●リプレイ本文
●仲間
「また勝負‥‥ですか」
手を顎にするレイド・ベルキャット(
gb7773)。
「ターニャさんの気合の入り方が怖いのですが‥‥」
和泉譜琶(
gc1967)はちらりとターニャを覗き見る。
「前回の負けがよほど悔しかったのでしょうか‥‥?」
レイドもターニャの後ろ姿を眺めた。
と、気配を感じたのかターニャが振り返る。慌てて前を向く2人。
「さて、勝負事は時の運と言うが、これは自身の腕次第じゃ」
穏やかな風が流れ始める。
「やるからには負ける気は無いでの」
覚醒。倖石 春香(
gc6319)の周囲に桜が散るように光が舞っていく。
「ん。その調子でよろしくー」
ミリア・ハイロゥ(gz0365)が先へと進む。
「――で、君の格好はなにかな〜?」
隣の赤髪の男に目を向けるミリア。
「とりあえず脱ぐなと言う事なので、他の方法を考えてみましたッ」
外壁では人間の肌に引き寄せられるキメラが現れているらしい。
「えぇ!? ちょ、ちょっとそれ見え過ぎじゃないですか!?」
譜琶が思わず目を両手で覆う。
究極の裸――骨まで見えている、というかスケルトンシャツ。ヒューイ・焔(
ga8434)が胸を張る。
「ふわちゃんはやさしいのね〜」
とりあえず君の名前はスケル君ね、とミリアは通り過ぎる。
「Aチーム‥‥ミリアさん‥‥‥‥特攻野郎?」
ぼそりとつぶやくレイド。これまでミリアが突撃しなかったことは、ない。
「ミリアさん、むやみに突」
「ん〜?」
「いや、何でもないです」
「‥‥そう?」
肘鉄痛い――そんな記憶がレイドの口を塞いだ。
「始めようかの」
微笑混じりに、春香は練成強化をかけていく。
Aチームはレイドと春香が北で防衛、残りが南下していく。
「では、何かあれば無線で!」
譜琶は大きく手を振り、出発する。
●理知
そびえる高山を見つめる番場論子(
gb4628)。
(「少なくとも3つ以上の傭兵部隊‥‥」)
しばし考えを巡らせていた。
「『厳しく』は無いようですが、気を引き締めて行きましょう」
一行に呼びかける論子。
(「何やら勘繰りたくなりますね」)
頭の隅に置きつつ、論子はターニャの後を追う。
(「2人に会うのは墜落したビッグフィッシュでの一件以来ッスね」)
ふと、六堂源治(
ga8154)にボリビアでの出来事が過ぎる。死地を潜り抜けた2人の人となりはまだ知らない。
「んじゃ、ターニャのお手伝いでもしますかね」
ターニャの後に源治が続いた。
後方、静かに全身を解す修道服のルリム・シャイコース(
gc4543)。
「‥‥」
無言で指先の刃、シザーハンズを装着する。
引き締まった表情。
戦闘前――張り詰めた空気が流れる。
「あの、ターニャさん」
ふいに相澤 真夜(
gb8203)が呼び止めた。
「なんでしょう」
後ろ目に答えるターニャ。
「作戦を考えてみたんですが」
(「サクセン――?」)
そんな食べ物は、と考え始めるターニャ。なぜか会った瞬間『真夜=(ミリア+譜琶)×2』という図式が勝手に出来上がっていた。
「れんけーれんけーなんです!」
「‥‥ほう?」
ターニャは真夜に耳を傾ける。
●進軍
蠍の前に突然現れた赤髪。細身の剣が蠍の足、尻尾と瞬く間に削いでいく。
「ふん!」
アスファルトに胴体が串刺される。蠍が息絶えていった。
その様子を後方で眺めるミリア。
たちどころにヒューイがキメラを斬り払い、つぶしていく。
「‥‥やるわね」
ミリアはさきほどからなにもできないでいた。
「ミリアさん後ろ!」
振り返るミリア。低い屋根の上、蠍の尻尾が覗く。
「――!」
譜琶は片目を閉じて狙いを定め、連続で輝く矢を放つ。
蠍の硬殻を貫く2本の矢。大型の蠍が屋根から転がり落ちていく。
と、二重の衝撃波が突き進み、蠍の体を四散させる。
「‥‥よし」
ミリアのソニックブームがトドメをさした。
「おぉー!」
パチパチと譜琶が手を叩く。
「ふふーん」
得意げにミリア。
再び、譜琶は油断なく辺りをきょろきょろ見回す。
「今回はしっかり索敵しないとですねー」
肩を竦める譜琶。前回の、うぞうぞと蜘蛛に囲まれた記憶が過ぎる。
「あ‥‥そちらに蠍さんが向かってます!」
無線で連絡。遠く、蠢く影があった。
「了解しました」
無線を受け、レイドは砂埃の舞う道路へと視線を向ける。
「西‥‥あのビルの上にもいるようじゃな」
注意深く見ていた春香も、偶然キメラを発見。
「そちらはお任せします」
数は少ない。レイドは路上の蠍へと歩を進めていく。
前方に銃を構えて接近、銃口から立て続けに撃ち出される弾丸。
蠍の硬い殻に少しずつ傷をつける。
「――いきますよ」
人ほどもある蠍に向かい、加速。レイドが突っ込んでいく。
「くっ!」
レイドにあわせるように突き出された尾の一撃。左の短刀で受け、身をひねる。
そのまま勢いを殺さず回転。右の短刀が鮮やかに半円を描いた。
「‥‥ふう」
息絶えた蠍を確認、レイドは大きく息を吐いた。
春香へと目を移す。
「心配はいらぬよ」
遠距離から放たれる電磁波。痺れながら、蠍が屋上からぼとりと落ちる。
レイドは春香の元へと歩み寄っていく。
「こちら、蠍を2体仕留めました」
『リョウカイリョウカイ〜』
無線からの上機嫌なミリアの返事を聞き終え、所定置に戻るレイド。
「やはり、勝負するからには勝ちたいですし、負けたらミリアさんに怒られちゃいますしね」
苦笑を浮かべる。
「‥‥そうじゃの」
春香も、レイドに似た笑みを返した。
●連携
突風が吹き抜け、真夜の黒髪を揺らしていく。
「2班さんはそのまま進んでくださーい」
レンズが西日を反射する。
「あ。蠍が北に抜けそうです! 1班さんから東の方におりますですよ!」
『了解しました。対処します』
無線からターニャの声が返る。
――高層ビルの一角。
「2班さんはまだ大丈夫です!」
真夜はタクティカルゴーグルで索敵、キメラの位置を連絡する。
真っ先に、真夜は瞬天速で屋上まで駆け上がっていた。
「では向かいましょう」
声をかけるターニャ。ルリムは軽く頷き、前進。
ルリムの篭手――シザーハンズの刃の指先が交錯する、金属音。
東の目標、やや大きい蠍が視界に入っていた。
駆け出すルリム。蠍が向きを変え、迎え撃つように尾を反る。
「援護します」
背にしたライフルがくるくると回転、ターニャの手に収まる。
轟音。蠍の目前に着弾、さらに尻尾が吹き飛ぶ。
「‥‥」
一瞬動きを止めた蠍を見下ろす瞳。振り上げられた刃の爪が閃く。
硬殻の関節にすらりと切れ目が入る。瞬間、バラバラと零れ落ちた。
――息つく暇もなく、沈黙。
立ち上がるルリム。
「1班、完了しました」
機械的に報告する。
一方、南下していく2班。
『2班さん! 西の方にキメラ密集してまーす!』
「わかりました」
真夜から無線を受けた論子。
「今度は西ッスか」
そして源治。2人は連絡のあった西へと急ぐ。
「あれですね」
論子は隣の源治を横目にする。
カチカチと不気味な音を立てる蠍が固まり、路上に群れを成していた。
「援護は頼むッス」
甲高いSESの排気音。源治が淡く光を放ち始める。
「足止めします」
上がる火花。論子から弾丸がばら撒かれる。SMGが大群の中央に次々と銃痕を残していく。
後方にいた蠍が退き、群れが分断された。
「うし」
突撃。群れの中に突っ込む源治。
「りゃあ!」
刀を水平に大きく薙いだ。
蠍の尻尾がぼとぼとと落下。前線の蠍たちが無力化される。
「っと」
刀を縦に。足元からの鋏を受ける源治。
「硬い敵には」
源治が突き、斬り、裂き、刻む。
「それなりの戦い方ってーのがあるもんッスよ!」
硬殻の隙間を的確に狙い、切断。さらに引っこ抜く。
源治によって、瞬く間に蠍たちが解体されていく。
「左」
視界の隅、路地から忍び寄る蠍。
銃撃を加えながら接近、論子の腕に電流が流れる。
しなる蠍の尾。
――途端、蠍の前から論子の姿が消える。
「はっ!」
横合いから論子の剣が殻の継ぎ目を刺し貫いた。
辺りのカチカチという蠍の音が止む。
「あー‥‥」
無線を手に、頭を掻く源治。
「これ、いったい何匹ッスかね?」
バラバラになった蠍の残骸を見下ろす。
●突撃
「おっしゃあああ!」
引っつかんだ蠍を盾に突っ込むヒューイ。
「ぐぬぬ‥‥!」
蠍の鋏を剣で受けるミリア。
刹那、トスッとミリアの背後にいた蠍が木に張り付けられた。
「ミリアさん、ヒューイさん。また増援が来てます!」
絶え間なく、少し離れた位置で矢を番える譜琶。
カチカチカチカチ、忙しない蠍の音が大きくなっていく。
「わかってる、わかってるっていうか――」
さらに突き出される蠍の尻尾、鋏。
「ちょっと‥‥数が多すぎやしませんかァ!?」
辺りには合唱するようなカチカチという気味の悪い音。
2人を取り囲む、大量の蠍たち。
「もう、硬い――ってば!」
力任せに斬りつけるミリア。
「痛ッ!」
足元の蠍がかかとを突き刺す。みるみるうちに足が紫に変色していく。
「ちっ!」
ミリアへ一気に間を詰め、蠍たちを2分。横合いからヒューイが剣撃を放った。
「世話のやけるお嬢さんだッ!」
キュアで解毒。ミリアの肌の色が戻る。
「ありがと!」
振り向かず後ろへ声をかけるミリア。赤く光る剣が力ずくで硬殻を叩き割る。
「あっ! 向こうにおっきなのがいますよー!」
譜琶が弓を向けた東の方角、巨大なせりあがる土が高速で北へと向かっていた。
その1つが進路を変え、まっすぐミリアたちに迫り来る。
2人は蠍で手一杯――そう判断。間髪入れず、譜琶の放った2本の矢が突き進む。
「‥‥あ、あれ?」
矢が跳ね返される。土砂が阻み威力を下げたようだ。
なおも突き進む土。
「出てきた瞬間を狙うッ!」
蠍にまとわりつかれながら、ヒューイは向かい来る土砂を尻目にする。
ふいに、土が止まった。
「うぉ‥‥」
間一髪、跳び退ったヒューイ。足元が突如隆起、土も蠍も丸ごと巨大な空洞に飲み込まれていく。
「――んしゃらあああ!」
強烈に撥ね上がる剣撃。土の中から鮫のような巨体を叩き上げた。
土色の鮫が、くの字に宙を舞う。
「今です、暴れちゃってくださーい!」
譜琶の援護射撃。ミリアがソニックブームで鮫を斬り刻む。
「らああああ!」
さらなる加撃。ヒューイが鮫の頭を滅多打ちにする。
打ちつけられた鮫を見据えるのは、譜琶の赤瞳。
「トドメです!」
輝く2本の矢が巨体を突き抜ける。
弛まぬ攻撃に、サンドシャークが撃沈した。
「――痛ッ、痛いです!」
ちくりと譜琶の足首を突き刺す尻尾。
「ちょっと、いい加減しつこいから!」
ミリアが駆け寄り、解毒。
3人は引き続き、うぞうぞと取り囲む蠍を相手にする。
●落日
――境界線付近。
「さて」
急行した源治と論子。
前方には盛り上がり、猛スピードで接近する土砂の山が3つ、背びれを見せて突き進む。
「こちらへ」
この速さ、そして3体同時――論子は後退しながら袋小路に源治を招く。
ふいに土が停止。地鳴りのような音。
「なにッ」
源治の足元が地割れを起こした。アスファルトを突き破る大口。
「くっ!」
真上に跳び上がる源治。
――刹那、
「はぁ‥‥!」
土色の巨体が弾き飛ばされ、壁面に激突する。
横合いから斬り払った剣、論子のAUKV全体にスパークが生じていた。
源治は着地と同時に地を蹴る。甲高いSESの排気音。
「まず1体」
次の瞬間、巨大な鮫の頭がずれ落ちた。
論子を後ろ目にした源治。鳴り止まない甲高い音。剣の紋章を吸収、獅子牡丹が輝きを放つ。
太刀が振り下ろされ、大衝撃波が地を駆け抜ける。
「――2体」
論子の背後に現れたサンドシャークがすっぱりと分かたれ、転がった。
辺りを警戒する論子。
「もう1体は‥‥?」
一向に、鮫の現れる気配はなかった。
「大きいのが北東へ向かってますですよ!」
突き進むキメラを発見。
「‥‥私、行きます!」
階段を駆け下り、瞬天速で真夜が援護に向かう。
「消えた?」
待ち構えたターニャたちの目の前で気配がなくなる。
「こんなこともあろうかと」
合流した真夜は得意げに手に持ったものを見せ、
「へーい、ジングルベール♪ ジングルベール♪」
サンタのミニチュアの入った超機械を振り振り、地面を踏み鳴らす。
「ターニャさんもご一緒に!」
「‥‥はい?」
(「やはり、真夜=ミリア+」)
そのとき――
「きたーっ!」
真夜の足元が隆起。音に反応した鮫が襲い来る。
が、真夜は瞬天速で即座に後退。
「いけー!!」
虚を突くジングルベル。幾重もの電磁波が鮫を襲い、土色の体が波打つ。
「‥‥なるほど」
隙を逃さずターニャのライフルから弾丸が撃ち込まれていく。
だが、銃撃を受けながらも真夜へ突進。
「あわわっ!」
鮫が大口を開く。
突然、ふわりと修道服が現れた。
停止するサンドシャーク。
立ち上がり、ルリムは見下ろす。
「浄化完了」
鮫の腹部には無数の爪跡が残されていた。
硬殻の隙間を縫うように短刀が閃く。
「終わりました」
レイドの足元に3体の蠍が転がる。
「締めとするかの」
春香が雷遁を掲げる。
「わしに仇為す愚か者に制裁を――」
もがき、動きを止める蠍。電磁波が最後の蠍に止めを刺した。
遠く、山に日が落ちていく。
●荒野の月
「私達の大、勝、利っ!」
高らかに真夜の叫びがレストランに木霊する。
ポイントという一点のみにおいては、Bチームの勝利である。
「ふぐふぐ」
ここぞとばかりに料理を食べつくすターニャ。
「美味しい〜♪」
遠慮なく食事を進める譜琶。
「でも賭け事にするのは、ちょっと頂けない気がするんだ」
その様子を横目に、ルリムはつぶやく。
「そうそう、イタダケナイよね」
首を縦に、ウンウン頷く。
「ということで〜。むこーよ、むこー」
賭けの取り消しを求めるミリア。
「あ、ミリアさーん! ありがとうございまーす!」
ミリアの話は聞いていない。
「デザートも頼んでいいですかー?」
食べることがお礼である。
「あー‥‥うん」
「んじゃ俺も、ビールで勝利酒といくッスかね」
席につく源治。
「‥‥私もなんか、飲もう、かな‥‥」
ミリアは観念してとことん付き合うことにした。
「たまにはこういうのも良いですねぇ」
テラスで荒野を眺め、レイドはつぶやく。
「そうじゃの」
店内の喧騒を耳に、春香は酒を傾ける。
「‥‥しんきくさーい」
ふらふらとスコッチを片手に歩み寄るミリア。
「お酒が足りないんじゃないのー? ほら、これ飲みなさいよ」
「いえ、私はあまり‥‥」
「なに? 私の酒が飲めないとでも?」
目が据わっている。
「は、はあ‥‥いただきます」
「最初からそういえばいいのよ」
バシバシ肩を叩かれるレイド。
「賭け事もそうじゃが、あまり人様に迷惑かけんようにの」
春香は何度目かの苦笑いを浮かべる。
月の照らすレストラン。
にぎやかに荒野の夜は更けていく――。