●リプレイ本文
●三途の川
蒼く、黒く。辺りが明滅する。
魔剣を手に、漸 王零(
ga2930)は雷のごとく走り抜ける。
前方に見えるのは残骸と化した2機のアルバトロス。その突き当たりには分かれた2人の仲間たちがいた。
「やぁ、少年またあったな」
凌へ笑いかける王零。続けて右方へと目を向ける。
曲がり角の先には巨大な光条のほとばしる広間、そして前を塞ぐように女がこちらを見据えていた。
「藤村‥‥状況は?」
王零は視線を外さず尋ねる。
王零の隣でぎりぎりと引き絞られる矢。藤村 瑠亥(
ga3862)が弾頭矢を放った。
突き進む先は女の上方、光を発する装置。
――刹那、女は僅かに姿勢を低くする。
「今‥‥なにしたんだ‥‥」
何が起こったかわからない、思わず声を漏らす凌。弾頭矢は通路で爆発、女は再び元の態勢に戻っていた。
「後ろのもの、それを守ってるというとこか」
初手で女の出方を見極めた瑠亥。
「‥‥それで」
言葉少なに瑠亥は凌へ救急セットを手渡す。
「あ、あぁ! 任せてくれ、搭乗者は必ず助け出すから」
挙動に目を奪われていた凌は、KVの残骸を掘り起こしに向かう。
「さて」
広間を見据える瑠亥。
静かなる深淵。漂う、底冷えする気配。
「そこより先は三途の川」
やがて女がその口を開く。
「渡るなら‥‥命はない」
両眼が冷たく、輝きを放つ。
竜宮城に佇む、一振りの刀を携えた女の姿――『乙姫』。
乙姫(gz0389)の金の視線が向けられていた。
「いこうか‥‥三途の川の向こうとやらへ」
瑠亥は二刀小太刀を握り締め、迅雷。
「ここまできたらやるしかあるまい」
王零も迅雷。駆け抜ける2人。
前方、姿勢を低く、乙姫が刀へ手をかけた。
――今、2人は三途の川を渡る。
●三位一体
鼓動のような音。静かに響く空間。いくつかの足音が混じる。
王零が先行した後、右方から現れる気配。
彼方に3つの人影が浮かんだ。
「‥‥どうやら以前遭遇した個体と同じみたいですね」
鳴神 伊織(
ga0421)には見覚えのあるもの。
青黒色のスーツで全身を包み、顔全体をマスクで覆う3体の人型。
その体には、不自然な飛沫き模様。
竜宮内部に侵入した別働隊は『3体の人型』の報告を最後に、ことごとく連絡が途絶えていた。
――黒く凝固した、敗れた傭兵たちの血の跡。
拳銃で狙いを定める。
「いよいよ大詰め‥‥といった所ですか」
伊織は人型へ弾丸を放った。
掲げられた人型の左手。直前で銃弾がぱらぱらと落ちていく。
(難しい仕事だが、何、いつもの事だ)
時枝・悠(
ga8810)は冷静に挙動を観察。
「知った上で選んだのだから、な」
その言葉からは微塵も怖気を感じられるはずもない。
悠は左手を刀にかけ、巨人と人型に目標を定め、伊織と共に突き進む。
伊織たちの背後から立て続けに鳴り響く轟音。
リボルバーが回転、拳銃から全弾が発射される。
「‥‥一筋縄にはいかないか」
矢に弾かれた弾丸。
蒼河 拓人(
gb2873)の制圧射撃は輝く矢によって阻まれた。
「それでもただ全力を尽くす」
拓人の揺れ煌く瞳が高速で飛来する人型を捉える。
「それが傭兵さんのお仕事さ」
拓人は翼人へと照準を合わせた。
●偽りの突破
迅雷で進む2人の前方には、左手を刀にかけた乙姫。
「藤村‥‥我が抑える」
一瞬、王零は脇の瑠亥に目配せする。
「――行け!!」
魔剣を前にする王零。
乙姫の金眼が突き進む瑠亥を射抜く。
――霞む、刀の持ち手。
「‥‥!」
急停止、瑠亥は身を床へ投げ出す。瞬間、頭上を音も無く音速の刃が飛び去っていく。
(飛ぶ斬撃‥‥2つ、いや3つか)
危うく四枚におろされていた、と瑠亥の背に冷たいものが走る。
膝立ちになる瑠亥、
「――っ!」
さらに側転して逃れる。床に刻まれる鮮やかな三重の跡。
刹那、乙姫の脇を風が駆け抜けていった。
振り返ると、迅雷で広間の中へと到達した王零。
「初めからこのつもりだったと」
乙姫の背後からの声。後ろ目に小太刀が映る。
が、瑠亥の刃は空を切った。
王零の魔剣が巨大な装置に振り下ろされる。
甲高い音。
放物線を描き、魔剣が宙を舞う。
「ぐっ‥‥!」
続けて鞘の強打を浴び、後方へ飛ばされる王零。
乾いた音を立て、魔剣が広間の隅に転がっていく。
「ここを守るのは私、ただ一人」
金眼が王零を射殺すかのように。
上段の刀が下段へ流れる。
「その理由を推し測るべきだった」
乙姫の刀が蒼く、怪しい光を放つ。
●上を目指して
「そいつらは気をつけた方がいい」
拓人たちへ警告する六堂源治(
ga8154)。
「首飛ばしても生きてやがったんで、脚潰したり胴体斬ったりで『動きを制限させる』のが有効だと思う」
以前に交戦した経験から、想定できることを伝える。
「とは言え効果があるかは分からねぇが‥‥やらないよかマシかもッスよ?」
一通り通信を終え、無線機をしまった。
アスナは無線から漏れ聞こえる声に耳を凝らす。
「別働隊が近くにいる」
最深部は通信範囲が狭い――つまり、付近に仲間がいるということ。
「おそらくこの先‥‥あちらと合流しよう」
一縷の望みを託し、救出された人々と共に前へ進む。
乱雑に撒き散らされたKVの部品。また一つ、また一つと転がっていく。
ふいに、それがぴたりと止まった。
「息は、してる‥‥」
相澤 真夜(
gb8203)は掘り起こした搭乗者の口元に耳を当てる。
「聞こえますか?! 大丈夫ですか! 痛いとこありませんか!?」
捲くし立てるように声をかけ、意識の戻った負傷者の傷の手当てを始める。
声が聞こえる。少年はその目を開けた。
「お、気が付いたか」
ぼんやりと、少年の目にはセージ(
ga3997)の微笑が映る。
見回すと、全身の装備のほとんどが焼け焦げていた。
「よくがんばったな」
少年に応急処置を施していくセージ。
「よっと」
そのまま少年は軽々とセージに担ぎ上げられる。
ふと、同じように抱えられた仲間がいた。
「セージさん、それじゃ手筈通りいったん上まで運びます!」
負傷者を抱えた真夜が一気に走り去っていく。
「俺たちに任せて一休みしとけ」
前を向いたまま、セージは背の少年に声をかける。
「絶対に連れて帰ってやるから」
セージは少年を担いで上へと向かう。
「くそ‥‥!」
負った傷。源治は自由の利かない体を無理矢理押し進めていく。
やがて上へと伸びる通路へ差し掛かる。
「死んじまうのは嫌だが、足手纏いは死んでも御免だ」
見上げる先にはアルバトロスの残骸が見えていた。
●共鳴
向けられた腕から輝く矢がマシンガンのように射出される。
刀を盾にして矢を受ける悠。幾本かが体に突き立ち傷をつけるが、物ともせず前へ。
銃撃。走り込みながら伊織が翼人を牽制。
「蒼河さん」
伊織の銃弾を追う、拓人の鋭角狙撃による弾丸。
2つの弾丸が交差、翼人の突き出された右腕と左翼に突き進む。
急速後退。弾丸は翼人の足をかすめて彼方へ消える。
――さらに光条が追い撃ちをかけた。
再加速、水平方向にかわす翼人。が、またも拓人のエネルギーガンからの射撃が進路上を射抜く。
次々と光弾が翼人の進行方向に撃ち込まれる。
前方の巨人の背後から姿を見せる人型。右手を悠へと向けた。
連続して電磁破が襲う。
体から放射される磁気。直撃だけは避け、それでも悠は構わず前へ。
続けて人型は左手を前に。放たれた伊織の銃撃を無効化する。
悠の刀から甲高いSESの排気音。巨人を目前に捉える。
初撃。巨人の斧槍が悠の上段を弾いた。
連撃。ふっと悠の残像が広がる。目にも留まらない連続攻撃で巨人の構えた大盾に幾重にも剣閃が刻まれていく。
破砕音と共にバラバラと落ちる大盾。
刹那、悠の頭上に激しく明滅する斧槍。
「くっ――!」
刀を前に後方へ退く。打ち下ろされた斧から円状に白光と衝撃が広がっていく。
やがて光が収まった先には、円く抉れた通路。
幾許か衝撃波を浴び、やや顔を歪めながら立ち上がる悠。
伊織は光避けにかざした手を下ろし、刀に添える。
伊織が猛撃――そして、悠も猛撃を発動する。
悠の左手の紅炎、伊織の右手にした常世から共鳴するように甲高いSESの排気音が鳴り響く。
「まだまだこれからだ」
悠と伊織の猛攻が始まる。
●小太刀の間合い
刀が冷気を帯びる。王零を正面に――目を後ろにする乙姫。
回転、左後方へ袈裟斬りを放つ。
不穏な音と共に押し固まる空気。
「危ない‥‥」
首を傾けわずかに右へ、剣線から身を外した瑠亥。
浮かぶ斬撃の軌跡からきらきらと氷が舞い落ちる。
――そして、瑠亥の腕の周囲には翼の紋章が舞っていた。
真燕貫突の二連撃が乙姫の鞘を狙う。
が、下にした刀身が二刀を受けた。
瞬間、斬り上げ。乙姫の刀が撥ね上がり、空を裂く。
かわした瑠亥は前へ。刀より一歩内側、小太刀の間合いへと持ち込む。
連続して交わる刃から火花が散る。上に、下に、乙姫は刀で受けていく。
と、瑠亥の腕が淡く光る。
「‥‥」
跳び退った乙姫。浅く服の袖が切れた。
覚醒で脚部から疾る黒風。なおも瑠亥は懐へ飛び込み、距離を詰める。
乙姫の刺突。
「悪いが、食らってやれんな‥‥」
瑠亥は半身をひねり、かわしながら前へ。
淡く光る瑠亥の腕。スキル・刹那で瑠亥の二刀小太刀が変速的に繰り出される。
三日月のように浮かぶ小太刀の軌跡。
フォースフィールドが切り裂かれた。
王零の目前には光の迸る広大な装置。
魔剣を振り上げ、叩きつける。
「そう容易くはないか」
手に走る衝撃。魔剣が弾かれ、上へ。
強固な防護処置、頭上のいたるところに自動迎撃兵器のようなもの、そして、入り口の両脇にレーザーが射出されそうな射出口もある。
(つまりはそれほど重要な機関という事だが)
なぜか、そのほとんどが起動する気配がなかった。
――破壊する機会は、今しかない。
「ならば、壊れるまで斬り刻むのみ!」
木霊する金属音。王零が一箇所を滅多打ちに斬撃を加えていく。
二刀小太刀を避け切れず、乙姫の左手に傷が刻まれていた。
「‥‥」
瑠亥を見据えていた乙姫が王零に目を向ける。
瞬間、後方へ跳び、像を残して消えた。
そのさらに後方、鞘へと刀を納め、乙姫が姿を現す。
切り裂く音。追う瑠亥の足へと高水圧の刃が飛来する。
難なく最小限の動きで避ける瑠亥。
だが、またしても乙姫が消える。
「藤村!」
王零が横目に叫ぶ。顔を向けた瑠亥に、乙姫が王零に駆け寄る姿。
金眼が王零を見上げる。
が、急停止。横合いから突き出された小太刀を刀で受けた乙姫。
「おまえの相手は俺だ」
迅雷で駆けつけた瑠亥が、息を吐かせぬ攻撃を続ける。
避け、受けながら下がっていく乙姫。
しかし、
「なるほど」
ふいにぽつりと、乙姫はつぶやく。
瑠亥の、乙姫の刀の位置に合わせた挙動をずっと目で追っていた乙姫。
金の眼が輝きを放つ。
瞬間、瑠亥に外套が放り投げられた。瑠亥の視界を覆う衣。ほんのわずか、判断に迷い、瑠亥の動きが止まる。
「――終わりだ」
背後の声。目を向ける瑠亥。小太刀を後ろへまわす。
下から乙姫の刀が瑠亥を貫いた。
●瞬く閃光
空に走る光。拓人のエネルギーガンから放たれる光条が翼人の行く手を遮り、攻撃を阻む。
地に奔る風。大技を繰り出したばかりの巨人と人型へ向け、伊織からソニックブームが放たれた。
縦に、斜めに、続々と苛烈な剣風が突き進む。
盾のない左腕を犠牲に、切断する風から逃れる巨人。
「‥‥よし」
拓人はリボルバーを構える。翼人が巨人の頭上へ。
――3体すべてが制圧射撃の効果範囲。
全弾掃射、3体の動きの先々に穴を穿つ弾丸。
そして、即座に翼人から向かい来るモリのような刃。
「うっ‥‥」
拓人の左腕に黒い刃が突き刺さる。弾の切れ目を狙った長い矢。
拓人はエネルギーガンで反撃、瞬間、高速で迫るモリと交錯する。
「くっ!」
目前で粉砕。辛くもリボルバーで拓人は撃ち落とす。
伊織の牽制射で上方へ逃れる翼人。
前方、人型が巨人の背に手を当てた。
一瞬不気味に発光する巨人。言語に絶する咆哮を上げる。
(‥‥何か、あるかもしれないな)
警戒し、悠は人型へ発砲しながら距離を詰める。
銃弾を避け、人型は後退していく。
上空から飛来する黒いモリのような刃。
「二度は食らわないよ」
上方で破裂。拓人は着実に撃ち落とす。硝煙の立ち昇るリボルバーと、添えられるようにエネルギーガン。
照射された光。刃の粉塵を縫い、突き出された翼人の腕を貫いた。
続く連射をかいくぐり、翼人が後方へ撤退していく。
巨人の斧槍が目まぐるしく光り、色を変え始めた。
「させません」
巨人の真下に、伊織。人型から進路を変え、巨人の左方から懐へ飛び込んでいた。
鮮烈な横薙ぎの一閃。さらに斬り上げる。
切断された左足。置き去りに、巨体が大きく左に傾いていく。
だが、不吉な明滅を繰り返す槍が伊織の上から振り下ろされる。
――接近する、もう一つの甲高い排気音。
「阻止だ」
割り込んだ悠が刀を槍にぶち当てた。
広がる残像。刀を叩き付けるたび、上方へ閃光が奔る。
刹那に四度瞬き、辺りを光が覆った。
超大な斧槍が砕け散り、破片が舞い落ちる。
横たえた巨人の頭を、三度悠の残像が取り囲む。
そして、蒼く淡い光を放つ伊織。
「――これで終わりにしましょう」
禍々しい、剣の覚醒紋章が吸収。輝きを放つ伊織の鬼蛍。
共鳴する猛撃の甲高い音。
巨人が四散する。
「私は先行した方の援護に向かいます」
伊織は王零たちの元へと急ぐ。
残り2体が撤退し、元通り鼓動に似た音が聞こえるようになった空間。
「それじゃ、私は」
蠢く音。悠の言いかけた言葉を止める。
悠は気配の源を見下ろす。
「虫の類は首落としても暫く動くが‥‥そういうアレか?」
四肢と頭を無くした巨人が体を震わせていた。
――斧槍と同じ、不吉な色に明滅。
「しまっ‥‥」
閃光。波紋が広がっていく。
●立ち尽くす
瑠亥が膝から崩れ落ちる。
刀を引き抜いた乙姫。
ゆっくりと王零に近付く。
「待たせたな」
王零に投げかける乙姫。
「貴様の奥深くが、この時を望んでいた」
その目がそう物語っている、乙姫は続ける。
「‥‥凶魔剣『ディス・ティルフィングスレイヴ』」
魔剣の凶装が王零に呼応するかのように変化。
王零は向き直り、やや半身に剣を向ける。
「はじめよう」
乙姫は刀に手をかけた。
向かい来る疾風。広間を駆け、乙姫が迫る。
――居合い、抜き放たれる刀。流し斬り、薙ぐ魔剣。
乙姫と王零がすれ違った。
「‥‥くっ」
王零の右肩から血が伝っていく。
風。続く振り下ろし。魔剣を横に受ける。
「せあ!」
覇気と共に突き出す刃。乙姫の衣を切る。
「ふっ!」
反撃、呼気と共に繰り出される一閃。魔剣を縦に。
剣を振り上げる王零。
途端、持ち手から黒塊が放たれる。
「‥‥」
乙姫の右手を穿つ闇の弾。さらに打ち下ろされる魔剣。
斜めに受け流す乙姫。流れるように斬り上げ。
滴る赤。顔を歪める王零。首が浅く切れた。
水平斬り。
「はっ!」
刀を魔剣が大きく上に弾く。
「くらえ!!」
放たれた闇が乙姫に直撃する。
振り上がった魔剣。渾身の力を込め、叩き込む。
紙一重でかわされる一撃。金眼が見上げる。
空を切り裂く刀。跳び退った王零。
――刹那、怪しく刀身が輝く。乙姫の残像が広がる。
「貴様の最期だ」
魔剣の上から幾重にも蒼い刀跡が浮かぶ。
立ち尽くす王零。
乙姫は刀を鞘に収めた。
●友軍
壮年の搭乗者を背負い、搬送する凌。
「おーい、どこまで運べばいいんだー?」
無線機に問いかける。
「あ、鳴神さん」
前方から伊織が走ってくる。
「残り負傷者1名、応急処置は済んでいる模様。どなたか搬送を」
後方へ連絡、角を曲がる伊織。応答のない瑠亥と王零の援護へ向かう。
普段であればものの数秒で走り抜ける距離。
「情けねぇ‥‥」
今はそれが果てしなく、遠い。
源治は坂道を一歩ずつ登っていく。
「なにしてんだ、六堂?」
声に見上げる源治。紫煙をふかしながら、真山 亮(gb7624)が見下ろしていた。
「‥‥見てわかんねぇか」
荒く息を吐く源治。
「は〜‥‥」
亮は片眉をあげ、溜め息を吐く。
あちこちに散らばるアルバトロスの残骸の山。
「そっちの、掘り起こしてくださーい!」
自身も残骸を掻き分けながら、左方へ声をかける真夜。
「そっち‥‥」
ルカ・ブルーリバー(gb4180)はKVの残骸までちょこちょこと歩み寄る。
「掘る‥‥」
背伸びして、上から順に部品を降ろしていく。
「いたいのいたいのとんでいけー」
覚醒で白い翼が展開。柔らかに、セシル シルメリア(gb4275)が救出された搭乗者に練成治療を施す。
後ろのがちゃがちゃとした不協和音に振り返る真夜。
「――あ! そこ、もっと丁寧に!」
真夜の声が聞こえているのかいないのか、引き続き、無言でKVの部品を乱暴に放り投げていく南雲 良太(gc0156)。
「で、早く傷の手当てー!」
「‥‥‥‥うるせー」
ぼそりと吐き捨てる。
「けっ」
舌打ち、良太はうつ伏せに倒れたままの搭乗者に応急処置を施していく。
「ったく」
仕方ないように、源治へ練成治療を施す亮。
「世話の焼ける剣聖さんだ」
源治に肩を貸し、歩き始める。
その先には、大勢の救出された人々と仲間たちがいた。
STの少女は上へ向かう通路を眺める。
「この扉も‥‥」
そびえるほどの巨大な珊瑚。しかし、これまでのものより幾分か薄い気がした。
「やってみる価値はありそうだな」
JGの男が銃弾を撃ち込む。
「これは‥‥少し、再生が遅い気がしますね」
推測通り、閉じるのがやや遅い。
「‥‥よし、ここで決まりだな」
アスナは珊瑚の扉を見上げ、脱出する方法を思慮し始めた。
そのとき――
ちゃき
ちゃき
珊瑚の扉の両脇、天井の穴から着地。
膝立ち、面を上げる、角の生えたがらんどうの髑髏。
突如、胴丸を纏う紫黒色の鬼骸兵が2体、アスナたちを挟み撃つように姿を現した。
後ろ目に、骸骨が弓をつがえ、狙う姿。
「危ない」
アスナは突き出された槍を剣で払う。
●破壊
「これは」
伊織の目には倒れた瑠亥、そして王零に背を向けた乙姫。
金の目が伊織に向けられる。
乙姫は左手を刀に。
音速で三連剣撃が突き進む。
片目を細める伊織。受けた刀から飛び散る斬撃の余波。全身に切り傷を負う。
突然、乙姫の前に立ち上がる人影。
脇腹に血を滲ませ、瑠亥が二刀小太刀を振るう。
「しぶとい」
乙姫は刹那で捻り打たれた小太刀を半歩動いてかわす。
次の瞬間、その背を貫く闇。
「まだ、終わってはいない」
全身を朱に染めた王零が黒塊を放った。
「四肢を刎ねるか」
乙姫の金眼に冷徹な光を宿る。
光の立ち昇る装置。伊織は銃を向け、弾丸を撃ち込む。
不可視の障壁が弾き返す。だが、ぴしりと王零のそばからひび割れる音。
危険な対象――乙姫は手当たり次第に銃撃を加える伊織へ目標を定める。
途端、閃く小太刀。
一撃、フォースフィールドを突き破る。
「これで‥‥!」
二撃、その上から瑠亥の小太刀が足に突き立つ。
「貴様‥‥!」
蒼く輝く刀。乙姫の刀が冷気を纏いはじめる。
赤く立ち昇る炎。振り上げられた魔剣。
「砕け散れ!!」
王零の全力の攻撃が障壁へ叩きつけられた。
白光が覆う。
高エネルギー波が広間を埋め尽くす。
●脱出
鬼骸兵を横から銃弾が突き抜ける。
「ん‥‥」
ルカの練成強化で淡く光る真夜の銃。
「攻撃させるわけにはいきませんねっ!!」
強弾撃の連射が鬼骸兵を撃ち抜く。
その逆側、弓をつがえていた骸骨。その全身に無数の穴が穿たれる。
セージのデヴァステイターが鬼骸骨兵を瞬く間に葬り去った。
真夜に射抜かれながら、鬼骸兵が形を崩したまま槍を握り直す。
「ほにゃらほにゃらー」
練成弱体をかけるセシル。
骸骨は毒槍を突き出す――が、さらに頭蓋を砕かれた。
鬼骸兵が沈黙する。
「ふぅ‥‥」
甲高いSESの排気音が止む。
源治は銃を下ろした。
赤く光る斧槍。
「‥‥開きやがれっ!!」
アスナたちに続き、両断剣で良太が珊瑚に斬撃を加えた。
上へと向かう歪な空洞ができる。
「やれやれ」
JGの男とEPの青年が先行し、警戒。
危険はない、と民間人に扉をくぐらせていく。
「6にん‥‥7にん‥‥」
続々と進む人々を見、ルカが状況を連絡する。
「そういえばまだ仲間がいるそうだな。次はどうする?」
頭上の骸骨が降ってきた穴を見上げつつ、アスナが声をかけた。
「私は下へ応援に行ってきます――ではっ!」
さきほどの伊織の応援要請を受け、真夜は通路を下っていく。
「俺も行こう」
セージがその後を追う。
●風前の灯火
ぽたり、ぽたりと足を伝う、血。
「‥‥っ! ‥‥ぐぅ」
足を引き摺るように、悠は少しずつ上を目指す。
一瞬の判断で自爆から刀で身を守ったものの、悠は全身に深い傷を負っていた。
「もう少しだ」
悠に応急処置を施し、肩を貸している拓人。上へ向かう通路は目前。
ちゃき
ちゃき
しかし、さきほどから聞こえる乾いた音がすぐそこまで迫っていた。
3体の、紫黒色の骸骨の姿が拓人の視界に入る。
「‥‥仕方ない」
リボルバーから放たれる制圧射撃。鬼骸兵たちの動きを止める。
そのとき――
「うっ」
悠の背に突き立つ2本の矢。力無く、前のめりに倒れ込む。
「ち!」
振り向きざま拓人はエネルギーガンを放つ、が瓦礫を撃ち抜いた。
爆発でできた瓦礫から覗く、4つの赤い眼。
鬼骸兵が弓を番える。
「‥‥」
ぼんやりと意識が薄れゆく中、悠は自らにキュアをかけ、矢の猛毒を打ち消した。
悠を起こし上げる拓人。
(どうするか‥‥)
南側から3体の骸骨が迫る。
と、立て続けに頭蓋を撃ち抜かれ、2体の鬼骸兵の首が後ろ向きに曲がった。
側転、セージが通路から前へ躍り出る。
「護り抜くぜ‥‥この命」
デヴァステイターから弾丸を放った。
セージはKVの影へと飛び込み、骸骨の矢が残骸に突き刺さる。
「たっちゃーん!」
続けて、場違いに明るい声。上から真夜が現れた。
しかし、悠の様子に笑顔が消える。
駆け寄り、ふいに拓人の脇でかがみ込む。
「真夜、何を」
鬼骸兵に制圧射撃を加える拓人の下、真夜がすっと悠の肩と膝裏へ手を差し込んだ。
「キャッチ」
頭を垂れた悠を抱きかかえる。
くるりと踵を返し、姿勢を低く。
「――アンドゴー!!」
瞬天速。真夜が一気に坂を駆け上る。
「ふん」
振り返り、刀を振り下ろす。背後から放たれた矢を叩き落としたセージ。
「お前たち、ここを通れると思うなよ?」
デヴァステイターが骨の足をくじく。
●巨龍
崩落する広間。
「機関は破壊した」
無線で連絡する。迅雷で脱出した瑠亥。
前には最後の搭乗者の移動補助をする伊織。
「無事、というわけではないがな‥‥」
肩を借り、呻きながら歩く王零を見やる。
満身創痍――血みどろの2人。
ふらつきながら前へ進む。
拓人のエネルギーガンが胴丸を貫いた。
残骸の上から飛び降り、セージが鬼骸兵を両断する。
「とりあえずこれで片付いたな」
辺りには鎧や槍、骨の破片がそこかしこに広がる。
他も心配だが、もうすぐここを通る仲間がいるため、2人は鬼骸兵を放ってはおけなかった。
「‥‥また来たね」
拓人は弾丸を装填。見回し、前後の状況を把握。
「今度はデカイのもいるな」
セージはその視界に巨大な姿を捉える。
「こりゃすごいな」
散乱した骨を眺め、感嘆する凌。
「‥‥あれもすごそうだ」
遠くに浮かぶものを一瞥し、足を早める。搭乗者を背負い直して凌は通過していく。
セージたちの前方、鬼骸兵の頭上に巨大な龍が宙を舞っていた。
けたたましい音を立て、進路上にあった瓦礫を粉砕する。
龍が突き進む。
●黒鬼ごっこ
「たぶん、もう大丈夫だろ」
練成治療を終え、つぶやく亮。
「ほんとですか、よかったー!」
胸を撫で下ろす真夜。
「やっと着いた‥‥」
下から、負傷者を背負った凌が現れた。
すでに民間人は珊瑚の扉の向こうに避難している。
「また来たか」
アスナの前、鎧の金属音と共に鬼骸兵が脱出口付近に降り立つ。
途端、脳天に穴が開いた。
「‥‥」
猛撃を乗せ、悠が横たわったまま銃撃。
「そろそろ見飽きたッスね」
源治、アスナ、真夜と続き、瞬く間に骨が転がった。
「‥‥何か聞こえるぞ」
悠に言われ、耳を澄ます面々。
びちゃり、びちゃりと音。ゲル状の何かが近付く。
通路に出、音のした方角を見る。
「こいつぁ‥‥」
源治は遠くのモノを見上げる。
白光する楕円の両眼。それを除き、すべてが漆黒。
どろどろとした不定形の、黒く、巨大な物体。
「なんか、へんなのが‥‥」
続く言葉を失う真夜。
源治が以前に見たモノより小さいとは言え、それでも見上げれば首が痛くなる。
違うのは、いくらか生物の形を成し、四足歩行していること。
だらりと、口元から黒い液体が滴る。
「とりあえず弾頭矢っ!」
真夜は黒いモノへ弾頭矢を放った。
顔の付近で爆発。
「相澤、攻撃はほとんど手ごたえがない」
源治の言う通り、なんら効果は見られなかった。
「早く逃げるッスよ」
前方の白い眼が、攻撃を加えた真夜に向く。
「は、はいっ」
息を呑み、そろそろと下がり始める真夜。
黒いモノの顔にぽっかりと穴が開く。
瞬間、足元に黒い線が照射。
「‥‥こ、こんなの、当たったら死んじゃう‥‥!」
跳び退いた床が溶けて無くなる。
青ざめ、真夜は瞬天速で加速。
「来るなったらっ!!」
その後を黒いモノがぐじぐじと気味の悪い音を立てて追いかける。
真夜は文字通り必死で逃げていく。
――鬼に捕まれば、死あるのみ。
●龍咆
後方に弾丸を撃ち込み、坂を駆け上がる拓人とセージ。
「これはバケモンだな」
後ろに銃を向けながら2人は後退る。
「まだ妙なのがいるのか」
「もう間に合ってますねー」
溜め息を吐きながら亮と、セシルが呆れたような声を上げる。
「みんな、気をつけて」
拓人が警告。
やがて、広い通路を埋め尽くす龍の巨体が現れる。
四霊『応龍』を模したとされる龍型キメラ。
その角に水が渦巻きはじめる。
「一斉掃射!」
かけ声と共に拓人が制圧射撃で角を狙う。掻き消える水球。
「何発当てりゃいいんだか」
セージの銃から弾丸が3発同時発射され、龍の体にぽつぽつと穴を空ける。
応龍に開いた無数の弾痕はまるでかすり傷のように頼りない。
再び龍の角に集まり始める水塊。
「なんとか抑える」
拓人は照準を絞る。狙うは応龍の黄眼。
轟音。次々と引き金を引く。
リボルバーから吐き出された弾丸が空を切り裂き、黄の巨眼に突き進む。
――龍の咆哮が上がった。
隻眼になった龍が激しく荒れ狂う。
「うおっ!」
尾の強打でセージが受けた刀ごと跳ね飛ばされ、通路に激突する。
さらに応龍の咆哮。触れた逆鱗が止め処も無く、全身から放射されるかのように。
牙を剥き、龍の顎がエネルギーガンを連射する拓人を襲う。
「くはっ‥‥」
大きく避けるが、掠めた脇腹が切り裂かれる。
銃を撃つ源治。
(くそ‥‥怪我さえしてなけりゃ!)
猛撃で撃った弾丸をものともしない。源治はぎりぎりと歯を噛み締める。
「よ、よし治すぞ」
拓人、セージに亮が練成治療を施す。
「ファイトですよー」
遠巻きに、セシルが応龍に練成弱体をかけた。
「きょうか」
そして、ルカが練成強化をかけて回る。
怒り、猛る龍の角に、三度水が渦を巻きはじめた。
龍の眼前で弾頭矢が爆発。集まった水が弾ける。
遠くには、弓を構えた真夜の姿。
ちゃきちゃき、と鎧の音。脱出口に鬼骸兵が着地する。
「うっとうしい」
甲高いSESの音とともに、悠が骨の足を撃ち抜く。
赤く輝く竜の紋章、アスナの剣が骸骨の頭を飛ばす。
「こっちは任せてくれ」
旋回。背後から突き出された槍を剣が弾いた。
通路が揺れる雄叫び。龍が隻眼を見開き、拓人に突進する。
視界を埋める巨体。
――衝突、盛大な音が上がる。
避けた拓人を追うことなく、壁にぶち当たった龍。
「遅くなりました」
最後の負傷者を連れた伊織が現れた。銃弾が次々と龍の体を穿つ。
地に落ちた応龍の背後に、影。
小太刀がフォースフィールドを貫通、さらに小太刀が突き刺さる。
壮絶な叫びを上げる龍が巨頭を振り乱した。
小太刀を引き抜き、瑠亥は跳び退る。
呻き、視力の奪われた龍に水塊が集まっていく。
拓人から弾丸と光が撃ち出される。
振り上げられたセージの刀。赤色に輝く。
「トドメだ」
龍の首に赤い斬撃の軌跡が浮かび上がった。
水塊が落ち、通路を水浸しにする。
壮絶な龍の咆哮が、止んだ。
●扉の向こうへ
「はーっ! 死ぬかと思った!」
肩で息をし、真夜が合流する。
その後方から、べちゃり、べちゃりと粘着質な音。
「この感じは‥‥前のやつに似ているな」
黒いモノを見、王零はつぶやく。
(まともに相手をしている状況じゃないか)
王零は珊瑚の大扉へと向かう。
剣の紋章が吸収。伊織が扉を大きく斬りつける。
「今年最後の大盤振る舞いだ。出し惜しみは無しでいくぜ!」
豪破斬撃。セージの追撃が珊瑚の扉を叩き壊した。
傭兵たちは扉をくぐっていく。
セージはその間も珊瑚が再生するたび、破壊する。
後方へ弾幕を張り続ける拓人。
坂道からいくつもの髑髏が覗く。
殿の伊織が通過。セシルが笑顔で手を振り、迎える。
「早く行きましょう、あまり余裕も無いですし」
伊織の後を珊瑚の扉が閉じていく。
ちゃきちゃき、と扉の向こう側に鬼骸兵が降り立った。
通路を覆い尽くす巨大な影。
――扉が塞がり、見えなくなっていく。
傭兵たちはまだ死地を脱していない。
地獄の底から這い上がったに過ぎないのだから――。