タイトル:【AR】荒野キメラハントマスター:無名新人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/14 09:41

●オープニング本文


●迫る影
 アリゾナ州フェニックス――人類支配地域とバグア競合地域の境にあり、アメリカ西部戦線における重要な都市。

 荒野と砂漠の広がるその都市から遠く離れた小高い丘に、1人の女性の姿があった。
 金の長い髪に燃えるような赤い瞳。ボンテージの上になぜか白衣という、奇妙な出で立ち。
 このような所に一人でいるのは危険なのだが、彼女には関係のないことだ。
「さて、もうそろそろ私のキメラ達が暴れてくれると思うんだけどねぇ‥‥」
 彼女は少々変わり者で、自作のキメラを送り込んではその様子を眺めて楽んでいる。
 彼女の名前はリーゼンベルグ。ただの美しい女性に見えるが、れっきとしたバグアである。


●キメラハンティング
 高い建物に幅の広い道路。周囲には都会の街並み。そして、彼方には岩山の連なる荒野の大地。
 静寂があたりを包み込む。人の気配はない。
 乾いた風が吹き抜けていく。
 ただ聞こえるのは、キメラたちが蠢く音。


 舗装された道路の中央。
 手にした地図をじっと眺める少女がいた。背にはワンピース姿とは不釣合いな、長い銃身のライフルを背負っている。
「さて」
 くるりと振り向く傭兵の少女。名をターニャ・クロイツェンという。
「夕食を‥‥賭けましょうか」
 そう、ターニャはにこやかに笑顔を向ける。その先には黒い防護服の女傭兵。
「う、うん。まぁ、いいけど‥‥」
 身震い――なぜか寒気を感じる。ミリア・ハイロゥ(gz0365)の背筋に悪寒が走った。
 2人は行動を共にするようになってから長く、たいていペアで依頼を受けることが多い。
 地図を覗き込むミリア。
「え〜と、じゃあとりあえず――」
 地図上の作戦エリア内に指を置く。
「ここからこっちが私、そっちがターニャ」
 そうして、おおざっぱに線を引き、担当範囲を決める。
「ポイントはどうします?」
「ん〜‥‥。サソリが2として、サメは10ぐらい? あー‥‥あと他はよくわかんないし、とりあえず1でいいんじゃないかな〜?」
 これまたアバウトに、ミリアはキメラのポイントを決めていく。
 どうやら傭兵たちで2チームに分かれ、倒したキメラでポイントを競う、ということのようだ。
「いいでしょう」
 あっさりと了承するターニャ。自信の表れか、その口元には余裕の笑みが浮かぶ。
「では、行きましょうか」
 ターニャが後方の傭兵たちをうながしていった。
「え〜‥‥と。なんか、そういうことになったから、お願いね〜?」
 傭兵たちに振り返り、ざっくりおおざっぱな説明をする。
「それじゃ、いきましょーか」
 向き直り、ミリアが先導していく。

 こうして、傭兵たちは2人の賭けに巻き込まれることになった。

●参加者一覧

六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
レイド・ベルキャット(gb7773
24歳・♂・EP
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
ルリム・シャイコース(gc4543
18歳・♀・GP
倖石 春香(gc6319
28歳・♀・SF

●リプレイ本文

●仲間
「また勝負‥‥ですか」
 手を顎にするレイド・ベルキャット(gb7773)。
「ターニャさんの気合の入り方が怖いのですが‥‥」
 和泉譜琶(gc1967)はちらりとターニャを覗き見る。
「前回の負けがよほど悔しかったのでしょうか‥‥?」
 レイドもターニャの後ろ姿を眺めた。
 と、気配を感じたのかターニャが振り返る。慌てて前を向く2人。
「さて、勝負事は時の運と言うが、これは自身の腕次第じゃ」
 穏やかな風が流れ始める。
「やるからには負ける気は無いでの」
 覚醒。倖石 春香(gc6319)の周囲に桜が散るように光が舞っていく。
「ん。その調子でよろしくー」
 ミリア・ハイロゥ(gz0365)が先へと進む。
「――で、君の格好はなにかな〜?」
 隣の赤髪の男に目を向けるミリア。
「とりあえず脱ぐなと言う事なので、他の方法を考えてみましたッ」
 外壁では人間の肌に引き寄せられるキメラが現れているらしい。
「えぇ!? ちょ、ちょっとそれ見え過ぎじゃないですか!?」
 譜琶が思わず目を両手で覆う。
 究極の裸――骨まで見えている、というかスケルトンシャツ。ヒューイ・焔(ga8434)が胸を張る。
「ふわちゃんはやさしいのね〜」
 とりあえず君の名前はスケル君ね、とミリアは通り過ぎる。
「Aチーム‥‥ミリアさん‥‥‥‥特攻野郎?」
 ぼそりとつぶやくレイド。これまでミリアが突撃しなかったことは、ない。
「ミリアさん、むやみに突」
「ん〜?」
「いや、何でもないです」
「‥‥そう?」
 肘鉄痛い――そんな記憶がレイドの口を塞いだ。
「始めようかの」
 微笑混じりに、春香は練成強化をかけていく。
 Aチームはレイドと春香が北で防衛、残りが南下していく。
「では、何かあれば無線で!」
 譜琶は大きく手を振り、出発する。



●理知
 そびえる高山を見つめる番場論子(gb4628)。
(「少なくとも3つ以上の傭兵部隊‥‥」)
 しばし考えを巡らせていた。
「『厳しく』は無いようですが、気を引き締めて行きましょう」
 一行に呼びかける論子。
(「何やら勘繰りたくなりますね」)
 頭の隅に置きつつ、論子はターニャの後を追う。
(「2人に会うのは墜落したビッグフィッシュでの一件以来ッスね」)
 ふと、六堂源治(ga8154)にボリビアでの出来事が過ぎる。死地を潜り抜けた2人の人となりはまだ知らない。
「んじゃ、ターニャのお手伝いでもしますかね」
 ターニャの後に源治が続いた。
 後方、静かに全身を解す修道服のルリム・シャイコース(gc4543)。
「‥‥」
 無言で指先の刃、シザーハンズを装着する。
 引き締まった表情。
 戦闘前――張り詰めた空気が流れる。
「あの、ターニャさん」
 ふいに相澤 真夜(gb8203)が呼び止めた。
「なんでしょう」
 後ろ目に答えるターニャ。
「作戦を考えてみたんですが」
(「サクセン――?」)
 そんな食べ物は、と考え始めるターニャ。なぜか会った瞬間『真夜=(ミリア+譜琶)×2』という図式が勝手に出来上がっていた。
「れんけーれんけーなんです!」
「‥‥ほう?」
 ターニャは真夜に耳を傾ける。



●進軍
 蠍の前に突然現れた赤髪。細身の剣が蠍の足、尻尾と瞬く間に削いでいく。
「ふん!」
 アスファルトに胴体が串刺される。蠍が息絶えていった。
 その様子を後方で眺めるミリア。
 たちどころにヒューイがキメラを斬り払い、つぶしていく。
「‥‥やるわね」
 ミリアはさきほどからなにもできないでいた。
「ミリアさん後ろ!」
 振り返るミリア。低い屋根の上、蠍の尻尾が覗く。
「――!」
 譜琶は片目を閉じて狙いを定め、連続で輝く矢を放つ。
 蠍の硬殻を貫く2本の矢。大型の蠍が屋根から転がり落ちていく。
 と、二重の衝撃波が突き進み、蠍の体を四散させる。
「‥‥よし」
 ミリアのソニックブームがトドメをさした。
「おぉー!」
 パチパチと譜琶が手を叩く。
「ふふーん」
 得意げにミリア。
 再び、譜琶は油断なく辺りをきょろきょろ見回す。
「今回はしっかり索敵しないとですねー」
 肩を竦める譜琶。前回の、うぞうぞと蜘蛛に囲まれた記憶が過ぎる。
「あ‥‥そちらに蠍さんが向かってます!」
 無線で連絡。遠く、蠢く影があった。

「了解しました」
 無線を受け、レイドは砂埃の舞う道路へと視線を向ける。
「西‥‥あのビルの上にもいるようじゃな」
 注意深く見ていた春香も、偶然キメラを発見。
「そちらはお任せします」
 数は少ない。レイドは路上の蠍へと歩を進めていく。
 前方に銃を構えて接近、銃口から立て続けに撃ち出される弾丸。
 蠍の硬い殻に少しずつ傷をつける。
「――いきますよ」
 人ほどもある蠍に向かい、加速。レイドが突っ込んでいく。
「くっ!」
 レイドにあわせるように突き出された尾の一撃。左の短刀で受け、身をひねる。
 そのまま勢いを殺さず回転。右の短刀が鮮やかに半円を描いた。
「‥‥ふう」
 息絶えた蠍を確認、レイドは大きく息を吐いた。
 春香へと目を移す。
「心配はいらぬよ」
 遠距離から放たれる電磁波。痺れながら、蠍が屋上からぼとりと落ちる。
 レイドは春香の元へと歩み寄っていく。
「こちら、蠍を2体仕留めました」
『リョウカイリョウカイ〜』
 無線からの上機嫌なミリアの返事を聞き終え、所定置に戻るレイド。
「やはり、勝負するからには勝ちたいですし、負けたらミリアさんに怒られちゃいますしね」
 苦笑を浮かべる。
「‥‥そうじゃの」
 春香も、レイドに似た笑みを返した。



●連携
 突風が吹き抜け、真夜の黒髪を揺らしていく。
「2班さんはそのまま進んでくださーい」
 レンズが西日を反射する。
「あ。蠍が北に抜けそうです! 1班さんから東の方におりますですよ!」
『了解しました。対処します』
 無線からターニャの声が返る。
 ――高層ビルの一角。
「2班さんはまだ大丈夫です!」
 真夜はタクティカルゴーグルで索敵、キメラの位置を連絡する。
 真っ先に、真夜は瞬天速で屋上まで駆け上がっていた。

「では向かいましょう」
 声をかけるターニャ。ルリムは軽く頷き、前進。
 ルリムの篭手――シザーハンズの刃の指先が交錯する、金属音。
 東の目標、やや大きい蠍が視界に入っていた。
 駆け出すルリム。蠍が向きを変え、迎え撃つように尾を反る。
「援護します」
 背にしたライフルがくるくると回転、ターニャの手に収まる。
 轟音。蠍の目前に着弾、さらに尻尾が吹き飛ぶ。
「‥‥」
 一瞬動きを止めた蠍を見下ろす瞳。振り上げられた刃の爪が閃く。
 硬殻の関節にすらりと切れ目が入る。瞬間、バラバラと零れ落ちた。
 ――息つく暇もなく、沈黙。
 立ち上がるルリム。
「1班、完了しました」
 機械的に報告する。

 一方、南下していく2班。
『2班さん! 西の方にキメラ密集してまーす!』
「わかりました」
 真夜から無線を受けた論子。
「今度は西ッスか」
 そして源治。2人は連絡のあった西へと急ぐ。
「あれですね」
 論子は隣の源治を横目にする。
 カチカチと不気味な音を立てる蠍が固まり、路上に群れを成していた。
「援護は頼むッス」
 甲高いSESの排気音。源治が淡く光を放ち始める。
「足止めします」
 上がる火花。論子から弾丸がばら撒かれる。SMGが大群の中央に次々と銃痕を残していく。
 後方にいた蠍が退き、群れが分断された。
「うし」
 突撃。群れの中に突っ込む源治。
「りゃあ!」
 刀を水平に大きく薙いだ。
 蠍の尻尾がぼとぼとと落下。前線の蠍たちが無力化される。
「っと」
 刀を縦に。足元からの鋏を受ける源治。
「硬い敵には」
 源治が突き、斬り、裂き、刻む。
「それなりの戦い方ってーのがあるもんッスよ!」
 硬殻の隙間を的確に狙い、切断。さらに引っこ抜く。
 源治によって、瞬く間に蠍たちが解体されていく。
「左」
 視界の隅、路地から忍び寄る蠍。
 銃撃を加えながら接近、論子の腕に電流が流れる。
 しなる蠍の尾。
 ――途端、蠍の前から論子の姿が消える。
「はっ!」
 横合いから論子の剣が殻の継ぎ目を刺し貫いた。
 辺りのカチカチという蠍の音が止む。
「あー‥‥」
 無線を手に、頭を掻く源治。
「これ、いったい何匹ッスかね?」
 バラバラになった蠍の残骸を見下ろす。



●突撃
「おっしゃあああ!」
 引っつかんだ蠍を盾に突っ込むヒューイ。
「ぐぬぬ‥‥!」
 蠍の鋏を剣で受けるミリア。
 刹那、トスッとミリアの背後にいた蠍が木に張り付けられた。
「ミリアさん、ヒューイさん。また増援が来てます!」
 絶え間なく、少し離れた位置で矢を番える譜琶。
 カチカチカチカチ、忙しない蠍の音が大きくなっていく。
「わかってる、わかってるっていうか――」
 さらに突き出される蠍の尻尾、鋏。
「ちょっと‥‥数が多すぎやしませんかァ!?」
 辺りには合唱するようなカチカチという気味の悪い音。
 2人を取り囲む、大量の蠍たち。
「もう、硬い――ってば!」
 力任せに斬りつけるミリア。
「痛ッ!」
 足元の蠍がかかとを突き刺す。みるみるうちに足が紫に変色していく。
「ちっ!」
 ミリアへ一気に間を詰め、蠍たちを2分。横合いからヒューイが剣撃を放った。
「世話のやけるお嬢さんだッ!」
 キュアで解毒。ミリアの肌の色が戻る。
「ありがと!」
 振り向かず後ろへ声をかけるミリア。赤く光る剣が力ずくで硬殻を叩き割る。
「あっ! 向こうにおっきなのがいますよー!」
 譜琶が弓を向けた東の方角、巨大なせりあがる土が高速で北へと向かっていた。
 その1つが進路を変え、まっすぐミリアたちに迫り来る。
 2人は蠍で手一杯――そう判断。間髪入れず、譜琶の放った2本の矢が突き進む。
「‥‥あ、あれ?」
 矢が跳ね返される。土砂が阻み威力を下げたようだ。
 なおも突き進む土。
「出てきた瞬間を狙うッ!」
 蠍にまとわりつかれながら、ヒューイは向かい来る土砂を尻目にする。
 ふいに、土が止まった。
「うぉ‥‥」
 間一髪、跳び退ったヒューイ。足元が突如隆起、土も蠍も丸ごと巨大な空洞に飲み込まれていく。
「――んしゃらあああ!」
 強烈に撥ね上がる剣撃。土の中から鮫のような巨体を叩き上げた。
 土色の鮫が、くの字に宙を舞う。
「今です、暴れちゃってくださーい!」
 譜琶の援護射撃。ミリアがソニックブームで鮫を斬り刻む。
「らああああ!」
 さらなる加撃。ヒューイが鮫の頭を滅多打ちにする。
 打ちつけられた鮫を見据えるのは、譜琶の赤瞳。
「トドメです!」
 輝く2本の矢が巨体を突き抜ける。
 弛まぬ攻撃に、サンドシャークが撃沈した。
「――痛ッ、痛いです!」
 ちくりと譜琶の足首を突き刺す尻尾。
「ちょっと、いい加減しつこいから!」
 ミリアが駆け寄り、解毒。
 3人は引き続き、うぞうぞと取り囲む蠍を相手にする。



●落日
 ――境界線付近。
「さて」
 急行した源治と論子。
 前方には盛り上がり、猛スピードで接近する土砂の山が3つ、背びれを見せて突き進む。
「こちらへ」
 この速さ、そして3体同時――論子は後退しながら袋小路に源治を招く。
 ふいに土が停止。地鳴りのような音。
「なにッ」
 源治の足元が地割れを起こした。アスファルトを突き破る大口。
「くっ!」
 真上に跳び上がる源治。
 ――刹那、
「はぁ‥‥!」
 土色の巨体が弾き飛ばされ、壁面に激突する。
 横合いから斬り払った剣、論子のAUKV全体にスパークが生じていた。
 源治は着地と同時に地を蹴る。甲高いSESの排気音。
「まず1体」
 次の瞬間、巨大な鮫の頭がずれ落ちた。
 論子を後ろ目にした源治。鳴り止まない甲高い音。剣の紋章を吸収、獅子牡丹が輝きを放つ。
 太刀が振り下ろされ、大衝撃波が地を駆け抜ける。
「――2体」
 論子の背後に現れたサンドシャークがすっぱりと分かたれ、転がった。
 辺りを警戒する論子。
「もう1体は‥‥?」
 一向に、鮫の現れる気配はなかった。


「大きいのが北東へ向かってますですよ!」
 突き進むキメラを発見。
「‥‥私、行きます!」
 階段を駆け下り、瞬天速で真夜が援護に向かう。

「消えた?」
 待ち構えたターニャたちの目の前で気配がなくなる。
「こんなこともあろうかと」
 合流した真夜は得意げに手に持ったものを見せ、
「へーい、ジングルベール♪ ジングルベール♪」
 サンタのミニチュアの入った超機械を振り振り、地面を踏み鳴らす。
「ターニャさんもご一緒に!」
「‥‥はい?」
(「やはり、真夜=ミリア+」)
 そのとき――
「きたーっ!」
 真夜の足元が隆起。音に反応した鮫が襲い来る。
 が、真夜は瞬天速で即座に後退。
「いけー!!」
 虚を突くジングルベル。幾重もの電磁波が鮫を襲い、土色の体が波打つ。
「‥‥なるほど」
 隙を逃さずターニャのライフルから弾丸が撃ち込まれていく。
 だが、銃撃を受けながらも真夜へ突進。
「あわわっ!」
 鮫が大口を開く。
 突然、ふわりと修道服が現れた。
 停止するサンドシャーク。
 立ち上がり、ルリムは見下ろす。
「浄化完了」
 鮫の腹部には無数の爪跡が残されていた。


 硬殻の隙間を縫うように短刀が閃く。
「終わりました」
 レイドの足元に3体の蠍が転がる。
「締めとするかの」
 春香が雷遁を掲げる。
「わしに仇為す愚か者に制裁を――」
 もがき、動きを止める蠍。電磁波が最後の蠍に止めを刺した。

 遠く、山に日が落ちていく。



●荒野の月
「私達の大、勝、利っ!」
 高らかに真夜の叫びがレストランに木霊する。
 ポイントという一点のみにおいては、Bチームの勝利である。
「ふぐふぐ」
 ここぞとばかりに料理を食べつくすターニャ。
「美味しい〜♪」
 遠慮なく食事を進める譜琶。
「でも賭け事にするのは、ちょっと頂けない気がするんだ」
 その様子を横目に、ルリムはつぶやく。
「そうそう、イタダケナイよね」
 首を縦に、ウンウン頷く。
「ということで〜。むこーよ、むこー」
 賭けの取り消しを求めるミリア。
「あ、ミリアさーん! ありがとうございまーす!」
 ミリアの話は聞いていない。
「デザートも頼んでいいですかー?」
 食べることがお礼である。
「あー‥‥うん」
「んじゃ俺も、ビールで勝利酒といくッスかね」
 席につく源治。
「‥‥私もなんか、飲もう、かな‥‥」
 ミリアは観念してとことん付き合うことにした。


「たまにはこういうのも良いですねぇ」
 テラスで荒野を眺め、レイドはつぶやく。
「そうじゃの」
 店内の喧騒を耳に、春香は酒を傾ける。
「‥‥しんきくさーい」
 ふらふらとスコッチを片手に歩み寄るミリア。
「お酒が足りないんじゃないのー? ほら、これ飲みなさいよ」
「いえ、私はあまり‥‥」
「なに? 私の酒が飲めないとでも?」
 目が据わっている。
「は、はあ‥‥いただきます」
「最初からそういえばいいのよ」
 バシバシ肩を叩かれるレイド。
「賭け事もそうじゃが、あまり人様に迷惑かけんようにの」
 春香は何度目かの苦笑いを浮かべる。

 月の照らすレストラン。
 にぎやかに荒野の夜は更けていく――。