タイトル:あの人との約束マスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/05 00:37

●オープニング本文


 ―――私は数え切れないほどの罪を犯した。
 バグアに捕らえられ、言われるまま沢山の命を奪い、人の大切なものを破壊し、壊し尽くしてきたのだ。
 そんな私はその時「親バグア」の人間だと呼ばれていた。だが、

 親どころか、そうしていた日々は毎日恐怖と不安に駆られ続け彼等には憎悪どころか既にあるのは恐怖だけだ。

 そんな日々を過ごしていた私は、ある日、『その女性』と巡り合う。

「この子を、この子を私の代わりに―――!」

 目の前の女性が泣きながらそう言って私に赤ん坊を差し出した。
 『親バグア』の私に、だ。
「‥‥今、なんて?」
「私は駄目でも、でも、この子は、この子だけは!‥‥‥」
 その時私は、キメラを放ち襲撃した町で捕らえた人質の番をしていたのだ。無論作戦が終われば彼等は始末される運命にある。その人質に、だ。人質達はそれを悟り、皆泣いているか恐怖に震えている。だが、その女性は意を決したように私にそう言ってきた。
「何故‥‥‥私に?」
 面食らう私に女性ははっきりこう言った。
「あなたは、本当は親バグアなんかじゃないでしょう?」
「!」
「私はどうなっても構わない。だからこの子を‥‥」

 私は、それから‥‥‥



「よしよし、良い子だ」
 商店の並ぶ賑やかな通りを、赤ん坊を抱えながら若い女が歩く。短い髪の、線の細いこざっぱりした印象の女性だ。子供が無邪気に笑って見せた。


 ―――それから私は赤ん坊を受け取ってしまったのだ。
 受け取ったその後直ぐに引き揚げてきた仲間から人質を殺して引き揚げると声が掛かり、思わず上げた静止の声もむなしく女性は他の人質と共に殺されてしまった。 

 殺される時、女性は私の顔を見て笑っていた。

 動けなくなった私は子供を抱えたまま立ちすくみ、気が付いたら前線へと駆けていた。
「助けて!お願い、助けて!!」
 そう言いながら命令された方向と逆を走る私を、命令違反だと同胞が殺そうとした時、
 ‥‥‥その現場に派遣された能力者に救助されたのだ。

「寝たのか?」
 女が愛おしげに赤ん坊を見詰める。赤子は小さく寝息を立てねこけていた。すると女性は目を閉じ、己に言い聞かせる。

 ―――こうする事で私の罪が消えるなんて思わない、だが、

「シャオ、お前は私が一人前にする。必ずだ」
 UPC、ULTはシャオを施設に入れるよう手配していたが、シャオは私が育てると引き取った。
 それが、あの人との約束なのだから。


 ―――商店街にキメラの襲撃発生。
 詳細は不明、小動物型キメラ3頭、植物型キメラ1頭、獣型キメラ2頭。
 商店街中に取り残されている民間人は四名、女性一人、男性一人、以前バグアの捕虜として保護された女性カエラと彼女が育てている赤ん坊が一人。
 民間人は商店に身を潜めている模様、至急、キメラの討伐並びに民間人の保護を要請する。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
叶 湊(gb2886
19歳・♀・DG
雪待月(gb5235
21歳・♀・EL
セグウェイ(gb6012
20歳・♂・EP
緋阪 奏(gb6253
22歳・♂・DF
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD

●リプレイ本文

 黒い髪がゆらゆら揺れる。そこにぼんやりと浮かぶ包帯の白。

 ―――自分で選んだ道に対する責任。それは自分だけが知り、背負えばいいことだ。

 見るとはっとするような、冷たい印象を与える感情の見えない白い顔。その目蓋だけが半眼になる。その女、月城 紗夜(gb6417)がその表情のままこんな事を言ってのけた。

 ―――まあ、過去の後悔から育てていると言うなら横っ面をひっぱたくが‥‥

 ―――‥‥愛のない子育ては子にとっても辛いからな。

 ふいに、彼女の首に掛かっている首輪が小さく揺れた。


●任務開始
 荒された積み荷、ボロボロになったテント、穴の空いた壁、床に散乱する商品。
「あれだけ奪っておいて‥‥まだ足りないか‥‥」
 緋阪 奏(gb6253)が一瞬にして荒涼とした商店街を眺め呟く。
「これは又派手にやったものだ」
 UNKNOWN(ga4276)が微笑を浮かべつつ、すぐ側に転がっていた潰れた林檎を拾い上げた。報告によれば、獣型キメラも居るという。「ほう」と回してみると、そこには牙や爪の掠った跡が残っている。
「‥‥赤子を食うつもりか‥‥それだけは、許せません」
 ダンデライオンを取り出し、手際よく点検、構え、戦闘準備を澄ませながらドッグ・ラブラード(gb2486)が言う。「よし」と気合を入れるとセグウェイ(gb6012)と視線を合わせた。それにセグウェイがにやりと笑ってみせる。
「今日は宜しくな、せいぜい足引っ張らねぇ様にやらせて貰うよ」
 彼はヒラヒラとこちらに手を振ってみせた。
「救助しなきゃいけない人質は、カエラと赤ん坊の他に二人……か」
 辺りを窺いながら軽く背を丸め、叶 湊(gb2886)がそっけなく呟く。
「はい、でもどうやら今の所敵さんも落ち着いているようですねぇ‥‥この様子だと逃げ遅れた方もまだ見付かってはいなさそうですね」
 それに「このまま見つけるまで上手く隠れて居て下さると良いのですが‥‥」と雪待月(gb5235)が付け加えた。

「さて」

 一通り把握した所で声を上げたのは須佐 武流(ga1461)だ。
「逃げ遅れは他の奴に任せるとして‥‥俺はキメラをぶっ潰す‥‥!」
 それに「ええ」と呟き奏が覚醒し蛍火を構えた。更に湊も紗夜も覚醒し武器を構える。
「行くぜ!」


 文房具屋の机の下、その男性は動かずにいた。ボロボロの部屋の中には大型の獣型キメラがうろうろと練り歩いている。声を殺し、息の音も殺し、緊張感を張り巡らし必死で見つからない様に己を消してやり過ごす。見つかれば、命はない。
 そこに、
「ジャンジャンきやがれ‥‥獲物はここだぜ!?」
 店の外から、騒がしい足音と共に声が響いた。
「!?」
 驚く店主より先に、そちらに気付いた獣型キメラが素早く店の外へと躍り出る。店の外では武流が金のオーラを纏い刹那の爪を振りかざしていた。その陽動に釣られた様に、同じ大型の獣型キメラがもう一頭姿を現す。間髪入れず、そのうちの一頭にそのまま突っ込み爪を浴びせた。それに続きアーマー形態の湊も前に出ると龍の爪発動、カンヴィクションアックスでもう一体に斬りかかる。
「俺一人で潰す気で来たんだけどな?」
「そうはいかない、効率を優先させて貰うさ」
 軽口を叩く武流に湊の口元がにやりと上がる。確かな手ごたえを感じた二人は同時に敵から離れ着地した。だがそこに奏の声が響く。
「突出するな‥‥ここで倒れたら餌になるのは誰か、言わなくても判るだろう?」
 二人が悪戯でも見つかった子供の様な苦笑を浮かべた。
「まあ、貴公が攻撃で頭に血が上るだろうという事は織り込み済みだが‥‥」
 紗夜は周辺に陽動に乗らない敵はいないか索敵している。だが、彼女が見つけたのは敵ではなく、
「た、助けてくれ!」
 店主である。紗夜は素早くトランシーバーを取り出した。
『こちら戦闘班―――』


『はい、了解しました』
 雪待月が無線を切る。
「あんのん兄様、逃げ遅れた方が見つかったそうです。参りましょう」
「ああ」
 二人が居るのは倒壊した商店の中である。呼ばれた人物は煙草をとり深く煙を吐く。そう、あんのん兄様ことUNKNOWN、そして更には
「―――親バグア派? 反バグア派? そんなものは、私の知った事ではない。私は助けたいから助ける。それが誰だろうが、ね」
「あんのん兄様?」
 雪待月が小首を傾げた。
「私は――『イスカリオテ』だからな」
「?」
 解らない人は遊園地へGO!、二人はすぐにその場を掛けだした。


 一方、ドッグ達は、
「死に往く生命に幸いを、我々に、未来を」
 ドッグがGooDLook使用、セグウェイが探査の目を使用する。その状態で逃げ遅れた人の探査を続けていた時である。
「大丈夫ですか? 怪我は‥‥ありませんね。早くこちらへ‥‥」
 ドッグが女性を発見。覚醒も手伝っているのだろうが、自前の女性恐怖症を発症すること無く手を伸ばし避難を促す。が、女性がドッグの手を取った瞬間、
「!」
 探査の目を光らせていたセグウェイがを強弾撃にて弾丸を発射。弾は此方に向かってきたいた小動物型キメラ、ボンバーマウスの足元に辺り動き牽制した。そして叫ぶ。
「先行ってくれ!」
「確かに、頼みましたよ‥‥!」
 興奮したキメラが吐いた弾丸がセグウェイを掠ると同時に、ドッグが女性の手を取り走り出す。残されたセグウェイはちょこまかと動くキメラに照準を合わせながら呟いた。
「カエラ‥‥か勝手で悪いが過去の記録は見せてもらった。俺の過去に被るからな‥‥」

「親バグアとされたがある出会いで人生が変わるか‥‥もっとも、俺はもとから親バグアだったがな‥‥」

 どこか寂しげに聞こえる言葉と共に、放たれた弾丸がキメラを貫いた。


「ははっ! 来やがれ!」
 勢い良く身を躍らせ武流が獣型キメラを引きつける。牙をむき出し向かっていくキメラから身をかわすと、その腹に思いっきり蹴りを入れ更に爪を振り下ろした。そんな武流の周囲に気を払いながら、湊がもう一方のキメラをアックスで牽制する。
「守りながら戦うってのは骨が折れる‥‥!」
 その時、救護班のUNKNOWNと雪待月が到着、紗夜から店主を引き継ぐと目の前のキメラの注意がそちらに向いた。
「行かせねぇ!!」
 湊が言うと、
「!」
「‥‥待たせたな」
 蛍火で奏が参戦、キメラに一撃入れると、紗夜に眼で合図しつつ、湊の一歩後ろへ下がる。すると紗夜が一つ頷き、雪待月に向き直った。
「では、任せた」
「はい」
 男性を受け渡された二人が走り出す。その後ろで武流と湊が、キメラにとどめの一発を刺していた。‥‥だが、
「おっと‥‥」
 目の前に、小動物型キメラボンバーマウスが現れる。雪待月が覚醒し蛍火を構えた。だが、此方よりも早くボンバーマウスの口から弾丸が吐き出される。
 だが、
「‥‥?」
 そんな雪待月をUNKNOWNが優雅に引き寄せる。そして片手を取りくるくると回すと、
「!」
 敵の前に雪待月が差し出され、其処を狙って彼女が片手に持っていた蛍火を降ろす。激昂し反撃に出るキメラから又も彼女を引きよせコートで包むと、空いていたもう一方の手でスコーピオンを握りキメラに打ち込んだ。そしてUNKNOWNが雪待月の手を離すと、
「ふふ‥‥」
 普段の彼女とは一変した、覚醒し好戦的な笑みを浮かべた雪待月がぞくりとする様な笑みを浮かべ鮮やかにキメラに止めを刺した。


●カエラ
 あーん、あーん!
 ―――まずい!
 物陰に隠れたカエラが全身総毛立った。
「な、泣くな」
 子供が泣き出してしまったのだ。必死にあやしてみるが、泣きやむ気配は一向にない。
「泣くな、ほら、良い子だ、良い子‥‥」

 ぱしん!

「!!!」
 ビクリとカエラが身体を引きつらす。彼女が隠れているすぐ横に、何か鞭の様なものが叩き付けられたのだ。
 冗談だろ!?
 そう思ったが、そうはいかない。恐る恐る覗いてみると、グロテスクな花を中心に、触手の様な無数のツタが絡み合った植物キメラが不気味に蠢いていた。赤ん坊を胸に抱き、カエラが凍りつく。更に室内にもう一つちょこまか動く気配を感じた。これはただのネズミではない。彼女は赤ん坊を見詰め、気が付いたらこう呟いていた。
「私は駄目でも、でも、この子は、この子だけは!‥‥‥」
 どこかで聞いたセリフだな、と思った。
「私はどうなっても構わない。だからこの子を‥‥」
 この子を―――そう思った時である。
『こちら救護班、そちらの戦闘は終わったんですね? ですが此方に植物型キメラと小動物キメラ一体づつ発見! 報告によればこれでキメラは全部です! 戦闘班の方、支給こちらへ』
「もう来てる!」
 その言葉と共に現れたのは、無線を持ったドッグと同じく無線を持ったまま覚醒し、闘う気満々の武流だ。武流はそのままキメラを見つけると、外へ出る様にワザと隙を見せ注意を引きつける。小動物型キメラが真っ先に武流に突っ込み、爪で薙ぎ倒されていた。植物キメラも外へ外へ動き出し、長い触手を武流に向け伸ばしている。
「あ‥‥」
 その光景を呆然と見詰め、植物キメラがやっと外へ出た所で、赤ん坊を抱えたままカエラが立ち上がる。すると、それにドッグが気が付いた。
「カエラさんですね! 良かった、早くこっちへ」
 ただ立ちすくむカエラの手を取り、ドッグが外へと出る。セグウェイも辺りに気を配りながら彼女の護衛に付いた。ドッグが安どの表情で呟く。
「良かった、無事で、本当に‥‥」
 そして赤ん坊を覗き込む。泣き疲れぼんやりしているその顔を見つめるその彼の目に、一瞬だけ悲しい何かが見て取れた。
「ドッグ先輩‥‥?」
 セグウェイが声を掛けると、
「何ですか?」
「‥‥‥‥‥」
 何事もなかったような顔をするドッグに、それ以上追及するのも憚られたセグウェイは気を取り直してカエラに向き直る。
「この赤ん坊の首はすわってんのか?」
「ああ」
「良し、なら走れんな、いくぞ!」
 言葉と共にとまどうカエラとセグウェイ、ドッグが走り出す。
 ―――その四人に、鞭の様な職種が伸びる。が、
 龍の瞳発動、
「甘いな」
 それを紗夜が刀で切り落とした。更に武流の威勢のいい声が響く。
「早い者勝ちだな!」
 言いながら武流が小動物キメラに止めを刺した。
「なら、早くしないと此方が片づいてしまうぞ?」
 湊も伸びる触手を切り落としつつ、植物キメラに一撃を入れる。
「これで全員避難した。なら、さっさと片付けよう‥‥」
 奏も参戦し、伸びる触手を片っぱしから切り落としていく。そこに駆け付けたUNKNOWNが更に発砲。
「行くぜ!」
 小動物型キメラに止めを刺した武流が、植物キメラに向き直り、更に止めを刺した。


●任務終了
「皆さん無事ですね」
 覚醒の解かれた雪待月が、いつもの穏やかな彼女のまま人質達を確認する。買い物客の女と、店主、それからカエラに赤ん坊。全員の怪我の有無を確認し、かすり傷は消毒してやった。赤ん坊は疲れ果て、ぐっすり眠り込んでいる。
「‥‥‥‥」
 それをカエラが寂しそうな目で見ていた。そして漏らす。
「てっきり」
 赤ん坊が身じろぎした。
「キメラが来た時、私はてっきり、昔の自分のやった事の罰を受けたんだと思った」
 そして虚空を見上げる。
「だからあの人と、同じ状況にされたんだって‥‥そこで、わたしも気が付けばあの人と同じ事を言って‥‥」
 そこで彼女の眼から涙が溢れる。
「シャオ、ごめんシャオ、私、人殺しなんだよ。一杯殺した。あんたの母親だってみごろし‥‥」

「過去は変えられねぇ」

 唐突に切り出したのは武流である。
「でもな‥‥に縛られて生きる必要もねぇ。全力で今を生きろ」
 まっすぐ、赤ん坊とカエラを見る。

「そして未来を掴め」
 カエラが驚いたように武流を見返した。
 然しそんな中、我関せずで赤ん坊を見て頬を綻ばせるのが、
「可愛いなぁ‥‥」
 ドッグである指で頬を触ると実に柔らかい。そして赤ん坊が小さく笑う。それに「わぁ‥‥」と感嘆の声を洩らすと寂しげに呟く。
「‥‥‥生まれてたら、あの子もこんな風に笑ったかな?」

『?』

 その場にいた全員から怪訝な目で見られ、我に返るドッグ。
「え!?‥‥えっと」
 わたわたと辺りを見渡し、一生懸命流れを掴むと慌てて口走った。
「そ、そう! それ以上にあなたは素晴らしいじゃないですか! 上手くいえませんが、この子、こんなにいい顔で‥‥」
 慌てるドッグを尻目に、こんなのってどんなの? と全員が赤ん坊を見る。赤ん坊は、

 実に良い顔で寝こけていた。

「だ、だからですね! む、胸を張って! この子のためにも!」
 わたわたと続けるドッグに湊が息を吐く。
「まあ、脛に傷があるのは彼女だけじゃないし、その傷の大小は他人には判らないもんだし‥‥」
 軽く目を逸らして、続ける。
「今うまくやってるならそれで良いんだと思う。他人が口を出すことでも、色眼鏡をかけて見るようなことでもないさ‥‥」
 すると雪待月が柔らかな笑みを浮かべる。
「ご自分の過去について…きちんと向かい合って見つめてゆけるのなら。そして、育てていく約束をお子さんにもなさったのなら。その決意をお大事に」
 そこで穏やかな笑みを浮かべたまま、

「過去あっての、貴方です」

「‥‥‥」
 「ね? あんのん兄様?」と言う彼女に、UNKNOWNが不敵に微笑を浮かべた。
 その言葉を呆然とカエラが聞いていると、奏が赤ん坊の頭をゆっくりと撫でる。
「‥‥確かに罪は消えない。咎も当然付いてくる。それから逃れることもできない‥‥だが、あんたはもう『逃げる』ことをせずに、『乗り越えられる』だろう?」
「私は‥‥」
「あんたは強くなくちゃならないんだ。それがあんたのできる懺悔であり―――そして、この子の希望となる」
 息を呑むカエラに紗夜が呟く。
「―――親バグアか」
 そして虚空を見上げると、
「思うところがないことはない。我の身内も死んでいるからな。だが」

「過去は過去」

 そう言うと紗夜は口を閉じてしまう。するとそこにセグウェイが何かを無造作にカエラに突き出した。
「これ」
「?」
「俺はあんまり信用しねぇけど、魔除けになるっつーウィンドチャイム‥‥実はさ、俺も昔は親バグアでな」
 驚きにカエラが目を見開いた。
「俺は‥‥導いてくれたあいつを救えなかった、だからカエラには最後まで守り抜いてもらいたい‥‥から」
 ほら、と出されたそれを彼女は暫く呆然と見ていた。そして手を伸ばすと、
 ―――カエラはウィンドチャイムではなくセグウェイの手を取った
「守る、約束する。あの人とも、あなたとも、そして」
 カエラはぐるりと能力者達を見渡すと、
「あなた達とも」
 そこで、赤ん坊が、シャオの目が覚める。
 寝起きの赤ん坊は、有無を言わさず大きな声で元気に泣き始めた。
 それを愛おしげに揺すりながらそれでもしっかりとカエラが言う。
「大丈夫だ、約束する」