バグア機はビルを利用して新条機から距離を取るが、それが逆にアーク機に近付く結果になる。
アーク機の火器管制装置がバグア機を捉え、有効射的距離まであといくらかアークに告げる。
●03
突然の戦闘にオフィス街は混乱に陥っている。20:00を回っているとはいえオフィス街に人は多い。残業中のサラリーマンから夜間に仕事する清掃業者まで様々な人々からこの街区から脱出すべく通りを走る。
ステアーのパーツ奪取を目的とした4人の能力者は人混みの濁流に逆らうようにして通りを進み、UPCの発見したビルへ向かう。
「初仕事かぁ、絶対成功させないとね。祝杯代わりのケーキはたくさん買ってあるんだから」
山下・美千子(
gb7775)が走りながら言うと、キア・ブロッサム(
gb1240)が応じる。
「‥‥パーツ持って帰ればいいんですよね。報酬ってどれくらいもらえるんだろ」
緑川 めぐみ(
ga8223)が薄く笑った。
「シモンへの報復」
みなの視線がめぐみに一瞬だけ集まる。めぐみは言葉を続ける。
「ステアーを墜とすための作戦で私は囮になり、重傷を負いました。ぜひパーツを確保したいものです。それにここまでして回収しようとするとは、どんな技術を用いているのか興味があります」
「あなたは執念の人なのね」とソーニャ(
gb5824)はめぐみを評した。
ステアーのパーツは間近だった。
●04
「シモンヘノホウフクって口にしたのか」
ステアーのパーツのあるビルからセプテンバーは4人の能力者をスコープ越しに眺めていた。
能力者はかなりの速度で通りを走っている。
迷いのない走りからパーツの探索でなくパーツの元へ急行強襲のつもりとセプテンバーに判った。
あらかた避難の住んだ地域に能力者は到達、同時にセプテンバーのアンチマテリアルライフルの射程に入った。
セプテンバーはスコープを覗きながら呟く。美千子の青髪が汗で額に貼り付いているのが見える。
「一撃で決める。悪く思うなよ?」
美千子の膝関節を狙ってセプテンバーは引き金を引いた。轟音と同時に透明な硝煙が部屋に満ちる。そして目を剥いた。
アンチマテリアルライフルのペッドボトルほどの大きさの弾丸は大気を貫いて飛翔、次に美千子の頭部を貫こうとしたが、一瞬の閃きに惑わされて、明後日の方向へ弾かれた。
めぐみが剣で弾丸を弾いたのだ。
衝撃で美千子が転倒し、跳弾が打ち捨てられた車を破壊する。
ビルの一室でおもわず立ち尽くすセプテンバーにめぐみが燃えるような視線を向けて来る。
「‥‥‥‥やるね。報復するだけの実力があるってことか」
バグアの呻き。能力者はさらに速度を上げて迫る。
●05
「兄様から教わった武装データから確か、あのタイプの銃は連射が効かないはず。みんな全力で走って!」
めぐみの指示が飛ばしながら、転倒した美千子を起こす。
「はい!」と美千子は悲鳴のような返事。
能力者は人気のない街路を疾走する。
遠くからKVの甲高いエンジン音が聞こえてくる。
これに混ざってアンチマテリアルライフルによる雷のような狙撃が行われるが、どの弾丸も能力者に一瞬遅れてしまい、路面にクレーターを穿つだけだ。
「‥‥閃光手榴弾、いきます」というキアにソーニャがうなずいた。
ビル目前でキアは閃光手榴弾を空中に放った。
網膜を焼くような白い光を放つ光球が周囲の影という影を殺した。
この一瞬の間にソーニャは仲間から別れて姿を消し、残された3人はビルに突入した。
●06
新条機に追い立てられ、バグア機は後退するその瞬間、
(「――――いまだ、やるッ!!」)
アークはバグア機が自機の有効射程距離に入るのを確認、トリガーを引いた。
PRMシステムが発動、12枚の翼と4基の可変ノズルが羽ばたき、アーク機は束の間、滑空する。爆発的な推力に押されてアーク機は街路を滑るように移動、ビルの角を曲がって、鉢合わせする形になったバグア機に攻撃した。
機刀「玄双羽」がレーザーのように閃いた。
「これで終わり。これよりビルへ向かう」と新条がシュテルンを離陸させようとする。
だが、アーク機の一撃は空を切った。バグア機はガードを抜けるサッカー選手のような動きでアーク機と擦れ違って後退する。
「先を読まれていたの!?」とアーク。「そっか。‥‥都市に被害を与えられないからこちらの攻撃は予測しやすいんだ」
バグア機は跳ね飛んで後退するのだが、能力者の市街地被害の懸念をあざ笑うかのように、バルカン砲を1斉射する。
●07
閃光手榴弾の輝きが消えたあと、ビル周辺に能力者はいなくなっている。
「まずいな。侵入された上に数を減らせなかった」
セプテンバーはアンチマテリアルライフルの位置を変え、銃口を部屋の入口付近に向けた。天井の大穴を除けば、出入り口はそこしかない。
緊張感がセプテンバーの神経を尖らせる。KV戦闘の騒音に混じって階下から能力者の近付く気配が感じられるような気になった。
しかし侵攻は階下からでなく、天井からだった。
「月より降り注ぐ光の様に、今、死をいざなわん」と首の付け根に触れたナイフのように冷ややかな声。
セプテンバーが振り返ると、夜空の見える天井の大穴から舞い降りるAUKV「ミカエル」、その手には三日月を連想させる大鎌。ソーニャはキアたちがビル内部から侵攻する間に外壁を伝って屋上に侵入したのだった。
ソーニャの一撃にセプテンバーはアンチマテリアルライフルを捨てて回避するが、胸がざっくり裂けて、血が迸る。
大鎌は余勢が大きい。本来なら攻撃の間隙になるそれを利用して逆にソーニャは重く速い一撃を連続して繰り出す。
対してセプテンバーはコンバットナイフで弾く。だが、弾くたびに次に来る一撃は速度と重さを増す。
ステアーのパーツを宇宙へ送り出す装置のかたわらで武器の衝突する火花が飛び交う。
セプテンバーとソーニャは互いに踊るようなステップを踏んで立ち位置を変えながら攻防する。
「‥‥悪いな、お嬢さん。あんたをダンスに誘った覚えはないし、踊っている暇もないんだ」
セプテンバーが焦った声色でそう言った瞬間、美千子たち3人が部屋に侵入した。
焦るセプテンバーにソーニャが冷ややかに告げる。
「目移りしてるね。月下のダンスパーティー招いたからには、最後まで相手するのがホストの役目でなくて」
●08
オフィス街でシュテルン2機とバグア機の戦闘が続いている。
(「殴り合いには殴り合いで応えるのが男気ってもんだろう!」)
新条は、周辺被害を鑑みて格闘攻撃主体で戦うのだが、これを良いことにバグア機はさっさと射程外に逃げてしまう。
仲間からの目的達成の連絡もなく、千日手に陥ったことに気づかずに将棋をするかのように新条は焦れた。
そこにめぐみからの通信が入る。
一方ビルでは、
美千子は部屋に侵入すると、ステアーパーツ発射装置を発見、両断剣を発動させながら、これに突進した。
「どぉ、りゃあ〜〜」
いささか心とも無い気合いの声だったが、美千子の斧、スノーマンは発射装置に食い込んだ。
「もう一発食らいなさい!」
斧を振り上げる美千子に切迫したセプテンバーの声。
「やめろ! それ以上、そいつに触れるんじゃない」
「だから目移りしている場合でないよ?」
ソーニャの大鎌がセプテンバーを襲う。セプテンバーはコンバットナイフで受け止めるが、ついに刃が折れ飛んだ。
しかしそのまま折れたコンバットナイフを握ったまま、セプテンバーは突進、大鎌の内側に入ると、折れているそれをソーニャに力任せにねじ込んだ。
「‥‥‥‥!」
うめき声を背景にセプテンバーは美千子へ振り返ったが、その前にキア、めぐみが立ち塞がる。
めぐみは新条とアークに無線で連絡を入れる。
「バグア兵を発見しました。現在、交戦中です。最悪、時間を稼ぎますのでパーツの確保か破壊を優先してください」
「邪魔‥‥しないでくださいますか‥‥」とキアは鋭い視線を発しながら唇を舐めた。「もっとも貴方が報酬以上にくださるなら‥‥‥冗談ってわかりますよね?‥‥仕事は信用が第一ですから‥‥ね‥‥」
「焦れているんだ。この状況で冗談は好かない。どけよ、人類」
セプテンバーは手刀を作ると、2人に襲いかかった。
そのころオフィス街では、新条機がバグア機を追い詰めていた。
相変わらず逃げようとするバグア機に対して新条機は練剣「羅真人」を作動させる。新条機の手元から光の剣が鞭のように閃き、バグア機の足下をすくった。
バグア機は股から下を切り落とされて路面に倒れ込む。そこに巨大な影が覆い被させる。
「今度こそ終わりにします!」
アーク機は機刀「玄双羽」を手にバグア機を強襲する。
機刀がバグア機のコクピットにずぶりとめり込んだ。
「やったな」と新条がうめく。意外に手間取ってしまった。「ビルのほうが気になるところだけど」
そこに仲間から通信が入った。けれども送ってきたのはバグア兵だった。
ビルでは、バグア兵はアンチマテリアルライフルを取り上げていた。
かたわらには破壊されたステアパーツ発射装置があり、キア、めぐみ、ソーニャがそれぞれの武器で床に釘付けされて呻いている。
床に溢れる血は薄闇に紛れて見えず、臭いだけがはっきりとその存在を主張している。
美千子は奪取したステアーのパーツを抱えて廊下を走る。
その背中にセプテンバーはアンチマテリアルライフルの照準を合わせ、引き金を引いた。
轟音。
美千子は倒れ、そのまま動かなくなる。
セプテンバーはゆっくりと美千子に近付き、緩慢な動作でステアーのパーツを拾い上げた。
4人の能力者を相手にしてセプテンバーも大小様々な傷を負い、いまでは右脇腹がえぐり取られている。
そしてセプテンバーは美千子の無線を起動させた。UPC共有回線で外のKVに呼びかける。バグア機がやられたのはすでに知っている。自力で時間を稼ぐ必要がある。
「KVパイロットに告ぐ。こちらを襲った4人は人質にとった。生かして欲しければ、この街区から離れるんだ。いますぐ離れろ」
無線機にうめき声を拾わせるためセプテンバーは受話部を美千子の口元へ持って行くと、その場を去った。
「陳腐な時間稼ぎだ」
セプテンバーは吐き捨てると地下に向かう。地下室から下水道へ入れる。そこから他の街区へ逃げ延びるのだ。
新条とアークからの報告を受けてUPCはこのビルへ特殊部隊を派遣したが、発見されたのは負傷した4人の能力者と発射装置の残骸だけだった。
ステアーのパーツは行方不明、状況からしてバグアの手に戻ったのは明らかだった。