●リプレイ本文
●オリジナル・キメラ
「設定完了、と」
イーリス・立花(
gb6709)がキメラのデータを渡し、パルマがシミュレータに読み込ませる。
なるほど、とつぶやきながら浮かびあがる文字の羅列を追っていくパルマ。
「上手くすれば、武器の開発が前より進むようになるかもしれませんし、ね」
イーリスはキメラの動作の監修、そしてオリジナルのキメラを考案した。試験的に動かしている様子を、パルマの脇から眺める。
が、どうにも動きが鈍い。
「うーん‥‥許容値をオーバーしたようです。少し、何か削らないと」
カチカチとパネルを操作するパルマ。
「毒の能力を除いて、こうしてみましたが‥‥どうでしょう?」
スムーズに動くようになったキメラ。見た目も少し変わっている。
問題ありません、と了承するイーリス。
「確か、今回は操縦者の能力も反映されるんだったな?」
もうひとりのキメラ操縦者、弓削 一徳(
gc4617)の問いかけに、パルマは微笑を浮かべて頷く。
今回は能力者訓練用のものとは異なり、操縦者の動きや感覚をより詳細にトレースすることが可能。つまり、一徳が操作するものは命中が高くなり、イーリスであれば防御性が高くなる。
「では開始しましょう」
キメラの操縦準備を始めるイーリス。
「さあ、お手並み拝見といこうか」
顎髭に手をやり、一徳は不敵な笑みを浮かべた。
●フォレストシミュレータ
一面に広がる白黒の世界。
「パルマさん、お久しぶりー☆」
前回ミッションに参加したレヴィ・ネコノミロクン(
gc3182)が頭上に手を振る。
「今度の舞台は森なのね? あたしの案を取り入れてくれてありがとー」
いえいえこちらこそ、とパルマからの通信を最後に、森の世界が色づいていく。
「ふふ、腕によりを掛けて頑張っちゃおう♪」
一足先にミッションエリアへと入るレヴィ。彼女は様々な属性のついた武装を持ち込み、それを試すようだ。
「周囲を観察し、気付いた点は覚えておこう」
パルマ宛と思われる台詞をつぶやき、天野 天魔(
gc4365)がレヴィの後へ続く。
「僕は新兵装を持ち込んでみました」
沖田 護(
gc0208)はアスタロトのテスト運用ができて一石二鳥のようだ。それ以外にも、多様な武器を持ちこんでいる。
「これで生還率もあがるかもしれないからねぇー」
ミリー(
gb4427)も森へと入っていく。
(「これが完成すれば、戦場で死ぬ仲間も少なくなる」)
心中でつぶやき、気合を入れるソウマ(
gc0505)。
「勝って終わらせましょう」
そう、護はソウマの肩に手をやる。
「私も頑張りますわ」
春夏秋冬 ユニ(
gc4765)もぐっと小さく拳を握った。
今回のミッションは、できるだけ負傷せずに北西にある砦まで到達すること。エリア内にはキメラたちが徘徊し、待ち構えている。
「さて、それではまいりましょうか」
メシア・ローザリア(
gb6467)を殿に、一行はミッションを開始した。
●炎の前哨戦
高さ数mの樹が空を覆う。
「集まるポイントを決めておきましょう」
地図を片手に双眼鏡を覗くユニ。メシアが銃で枝を撃ち落とし、マッピングしていく。あたりには似たような景色が広がっていた。レヴィが方角を確認しながら、周辺の音に耳を澄ます。
「‥‥もっとも恐いのは奇襲による分断」
索敵するソウマ。傭兵たちの目が四方八方に向けられ、キメラの気配を探る。
周囲を油断なく見渡しながら、一行は最短距離で目的地を目指していた。
ふいに天魔が枝を拾い上げ、匂いを嗅いだ。葉をちぎり口に含む。
「触感はともかく、匂いと味の再現はこの程度か」
口中に広がる無機質な感触。すべてを再現してはいない。
「戦場は五感全てを使うものだ」
要改善だな、と枝を捨て天魔は先へと進む。
それを見つけたのはミリーだった。木漏れ日が仄かに照らす暗緑色の森の中、ぽつりと宙に浮かぶ橙。揺らめく炎に身を包む、翼の生えた蜥蜴。
ミリーは静かに合図を送る。だが、
「あ。見つかっちゃった」
振り向いた蜥蜴。その口に炎が収束していく。
蜥蜴から連続で火炎弾が吐き出された。
「あっつ!」
炎を盾で受け止めるレヴィ。もう1発は前の樹木にあたり、めらめらと燃え始めた。
「撃ち落します」
ソウマの拳銃が蜥蜴に向けられ、4発の弾丸が発射。片翼が欠け、着地する。
「チャンス‥‥!」
オルカに武装を変更していたレヴィ。まっすぐに蜥蜴へと突き進み、水属性の剣で炎の蜥蜴を斬りつけた。
「ギャゥン!」
断末魔の叫びを上げ、絶命する。効果はてき面なようだ。
と、いきなり笛の音があたりに鳴り響いた。
「後々邪魔をされると厄介ですわ」
再度メシアが呼び笛を吹き鳴らす。
煙の上がる樹、そしてメシアの笛の音。キメラたちが蠢き出していく。
「東から来てます」
背後に知らせるソウマ。薄っすらと遠目に、宙に浮かぶ蜥蜴が現れた。
「西からも」
「こっちも来てるねぇー」
「後ろもだ」
次々と蜥蜴の姿を捕捉する。四方から計4体のキメラが接近。陣を組み、傭兵たちは迎え撃つ。
長射程から火炎が放たれた。
「あついですわ」
かわしきれず、ユニは足に火傷を負う。さらに後方の樹木が火の手をあげた。
続けて次々と火炎弾が吐き出されていく。
「あちあち!」
盾が間に合わず、レヴィに火の粉が降りかかる。
「‥‥なるほど」
盾で受けたソウマと護。高い抵抗力により、2人はほとんどダメージを受けていない。
はずれた火炎弾が茂みを焼いていく。燃え広がる火の手。炎に囲まれていく傭兵たち。
「いきますよ!」
ソウマが西へ走りこみ、蜥蜴へと狙いをあわせる。
立て続けに放たれる弾丸。蜥蜴は足を撃ち抜かれてバランスを崩す。
「銃が届くなら苦では無いわね」
メシアが拳銃で追い撃ちをかけた。蜥蜴が地に堕ちていく。
後方、天魔がサブマシンガンを撃ち放す。
「どうも実戦じゃないせいか調子が狂うな」
その半数がはずれた。かぶせるように、護がその後から銃撃して援護。撃墜される橙の蜥蜴。
ユニとレヴィは東の蜥蜴へと距離を詰める。しかし――
「‥‥?」
蜥蜴は木の上を飛び越え、姿を消した。
「なんだろうねぇー」
ぼんやりと頭上を眺めるミリー。他の蜥蜴たちも同じように木を飛び越えていく。北の方へ向かうのが見えた。
傭兵たちは元の隊形へと戻る。
「‥‥誘ってますね」
すでに小さく見えるようになった蜥蜴たちを見つめる護。
「これは前哨戦、と言ったところでしょう」
リロード、薬室に弾を送りながらメシアはつぶやいた。
炎をかいくぐり、一行は先へと進む。その先には大きな川が見え始めていた。
立ち昇る煙を見つめる瞳。川に潜むキメラたちが移動を始める。
そして、一行のやや後方。木を伝い、キメラたちが静かに傭兵たちの後をつけていった。
(「ココまでは予想通り」)
イーリスと一徳。森の中を2体のキメラが駆け抜ける。
全てが川へと集っていく。
●川中の死闘
エリア中央部を横切る川。腰の上ほどまである泥水が傭兵たちの動きを制限する。
「足元に注意を」
メシアを先頭に周辺を警戒しながら川を進んでいく。
「感触は水そのものだが、やはり匂いと味は駄目だな」
最後尾の天魔が水を含んで感想を漏らす。さきほどの木と同様であった。
そして川の中ほどを過ぎたとき。
「待ち伏せ」
端的に知らせるレヴィ。空に浮かぶ、5体の火蜥蜴たちの姿。取り囲むような陣形で傭兵たちを待ち受けていた。
「渡河を優先だ」
最後方の天魔。一行は歩みを止めないことを選択。
5体のサラマンダーたちから一斉に火炎が吐き出される。先頭のメシアに集中砲火。
「効きませんわね」
左手で火の粉を振り払う。メシアは前へと突き進み、川上の火蜥蜴へと狙いを定める。
2発の銃弾が正確に翼を貫く。川中へ墜落、ジュッと煙を上げて蜥蜴は沈んでいった。
続く護、ソウマの銃撃で前方のサラマンダーが撃ち抜かれる。
「よっと」
空中に電磁波。ミリーの超機械で火蜥蜴がよろめいた。続けて天魔のSMGが穴を空け、水中に落下する蜥蜴。
「後ろです!」
ソウマが声を上げる。一行の後方、水中からゆっくりと巨体が浮かび上がっていく。
「左‥‥いえ両側からも何か来てますよ」
水面がにわかに盛り上がっているのに気付いた護。
「うっこれは――」
レヴィに巻きつく、見覚えのある糸。前回のオリジナルキメラ、ソドムが2体同時に現れた。
「むっ」
天魔にも浴びせられる糸。一行の歩みが止まる。後方からにじり寄る蜘蛛。
「ちっ」
火炎弾を受ける天魔。そしてさらに、わずかに感じる水中の波。
眼前に巨大な顎が飛び出した。
「ぐっ‥‥おおお」
盾を粉砕しかねない一撃。飛び出したワニの攻撃をかろうじて受けるが、ざっくりと左手に傷ができる。
「うわっ、こっちも!」
巨大なワニが飛び出す。レヴィの盾は間に合わない。自身障壁で緩和されるが、腕から血が伝っていく。
「炎の熱さと、攻撃の痛さは中々‥‥って言ってる場合じゃないな」
とぼけたセリフをいう天魔。
とそのとき、ソウマの制圧射撃が蜘蛛とワニの動きを止める。ついでに、もう2体近寄っていたワニも偶然範囲内にいた。
「僕の『キョウ運』は凶器ですよ」
続けて貫通弾を蜘蛛に放つソウマ。蜘蛛の足2本が折れる。
「このタイミング、待ってたよ」
制止されたワニに向かう護。腕と頭部にスパークする。機械剣を斬り上げ、返し、鱗の継ぎ目に突き刺した。
咆哮を上げるワニ。途端、その腹を鋭い爪のついたつま先でメシアが蹴り上げる。
「這いつくばっているのが、お似合いですわよ!」
続けざまに零距離からの2連射。水面に浮かぶワニ。ミリーの電磁波がトドメを刺す。
「痛いの痛いの飛んでいけー」
レヴィと天魔の傷を癒すミリー。
「う、これはダメね」
雷属性の湾刀でワニを攻撃したレヴィ。特に著しい効果は見られなかった。
天魔のサブマシンガンがサラマンダーを撃ち落す。
「蜘蛛さーん。お母さんですよー」
考案者のユニがソドムに向かってにこやかに手を振った。が、
「きゃあ!」
攻撃。ユニに向かって槍のような足が突き出される。もう1体のソドムはミリーを絡めとった。
ソウマが最後の火蜥蜴を撃墜、制圧射撃で周囲の敵が制止する。
「反抗期でしょう」
メシアの蹴り上げで蜘蛛の足が折れる。さらに2発の弾丸が胴を撃ち抜いた。
護の機械剣がレヴィの前にいるワニを串刺しにする。続くミリーの超機械、天魔のSMGで撃退。
「おいたした子には――」
と、ユニが長大な両手剣を大きく振り上げる。
「お仕置きですわね」
剣が振り下ろされた。腹を上に、ソドムが水面に浮かぶ。
「あれ‥‥?」
突如、機械的な速射音。
「なん――」
次々と貫かれていくミリー。戦闘不能、フッとミリーが消えていく。
「‥‥やってくれるじゃない」
レヴィは岸の方角を睨めつけた。
●砦前決戦
(「まずは1人」)
木陰からイーリスがさらに長距離攻撃を加える。
それを防ぎながら、残りのキメラをねじ伏せる傭兵たち。ワニ型キメラ1体が退却していく。
(「予定とはかなり違うが」)
すぐそばの茂みには一徳。
(「この先は、博打ですね」)
イーリスの視界には一気に川を渡る傭兵たち。
(「腕の見せ所、といったところか」)
再び2体のキメラは森の奥へと身を隠していく。
「でかい山猫か」
森へと銃を向ける天魔。彼が見たものは暗緑色の豹のようなキメラ。背にはカノン砲と思われるものがあった。
傭兵たちは手早く態勢を立て直し、2手に分かれて森へ分け入っていった。
深い森。護、ユニ、メシアの3人は目標地点へ慎重に直進する。
「今度はこっちか」
側面からカノン砲。続く砲撃は盾で受ける護。これで4度目の襲撃だった。がさがさと遠ざかっていく音が聞こえる。
「手当てさせなさい」
救急セットでメシアが治療する。
警戒しながら進む3人。そろそろ砦も見えている。
ふと、メシアは何かを放り投げた。
「出て来なさい、下衆共!」
茂みに潜んでいたワニが食いつく。血の染み付いた救急セットの鋏だった。
「やっぱりいたわね」
接近。ワニの顎を蹴り上げ、さらにメシアは連続で目を突き刺した。続けて護の鱗を突き抜ける機械剣。
「これで最後ですわ」
ユニの両手剣がトドメを刺した。
――速射音。
「うっ‥‥」
メシアの肩と足が貫かれる。
「援護してください」
護の脚部に電流が流れる。盾を前に、淡い光を纏って飛び出した。ユニも目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。向かう先には、パルマにクロムビーストと名付けられた巨大な山猫キメラ。機械化された体が鈍く暗緑色の光を放つ。
「いきますわよ」
ユニの大剣が振り下ろされた。が、牙で受け止められる。
「もらった」
護の機械剣が山猫を4度、刺し貫いた。
しかしなお、与力がある。イーリスのクロムビーストだった。
「きゃああ!」
真横から撃ち抜かれ、さらにイーリスの爪が切り裂いた。深手を負うユニ。
イーリスは森へと下がっていく。
「逃がしません」
足を引き摺りながら発砲。メシアの銃弾がイーリスの後ろ足を貫通する。
「くうぅぅ!」
ユニとの射線に割り込み、重い砲撃を盾で受ける護。一徳は砦側へと移動する。
「っ‥‥!」
イーリスのカノン砲が両足を貫いた。膝をつくメシア。視線の先には暗緑の山猫。
「わたくしと、したことが――」
メシアが消える。一徳の砲撃が正確に、メシアの胸を撃ち抜いていた。
アスタロトに電流が流れる。
(「ここまで、ですか」)
転がるカノン砲。護の機械剣がイーリスを斬り伏せた。
最後に残された一徳。
(「3人目」)
カノン砲をユニに向け、頭に狙いを絞り――発射。
だが、あさっての方角へ撃ち出されていく。
「これが『キョウ運使い』ソウマの戦い方です」
運か実力か、ソウマの弾丸が一徳のカノン砲の先に命中。さらに貫通弾が一徳の体を貫いた。
連続射撃。天魔のサブマシンガンが一徳の背を傷つけていく。
(「上か!」)
振り向き、砦を見上げる一徳。その視界に、刃が光る。
「これで終わり!」
逆手に持った剣。レヴィが砦から飛び降り、落下の勢いを借りた強烈な一撃が突き抜けた。
●次につなげる
――コントロールルーム。
「あんたと組めたおかげで善戦できた。イーリス・立花、礼を言おう」
シミュレーションを終えた一徳とイーリスが握手を交わす。
「キメラも人が操作すると、緊張感が違いますね」
護がパルマに感想を述べる。
「いいシミュレータが出来るといいねぇー」
のほほんとミリー。様々な兵装でのデータなども取れ、報告用のものとしては上々と言えるだろう。
「隠密潜行が鬱陶しいわ。常に精神を消耗し、気を張り続けなければいけませんし」
メシアの意見。
ミッションを終えた傭兵たちはこれから反省会に突入する。
その様子を眺めていたパルマ。
(「気を張り続ける持久戦、か」)
パルマは次のシチュエーションを考え始めていた。