タイトル:マインドクリップ−Aマスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/01 22:57

●オープニング本文


 仮名:マインドクリップ
 今回発見された新種にして恐らく今だ試作段階であろう小型キメラ。
 試作段階だろうと判断されたのは生体機能が実に不安定で個体としての生命力は脆弱であるがゆえである。
 しかも戦闘能力は持ち合わせておらず物理的な攻撃は不可、一見失敗作ともとれるこのキメラは直接的な脅威足り得ない存在だと思われる、が然し、看過できない性質を持っている。そう、このキメラの恐ろしい所は‥‥‥

「‥‥‥気分はどう?」
「‥‥‥‥‥‥」
 ULTの女性オペレーターが椅子に座り悲しげに眼を伏せる少女に優しく声を掛ける。だが少女は視線を逸らすと俯いてしまう。
「‥‥‥心配しなくても大丈夫なのよ。そのキメラ、直接身体に害はないから」
「‥‥‥‥‥」
 俯いた少女の首筋には、巨大なフジツボの様な軟体の物体が張り付いていた。

 マインドクリップ。身体的に直接攻撃を加える事はないが、人の精神活動に反応し寄生する。平たく言えば、悲しみや絶望感を持った人間に寄生しその感情を煽り、精神的に追い込み身も心も侵していくキメラと言える。
 オペレーターは気を持ち直す様に少女に話し掛ける。
「あのね、そのキメラは暗い気分に反応してそうやって人にとりつくキメラなの。だから、あなたが前向きになるだけで簡単に払い落せるのよ。けど、逆にいつまでも下を向いていたらあなたがどんどん衰弱しちゃうわ」
「‥‥‥はい」
 やっと返事を返して貰い、オペレーターは笑みを浮かべ続ける。
「だから―――そうね、何かやってみたかった事やこうなればいいっていうのはないかしら? 変な言い方だけど、今なら私達も協力するしチャンスよ?」
 そう言ってウインクして見せた。すると少女は暫く沈黙した後、少しずつ口を開く。
「私、」
「うん」
 彼女は息を吸うと、

「私モテたかったんです」

 傭兵諸君引かないで頂きたい彼女は本気である。
「しかも普通にモテたいんじゃないんです」
「えっと‥‥‥」

「すごくモテたいんです」

 傭兵諸君逃げないで頂きたい彼女は本気である。

 困惑する女性オペレーター。場は水を打ったように静まり返った。
「そうだ、こんな時こそ、ULTの陰に属する何でも屋! 彼等を使う時だわ!」


 NDA部隊(なんか できること あるんじゃね)部隊の略。能力者、非能力者が入り混り有志によって作られた非正規の遊撃部隊。「仕事は楽しく」がモットーで実際現場を「楽しく」過ごしてしまう彼等は色々な人に怒られながら雑用から戦闘もこなす便利屋部隊として扱われている。
 その中の一人の、能力者の男性が口を開く。

「毎日僕のお味噌汁になって下さい」
 目の前の少女の顔が青ざめていく。
「てめぇ!ふざけんな!」「言い間違えてんじゃねえよ!」「セリフが古いんだよ!!」
 その様子を見て後ろから喧騒が上がった。いけない! と別の男性が薔薇の花束を差し出した。
「君の歳の数だけ包んだんだ」
「まあ、綺麗」
 目の前の少女の血色が良くなるが、

 ざく

「てめぇ!どこのバラを持ってきやがった」「ちゃんとトゲ位抜いとけ!」「ばかやろぉお!」
 再度青ざめる少女の様子を見、更に背後が騒ぎ出す。花を出した男性は「いや、生えてるやつを貰って‥‥」と弁解したが「花屋で買え!」と一喝された。
「うーん拉致があかないわねぇ‥‥」
 それを見てこの隊のリーダー格の女性、フレア・モルゲンが呻く。
「うちの隊の奴、こういうの疎いっすからねぇ、曹長は何かやんないんですか?」
 それにチャオが答えた。ちなみに曹長というのは階級ではない。この隊での彼女の愛称である。
「あたしはこういうの思いつかない。いやマジで。まずいわね、このままじゃ本気であの子ヤバいわよ」
「あいつらも殺気立ってきてますからねぇ」
 のんびり言うその視線の先では、少女ではなくその少女の首の後ろに張り付いている物に対し「くそ! こんな事言わせやがって、取れたら覚えやがれ!」と言いたげな視線を向けている。
「応援、呼びましょうか」
 諦めたようにフレアが呟いた。
 そんな訳で、寄生キメラ駆除に協力してくれる能力者大募集。

●参加者一覧

榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
ジン・デージー(gb4033
16歳・♀・DG
美環 玲(gb5471
16歳・♀・EP
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER

●リプレイ本文

「始めまして、可愛らしいお嬢さん」
 跪き、そっと手を取り優雅にキス。榊 紫苑(ga8258)が優美に笑顔を浮かべた。流れる様な茶色の髪が揺れ、こんな台詞も様になる容姿と物腰。少女マキが「きゃあ♪」と頬を両手で押さえ小さく悲鳴を上げた。

 ‥‥その背後では、他の能力者並びにNDAの面々が「きゃあ!」と悲鳴を上げた。

 榊 紫苑、彼は女性アレルギーであり

 微笑を浮かべるその背中には、量でいったら目の前の少女にまけない位のフジツボ、もといジンマシンやら鳥肌が立ちまくっていた。


●依頼です。頑張りましょう
 集められた八人がマキに会う前の準備段階での事、
「この依頼‥‥久々に燃えてきたぜ‥‥この依頼‥‥久々に燃えてきたぜ!」
 何か二回言っているが頼むからもっとマトモな依頼で燃えようぜ紅月・焔(gb1386)が折角の美形に何故かガスマスクを装着する。その横で溜息をつくのは紫苑だ。
「これは、また変わった依頼というか? 苦手なんですよ。女性は‥‥この頃マシな時もありますけど、それでもジンマシンがね?」
 落ち着かない様に腕に手をやる紫苑に、桂木穣治(gb5595)が息をつき遠い眼をした。
「いくらたくさんの人にモテたって、結局は自分の意中の人じゃなきゃ意味が無いと思うんだがなあ」
 物凄くもっともなのだが、マキから言わせれば「そう言う事言う人に限って自覚なしにモテてたりするもんなのよ‥‥」らしい。だが「まぁ」と付け加えると、
「『踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃソンソン』ってかぁ。やるからには皆で楽しく盛り上がろうぜ!」
「はい、人の生死がかかっている依頼のはずですが‥‥なんだかとてもおもしろいイベントになっていますね。せっかくなので思いっきり楽しみましょうか」
 それににっこりと微笑むのは美環 響(gb2863)だ。そこに美環 玲(gb5471)も微笑む。並んでみると容姿のそっくりな二人。違いと言えば、まず目につくのが玲の方が髪が足もとまである事だ。
「ところで二人はご兄妹ですかー?」
 ジン・デージー(gb4033)がそう尋ねると、響も玲も再度微笑む。そして、
『秘密です♪』
 指をぴっと立て、二人して声を合わせた。
「空は百合路線で口説いてみようかと思います、ちなみに、空にその気はありませんよ? あくまで知的好奇心で試すだけですよ?」
 そう言う最上 空(gb3976)に顔を真っ赤にしたどたどしく言うのはイスル・イェーガー(gb0925)だ。
「僕も、女の人と話すのって得意じゃないけど、知りたいこともあるし‥‥知りたいこと?‥‥女の人が喜ぶ方法」
「そりゃまた何で?」
 譲治が何の事なく問うと、イスルは更に真っ赤になった。
「好きな人が‥‥出来たから」
 あら、かーわいい
 その場に居た能力者が、妙に優しい眼でイスルを眺めた。


●それでこうなりました
 アレルギー発症しまくりの紫苑を、サワサワとNDAと能力者達が見守る。だが、当の本人は、
「ちょっと、失礼します。やっぱり綺麗な物には、花のような笑顔が良く似合いますね?」
 そこで桜の髪飾りを刺してやりたかったが、手持ちに無かったので代わりにトゲを抜いた白いバラの花をマキの髪に刺してやった。
「今日の記念にどうぞ」
 「まあ」と呟くマキに反し、髪に触れた瞬間紫苑の身体に激しい悪寒が走り石化する。
「!!」
 が、笑顔は絶やさない。涙ぐましいその様に能力者一同固まりだらだらと冷や汗を垂らすと、譲治が拳を握った。
「榊さん‥‥漢だぜ」
「ええ、彼なら例え作戦が失敗して絶望的な状態に投げ出されても、きっと生還してこれるでしょうねー」
 その横で深くジンが頷く。
 ちなみに現段階で入った情報だが、もう一人マキと同じキメラに寄生された女性は現在他の能力者が当たっているらしい。どうもそちらでは本格的な調査が行われ事実に基づく説得までされるという。
『‥‥‥‥』
 同じキメラの筈なのに何故こうなってしまったのかは解らないが、こういうのは寄生された人によるのだろう。
 そして気が付けばそろそろこの辺りで助け船を出さねば冗談抜きで紫苑が死んでしまいかねない。そこで慌てて動いたのはイスルだ。
「‥‥うー‥‥緊張する‥‥何していいかわからない‥‥」
 だが、決意を固めると、
「‥‥ぁ、‥‥あの‥‥良かったらこれ、一緒にどう、ですか?」
 おずおずと手作りお菓子をマキに差し出す。マキの注意が「え?」とそちらに向くと紫苑が脱力したように項垂れる代わりに、今度はマキに注意を向けられたイスルがどんどん赤面していった。そしてイスルがくるりと全員に向き直ると、
「‥‥みんなも‥‥食べる?」
 その様子にマキの血色が良くなる。「カワイイ」と声を上げるとイスルの手を取り自分の横に座らせた。
「う‥‥えぇ!? あの‥‥」
 おろおろするイスルを嬉しそうにマキが見詰める。そしてお菓子に手を伸ばし、口に入れた。その背後からはNDAの面々が「こいつらすげぇ‥‥」と応援にきた能力者を見詰めている。そこにここぞとばかりに焔も参戦。そっとマキの手を取り流れる様に開いている隣の席へと座った。
「‥‥君の相手‥‥俺では物足りない‥‥かな?」

 誰だこの人は。

 だが、相変わらずガスマスクはつけっ放しなので絵的に異様さは拭えない。だがこの距離なら彼が優しげに微笑んでいる事位は解る。
 口調も落ち着いているし、明るく誠実さがある。何だ、やれば出来るんじゃないか焔!
「君に出会えた事‥‥俺は永遠に忘れないさ‥‥」
 そこですっとガスマスクを外し素顔を見せてみせる。それにマキが「え?‥‥」と頬を染めるが、どうもこれは黒歴史的な意味でらしい。背後で空が「その場合忘れないというより忘れられない、の方が正しいですね」と冷静に付け加えた。
 そしてその二人で両脇を固めたマキの正面に、ポン、という軽い破裂音と共に可愛らしいバラのブーケが現れる。驚くマキに花を差し出し微笑んでいるのは響だ。
「驚いた顔も、可愛らしいですね」
 そう言うと大きな布を取り自分の前に広げて見せ、更に破裂音。そして布を取るとマキのすぐ目の前に響とそっくりの男装した玲が現れた。
「双子の弟、玲です」
 響がそう言うと玲がマキに手を差し出す。
「美しいお嬢さん、私と踊って下さいますか?」
 マキが手を伸ばすとその甲にキス。そのまま優雅にダンスに誘いリードする。その間は絶えず熱い視線をマキへと向け、
「!」
 曲が終わるとマキの頬に掠める様にキス。すると悪戯っぽく微笑し退場。それを呆然とマキが見送った。
『すげー』
 あれで女だというのだから尚凄い。NDAの面々が目を細め玲を見やる。
「あの、お姉様?」
 そしてただ呆然とするマキに、カンパネラ学園の制服を着た空がもじもじと心配そうに声を掛けた。マキがそちらを見やると、その正面に空が回り込み、
 瞬間、
「お姉さま! お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま、あぁあぁあ空だけのお姉さま!!」
 空がマキの胸に飛び込んできた。萌え所をついた先輩後輩設定。空の作戦発動である。
「ああ、あのあの!?」
 そして驚き困惑するマキに空が全力でこう言い放った。
「大丈夫です! 愛は性別すら超えますわ!!」
 ある意味真理、だがそれは本当に大丈夫なのかは謎だが、取り敢えず空の場合はあくまで演技なので心配ないだろう。そのまま怒涛の勢いで抱きつくと、「お姉様柔らかいですわー」「お姉様綺麗ですわ!」と称賛の声を浴びせる。
 微妙に青くなるマキだが、こんな年下の可愛い女の子に慕われて悪い気はしない。困りつつも満更ではない様子であるが、
「ふふふ、大丈夫ですわ、いずれ快感に変わりますの! これが空の愛です!」
 新世界が開かれてしまいそうな勢いの、ちょっと危険な香りのする愛である。マキが青くなったり赤くなったりしていると、今度は譲治がその勢いに乗りマキの目を見て言った。
「その純粋な目をした君が大好きだ! お願いだからそんな暗い顔をしないで俺に微笑んでくれないかな」
「え!?」
 マキが空に抱きつかれたまま好感触な返事をすると、譲治が「おお!?」と一瞬たじろいだ。だが気を取り直すと、
「かっこよくも強くもないし、お金も無いが‥‥君を喜ばせたい気持ちだけは誰にも負けないんだ!」
「嬉しい」
  上手くいくと思って等いなかった譲治が心中「マジ?」と呟く。だがマジらしい。そこにジンが「ねぇ綺麗な女性なら私はー?」と声を上げるが、当初打ち合わせ通り皆ジンを無視する。
「あの、ビスケットの他に‥‥クッキーも‥‥準備してあるから‥‥よ、よかった、ら‥‥また‥‥一緒にお菓子‥‥食べませんか?」
 顔色が優れてきたマキに、もじもじとイスルが近寄り椅子に戻るよう手を取る。だがそこに響が割り込むと、
「愛らしい瞳にバラの様な頬、笑顔はまるで花が咲くようです。さあ此方へエスコートさせて頂きます」
 イスルから手を奪い目を見て真面目に告げる。もう片方の手を玲が取りマキの髪を一房取るとそれにキスする。
「さあ、私達と行きましょう」
 ぽーっとするマキの手から二人の手を払いのけ、空が更に割り込む。
「いけませんお姉様! お姉様は空のものですわっ! さぁ、空と一緒に新世界へ参りましょう?」
 その後ろでは紫苑が一人震える手つきで紅茶を呑みながら激しい葛藤の中ひたすらこの後マキに掛ける言葉を考えるが、やがて立ち上がると空を相手にしているマキの両手を背後からそっと取り、
「ふふ、刺激的な夜のお相手でも良いんですよ?」
 耳元でそっと囁き微笑した。言いながら、紫苑は頭を抱え背中を掻き毟りたい衝動に駆られる。そこにジンが声を上げた。
「きぃぃ! ここにもかわいい娘がいますのにー!」
 能力者達のこの捨て身の戦法の中、譲治も開き直って参戦する。
「マキちゃん、これから俺と夜景でも見に行かないか? もちろん、他に行きたい所があるなら言ってくれて構わない」
 わんやわんやと揉める中、NDAの男性陣も協力的に「いやいや俺と」「いや僕と!」など場を盛り上げる発言をし、それ以外の隊員は既に諦め「良くやるなー」「ああすげぇよなぁ」と傍観を決め込んでいるが、何故かその列の中に焔が混じり「そうだねー‥‥」と呟いたりして場は混沌と化した。
 そこに更にこっそり、イスルが近寄り呟く。
「あの‥‥マキさん‥‥その、今度二人で‥‥どこかに‥‥出かけ、ませんか?」
「ああ、皆が私を見てくれてる、私を可愛いって言ってくれる‥‥」
 かなり元気の出てきたマキだが、収集の付かなくなりつつある室内で譲治が「ここは危ない!」と彼女の腕を引っ張った。マキを安全な場所まで連れてくると、
「もうひと押しですかねー」
 ジンがそう言う、そして譲治と焔、それからNDAの面々に向かいこう言った。
「それじゃあ、そろそろアレやりますか。準備お願いしまーす」
「ああ、アレか」
 譲治がそう言って頷く。そう、あれとは


●あれとは
 ―――ULTの廊下を女性オペレーターが歩く。溜息をつきながらぽつりとひとりごちた。
「能力者に任せちゃったけど、マキちゃん大丈夫かしら? ‥‥もしこれでも元気でないようだったら、今度食事にでも誘って‥‥」
 そこで、その女性オペレーターの足が止まる。
「!」
 そしてその顔が引きつり、驚きに体が震えた。
 そう、彼女の見たものは―――

 これから始まる「シャンパンコール!」
 息もつかさず「一息に!」
 飲んで見せます「シャンパンコール!」
 今宵一晩「宣言どおり!」
 あなたのために「叫びまーす!」

 せーの、魂こめた「シャンパンコール! シャンパンコール!」
 夢にまでみた「シャンパンコール! シャンパンコール!」
 ステキなシャンパン「シャンパンコール! シャンパンコール!」
 飲めるものなら「はっはーい!」
 心も体も捧げます「捧げますはっはーい!」

「‥‥‥‥‥‥‥」
 此処は某繁華街の地下ではない。研究機関である。だが一同実に綺麗に合の手を入れているではないか。ちなみに率先してマイクを握っているのはジンだ。

 片手にグラスを「持ったならはっはーい!」
 今夜は最高!「ホントに最高!」
 ホントに最高?「ホントに最高!」
 祭りだワッショイ!「祭りだワッショイ!」
 ワッショイ!×4「ワッショイ!×4」
 エッサ!×4「サー!×4」
 うりゃ!「そりゃ!」うりゃ!「そりゃ!」
 最初は三回、真ん中二つっ、最後はひとつ、せーの!
 いただきまーす!!「いただきまーす!」

 積み上げられたグラスのてっぺんからシャンパンを注いでいるのは当の少女マキである。
「ちょ!?」
 唖然とする女性オペレーターの傍に、いつの間に移動したのかジンが立っていた。そして言う。
「大丈夫、あれはノンアルコールです」

 そういう問題ではない。

 恍惚とした表情でシャンパンを注ぎながら、マキが嬉しげに笑みを浮かべる。それと同時に、彼女の首筋からポロリとマインドクリップが剥がれおちた。
「あ、落ちた」
 そう呟くなり、焔がそれに止めを刺す。と、同時に、
「くくく‥‥我煩―――」
 このセリフは此処で強制終了させて頂く。そして焔がまたいつもの様にすぐ側に居る女性を見詰め始める。だが、こんな彼でも精神的に摩耗していたようで、若干元気がない。
「取れましたか」
 それに気づいた紫苑もそう言うと共に、
「やば、限界‥‥」
 そのままふらりと倒れ込み激しくうなされる。そこに玲が素早く毛布を掛け、横たわれる場所へと運んでやる。するとそこに響も駆け寄り、
「お疲れさまでした、紫苑さん」
「ゆっくり休んで下さいね」
 一方マキは、キメラが剥がれ落ちるなり一層生き生きとした表情を取り戻し明るく笑いながらシャンパンをあおっている。どうやらこの宴会、マキを口説く祭りからキメラが取れた祭りに移行しているようだ。
 そして甘いものに目がない空も余り物のトリュフチョコを渡され、イスルもチョコレートクリームケーキを押しつけられていた。焔は温泉まんじゅうを貰っている。
「あんた達もこれ持ってってよ」
 言われ、曹長ことフレアが全員に装飾のピンクのバラとシャンパンを能力者全員に手渡した。余らせても仕方がないからという事らしい。
 そしてマキは輝く笑顔を振りまきながらこう言った。
「有難う皆さん! 私、皆さんのお陰で勇気が出ました! 私、これからちゃんと自分の彼氏を作ってみようと思います!」
 言いながら空の頭を撫で「空ちゃんもありがとね」と言っている。やっぱり、あながち満更でもなかったらしい。

 シャンパンで乾杯される華やかなその場所で、
 ぐったりと疲れ果てた能力者達のお陰で乙女は自身と笑顔を取り戻した。
 彼女はこれから自身の幸せに向かって歩いて行くのだろう。

 ちなみにこれは蛇足だが、
 この依頼でNDAの面々は「一体幾ら使いやがった!?」とULTから怒られまくったという。