●リプレイ本文
―――彼等がその場所に現れた時、まず口にしたのはこの言葉だった。
「‥‥どこの遊園地のショ−じゃあるまいし‥‥これは、ちょっとムカつきますね」
蛍火を手に、榊 紫苑(
ga8258)が荒涼とした街中に誰ともなくポツリと呟く。どこぞから虚しい風が吹き抜けた。他の全員も痛みを堪えた様な悲壮感漂う目を敵に向けている。
そこにあっけらかんとした声が響いた。
「あ、バッグアーの戦闘員だー‥‥く、バグアめ許さんぞっ! あんなキメラを作るとは人を馬鹿にするにも程があるっ! その内に絶対後悔させてやりますよっ!」
かと思えば握り拳を握り怒りに震えるのはハラケンこと原田 憲太(
gb3450)である。その言葉を受け頭でも痛そうに呟くのは堺・清四郎(
gb3564)だ。
「やれやれ、日曜朝8時に出て来る奴と戦うとはな」
確かにこれは頭痛もんである。更に横で神凪 刹那(
gb3390)が容赦なく言い放つ。力強く対象を指差して。
「あんなのに負けたら妹に笑われてしまいます。絶対に負けるわけにはいきません」
更に一言。
「あんなの変質者じゃないですか! 何ですかあの動き、変態ですよどう見ても!」
その言葉に呼応する様に丁度彼女の指した指の先で黒い影がワラワラと動いた。それに一同、一瞬ビクリト身体を引きつらせる。
「‥‥あれには負けられないよね」
青海 流真(
gb3715)も同意するように深く深く頷く。リアリア・ハーストン(
ga4837)も呆れた様にぼやいた。
「バグアも何を考えているんだか‥‥」
「‥‥アレに負けたら立ち直れないよなぁ」
苦笑するのは蓮角(
ga9810)だ。だが、そんな冷え切った能力者達を尻目に、何やらやおらゴソゴソと動いているのは紅月・焔(
gb1386)である。全員がそちらに視線を向けると、
『!!!』
「‥‥誤射しないでネ?」
前方の影と見まごう姿の焔。彼は何故かその顔にガスマスクを装着していた。
『何故に?‥‥』
おろおろと集まり、さわさわと能力者同士囁き合うが当の焔は全く気にせずマスク越しにただただ美しい女性能力者を見つめている。此処まで来るといっそ漢らしい。
そして能力者達は目標へと向かい走り出した。
●いくぜ! 人の尊厳を守る為!
能力者達を信じ、少年はひたすら走っていた。今の自分に出来る精一杯、彼等が来るまでは誰一人死なせはしない。彼等は絶対来てくれる。それまで被害者は出させないと固い決意を胸にして。
その時である。少年の耳に希望の声が響いて来た。
だが、その内容はこんなものだった。
―――今です! 「助けてー!」と叫んで助けを呼んで下さい!
「は!?」
突然聞こえてきた指示に少年の頬が引きつる。だが声の主はそんな事微塵も気にせず続けた。
―――そりゃもう特撮っぽく!
色々問い質したい所満載だがそんな余裕のない少年は不本意ながら声を上げる。
「えーー‥‥あ‥‥た、助けてーーー!」
その瞬間、
―――走る茂吉の背後に、何者かの人影が舞い降りた。振り返るとその人影は刀を手にキメラに向かって突っ込んでいく。
足を止め、振り返る茂吉の横を、更に数人の能力者が駆け抜ける。風の如く駆け抜ける彼等も、バッグアー戦闘員に武器を抜き切り飛び掛かっていった。
そんな中、一番最初に現れた蓮角が剣を振い敵から距離を取ると、ステップを踏んで茂吉の所にまで後退して声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
爽やかに声を掛けてくるがその声は紛れもなく先程特撮っぽく! と指示を出した能力者のものだ。「‥‥‥」ほそーい目をしながら茂吉が頷くと、
「そんじゃま、やりますかね」
何ぞ言いたげな茂吉を残し格好良く敵に立ち向かっていく。その後茂吉の身体に何か柔らかいものがぴとっとくっついた。その感触に茂吉が地蔵になる。
「はい、動かないで」
いえむしろ動けません。
そこに居たのは妖艶で豊満な美人お姉さん。リアリアである。練成治療で背中の傷を塞ぐと、地蔵に向かいにっこり笑ってこう言った。
「はい、傷は治ったわね。ならあなたにはまだこれから仕事があるのよ」
「仕事?」
能力者からの指示、地蔵からまってましたと人間に戻り表情を引き締めると、
「茂吉さん、その辺で踊っててください」
試し打ちも兼ねたアラスカ454で敵を牽制しながら口を開いたのは刹那だ。
「貴方の踊りが敵の集中を乱し、私達の応援にもなりますから」
「‥‥‥‥うん?」
仕事ってそれ?
うっそだーあはは
少しだけ泣きそうになりながら刹那の言葉を実に微笑ましい顔で笑い流そうとする茂吉。だが、爽やかで締まった身体の少年が軽く身を躍らせながら、買い物でも頼むかのような口調で告げる。
「そうそう、危ないからキメラからは離れてて下さいね」
「!?」
ハラケン!? ハラケーーン!!?
そう言って当たり前の様に花鳥風月を手に覚醒してしまわないで!? だが憲太はそのまま油断なく敵の動きに集中してしまう。
「ちょ、ま‥‥」
うろたえる茂吉、だが、能力者は全員既に戦闘態勢に入ってしまっている。少年は黙り込み、治った背中に触り唸る。
つーか‥‥
奴等はこの為にわざわざ背中の傷を手当したのか?‥‥‥
微妙に考えたくない結論に辿り着いた少年だったが、
彼はとりあえず隅で夏の暮れに憶えた盆踊りを踊り出した。
そしてその場にできた図が、
能力者八人と、それに対峙する三人の人型キメラ。そしてその隅でひたすら激しく踊る少年が一人。
一種異様な光景である。
「戦闘員相手に三人掛かりってのは‥‥絵的にちょいと嫌な気がするけどな」
「まあそこは気にしたら負けと言うことで」
好戦的な目をした蓮角と刹那が呟き覚醒する。
「取り敢えず逃げない様に囲みますか」
「だな‥‥さすがにあれに負けられん」
紫苑と清四郎も続いて覚醒する。
「歴戦の勇者さんが援護してくれるなら安心だね」
「さて‥‥やるか‥‥」
その勇者は後ろでひたすら踊っているが、流真が覚醒し、焔がガスマクスク越しに敵を鋭い目で見ながら覚醒する。マスクのせいでそんな視線端からは解らないが。
きーだかしゃーだか、そんな奇声を上げながら三体固まっているキメラに向かい清四郎と刹那がふいに銃を抜き出し牽制射撃、刹那は鋭覚狙撃を打ち込み敵の分裂を図る。
二人の発砲音を合図に駆け出す能力者達。彼等はそれぞれ二、三、三の組に分かれ真っ直ぐ目標へと突進していく。
まず一匹めのキメラに紫苑と清四郎がつく。ちなみに紫苑は女性アレルギーだが清四郎ならまず安心だ。
駆け出したそれを助走に、紫苑が蛍火を構え止まらずに敵に一太刀浴びせるが、キメラは跳躍するとそれをかわしてしまう。そして紫苑の背後に着地すると同時に彼の肩口に爪を浴びせた。
「っ!」
すぐに身を捩り深手を避ける。振り返りざまに蛍火をもう一振り、攻撃というよりも牽制の意味を込め振るう。だがそれも回避すると敵はステップを踏み後退した。
「ちょこまかと、うざいな。こういう奴はいるだけ邪魔だ。速攻で片を付けてやる」
紫苑が呟く。だがそこに隙を見定め詰めていた清四郎と目が合った。清四郎はすぐに紅蓮衝撃を発動。刀の先を指で挟みデコピンの要領で力をためて斬撃を放つ。
「戦闘員らしくやられていろ!」
力強いその声に反し、
「斬!!」
ぴん!
きしゃああああああ!!
微妙に可愛らしい攻撃なのが気になるが、敵は派手に悲鳴をあげ致命傷を受ける。そこにすかさず、紫苑が止めを刺した。
それと同時進行し、
流真がリンドヴルムを装着、相手の特性を見定め竜の瞳で命中、竜の翼でスピードを強化する。
「‥‥‥あー」
その横で流真がアーマー姿になるその様を残念そうに焔が見ていた。そしてふっと視線を逸らすとリアリアと視線が合う。
「?」
目が合い、とりあえず微笑んでみせるリアリアのその笑顔に焔が無表情のままぐっと拳を握った。そしてそのまま何の予告もなしに突然敵に発砲する。
同時に流真がオンラッシュを構え焔の撃った弾を回避した敵目がけ振り下ろす。体制を立て直す事の出来なかったキメラがそのまま地に沈み、そこに念を入れ流真が止めを刺した。それを確認すると、リアリアはすぐに怪我をした紫苑の元へ治療に走る。
「ん、最初は使いづらいですが、結構手に馴染みますね」
もう一方では、敵を止まらせないように間を開ける事なく発砲しながら刹那が呟く。その弾の間を縫うように蓮角が敵へと走り距離を詰めていった。
「ハッ! 戦闘員風情がなめるんじゃねぇ!」
威勢良く吐き捨て蛍火を構える。身構える敵が蓮角の一撃を回避すると攻撃しようと爪を引くが、そこに憲太が流し切りを放った。
「舐めている訳ではないが‥‥こいつ等にだけは負けてはいけないと俺のDNAが叫んでいるっ!」
どうも色々必死らしい。キメラはそのまま憲太に薙ぎ倒されると、蓮角が止めを刺す。
「じゃあな!」
その一体も完全に沈黙。こうして三体のキメラが完全に沈黙した。
●無事帰れますね
彼等が闘っていた間延々と盆踊りを踊り、ネタが切れたのか空手の型をやり始め、挙句の果てにはラジオ体操までやっていた茂吉は汗だくで座り込んでいた。そこに蓮角が声を掛ける。
「良かった、無事に帰れますね‥‥色々な意味で」
「全くですね‥‥」
先程までリアリアに怪我を治療され汗だくだった紫苑も溜息交じりに頷く。
「‥‥‥あのなぁ」
そしてこちらも色々な意味で精根尽き果てた茂吉だが、その肩を清四郎が力強く叩いた。
驚き「へ?」と顔を上げる茂吉に彼はこう言う。
「よくやってくれた英雄!」
はい? と茂吉が疑問符を浮かべる。何? 良くやったって? 踊りが? そんな顔をする彼に、清四郎がしっかりと続けた。
「俺たちは敵を倒しただけだ、皆を守ったのはお前だ」
「‥‥‥‥」
言葉を受け、気恥かしさと嬉しさにみるみる茂吉の顔が紅潮する。そしてぷいと顔を背けると、
「あ、当たり前だ! 正義を遂行するは正義の味方の務め! こ、この位‥‥」
あとはもごもごと口ごもり言葉にならない。そこに流真が笑顔で告げる。
「茂吉さん。一般人なのにすごいよね。でも、無謀なことはダメだよね。正義の味方も、1人じゃ何も出来ないことはあるんだよ」
そこででも、と繋げると、
「仲間が居れば大丈夫。ボクもキミの仲間だからね」
そう言って彼女は手を差し出した。まっすぐ伸ばされた手に、照れ臭そうに茂吉が手を伸ばした。
「ま、無茶だけはしないように、な」
紫苑も腕を組み呟き、
「ご苦労様でした」
健太もねぎらいの言葉を掛けた。
「‥‥‥‥」
前もそうだった。
能力者達は能力者でもない自分にもこうして手を差し伸べてくれる。
やればやっただけの事を認めてくれて、仲間だと言って助け合い協力してくれる。そうだ、だから自分は―――彼等に憧れたのだ。
強さだけではなくて‥‥‥だからこそ。
「お疲れ様でした、茂吉さん」
そう言って近寄ってきたのは刹那だ。
「茂吉さん、最後に重要な仕事が残ってます」
「‥‥‥?」
刹那はにっこり笑い、
「私喉が渇きました。茂吉さんが頼りになるってところを見せてください」
茂吉がうっすらと半眼になるが、刹那は笑顔を崩さない。
「‥‥‥あの」
「あ、私炭酸は駄目ですから」
かくして
「ちくしょおおおおおおおおお!!!!!」
叫びながら全力ダッシュする少年の姿があった。その背後からは「あたし紅茶ねー」という色っぽいお姉さんの声と、「取り敢えずコーヒー」というメガネのクールなお兄さんの声、「何か甘くないもので」という赤い目のおおらかなお兄さんの声に「水」と呟く煩悩力者。「ウーロン茶で」という明るく爽やかなお兄さんに「日本茶を」という大柄で渋いお兄さんの声が響き「あったら牛乳!」と叫ぶ小柄なお姉さんの声。
各々容赦なく注文を言いながらその背中を見送り、
「それにしても戦闘員だけで終わりとは。傭兵としては良かったですが、しかしそもそも特撮における敵とは‥‥!」
「そうですね、あれは邪道ですよねー」
「しかし、バグアも人類の何を目指しあんなものを作ったのだか‥‥」
「バグアにも馬鹿がいるんですよ、多分」
上から蓮角、憲太、清四郎、紫苑、
「みんな無事で良かったね」
「そうね、一応怪我してる人いたらすぐ言ってね?」
「シュコーシュコー‥‥‥ふう」
「あ、ジュース来たみたいですよ」
上から流真、リアリア、ガスマスクを脱いだ焔、刹那である。
「オマチドオサマ‥‥‥」
両手一杯に缶ジュースを抱え、茂吉が戻る。能力者達はそれぞれ自分の注文したものを受け取ると、勢い良く煽り出した。
戦闘の後の一杯は美味い。火照った体に冷たい飲み物が染み込んでいく。
そうそう、と蓮角が声を上げ、
「お疲れ様でした‥‥凄く良かったですよ」
踊り、踊りね‥‥そこ、笑い堪えない。説得力がゼロである。
「はい、とてもいい応援になりました」
その横でとてもいい笑顔で刹那が言った。
「皆さん結構鬼ですねー」
とか言いながら踊る際さらっと危ないから離れててとか言ったのは君だ憲太。
そして他の皆さん。皆さん我関せずで飲み物を流し込んでいるが誰一人止める人はいなかったぞ。あ、誰も茂吉と目を合わせない。
「‥‥‥‥ふっ」
哀愁を漂わせ茂吉が下を向く。踊りの事とか怪我を直した理由とかこのジュースの代金は俺の驕りか? とか色々言いたいことは山ほどあるが―――
だが、その眼が一度閉じられると優しく開かれ、冷たい飲み物に喉を潤す能力者達をのんびりと眺める。
なんだかんだ結局自分はこの人達が大好きなのだ。それから自分がなりたいと思っていた人達がこういう人達という事が嬉しくて―――だからこそ、これからもこの人達と共に出来る事をやっていけたら‥‥
そしたらいつか本当に、平和な日がやってくるんじゃないか。そんな希望が胸に湧いてくる。
「?」
そんな中、焔がまっすぐ茂吉の傍に歩いてきた。すると茂吉の肩をぽんと叩き、
「‥‥大丈夫だ‥‥あんたは立派だった‥‥その正義の心を忘れるなよ? ‥‥モン吉」
「もきちです」
どうやら明日は平和そうだ。