●リプレイ本文
御影・朔夜(
ga0240)は、漆黒のナイトフォーゲルから、煙草をくわえたまま、報告のあったフィヨルドを見降ろす。
黒く聳える巨影───大型のブラックドラゴン型キメラ‥‥ファフナーがフィヨルドの水路に蹲っている。
朔夜は名残惜しげに唇から煙草を離し、レシーバーに女性的口調で囁きかける。
「見えるか? 藤村」
藤村 瑠亥(
ga3862)は僚機からの声に対し、いらえを返す。
「全長500メートルの巨大な竜か‥‥。
神話などの書物などで読んだことはあるが、まさか自分がドラゴンスレイヤーとして戦うとは思ってもみなかったな‥‥。
もっともペルシャ神話の世界を支えるドラゴン‥‥まあ、ポピュラーな説では魚だが‥‥原理主義的に計算すると、太陽より大きなものもいるからな。まあエミタを埋め込んだニューモードのドラゴンスレイヤー候補生ならば倒せる‥‥と思いたい」
そう、雑読した知識を開陳しながら、瑠亥はついつい一本だけという誘惑に駆られて、手が葉巻を探し求める。
「しかし、メールで得た、メルジーネからの内部情報を吟味すると、ここから30キロ以内につまり射程内に、アイゼンファウストは、列車砲のレールを延ばしている───」
その瑠亥の報告を受けて、老兵───ダイゴ・イザナミ(
ga9016)の岩龍のアビオニクスでは、ファフナーの位置を三角測量していると思しき機影を確認できていた。80センチ列車砲アルベリッヒから投射されていると思しき、高出力の電波も相方のAI『副長』から各種諸元合わせて報告されている。
「龍によって、龍を倒すであるか‥‥しかし矮人にどこまでできるか? 前大戦の遺物めが」
それらを検証した後、おもむろにダイゴは全ナイトフォーゲルに暗号回線を開き───。
「状況、アイゼンファウストに動きあり! 現在、戦闘区域は列車砲の射程内。総員、警戒せよ!」
レティ・クリムゾン(
ga8679)は自機が前、王 憐華(
ga4039)機が後。攻撃のタイミングはレティが計って、煌びやかな美しい連携を目指す、コンビの片翼を担う憐華に個人チャンネルを合わせた。
「ファフナーか、とてつもなく大きいな。だが弱点は在る筈だ。だが、獅子身中の蟲がいる───のか」
「ですねー、けどレティさん、今回はよろしくお願いしますね。ファフナーに『女性同士の煌びやかな連携』を見せてあげましょうね。バグアが滅びるまで何度でも、女性の力を見せるという事で───まあ、今後ともおひとつよろしく」
「ファフナーに『今度』はない、決めたい所だ」
「紅天弓姫参ります‥‥‥私の一射が役立つのなら私は迷まず───抜きます‥‥覚悟してくださいね」
時間は少々遡り、そんな憐華は作戦前に、『いつも』のように皆に手作りの団子を配っていた。ヨーロッパでは材料が手に入らないので、ラストホープからの持ち込みだ。
漸 王零(
ga2930)を、そっと皆が憐華の人間的な暖かさのある団子に嬉しい悲鳴があがっているミーティングルームから連れ出して───切なげに接吻を交わす。
「零、絶対に無茶はしないでね‥‥あなたの体はもうあなただけの物じゃないんだから」
「わかっているさ‥‥‥無茶はしない‥‥‥まったく‥‥‥汝までこの依頼を受けるとは‥‥‥汝こそ無茶はするなよ。汝に何かあったら我が困る。我は刃、汝は鞘───どちらが欠けても困るだろう? ファフナー‥‥たしか北欧神話に出てくるファフニールという竜の俗称だったな‥‥‥相手にとって不足なし‥‥‥楽しい腕試しになりそうだな」
そんな己の内に潜む野生の呼び声を殺しきれない。
「それを無茶というのよ、イカズ後家にするつもり?」
「おっと、無粋だったかな?」
UNKNOWN(
ga4276)が季節感を感じさせないロングフロックコート姿で、ふたりの脇に姿を現す。
「汝と組むのは初めてだな。‥‥‥‥‥よろしくたのむぞ、UNKNOWN」
「ここに来るも2度目、か‥‥。
───なに、一振りの槍として動くだけ、だ、よろしくは、こちらこそかけるべき言葉だったな───先手をとられたか」
そこまで言って革手袋に包まれた右手でフラスクを器用に引っ張り出す。
「ふっ‥‥今度は14番目の男、だな。まあ、それはさておき。相手が大きい、という事は。強大ではあるが隙も大きいという事だ」
「それは我に対する皮肉か?」
210センチの上背を持つ王零が、188センチの身長を持つUNKNOWNを見下ろす。
「何───単なる一般論さ」
時間は現在に戻り、忌咲(
ga3867)はダイゴからのアイゼンファウスト接近に関する無線を聞いて、咄嗟に機体を180度反転させて───アルベリッヒの射程外に飛び出したいという、恐怖に駆られた。
予め、メールアカウントを病院に頼んで、患者用のものを作ってもらい、メルジーネ・モーゼル士官候補生の身柄へ出しておいた。
内容は、適当な雑談と、市長がUPCにファフナー退治を依頼して、傭兵が退治に行くらしいとか。
あくまでUPCとは関係ない入院患者が人から聞いた話の体裁で書いていたが、メルジーネは忌咲だという事にそもそも気づかなかったらしく、間違いメールではありませんか? という返送が帰ってきた。
一応、忌咲への連絡先を書いて、ファフナーが怖いから何か知ってたら教えてくれるよう書いておき、今度一緒にお茶をしないか誘ってみた───保険にすら、ならないかもしれないが、打てる手は打っておくべしという忌咲の心情がどれほど汲まれたかは、楽観論で見ておくしかなかった。
「ファフナー見るの初めてだけど、これは大きいね」
という忌咲の強がりが、パートナーの緋室 神音(
ga3576)にも伝染して───。
「――――アイテール、戦闘モードに移行‥‥オールウエポンズ・フリー」
と、AIにわざわざ音声入力している言葉が緊張していく。
ファフナーがフィヨルドに身を横たえている事は、ファフナーを地面に引き摺り落とすことから始まる、フェイズ・スリーまでの作戦手順を大いに狂わせた。
「ダイゴどう思います? 相手が空中にいないというのは想定外でした」
「撃てば飛ぶだろう。そうでなければ、遠距離砲火で仕留めればいい」
との、ダイゴと神音の打ち合わせは暗号回線で一同は共有している。
緋沼 京夜(
ga6138)はファフナーの圧倒的な存在感に───。
「ドラゴンスレイヤーか。いいねぇ、燃えるじゃねえか」
闘志と畏怖が半ば混じり合った、パートナーである京夜の言葉に、藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)は───。
「あの時、逃したヘルメットワームを握りつぶした巨竜か‥‥上がった砲の威力、試させてもらうぞ」
と、半ば京夜の緊張を取り除き、残りは自分に言い聞かせる様にレシーバーに囁く。
一方で、小麦色の肌とは対照的な、銀髪と赤目に未だ少なからぬ、幼さを残す風貌の、ナオ・タカナシ(
ga6440)は覚悟を決め。
「一度は死んだ身‥‥。既に覚悟はできております。何が相手でも臆したりはしないのです」
ナオの相方のソード(
ga6675)もファフナーを見下ろしながら───。
「ファフナー‥‥全長500メートルの黒い竜型のキメラ‥‥。
未だかつてこんな巨大な敵との戦いはありませんでした。
しかしやるからには勝ちます‥‥必ず! ナオさん、臆しないのと、犬死には違いますよ」
「常に戦場に在り───生きるも死ぬも同じ事です」
「ダイゴさんから連絡があった様に、アイゼンファウストの列車砲が来ないとも限らないというか、来る可能性は高そうですね。当たらない様に来てもすぐ対応できるように警戒と心構えはしておいてください」
「まいったね‥‥結局あのデカイのと戦うことになりましたか‥‥」
ヘルメットのバンドを弄りながら、周防 誠(
ga7131)はひとり笑う。
ファフナーを発見した登山者の言葉が引っ掛かっているため
「登山家の勘ってやつは馬鹿に出来ませんからね‥‥」
と呟きつつ、周囲の状況には常に気を配る。
「援軍が来た場合は六堂さんにフォローを頼みます敵援軍からのファフナーに対する援護をさせない様に行動してください」
「具体的にはどうッスか?」
六堂源治(
ga8154)の言葉に誠のいらえは。
「自分の判断で行動して下さい」
「じゃあ、予めの打ち合わせ通りってことッスね。うー、大規模作戦以外で初めてナイトフォーゲルに乗るのがこんなヤバ気な依頼とは‥‥参ったッス。
しかし‥‥バイパーの初陣を汚す訳にはいかないッス。
事情や細かい事は良く分からんが、兎に角頑張るッスよ!!
いくぜ相棒!! ドラゴン退治ッス!!」
源治のバイパーは黒く塗装されており、鴉をモチーフとしたエンブレムが機首に描かれていた。
そして、作戦が始まった。超音速の死神達は囲みを造った。
「オラァ!! ありったけの鉛弾を喰らいやがれ!!」
源治の攻撃が強力なフォースフィールド特有の幾何学的紋様を、着弾地点に煌めかせていく。狭いフィヨルド内で羽ばたこうとしているファフナーに着弾するも、鱗に曇りひとつ無い。
「これでも食らえッス!」
高分子レーザーをギリギリの間合いから使用。ノーダメージ。
「前の連中を援護ッスよ!! ひとりだってやらせるかよ!!」
後方に回り込んだ誠が、信じられない光景を眼にする。
「――ハ、流石に図体ばかりとは言わないか。だが――! さて、少し遊ばせて貰うとするか‥‥!」
朔夜が、ブースト&マイクロブースト起動で接敵。
UK−10AAMを牽制、囮にG放電装置で狙い撃ち、擦れ違う様にリニア砲を叩き込む。爆風が上がり、まったく無傷のファフナーの姿があった。
すさまじい反射神経の右腕でつかみ取られたのはワイバーン、ブーストを噴かしてもナイトフォーゲルはじりじりとしか進まない。
ナオも背中にフレア弾を投擲しようとするが、尻尾に巻き取られる。
ソードは叫ぶ。
「ナオ、今、解放してやる!」
(『また』捕まった? され、幻視!ここは現だ!)
既視感に囚われている朔夜の身を考えて攻撃が一旦やむ、
そこへ王零が翼の刃を煌めかせ、羽ばたきはじめた翼を目指す。
「汝が北欧神話に出てくるかの竜の名を騙るなら‥‥我が一撃は聖剣『グラム』の一撃だ‥‥‥‥神話の如く朽ち果てるがいい、ファフナー!!」
大仰な叫びもなく、ソードも自らの機体を刃と変えて、突撃してくる。
SESにより増幅された刃はフォースフィールドを貫通、しかし血の一滴も吹き出ず、体勢を崩して、フィヨルドに落ちる。逆にナオと朔夜のワイバーンとを投げつけられ、互いのナイトフォーゲルのフレームが嫌な音を立てて、ひしゃげていく。
神音はギリギリのレンジから『スターリンのオルガン』の様にロケットランチャーを降り注がせる。
(狙うは四肢の腱や尻尾根元、喉‥‥心臓。ファフナーが身を動かしにくくする。照明は竜の目元に撃ち目潰しをする為のもの、だが傷ひとつつかない相手にどうする?)
UNKNOWNが王零のサポートに回りつつ、頭部に向かって使える火器を次々と打ち込む。
「頭部をつぶされれば動けまい‥‥全弾、持ってけ!!」
ファフナーは意図を察してか、口が開く。
AIが超高速で演算しているなか、UNKNOWNは爆炎に包まれた。
滑腔砲でギリギリの射程から、援護射撃していた忌咲が居なければ、完全に火の玉だったろう。ふたりひと組の前衛班3チームの内、UNKNOWNと王零だけが突出し、そのつけをあちこちで支払った形である。
レティと憐華の女性同士の煌びやかな連携も鈍りがちであった。何しろ愛した男が生死不明なのだから。
KA−01試作型エネルギー集積砲がうなりを挙げるが、今までの攻撃で一度も血を見た事がない。ダイゴの岩龍のロケットの嵐も軽く凌ぐ。
更に───。
「エネルギー充填完了。主砲、帯電粒子砲発射ぁーっ!」
老兵の意地でも鱗一枚剥がせなかった。
「藍紗、躊躇っている場合じゃない! いくぞ、ダブルインパクトブレイカーだ!」
京夜は阿吽の呼吸で藍紗とポジショニングする。
牽制攻撃の後、京夜のアグレッシヴフォースプラス集積砲、藍紗のエンハンサープラス粒子砲で目や口から頭を衝き通すつもりで同時攻撃。
「心得た! SES機関出力最大! ブースト!!」
「今ふたりの力をひとつに! ダブルインパクトブレイカー!!」
爆炎を貫いて火炎が吹かれ、藍紗の機体を直撃する。
しかし、ふたつの力がひとつとなり赫い光が黒竜を撃つ。フィヨルドが水蒸気で立ち込め、巨体は影しか見えない。
「ヘリのレーダーの出力が挙げられた! 来るぞ、アルベリッヒだ!」
ダイゴの声が各機に響く。
レティはスロットルを思いっきり握りしめながら。
「くっ。もうもたないか。だが、こんな所では倒れられないな!」
ともあれ、ダイゴの指示に従い各機分散。
直後、アルベリッヒがフィヨルドを直撃し、岩山の奥底へと沈めた。
ファフナーを封じた事を良しとして、一同はレンネンカンプ市長の元を辞した。
機体は、原型を留めないほどに破壊されても、ラストホープに行けば修理してもらえる。今回は何とかなりそうであった。