●リプレイ本文
「輸送隊への攻撃か‥‥ふむ‥‥何と無く、珍しい仕事だと考えてしまうのは少々偏っている‥‥だろうか?」
ディアブロの機上で、九条・命(
ga0148)はふともらした。
「今まで補給が必要な素振りを感じさせず、戦力使い捨ての様に喧嘩を売られていた気がしていたが‥‥まあ、常識で考えれば連中も適度に補給隊を動かしていて可笑しくないが」
「輸送機の妨害とはね。地味だけど効果の高い作戦だ。確実にこなしていこう」
「補給路を潰すのは戦略上重要だものね。しっかりやりましょう」
命の独り言に応える様なタイミングで、カルマ・シュタット(
ga6302)やアズメリア・カンス(
ga8233)ら僚機からの通信が入る。
人類側から見ればその軍事技術において圧倒的な優位を誇るバグア軍だが、彼らとて決して無から有を生み出せるわけではない。戦争においてしばしば「補給」が重要なファクターとなり勝敗を分けるのはのは昔も今も、そして敵が異星人であっても同じなのだ。
「輸送用のヘルメットワーム、ここで落としておきたいところですね。敵の輸送がされ続けることは、戦場でも厄介でしょうから」
「‥‥二度このルートを飛ばせない為にも、きちんと招かれざるお客さんには尻尾を巻いて退散して貰わないとね」
如月・由梨(
ga1805)、小鳥遊神楽(
ga3319)も各々胸の裡で決意を固める。
UPC側より提供された情報によれば、今回の目標は非武装の輸送用HWが2、3機。護衛として各々2機の小型HWが付くという。
つまり敵兵力は最大で9機(うち戦力としては6機)。
バグア側の輸送ルートはほぼ判明しているので、KV部隊は典型的な待ち伏せ攻撃となる。数の上ではこちらが優勢だが、懸念されるのは護衛HWにかまけている間に輸送HWの後方突破を許してしまう事だ。
そのため傭兵側は戦力を3班編制とし、最大3機編隊×3で飛来するはずのバグア輸送部隊を迎撃する。班内でさらに本命の輸送機撃墜、そして護衛機への対応を分担する作戦だ。
所属班/輸送機対応/護衛機対応
第1班/アズメリア、ケイ・リヒャルト(
ga0598)/文月(
gb2039)、御山・アキラ(
ga0532)
第2班/カルマ、神楽/命、ヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)
第3班/由梨、ランディ・ランドルフ(
gb2675)/最上 憐(
gb0002)
最優先目標は輸送HW。護衛機は二の次という事になるわけだが――。
「此所は通さない‥‥出来れば全機を撃墜させたいわね」
「落とせるだけ落としてくるとしよう」
同じ班で翼を並べるケイとアキラが通信を交わす。
一方、憐にとってはKVでの空戦経験を積むための参加でもあった。
「‥‥ん。空戦は二回目。油断しない様に。頑張る」
また今回のメンバーにはまだ開校して日も浅い軍学校カンパネラの生徒、すなわちドラグーン達も混じっている。肩書き上「候補生」といえ、戦場では彼らとて他の傭兵と立場は全く変わらない。
「本日はよろしくお願いします! 未熟な僕ですが一生懸命がんばらせてもらいます」
2度目の実戦、そして初のKV戦となるランディが同班の僚機に対し、風防越しに敬礼を送る。
「カルマ様、神楽様、九条さま、宜しくお願いします」
「足を引っ張らないように頑張ります」
ヴェロニク、文月も各々僚機に挨拶の通信を送った。
電子戦機ウーフー搭乗のアキラは、あえてジャミング中和装置を切っていた。
敵輸送部隊にアンチジャミングを逆探知され、迂回されない用心だ。レーダーの探知能力は大幅に下がるが、どのみち相手のルートは判っているのだから、後は目視でひたすら待ち受けるのみだ。
やがて能力者達の視界に、蒼空の彼方から接近してくる九つの黒点が見えた。
情報どおり、中国からインド方面へ向けて物資を運ぶバグア輸送部隊。前方に小型HW2機、後方に輸送HW1機がV字を描く形で3つの編隊を構成している。
「‥‥来たな」
ある程度ひきつけた所でアキラがアンチジャミング起動。3班に分かれたKV部隊はそれぞれHW編隊1つを目標に襲いかかった。
第1班、護衛HW担当のアキラがレーザー砲を放つのと足並みを合わせ、文月の翔幻がホーミングミサイル2発を発射。
「合わせて撃てば‥‥あるいは‥‥」
レーザーを被弾したHWは、僅かに遅れて飛来したミサイルを慣性制御で必死にかわす。
「不覚‥‥申し訳ありません」
が、さらにその動きを読んだアキラのM−12帯電粒子加速砲が迸り、ビームに射抜かれた敵円盤は大きくグラついたと見るや爆散した。
「伊達に堕天使の称号を貰ってはいないのでな」
敵の護衛に生じた穴を突き、アズメリアの雷電、ケイのディアブロが後方の輸送HWへと食らいつく。
「残念だけど、今後このルートは通行止めよ」
敵輸送機が有効射程に入るなりアズメリアは超伝導アクチュエータを起動、8式螺旋弾頭ミサイルを惜しみ無く叩き込んだ。
その名のごとくドリル状に尖って高速回転するミサイルの先端が、ワームのFFと装甲を穿って内部で炸裂。
黒煙を上げつつなおも突破を図るHWに対し、ケイがAフォース併用で放った短距離AAMが突き刺さる。
「大人しく散りなさい‥‥」
ケイの言葉通り、まず1機目の輸送HW撃墜に成功した。
「さて、小さな所からコツコツと、蟻の一穴と成る様に掘らせてもらうか」
第2班の命は横列を組んで向かってくる2機の小型HWのうち1機に狙いを定め、有効射程に入った順から127mmロケットランチャー、長距離バルカンで攻撃を開始した。
ロケット弾とバルカン砲弾の洗礼を浴びつつ、敵HWもプロトン砲で反撃してくる。
命とペアを組むヴェロニクの翔幻もH−044短距離用AAMを発射、さらに距離を詰めバルカン砲で輸送機からの引きはがしにかかる。
小型HWの1機に背後をとられかけるも、これは辛うじて回避した。
「ドラグーンは背中にも目があるってご存知ですか?」
出撃前は初の実戦に緊張気味だったヴェロニクも、エミタAIとAU−KV、そして翔幻のリンクに慣れるにつれ徐々に落ち着いてきたようだ。
一瞬目標を見失った小型HWをめがけブーストで肉迫した命機が再びAフォースを乗せたロケット弾、短距離高速型AAMと畳みかけ撃墜へと追い込む。
「送り狼にはならん、この場で食い荒せてもらう」
同じく第2班所属、カルマのディアブロと神楽のアンジェリカは、護衛HWを無視して後方の輸送HWへと突撃していた。
「さぁ‥‥派手に暴れさせてもらおうかね」
「あんた達を墜とさなきゃ話にならないしね」
有効射程に入るなり、両機はスキル併用でG放電装置を使用。元々命中率の高い所へAフォース、SESエンハンサーにより威力を上げた知覚攻撃の稲妻を浴び、回避に失敗した輸送HWがダメージを負い迷走する。
さらに距離を詰めたカルマと神楽はレーザー砲で十字砲火を浴びせ、2機目の輸送HWを空の藻屑に変えた。
第3班で護衛HWの対応にあたったのは憐のKV1機だった。
「‥‥ん。護衛機は。任せて」
ナイチンゲールの高機動性能を活かして小型HWを牽制する憐だが、さすがに2対1では分が悪い。
結果的に、第3班は輸送HWを含め敵味方6機が入り乱れる混戦となった。
「鬱陶しい護衛ですね。後で相手をして差し上げますから、今しばらくお待ちなさい」
しつこくまとわりつく小型HWのプロトン砲を回避しつつ、由梨のディアブロはひたすら輸送HWを狙う。
当初彼女と共に輸送HWを担当する予定だったランディは憐の援護へと回った。
輸送HW自体は非武装。また由梨機の性能と実力を考えれば、輸送機撃墜は彼女1人に任せても問題なし――との判断である。
「火力は第一線級の最新型とは比類できない! だが! 戦う意思については誰にも負けるつもりはない! 突貫あるのみ!」
覚醒状態となるや猪突猛進の攻撃型パイロットと変貌したランディは、輸送機救援に向かってくるHWに対しHミサイルを全弾発射、さらに接近後はガトリング砲で果敢に攻撃を浴びせる。
反撃のプロトン砲に対しては幻霧で対抗。
「忍法みたいだけど、これが翔幻の力だ!」
ちょうどそこへ、後方から憐のナイチンゲールも追いすがってきた。
「‥‥ん。距離詰めて。ミサイル全部打ち込む」
突撃ガトリングで牽制しつつ、至近距離からHミサイルD−01を全弾発射。
被弾して速度の落ちた小型HWを、ランディ機との連携で撃破した。
その間、逃げ惑う輸送HWを射程圏に捉えた由梨はAフォース併用の試作型エネルギー集積砲を発射。さらにダメ押しのUK−10AAMを全弾叩き込む。
この攻撃で敵円盤は炎と黒煙に包まれ、眼下の大地へ墜落しながら大爆発を起こした。
エース級ディアブロと丸腰の輸送HW――ハナから勝負にならなかったのだ。
わずか1分足らずの戦闘で輸送HW3機が全滅。
その瞬間、この時点で生き残っていた小型HW2機は唐突に慣性制御で180°方向を変え、M6の超音速で元来た中国方面へと離脱していった。
AI制御による無人機の量産HWに「味方の仇を取る」などという発想はない。護衛対象である輸送HWが消えてしまえば、ただAIのロジックに従い撤退するだけなのだ。
「惜しいですね。できれば全部墜としてやりたかったのですが」
北方に逃げ去っていく敵影を睨み付け、由梨が呟く。
「これで補給路の1つを断てたのなら良いけれど‥‥」
とケイ。
輸送機撃墜後の残敵掃討戦まで計画していただけに、あまりに呆気ない敵の引き際に、傭兵達も少々肩すかしをくらった気分だった。
ともあれバグア軍の補給を阻止したことで任務は成功。敵側も、今後このルートを補給路に使用することは控えるに違いない。
「確かに地味な作戦だけど、効果は確実に出ると思いますよ」
むしろ友軍の被害が最小限だった事に安堵しつつ、カルマが僚機へ通信を送った。
「これが実戦‥‥」
初陣を飾り、緊張から解放されたヴェロニカがAU−KVの中でほぅ‥‥っとため息をもらす。
「これでしばらくは安心だね。アジアを護れるお手伝いをしたんだ。基地に帰ったらジュースで乾杯とかしないのかな?」
帰還の途上、ランディが嬉しげに仲間達に提案すると、翼を並べるKVからも次々とOKの返信が入った。
そんな中、憐だけは、
「‥‥ん。お腹空いた。私は。食べ物を補給したい」
と、ナイチンゲールの操縦席で空きっ腹を鳴らすのだった。
<了>
(代筆:対馬正治)