●リプレイ本文
●佇む廃墟
「さて、着きましたね」
フランエール(
gc3949)がトラックを降りる。
「やはり、あの資材が原因でしょうかねぇ」
廃墟を見上げるレイド・ベルキャット(
gb7773)。
「もしくは、ミリアさんが厄を引き寄せてるとか‥‥あいた」
脇腹に肘打ち。いや冗談ですよ、とミリア・ハイロゥ(gz0365)をなだめる。
「また、あのドラゴン居るんでしょうか‥‥」
不安そうに思い返す和泉譜琶(
gc1967)。
「今は自分に出来る事をするだけだっと」
運転席から降り、辺りを窺うザイン・ハイルング(
gc4957)。
「みんな、落ち着いて行こう」
以前より冷静に見えるザックス(
gc4745)。が、まだ少し固いだろうか。
「まあキメラの殲滅と荷の回収だけだし、余裕ですよ」
石田 陽兵(
gb5628)が気楽に言い放つ。
「あ。回収しだいここに」
思い出したように瓜生 巴(
ga5119)は振り返る。そうしてまた、きびきびと前を行く。
最後尾には寡黙な神楽 菖蒲(
gb8448)。前回の積荷、そして再び襲来したキメラ――渦巻く疑問。
「いきましょうか」
菖蒲をターニャがうながす。
●銀の爪、舞う紫
階段の吹き抜けを見上げる譜琶。
「なんか、すごいですね‥‥」
紫の翼がいくつも見え隠れしている。
「わわっ」
宙を舞っていたキメラたちが一斉に譜琶に首を向ける。バサバサと羽音を立て、急降下。
「キェェェェェ!」
小さい獲物、譜琶に雄叫びを上げて襲いかかった。
「おっと!」
立ちはだかり、レイドが鋭い爪の攻撃を受ける。
(「これは‥‥! やっかいですねぇ」)
途端、早鐘を打つ鼓動。
「毒ですか」
紫の鳥を突き抜ける、エネルギーガンの射撃。レイドの様子を横目に、機械的な動作で巴は2体のキメラを貫き落とした。
続けて2本の矢が前方に現れた鳥の羽を射抜く。
「大丈夫ですか?」
譜琶は心配そうにレイドを見上げる。
苦しげな表情。キメラの爪から、レイドの体内に猛毒が駆け巡っていた。
「よし、いくわよ!」
譜琶の撃ち落した鳥を、衝撃波が切り裂いた。
「あぁ! ミリアさん待ってください!」
ミリアが階段を駆け上がっていく。譜琶の声はもう届かない。
と、防火扉に影が過ぎった。
「気をつけてください! 狼です!」
フランエールから仄かな光。迫る銀の狼を見据えた。
撥ね上がる刀、体が霞むようなフランエールの一撃。さらに狼の後頭部に銃が向けられる。
「くらえ!」
近距離から発射される弾丸。だが、人狼はわずかに首をそらし、肩当が弾いた。
凶悪に吊り上る眼。狼の腕が振り上がる。
「うあ!」
かわせない。肩、左手が切り裂かれる。床を滑りゆく拳銃。
(「強くなってる‥‥」)
肩を押さえるフランエール。
と、目の前の狼が衝撃で後退る。立て続けに撃ち込まれる弾丸は、2発が狼の肩に命中した。
「慎重に、行きましょう‥‥」
硝煙。後方からのレイドの銃撃だった。
踊り場では2体の狼とミリアが交戦。さらには、頭上から降ってくるかのような紫の鳥たち。
そして、傷ついた狼がなおも向かい来る。
「結構いますね」
人狼をレーザーブレードで斬り捨てる巴。
「もう少し持ちこたえてください」
エネルギーガンに持ち替え、光線が鳥を撃ち落していく。
残り2体の、恐竜にも見える鳥のキメラ。その翼が大きくはためいた。向かう先は、フランエールとレイド。
「させません」
守られてばかりでなく、守る――譜琶から2本の矢が放たれた。
「クァァ!」
フランエールに向かう直前に胸を射抜かれ、軌道を変えて防火扉にぶつかる紫の鳥。
「キェェェ!」
もう1体は足に命中。が、その勢いは止まらなかった。
「‥‥く」
傷が開く。レイドの傷口を抉る紫の鳥。
「なかなか」
甲高い音。続く爪の一撃をレイドは短刀で防御。さらにレジストで猛毒は緩和。
「やってくれましたねぇ」
鳥の胸を3発の銃弾が撃ち抜いた。
「よし」
ほぼ同時にフランエールが防火扉の紫鳥にトドメを刺す。それを見届け、レイドは上階へと視線を向けた。
這いつくばる1体の銀狼。もう1体は――
「ミリアさん!」
人狼の腕を狙い、レイドは引き金を引いた。が、狼は手甲で受ける。
銀の狼が、振り向いたミリアに爪を突き出す。
「はい終わり」
巴のエネルギーガンが人狼を貫いた。
●暗闇の慟哭
地下1階に到着。
「うへぇ‥‥暗いなぁ‥‥」
陽兵は熱に注意しつつランタンを腰から引っさげる。地下には非常灯もなく、地上の光も届かない。
「開きませんね」
ターニャが以前に荷を運び込んだ部屋は、扉がひしゃげていた。
「ちょっと退いてください」
盛大なモーター音。チェーンソーで扉を粉砕する陽兵。
これですね、とターニャは箱を抱える。が、すぐ置くことになった。
「敵」
菖蒲のつぶやきにびくりと反応するザイン。
「ターニャ、私の援護、お願いできるかしら」
菖蒲に頷くターニャ。背にしたライフルをくるくると回転させ、両の手に収まった。
「狼は素早くて、鳥は弱いのを狙ってくる」
ザックスが端的に特徴を伝える。
「後ろは任せてください」
ランタンを置き、後方へとショットガンを構える陽兵。
傭兵たちは迎撃態勢に入る。
菖蒲の暗視スコープごしに映るのは、音を聞きつけてやってきた4体の狼。
「同じ敵を狙ってちょうだい」
前回と同じ――そう判断した菖蒲は通路の両端に牽制射撃。狼たちの進路を制限する。それを追うようにターニャがやや後方の2体の人狼を2回ずつ時間差で狙撃、分断する。
「しかしまあぞろぞろと」
階段を見据える陽兵。地上から紫色の鳥型キメラたちが舞い降り、地下の闇に消えていく。
「当たってくれるといいけどな」
ショットガンを連射。陽兵は暗闇に弾丸をばら撒いていく。
前方、菖蒲に銀の狼が襲いかかる。
「言ったはずよ」
狼の爪を刀で受ける菖蒲。ふっとその姿が消えた。
「犬に騎士は倒せない」
狼の胸当てが割れる。流し斬りに続けて3度斬りつけられ、崩れ落ちる人狼。
もう1体は菖蒲の脇をすり抜けていく。
「おおぅ‥‥っと」
爪で切り裂かれ、倒れ込むザイン。
その狼に近距離からターニャの銃弾が撃ち込まれた。連続射撃で狼は壁に打ち付けられる。
「おおおお!」
ザックスが黒いオーラを刀に纏わせ、気合とともに振り下ろす。が、狼は手甲で弾く。
「戦うのは得意ではないんだがなっと」
練成治療でザインの傷が癒えていく。
「応戦くらいはしないとなっと」
圧縮レーザーの爪が狼を下から切り上げた。銀の狼がずるずると崩れ落ちる。
後方、ランタンの明かりが鳥の顔を浮かび上がらせた。
「ちっ!」
陽兵はショットガンを握り直し、大きく振りかぶる。先端のチェーンソーが回転、鳥に向かって振り下ろす。
壮絶な叫びを上げ、紫鳥は2分されて絶命した。
――はためく紫の翼。
「いってー!」
猛毒の爪が陽兵の右手を傷つける。
さらに明かりで浮かび上がる紫鳥。
「くそ!」
陽兵の傷を深くしていく。だらりと垂れ下がる右腕。
菖蒲は陽兵を一度後ろ目にして、
「ターニャ!」
前に向き直る。目前には、迫る狼たち。
振り向きざまにターニャは2体の鳥を狙撃。さらに全弾発射。正確なライフルの牽制が鳥たちの動きを止める。
と、そのとき――地下全体を揺るがすような呻き声。
「ヤツだ‥‥」
ザックスには聞き覚えがある咆哮。振動とともに足音が大きくなっていく。
「無駄よ」
菖蒲は狼の牙を受け、刀の4連撃が狼の体を四散させる。
もう1体は菖蒲の横をすり抜け、爪の一撃をザックスに繰り出した。
「はっ!」
集中。ザックスは爪を盾で受けきる。
「おらおら!」
猛毒を巡らせながらも片手でチェーンソーを振り回し、2体の鳥をぶった切る陽兵。さらに手甲の合間を縫って狼の左手を裂いていく。
「よっと」
狼の体にレーザーの爪が走る。両腕をなくす狼。
「大丈夫か?」
ザインと陽兵の傷を治すザックス。続くターニャのライフルが人狼にトドメを刺した。
前方からまっすぐに突き進んで来る巨体。
「いくわよ」
菖蒲の合図と共に陽兵が援護射撃。その光が、敵の姿を浮かび上がらせる。
「でけえ‥‥」
銀の鱗、銀の翼――全身が銀色をした巨大な竜。その赤眼が陽兵を向いていた。
「うおわ!」
爆発。吐き出された火炎弾で炎に包まれていく陽兵。
その隙を突き、竜の真下へと潜りこむ菖蒲。
「ぐ、くっ‥‥!」
強烈な尾の一撃を刀で受け、壁まで弾き飛ばされた。
瞬間、菖蒲の姿がふっと消える。
「オオオオォォォン!」
竜の咆哮。菖蒲の連続流し斬りが銀の鱗を断ち、斬る。間髪入れず、ターニャの一斉掃射。
「いけ‥‥!」
顔を引き攣らせる陽兵。膝立ちから放たれた急所撃が竜の体に穴を空ける。
「チャンス、っと」
ザインが竜巻を発生、竜を傷つけていく。
「あああああ!」
さらにザックスが追い打ちをかける。
傾く竜の体。しかし――
「う‥‥あ――」
竜の強靭な顎で噛みつかれるザックス。意識が遠のいていく。
が、すぐに顎の力が弱まっていった。
盛大な音を立て、銀の竜が地に沈む。ザックスが通路に投げ出される。
「龍殺しは、騎士のお仕事でしょ?」
見上げるザックスに、菖蒲が手を差し伸べていた。
●リベンジ
「なんとか地下1階の資材は確保した。そっちは順調か?」
ザックスから無線連絡。
「ええ。今回収中ですよ」
応答するフランエール。
エレベータのミリアから巴が箱を受け取る。
(「プリントアウト、にしては重いかな」)
目下、地上班は資材の運び出し中だった。
「中身は気になりますが‥‥故意に見ようとはしませんよ」
偶然見えてしまうかもしれませんけどね、と付け加えるレイド。
「それにしても重そうですねー」
首をふりふり、様子を眺める。譜琶も気になるようだ。
「ストップ」
台車を押さえる巴がミリアを制止する。
「切るのは私じゃなくて台車です」
大きく剣を振りかぶっていたミリア。あそうよね、と剣を下ろす。
「さすがミリアさんですねぇ‥‥あいた」
「交代」
レイドの眼鏡がズレる。
一行は荷台をソリのように改造、バンドで箱を固定した。
「運搬役は‥‥元々ミリアさんの仕事ですよね、譲りますよ。どうぞ」
「資材運び係りに任命です!」
「え〜?」
巴と譜琶に推され、渋々了承するミリア。
「無理な場所は担いで下さいね! 落としちゃ駄目ですよ! きちんと守ってくださいね?」
「ミリアさん。危険ですので、くれぐれも一人で前に出ないようにして――あいた」
しつこい、と肘鉄を受けるレイド。
そのとき――
「うわっ!」
着地、建物全体に伝わる衝撃。ぱらぱらと建材が降り注ぐ。
「来ましたね‥‥」
「今回は負けません」
轟音とともに現れた銀の竜。
次の瞬間、火炎が放射される。
「なるほど」
暗いヴェールを纏う巴。炎が吸収、掻き消される。
さらに竜の首が譜琶へと向けられた。
「‥‥!」
床が爆ぜる。呼気とともに回転、譜琶は火炎弾から逃れた。
――瞬間、即射。譜琶から瞬く間に4本の矢が放たれ、竜に突き刺さっていく。
「奥義」
たちどころに竜へ接近、フランエールの刀が閃く。
「瞬撃光!!」
立て続けに銃を連射。銀の鱗が割れ、わずかに傷がつく。
「私も前回はやられましたからねぇ」
できた傷へと銃撃を加えるレイド。
「そろそろいいですよね」
次々と、光線が銀の鱗を貫いていく。竜の首が地に落ち、埃が舞い上がる。
「あ〜‥‥」
ミリアの出番は、なかった。
●黒髪の男
いつかの短剣を拾い上げるターニャ。一行は順調に資材を回収していた。
(「おかしい」)
キメラがまったく見当たらない。菖蒲は何か、違和感のようなものを感じていた。
ふと、人影が見え始める。
「止まりなさい!」
声にビクッと立ち止まるザイン。菖蒲は前方に銃を向ける。
「人‥‥か?」
最後尾から覗く陽兵。やがて菖蒲の暗視スコープがその姿をはっきりと捉える。
「傭兵かな」
人の良さそうな青年だった。
「残念だけど両手が塞がってるんだ」
手を上に上げてみせる。男は両手にケースを提げていた。
「物資なら一つもやれないな」
威圧的に陽兵が答える。が、菖蒲はそれを制止し、男に道をあける。
「なんで!?」
声を荒げる陽兵に、菖蒲は首を振る。
得体の知れない相手。こちらが抱えた荷物。それに男のケースは、依頼とは無関係のものだった。
「賢明な判断だね」
にこやかに青年と、その後に続いて数体、一行の脇を通っていく。
「ん、それは」
一瞬荷物を見、笑みを浮かべ通り過ぎていった。
「そうそう」
ふいに、思い出したように立ち止まる男。
「たくさんいるから、がんばってね」
愉快そうに男は去っていく。
前方。実験室の方から、次々と銀の狼が現れる――。
●正体不明
翼を矢に射抜かれて、後方の鳥が地に落ちた。
「もうすぐトラックですよー」
地下班に連絡する。
しかし、応答がない。
「おかしいですね‥‥様子を見に行った方が?」
心配する譜琶。と無線が入った。
「資材は確保。ケースを提げた男には絶対に関わっちゃダメよ」
菖蒲の連絡。トランシーバから、呻き声が漏れ聞こえる。
「あれは‥‥」
入り口に現れる影――機械の巨人と、黒い翼の美しい容姿をした天使。
が、すぐに巨人と天使は後退り、去っていく。
「フム」
巴には、かすかに男の声が聞こえた気がした。
「!! ‥‥まだまだ、気は抜けないですね」
刀を構えるフランエール。
「また、ドラゴン‥‥」
巨人と天使の後には、竜の首が現れていた。
その口に収束していく炎。
「あぶない!」
資材を引くミリアをかばうレイド。火炎に包まれ、倒れ伏す。
黒衣で炎を防いだ巴。受けたと同時に攻撃、エネルギーガンの6連射が竜を襲う。
直後、4本の矢が突き刺さる。息をつかせぬ譜琶の射撃が、竜の眼を貫いた。
土埃が上がる。入り口を塞ぐように、竜の首が落ちた。
「‥‥だいじょぶ?」
レイドの肩を揺するミリア。
やれやれ、とレイドは割れた眼鏡を拾い、体を起こす。
●運ぶものは
雑木林から銀の狼が現れる。
「逃げるが勝ちです! 早くここを離れましょう!」
車に乗り込む譜琶。
巴が狼を撃ち抜き、ザインはトラックを発車させる。
「ふ〜‥‥」
ぐったりとザックス。フランエールは辺りを警戒する。
短剣を手に取り、眺める巴。柄の部分がやけに太く、刃の周囲には無数の穴が開いていた。
「で、中身はなんですか?」
巴は荷に目を向けるが、当然答えはない。
じっと資材を見つめる菖蒲。
(「あの男‥‥」)
箱を見て、黒髪の男は確かに笑った。
ひた走る輸送車。
傭兵たちは、災厄を運んでいく――。