●リプレイ本文
●極秘作戦
「マサ、ニ、緊急、事態、デス、ネ」
無線を手に、アフリカ民族衣装のムーグ・リード(
gc0402)が先を急ぐ。
「どの程度、ノ、数、ガ、要る、カ、ワカリ、マセン、ガ」
傭兵たちはジョイランド外周に防衛ラインを築く。
「敵、ハ、排除、すル、マデ――DEATH」
ムーグは西搬入口へと辿り着いた。
ダークヒーロー姿の大神 直人(
gb1865)も到着する。
と、東から人影。
「アンタはあの時の‥‥」
直人には見覚えがあった。
「なにしてるんだ?」
怪訝に声をかける。
「お? いや、ここに姉貴と来てて‥‥っと、あんときは世話になった」
神妙に頭を下げる、ネコミミ割烹着。
「とりあえず正面ゲートを頼めないか?」
「わかった」
踵を返す凌。
「と、これを持って行け」
直人はアーミーナイフを投げてよこす。
「助かる!」
手を振り、凌は消えていく。
「いずれ子供達と訪れるつもりですが、その前に壊滅してしまっては一溜りもありません」
南の駐車場には番場論子(
gb4628)。ゾンビ兵の仮装をしている。
「祭りのたびにキメラが出てくるのは‥‥狙ってやってるのかねぇ‥‥」
赤魔道師ルックの水無月 湧輝(
gb4056)がエレキギターのような超機械を調律しながらつぶやく。そのそばにはカボチャのかぶり物のソリス(
gb6908)。
駐車場は3人で警戒に当たる。
「キメラもハロウィンで遊びに来たのかな?」
可愛い所あるじゃねぇか! と言いかけ、口をつぐむ。正面ゲートにはネコ娘姿の空言 凛(
gc4106)。
「せっかく遊びに来たのに、キメラさんが邪魔するなんて‥‥」
『アリス』のコスチューム。入り口から出てきたファリス(
gb9339)がうなだれた。
『わたしも監視カメラでなにか見かけたらお伝えします』
未早が懸命に画面を覗き込む。
「人のいないこちらに来てくれれば楽ですが」
北搬入口。魔女の格好をしたレヴィア ストレイカー(
ga5340)塀を背にする。
「たぶん人の多い方に行くだろうな」
キメラも面倒な所に来たもんだ、とジン・レイカー(
gb5813)も壁に寄り掛かる。
『ハロウィン企画として、仮装とお菓子配布、記念撮影とダンスパーティーを行っております。ぜひ、園内中心部へお越し下さいませ』
放送室からメシア・ローザリア(
gb6467)の園内放送が流れる。
「行きましょうか」
配置につくソリス。
「不安を与えぬよう努めてらしく、こっそりと」
キメラが迫っていると伝播すれば多数の死傷者を出してしまう。
残り30分――人知れず傭兵たちはジョイランドを守りぬく。
「ファリスはみんなの笑顔を護るの!」
極秘作戦が決行された。
●黒衣の死神
倉庫から持ち出した照明を設置していくムーグ。
「コレ、デ」
最後に持参したランタン。明かりが闇を照らす。
かさり
かさり
草を踏みつける足音がかすかに聞こえた。
瞬天速。ムーグは搬入口まで戻る。
「ココ、ハ、通れ、マセン、ヨ‥‥?」
前方に投げかける。だが、歩みは止まらない。ムーグは拳銃に手を伸ばす。
やがて浮かび上がる黒衣。骸骨の顔だけが覗いていた。
まっすぐにムーグへ向かう。大鎌がぎらりと光を反射した。
甲高い金属音。
鎌の刃がムーグの太刀に阻まれる。
「決まりだな!」
キメラと断定、直人の刀から烈風が突き進む。
真っ二つに分かたれる黒衣。骨が乾いた音を立てて転がる。
「なんだと!?」
瞬時に戻る骨の体。何事もなかったかのように鎌を引きずる。
「敵ヲ、知る、必要、ガ、アリ、マス」
ムーグの銃弾が骸骨の頭を吹き飛ばした。だが、すぐに元に戻る。
「ちっ」
鎌を刀で受ける直人。
雑木林からいくつもの足音が聞こえはじめる。
――南駐車場。
演奏を終えた湧輝。
「これをあげるから、みんなで分けてくれ」
飴を差し出すと、おじぎをして走り去る子供たち。
それをただ見送るかぼちゃ頭のソリス。湧輝はじっと見つめる。
「仮装とか慣れてませんし‥‥こういう無難な方が私らしいです」
湧輝は微笑を返す。
「終わったら一緒に楽しもう」
湧輝の誘いに、かぼちゃ頭がこくりと頷いた。
「ジョイランドへようこそ」
家族連れが立ち止まる。
「ただいまイベントが開催されています。園内へお急ぎください」
にこやかに論子が誘導する。
「未早さん、異常ありませんか」
駐車場は死角が多い。頭上から見渡せる監視カメラが有効だった。
『あ‥‥今、南西の方に林からいらした方が』
「わかりました」
ゆっくりと接近する論子。
『待ってください、東の方にも何名か‥‥』
論子は後方の湧輝とソリスに頷く。2人が東へ向かう。
車間に佇む黒衣の後ろ姿。歩み寄り、論子は声をかける。
「ジョイランドへようこ」
閃く大鎌。
「キメラでした」
跳び退き、連絡。AUKVを装着する論子。
『右手からも来てます!』
右方からも現れる骸骨。前方のキメラが鎌を振り上げた。
「遅いですね」
鎌を回避して、懐へもぐりこむ。腕から頭部にはじける電流。
機械爪が下から切り裂いた。カラカラと骨が転がっていく。
「はっ!」
骸骨の腹を突き抜ける機械爪。右から近付いていたキメラが崩れ落ちる。
「あっけないですね」
刹那、大鎌の刃が弧を描く。
入り口に近い東側。ソリスはキメラの前へ即座に回り込んでいた。
首を狙い、2体の骸骨が鎌を振り上げる。
「‥‥」
空を切る大鎌。跳び退り、ソリスは出方をうかがう。
骸骨がソリスを追いたてる。
「邪魔するよ」
不可視の衝撃が骨の腕を吹き飛ばした。超機械を手に湧輝が走りこむ。
続けて大剣が縦に大きく半円を描いた。頭蓋をかち割るソリスの一撃。
残りの骸骨が大鎌を振り下ろす。
「おっと、俺の相手をしてもらおうか」
青い剣が受ける。間に入った湧輝。
隙を逃さず、垂直に打ち下ろされたソリスの大剣。骨の両腕を叩き折る。
さらに湧輝の横薙ぎが骸骨を二分した。
「一丁あがり、かな」
見下ろす湧輝。そのとき――
『気をつけてください。すぐ起き上がりますよ』
論子の声。
「おいおい」
左方から湧輝をかすめる鎌の刃。吹き飛ばした腕がつながっている。さらには眼前の骸骨の胴体が戻っていく。
振り下ろされる大鎌。
霞むような湧輝の動き。鎌をかわし、キメラたちを斬り捨てる。赤く発光する剣が撥ね上がっていた。
「おとなしく死んでくれると‥‥助かるんだがね」
ふたたび、骸骨たちが立ち上がる。
――北搬入口。
塀を這い登る骸骨たち。
「ここは入口じゃないんだが」
槍を手に、ジンがキメラたちを見下ろしていた。
「といっても、キメラの入場はお断りですけどね」
向けられたレヴィアのライフル。真上から骸骨たちが撃ち抜かれて落下していく。
「違いないな」
槍を下に、飛び降りるジン。全体重を乗せ、骸骨の体を貫く。
そのまま着地。衝撃で骨が四散する。
「この程度か」
地面から槍を引き抜いた。
「いえ、手ごたえが薄いです」
銃口を向けたままのレヴィア。
骸骨たちがむくりと起き上がり、見上げる。
「どこかに弱点があるかもしれません」
制圧射撃。レヴィアはキメラたちの足止めに切り替えた。
「上等だ」
頭蓋を突き抜ける槍。
「さぁ、始めようぜ?」
取り囲む死神たち。笑みを浮かべたジンが槍を振るう。
●ショウタイム
ゲート脇にそびえ立つ、マスコットの巨大なオブジェ。
「見張りは高いところからってな!」
その上から、凛が双眼鏡で索敵する。
人の群れの中を、ファリスと凌が警戒していた。
「お! それっぽいのがいるぜ!」
無線で連絡。木陰にいる黒衣へと、ファリスが向かう。
『‥‥ただのおじさんなの』
覗き込んだファリスに、そっか、と返す。
「ん〜紛らわしいなぁ」
と、そのとき。
『ゲートの北側から怪しい方たちが‥‥』
再びファリスが向かう。
鎌を携え、人通りに近付く黒衣の集団がいた。
「あの数は‥‥ちとヤベェな」
凛はするすると滑り降りていく。
下から向かい来る刃。
「いきなりはずるいの!」
大きく後退。さらに、ファリスに鎌が振り下ろされていく。
通行人たちが足を止め、ざわめき始めた。
と、黒衣が顔面に強打を受けて吹っ飛ぶ。
「皆ー! これからショーをやるニャ! だからここを開けて欲しいニャ!」
ネコ娘の凛が声を張り上げる。
「後は頼んだぜ」
小声で連絡。「いったいなんのショーだ!?」凌と「え? えぇ!?」未早の切羽詰った悲鳴が聞こえる。
「あ、いや、それは‥‥」
転がるドクロ。そして頭のない骸骨が動き出す。
「し、ショー用のロボットだニャ!」
必死でごまかす凛。
『こ、これより、ゲリライベント、バトルダンスショーをしま、行います』
たどたどしい凌の音声が流れる。
『大変すみませんが、中央を広く開け、お楽しみください』
インカムをした凌が現れる。
開けた中央まで跳び退る、ファリスと凛。
「皆の楽しみを邪魔しに来るとはなんて奴ニャ!」
宙返り。ネコ娘に通行人たちがどよめく。
「みんな、応援宜しくなの!」
手を振るファリス。観客から拍手が湧き起こった。
「死神め! 退治してやるニャ!」
骸骨を指差す。もう遠慮は要らない。
「よっと!」
凛の首を狙う鎌を前屈みに回避、懐へ飛び込む。
「んなとろい攻撃が当たるか――よっ!」
上半身を起こすと同時にアッパー。ドクロが放物線を描いて飛んでいく。
が、すぐに元へと戻る。
ファリスの後方から襲いかかる大鎌。
「させるか!」
鎌をアーミーナイフで受ける凌。そのまま押しやっていく。
さらにファリスへ迫る死神たち。
「みんなの平和のために戦うの!」
槍を振り回すファリス。衣が剥がれ、骨の体が露になる。
「? なんか赤いのがあるな」
骸骨の鳩尾からやや左に赤い物。
「とりあえず狙ってみっか!」
踏み込み、胸を抉る急所突きが放たれた。
「おお?」
一瞬にして粉々に砕け散る骸骨。観客から感嘆の声が上がる。
「弱点なの!」
突き刺していくファリス。次々と骸骨が破裂していく。
『大変! 北東にも現れました!』
未早の叫び。観客たちの後方から黒衣が接近していた。
「夜は悪霊も蔓延りましょう」
ロザリオを身につけたシスターが優雅な足取りで進んでいく。
「どうかお気をつけて」
通行人が目を向けたときには、その姿はなかった。
振り下ろされる大鎌。
「今宵は死神たちが跋扈しています」
甲高い音。高々と上げられた足が遮っていた。
「悪霊に魅入られないよう、おさがり下さい」
頭蓋を強襲、薙ぎ倒される死神。
「あとはエクソシストにお任せくださいな」
頭上に向け発砲。続けて、園内から盛大に花火が打ちあがる。
円く距離をとっていく観客たち。ショーの空間が出来上がった。
エクソシストのメシア。金に染まる瞳が死神を射抜く。
「大鎌とは小回りが利かない物」
ふっとその体が消える。
「至近距離に入られると不便ですのよ?」
一瞬で骸骨の真下に現れたメシア。目にも止まらぬ脚甲の一撃が死神の胸を砕く。
後方に弾ける死神。次の瞬間、砕け散る。
拳銃から立ち昇る硝煙。観客にはただ、粉砕されたことしかわからない。
側面からメシアを狙う刃。
「わたくしの首はローザリア侯爵家の物」
体を低く、死神の足元へ滑り込む。
「身の程を知りなさい!」
蹴り上げられ、骸骨が破裂した。
次々と夜空に広がる花火。その下で死神とのダンスショーが繰り広げられる。
機械爪が骸骨を切り裂く。
「本日はジョイランドへお越しいただき、まことにありがとうございました」
笑顔で見送る論子。
「お客さんが通過しました」
再度AUKVを装着。キメラにとどめを刺す。
鎌が振り下ろされた直後、大剣が大きく回転。
「これで最後です」
死神の胸を両断。ソリスの一撃が残りのキメラを寸断する。
「弱点は左胸部でした」
断続的なレヴィアの射撃。正確に、1体ずつ死神が砕け散っていく。
続けて、赤く光る槍が骸骨を貫いた。
「もう終わりか」
ジンの周囲にはキメラの残骸が積もる。
塀をよじ登る骸骨。
「行かせるかっ!」
直人から剣風が突き進み、寸断されて倒れ込む。
「よし」
胸に突き立てた刀。骸骨が弾け飛んでいく。
「ココ、ハ、通し、マセン」
搬入口にそびえるムーグ。太刀を握り締め、キメラたちを見渡す。
「祭り、ハ、マダ、終わっテ、ナイ、ノ、デス、カラ」
地を蹴り、ムーグがキメラをすり抜けた。一斉に砕けていく骸骨。
雑木林には5体の死神たち。
ムーグは拳銃を向ける。
「トリックorトリート」
次々と吐き出されていく銃弾。弾丸の雨が降り注いだ。
銃撃が止み、静寂が訪れる。
「orダイ‥‥デシタ、カ」
幾重にも夜空に広がる色あざやかな光。
最後の花火が作戦の終了を告げた。
●守り抜いたもの
「貸し切りってのは凄いな‥‥」
席に座り、ジンはあたりを見回す。
「イヤッホォオウ!」
コースターから凛の絶叫が流れてくる。
閉園後のジョイランドは傭兵たちで貸切となっていた。
「しかし、よく食べるね」
前の席に目をやる。
「戦ったら、お腹が、空いたの」
口いっぱいに頬張りながらファリス。
ここワールドフードコートには、世界中の美味しいモノがあふれている。
「そうかい」
微笑を浮かべ、ジンはその様子を眺める。
「これも余録にゃにょ」
まだ始まったばかり。ファリスはこれからに備え、腹ごしらえをする。
月下の符術召喚士――カードバトルシミュレータ。
「甘い甘い」
「ぐ、なんかしてんじゃないか?」
凌は直人に一度も勝てずにいた。
ふと、未早が凌の隣に歩み出る。
「では、次はわたしと」
「はあ、いいですけど」
――数分後。
「な、なぜだ‥‥」
「ふふふ」
にこにこ未早。
「も、もう一度!」
この後、直人は幾度となく未早の強運を思い知ることになる。
「‥‥そういえば遊園地なんて初めてですね」
「ソリスが良いなら問題ないさ」
勝手のわからないソリスに湧輝が笑みを向ける。
ゆっくりと動き出した観覧車。遠く、きらびやかな夜景が広がる。
のんびりと2人は遊園地を楽しむ。
「無事ハロウィンを楽しめる事が出来て良かったわ」
一通りまわり終えたレヴィア。
「でも‥‥寂しい身の上を痛感しますね」
ひとりでベンチに腰掛けていた。
と、レヴィアの肩にそっと手が置かれた。はっと見上げる。
視線の先には着ぐるみ――マスコットのジョイ君がいた。
突然、バク転を始める。
「‥‥」
ぱちぱちと手を叩くレヴィア。乾いた風が吹き抜けていく。
「なんだ? どっか行くか?」
声に振り返る。凌に誘われていた。
「はい」
レヴィアは勢いで答える。早鐘を打ち始める鼓動。
「おーい、姉貴ー」
「え?」
どうやら3人らしい。
「おや」
遊園地を出た論子。前方にムーグの後ろ姿があった。
戦場の気配を持ち込みたくはない――ムーグはひとり、後にする。
傭兵たちが守り抜いた遊園地。
「日を改めていずれ、ですね」
論子は見上げる。
それは希望のように輝き、夜闇に浮かんでいた。