●リプレイ本文
●打ち合わせ
ディレクターは一同を見回し、ひとつずつ設定に目を通していく。
「ん、君は?」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)の台本はない。
「俺は裏方を担当するよ。臨場感が必要なら、ハンディカメラも貸してくれ」
「それは助かる.詳細は歩きながら話そう」
一行は石切り場へと向かう。
「‥いない」
石切り場に出現したキメラが1体見当たらなかった。
「探してくる」
駆け出すホアキンを見送りながら、ディレクターは考える。
「こうしよう‥‥マスラオ! 君が最初に登場だ」
夜刀(
gb9204)の肩を叩く。状況を見て、当初の予定から変更することにした。
「で、ゴッドサンライト」
陽山 神樹(
gb8858)に声がかかる。
「それと、君だな」
Taichiro(
gc3464)に目を向けるディレクター。
「ところで、君の役名は?」
「すみません、実は思いつかなくて‥‥」
申し訳なさそうに答えるTaichiro。
(「台本の流れとしては、ゴッドサンライトと同系といったところか」)
「じゃあ君は‥‥シルバームーンブレイド」
「し、しるばーむーんぶれいど、ですか」
「そうだ。君の銀髪、ゴッドサンライトとの対比、そしてなんとなくブレイド」
「わかりました」
Taichiroは呪文のようにシルバームーンブレイド、シルバームーンブレイドと繰り返す。
「最後は‥‥マジカルプリンセス・レイナと光の魔導士シャーミィだな」
鬼道・麗那(
gb1939)とシャーミィ・マクシミリ(
gb5241)へと顔を向ける。
「出演時間は短い。だからこそ、颯爽と現れてバシッと決めてほしい」
そうアバウトに発破をかける。
「撮影準備OKです!」
ADが声を張り上げる。よし、と気合を入れるディレクター。
「撮影に入ろう」
●実戦撮影
石切り場に蠢く植物キメラ。
ヒーロースーツを纏った神樹、そしてAU−KVのTaichiroがキメラへと向かう。
突如、その前方に男が現れた。
「銀色のボディースーツを身に纏ったマリモ! ハイオク満タンの満で、みつるDAA!!」
静寂が流れる。
「なんだあれは‥」
唖然とするディレクター。
「ディレクター」
ひそひそと耳打ちするAD。彼もまた依頼を受けた傭兵。久木 満(
gc1051)です、と。
「どうするディレクター?」
たじろぐ神樹が応答を待っている。
「いったん待機!」
Taichiroと神樹はキメラから遠ざかっていく。
そんな様子を知ってか知らずか、満の手にバスタードソードが光る。キメラへと向かっていく満。そして、大きく振りかぶり――
「フッハァァ! ディィアッ!」
殴り、蹴り、突き上げる! バスタードソードはいったいどこへいったのか。
「む、蒸れるゼェ‥」
マスクの上から額の汗を拭う満。
「おごっふ!」
満が手を休めたとたん、植物キメラのツタの一撃。したたかに打ち付けられ、もんどり打って転がる満。
「大丈夫なのか‥‥?」
「まぁ能力者のようですし、死にはしないかと」
シャーミィが答える。
と、ディレクターの耳に唸り声。すぐそばまで別のキメラが迫っていた。
「おっと、そっちじゃないぞ」
雷撃。虎人キメラの前方の地面が弾ける。
「それ以上近づくと、火傷じゃ済まないぜ」
雷光鞭がほとばしり、虎人は石切り場へと押されていく。
「ん? なんだ?」
転がっていた銀色のボディースーツを踏みそうになるホアキン。
「あぁすまない。その男も回収してくれ」
「かまわないが」
怪訝な表情を浮かべ、ホアキンは満を引っ張っていく。
「爆薬とスモークはこれで全部かな」
虎人を牽制しながら、設置し終えたホアキン。
「あぁ。あとはハンディでの撮影を頼む」
そうして準備が整い、撮影が進んでいく。
「次は虎人の背後から見渡すようなアングルで撮って欲しい」
「ホアキン君、そのスモークのあたりにシャーミィのAU−KVを隠して――」
「あぁ! 銀のボディースーツがまた‥‥!」
「‥‥まずい! 一撃でバグアがグロッキーだ! なんとか立ち上がらせてくれ!」
こうして、トラブルを続出させながらも実戦の撮影が続く。
●後撮り
「きゃー! タスケテー!」
囚われた女性が助けを呼ぶ。
「よし、ふざけんな」
溜め息を吐くディレクター。
「なんだその棒セリフは‥‥」
「す、すみません」
女性役のADが平謝り。登場シーンも含め、キメラとの実戦以外はすべて後撮りだ。そして、ディレクターの手は休むことなくCG処理を行っていた。
「おぉ! これさっきのか!」
通りかかった神樹が感嘆の声を上げる。
「やっぱりヒーローは派手に行かなくちゃな!」
通り過ぎ、神樹は強化人間との戦闘シーンを撮りに向かう。その先には強化人間役のエキストラが4名。一般人が黒タイツをかぶっただけだ。
「次は上段、そう、もっと腰を回転させて――」
夜刀が殺陣の指導をしている。さらに、短いとは言え彼はギターと歌の収録まで行うという。
「‥‥傭兵、おそるべし」
「ふ〜ん、これさっきのですか」
あぁ、と麗那に返すディレクター。画面を覗き込む麗那の横顔をしばらく見つめる。
「‥‥麗那君、ちょっと悲鳴あげてほしい。できれば3パターンぐらい」
「はい?」
「これでなんとかなるだろう」
すでにディレクターの中で女性役の声は麗那で決定した。
●傭兵☆ヒーローズ
地球侵略をもくろむバグアたち。その手段としてバグア軍は一般市民をさらい、次々と強化人間へと変えていく。
今日もまた、ひとりの女性がバグアにさらわれようとしていた。
「誰か‥‥誰かっ! 助けて!」
石切り場に響き渡る悲痛な叫び声。強化人間たちが女性を引っ張っていく。
「まてぇーい!」
崖の上にゆらめく影。
「銀色のボディースーツを身に纏ったマリモ! みつるDAA!」
腰に手をあて、額の『満』がきらめく。
「とぅ!」
崖の上から飛び降りる満。
「ぐっは」
地にめり込む。
‥‥動かない。風の音だけが聞こえている。
「うぅ‥‥誰か、いやぁぁぁぁ!」
再び暴れる女性の口を強化人間が押さえつけた。
と、そのとき――バッグの携帯が突然起動する。
次の瞬間、あたりにまばゆい閃光が走った。立ち昇る硝煙、浮かび上がる男の影。
「弱きを護る派遣傭兵、電脳戦士マスラオ、此処に参上!」
事件あるところに電子機器から現れる改造傭兵、マスラオだ。
「そこのタイツ共! 女子の相手をするなら、邪魔な野郎を無視しちゃいけないぞ?」
強化人間を指差し、ニッと笑う。
――ふいうち。背後の強化人間が拳を叩き降ろした。
「はっ!」
きりきりと強化人間が宙を舞う。マスラオの回転蹴りが炸裂。
「ふっ」
正面からの正拳突きを受け止める。マスラオは掴んだ腕を後方へ引き――
「せい!」
投げ飛ばされ地に叩き伏せられる強化人間。その上から体重を乗せた肘うちが襲う。
立ち上がったマスラオ。
「‥‥少々数が多いか?」
その視線の先には、ぞろぞろと増える強化人間たち。そして、キメラの姿もあった。
「そこまでだ! バグア軍!」
振り返ったマスラオの目に、夕日を背にした2人の男。
「英雄の光! 破暁戦士ゴッドサンライト!!」
光の翼、山吹のフォルム。左手を突き出し構える、破暁の戦士。
「同じく、銀刃闘士シルバームーンブレイド!」
右手を突き出す銀髪の青年。
マフラーをたなびかせ、2人の戦士が地を駆ける。
「せあぁ!」
舞いあがるシルバームーンブレイドが急降下、飛び蹴りが強化人間に浴びせられる。
「どけどけぇ!」
行く手の強化人間たちが跳ね飛ばされていく。一直線にキメラへ突き進む、ゴッドサンライト。
と、空気を切り裂く音。
「‥‥あぶねぇ」
土埃を上げ、抉れる地面。頭上から鋭い棘のついた2本のツタが襲った。
なおも突き進むゴッドサンライト。見据える先に深緑をした植物のキメラが蠢いている。
「くらえ! サンライトナックル!!」
唸りを上げ、炸裂する拳。ぐにょりとキメラの体にめり込む。しかし、
「くっ」
ツタの反撃を正面から受け、よろめく。
「ゴッドサンライト、大丈夫か!?」
強化人間を相手にしながら、振り向くシルバームーンブレイド。
突然、目の前の強化人間が吹き飛ぶ。
「こいつらは俺に任せろ」
マスラオがぐっと親指を立てる。頷き、ゴッドサンライトへ駆け寄るシルバームーンブレイド。
「変身!」
シルバームーンブレイドを光が包み込む。しかし、そこへキメラの鋭い棘が降り注いだ。
光が収まった後には、強化スーツに身を包むシルバームーンブレイド。その手には撥ね上がった両刃の剣。そして――ぼとりと落ちる2本のツタ。
「いけぇぇ!」
シルバームーンブレイドのエネルギー弾。光条がキメラの体を刺し貫く。みるみるしおれ、やがてその動きが止まった。
「終わったか」
地に転がる強化人間たちを見下ろすマスラオ。
――刹那、
「ぐは!」
マスラオの体が宙を舞い、崖に激突する。
(「くそっ‥‥飛ばし過ぎたか‥‥」)
大量の強化人間との戦闘を繰り広げたマスラオ。その体は疲弊していた。
「くくくくく‥‥」
不気味な笑い声が響き渡る。立ち尽くす金の虎人。
「バグアッ!」
真正面からサンライトナックルが唸りを上げる。
「ふん!」
閃光。金の障壁がゴッドサンライトの拳と衝突し、火花が飛び散る。しかし、障壁を突き破れず、ぴたりと静止する拳。
「うあ!」
四条の爪跡が浮かび上がった。ゴッドサンライトが吹き飛んでいく。肩を押さえ、うめくゴッドサンライト。いまだ癒えない肩の傷。衝撃でさらに傷口が開く。
3発のエネルギー弾がバグアの障壁に衝突する。バグアを見据えるシルバームーンブレイド。
「こざかしい」
バグアの碧眼が怪しく光り始める。収束する金の光。両眼から金の光線が突き進む。
「ぐぁぁぁ!」
直撃を受け、感電するシルバームーンブレイド。震えながら倒れ込んだ。
「まてぇぇーい!」
石切り場に木霊する声。
「同業者からたまに命を狙われる俺! ハイオク満タンの満でみつるDAA!」
銀色のボディースーツ。額の『満』が眩しい。
「必殺!」
バグアへ向かって走る満。その目が淡い光を放つ。
「ほふくぜんしんDA!!」
突然バグアの前を這い、ぐるぐるとまわる。
「おごっふ」
蹴り上げられ、満は飛ばされていった。
「‥‥たわいない」
バグアは地に伏せるヒーローたちに吐き捨てる。
と、そのとき。バグアの前方にオレンジの光が魔方陣を描いていく。瞬間、煙とともに人影が現れた。
「シャーミィ、アナタ今度は何を企んでるの?」
煙にむせながら問いかける女の声。
「企んでなんかないわよ、バグアの元に転送したの」
冷静に返すもうひとりの人影。
「なんだキサマらは」
突然現れた2人を正面に捉えるバグア。
「私は通りすがりの美しいプリンセス‥‥覚えておきなさい」
「光の魔道士シャーミィ、あなたのお宝貰い受けに参上」
レイナは生命の源であるクリスタルをバグアから奪い返すため、シャーミィはバグアの持つお宝を求めて旅をしていた。
「‥‥っていきなり何するのよ!」
シャーミィの頭上を金の光線が通過していく。
「もう、せっかちね〜」
前方に魔杖を掲げるシャーミィ。先端から4つの白銀の光弾がバグアに向かって突き進む。
「あれ〜‥‥」
「ちょっとシャーミィ、全然効いてないじゃない」
バグアの目前で障壁に弾かれる光弾。ぎらりとバグアの碧眼が光る。
じりじりと後退する2人。その背後――
「阿保か俺は」
疲弊した体を奮い起こすマスラオ。
「どんな時でも奇跡を起こす‥‥それがヒーローってモンだろがぁ!!」
ギターの音色、そして歌が流れはじめる。
『まだ戦いは終わらない』
「これぐらいの傷」
ゆらめく光の翼。
「屈してたまるか!!」
ゴッドサンライトが拳に力を込める。
『勝負はまだ決してない』
「そうだ」
震える体。
「英雄は屈しない!」
シルバームーンブレイドが剣を握り締めた。
『逃げ出すな 前に進め』
「サンライトウィンド!!」
ゴッドサンライトの足が淡く光る。渦巻く風。
『今こそ駆け出せ』
「行くぞ! サンライトダッシュ!!」
山吹の風が駆け抜ける。一瞬でバグアの前に踊り出るゴッドサンライト。
「おおおおおおお!」
弾ける金の障壁。風を纏うサンライトナックルの連打がバグアの障壁を突き破る。
「英雄は絶対に! 負けないんだ!!!」
金の虎を強烈な一撃が突き抜けていく。が、バグアはすぐさま面を上げた。
続けて迫るシルバームーンブレイド。バグアの鋭い金の爪が振り上げられる。
『自分一人じゃない 気付けたから』
レイナの額に王家の紋章が浮かび上がる。
「エンジェルパワー、メイクアップ!」
沸き立つ青白のオーラがレイナを包み込む。
「気高きオーラは乙女の純真! 魔法セレブ、マジカルエンジェル!」
レイナの声が響き、シルバームーンブレイドを金の光が覆う。振り下ろされたバグアの爪を障壁が弾き返した。
「その能力、コピーさせてもらったわ」
『ほら見えるだろ 目指すべき明日が』
その手に流れる電流。シルバームーンブレイドは剣を逆手に持ち返る。
「デュミナスソード、リンドクラッシュ!」
駆け抜ける風。すれ違いざま、高速でバグアの体が幾度も切り裂かれていた。
『勝ち取るんだ』
「ちょっとくすぐったいけど我慢してね」
レイナの手から青白い光が渦巻いた。
「エンジェル・エスカレーション!」
ヒーローたちを淡い青白が覆い、力が満ち溢れていく。
『未来を』
赤の光を纏う刀。マスラオが真正面から全力をかけてバグアに斬りかかる。
「完全懲悪!! 龍牙驚天斬!!」
大気ごと両断する一撃。爆発、炎上。盛大に火柱が立ち昇る。
『希望を』
「左手の魔人、右手の聖者よ我の願いを聞きたまえ」
シャーミィの魔法詠唱が完了する。煙とともに魔法アーマーが現れ、全身を覆っていく。
『夢を』
シャーミィの左手には青白い光を纏う剣。
「さぁ――あなたのお宝、見せて頂戴!」
青白が突き、貫き、閃く。バグアは木っ端微塵に吹き飛んだ。
危険の去った石切り場。
「あ〜あ、この子も【お宝】持ってなかったかぁ」
残念がり、魔方陣へと戻るシャーミィ。煙が立ち昇った後にはその姿は消えていた。
「どうやら‥クリスタルは無かったようね」
呟くレイナ。
「生きていれば、またいつか会えるかもね」
笑顔をつくり、次の世界へと旅立っていく。
「俺たちも帰るか」
3人の男たちも平和になった石切り場を後にする。
ヒーローたちの戦いはこれからも続いていく。
〜Fin〜
●1枚のはがき
「そんな甘いもんじゃない、か」
ローカル局で平日の早朝枠の放送。はじめからなんの反響も期待はできなかった。
頭に手をやり、椅子を軋ませる。
「あ、ディレクター。こんなのが届いてましたよ」
ADが差し出したのは1枚のはがき。
「よくわからないけどおもしろかった、か」
くるりと椅子を回転させる。ディレクターにはにかむような表情が浮かんでいた。