●リプレイ本文
RUNNER
都市を中心に囁かれる噂話。地方都市から出始めあっというまに日本全国に伝播した謎の言葉。前回の調査によりそれは裏でバグアが手を引き沖縄より送り出した捕虜の人間により流布「させていた」噂と判明。だが、その言葉の意味は未だ解らず依然気味の悪さばかりが付き纏う奇妙な噂である。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
見た者に夜を思わせる終夜・無月(
ga3084)がそれに浮かぶ月の様な銀の髪、赤い眼を向け静かに呟いた。
人と人が何事かを囁く声が聞こえる。
―――え? 何? 殺されたあの子について教えろ? 別に普通だよ。明るい子だったし一緒にいて変なとこなんてなかったけどなぁ‥‥え? 学校で? そうだね、あたし達と良く色んな事話したりしてたけど、まああの子の場合‥‥どっちかって言うと聞き役? てか何でこんな事‥‥「殺された彼女の為にも調査している」? ひゃー、かぁっこいい!
学校にて。
―――あああの子ね、人懐っこくて可愛い子だったかな。近所だったから挨拶位はしたけど、‥‥そういえばご両親と会った事がないねぇ何か仕事で留守にしてるとか言ってたなぁ‥‥それにしても一回も会ったこと無いねぇ‥‥気の毒に
街にて。
そして、被害者の両親の行方を追うとその人物達の消息は途絶えていた。だが捜索依頼も出されておらず、居所の確認も取れていない。
無月が被害者の通っていた学校の彼女に関する資料を片手に深く息をつく。
●討伐
街の中に木霊する悲鳴と猛烈な埃。建物を倒壊させながら大型の自然界ではあり得ない獣が猛威を振るう。虎によく似た容姿と動き、だが虎とはかけ離れた運動性、そして破壊力、禍々しさ。
唸り声を轟かせその鋭い眼光を居合わせた人へと向けた。その牙には、
―――血が滴っている。
突如その横手から45口径の弾丸がキメラの頭部に叩き込まれた。それは出現したフォースフィールドを突き破り、頭部に直撃、横手に吹っ飛ばす。
「えーそこの一般の方、能力者はこっちですからこっちの方に逃げて下さいね」
インパクトに反し、アラスカ454を構え飄々とした声を上げるのは覚醒した周防 誠(
ga7131)である。彼に声を掛けられキメラに睨まれていた民間人が彼目がけ小走りに走った。
「こっちです! どうぞこちらから!」
それを受けて彼のすぐ後ろにいたレールズ(
ga5293)が退路を指すと、その人物はおどおどと頭を下げると倒壊した道を足早に去っていく。
能力者の到着である。
「―――ここに通報した木下さんという女性はいないみたいですね。安全な場所に居るのは良い事ですが‥‥」
レールズがそう呟くと、桔梗 澪(
gb2737)が答える。
「それでは、俺は戦闘ではあまりお役に立てそうも無いので通報者である木下リサの保護を優先します。周辺を捜索してみるとしましょう」
澪はそう言うと覚醒を解き通報者を保護する為現場を四人に任せて周辺の捜査に乗り出す。
「そうですか、それじゃそっちはよろしくお願いします」
構えは崩さずその言葉にのんびりと誠が返した。彼は今の一発でこの敵相手にこのメンバーの戦闘力ならば簡単に討伐できるだろう事をすぐに直感したのだ。‥‥それでも決して油断はしないが。
そこに覚醒した無月が月詠みを構えキメラへと挑む。
「死は等しく与えられる‥‥お前にとって是は救いかな‥‥」
そして少しでも情報を得る為相手と対峙した。発現した金色の獣の瞳がひたすら冷たく相手を探り込む。
(「誘き寄せられた? ‥‥言葉に? ‥‥それとも‥‥」)
感じる違和感に自らを問いただし、相手の目を良く見る。―――これは
気づくと同時に豪破斬撃、勢い良くキメラを弾き飛ばし冷酷な目を向け告げた。
「―――治安の良いこの街はそう野良のキメラが来るような場所じゃない‥‥そしてこのキメラは明らかに目的を持って動いている‥‥何故なら目に、迷いがない。ならば答えは一つだ。このキメラは誰かに作為的にこの街に放たれたキメラだという事だ」
覚醒した無月はどこまでも冷淡で容赦がない。
「なら予定通り自分はこの後被害者宅を捜査しますから、木下さんの事は皆さんに任せますね」
無月の言葉を受けやはりアラスカ454を構えたまま誠が答える。するとキメラは重たそうに体を起こし、痛みで興奮した様子で激しく慟哭すると猛烈な勢いで牙をむき漸 王零(
ga2930)に突っ込んできた。だが王零はあっさりと身をかわすと、直ぐに覚醒した。
「闇よ。我が意に従い我が求める形をなせ‥‥形成『狂王の仮面』」
一瞬にして王零の身体から黒銀の闇が発し、銀髪灼眼化し髪が逆立ち瞳に紋様が現れる。持っていた国士無双を握りなおし、もう一方の手にも同じ剣を持つ。
「汝が悪しき業、全て我が貰い受ける‥‥流派奥義『無明』‥‥我に断てぬモノなし!!」
キメラに止めを刺すべくあるだけの力を手加減抜きで叩きこむ。爆発的な威力でもって国士無双がキメラに叩きつけられ、キメラがそのまま地に沈み動かなくなった。
「万魂浄葬‥‥‥その穢れた躯を棄て聖闇へと還れ‥‥」
刀を納め沈黙したキメラに呟き、仲間へと顔を上げる。
「終わったぞ」
全員が頷くと、それまで通行人や民間人に気を配っていたレールズが呟いた。
「キメラはこれで片付きましたね、では、聞き込み並びに調査を開始するとしましょう」
●調査
「そこに居るのは誰ですか?」
半壊した交番の物陰に動く者の気配を感じ、澪が声を掛ける。すると物置越しに明らかにビクリと誰かが身体を引きつらせ空気が震えた。それに薄く笑みを浮かべながら澪が更に言葉を続ける。
「‥‥あなたが木下リサさんですね? 通報頂いたULTの能力者です」
ゆっくりと近寄ってくる澪へ隠れていた机から這いだし恐る恐る姿を現す。その姿をみて、口の中で含み笑いを漏らすが、
「もう大丈夫だよ」
その女性の手を取りどこか酷薄な、だがそれでいて優しい笑みを浮かべた。
キメラとの戦闘を終え、被害者宅に捜査に向かった誠を抜く三人に腰を抜かしているのか澪の腕にしがみつく様な形で木下リサは現れた。それに真っ先に駆け寄り、声を掛けたのはレールズである。
「まずは落ち着いてください。もう大丈夫ですから」
優しく微笑みかけ落ち着かせる。リサは何度も頷くとやっと澪の腕を放す。
「まずは通報して頂いた時の事を確認しますね。念のため彼女が、えっとRUNNERの噂を聞いてしていた変な事とはなんでしょうか?」
「その‥‥本当に、大したことじゃないんだけど‥‥」
目を白黒させながらこんな事を能力者に喋っていいのか、と今更不安になったのか歯切れ悪くリサは告げる。
「以前あの子の家で噂の『RUNNER』って何なんだろうね、って話したの。ほら、薬だとか服だとか色々言われてるから、それで『RUNNER』を話題に出したらあの子急に何か思い立ったみたいになって『電話しなきゃいけない所があったんだ』って言いだして、それで『どうぞ』って言ったら‥‥」
そこでリサが涙ぐむ。能力者は辛抱強く落ち着くのを待ち、話を続けさせた。
「そしたらあの子、誰に掛けているのかは解らないけど電話口でずっと能力者の事を話題にしてたの。でも別に普通に世間話するみたいに喋ってたし、全然変なとこは‥‥なかったんだけど‥‥でも、話の内容がすごく細かくて‥‥ちょっと小耳に挟んだような『そんなことまで?』って思うような事も覚えて話してたから‥‥それで」
そこまで喋って気まずくなったのか、リサは口を噤んでしまう。覚醒時とは別人の様な柔らかい声で無月がそっと背中を押す様に質問する。
「他に変わった所は? 誰かと接触してたとか、最近の友人の様子は?」
無月がそう質問すると、質問されたということに意外そうな顔をしてリサが話し出す。
「え? ‥‥えっと、特に何も。誰かと接触って、学校行けば先生も友達もいるし、でも私の知る限りそんな変な人と一緒に居たっていうのは‥‥」
きょとんとした顔でリサが答ええたあと、又考え込むように沈黙してしまう。
「何でも良いのだ、思い当たる事を話すが良い」
「え、えと、それじゃああの‥‥」
王零に促され、隣に付き動じない澪におろおろと目配せしながらリサが口を開いた。
「こんな時だから誰でもそうだと思うけど、あの子すごく能力者の噂話やニュースに興味があったみたい」
―――キメラに滅茶苦茶に荒らされた民家の一室を誠は歩いていた。学生が一人暮らしするには広すぎる家。慎重に以前押収されたドラッグRUNNERがあるか調べながら辺りを調査する。
だが特にそうしたものは出てこない。ただ一つ違和感があるものとすれば、
「(女子高生が、新聞‥‥か)」
どうやら此処の被害者は新聞を取っていたらしい。だが別段変ともいえない事である。少々珍しい事ではあるのかもしれないが何らかの理由、下手をしたら受験の面接の為等の知識集めという事もあるかもしれない。
他にも適当な雑誌を数冊購入していたようで、倒された本棚から無数の雑誌が散らばっていた。種類は所謂最近の流行、テレビ雑誌と週刊誌、記事内容に能力者の事が取り上げられているものが多くある。
視点を変えて得に荒らされている場所を探る。その場所は、
――― 一階リビング、電話の置いてある周辺。
そこに喉を噛み切られた被害者の変わり果てた遺体が横たわっていた。
そこに、RUNNERに能力者が絡んでるって聞いたから―――と呟き、リサが顔を上げる。
「あの、やっぱりRUNNERなんですか? 噂じゃRUNNERの調査に能力者が乗り出しているっていうし、やっぱり噂通り洗脳? RUNNERの噂を知る人は次々と殺されるっていう話もあるし―――」
「RUNNERの調査に能力者が‥‥? はは、確かにULTは小さな事でもバグアと関連がありそうで要請があれば動くこともあります。しかし、大規模な調査があったとは聞いた事がありません、あまり神経質にならないでください」
不安そうに瞳を揺らすリサにレールズが微笑みかける。「そうなの?」と澪に視線を投げると、澪も黙って微笑した。その眼が無月に向けられる。
「はい」
無月がはっきり頷いて見せた。やっと納得したのかリサがゆっくり下を向く。
「汝他に知る所はないか?」
「えと、あとは‥‥後は本当に皆が知ってるRUNNERの噂位。だって本当にRUNNERって名前のもので裏が取れたのって、ドラッグだけでしょ? あとは‥‥ランニングの事だとか、化粧品だとか‥‥」
そこに王零が単刀直入に質問を投げかけた。
「その中で有力なものは何だ?」
「解んないよ、どれもこれも曖昧でこれってものはないんだもん。でも、だから面白いんじゃない」
「ならばそれで全部という事か」
「う‥‥ん‥‥私からはこれで全部」
「そうか」
王零が了解したように軽くうなずく。そして、そこで本当に全部だったのだろう。
「れ?」
全てを吐きだし空っぽになったリサの体の奥からは今更ながらやってきた友を亡くしたという実感と共に涙が溢れていた。
●得た情報
リサと別れた後一度無月は被害者女性の通っていた学校に行き被害者に付いて捜査。その後合流した能力者達が互いの情報を交換する。
被害者自身能力者の情報に対して積極的であったこと、
彼女が「RUNNER」の噂を耳にするなり電話口で何者かに能力者の事を延々話していたという事、その際かなり細かい情報まで憶えて話していたという事、
彼女自身に特に不審な点はなく、基本明るくて話は聞き役であったという事、
彼女の両親は仕事の都合上長期に渡り家を留守にしているということだが、その実その消息が絶えている事、
そしてこれは誠が被害者宅を調べた際に発見した電話の通信記録から解った事だが、彼女が頻繁に掛けているある一つの番号が既に使われなくなっていた事である。だが使われていた番号それ自体に不審な点は何もない。ちなみにこの番号、キメラに襲われるここしばらくはぷつりと掛ける事を辞めている。
さらに言うなら、彼女自身家の電話の番号を数回変えている事が学校の連絡網より判明。
まだ不明な点は多いが、此処まで情報が集まれば一つ浮き彫りになる事がある。
RUNNERは何かの兵器や物としての名前ではなく恐らく合図や合言葉の一種であるという事。
そしてそこでやりとりされているものが、能力者の情報であるという事。
しかもそれらはニュースや噂話、要するに民間での能力者に対するイメージ、支持、活躍、はたまた誤解、偏見が主であるということ。
無論、他にも万一何らかの形で重要な情報が漏れていれば、それも流れているのは当然だ。
人の口に戸は立てられない、とはよく言ったものである。
そして気になるのはキメラと対峙した時に無月が感じた違和感。
「これは作為的に放たれたキメラ」
キメラと相対した時に直感したが、それが本当ならば何故か? 被害者はキメラに襲われるまで暫らく「連絡先」に連絡を取っていなかったがそれは関係あるのか? という事である。
だが今回の調査はRUNNERの正体を絞り込むには期待以上の情報が得られたと言って良いだろう。今回の事でRUNNERの狙いは「一般の人の評価を中心とした能力者の情報」である事が確定した。更に今回の彼等の活躍で目的正体共に全く不明であったRUNNERの輪郭を朧ながら浮かび上がらせたのだ。