タイトル:オリジナルシミュレータマスター:無名新人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/24 14:10

●オープニング本文


 シミュレータでの訓練を終えた者たちがぞろぞろと退室していく。彼らは研究所に所属する能力者たち、なのだが。
「これはいけない」
 モニターを見ていたひとりの研究員はそう声を漏らす。能力者たちの様子はみな、一様にかったるいといったもので、大あくびをして伸びをする者までいた。
 はじめてシミュレータでの訓練を行うのなら効果は期待できる。だが、同じ状況に同じ場所、同じ敵‥‥2度、3度ともなれば、高得点をたたき出すためのゲームへと変わり、最後には緊張感のない単純作業へと成り下がる。
 加えて、実戦データを採取し、ある程度それに似た状況を作ることはできたとしても、緻密なものは作り出せない。柔軟な判断や動きに、戦闘の素人が考えた仮想の敵はまともに対処することができないのだ。
「なにか新しいパターンが必要」
 そう結論付ける研究員。新しく赴任した彼女の最初の仕事が、この訓練用シミュレータの再開発である。
「でも‥‥」
 そう都合よく研究者に実戦経験などあるはずもなく、彼女は能力者でもなかった。警備や実験が主の研究所所属の能力者たちも、実績は皆無といっていい。
「戦闘の経験‥‥‥‥傭兵‥‥」
 席を立つ研究員。彼女は傭兵に依頼を出すことにした。

●参加者一覧

サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
橘 咲夜(gc1306
18歳・♀・ST
レヴィ・ネコノミロクン(gc3182
22歳・♀・GD
蓮樹風詠(gc4585
26歳・♂・SN
弓削 一徳(gc4617
35歳・♂・SN
春夏秋冬 ユニ(gc4765
17歳・♀・DF
井上明(gc4774
20歳・♂・SN
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

●凍える唇
「シミュレータ‥‥つまり、あれだ。被験者が泣いて謝るようなモノを作れば良いのだろう?」
 微かに唇をなぞりながら。サヴィーネ=シュルツ(ga7445)はモニターを眺めていた。
「皆さんにはミッションを成功して欲しいですが」
 そうですわね、と隣の春夏秋冬 ユニ(gc4765)。
「手を抜くつもりはありませんわ」
 その顔に薄く、笑みが浮かぶ。
「おふたりのキメラ、できましたよ」
 キーボードを叩く指が止まる。
「弱者を狙うキメラと、人間を絡め取るキメラ」
 モニター上に2体のキメラが表示された。
「楽しみですね、ふふふ‥‥」
 微笑する研究員。
 室内に凍えるような笑みが満ち溢れていた。


●セッティング
 傭兵たちの周囲に広がる白黒の景色。
「この度は依頼を受けていただきありがとうございます」
 頭上から声が響く。
「私は依頼主のパルマ・ハイランド。本開発室の主任研究員です。まずは再確認の意味も兼ね、今一度説明させていただきます」
 少々長いですが、と付け加える。
「今回の依頼は、能力者訓練用シミュレータのテストになります」
 パルマは新しいパターンのみならず、テストも同時に実施しようとしていた。
「こちらも貴重な鍛練の場として参加させていただきます」
 蓮樹風詠(gc4585)が丁寧に返答する。
「経緯は、シミュレータのマンネリ化。訓練とは呼べないものとなっていたためです」
「確かに、こういうのって新鮮なのは初めだけだよね」
 橘 咲夜(gc1306)が頷く。
「あらかじめ、傭兵の意見を元に既存キメラの行動パターンを変更。そしてオリジナルの大型キメラを2体用意しました」
「なんか、嫌〜な予感するんだけど」
 どことなく寒気を感じるレヴィ・ネコノミロクン(gc3182)。
「なお、発案者の傭兵も大型キメラとなりミッションに参加します」
「へぇ〜、お手柔らかに頼むよ〜」
 イスネグ・サエレ(gc4810)が姿のない傭兵に向かって手を振る。
「キメラたちが現れたのは1km四方の市街地。歩行困難な老人男性2人を救出する、というミッションです」
「ありがちな依頼だな」
 弓削 一徳(gc4617)はそう感想を漏らす。
 と、次々と街が色づき始める。
「まぁ、無理せずいこう」
 井上明(gc4774)が自身にも言い聞かせるかのようにつぶやいた。
「それではシミュレーションを開始します」


●スタート
 傭兵たちは静かな仮想の街を進む。
 一行はレヴィを先頭にして咲夜とイスネグが続く。そしてまわりを固めるように風詠、一徳、明が周囲を警戒する。
「さてさてどんな感じかな」
 双眼鏡であたりを見回すイスネグ。
「おー結構いるなぁ、だいじょうぶかねぇ」
 3体のトンボのようなキメラが遠くの空を飛んでいた。さらに向こうにも、キメラたちが小さく見えている。
「このまままっすぐ北へ」
 あらかじめ地形を入念に確認していたレヴィ。道中の物陰や家屋も確認しながら、一行は要救助者がいそうな建物へと向かう。


 一徳は首を横にした。
「こっちもいなかった」
 東側の家屋から出てきた明も同じ。
「うーん、いないわねー‥‥」
 当てが外れたのか。レヴィにあせりが見え始める。すでに北東の端にまで差し掛かっていた。
「あ!」
 かすかに聞こえた音。ふいに咲夜が声を上げ、
「キメラだよっ! トンボの!」
 西の空を指差した。


●エンカウント
 傭兵たちは3体のトンボ型キメラを真正面に捉える。
「いけ!」
 弓をつがえ、明はトンボへ向けて矢を放った。が――ひらりとかわすトンボ。
「確実にやるなら、もう少し引きつけないとな」
 一徳が狙いを絞りながら言う。
 2対の羽をはばたかせ、まっすぐに傭兵たちへと向かい来るキメラたち。
「よし‥‥いまだ」
 風詠のライフル狙撃。2発の銃弾が右端のトンボに命中。羽が欠け、地面に落ちる。
 その隣にもう1体のトンボが落下。一徳のライフルも正確に羽を射抜いた。
 羽音を鳴らして残り1体となったトンボが突き進む。その眼に映るのは盾を構えるレヴィの姿。
「ふっ――!」
 金属音。盾がトンボの牙を受け止める。
「ピギィ!」
 トンボが真っ二つに引き裂かれた。咲夜のエネルギーガンから射出された光線がキメラを貫いていた。
「や、やった」
 咲夜の表情が綻ぶ。
「あ、出番なかった」
 超機械をトンボに向けていたイスネグに出番はなかった。
 とそのとき、

 ウオオオォォォーーン‥‥――

 犬の遠吠えがフィールド全体に響き渡る。

(「いいな‥‥犬型というのは、やはりしっくりくる」)
 銃声で傭兵たちのおおよその位置を特定したサヴィーネ。
(「ふふ‥‥トンボ型はデコイ――つまりは囮というわけだ」)
 キメラたちとともにアスファルトを駆け抜けていく。

 家屋から家屋へと静かに移動する巨大な影。
(「さぁ、皆さん頑張って下さいね?」)
 ユニが闇笑いを浮かべ、傭兵たちの元へと向かう。


 這い寄るトンボの頭を剣で撥ね上げるレヴィ。
「‥‥急ぎましょ」
 一行は先へと足を急ぐ。


●レスキュー
「はっ!」
 レヴィの剣がトンボの胴を斬り落とす。
 一行はさらに3体のトンボ型キメラを倒していた。
「1名発見しました」
 一軒家から老人を負ぶって風詠が出てくる。
「なんか来たよ〜」
 双眼鏡を覗いていたイスネグ。
「こっちからも来た!」
 咲夜も声を荒げる。
 南と西に3体ずつ――残りすべてのトンボ型キメラが傭兵たちへと迫っていた。
「あんたはその爺を向かいのビルに避難させな」
 一徳に頷き、風詠は老人を目の前の建物へと連れて行く。
 その後ろ姿を見届け、一徳はキメラたちに向き直った。
「さて、スナイパーの腕の見せ所だな」
 南方のトンボへと狙いを定める。1発、正確に羽を撃ち抜く。2発、隣のキメラの羽が欠ける。3発、欠けた羽が破れる。一徳の銃撃で2体のトンボが墜落した。
 そして、残り1体には矢が突き刺さった。
「よし!」
 明の、羽を狙った弓の一撃はキメラの頭に命中。これで南側のトンボはすべて地に落ちた。
 羽音。傭兵たちの目前までトンボが迫る。
 と、2つの黒いエネルギー弾がキメラを包み込んだ。
「お、やったか〜」
 きりきりと落ちていくトンボ型キメラ。イスネグの超機械が1体のトンボを仕留めた。
「これだけ撃てば突破できないはずっ」
 続く咲夜のエネルギーガンでもう2体のキメラが貫かれ、うち1体が力尽きる。
「うわ!」
 しかし、最後の1体が明に突進。上からの体当たりに、明はキメラと揉み合いながら地を転がっていく。
 顔を上げた明の前にはトンボの複眼。鋭い牙が襲いかかる。
 ――突き抜ける刃。
「だいじょぶ? 明クン」
 レヴィの剣がトンボの頭を刺し貫いていた。


 風詠が戻ってくる。
「ダメもとでご老体に聞いてみたんですが、もうひとりはこの周辺にいるそうです」
「‥‥よし、隠密潜行持ちで手分けしよう」
 一徳が提案する。この近くにいるのなら、かかっても1,2分だろうと。
「いいんじゃない? あたしたちはここで待機してるわね」
 レヴィの賛成に続き、全員が同意した。
 一徳たちを見送るレヴィ、咲夜、イスネグ。

 ――ビルの谷間。
(「ようやく追いつきましたわ」)
 レヴィたちの背後に、キメラの影が忍び寄る。


●ソドム
「なんか新しいのがきたぞ〜」
 イスネグたち3人の前には4体の豚人の姿をしたオーク型キメラ。それぞれ弓を持ったものが2体、斧と盾を持ったものが2体だ。
 じりじりと盾を持った2匹のオークがゆっくりと前進、後ろから弓を持ったものが進む。正面には盾を掲げ、対峙するレヴィ。
「いくよっ!」
 咲夜がエネルギーガンをキメラへと向けた、そのとき。
「――え?」
 横からレヴィの体を覆い、絡みつく白い糸。家屋の屋根から巨大な影が飛び降りる。
「でかい蜘蛛だなぁ‥‥」
 前方に現れたキメラを見上げ、イスネグが感嘆の声を上げる。
 大人の身長ほどもある4対の足、暗闇にまぎれる闇色の体――『ソドム』と名付けられた、ユニの操作する蜘蛛型キメラ。
 吐き出された糸を巻き取り、蜘蛛が近付いてくる。
「ん‥‥くっ!」
「と、取れないっ」
 咲夜が絡みついた糸を思いっきり引っ張り、レヴィも身をよじって外そうとするが、なかなか脱出できない。
(「それじゃあ、駄目ですわよ?」)
 ソドムの上を2本の矢が飛んでいく。
「痛ッ!」
 顔を歪める咲夜。矢が左腕に突き刺さった。
「今治すよ〜」
 イスネグが練成治療をかけ、咲夜の傷が癒えていく。続けてオークの足めがけてエネルギー弾を放った。
「ありゃ」
 身を低くしたオーク。黒のエネルギー弾を盾が阻み、和らげる。
「え、ちょっと!」
 ソドムが糸を勢い良く手繰り寄せ、レヴィがキメラたちの元へと転がっていく。
「うっ‥‥」
 蜘蛛のとがった足が肩、脇腹、太腿を突き刺した。
「オォォォォ!」
 2体のオークが斧を振り下ろす。レヴィは盾でかろうじて受け止める。
「このっ!」
 レヴィの剣がオークの腕を切り落とした。斧が乾いた音を立てて地に落ちる。
 緩んだ糸から脱出し、2人の元へ駆け戻るレヴィ。
「くぅーっ!」
 が、さらに2本の矢が襲いかかった。
(「さて、どう出ますか?」)
 キメラたちは距離を詰めていく。


●ティンダロス
「ばあさんや、飯はまだかのぅ」
「俺はばあさんじゃないし、飯はもう食ったんだろ? ‥‥知らないが」
 なんなんだこのシミュレータは、と一徳は老人を強引に背負う。そうして家屋の外へと出た。
「見つかりましたか」
 ああ、と風詠に返す。交差点で合流する3人。
「‥‥交戦してますね、急いでもどりましょう」
 レヴィたちの方を見ると、戦闘が始まっているようだった。
「あれ、なんだろ?」
 ふいにそう明が指し示すのはレヴィたちの反対側、道路上のやや離れた位置。
「犬、かなぁ?」
「いや、大きいですよ‥‥」
 姿は犬。だが、あきらかに人よりも大きい。真紅の毛並みを持つ猟犬のような大型キメラ――サヴィーネの操作する『ティンダロス』。
 キメラは様子を窺うように、少しずつ風詠たちに歩み寄る。
「そらペスっ、餌でも食ってな」
 と、一徳が猟犬に向かってレーションを放り投げた。しばらく眺めた後、ティンダロスは面を上げる。
「ウオオオォォォォン!」
 つんざくような咆哮。すると、次々とティンダロスの左右から豚人のキメラが駆け寄って来る。
「‥‥よし。逃げよう」
 くるりと向きを変え、3人は走り出した。


●BOSS
 エネルギーガンがオークを地に沈める。
(「皆さん頑張りますわね」)
 ソドムの牙がカチカチと音を立てる。咲夜たちの前には2体のオークと蜘蛛のキメラ。
 と、そこへ――
「要救助者連れてきた!」
 明が駆け込む。
「余計なのも連れてきてるけどな」
 一徳と風詠も合流、イスネグは後ろ目に後方を見る。
「ラスボス登場って感じだな〜。気合入れて治療しないと」
 4体のオークと、猟犬型キメラが迫っていた。
 ティンダロスが加速する。
 明が足止めを狙い、弓を向けた。
「な、なんだ」
 ティンダロスがオークを鼻先で押し飛ばしながら突き進む。明の放った矢はオークの盾にあたり、地に落ちた。
 オークを跳ね退け、ティンダロスが飛びかかる。
「あぁ〜‥‥」
 4本の爪がイスネグのジャケットを突き破り、ぽたぽたと血が零れる。
「いきます」
 風詠はライフルを着地直後の猟犬の背に向ける。途端、ティンダロスは左方に跳び、ビルの壁を蹴って逆側へまわりこむ。風詠の弾丸は壁を撃ち抜いた。
 絶え間なく動き回るティンダロス。
「雑魚からやるんだ」
 一徳の銃撃がオーク2体に命中、弓が弾け飛ぶ。
「あいたたた‥‥」
 イスネグが練成治療で自らの傷を塞ぐ。そしてレヴィに練成強化をかけると、剣が淡く光りだした。
「おぉう‥‥」
 さらに後方から斧がイスネグに降り注ぐ。かわしきれず、足を負傷するイスネグ。
 そのオークの頭上に淡く光る刃。
「はぁっ!」
 レヴィの斬撃でオークの腕が飛ぶ。
 と、後方から糸が吐き出された。ソドムが糸を引き寄せる。
「――しつこいわね」
 蜘蛛を後ろ目にするレヴィ。すると、ソドムの元へは盾だけが引っ張られていく。
「一気に決めちゃえ!」
 咲夜はイスネグに治療を施し、蜘蛛に練成弱体をかける。
 武器を拳銃に持ち替えた明の銃撃。2発の弾丸がオークの足を撃ち抜く。
「‥‥まずい」
 一徳の背後。後ろ目に猟犬が映りこむ。
 刹那、レヴィが前に立ちはだかった。
「うっ‥‥」
 3度、4度、切り裂かれる。ティンダロスの直撃を受け、レヴィは苦しげに膝をつく。
「ちっ!」
 舌打ち、一徳は後方のオークの弓を狙う。が、命中したのは胴だ。
「今治すからっ」
 練成治療をすべてレヴィにかける咲夜。続くイスネグも傷を癒す。
「今度は――」
 風詠が慎重にオークの腕に狙いを定め、2体のオークの腕を貫通する。
 これですべてのオークたちの力を削ぐことに成功した。
「くそ」
 突如、一徳の背に糸が絡みつく。ソドムの足元に引きずり出される一徳と老人。
「ばあさんや、飯はまだかのう?」
「やかましい! 俺らが飯にされそうだわ!」
 槍のような蜘蛛の足が振り下ろされた。
「ぐっ‥‥!」
 老人に当たるのを避け、足を貫かれた一徳。
 と、横に払う剣の一閃。蜘蛛の足が切り落とされる。
「蜘蛛を狙って!」
 レヴィの掛け声と同時に一斉掃射。弱体化中の蜘蛛に、強弾撃、全力で銃撃を加え、エネルギー弾が飛ぶ。轟音とともに蜘蛛の巨体がみるみる欠けていく。
(「あらあらまぁまぁ。やられてしまいましたわ」)
 苦し紛れにレヴィに糸を吐きかけ、仰向けに転がる蜘蛛。
(「でも‥‥これで勝ちですわね」)

「わっ!」
 いきなり咲夜が前のめりに倒れ込む。足首には、這い寄っていたオークの斧。
 ――そう、オークたちはトドメをさされたわけではない。
(「詰んだ」)
 真紅の猟犬が壁を蹴り、宙を舞う。正面に捉えるのは、倒れ伏した咲夜の姿。ティンダロスが頭上から襲いかかる。
「あ‥‥」
 咲夜の喉元に深々と喰らいついた。その瞳から色が失われる。
 世界が暗転していく――。


●ミッション・オーバー
「あーぁ。やっぱり前衛1人ってきつーい!」
「これ位なら歯ごたえもあるからいいんじゃないかな」
 感想を述べるレヴィとイスネグ。
「これって、シチュエーションが同じ事にも問題があるんじゃない?」
 思いついたように、レヴィがつぶやく。
「戦場をビル内部や森林、水辺にするっていうのは?」
「シチュエーションですか」
 考え込むパルマ。
 ところで、と一徳が顔を向ける。
「次は俺にキメラをさせてくれないか?」
「ということで、もう一度いいでしょうか?」
 風詠がパルマに許可を求める。
「ええ。構いませんよ」
「あたしもキメラやりたいなー」
「なら私が受けてたとうか」
 自信ありげに答えるサヴィーネ。傭兵たちはさっそく作戦を立てはじめる。
(「水辺、か」)
 パルマは今回のテストに手ごたえを感じ、新たな課題も見えたようだ。