タイトル:【竜宮LP】暗廻マスター:無名新人

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/05 23:03

●オープニング本文


 静かに、静かに。

 静寂な海。

 寄せては返す、波。

 風が凪ぐ。

 激動が去った後にはただ、朽ち果てた城が静かに佇んでいた。


 幻想的な青と黒の世界が広がる。





 暗い、暗い。

 築かれた瓦礫の上。

 静寂を乱す水流。

 空包が巻き上がり、昇っていく。

 光条が暗闇を照らす。

 アルバトロスが静かに降り立った。


 ターニャ・クロイツェン(gz0404)はモニター越しに真っ暗な竜宮城の通路を見回す。
 傍らにはいつも連れ立っている朗らかな傭兵の姿はない。
 彼女は今、ひとりでいる。
「さて」
 ふっと息を吐き出す。
 アルバトロスが竜宮本城の上層へ到達。
 しばらくして、後方からライトが闇を貫いた。
 1機、また1機とKVが進入していく。
「揃ったようですね」
 後方を一瞥する。
 ターニャと同様、先んじて索敵の任務を負った傭兵たち。
 渦巻く海水。思惑。
 ターニャは前方へ意識を戻す。
「では行きましょう」
 照らし出される闇に目を向ける。
 その表情は無機質で、機械的に弾丸を撃ち出すとき、そのもの。
 アルバトロスが先導していく。



 奥深く眠るのは、影。

 深淵には竜宮の残滓が漂っている。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD

●リプレイ本文

●上層・中央部
 闘いの去った城。静寂に包まれた竜宮。
 盛大に泡が巻き上がる。
 六堂源治(ga8154)のバイパー改が、飛び出した鉄砲魚を機槍で貫いた。
「大丈夫だ、問題ない‥‥ッスよ」
 瓦礫に潜んでいたキメラ。
「さっすがあにきー!」
 相澤 真夜(gb8203)が声を上げる。
 敵の姿はあまり見当たらない。

 上層のひらけた中央部には下へと降りる緩やかな坂道が螺旋をなしていた。
「それじゃ、集合時間を決めておこっか」
 下へと向かう依神 隼瀬(gb2747)はここを合流ポイントと定めた。
 一行は上層、中層、下層の3班に別れて探索する。
「深海だからそれなりに気をつけないとな。一貫の終わり――なんてならないようにしたいもんだぜ」
 Loland=Urga(ga4688)はそう、足元に広がる光景を眺める。
 奥は深く、見えない。
「念のためソナーブイを設置しておくわね」
 一ヶ瀬 蒼子(gc4104)から、ソナーブイが投下された。
 中層へと進んでいく隼瀬たち。KVの姿が竜宮の深淵に消えていく。
「んじゃ、一丁やってみますか」
 源治、ローランド、蒼子の3機は上層の探索へと移る。



●中層1F・中央〜東部
「ここまでのようですね」
 音影 一葉(ga9077)のアルバトロスが下り坂の終わりへ到達する。
「ここがキメラプラント、ですか」
 ターニャ・クロイツェン(gz0404)の前には先の見えない広大な空間。
 薄く、あたりをぼんやりとした光が照らしている。
 散乱している調整層の残骸。破片が淡く光を返す幻想的な、けれども侘しい光景が広がっていた。
「これも調べてみたいものだが、ね」
 一葉のアルバトロスに掴まり、牽引されて移動するUNKNOWN(ga4276)のK‐111改。探索できる時間は多くはなかった。
「進行方向に敵影。1体です」
 一葉が敵の接近を告げる。
「あれは、ゴーレムですっ!」
 ゴーレムを視認する真夜。
「おお。それは大変だ、どこにだね」
 UNKNOWNは真夜にその位置を尋ねる。
「‥‥ゴーレム、でした」
 たぶん、と真夜はUNKNOWNに返答する。
 魚雷の集中を受け、ゴーレムは姿を現した瞬間、消し去られた。


 ターニャのアルバトロス改が空気に触れる。
 3機のゴーレムを撃破した後、海水が流入していない部屋に辿り着いた。
 リヴァイアサンを降り、周防 誠(ga7131)は室内を巡る。
「北と南への通路、あとは下りですが、どれもKVでは行けないようですね」
 誠は思案。しばらくして視線をターニャへ向けた。
「ターニャさん、機体の護衛をお願いできますか」
 長時間KVを放置するわけにはいかない。
 ふむ、とターニャは考え込む。
「代わりに、バグアの生活の痕跡を探してもらえますか?」
 意外な返答にやや怪訝な表情を浮かべる誠。
 が、それくらいならと誠は承諾し、
「何か問題が発生した場合、援護を頼んで下さい」
 そう、ターニャにKVを任せて下へと向かう誠。
「それではーっ!」
 真夜が手を振り、降りていく。
 KVのAIに機体ロックをかけ、UNKNOWNと誠、真夜は下層へ生身で進んでいく。
「じゃあ俺たちはプラントの調査にいくから、ターニャちゃんはお留守番がんばってね☆」
 ターニャを残し、隼瀬と一葉は再び水中へ戻っていった。



●中層1F・キメラプラント〜北部
 数kmにもおよぶキメラプラント調整槽。それらを隅々まで隼瀬と一葉は見て回る。
「さすがにこう壊れてちゃ、あんまり調べられないかな」
 プラントの構造を調べようにも、難しい状態と言えた。
「何処かにプラントを管理・維持する施設やそれに類する物があるとは思うんですが」
 広大な空間には一葉の考えるようなものが見当たらない。
「‥‥ん、ワームだね」
 隼瀬の右手の方にワームの姿。こちらに気付き、突き進んでくる。
「確実に狙わなきゃね」
 隼瀬のアサルトライフルから弾丸が断続的に放たれていく。
 続けて一葉の魚雷が着弾。爆発するワーム。
「プラントに被害はない、ですね」
 正確にワームを仕留めた。

「垂直の穴か〜。危険かな?」
 北部の広間には上層へつながっていると思しき通路、そして先の見えない穴があった。
「他を当たりましょうか」
 一葉たちは旋回、南部へと向かう。



●上層・北東部
「何かしら、情報が手に入りゃ良いんスけどね」
 左方を警戒しながら源治がつぶやくように声をかける。
「ここいらは期待薄かもな」
 先導するローランド。
 あたりにはときおり、砕けたKVの部品やワームの一部、壁面などが散見される程度だ。
「そうね」
 蒼子は源治の逆方向を位置取る。
 竜宮攻城作戦では城外で敵をひきつけ、竜宮の陥落まで立ち会った蒼子。
 御伽噺を現出させたような竜宮城の中を、その目で見てみたかった。
「確かに、何もないかもしれないわね」
 外観とは裏腹に、何の変哲もない無骨な要塞の通路が続く。
 戦の跡は静かで、何もない。
「と、着いたぜ」
 未踏破区域にあたる北東のエリアに差しかかる。
「クラゲが2体ッスね」
 機雷キメラが源治たちの前方に漂っていた。
「ここは私が」
 広い通路に、障害物も特にない。蒼子の水中用大型ガトリングから数十発の弾が吐き出されていく。
 手前のクラゲに着弾、爆発する。後方のクラゲにも爆発の連鎖、波紋が広がった。
「行きましょう」
 蒼子たちは通路の先へと進む。

「デカイ穴ッスね」
 源治の目を惹いたのは、遠方まで続くKVの数倍はある巨大な円形の通路。
「ワームかなにかの射出口‥‥か?」
 ローランドの足元にもサークル上に少し窪んだ床。ここからワームがせり上がって出撃していたのだろうか?
「他も特にないわね」
 周囲に一通り目を巡らせ、蒼子。
 稼動している装置はなく、罠のようなものもなかった。あとは変わり映えのない通路が広がるのみだ。
「次に行くか」
 広間を後に、3機は北西の未踏破エリアへ進路を変更する。



●下層・中階
 朱色の珊瑚キメラを破壊。
「ううむ、相変わらず硬いですねー」
 出来た穴を足早に通過する真夜。
 竜宮は下へ行けば行くほどに広くなっていく。すでに下層へ至るまでにかなりの時間が経過していた。
「しっ、早くこちらへ」
 誠の声に、慌てて通路に身を隠す。ペンギンのようなキメラたちが前方の角を曲がる。
「行きましょう」
 隠密潜行で瓦礫から瓦礫へ。
 静かに忍び、真夜、誠、UNKNOWNの3人が進んでいく。

「しかし全く持って通路ばかりだね」
 分かれ道にペイントで印をつけながらUNKNOWNは声を漏らす。
 行けども行けども通路ばかり。部屋らしきものに行き当たらない。
「お望みの部屋みたいですよ」
 探査の眼を使用している誠は、曲り角の先に大きな扉のある広間を発見。

 扉に耳を押し当て、UNKNOWNは安全確認。
「おや。鍵は開いているようだ」
 一度開かれているのか、大扉が押しただけで開いた。
「おぉ! ついにお宝ですか!?」
 真夜はUNKNOWNの背後から中を覗き込む。
「どこかに引っ越した後みたいだね」
 苦笑する誠。
 物どころか瓦礫ひとつない、だだっ広い空き部屋のようだった。
 一通り罠を警戒し終えたUNKNOWNは床に目を落とす。
「ここに詰め込まれていた、といったところか、ね」
 幾重もの靴の跡が残されていた。
 タイピンのカメラで映像をおさめ、UNKNOWNたちは広間を後にする。



●上層・南西部
「キメラ――ワームかしら」
 1時の方角からワームが1機。蒼子は魚雷ポッドを向ける。
「待った。大丈夫だとは思うが、念のためひきつけよう」
 南西の区画は少し様相が異なっている。機器が爆風に巻き込まれないよう、ローランドは近接戦を提案。「了解」と蒼子は水中用ディフェンダーを構えた。
 弾丸を撒き散らしながらローランドたちにワームが接近する。
「よし、いまだ」
 振りあがる高分子レーザークロー。ローランドがワームを斜めに切り裂く。
「うし」
 源治の機槍が刺し、貫いた。
「トドメね」
 蒼子のディフェンダーが両断。
 二分されたワームの部品が通路を進み、突き当たって停止する。
「‥‥ち、喰らっちまってたか」
 ワームの銃撃を受けた源治。
「やっぱ水中戦は勝手が違うッスね」
 とはいえ、かすり傷程度。何事もなかったように隊形を戻し、区画内へと進入する。


「一応壊しとくか」
 入り口の周囲、おそらく稼動していない迎撃装置を源治は機槍で潰す。
 中へと入る3機。
「ワームの射出口はないッスね」
 他の3箇所にあった窪みや穴は見当たらない。
「中央ではなく隅にモニタールーム‥‥やけに大きいが」
 壁一面に、巨大なモニターらしきものが備え付けられていた。
 ローランドはあたりを見て回る。
「ねぇ、この扉どこへつながってるのかしら」
 蒼子がディフェンダーで指し示す先、2mほどの扉があった。
「動いてないわね」
 なにかでロックされており、力ずくでは開かないようだ。
「ぶっ壊してもいいが、ちとマズイッスかね」
「じゃあ後続の調査部隊に任せる?」
 蒼子に源治はそうッスね、と返す。
「結局ここも収穫なし、だな」
 ローランドが2人の元へ。
 これまでと同じ、取り立ててめぼしいものはなかったようだ。
「上層はひとまず終わりだな」
 上層はくまなく踏破。後の調査には問題ないだろう。
(‥‥そういえば、乙姫様は今どこにいるのかしらね)
 ふと蒼子は考える。
「まだ時間はあるが、合流地点に戻ろうか」
「そうね」
 蒼子はローランドの後を追う。
 調査されればいずれ発見されるだろう――と。
 3人は合流地点へと戻った。



●下層・下階
 髑髏が矢に射抜かれて飛んでいく。
「気が付かなければよかったのにね?」
 すっと弓を下ろす真夜。
「まぁでも、結構攻撃受けたけどね」
 誠は苦笑いを浮かべる。
 周囲に狭い連絡路で遭遇した7体の鬼骸兵の残骸が転がっていた。
 UNKNOWNが治療を施し、先へと進む。

「うむ。聞き取りづらいが成功、と」
 片方がもう片方の通信を拾うように無線機を抱き合わせ、道中に中継器としておいてきていたUNKNOWN。
「あ。こっちの扉、硬そうです!」
「またですか」
 強固な珊瑚の扉は壊せないこともないが、誠たちは後回しにしてきた。
「しかし、そろそろ最下層かね」
 UNKNOWNのはるか前方。通路の様相が異なっている。
「お、そうみたいですっ!」
 最深部に行ったことのある真夜には見覚えがあった。



●中層B1F
 竜宮城には、電子魔術師で解錠可能なロックが幾つか存在していた。
「ここはどなたかの個室のようですね」
 中層西部でKVを降りた先から、さらに階下へ下る道を進んだ階層にて、暗い個室を発見。
「‥‥どれも白紙みたいだね」
 暗視ゴーグルで不自然なほど何も書かれていない紙切れを眺める隼瀬。
 この分では積み重なった記憶媒体のようなものも、中身は何もないのかもしれない。
(でももしプラントの管理者の部屋であれば――)
「うーん。あまり時間もないし、次を当たろっか」
 隼瀬が一葉を促す。
「そうですね」
 一葉は少し名残惜しそうに、個室を後にした。


「一葉ちゃん、敵だよ」
 宙に浮くエイ型のキメラが2体、十字路の東から迫る。
 超機械で練成弱体、練成強化をかける隼瀬。
「極力戦闘は避けたいですが‥‥仕方ありませんね」
 一葉の超機械から電磁破が発生。エイがのたうつ。
「いくよ」
 隼瀬の三叉の槍が痺れるエイを突き刺した。もがき、絶命する。
「むっ」
 もう1体のエイの刃のような尾が隼瀬の頬を掠めた。
 瞬間、電磁破で震えるエイ。
 隼瀬は持ち手で槍を回転、勢いよくエイの体を貫いた。
 瞬く間に2体のキメラを撃退。
「これは、ご丁寧に毒があるみたいだね」
 エミタが毒の解析を始める。
 一旦、隼瀬は治療することにした。

 少し周囲とは雰囲気の異なる区域に足を踏み入れた。
「これはどうしようもないかな」
 隼瀬の足元には水が溜まっている。
「見事に破壊されてますね」
 重要施設と思われる場所にはすでに傭兵たちの戦闘の跡があった。
「上に戻って、反対側にいこっか」
 2人は元の道を戻る。


「ワームとかキメラとかそこそこ来てたみたい?」
 ターニャに軽く手を振り、隼瀬と一葉はエイの残骸を通過。北側の通路を進む。
 2人は地下へと歩を踏み入れていった。

 電子魔術師でロックを解除。
「ここは誰も入っていないようですね」
 いともたやすく大扉が開いた。
「うっ!」
 刹那、隼瀬と一葉に毒矢が突き立つ。
「これは、まずいかな‥‥」
 鎧を纏う鬼骸兵という名のキメラが4体、さらに奥には機械の巨人の姿も見える。
「撤退しましょう‥‥」
 扉を閉め、急いで踵を返した。



●最下層
 蒼く、黒く。鼓動のように明滅する通路。
「なにか変なものがあったら気をつけなきゃ‥‥」
 きょろきょろと見渡す真夜。
「罠、じゃないかもしれませんがそこ、足元気をつけてください」
「はっ!?」
 誠の指し示す先にぽっかりと人ひとり分ほどの空洞があった。
「えーと、ここは『キケン』っと」
 真夜は通路上にペンで書く。
「まぁ後で来る方々のためにきっちりしておかないと、ですよね」
 誠は微笑みかける。

「扉の上、なにか飛び出しそうですよ」
 誠が気付いた小さな装置をUNKNOWNが破壊。
 聞き耳を立てた後、煙草型の工具でカチャカチャと鍵開けをはじめた。
「たやすい。私室か何かかね」
 あっさりと鍵が開く。
 細心の注意を払い、UNKNOWNは扉を開けた。
「ほう‥‥」
 薄暗い部屋を照らす光。
「バグアの部屋、か?」
 竜宮の外や内部の映像がモニターに映し出されていた。
「何があるか見せて貰おう」
 3人は小さな個室を探し始めた。

「‥‥うん、そろそろ戻りませんか?」
 ふいに提案する真夜。
 帰路を考えると、真夜の練力はぎりぎりだった。
「そうしましょうか」
 この部屋にはありふれた雑貨類しか見当たらない。
「あと少しいいかね」
 引き出しにあったノートを眺めるUNKNOWN。
 手記は古い物のようで、かすれた文字や破けた部分が多い。
 ぱらぱらと捲っていると、はらりとなにかが落ちた。
「おや。これは」
 古びた一枚の写真を拾い上げる。
 かなりの年季が入っており、全体的に色褪せていた。
 映っているのはやや小太りの気のよさそうな眼鏡の男。その傍らには小さな子供がいた。
 日本のどこか、田舎の風景の写真だろうか。
「ふむ、ふむ」
 写真もタイピンのカメラで収め、手記へと戻し、UNKNOWNは懐へしまう。
「――よし、戻ろう」
 UNKNOWNたちは急いで来た道を戻る。



●帰還
「もう一度やってみます」
 予定時間を過ぎ、再度情報伝達で一葉はUNKNOWNに連絡する。
「‥‥返事がありました。問題ないみたいですね」
 打ち合わせておいたビット暗号で、おおよその距離が返った。

 そうして探索を終えた傭兵たちが帰還する。
 竜宮につけた目印、行動記録から地図を作成、写真なども持ち帰った。
 回収したものはUPCに渡る。

 竜宮にはなにがあったのか。
 真にそれを知る者はもういない。