タイトル:JaFaustNeinSES01マスター:成瀬丈二

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/21 01:09

●オープニング本文


 ヨーロッパの某国、そこから舞台は幕を上げる。
 まだパグアと人間の本格的なパワーゲームからは逃れているが、さじ加減ひとつでどうなるかは判らない。
 その国の消防所に夜陰に乗じて忍び寄る小柄な影。銀縁眼鏡で金髪灰眼のおそらく12才くらいに見える年相応の流行の衣装を着込んでいるが、あまり様になっていない。
 当然不寝番が反応する。
「だれかな? こんな時間に」
「すいません、どうしてSES機関が欲しいんです。曾爺様を説得する為に」
 言って鋭い当て身を不寝番に与える。
 無言で倒れ伏す不寝番。しかし、最後の力で、緊急事態を知らせるボタンを押す。
 鳴り響くサイレンの音。
 その甲高い音の中、少年は放水車から懸命に放水の効率を上げる為のSES機関を引きはがしにかかるが、後ろから緊急隊員が押さえつけ、そのままバランスを崩して、コンクリートの打ちっ放しに頭部を打ち付け、意識を失う。
 出血があった事も受けて、病院に搬送され、身元の証となる品を調べられるが、ドッグタグに『メルジーネ・モーゼル』とあるだけであった。後、年齢とか血液型とか。
 モーゼル、そのフレーズは警察官たちを困惑させた。
 モーゼルという姓は珍しくない姓であるが、最近、近隣に駐留して隣国の戦線を仕切っている『アイゼンファウスト』という、傭兵集団───ドイツ第3帝国の流れから生まれた───の現在の長である、グスタフ・モーゼル。現在100才の関係者である事を想起させた。
 このアイゼンファウストという集団は、文字通りの大砲傭兵として知られており───公式には完成しなかった筈の───ドーラ級80センチ列車砲『アルベリッヒ』を中心に据え、他とは一線を画した対バグアの傭兵集団としての路線を打ち出し、UPCとは排他的、いや敵対した政策を取っている。
 で、問題のメルジーネは病院で目覚めると絶望的な台詞を吐いた。
「Als fu【..】r hier Sein, wo, was mich anbetrifft es vermutlich ist, wer?(ここはどこで、僕は誰でしょう?)」
 ドイツ語である。
 検査の結果、外傷による記憶の障害という事は判ったが、暴力的な傭兵集団の子弟を向こうに非があれど、傷物にしてしまったのは‥‥問題が在る。
 それとも実際に、モーゼルという姓は偶然の一致で単なる不良少年かもしれない。
「よし、傭兵は傭兵に任そう」
 市長は投げ槍なまでの判断を下した。いざとなれば傭兵に全ての責任を擦り付ける意図が丸見えである。
 目標:メルジーネ少年の記憶を取り戻す事。
 長い戦いの火ぶたが切って落とされる。
 ミッション11スタート。

●参加者一覧

斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
陽明(ga5216
20歳・♂・EL

●リプレイ本文

 どこまでも澄み渡った蒼穹の下───。
 百亜の病棟に傭兵として向かうは、辰巳 空(ga4698)と陽明(ga5216)、そして頭幾つか下がって、忌咲(ga3867)の姿があった。
 奥まった病室の扉が空によって叩かれる。
「検診の時間だ、いいかな?」
 返すメルジーネ・モーゼルと一同が見なす少年からは、甘い声で───。
「どうぞ。よろしくお願いします」
 といらえがあった。
 ドアを開け放ち、忌咲の非常に小柄な姿を見るとメルジーネ少年は一言。
「僕の妹ですか?」
 天然に斬り返す。
 忌咲の実年齢は外見より10は上である。
 そんな言葉に負けない忌咲はカウンターで───。
「そうかもしれないし。そうでないかもしれない」
 と、断定しない形で言葉を発する
「? ‥‥良く判りませんが」
「判る時が来れば───判る」
 と、陽明。
 空は悩んでいた、
「記憶喪失ですか‥‥」
 ただ、彼は‥‥状況的に何らかの特殊訓練を受けた人間であり、しかも裏には今なお支持を集めているらしい国家社会主義ドイツ労働者党の残党‥‥。
 こうなるとUPCの傭兵の立場は良くない‥‥デリケートな状態ではあるが‥‥‥‥頑張ってみるしかない。
 現状、医師免許は取ったものの異国の物であるし、依頼で実践はしていても経験的には研修医でしかないため、記憶を確実に戻す為に出発前にUPCの精神科医に頼みこんで状況を整理し、治療法や予想できる状況に対するアドバイスをもらって置きたかった所なのだが。
 ラストホープの医者からは。
『具体的な症状だけでは、何とも言いようがない、人の精神は機械じゃないんだ。あちらを押せばこちらが引っ込むという訳には行かない』
 具体的な手段は‥‥基本的には気楽な態度で、言葉に出来なくなった断片的な記憶を掘り起こす作業‥‥になると思われる。
 と、メルジーネ少年の診察に入る空。
 第一段階は様々な英語及びドイツ語で直接的でないキーワードを書いた様々なカードを並べてどれに興味を示すかのテストを行う。
 『kanone』『kandidat』『fee』といった単語に吸い付く様にメルジーネ少年の手が伸びる。
 結果を得た3人は部屋を変えて密談する。
「『大砲』。『候補者』『妖精』といった所に反応しましたか‥‥」
 と、陽明。
「まだ断定するには段階が早すぎる」
 と、空が暴走を戒める。
 第二段階はそのカードの裏側にカードの内容に関連した図形を描いておいて、それを見せて様子を見、今度は関連性も探ってみる。
 結果として、『星』や『二重丸』にはマイナスの反応が出た。一方、『丸』や『卍』には大きな興味を示した。
 卍には違和感があるとはメルジーネ少年の弁ではあるが。
 また、別室で3人は───。
「予想通りと言えば、予想通りですか」
「アキラ、予断を持って記憶障害患者に当たるのは良くないです」
 陽明の言葉にすかさず言葉を返す。
「空、これからの手はずは?」
 忌咲が確認する。
「第三段階は‥‥音とか映像を交えて、思いついた事を聞いて行く形で丹念に記憶を掘り起こしていく事にします」
 資料探しは3人に委ねますか、忌咲の言葉への返答に空はそう付け加えた。
 藤村 瑠亥(ga3862)は事件の詳細を聴き、メルジーネの『SES機関が説得に必要』、との言葉に着目する。
「SES機関そのものが必要なのか‥‥、それとも盗んだという行為が必要だったのか‥‥」
 前者の可能性が高いと判断、アルベリッヒに使用されると考え、構造、欠陥、外見等を調査するため、クルメタル社に行き、調査に赴く瑠亥。
「破棄された、と聞いたが‥‥こんなデカブツ、開発元の技術者以外に整備できるものなのか?」
「正しい知識があれば可能です」
 クルメタル社の社員が斬り返す。
「 ほう!? 例えば?」
「企業機密です」
 斑鳩・眩(ga1433)がドイツの現状を調べた所ではヨーロッパ方面では、諸国が一致団結し、アフリカからの侵攻作戦を防いでいる。
 当初最大勢力であったロシア軍は、中東経由での迂回バグア軍に本国を攻撃されたため、主力を本国防衛に切り替え大幅に削減された。
 現在の主力はドイツ軍、フランス軍で、これにイタリア軍が続く。
 イギリス軍は北米大陸にも援軍を出しているため、数の上では少数である。
 今のところ、欧州全域で防衛はなんとか機能しているものの、経済基盤が息切れしており、このままの消耗が続けば戦線の崩壊は間近といわれている。
 バグア側の勢力は。
 アフリカ地域からの地中海越しの攻撃が行われている。
 イベリア半島の先端とキプロス島に前進基地をおいている以外は大規模な兵力は展開していない。
 この地域では航空作戦と破壊工作に重点が置かれている。 というドイツも含めた概論的な情報しか手に入らず。
 メルジーネが頭領の曾孫であるか否かは、特に調べる当ても思いつかない為、一旦退く事にした。
「誇り高きなんとやら、嫌いじゃないけど好きにもなれないよ。だいたい、見えないのよ今回の発端が」
 ラストホープに残ったブレイズ・カーディナル(ga1851)曰く。
「メルジーネ・モーゼルって少年の記憶を取り戻させることが今回の目的か。
 ‥‥しかし、油断していたとは言え不寝番が一人後れを取ってるわけだし、どうも普通の子供って感じではなさそうな気がするな。
 まあ、彼が何者で、何のためにSES機関を盗もうとしたのかは、思い出したら聞かせてもらうことにするか」
(「ドイツ語は兄貴が大学で詳しくやってたから、その影響で俺も少しだけなら。簡単な会話ぐらいならなんとかなる‥と思う。‥‥多分」)
 とりあえずブレイズは色々と情報を集めて回ることにする。
 アイゼンファウストってとこの関係者の可能性があるってことで‥‥まずそこら辺のことを知らなければならない。UPCで把握している範囲内で、その傭兵集団の情報を聞かせてもらう。

・アイゼンファウストの情報1.UPCとしては、アイゼンファウストとは人類を守るという所では同じだが、一線を画しており、何時、アイゼンファウストの砲口が向けられるか判らない集団である。マークはハーケンクロイツに縦に交差するガントレットのコブシ。
・アイゼンファウストの情報2.アイゼンファウストの中核は元ドイツ陸軍の名門モーゼル家が占有しており、男子は例外なく、幹部候補生しての道が待っている。

 ブレイズからの連絡で前記の情報を手に入れためメルジーネ少年の担当である3人は、図書館から第二次世界大戦当時のフィルム(もちろん、DVDに焼いてあるモノである)を上映し始めた。
 グスタフにカールと言ったそうそうたる砲撃を見るとメルジーネ少年の目には涙が溜まっていた。
 甘いボーイソプラノで呪文を唱える様に囁いていく。
「ニーベリングの指輪、ワーグナー、小人の───アルベリッヒ」
 そう言って、頭を抱えるメルジーネ少年。
「僕は───メルジーネ・モーゼル?」
 3人の視界が一点に集中した。
「すみません、今はこれが精一杯です」
 それでもメルジーネ少年は満面の笑みを浮かべた。
 春の空気を思わせる暖かげな笑みである。
 一同は頭を抱え逢わせ、今までの治療の経過で『自称』メルジーネ少年が誘導される様な示唆を行ったかどうか確認を取る。
 幾度吟味してもそれはなかった。
 忌咲に至っては終始『貴方』で通していたのだから。
「これで一件落着とは行かない───か」
 向かい受ける向かい風の季節を忌咲は感じ取っていた。

───これが列車砲を巡る長い冒険の始まりである。