タイトル:JaFaustNeinSES02マスター:成瀬丈二

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/12 02:50

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 メルジーネ・モーゼルという名を縁に、記憶が目覚めていく少年。
 その一方で、この市を治める市長の下に80cm列車砲『アルベリッヒ』を擁する傭兵集団『アイゼンファウスト』の使者『ハンス・ベルバッハ』───30代半ばの氷の様な印象を与える男である───が政治的な取引、というも愚かな恫喝に出てきた。
「アルベリッヒはレールを敷きながら、間もなくこの市を射程内に収める。メルジーネ士官候補生の身柄をそなた等が持っていないという確証が提出されなければ、不幸な結果に終わるだろう」
「いや、何と言っても不在の証明は難しいですからな───暫くの猶予をいただきたい」
「では、10日、10日をリミットとしよう。それまでにメルジーネ士官候補生がアイゼンファウストの元に無事戻らない場合───我らの主格も、曾孫には愛情を注いでいるが、傷物となってしまえば───新たに産み直せばいい、そういう心情でおられる」
 愛情より面子が優先する辺り、確実に非人間的なものを感じさせる『交渉』であった。
 ハンスがヘリコプターで本隊に合流するのを尻目に、市長はまだ、仕事を完全に終わっていない事を理由に、傭兵達にメルジーネ少年の記憶を取り戻す様に依頼をするのであった。
・目標:10日以内にメルジーネ少年の記憶を取り戻す事。
 ミッション12スタート。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 辰巳 空(ga4698)は脳裏によぎる思考に恐れ戦く。
 今回は‥‥失敗するとここが『核榴弾の実験場』になりかねないので、対応策はしっかりと打ちたてる事とする。
 元より立って歩けるものの、記憶障害は残っている模様のメルジーネ少年に対して、今回は本格的に記憶を取り戻す事になった。
 初日は血液検査と簡単な心理テストを行い、現在の健康及び精神状態を知ると共に、採取した血液は極秘に持ち帰って後日、遺伝子検査に回す。
 ふつか目以降は‥‥前回の反応のあったキーワードや、仲間の調査結果から、より具体的な言葉や画像を与えて反応を確かめ、容態や反応を精密に見ながら記憶に揺さぶりを掛けて行く事とした。
 また、途中で休憩がてらに記憶との関連が示唆されている『二―ベルゲンの指輪』のDVDを見せ、その中で反応のあった場面に関するキーワードを加えて自力で記憶を手繰れる位にはなる様に頑張るのつもりである。
「まあ、根気よくやれば‥‥多分、行けそうです‥‥」
 と、積み重ねられたDVDの山───とは行かないまでも丘はありそうである───を見て空はうめいた。
 スリーヴノートや、ネットで調べた概略によると───。

『ニーベルングの指環』
 リヒャルト・ワーグナーの書いた楽劇で、『序夜と3日間のための舞台祝典劇』と題する。ワーグナー35歳の1848年から61歳の1874年にかけて作曲された。ラストから発表され、4部作完結まで26年。上演に約15時間を要する長大な作品であるので、少なくとも4日間をかけ、通して演奏することはあまりない。
 当初は北欧神話の英雄であるシグルズの物語をモチーフとした『ジークフリートの死』として着想したが、次第に構想がふくらみ現在の形となった。

 4日間の内訳は以下の通り

・序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold):2時間40分
・第1夜 『ワルキューレ』(Die Walkure):3時間50分
・第2夜 『ジークフリート』(Siegfried):4時間
・第3夜 『神々の黄昏』(Gotterdammerung):4時間30分

・序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold)

・第1場−ライン川の水底。3人のラインの乙女が泳いでいると、そこに矮人のアルベリッヒが現れる。ラインの黄金が世界を支配する力を持つと聞いた彼は、それを強奪する。
・第2場−ヴォータンはフライアを報酬にして、巨人族に居城ヴァルハラを建設させる。城は完成したものの、フライアは巨人族に身を捧げることを拒否する。ローゲはラインの黄金を身代とすることを提案し、ヴォータンとともに地下のニーベルング族の国へ向かう。
・第3場−アルベリッヒがラインの黄金で作られた指環の力でニーベルング族を支配している。ローゲは策略と弁舌でアルベリッヒを捕縛する。

・第4場−地上に引き立てられたアルベリッヒから、ヴォータンは自由の代償としてラインの黄金を奪取する。アルベリッヒは指環に死の呪いをかける。エルダが現れ警告を発するが、ヴォータンは聞き入れない。指環を手に入れた巨人たちは、財宝を巡って争いを起こしファーフナーがファゾルトを殺してしまう。神々は呪いに恐れおののくが、一転して虹の橋を渡りヴァルハラに入場する。剣の動機が高らかに奏され英雄の登場を暗示する一方、ラインからは黄金を奪われた乙女の嘆きが聞こえる。

 といった序盤だけで壮大なストーリーであり、少なくとも片手間に休憩の合間という訳には行かず、序夜のDVDを忌咲(ga3867)と共に鑑賞会を開く。
「どう、メルジーネ君?」
「はい、確かにアレンジは違いますが、見聞きした思い出があります、これ‥‥」
 名前は思い出したらしいので、今度はちゃんとメルジーネ君と呼んであげる事にしようと決めていた、とはいえ、忌咲は先日に、妹呼ばわりされるとは思っていなかったらしく。
 ───せめてお姉ちゃんが良かった。とは想うものの。
 普通、忌咲の特殊状況である外見年齢と実年齢のギャップはさておいても、身長が20センチ程違えば年上と認識してもらえないだろう。
(「列車砲まで持ち出して来るか。やっぱり、面倒な事になってきたよ〜」)
 今回は歌劇のニーベルングの指輪を観せる方針になったことから、忌咲も一緒に観て、何処で反応するかなど観察しようとしていた。
 と、忌咲が心待ちにしていると、小人のアルベリッヒの所では確実に反応する。
(「まあ、予断は許されないけどね、でも脇を固めて行くには十分ね。あとは一緒にお話したり遊んだり? ───でも、何をして遊ぼうか? 童心に返るにはメルジーネくんは微妙な年頃だし、部屋の中に籠もってゲーム三昧という訳には行かない───それもひとつの方法論ではあるが───本当は時間をかけて思い出して貰うのが一番なんだけど、今回は10日って期限が有るからね〜。色々厳しいね」)

「空。メルジーネ君関係で、他に検討できそうな所は、前回の調査の結果かな?
 丸と卍はナチス労働党のシンボルを意味してるんじゃないかな。
 違和感てのは、一般的にはハーケンクロイツは卍を逆にして45度傾けたマークだからじゃないかと思うんだ。
 アイゼンファウストも、あんな直接的な脅しをかけてきたんだから、ある程度はメルジーネ君の居所は掴んでるって考えても良いと思う。
 だから、今回は襲撃を受けるかもしれないから、その警戒もしないと。
 私は非力だから、そうなった時は、味方の人にサポートの練成強化をかけて、その後は、周りの人の避難誘導とかをするよ」
 忌咲が言うと、斑鳩・眩(ga1433)も無言で、自分がメルジーネの盾となる事を表明する。
 ふたりがその意志を確認したのを感じた上で。
「たまには息抜きさせてあげないと、治療と『指輪』尽くしじゃ、メル君の気の休まる時間もないじゃない?」
 などと宣言し、病院食を分かち合いながら、記憶の関係無しに落ち着くこと、興味があることに関して雑談する。
「昔のメルジーネはどんな人だったと想いますか?」
 眩はメルジーネのその質問に笑って返す。
「さあ、逢った事ないからね。でも、きっと良い子だと想うさ」
「良い子って何なのでしょうね」

 空は遺伝子鑑定の結果を受け取りつつも、照合できる情報がない事に気がつく。万が一の保険と想えばいいが。
「アイゼンファウストへは、記憶が戻れば自分で帰るでしょうが、そうでなければ交渉は難しいですけど、最後の手段として‥‥交渉の場を持って事実関係を告げる事となります」

 藤村 瑠亥(ga3862)曰く。
「さて‥‥相手も強硬な姿勢で出てきたな‥‥
とりあえず、今回はなんとしてもメルジーネの記憶を取り戻さなければならなくなったわけだ。
 だが、そう大人数で治療を行っても効果は薄いだろう。
 前回と同じで、俺は情報収集に向かうとしよう‥‥
 クルメタル社は‥‥前回の反応を考えるともう行っても無駄だな。
 だったら、少々危険だがアルベリッヒ本体を狙うとしよう」
 御影・朔夜(ga0240)が問うた。
「狙ってどうする?
 まあ、こちらはハンスがヘリコプターで去って行った方角から列車砲所在方角を推測。
 無理をしない事が前提だが、発見出来た場合は最低でも写真の一枚は収める。
 その上で、可能ならより接近して情報収集を行う。
 此処で入手した全てはメルジーネの記憶をサルベージする手段として使用。
 仮に戦闘が発生する場合はその場凌ぎ程度に。
 シエルクラインで弾幕を張りながら後退、離脱する。ま、写真を撮りに行くのには大げさだが、ピクニックとはいくまい?
 列車砲に関してだが、第二次世界大戦当時で列車砲単体による自走は不可。
 移動手段が専用のディーゼル機関車二台での牽引である事。
 レールの敷設、その為の整地など、運用に莫大な時間を要する事。
 砲自体の操作、防衛・整備等の支援に膨大な人数の兵員と技術者が必要である事。
 これらより、十日の期限こそが逆に射程距離到達までかかる日数と予測される。
 仮に列車砲にSES搭を載したとしてだが、強力な対バグア兵器はなると予想するも、列車砲の宿命と言うべきか状況次第と言う感が強い。
 シェイドなどの高機動機が戦場にいた場合、一度発射した後の装填するまでの隙を叩かれたら終わる為。
 逆にギガ・ワームなどの大型の敵には有用かも知れないと推測。占領地域への支援砲撃としても恐らくは有効。
 そして、忌咲と空の為にメモを残しておいた。メルジーネの記憶サルベージに関するキーワードとしてだ。
『ニーベルングの指環』関連。“Das Rheingold”“fefnir”“Brynhildr”“Siegfried”。第三帝国関連として“Meine Ehre heisst Treue”だな」
 瑠亥が話を元に戻す。
「口を滑らしたハンスによると、こちらにレールを引いて、もうすぐ射程範囲にとらえれるらしいな。
 十日以内にこちらの市に近づくようにレールを延ばしている工事が、そう多くあるわけがない。
 そこからそのレールをたどっていけばアルベリッヒに近づけるだろう。
 だが、危険が伴う以上、ひとりで行うのは蛮勇というものだ。
 一緒に任務を受ける傭兵に頼んだところ、崎森 玲於奈(ga2010)も同行してくれる。
 まずは複数鉄道があるのならその背後関係や、敷いていく先からレールを絞り込んでいく。
 アルベリッヒにたどり着ければ重畳だが、あくまで今回はメルジーネの記憶を取り戻すことが目的だ。
 危なくなったらすぐに調査を切りやめ、撤退することで意見を一致させよう。
 能力者が三人いれば、たいていのことはなんとかできるだろう‥‥」

 一同の予想通り、ヘリコプターの軌跡と、線路工事を行っている地点から辺りをつけようとして、呆気ないほど簡単に成功した。整地しながら複々線の線路工事を行い。アサルトライフルで武装した兵士が堂々と居れば、見逃しようもない。
「メルジーネの身柄欲しさに、よくもこんな大仰なモノで恫喝とは。
 自ら危険領域に足を踏み込む訳だ‥‥対処くらいはしなければなるまい。
 クルメタルにツテを頼った所でどうにもなるまい。
 二律背反、は何処の世界にもある。
 澄み切った空と思える世界にも。
 それはメルジーネも例外ではない」
 一同はカメラの中に天を打ち破るバベルの塔の如くそそり立つアルベリッヒの姿を捉え、遠巻きに写真を撮っていく。
 その間も歩兵達は気づかずに、護衛を続けている。
「さて‥‥鉄の拳の名を冠する傭兵集団の切り札はどんなものか‥‥」
 瑠亥は作戦成功のコールをする。
「‥‥‥やはりオマエ達には期待出来ずか、全く以って度し難い」
 玲於奈の言葉に対し、瑠亥は───。 
「いや、十分目的は果たした、これ以上の深入りは不必要だろう。御影、崎森、協力感謝する。」
 写真はネットで一同に共有された。
 
「その写真を見たメルジーネは劇的な反応を示した。
「───アルベリッヒ」
「メルジーネ君!? 早く空を呼んで───」
 忌咲の目の前で頭を抱えて蹲るメルジーネ少年。
 朔夜の残したメモにあった、“fefnir”という部分を握りしめて。

 一方、ブレイズ・カーディナル(ga1851)と、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は───。
 ドイツのモーゼル家を探すが、モーゼル家というのはありすぎる為、かえって探しづらい。
 その旅路で、ブレイズ曰く───。
「あのアイゼンファウストっての‥‥ホントに聞いたとおりだな。
 あの様子じゃ友好的にっては行きそうに無いな。敵の敵は味方、ってわけにはいかないってことか。
 何にせよ今は時間が無い。出来ることはやっておこう」
(「手に入れることの出来た情報は、前回同様メルジーネと会話している皆に伝えないと。 記憶を取り戻すのに何か役に立つかもしれないからな」)
「しかし、まあ‥‥なんつうか、一筋縄には行きそうに無いって感じだな。
 多分まだまだ何かありそうな気がするぜ」
「ドイツ第三帝国に、ニーベルングの指輪‥‥列車砲アルベリッヒにSES機関か。世界支配が目的なら、バグアは邪魔だろうな」
 ホアキンは、時代錯誤な傭兵集団に浪漫と危険──興味を感じる。
 しかし、市には現実に砲撃の危機が迫っている。
 十日間、少年の記憶を少しでも取り戻す手伝いをしたい。
「しかし、ホアキンがドイツ語を喋れたとはな」
 ブレイズが茶化す様に語りかける。
「闘牛士時代、文通相手にドイツの少年がいたので、勉強に励んだ。
 彼はメルジーネに似ている」
「───そうか」
 ともあれ、ホアキンが目指すアイゼンファウストの中核は、元ドイツ陸軍の名門モーゼル家。
 頭領グスタフ・モーゼルは百歳という年齢からして、第二次世界大戦に従軍していたはず。
 破棄された列車砲を再建し、世界制覇に乗り出したのだろう。
(「SES機関があれば、対バグア兵器に改造できるかもしれないが‥‥」)。
 メルジーネとグスタフ、そしてハンス・ベルバッハの経歴、人柄、クルメタル社との接点について調べる。
 列車砲とワーグナーを題材に小説を書きたい新米作家を装うが、大半は呆れた顔をしてスルーしていった。当時を知る者の大半が老病の床に伏し、知っている者は沈黙していた。無邪気な振りを装うとしても、限度が在りすぎた。
 UPCでモーゼル家の出身地方を調べようとするもののデータは無かった。
 グスタフもドイツを第二次世界大戦後出奔して以来の情報はない。

「で、メルジーネ・モーゼル士官候補生の身柄は───?」
 交渉の席で問い質す声。この場を設けた空は、交渉の席に着くと、メルジーネを保護した経緯を『自分の意志で街にやって来て負傷したので保護し治療した』と説明し、それから彼の容態を出し、退院出来れば自力で、そうでなくとも期日には開放すると確約して、具体的な日時の決めた上で攻撃の延期を求めた。
「それでは、アルベリッヒが挨拶する事になるでしょうね」
 簡潔に応えられた。
「いいえ、メルジーネ・モーゼル士官候補生、ここにおります」
 寝間着に身を包んでいるとはいえ、メルジーネがそこに居た。
「空さんありがとうございました。忌咲さんと眩さんにもよろしくお伝え下さい。ただいまを持って原隊に復帰します」

 その頃眩はメルジーネが残していったメモに驚がくの色を隠せなかった。
“fefnir”
 全長500メートルの巨竜。通常兵器は通じません。お願いです。能力者とKVを回して下さい。

───つづく。