タイトル:エイリアンの襲撃マスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/18 11:15

●オープニング本文


 じきエイリアンの襲来があり我が町を襲う。
 単体でなく多数にて襲来。
 前回の襲来はこちらで防御線をはるも歯がたたず、その人知を超えた言動により我々では制御不可能。なんとかやり過ごすも人員、物資共に損害は莫大であり、もはやこちらでの対応はこれ以上限界である。
 至急、救援を要請する。

 *要請する救援内容

 チョコ作って。


 ‥‥‥え? 何?

 本部に居た人間全員がその頭に「?」を浮かべ首を傾げた。その先に依頼主の名が綴られる。

 依頼主、町内会

 又かよ‥‥‥

 そして今度は切なげに俯き頭を振った。

 町内会、前回この依頼主は町内に五年放置された炊飯ジャーを能力者に調査させるといった、前代未聞の余りに過酷過ぎる任務を持ちこんだ依頼主である。
 そのジャーは集まった能力者達により適切に開封、回収、処分、さらに調査サンプルまでが回収されたが、そのあらゆる意味での精神的な負荷は大きい作業をなした彼等の勇気は絶大なものと言えるだろう。
 その「町内会」の依頼である。下を向いて頭の一つも振りたくなるというものだ。

 ―――取り敢えず上記の依頼内容では埒があかないので、下記に内容を解りやすく纏めた文面を掲載する。

 ハッピーバレンタインデー♪

 君に気になる男の子はいるかな?
 今年もこの季節が近づくと女の子はもうハートがドキドキ! 夜も眠れなくなっちゃうね!
 そんな君に素敵なプレゼント!
 今度の日曜に皆でプリティーなスゥイートチョコをつくっちゃお♪
 さあ、手作りチョコで君も彼にアタック!
 集まってくれる子は下の申込用紙に名前と学年と電話番号を書いてね!

 ―――とかなんとか書いてあるが、別に参加者は女子に限定はされておらず要は「みんなで楽しくお菓子作り」が趣旨なので男子も多数出席する為、男性能力者も振るって参加して頂きたい。
 近ごろの子供はおませさんである。おちゃらけてつまらない洒落など言おうものなら鼻で笑われてしまうだろう。泣く、わめく、意味不明の行動は勿論集団で襲いかかってくる事もある町内の子供達に、チョコを作ってあげる心温まるおにーさんおねーさん、求む!

●参加者一覧

小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
ネイス・フレアレト(ga3203
26歳・♂・GP
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
ジェレミー・菊地(ga6029
27歳・♂・GP
シアン・オルタネイト(ga6288
16歳・♂・FT
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

 町内会の公民館、時間前の会場を能力者たちは忙しなく走り回っていた。
 ミンティア・タブレット(ga6672)の作ってきたレシピの冊子を小川 有栖(ga0512)とミンティア二人で覗き込み、その後ろでシアン・オルタネイト(ga6288)ゼラス(ga2924)、ネイス・フレアレト(ga3203)、玖堂 鷹秀(ga5346)、ジェレミー・菊地(ga6029)がビニールクロスを引いたり必要な道具を揃えたりと子供を迎える準備をしている。
 白鴉(ga1240)は熱心に「サルでも分かるチョコ作り」と書かれた本を広げていた。
 そこに、しょんぼりと肩を落とした中年の男が入ってくる。町内会の代表で来たであろうその男を見つけるなり鷹秀が声を掛ける。
「どうもお久し振りです、あれからお変わりはありませんか?」
 以前町内会の依頼を受けたことのある彼が率先して男に近寄ると、男はその悲しそうな目を向け、そして何もう言わず続いて近づいてきたゼラスにビニール一杯のチョコレートをぽんと手渡した。
「これが残弾だ。いいか、無駄弾は撃つな」
 挨拶するでもなく、どろんとした目で男はゼラスを見上げた。まるで息子を戦場に送り出す親の表情である。ゼラスの頬がひくりと釣り上がる。
「残弾ってあんた、これ、チョコ‥‥」
「いいかお前ら!」
 聞いた風もなく男は声を張り上げた。二人の後ろで六人はその異様な空気に固まっている。
「泣くなよ!」
 涙を浮かべそう言うと、男は息を詰まらせ走り去った。
『‥‥‥』
 一同、その場にぽつねんと残されしばらく無言になる。
 がすぐにお互い集まり「ちょっと待て、やつ等は一体どんなガキを収集したんだ?」とどよめいた。


○テンパリング&生地作り
 首を傾げながらも無事準備は終わり子供達が集まり始めた頃、ホワイトボードの前に有栖が見本のチョコとクッキーを持ち、出る。目を閉じ何事かを己に念ずると、
「私は、みんなにチョコの作り方を教える、有栖お姉さんですよ〜! みんな楽しく、チョコを作ろうねっ!」
 はーい
 素直な可愛らしい返事に有栖が少し安心したようににっこりと微笑む。と、同時に他方で物騒な声が上がった。
「疾風脚、急所突き〜!」
「ぐはぁっ!」
 吹っ飛ばされたのはジェレミーである。
「豪破斬撃、流し斬り!」
「うわぁ!?」
 子供の跳び蹴りが頭部に炸裂したのは白鴉だ。
「このあたっくびーすとめぇ、流し斬り〜!」
「わああ!」
 アタックビースト呼ばわりされたのはクマの着包みを来たシアンである。
 各々皮肉な事に己の能力を模した攻撃を受け、三人は子供に小突き回されていた。彼らは手の甲辺りにカラーペンで円を書き、インクで出来たエミタを誇らしげに掲げている。それを三人は「うぬぬ‥‥」と苦渋の表情で見つめる。
 エイリアン、その単語が浮かんだ。
(「皆さん有難う御座います!‥‥」)
 それに心中涙を浮かべ有栖が目尻を拭うと、元気一杯の微笑を浮かべ説明を続けた。
「気をつけることは、チョコは水が嫌いだよ〜。ボウルや型に水がつかないようにしようね〜」
はーい
「レシピとは料理の設計図ですから、書かれている通りにやれば、ちゃんと出来ますからね」
 三人の犠牲の上に有栖が説明し、鷹秀がレシピを配り、ネイスとゼラスがチョコチップクッキーと型流しチョコを作る班に子供達を分けていく。
「はい、では貴方達はチョコチップクッキーを、貴方達は此方でチョコを溶かしましょうね」
 ネイスは優しく説明しながら和やかに子供達に接し、班分けし、
「チョコ、チョコね。昔‥‥散々作ったなぁ。神父さん、元気してるかねぇ。ほら、今日はチョコを作って、友達やお父さんお母さんにプレゼントしてやりな。きっと喜んでくれるぜ」
 と、ゼラス。
「うわぁにーちゃん眼赤ぇ、名前は?」
 眼を覗き込み子供が聞いた。それにおーう、ゼラスだ。今日一日宜しくな、と返す。
 ミンティアに至っては、
「美味しいチョコ作りに必要なのはまず質の良いカカオ。ということで今日は肥えた畑作りの方法からでもご説明しましょうか。ではこのレジュメを見てくだ‥‥ってドッヂボールがやりたいんですか!? あー、お望みならば仕方ありませんね。他の方がしっかりしてくれていますし一緒にやりましょう」
 畑の話から始め、あまつエイリアン統率を既に諦めている。そしてどこぞからボールを引っ張り出した。
「さて、班分けも、済んだ、事ですし、ちょっとここいらで落ち着きますか」
 その様子を眺めていた鷹秀が言葉を切りながら子供のジョブをかわし、事前に町内会から借りておいたラジカセを取り出す。
「モーツァルトはヴァイオリニストであったレオポルト・モーツァルト、母・アンナ・マリーア・ペルトルとの間に生まれ、古典派音楽の三大巨匠と呼ばれる人物で……」
「鷹秀さん、子供に解りませんって」
 ネイスがチョコを割っている子供の頭を撫でながら告げると、鷹秀がふむと頷き音楽を掛けた。

 モーツァルト「アイネクライネナハトムジーク」
 オーケストラの華やかな、あっかるい曲である。

 そのあっかるい曲に感化され子供達のテンションが上がった。
「逆効果だぞそれは!?」
 両腕に鈴なりに子供を抱えたジェレミーが叫ぶ、が横で白鴉が、でも、と漏らす。
「だからってあんまりしんみりしたの掛けても台無しだよね」
 それはそうなのだ。こんな所でバラードやら叙情的な曲など掛けられる筈もない。それに鷹秀が唸って虚空を見上げる。
「中々難しいですねぇ」
 言うな否やひょい、と鷹秀が突然しゃがんだ。その頭上を通り越した子供のとび蹴りがそのまま白鴉飛にとぶ。
「くぉっ」
 突然の事に一瞬よろめくが、
「この俺に飛び蹴りとは!それなら俺はこれだぁ!」
 白鴉が子供をこちょがす。子供は顔を真っ赤にして笑い転げると、くまさんが人間の姿なら人差し指を口元で立てているであろう仕草で白鴉に向いた。
「しっ! 静かに、今やっとこっちの子供達が落ち着いたから!」
 言われ、白鴉がしょぼんと肩を落とした。
「は、はーい皆! チョコレートを作る子はレンジでチンしましょう。クッキーを作る子は、粉や砂糖を少しずつ混ぜるんですよ〜」
 有栖が言うと、一度子供達は「はーい」と返事をしたがすぐに又混沌とした行動に戻っていく。
 大丈夫だろうか、子供達と大富豪をやり始めたミンティアをバッグに、有栖は冷や汗を浮かべていた。


○デコレーション、その他
「よし、お姉さん達のいう事をよく聞くんだぜ? 勿論、分からなかったら俺に聞いてくれていい」
 やっと、作業につき始めた子供達にゼラスが言う。
(「まぁ、多少ませてるって言っても程度ってもんがあるだろ。まさか、日常的に雪玉に石を入れたり一斉にドロップキックを繰り出す事もなければ、木のブーメランも投げないつまり、孤児院のガキ共に比べたら‥‥幾分かは可愛げも」)
 その孤児院育ちのゼラスの頭に、何かがかーんと硬質な音を立ててぶち当たる。
 木のブーメラン。
 どうやら油断は出来ないらしい。歩いてくる子供を見つめそんな事を思っていると、ブーメランを拾った子供をネイスが優しく抱き上げた。
「大丈夫ですかゼラスさん? ほら駄目ですよそんな事しちゃ。こちらへどうぞ、此処にこうしてナッツを入れても美味しいですし、此処に型もあります。フルーツもどうぞ」
 にこやかに言うと子供を皆の中に戻し、型やフルーツを渡す。
「みんな上手だね〜。どんなチョコが出来るかな〜?」
 その様子を怪我をしないように、くまさんが見回る。時々料理に飽きた子供に「くまー!」と殴られるが、それは致し方ない。
「ここはこうするんだって。うわ〜、上手いね〜」
 それでもくまさんは挫ける事無く根気よく子供に指導していく。
「ネイスのおにーさん、これはー?」
「それはクルミですね」
 見たことのない素材に興味を示す子供にそう説明すると、その子供は目を輝かせそれを持ちジェレミーの元へと走った。
「ジェレミーのおにーさーん! これもそのチョコに入れてー!!」
「任しとけ!」
 受け取ったクルミをチョコで包み、並べてあるチョコの列に加える。
 彼が作っているのはロシアンチョコ。中身に当たり外れのあるチョコである。当たりチョコにはメイプルシロップ、ハチミツ、アーモンドと無難な具財が準備されているが、外れように置いてあるマヨネーズ、気になるのがタコである。
「タコ、はちょっと厳しいんじゃないでしょうか?」
 苦笑しながら有栖が言うと、
「害はねえ」
 いやそうだが‥‥
 その背後でミンティアの「革命!」という声が聞こえた。まだ大貧民をやっているらしい。だが確かにチョコにタコは革命的である。あながち間違っては居ない。
 が、ジェレミーはふっと笑うとまだまだと言わんばかりに懐からハバネロを取り出す。やばい物好きのちびっ子が嬉しそうに「おお!」とどよめくが、ゼラスと有栖が目を丸くした。
「おいおい、ガキにハバネロはまずいだろ」
「じぇ、ジェレミーさん、それはちょっと危ないんじゃ」
「心配すんな、ちゃんと印つけてまざらないようにしとくからよ」
 そう言うと、ハバネロの入ったチョコに爪で印を付ける。
 と、二人が目を話した隙に当たりチョコを傍に居た子供が一口口に放り込む。それを見咎めた白鴉が声を上げた。
「あ、こらー、ダメじゃないかつまみ食いなんてしたら。いいかい、つまみ食いする時はばれないようにコッソリとね?」
 悪戯っぽく笑って見せると、子供もくすりと笑った。が、すぐにその眉が寄せられる。
「おいしくない」
「えー!?」
 あまりの言葉に白鴉が呻く。
「えーと、おいしくできない? そういう時はフルーツもたくさん使ってみよう!」
 そう言い、ネイスからバナナを分けて貰い、それをチョコに絡める。それはどうやら気にいったらしく二人はチョコバナナを作りそれにトッピングを振りかけた。
「はいはい、それじゃあこちらはそろそろ型抜きしましょうか」
 鷹秀は寝かしておいたクッキー生地を取り出し、子供達の前に持ち出した。そこに片手の塞がった鷹秀めがけ、手にインクのエミタを付けた少年たちが忍び寄る。
「!」
 あるものは飛び掛り、あるものは突進した。が、鷹秀は素早く懐から緑色の液体の入った試験管を取り出すと、
「五年前」
 と呟く。すると殴りかかると思った少年達は鷹秀の腰にとりつき「鷹秀のおにーさん大好き♪」等と言い出した。
「何ですそれ?」
 トランプを開きながらミンティアが問うと、
「ただの緑茶ですよ。ふふ、子供は可愛いですねぇ」
 子供達は「わーい♪」等と言ってはいるが、どことなく恐怖に青ざめている気がしないでもない。
 緑茶は緑茶なのだろうが‥‥何かあるな―――
 そう思いつつも、ミンティアはあえて黙ってカードを眺めた。
 その背後では、くまさんが怪我をしてしまった子供の傷を手当てし、なでなでするというなんとも心温まる光景が何気に繰り広げられていた。


○完成&ラッピング
 すったもんだの末、取りあえず形になった、
 チョコレートとクッキー。
 子供達はチョコペンで固まったチョコに字を書いたり、冷めたチョコチップクッキーをラッピングしたりしている。子供と共に描くネイスの猫さん型チョコの目と髭が愛らしい。
 一人の少女が、書き終えたチョコペン片手に「出来たー!」と声を上げる。
「自分達で作ったチョコだ。自分達で作り上げた食べ物だ。そうやって、自分で作るってのが、一番大事な事さ」
 ゼラスがそう言うと、少女は満足げに頷いて見せた。
「はーいそれじゃあ、持ち帰り用のラッピングが終わった子から、ポットを持ってこっちに来てね」
 子供達が仕上げをしている間にお湯を沸かしていた有栖が湯気の出ている薬缶を持ちながら言うと、その横に居たくまさんも「もってきてねー」と元気に両手を挙げて子供を達を呼ぶ。お土産分は終わったが、これから此処で食べる分のチョコがあるのだ。早く終わった者から順にポットを持ち、それに有栖がお湯を注いでいった。
 そして能力者たちに残された最後の試練。
 試食、もとい毒見である。
 能力者一同は互いの顔を見合わせると一つ頷き、まるで事前に打ち合わせでもしていたかのように、
 ジェレミー・菊地を見詰めた。
「俺か、やっぱり俺か」
「ジェレミーさんしかいないでしょ」
 白鴉が言う。
「ああわかってる、任しとけ、よし!」
 気合を入れるなり、ジェレミーが覚醒する。そして真っ先に手を伸ばしたのはハバネロチョコだ。
「おお! いきなりそれに行きますか!」
 鷹秀が感嘆の声を上げるとジェレミーはそれを躊躇なく口に入れる。と、
「うまい、うまいぞ!」
 わぁ! と子供達から感嘆の声が上がった。私もーとハバネロチョコに手を伸ばしかけた子供を、くまさんが必死で止める。
「こっちじゃなくて、後で配るからそれを食べようね〜」
 もう必死である。
「うまい、これもうまいなあ、うん、うまい」
 そう言ってハバネロチョコに続き、タコ入りチョコを口に入れたジェレミーに、ミンティアが余ったトッピング材料を持ってきた。
「これはどうです?」
「うまいぞ!」
「じゃあこれはどうですか?」
 中途半端に残った粉砂糖をジェレミーに手渡したのはネイスだ。
「うまい」
「じゃあこれも食ってくれ」
 レンジで溶かす際失敗して焦げてしまったチョコレートを持ってきたのはゼラスである。
「うまい! ってちょっと待て!」
 気が付いた時には既に「助かったなー」等と七人が嬉しそうに話している。手をわななかせるジェレミーの肩を、鷹秀が微笑しつつポンと優しく叩いた。
「聞きましたか? 皆さんチョコレートは成功です。それじゃあ仲良く頂きましょう」
 ネイスがそう言うと、子供達ははーい、と返事し各々のチョコレートを食べ始める。
「うん、ちょっと公民館の使用時間が過ぎちゃったけど、これなら大丈夫ですね」
 お茶を片手に有栖が呟くと、ミンティアが「あれ?」と声を上げた。
「公民館の使用時間が過ぎてる? それは従わざるを得ませんね、やっぱり」
 そこにとことこと子供が駆け寄ってきた。え? と有栖も声を上げる。
「あぁ、チョコ作れなくて残念でしたね。ちゃんと作った子もいっぱいいるみたいですけど。そんなに不満そうな顔をしないでください。楽しかったからいいじゃないですか。なんなら代わりに私の特製チョコをさしあげますよ。え? そういう問題じゃない‥‥?」
 その子供に、そう言う彼女を見て一同の背筋に嫌な汗が伝う。そうだ、これまでミンティアはずっと‥‥
「これだと依頼人さんに私が怒られてしまう‥‥まあ仕方ないですね」

 その後、

 子供達を笑顔で送り出すために、八人は必死に自分達の分のチョコを掻き集め、遊んでいた子供にチョコペンでのデコレーションのみさせそれを持ち帰らせた。
 そして満足気に帰り行く彼らの背中が見えなくなるまで、手を振り続けた。