●リプレイ本文
●駆逐艦
「ご覧の通り、敵エースの一機や二機ぐらいは落とせそうな面子が揃いましたよ♪ 機雷掃討のお手伝い、しっかり努めさせてもらいますね」
「いやぁ、助かります。心強い限りです」
新条 拓那(
ga1294)の言葉に、艦長は笑顔で右手を差し出した。
顔を見ただけでベテラン揃いと解るものではないが、実際、彼らの戦闘技術は、傭兵の中でもやや上位の部類に属する。経験豊富である事は間違いない。
「それにしても、ワームによる不法投棄とは‥‥」
ちらりと海に眼をやり、白鐘剣一郎(
ga0184)が顎に手をやる。
「効率的にやっていきたいところだな」
「そうですね‥‥艦長さん、まずは地図を確認させて戴けますか?」
「良いですよ」
落ち着いた所作で、石動 小夜子(
ga0121)は、艦長の広げた地図へと視線を落とした。地図には機雷の配置やその密度等、現段階で確認されている情報が記されている。
同様に地図を覗き込んでいた高坂聖(
ga4517)が、艦長へと向き直る。
「掃海する範囲はどのぐらいですか?」
問われて、ボールペンで引かれた線を指し示す。
艦長によれば、最低限必要となるルートは、数日後に帰国する艦の移動航路。もちろん、広い範囲の掃海を正解させなければ、市民生活にも少なからず影響が出てしまう。
軍へ貢献する事はもちろん、住民の為にもと考える小夜子にとっては、重要な事だ。
彼女は、潮流のデータも併せて検討する事で、除去される機雷に優先順位をつける事を試みた。こうして小夜子の提案した優先順位を元に、今回の掃海計画は多少微修正される事となった。
さっそく準備を整え、駆逐艦の前に並ぶ。
最後に確認をと、白鐘は艦長へ問いかける。
「我々の任務は、基本的に撃ち漏らしを確実に潰していく事と聞いていますが」
「あぁ、それでOKだ」
艦長の言葉に頷く白鐘。
「うーん‥‥」
そんな中、広がる海を眺める平坂 桃香(
ga1831)は、ちょっと不満顔だ。
「この機雷、生身でも平気なぐらいの威力なら、KVならきっと無傷ですよねぇ」
「そういえばそうだな」
腕を組む漸 王零(
ga2930)。
「水中用KVで一掃したら楽しそうだけど‥‥」
艦長の方へと向き直り、桃香は言葉を続ける。
「やっぱり、許可は下りませんよねぇ‥‥?」
「まぁ、KVの出撃許可っていうと、私の権限ではちょっとねぇ」
仕方ないか、と笑顔を見せる桃香。
駆逐艦からカッターを下ろす準備をしてもらい、彼等は早速機雷処理に同行した。
●処理開始
掃海艇を用いない処理手段として最もポピュラーな手段は、機関銃や艦砲による掃射だ。掃海艇を用いるのなら一箇所へ集める事も手段のひとつだろう。
デッキの上から眺めて新条は、
「わぁ‥‥大規模で邪魔された腹いせに嫌がらせでもしに来たのかな」
艦砲の乾いた音が響く。
遠く、水面で水柱が上がった。
「よくこれだけばら撒いてくれたもんだよ」
「カッターの準備ができましたよ」
高坂の言葉に、数名がカッターへと乗り込む。
「よし。降ろして下さい」
合図と共に海へと降ろされていくカッター。
甲板から機雷を狙う班と、カッターで機雷を集める、もしくはその場で破壊する班。傭兵達は二手に別れて機雷を駆逐する事となった。
「それじゃ、気をつけて下さいね」
甲板で帽子を振る艦長。
そんな中。
「リアさん! 互いに零を愛する者として、除去後の食事で零に『はい、あ〜ん♪』をする権利を賭け、除去した機雷の数で勝負です!」
「むっ‥‥それは負ける訳には参りませんね! 受けて立ちましょう!」
びしりと指を突きつける王 憐華(
ga4039)。彼女の挑戦を受けて、赤宮 リア(
ga9958)は自信ありげな顔で応える。妻とか第二とか、何だかややこい話があるようだが、そこはプライベートな問題。深く関わるのはよそうと、艦長は肩をすくめた。
「さて。ではそろそろ始めるとするか」
S−01を手に両足を開く白鐘。
「射撃は専門ではないが‥‥」
引き金を引くとほぼ同時に、爆発。
幾ら専門ではないとはいえ仮にも能力者。機雷が能動的に回避行動を取るでは無し、落ち着いて撃てばそうそう外すものでもなかった。
ずしりと重い爆発音。
水柱があがり、周囲にシャワーを降らせる。
「これで六個目っと‥‥」
そう呟く桃香の表情は、どこかつまらなさそうだった。
くるりと拳銃をホルスターへ差し込む。浮いている機雷を探し、見つけ次第銃撃する。ただそれだけというのは中々‥‥というかかなり暇で、既に飽き始めていた。
「うぅ〜」
頬にとんだ水飛沫に、思わず肩を震わせた。
これでもう少し暖かい時期でもあれば、それはそれで海水浴気分も味わえたのだろうが、残念ながら今は秋。とてもそんな季節ではない。
そしてそれ以上に、
「絶対に負けるものですか!」
眼を皿のようにしたリアが、矢を引き絞る。
だが、発見した機雷をその矢で射抜こうとした直前に、機雷はよそから矢を受け、水柱を上げて吹き飛んだ。憐華だった。
「あっ‥‥」
思わず声を上げるリア。
憐華は狙いが被ったとみるや、先手必勝を発動し、リアの一手先を行った。リアとて負けじと他の機雷を探し出し、狙撃眼で射抜いてみせる。
そう、桃香自身決してサボるつもりは無いのが、憐華とリアの二人がやる気満々な事もあって、よほど積極的に動かずとも、見つけた機雷が横から撃たれても行くのだ。
「‥‥二人は何やってんだ」
遠目に眺める漸だが、二人の様子に邪気を感じる訳でなし。
特にどうのと関与するつもりも無いらしい。彼もまた、黙々と目に付いた機雷をライフルで撃つばかりだった。
「‥‥ム、少し遠いな」
ライフルから眼を離し、遠くに機雷を見やる。
近くで機雷を狙っていた小夜子が歩み寄って、同様に機雷を眺めた。確かに少し遠い。が、それを残せば軍だけではなく、近隣住民の民間船だって苦労する。放っておく訳にはいかない。
「仕方がありません。海に入って‥‥あら。その必要は無さそうですね」
言い掛けて、小夜子は笑った。
視界の中を横切る、高坂達のカッターボート。分乗しているのはこういった時の為と言っても過言ではない。
「他には見当たりますか?」
「いや。これだけみたいだね。処分しちゃおうか」
爆発音と共に水柱。
ある程度数があれば処分しやすいよう一箇所に集め、そうでないなら、新条が片っ端から破壊していく。
ただ、その良し悪しはともかく、傭兵達に少しの誤算があったとするならば、傭兵達に頼まれていたのは、元々処理漏れ機雷を潰す事。メインの処理は海軍の駆逐艦がやっており、機雷が密集したまま浮いている事は稀。
自然、対象となる機雷は一個一個バラけているものが多かった。
●勝負の行方
「朝食だ。遠慮なく喰ってくれ」
「あら、これは‥‥」
包み紙を前にして、小夜子の表情が思わずほころぶ。
そこには、パンの間に大量の具材がサンドされたハンバーガー。これでもかと言わんばかりに肉やらレタスやらがぎっちり詰め込まれた、いわゆるご当地グルメ。
「凄いボリューム‥‥! 食べきれるでしょうか‥‥?」
一方でリアは、そのボリュームを目の前にして、流石に圧倒されたようだ。
とはいえ、秋風の中、太陽の下、潮風に頬を撫でられながら食べる巨大なハンバーガーというのも悪くない。皆はそれぞれハンバーガーを手に取り、さっそく二日目の準備に取り掛かった。
「やっぱり一日で終わるものでもないんですねぇ」
銃にマガジンを装填し、桃香は甲板のへりに腰掛ける。
「流石に、今日中には終わらせたいところだな」
「機雷からは反撃がある訳ではありませんし、何とかなりますよ」
それぞれ、銃と弓を準備する白鐘と憐華。
そして、白鐘は前日の経験を活かす事を忘れなかった。弾薬に不足が出た場合はソニックブーム等を用いる事も考慮しておかねばならない。
「じゃあ、今日も頑張ろうね」
「はいっ」
小夜子に軽く挨拶して、拓那はカッターに乗り込む。
「護岸も廻ってもらえないかな?」
「護岸ですか?」
陸の方角を見て、首を傾げる高坂。
「面倒かもしれないけど、岸に近い機雷は沖合いへ移動させてから爆破した方が良いと思うんだ」
「確かに。岸に近いと危険ですね‥‥」
再びカッターを降ろす準備をしつつ、高坂が答える。
「あ、待って待って。じゃあ私もっ」
ひょいとカッターへ飛び乗る桃香。小船は、その勢いでぐらりと揺れた。
単調な機雷撃ちよりは、機雷集めとその曳航の方がまだ変化と緊張感がありそうに感じられた。狙撃以外の雑用だって多そうだ。
衝撃波に巻き込まれ、機雷が盛大に水飛沫をあげた。
「ふむ。威力過剰か」
落ち着き払った様子で、漸は刀を肩へと担ぎ上げた。ただでさえ長身な彼の身長より更に巨大な国士無双で、豪破斬撃、紅蓮衝撃まで重ね合わせた一撃だ。別に威力がありすぎて困る事は無いが、拳銃弾一発でも作動するような機雷が相手となると大袈裟な感は否めない。
「そのようだな」
月詠を抜き、白鐘が並ぶ。
「天都神影流・虚空閃!」
再び、衝撃波が水面を揺らす。
こちらも同じソニックブームだが、その他のスキルは重ねていない。やはり、錬力消費等を考えると非効率的に過ぎた。
「――向こうでもやってるなぁ」
日差しから目元を手で隠して、拓那はカッターの上で立ち上がった。
「とりあえず、こっちも早く始末してしまいましょう」
浮かぶ機雷を運んでいた高坂の顔に、笑顔が浮かんだ。
水面にぷかぷかと揺れる機雷が、岸から離され、沖合いの一箇所に少しずつ集められた。こうしておいて一気に片付けようというのだが、しかし――
「私の勝ちですわ!」
甲板の上、縁目掛けて憐華が駆け込んだ。
「クッ!」
破壊した機雷の数では、憐華が一歩リードしていた。やはり、ここ一番での先手必勝が活きてくるのだろう。機雷処理もほぼ終盤。カッターの三人が集めた機雷群は最後の大物だった。
「これで‥‥あら?」
だが、縁に駆け寄った彼女が弓を引いて狙撃眼を発動した瞬間、彼女の銀髪は唐突に黒色に戻った。
そう、先手必勝でリードを保ってきた彼女だったが、錬力の最大容量そのものは、元々リアが一歩勝っていた。そして先手必勝による更なる錬力消費。ここに来てそのツケが巡ってきたのだ。
「しまっ‥‥!」
「ふふ、この勝負貰っ‥‥」
勝ち誇った顔で飛び出したリア。
ところがどっこい。
弓を掲げた先で、盛大な水柱があがっていた。
「よし、おしまいっ」
勝負の事なぞどこ吹く風。
のほほんとした表情で拓那は、超機械γを背負っていた。
●佐世保
結局のところ、見通しが甘かった事もあって、一日目で全ての処理を完了させる事には失敗したが、二日目には処理をほぼ完了させ、今日、三日目には予定通り食事へ出かける事ができた。
「良い景色ですね‥‥」
小高い丘から海を眺めるリア。
佐世保の地形は変化に富んでいる。
陸側には山々が迫り、反対へ眼を転じれば、豊かな日本海と、穏やかな島々が浮かぶ。戦時下と云えど都市は活気に満ちており、間近に迫る自然の只中で、九州有数の人口密集地が広がっている。
軍港であり、工業都市であり、同時に観光都市。それがこの佐世保だ。
「さぁ、ここです」
艦長が暖簾をくぐったのは、場末の料理屋。
「へぇ‥‥」
座敷に並ぶ料理を眼に、傭兵達は思わず声をあげた。
並ぶのは魚介類を生かした刺身盛り。昨日の昼に食べたハンバーガーが庶民の味とすれば、こちらは少し高級品だ。
傭兵達はそれぞれに席をとると、早速料理に手を付けた。
「艦長もお疲れ様でした。今度は、仕事以外で来てみたいですね」
白鐘の言葉に気分を良くする艦長。
あんた達の街は良い街だ、と言われて気分を害する人間なんて、この世にそうそう居はしない。
皆それぞれに料理を楽しむ中、高坂は、半ば涙ぐみながら箸を進める。
「あぁ、天然食材を楽しめるって幸せ〜」
「大袈裟ですねぇ」
きょとんとした様子の桃香。彼女に応じて大きく頷き、言葉を続けた。
「最近、合成食やキメラばかりでしたからね‥‥悪くはないけど、たまにはこうのも良いです」
――と、白鐘含め約三名の席に確かたる意趣は無いが、一方で好いた者同士は並んで座るのが当然と云えば当然の事。
「零♪」
にこにこ笑顔で憐華が呼びかければ、漸がどうしたと振り向く。燐華は刺身を箸につまみ、醤油にひたしてからすっと差し出した。
「はい、あ〜ん」
「‥‥ん」
ぱくりと刺身を食む漸。本当はデートにも出かける予定だったのだが、二日目も機雷処理に追われてしまった以上、仕方無い。デートは諦めて、リア、憐華との食事を楽しむまでの事。
微笑ましいやら嫉ましいやら。その様子をすまして眺めるリアは、しかし、次こそは絶対に負けはしないと、一人心の中に誓っていた。
「拓那さん、美味しいですか?」
呼びかけた彼の隣で笑顔を見せる小夜子。
「うん、綺麗な景色、美味しいご飯。こうやって楽しい思い出ができるのも、生きて戻ってこそだねぇ♪」
「えぇ、拓那さんこそ、今回も無事で良かった‥‥」
小夜子が言っているのは、機雷処理の事ではない。インドや八王子を中心に展開した、今回の激戦の事だ。
彼女は人前でおおっぴらにとか、そんな大それた事を望むタイプではない。拓那にしても、食事中にわざわざ中座しようとは思わない。だからこっそりと、机の下でだけ、二人は互いの手を重ねていた。
(代筆:御神楽)