タイトル:赤い花マスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/15 23:00

●オープニング本文


 赤いその花の群れの中に、埋もれる様にして座り若い女が風に吹かれていた。
 赤い花、温かいこの季節になると此処には一面この花が咲き乱れる。
 これでもかと咲き誇る花のおかげで、その辺り一帯まるで燃えているかの様な紅色に染まっている。その光景は息を呑むほど美しい。
 毎年いつもこの時期になるとここに来ていた。この時期になると、待っていたかのように咲き乱れるこの場所を自分は昔から知っていたのである。
 柔らかい日の光に照らされたまま、その赤を眺めそばの花弁に触れた。

 空が高かった。

 女が光を眩しがるように目を細める。そしてその光に向かって寂しげに笑い優しく触れていた花弁からそっと手を引いて、呟いた。
「さよなら」
 ひと際優しい風が彼女の肌をなでた。それと共に数枚の花弁が宙に舞う。

 その赤い空間に、唸り声と共にキメラが現れた。


 ―――作戦は成功
 花畑にて敵を待ち伏せ、せん滅。
 キメラのタイプは獣型、通称ファイアビースト三頭。爪や牙以外に炎撃を放つキメラ。
 炎撃による炎を考慮し、現場は人里から距離を置く。結果、家屋共に被害は皆無。

「仕方ないわよ戦争だし、キメラ放っとけないし」
 その仕事をこなした能力者の女ジュンはそう言って焦土と化した現場を引き上げた。
 ただ、引き揚げる際に羽を半分焼かれた蝶が地面で羽ばたこうとしているのを見つけると、声を上げて泣いていた。



 ―――――赤いヒナゲシ

 あるという事が嬉しかった。
 ただそれだけだった。
 どこに行っても逃げられはしない現実、戦争。
 だが、それは此処から逃げ出さなくても、追いかけなくてもそこにあった。
 例えそこに行けなくても、ただそこに確かにあった。
 それだけで嬉しかったのだ。

 だからだろう。

 キメラから逃れ廃ビルに逃げ込んだ子供を救出する任務中、その子供が赤いヒナゲシを持っていたのだ。何故持っていたかなんて知らない。生えていたものを引っこ抜いたのか、それか誰かから貰ったものだったのか。
 だがその子供を発見し脇に抱えた瞬間、その花が地面に落ちてしまったのだ。
 そして彼女ははそれについ手を伸ばしてしまった。そして瞬時に危機を察すると共に無感動に思った。

 あ、まずいな‥‥‥

 そう思った時にはもう遅い。背中に鈍い痛みが走ったと思ったら大量に出血していた。
 キメラの爪にやられたらしい。拾えなかった花に、彼女の血の飛沫が掛かった。
「くそっ!」
 深手である。もう戦闘は無理だろう。そうなると撤退だ。一人なら問題ない。だが、―――此処には子供がいる。
「救援を要請する! 現場の廃ビルは五階建て! キメラ二体! 大型の獣型キメラ! 現在子供を一人保護、しかし現在自力での離脱は難しい! 頼む、救援を!―――」

 ―――無線機を片手に、彼女は廃ビルの中を駆けだした。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
スィーリン・ハルシャ(ga8187
25歳・♀・EP
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
使人風棄(ga9514
20歳・♂・GP
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
水鏡 空亜(gb0691
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

「すいません、そこにあるヒナゲシの花、そう、その赤いやつ。二本くれますか?」

 ラストホープの花屋に細身のシルエットが現れる。その人物スィーリン・ハルシャ(ga8187)はそう言って赤い花を指差した。


 ―――馬鹿やった
 動けなくなった身体を壁に預けながらジュンはぼんやりと天井を仰いでいた。
 別に花など欲しいわけではなかった。今世の中は戦争中、そんな事に固執している場合ではないのだ。解っている。
 だというのに、つい、である。自己嫌悪に目の前が真っ暗になった。心配そうに覗き込む子供に無理に笑ってやった。
「‥‥格好悪いね」
 子供は首を振る。が、自分は格好悪いのだ。
 結局自分は、これまで平気な振りして本当は悲しくて仕方なかったのだ。


 ―――思い出は‥‥貴方の胸にありますか? そこに大切な人は居ますか?

 救護要請を受け、駆け付けた能力者達が廃ビルに入り込む。
「少し厳しいですが‥‥皆さん頑張りましょう」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)が険しい表情で呟く。実際、中は確りした造りになっている為倒壊の危険こそ薄そうだが、床や壁がかなり脆くなってきている。床が抜けたり、天井が崩れてきたりしたら洒落にならない。

 ―――赤い‥‥ヒナゲシ‥‥私の故郷にも、そんな風景があった気がする。‥‥あの花畑は‥‥思い出の風景は白だった。純白の‥‥花畑
「‥‥‥」
 シエラ(ga3258)が無言で俯く。それにセラフィエルが足を止めた。
「どうしました?」
「赤く染ってしまったのは、私の眼‥‥? 私の手‥‥? そうして、流した涙を、私は羨ましく思います。私は忘れることでしか、耐えることができなかった‥‥」
「‥‥‥」
 セラフィエルが口を閉じ、シエラに近寄り諭す様にゆっくり口を開く。
「つらいという気持ちは人間である事の証だと思います」
 つらい? その言葉にシエラが他人事の様に、映らない瞳でセラフィエルを見上げる。それにセラフィエルはただ笑って見せた。
「さ、いきましょうか」
 セラフィエルがそう言ったと同時に、

 ―――ふふ、ふふふ

 使人風棄(ga9514)が一人駆け出す。
「救助に行くならご勝手に〜、僕は楽しませてもらいますから〜」
 飄々と言ってのけ、身軽に走り去る。軽い、ぞっとする笑い声がパタパタという足音と共に遠くなった。
「早く助けに行かないと‥‥怖い思いをしてると思うしネ‥‥」
 少々外れた物言いで水鏡 空亜(gb0691)もそう言うと、すぐその後に続く。
「全く、仕方ないな」
 榊 紫苑(ga8258)が先行した二人を見て嘆息し、歩き出した。そして一行は砂利や割れた所々割れた硝子が散らばる荒れたビル内を歩きだす。救護班のハルシャが無線機を取り出し耳にあてた。
「現在位置を教えて下さい。喋れますか? ―――はい、はい、四階の奥から二番目の部屋ですね。ではそこから動かないで下さい。懐かしいなあ‥‥私、こういうビルをねぐらにしていたことがあるんです」
 歩きながらハルシャが無線機を切り、此方に向く。
「ジュンさんの現在位置が把握できました。‥‥無線機を持っていた事が幸いしましたね」
 その場にいた全員にそう言うと、御巫 雫(ga8942)が頷いた。
「そうか、ならば貴様等はすぐに現場に急行するが良い。キメラは私達に任せろ」
「救助要請‥‥時間との勝負か」
 紫苑もポツリと呟いた。
 その時である。上の階、天井から轟音が轟く。
『!』
 全員反射的に上を見上げ走り出す。階段を駆け上がり、二階に上がると、其処にはリスを思わせる体長二メートル程のキメラが風棄に向け爪を振るっていた。
「ふふ‥‥これは壊しがいがありそうですね〜」
 身を躍らせ敵の注意をひきつけているのは先行していた風棄である。覚醒し、瞳孔は開ききり、そしてその顔は、
 ―――禍々しく笑っている。
 ルベウス、攻撃欲が促進されると言われている爪を構え、瞬天速で相手に詰めより瞬速撃で叩き込む。キメラが耳を覆いたくなる様な唸り声を上げた。
「さて、綺麗に壊してあげますよ〜」
 その声を聞き、風棄の両頬が壊れた人形の様に吊り上がる。
「ここは私たちに任せて、皆さんはジュンさんの所へ急いでください!」
 言うないなや、セラフィエルが素早くアルファルを取り出し、矢を弓にあてがう。その背中から三対の羽が伸びた。
「ん! んじゃこの場は、お任せしますって事で」
 鴉(gb0616)そう言うと同時に、セラフィエルの手から矢が放たれる。命中し、キメラに隙ができると五人は一気に走りだした。
 だが、痛みに我を忘れたキメラが通り過ぎる五人に爪を振り上げるその時、
「やらせないヨ !ボクが守るんだ! 絶対に!!」
 威勢のいい声と共に、武器を夏落に持ち替えた空亜がキメラに切り込む。攻撃は掠っただけでダメージは皆無だが、その間に五人は先へと走って行った。
 それを追い掛けようとキメラが踵を返すと、不意にすぐそばで声がする。
「おやおや、あなたの相手は僕ですよ〜? 余所見をするなんて余裕ですね〜」
 いつの間にやら接近していた風棄がルベウスでその腹をえぐった。


 ―――赤いひなげし。同じ赤なら、彼岸花が浮かぶが、あれは、人によるが、縁起悪いかもしれない

 走りながら、紫苑がぼんやりとそんな事を思う。すると雫が横で心を読んだかの様に呟いた。
「ふむ。虞美人草‥‥で、あるか。‥‥殺された者の流した血から生えると云う伝えもある」
「‥‥‥」
 女性アレルギーが出たのか、紫苑が黙り込んだ。しかしもう既に背中の辺りが痒い。ジンマシンが出始めたのだろう。
「戦いに犠牲はつきものである。何かを得るには何かを失わねばならない」
 だが雫はそんな事知る由もなく続けた。
「‥‥両方を掴む方法もあるだろう。だが、その為にまた、別の犠牲を生む」
 据わりの悪さを覚えながらも、紫苑は雫の言葉に耳を傾けている。そして、ちらりと雫の顔を覗き見る。と、雫はとても真摯な表情をしていた。だからだろう。
「そうだな‥‥」
 紫苑は、ただそれだけを呟いた。
 そして五人は、無線で連絡を受けた場所へと辿り着く。四階の、奥から二番目の部屋。扉を開け中に入ったが、中には誰もいない。
「私達はULTから派遣された能力者です! ジュンさん、救助に上がりました!」
 がらんどうの部屋の中にハルシャが声を張り上げると、物陰からヨロヨロと手が延ばされた。
「そこか!」
 それに鴉が近寄る。其処には血を流し動けなくなったジュンと、怯えきった子供が隠れていた。
「良かった‥‥来てくれたんだ」
 貧血を起こしているのか、朦朧とした口調でジュンが呟く。
 シエラが素早く救急セットを取り出し、傷口を止血、消毒する。その横で、ハルシャが子供にも怪我がないかチェック。こちらには特に外傷はないらしい。
 ―――だが、ショックが大きかったのだろう。身体というより、心の方が相当参っているようだ。血とキメラの脅威に怯え、警戒するように瞳を見開き、首を小刻みにふりすっかり落ち着きをなくしている。
「‥‥‥」
 そこに、鴉が持っていたこねこのぬいぐるみをずいっと差し出した。
「よく頑張ったな」
 声をかけ、ついでに頭の一つも撫でてやる。ぬいぐるみを受け取った子供は、それに顔を埋める様にぎゅっと抱きしめた。
「もう、大丈夫ですよ‥‥。後は仲間を信じましょう」
 シエラがジュンにそう声をかける。それに、鴉が更に視線をやった。
「‥‥‥よかったらこれもどーぞ」
 そんなジュンに、鴉がさらにミネラルウォーターを手渡した。手渡された水は封を切らず、そのまま熱を持った傷に当てられる。ジュンが心地よさそうに目を閉じた。
「では、脱出だな」
 雫が言う横で、ハルシャがセラフィエル達と連絡を取り、発見した一頭のキメラは仕留めた旨を確認する。
「そう、忙しいのにごめんなさいね」
 ハルシャがそう言って無線を切ろうとしたその時、
 廊下側の扉を破り、もう一頭のキメラが乱入してきた。
「!」
 一同、一斉にそちらを向く。シエラとハルシャが身構えるなか、そこに紫苑が一歩前に出た。
「さて、邪魔だ。冥途の旅へ送ってやる。援護頼む」
 その隣に、鴉と雫が臨戦態勢をとり武器を構えている。
「はいよ、どーぞ、お手柔らかに」
「うむ、ここは私達に任しておけ」
 三人が揃って敵を見据えた。


 ○廃ビルの一室にて
 キメラを倒し、無機質な静けさを取り戻したそのビルの中に、調子外れの歌が響く。
「▲○■♪●×■●●♪〜」
 キメラを足止めする為仲間と別れた後、自分達のグループはもう一体のキメラを探すべくビル内を探索していた時の事である。
「どこにいるんでしょうね〜ふふ、ふふふ」
 風棄が不気味に笑う。ちなみに現在自分達は三階にいるのだ。
「?」
 その歌が、不意に止まる。
「妖精さんが教えてくれたヨ♪ ソコ!」
 飛びつく様に目的の場所にステップを踏むと、
「あれ? 何でこんなところにお花さんガ?」
 其処には、微かに血の掛った、そして明らかに踏み潰されたとみられる赤いヒナゲシが落ちていた。


 ○脱出!
「さってと、鬼さんこちら、手のなるほうへ」
 そう言いながら、鴉が軽やかに身を躍らせジュン達から距離をとりキメラをおびき寄せる。同時に、シエラとハルシャが覚醒した。
 が、ハルシャは覚醒前に子供に人差し指を立てると、
「お姉さんの言葉は絶対真似しちゃ駄目よ?」
 といたずらっぽく笑う。そして覚醒するなり、
「Shit! クソ・キメラが」
 確かに真似しちゃいけません。
「もう二度と‥‥」
 シエラの瞳も朱色に染まった。そして二人は子供とジュンを担ぐと、キメラは三人に任せ戦線を離脱する。
「今だ!」
 そして機を計らい雫が渾身のタックルをキメラに放った。
 その隙を逃さずに、紫苑が蛍火でキメラに斬りかかる。
「逃げなさんなって」
 其処を追いかける様に鴉が迫り、急所突きを繰り出した。
 ダメージを受けたキメラがすぐ側にいる鴉に体当たりを繰り出すが、鴉は飛び上がり身を捩るとそれを回避した。
 そこに、深く息を吐きながら雫が止めをさす。キメラがうめき声をあげ地に沈み、そして空を舞っていた鴉が着地し、誰ともなく言う。
「お疲れ様ってことで」
 紫苑が蛍火をおさめ、雫が笑みを浮かべて見せた。


 ○花は
 シエラとハルシャが二人を外へと運び、安全な場所へと退避させるとハルシャは直ぐに救急車を呼んだ。
 シエラは無線機にてそれぞれの戦果を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。現在位置を知らせると、真っ先にやってきたのはセラフィエル達だった。ただ、そこに風棄の姿がない。キメラ退治が済んでしまうと、まるで任務に興味をなくしたようで単独で動いてしまったようだ。

 ―――その身を必要以上に血で染め上げて。

「面目ないわね」
 駆け付けたセラフィエルに、ジュンが力なく笑ってみせる。意識をある程度保ったまま、彼女は何とか持ち堪えていた。
「馬鹿ね、どうでも良い事で気を取られて、こんな事になってちゃ仕方ないのに―――」
 突如言葉を止めると、ジュンは驚いた様に空亜に向いた。
「それは‥‥」
 踏まれた、赤いヒナゲシの花。
「これ? 妖精さんが教えてくれたんだヨ!」
 無邪気に呟く空亜の手元を見ながら、ふいに彼女の頬に涙が伝った。
「本当に‥‥馬鹿だなぁ」
 自分を罵るようにジュンが言う。その頬に、シエラが否定するように首を振りながらそっと触れた。
「その悲しみも、大事にしてください‥‥この戦いが終わったとき‥‥きっとその悲しみが、貴女を幸せにするでしょう」
「‥‥え?」
「愛しいと思う気持ちが、悲しみを生むのだから」
 そして手を放した。
 ジュンが、黙ったままシエラの顔を見つめている。
 そこに紫苑達も駆けつける。そして、紫苑が女性であるジュンから慌てた様に距離をとると呟いた。
「お疲れ。人助けもいいが、自分を犠牲にするな。悲しむ人いるんだろう?」
「‥‥‥」
 仕方ないな、といった様にこちらを見て、それきり黙ってしまっている。ついでジュンの目を、雫が覗き込んだ。
「貴様は人の命を守った。その末に花の命を奪ったのかもしれない。だが、花を守ろうとすれば、人を切り捨てる結果となっていた‥‥ただ、それだけのことだ」
 雫がこちらを真っ直ぐに見てそう言った、優しくはない、が、そのかわり何処までも真剣で、しっかりとその言葉が胸に届いてくる。
「貴様が悲しむのも道理だ。が、成したいと思うのならば、受け入れよ。無論捨ててもいいが、‥‥誰も救えんぞ」

 ―――そうだな

 素直にそう思う。

「お兄ちゃん」
 こねこのぬいぐるみを抱いたまま、子供が鴉に駆け寄った。
「これ、ありがと」
 そして、照れたように笑い、その子供はぬいぐるみを抱きしめた。

 おかげで自分はあの子を危険にさらしたのだ。子供の無邪気な光景を眺め、ジュンが寂しそうに俯く。が、その眼が大きく見開かれた。

 何故なら、目の前に、燃えるような赤が―――
 自分の目の前に、ヒナゲシの赤い花が差し出されていたから―――

「‥‥‥‥」
 ハルシャである。彼女はもう一本の花を、子供に渡していた。
 受け取り、彼女を見上げる。するとハルシャは、
「花はどこにでも咲く。何度でも季節が巡るたび。それをどう思うかは、あなたの勝手ですけどね」
 ただ、それだけを言った。ジュンは思わず―――

 空を見上げる。

 それは、いつかと同じ様に高かった。そして、風もまた場にいた全員を優しく撫でる。
「きれいですね」
 セラフィエルが花を眺めながら呟いた。
「その場所に、機会があれば私も行ってみたいですね」
 その言葉に、ジュンが弾かれた様に顔を上げる。そしてセラフィエルが天使の様な笑みを浮かべ言った。
「私は‥‥みんなが笑顔でいられる世界を取り戻す、それが償いだと思っています」

 ―――この戦いが終わったとき‥‥きっとその悲しみが、貴女を幸せにするでしょう。
 ―――皆が笑顔でいられる世界

 気付けば空亜が何もない空間を凝視している。それに真っ先に気付いたのは紫苑である。
「どうした?」
「これから飛ぶヨ! 見てて!」
 その言葉に全員がその方向へ顔を向けると、茂みから蝶が空へと舞い上がった。ヒラヒラと空を旋回すると、何処へともなく行ってしまう。それを眺めながらジュンが呟いた。
「さよなら」
 そして強い笑みを浮かべ七人に向き直る。
「成したいと思うなら、救いたいと思うなら受け入れる。でも全てが終わったら、もう一度。‥‥そしてそうしている間にも、花はどこにだって咲く、でしょ?」
 鴉に渡されていた水の蓋を開け、そこにヒナゲシを一輪刺しにした。水を得て、赤い花が生き生きと輝きを増した。
 
 ―――高く青い空の下。その場にいた者たち全員に暖かい日がさす。
 その下で赤い花は強く咲き、風は能力者達を通り過ぎ大地を吹き抜けた。
 そうして季節は巡り、
 花は何度でも咲き誇るのだろう。