タイトル:【竜宮LP】遭遇マスター:無名新人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/22 12:55

●オープニング本文


 それは、人間が地球上に誕生した頃から地上に蔓延っていた。
 意識空間が拡大し、他の存在を意識し始めた頃より生まれし感情。

 誘惑。
 渇望。
 欲求。
 そして――獲得。

 人は、自身が持ち得ない物を欲さずには居られない。
 人は、欲していた物を手に入れても新たな持ち得ない物を見つける。

 端から見れば愚かな行為だったとしても、それこそ『人が人らしく生きていく』事の証に他ならないのだ‥‥。


●遭遇
 ――中国沿岸部。
 人里を離れた山中には、見渡す限りの森が広がり、遠くには海が望める。
『ホントにこんなとこにいるんですかね〜?』
 無線機からミリア・ハイロゥ(gz0365)の声が漏れ聞こえた。
「見間違いで済めば、それに越したことはない」
 ミリアに応答し、森の中を進んでいく女性。
『それはまぁ、そうなんですけど‥‥』
 多発する誘拐事件の調査依頼にて、傭兵たちは不審な艦船が飛来したという目撃証言を得る。
 だが、捜索範囲は広い。傭兵たちは4つのチームに別れて探索を行っていた。
「そろそろ予測区域に入る。気を引き締めるように」
 やや不満気なミリアに注意を促し、ハイドラグーンの女性はアスタロトを纏う。
『リョーカイしました』
 ミリアの声を聞き、無線機を下ろす女性。その後ろからは3名の男女が続く。いずれも等間隔に距離を保ち、周囲を警戒しながら進んでいく。

「あれは‥‥」
 エキスパートの男性が探査の眼で、森の向こうの開けた平原に停泊する艦体の一部らしきものを捉えた。手にした銃器で合図を送る。
「2時の方角、距離およそ500mに対象を確認‥‥A班、見えるか?」
『こちらA班、対象を視認しました。一旦待機します』
 女性にミリアとペアのターニャ・クロイツェンが答える。
『‥‥どうしますか』
 東にいたターニャたちからは最も近い位置。先へ行こうとするミリアを引き止め、ターニャは指示を待つ。
「正確に対象を捕捉したい。各班の距離を縮めつつ、接近してみようと思う」
『了解』
「もう少し様子を見よう」
 傭兵たちは息を潜めて不審艦に近づいていく。


●帰還者
 明るすぎず、暗くない。明度を調節された小さな個室。
「退屈だね」
 黒髪の青年は語りかける。
「そうは思わないか」
 だが、問いかけに返事はない。
 同室の女は聞こえているのかいないのか、壁に背を預け、目を閉じたままだ。組んだ腕から刀が覗いている。
「‥‥待つだけの時間というのは苦手だよ」
 微動だにしない女。青年の言葉は、独り言へと変わっていった。
 そのとき、スッと重さを感じさせずに扉が開く。
「待たせたな」
 長身で老齢の男が姿を現す。
「いったいこんな辺境で何をしていた」
 少し苛立ちを見せる青年。
「手が足りんのでな」
「かようなこと、強化人間どもで十分ではないか」
「‥‥問題児ばかりで苦労しておる」
 白髪の男は苦笑いを浮かべる。
 黒髪の青年は女を一瞥し、「なるほど」と老人へ視線を戻した。
「さて、まずはこたびの申し出に感謝するとしよう」
「気にするな」
 謝辞を述べる老人に対し青年は微笑、「少し問題がある」続けていく。
「アレの一部を強制合成したキメラだが、まだ制御はできそうにない」
「ほう、つまり?」
「一度動き出せば、本能の赴くままに行動する――そういうことだ」
「さようか。留意するとしよう」
 老齢の男にとって、ソレはただ取り扱いに注意を要する強力な兵器の一つにすぎないようだ。
 ところで、と青年は話題を変える。
「さきほどから鼠がいるようだな」
 青年は席を立つ。
 ――が、老人が青年を制した。
「手は打ってある」
 鈍く黒光りする丸眼鏡。老人の目の奥まで窺い知ることはできない。
 女も変わらず、壁に寄りかかっていた。
「‥‥それは残念」
 再び青年は席に着く。


●襲来
 不審艦はビッグフィッシュ――そう判断できた直後、艦内から人影が見え始めた。
 やがて日の光がその姿を照らし出す。いずれも幾何学模様の浮かぶ青黒色のメタリックなスーツに身を包み、顔をマスクで覆っていた。うち1体の大きさは明らかに人間のものではない、巨人。
「ただちに撤退!」
 まっすぐに、迷いなく2体の人型が傭兵部隊へと向かってくる。

「リョーカイ!」
 退却をすんなりと聞き入れるミリア。
「こちら側からもきてます」
 ターニャの視線の先には、ビッグフィッシュの入り口から飛び出すキメラたちの姿。
「‥‥とても、嫌な感じがしますね」
 銀の人狼、紫色の鳥――みな、ターニャには見覚えのあるものばかりだ。
「ていうか」
 後方を振り返るミリア。
「いくらなんでも多すぎ! 多すぎだからっ!」
 ぞろぞろと列を成すキメラの大群が、あたりを埋め尽くしていく。
「迎撃に切り替えます」
 じきに追いつかれる――ターニャのライフルが立て続けに火花を散らす。

 小銃が轟音を撒き散らしていく。
 後退しながら、イェーガーの男は牽制射を放った。
 しかし――
(「‥‥どういうことだ」)
 正確に狙って撃ったはずの銃弾は、人型にかすりもしていない。
「重力操作かも」
 サイエンティストの少女がぽつりとつぶやく。
 淡く光る武器。後退しながら練成強化を全員にかける。
「!?」
 西から高速で飛来する――翼の生えた人型がもう1体。いち早くEPの男性が気付く、だが――
「うっ‥‥!?」
 死角からの攻撃。JGの男、そしてSTの少女を幾重もの光が突き抜けていく。
 十数本の輝く矢が2人を地に張り付ける。
「ぐぅぅ!」
 かろうじて動く右腕。JGの男は飛行する人型へ小銃の弾丸を撃ち込む。
 が、不規則な動きを捉えることができず、銃弾は彼方へ飛んでいく。
 JGの男の前には輝く刃。追いついた巨人が、とてつもない斧槍を振り上げる。
「させるか!」
 大剣を高く掲げる。HDの女性が割り込み、巨人の一撃を剣で受けた。
 ――甲高い音。弾け、閃光が広がる。
「くぅ‥‥」
 木の根元に背を打ち付けられた。
 光が収まる。
「これは‥‥」
 頭上を覆っていた木が、ない。空が広がっていた。陥没した地面、すっぱりとこそげ落ちた木々。地形が変わっている。
「危ない!」
 横からEPが覆いかぶさった。途端、のたうつ。人型から放たれた電磁波で小刻みに震え、崩れ落ちていく。
 HDの瞳に映るのは、倒れ伏した傭兵たち。ふいを突かれたとはいえ、そうやすやすと倒されるような仲間たちではないはずだった。
 頭を振って立ち上がり、剣を前に構える。
(「さて、どうしたものか」)
 残ったのは自身ただひとり。囲むように人型が3体、遠目に銀色の竜の姿も見える。
 状況は絶望的、勝ち目はどこにもない。
 ならば――
「こちらはもうすぐ片がつく。かまわず撤退してくれ」
 無線で連絡する。
「‥‥ッ!」
 追い打ち。光の矢が左大腿を貫く。
「私は、しぶといぞ」
 アスタロトに流れる電流。剣を強く握り締める。
 傭兵たちが退却する時間を少しでも稼ぐ――それが導き出した答えだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
兄・トリニティ(gc0520
24歳・♂・DF

●リプレイ本文

●予感
 踏みしめる草の音。
(「まさかこんな物に遭遇するとは‥‥ね」)
 視界にマスクの人型たちを捉える。拳銃に手を伸ばす鳴神 伊織(ga0421)。
「思ったより被害がデカい」
 その隣、六堂源治(ga8154)が肩を並べる。
 遠方には傭兵が3人、倒れ伏していた。
 周囲には変わり果てた林。
 その中心に佇む巨人。斧槍とどこか見覚えのある大盾を携えている。
「コイツは初手から全力で行った方が良さそうッスね」
 前方にはよろめき立つAUKVの姿。

「そっちは任せるわ」
 手短に連絡。神楽 菖蒲(gb8448)の目前には交戦中のミリア・ハイロゥ(gz0365)とターニャがいた。
「私は奴等を止める」
 菖蒲は2人の元へ急行する。




 HDの女、アスナへと近寄る人型。
「だが、この命」
 青に、赤に、輝く竜の紋章。
 人型から放たれる電磁波。アスナは避けずに突き進む。
「ただでくれてやるほど」
 人型を見据える。剣を振り上げた。
「安くはない!」
 決死の剣戟。渾身の一撃を繰り出す。
 瞬間、走る衝撃。
 跳ね返された剣。割り込んだ巨人がアスナを見下ろす。
「う‥‥!」
 垂直に叩きつけられた巨斧の刃。受けた剣が軋み、悲鳴を上げる。
 ――不吉な音。剣身に走る亀裂。
 アスナの剣が粉々に砕け散っていく。
(「私では、一矢報いることすらできないのか――!」)
 見開かれた目に斧槍を振り上げる巨人が映る。
 直後、巨人は左に盾を構えた。
 立て続けに響く跳弾音。
(「助けに来てしまったのか」)
 後退するアスナ。
「ぐ‥‥」
 まだ終わらない。輝く矢がアスナの足首を貫き、仰向けに倒れる。

 伊織の左上空には翼人。その腕を伊織へと向ける。
 高速射出。伊織たちに数多の矢が飛来する。
「ちっ!」
 矢が次々と周囲の木を薙ぎ倒していく。

 動けないアスナに人型の右手が向けられた。
「あっ、ぐ、うあぁああっ!」
 ほとばしるような磁力の波がはじける。




 胸当ての下を剣が刺し貫く。崩れ落ちる銀狼。
 続けてミリアは剣を上へ。
「お、おもいっ!」
 飛びかかる紫鳥。足の毒爪を掲げた剣で受ける。
「っ‥‥と!」
 左の盾にすらりと銀爪が跡を残した。
 速射。近距離から狼を撃ち抜くターニャ。
「!」
 しゃがむ。紫鳥の爪が空を切る。
 ――刹那、鳥が弾け飛び、転がっていく。
「待たせたわね」
 銃口から立ち昇る硝煙。続けざまに標的を移す。
「数に惑わされないで」
 薬莢が2つ、ぽつぽつと草に落ちた。
 頭に空洞のできた銀狼がゆっくりと後ろへ倒れる。
「蹴散らすわよ」
 菖蒲は脇に立ち、迫るキメラを迎え撃つ。

「こんな大部隊を相手にするのは久しぶりだな。一人百殺が目標か?」
 秋月 九蔵(gb1711)の呟きは轟音で掻き消えていく。
「纏え蛍火」
 覚醒。蛍のような淡い光に包まれ、世史元 兄(gc0520)に3つの鳥の形をした炎が囲い飛ぶ。
 2人はミリアたちのさらに前方の集団へまわり込んでいた。
「さぁって、トリガーハッピーに行こうぜ」
 九蔵の小銃から弾丸が撃ち出される。




 耳元で怒鳴り声が聞こえる。
「おい! 聞こえるか!」
 頬に感じる感触。薄っすらと目を開けた。
「あ、あぁ‥‥」
 ぼんやりとしたまま答える。
 ――鳴り響く銃撃音。
「はっ!」
 急速に意識が戻る。顔を上げたアスナの前には白衣の男。
 右方では、なおも弾丸が上空に放たれ続ける。
「僕達はまだ戦えます。諦めるにはまだ早い‥‥そうですよね?」
 静かに語りかける鐘依 透(ga6282)。真っ先に迅雷で駆けつけ、アスナたちを守り続けていた。
 きらめく光。上空から翼人の矢が突き進む。
 アスナの前に立ちはだかる白銀のAUKV。竜の紋章が緑に輝いた。
「やらせるものか‥‥!」
 8本の矢が突き立つ。
「私は簡単には倒れんぞ!」
 ゆらめく幻影の翼。シャーリィ・アッシュ(gb1884)がその身を盾に矢を阻んでいく。
「にしても、さんざんやられたな」
 笑いかける青い瞳。白衣の男、桂木穣治(gb5595)が練成治療を続けていた。
「よし待ってろ。次はあの男だ」
 穣治は倒れた傭兵たちの傷を治していく。


 電磁破を放つ人型。その前を塞ぐように巨人が特徴的な大盾を構える。
 源治の刀に剣の紋章が吸収されていく。
「ふん!」
 大衝撃波が地を駆け抜け、真っ直ぐ巨人へと突き進んだ。
 大きくそれを避ける巨人。人型と分断される。
 隙は逃さない――伊織は人型へ向け、立て続けに引き金を引く。
 が、人型は避けることもなく、左手を掲げただけ。
 さらに発砲。続けて常世からソニックブームを放つ。
(「弾丸のみ、効果」)
 人型はソニックブームを避けた。
 後退し、電磁破を浴びせかかる人型。
 伊織は左右にかわし接近を試みる。


「衝撃波は囮」
 巨人の眼前に現れる源治。
 浮かび上がる剣の紋章。即座に振り上げられていた刀。
「で‥‥こっちが本命ッスよ!」
 肩を連続で斬り、裂いた。巨人の左腕が両断される。
 大盾が鈍重な音を立てて落下。
 だが剣の紋章が止まない。
「俺の全力の一撃――」
 4度目の両断剣・絶が発動する。
「くらえっ!!」
 裂帛の気合と共に獅子牡丹が撥ね上がった。
「これならいけるはず‥‥!」
 懐からの一閃。零距離の大衝撃波が巨人の喉元に襲いかかる。
 その攻撃は不可避。巨頭が撥ね飛ぶ。
 ――刹那、左から感じる風。
「な、んだと‥‥」
 源治の胴を、槍が刺し貫いた。
 頭のない巨人。源治を貫いたまま斧槍が輝き、明滅。
 槍から広がる幾重もの衝撃の波紋。
 あたりを光が覆っていく――。




「鳥に狼ね」
 弾丸がばら撒かれる。九蔵の制圧射撃が一団の動きを止める。
「じゃあ、俺達は害獣駆除に当てられた狩人か」
 掃射。狼と鳥に自動拳銃から次々と銃弾が突き進む。
「はー流石ですなー」
 その様子を横目にし、感嘆する兄。
 すっと苦無を取り出す。
「でも俺だって、こいつなんかには!」
 無造作に真上へ放り投げる。手にした赤い刀身の壱式を大きく後方へ引き――水平に振り抜いた。
 苦無が空を切り裂き、突き進む。
 FFに弾かれる苦無。紫鳥が怯み、動きが止まる。
 唸る風。さらに、鳥の周囲に竜巻が発生。
「よっし」
 体を切り裂かれた紫鳥が落下する。
「おっと」
 頭上からの毒爪を兄は壱式で防ぐ。
 2人に接近した狼と鳥。
 と、銀狼の頭に小銃が突きつけられる。
「SWEET DREAM!」
 九蔵のブラッディローズから24発もの銃弾が吐き出された。
「まだまだこれから――っと」
 振り下ろす兄の刀を狼の手甲が受ける。
「残りは5匹か」
 九蔵は溜め息とともに弾丸を撃ち出していく。


 ターニャのライフルが前方の羽を掠める。
「リロードは声かけて」
 追い撃ち、菖蒲のラグエルが鳥の胴を撃ち抜いた。
「了解」
 鳥の集団へ射撃。前から目を離さず答える。
 そのやや右側で交錯する剣と爪。2体の銀狼とミリアが立ち回る。
「一体ずつ集中して」
 淡く赤色に輝く刀身。走りこんだ勢いと共に斬り上げ。
 さらに踏み込み、斬り下ろす。
「どれだけ数がいようと、犬では騎士を倒せない」
 人狼が崩れ落ちる。
「――左! 10時の方角」
「りょーかい!」
 菖蒲の合図で剣波が突き進み、大木を断ち切る。
 ぎらつく黄眼。倒れた木の向こうには、衝顔の前で腕甲を交差した狼たち。
 倒木を飛び越え、3体の人狼が迫る。
「飛び込んできたら叩っ斬るのよ」
 拳銃の牽制。進路を絞り、ミリアの方へと誘導する菖蒲。
 そして、放たれる衝撃波が銀の狼を傷つけていく。
「リロードです、前を」
「わかったわ」
 連続流し斬り。辿り着いた狼を斬り捨て、菖蒲はターニャの前へ。
 ラグエルが紫の鳥を仕留める。
 1体ずつ確実に――キメラたちが数を減じていく。
 だが、新たに敵の増援が現れる。
「‥‥来たわね」
 前方の平地、咆哮を上げる銀の巨体が地響きを起こす。




 地鳴り。獰猛な唸りを上げ接近するもの。
「あのキメラか‥‥」
 2頭を持つ銀の巨竜。
 シャーリィに以前の戦いの記憶が蘇る。
(「――あれを近づけてはいけない」)
 後ろでは穣治が重傷者に治療を施している。
「私が処理します」
 脚部に流れる電流。
「手出しは無用!」
 竜の翼で飛び出した。一気に竜との距離を詰めていく。
 突き進む竜の口には収束する赤。シャーリィを迎え撃つように2頭から火炎弾が放たれる。
 着弾。空に土飛沫が上がる。
「前回は複数相手で後れを取ったが」
 竜の足元には白銀のAUKV。電流が流れる。
「1対1ならば‥‥っ!」
 咆哮。聖剣の一撃が竜の頭に浴びせられる。
 大きく首を仰け反らせ、後ろへ吹き飛ばされる銀の巨体。
 間髪いれず、竜の咆哮を放つ。
 その対象は地面。シャーリィは自らの体を前へと送り出した。
「ぐ、くっ!」
 尾の強撃。剣で受けるものの、弾き飛ばされる。
「うっ!」
 連続火炎弾が追い撃ち、灼熱がシャーリィの身を焦がす。
 が、炎を上げながら竜の懐へ飛び込む。
 剣の一閃。銀竜の胴に傷をつける。
「せああああ!」
 竜を斬り上げが強襲。1つ目の首がずれ落ちていく。
 さらに勢いを殺さず聖剣を握り直す。


 絶え間ない銃撃。透が上空にいる翼人の進行方向を遮る。
(「速い‥‥」)
 不規則な動き。翼が止まっているように見える。牽制ですら至難だった。
 ――ぴたりと急停止する人型。瞬間、その腕が突き出される。
「‥‥!」
 散らばる矢を大きく左右にかわす透。周囲の木が倒れていく。
 翼人を引き離すことには成功。
 だが、一度でも足を射抜かれたなら――。
 透は弾幕を張り続ける。
 一瞬たりとも気を抜くことはできない。


「あんたらは先に戻ってくれ」
 治療を終えた穣治は、動けるようになった傭兵部隊に撤退を告げる。
「この状態じゃ完全に足手まといです」
 仲間にも促され、名残惜しそうにアスナは後退を始めた。
 見送り、穣治は振り返る。
「さてっと」
 先見の目。透に向け、周囲状況をエミタに伝達する。
「ん? あれは‥‥」
 遠くに倒れた源治がいた。


 弾切れで途切れる弾幕。瞬間、翼人が停止。腕を透に向けて突き出す。
 ――その手を、光線がかすめた。
(「‥‥かわされた」)
 エネルギーガンの射撃もかわされていく。
 透は矢を疾風で避けながらリロード。
 ふいに迅雷。翼人の下にまわり、掃射する。単調な銃撃を繰り出した。
(「これなら‥‥!」)
 が、次の銃撃が翼を撃ち抜く。翼人が前方の木に墜落。強弾撃による弾速の変化が、通常射に慣れた翼人を捉えた。
 透はSMGを向ける。
 木の隙間にきらりと光る――矢。
 先見の目により透はいち早く回避する。
「っ‥‥!?」
 足を突き抜ける、2本のモリのような刃。輝く矢ではなかった。
 木から落ちるように翼人が着地。面を上げる。
 しかし、翼人は後退り姿を消していく。
「消えたか」
 透の背後、超機械を下ろす穣治。そして源治がその肩を借りていた。


 天地撃で左手を失った人型が地に打ち付けられる。
 見下ろす伊織。流れるように刀を上へと構える。
 剣の紋章が浮かんだ。
「――終わりにしましょう」
 伊織の鬼蛍が振り下ろされた。
 身をよじる人型。避けきれず左肩から先がなくなる。
 トドメの一突き――繰り出さず、伊織は後方へ身を翻す。
 地面に突き立つ輝く矢。
 横合いから翼人と、異様な、頭をぶら下げた巨人が現れる。
 正眼に構え、後退る伊織。
 2体に合流し、共に撤退する人型。みるみるうちにその左腕の出血が止まる。
「‥‥」
 伊織は姿が消えるまで見据えていた。




「こいつは流石に節約なんて言ってられないな」
 揺れる大地。菖蒲たちと合流した兄は前を見上げる。
「荒き獣のあと追いて襲いかかる 勇ましさ‥‥って奴か」
 口調とは裏腹に九蔵は最大限に警戒。
 ――銀の巨竜が咆哮を上げた。
 周囲には人狼が2体。竜が姿勢を低くする。
 2体の狼が竜の頭に押し出された。
「うわっ!」
 宙を舞い、兄たちの頭上から襲いかかる狼。
 前方、2頭に炎が収束する。
 狼の頭を貫く刃。
「ミリアは逆サイドに!」
 刀を引き抜き、菖蒲が右側へ走り始める。
「くっそが!」
 銀爪に切り裂かれ肩を押さえる九蔵。至近距離から小銃を乱射。
 が、狼の手甲が阻んだ。
「うおあ!」
 突如爆烈、炎上する。連続火炎弾が狼もろとも九蔵の体を燃やしていく。
 突き上がる赤刀。壱式が燃え上がる狼にトドメを刺す。
「今なんとかする」
 兄は炎を消し治療を始める。
 竜に迫る菖蒲。頭上には向きを変えた竜の2頭。
「うぎゃっ!」
 尾に薙ぎ払われ、剣もろともミリアが跳ね飛ばされる。
「くっ!」
 菖蒲は歯噛みしながらラグエルを発砲。
 銃撃を物ともせず、2つ首が菖蒲に狙いを定める。
 灼熱が吐き出された。
 爆発。衝撃が駆け抜け、全身に火の手が上がる。
 さらに着弾。菖蒲を激しく焦がす。
 声も上げる間もなく、菖蒲は崩れ落ちた。
 響く跳弾音。ターニャの狙撃が僅かに傷をつけていく。
 と、竜の頭にペイント弾が弾ける。
「やってくれたな」
 立ち上がった九蔵の両手に小銃。弾丸が吐き出される。
 突き進むのはすべて貫通弾。
 しかし、できたのは小さな傷。
「化け物め‥‥」
 九蔵は強弾撃で弾丸を撃ち続ける。
「俺だって少しはやれるはず」
 兄の壱式が淡い赤光を纏う。
「いくぞ!」
 正面から斬り、下げ、払い、突く。銀の鱗を刀撃が突き破っていく。
 ――殺意。巨竜が咆哮を上げる。
「うお、おおおっ‥‥!」
 全身に食い込む銀牙。兄の肉が裂け、骨が軋む。
 やがて竜は兄をボロ雑巾のように吐き捨てた。
 絶え間ないターニャの急所突き、九蔵の強弾撃。さらにミリアが両断剣で尾を突き刺す。
「ぬ、抜けない‥‥」
 剣を引き抜こうとするミリアに2頭が向く。
 収束する火炎。
「たかが、首が増えた程度」
 竜の背後からの声。
 刹那――竜の足元から鱗の合間を流れるように刀が駆け上がっていく。
 ずれ落ちる銀の左腕。その肩を蹴り、黒衣が後方へ飛び上がる。
「くたばりなさい」
 ラグエルから突き進む貫通弾がむき出しの肩口から胸を突き抜けた。
 ゆっくりと、2頭の竜が土砂を巻き上げ、沈む。
「ぐ‥‥」
 着地。直後、菖蒲は膝をつく。



●海の彼方
 大きく弧を描き、斜めに閃く聖剣。
「しぶとい!」
 2つ目の首が落ちた。シャーリィの前に銀の竜が雪崩落ちる。
 だが、その竜が新たに7体。そして数え切れない狼、鳥――続々とキメラが吐き出されていく。
「撤退しましょう」
 林から伊織が姿を現した。

「閃光弾!」
 菖蒲の閃光手榴弾が放物線を描く。
 伊織の拳銃が竜の頭を抑え、透のSMGが紫鳥を排除する。
 さらに九蔵が制圧射撃を加え、後退。
「そろそろです」
 シャーリィがバイザーを下ろす。
 閃光が広がる――。


「あーあー‥‥血だらけだ」
 自身を見下ろして兄は漏らす。
 作戦区域からは離脱。

 振り返る伊織。
 浮上したビッグフィッシュが小さくなっていく。
 その先にはただ、見渡す限りの青海。

 ――すべては、彼方の海に。