●リプレイ本文
●蠢動
「珊瑚が、綺麗ですねー‥‥」
和泉譜琶(
gc1967)は感嘆の声を漏らす。
深海のように暗く、蒼い。そこに珊瑚で彩られた朱の色彩。
幻想的な世界が広がる。
譜琶の肩には、小さな四霊たちが浮かぶ。
ときおり譜琶は様子を覗き見る。
導かれるように、シクル・ハーツ(
gc1986)は氷絶剣へと手が伸びていた。
(これがあれば、守りきれるかもしれないな)
シクルの覚醒と同調するように、氷絶剣から淡い青の冷気が放たれている。
珊瑚の壁を掘り進める藤村 瑠亥(
ga3862)。
「こんなもんじゃねぇ?」
砕牙 九郎(
ga7366)が斧の強撃を加え、大穴が開く。
「ここから来てくれればいいがな‥‥」
穴の前へ立つ瑠亥。
瑠亥の周囲には剣状の光。雪月花が高速で旋回する。
「しかしおもてぇな」
九郎は紫刃の超大な斧を担ぎ、脇に立つ。
後方から譜琶が、左方からはシクルが、大穴の先に目を向けていた。
――東側。
反光すらしない銃身。
「へぇ‥‥意外と馴染むわね」
二丁の漆黒の拳銃を携えた鷹代 由稀(
ga1601)。
「‥‥悪くない」
その感触を確かめる。
「んじゃ、始めますかね」
由稀は常闇を手に、北の曲り角へと目を凝らす。
由稀の南方、雪月花を纏う辰巳 空(
ga4698)が守る。
その先に進めば、身を守ってくれる蒼黒領域の発生機関。
『僕は後方から援護します』
無線機から緊張気味な声。機関の前には四霊を浮かべる結城 桜乃(
gc4675)がいた。
『宝具には人智を超えた力がある』
乙姫(gz0389)の声が響く。
『しかし、魔獣はそれをもって初めて対峙できる相手だ』
けたたましい音。近くの珊瑚の壁が粉砕された。
唸る魔獣が広間に侵入していく。
由稀の隣、シーヴ・王(
ga5638)は手にした紅黒の太刀を見つめる。
(竜宮を護る‥‥)
瞳に映る、刀身から立ち昇る獄炎。
(何か不思議な感覚でありやがるのは‥‥今は考えまい、です)
迫り来る敵を倒す、それだけに集中を――シーヴは劫火斬滅刀を前に構える。
『さあ、来るぞ』
●魔獣
すとり、と着地。
赤紫色の巨体。虎のような、しかし眼のない顔が空洞から窺う。
「これは‥‥」
瑠亥の視線の先には、眼のない顔、顔、顔、顔、顔‥‥壁を駆け登った魔獣。
「結構ヤバイんじゃねぇかな‥‥」
前と上に目を交互にする九郎。
「応龍ちゃん‥‥」
譜琶が息を呑み、応龍に指示を出す。
跳躍する魔獣。
「来たか!」
シクルの視界、魔獣の姿がみるみる大きくなる。
「来たわね‥‥狙い撃つわよっ!!」
二丁の常闇から同時発射、強弾撃を乗せた2つの弾丸が寸分違わず放たれる。
高速で突き進み、弾丸が巨体に吸い込まれていく。
破砕音。魔獣の肩に丸く抉られたような黒い穴を穿つ。
「すごい‥‥けど!」
由稀は次々と弾丸を撃ち込む。なおも、魔獣は平然と走り寄ってくる。
足、頭を黒弾に撃ち抜かれ、やがて沈黙する魔獣。
しかし、魔獣が北から雪崩れるように姿を現す。
「魔獣だろうがなんだろうが、乱れ撃って躍らせてやるわよ!」
正確無比に弾丸が撃ち出される。
放たれた銃弾と同じ数、魔獣の体に穴が空いた。
赤紫の虎。その数が3体、4体、6――続々と増えていく。
「なっ」
眼のない顔。魔獣が一瞬で距離を詰める。
由稀の首を狙い、金剛石の爪が輝く。魔獣の残像が広がった。
切り裂かれる首。
「剣劇、迅雷も使いやがりますか」
魔獣の首を斬り落としたシーヴはさらに前へ。
大太刀を斜に、魔獣へと間合いを詰める。
「っ、速えぇ」
大太刀が空を斬った。直後、振り下ろされる魔獣の爪。刀身で受ける。
薙ぎ払い、さらに下から突き上がる爪。
「受け切りゃどうってことねぇ、です」
爪を受けた劫火の刀。立ち昇る炎からシーヴの瞳が見据える。
魔獣の胸に大炎の斬撃。が、眼のない顔がシーヴを向く。
「ぐっ‥‥しぶてぇです」
爪がシーヴの頭上を通過する。
瞬間、魔獣に4つの黒穴。後方へ魔獣が倒れる。
「よし、次!」
由稀の常闇が次の標的に向けられた。
突然眼前に現れた魔獣。輝く爪が瑠亥を刺し貫いた。
「それは残像だと」
閃く雪月花。魔獣の肩から先を切断する。さらにむき出しの肩に残像斬の一撃が突き刺さった。
そのまま瑠亥は次の魔獣の懐へ。
瑠亥の後には足や肩をなくした魔獣が蠢く。
その南方、大穴の前で2体の魔獣を前にする九郎。
手にした超大な斧で大きく薙ぐ。
「やっぱ当たんねぇ」
軽々と飛び退いた魔獣たち。
「――のはわかってるんだぜ」
不敵な表情の九郎。
直後、魔獣の背から冷気が迸る。
「そこだ!」
後ろから連続で貫く氷絶剣。巨体が音を立てて凍っていく。
シクルの左方から飛び込む、赤紫の虎。
「ぐぅう、う!」
受けた氷絶剣の上から超圧の爪が圧し掛かる。
「させませんよ!」
すとり、と魔獣の側頭に突き立つ譜琶の矢。
応龍の前に水塊が集まる。渦を巻きながらうねる高水圧の水流が魔獣を貫いた。
それでもなお、魔獣は体勢を立て直す。
「トドメだぜ」
両手で振り上げられていた紫刃の大斧。
巨体が裂ける。瞬間、魔獣の頭上から落雷。
魔獣が二つに分たれ、別々に転がった。
――前方、続々と魔獣が現れる。
突き出された爪が跳ね返る。
刹那、高速の雪月花が魔獣の両腕を裂いた。
さらに空は剣で追い打つ。
「‥‥きりがありませんね」
空が仕留めた魔獣は4体目。
広がる乙姫の残像、魔獣に幾重にも剣撃が刻まれる。
「そうかもしれんな」
細切れになった巨体の向こう、乙姫の金眼が6体の魔獣を捉えた。
息吐く暇もなく、乙姫の放った水圧波が1体を仕留める。
続き、脇を通る魔獣が凍てつきながら両断。
空に向かい来る4体の魔獣。渾身防御で立ちはだかる。
勢いを乗せて振り下ろされる爪。
弾き返し、空の雪月花が魔獣の腕を落とした。
が、頭上を飛び越えていく魔獣。
1体は乙姫が水圧波で刻み、阻止する。
空は右方からの爪を受け、雪月花の反撃が魔獣の首を飛ばした。
「そちらへ1体抜けていきました」
空の連絡を受け、固唾を飲む桜乃。
姿を現す赤紫の巨体。一直線に魔獣が迫り来る。
「応龍、魔獣に補助攻撃を‥‥」
上ずる声。拳銃に手を添え、虎の顔へと狙いを定めた。
発射される弾丸。
銃弾と、続く応龍の水撃が通路に穴を空ける。進路をそらした魔獣。
次弾――が、いきなり目の前に魔獣が現れた。
声の出ない桜乃に魔獣が跳びかかる。
「うああああ、あっ!」
巨体に圧し掛かられ、切り裂かれた。
さらに桜乃の首を刈るため、爪が振り上がる。
途端、魔獣の腕がちぎれ飛んだ。続けて刀の強撃が巨体を斬り飛ばす。
金の両眼が桜乃を見下ろす。
『巨大な敵影だ』
ふいに、無線から瑠亥の声が聞こえる。
「後は頼む」
乙姫が踵を返す。
●巨影
「おおきい‥‥」
見上げる譜琶。壁の上に紫紺の竜頭がうねる。
辺りを揺るがし、珊瑚の壁が砕かれていく。
「危ねえな」
九郎が盾にした壁が削れる。
穴の向こう、2機の巨人が砲撃を加えながら前進。
『巨神は雷、滅竜は炎で迎え撃て』
乙姫の声が響く。
「それじゃ麒麟ちゃん、巨神さんを狙いますよっ」
麒麟の頭を撫で、譜琶が雷上動をつがえる。
巨神へ矢を放った。と同時に、麒麟の角から雷が巨神に向かって突き進む。
「あ、れ‥‥?」
電流が散る。巨神の盾が阻んだ。
刹那、盛大に壁が壊れ飛ぶ。
現れた紫の多頭機竜の口中へ紫電が走る。
その足元、瑠亥が小太刀で竜を斬りつけた。
「これは俺が抑えておく」
竜の多頭から雷が矢継ぎ早に放たれる。距離を取りかわしていく瑠亥。
1人で滅竜を相手取る。
身を隠す由稀。
「でかい‥‥」
魔獣に混じり、巨神の姿が曲がり角から覗いていた。
砲撃の合間を縫い、魔獣に弾丸を撃つ。
が、巨神が立ちふさがる。常闇をもってしても、かすり傷程度だ。
「‥‥ま、それならそれで狙い目はあるか」
由稀は巨神にターゲットを絞る。
「あの盾が厄介か。なら‥‥!」
シクルは地を蹴る。
「いくぞ!」
迅雷から氷絶剣の二連撃が本体を狙う。
「く、火力が足りないか」
僅かに傷ついただけの巨神。シクルは迅雷で離脱、しようとした途端。
「うっ!」
他方からシクルに制圧射撃が放たれる。
シクルの頭上にキャノン砲。甲高い駆動音が鳴り響く。
軋み落ちる腕。
「やらせねぇ!」
九郎に斬られた巨神に雷が轟き落ちる。
「スクラップにしてやるぜ」
さらに落雷。超大な斧が薙ぎ、巨神の両足が叩き折れる。
折れ曲がる巨神。正面からシクルの機械剣が連続で突き抜ける。
「本体は知覚に弱いようだな」
巨神から光が消えた。
「麒麟ちゃん!」
キャノン砲に突き刺さる譜琶の矢。麒麟の雷が矢の軌道を追い、走った。
砲撃が九郎の頭を逸れていく。
「受け取りな!」
豪力発現。九郎は斧を横に振り抜く。巨神の残骸が、もう1体の巨神へ一直線に飛来する。
衝突、巨神が仰向けに倒れる。
「終わりだ」
シクルの機械剣の連突が刺し貫く。
追いついた九郎が紫刃の斧を叩き下ろし、連続で落雷が降り注いだ。
巨神から光が失われる。
が――
「ぐっ!」
肩を貫く砲弾。シクルは迅雷で後退する。
「第二波だと‥‥!」
複数の巨神の砲撃音が聞こえる。
「嘘‥‥」
悲鳴に似た声を上げる譜琶。
魔獣たちが壁の上に這い上がっていく。
「くそ‥‥これ以上は進ませねぇ!」
雷撃で痺れる体。
レジストで和らげる空へ、巨神の砲撃が追い撃つ。
「さすがに厳しいですね‥‥」
じりじりと後退、空に巨神と滅竜が迫る。
と、横合いから銃撃が竜の首に命中、追い進む火炎弾は巨神が盾で阻んだ。
「鳳凰‥‥いや、麒麟。巨神に補助攻撃を頼みます!」
帯電する麒麟、桜乃が狙いを定める。
瞬く間に巨神が滅竜の後方へまわりこんだ。灼熱の剣風が、阻んだ巨神の腕を軋ませる。
「なかなかかてぇです」
シーヴはヴァルキリアに持ち替え接近する。
蒼く輝く乙姫の刀。
「いまだ」
凍てついた巨神にシーヴの剣撃が炸裂。直後、銃撃が巨神を撃ち抜き、麒麟の雷鳴が木霊した。
巨神が沈んでいく。
――シーヴの頭上に渦巻く電光。竜頭に寄り集まった雷が地に解き放たれる。
紫電が駆け抜けた。
「ぐっ‥」
立ちはだかり、全身から電流を散らす空。雪月花が竜の脚を切りつける。
続けて放たれた雷撃をシーヴは横っ飛びにかわす。
「その無駄に多い首、ぶった斬ってやる、です」
体勢を立て直し獄炎の大太刀を振りかぶる。
大火の剣閃。
二頭が落ち、巨体を業火が覆う。
暴れ狂う滅竜。
「く‥‥!」
割り込んだ空が突進を盾で受け、吹き飛ばされた。同時に雪月花が竜の首に傷つける。
「鳳凰、滅竜に火炎を頼みます!」
桜乃から進む銃弾と炎。滅竜に立ち昇る炎が勢いを増す。
「燃えやがれ、です!」
赤色に発光する太刀。竜の巨体を十字に断ち、斬り、灼熱の炎が上がる。
炎熱が竜鱗を溶かし、竜の身を焦がしていく。
壁に寄りかかり、静かに燃える竜。
滅竜が討ち滅ぼされた。
「精密そうな機械ほど、一箇所狂えば‥‥ってね」
由稀の前方に傾く巨神。すべての銃撃を脚部関節へ集中させていた。
「なに、これ?」
降り注ぐ白い粒子。
あたりが白く染まっていく。
●白の領域
傷を癒す空が気配を感じ振り向く。
発光する銀の剣。
「‥‥」
旋回の止まる雪月花。渾身防御の体勢を解き、空が壁を伝い倒れる。
白風を纏い、白銀の騎士が駆け抜けていく。
雪月花で滅竜の最後の首が落ちた。
『白いのが突破してったわよ!』
『付近の者で阻止するしかない』
由稀、乙姫の連絡。核近くまで下がっていた瑠亥が向かう。
水圧波を回転してかわす。
白騎士の前には核への扉。
右から小太刀が閃く。
「ここは通せんな」
瑠亥が鎧の継ぎ目を狙う。
が、白騎士は急速後退。瞬間、銀と白の剣がまばゆい光を放つ。
――回転。
きん、と何かが断ち切れる音。
「あ‥‥」
左方から銃を向けていた桜乃がゆっくりと倒れる。
音速で広がった銀と白の二つの波紋。
「物理と、知覚‥‥」
膝をつくシーヴ。
銀の波を劫火の刀身が受け、白はすり抜けた。
珊瑚の扉が雪崩落ちる。
白騎士の前に核が露となった。
白い周囲。魔獣の動きが一段と速く、頭を狙った銃撃が外れた。
「‥‥やるしかないわね」
両側から迫る魔獣。由稀はひとり抑える。
「させるか!」
譜琶の前、氷絶剣の連撃で凍結する魔獣。
「っ‥‥!」
直後、背後から切り裂かれるシクル。
と、水流を纏う矢が至近距離から巨体を貫き飛ばす。
「次は麒麟ちゃん、お願い!」
次から次へと譜琶は矢を放ち、四霊が追撃する。
轟く雷。巨神の盾が落下した。
「どうすりゃいいんだこれ!」
砲撃が九郎の足に命中する。
大技の隙、回転舞で回避した瑠亥は白騎士の懐へ。
「行かせん‥!」
小太刀が打ち下ろされる。
「やりやがったな、です」
後方から炎の波が白騎士を襲う。
白騎士は飛び退り、すべて外れた。
背後に乙姫の残像が広がる。
が、刀は白騎士の兜を掠めたのみ。
発光する白騎士の剣。
「どいてろ」
迅雷の勢いのまま瑠亥は乙姫を突き飛ばす。
瑠亥に白銀の剣が振り下ろされた。
切り裂かれる瑠亥の――残像。
「残念だったな」
雪月花が白騎士の肩を裂く。
回転舞で瑠亥が上方から、残像斬で小太刀を肩に突き刺す。
白騎士を射抜く金眼。乙姫の刀が蒼く輝いた。
交錯する蒼と白。白騎士の白刃が乙姫の肩を裂く。
「――散れ」
白騎士の鎧に亀裂、蒼の軌跡が浮かぶ。
背後に現れる獄炎。
劫火斬滅刀、そしてシーヴから烈火が迸る。
解放され真紅に染まる大太刀。
「食らいやがれです!」
蒼の上に赤炎が重なる。
広がる大火が白銀を飲み込み、焼き尽くす――。
●またいつか
「私は‥‥」
気が付く空。
「どうやら、核は無事のようですね」
壁によりかかり、立ち上がる。
銃撃が止み、残骸が広がる。
「なんとか、なったわね」
その数、26体。
脇腹を押さえ、由稀は足を引き摺り歩く。
「終わったんだ‥‥」
気が付いた桜乃。
「有難う、助かったよ‥‥」
四霊たちに礼を言い、再び意識を失う。
壁に寄りかかる満身創痍のシクル。
「この剣に助けられた、な‥‥」
視線の先には氷絶剣の青と、氷漬けの砕けた魔獣たち。
「終わり、ましたね‥‥」
座り込む譜琶に麒麟が頬擦りする。
「もうダメかと思ったぜ」
息を吐き、九郎はどっかと斧を地面に下ろす。
「護りきった‥‥ですね」
砕けた珊瑚の上へ静かに倒れる。
淡く、やわらかな核の光がシーヴの横顔を照らしていた。
「まったくだ」
九郎たちに歩み寄る乙姫。その後ろには守りきった核の光が立ち昇っている。
「まぁおまえたちのおかげか」
そう、乙姫は小さく微笑んだ――。
「ほほえん、だ‥‥?」
はっと九郎は目が覚める。
「夢か」
あたりは見慣れた部屋。
「‥‥またな」
九郎はつぶやく。
いつかまた続きがあるかもしれない、と。
――夢の世界を夢見て。