●リプレイ本文
絶叫する緑川 安則(
ga0157)。
「みんな騙されるな、このナイチンゲールはニセモノだ! 本物のナイチンゲールなら、プロペラントタンクが5本に、隠し腕、更には───」
ライアン・スジル(
ga0733)はそんな、マニアックな思い入れたっぷりに叫ぶ、安則の口舌に眠そうな眼を開いて。
「新型機‥‥ナイチンゲールと言ったか‥‥その声、美しいか確かめさせてもらう。」
ナイチンゲール即ち美しく鳴く鳥という事で一言。
でも、基本スペックを見る限りスピードによる高機動近接型に見えるので、興味自体はあまりない。
代理人は結構流暢にセールス文句をまくし立てる。
「ええ、ナイチンゲールが鳴いた夜明けには必ず誰かが死ぬといいますから───シェイドに死を告げる鳥として、このコードネームが選ばれました」
「ふふ、だろうな、しかし、ナイチンゲールといえば有名なロボットアニメの小説版での伝説のエース専用機の名前なんだよね」
エースはエースでも、マザコンで、シスコンで、ロリコンだが。
聖・真琴(
ga1622)も新型機のマシンオイルの香りを嗅いで。
「へ〜♯ 新型機かぁ〜☆ うん カッコいいねぇ〜。まだ、自分の機体もマトモに乗ってないのに、もぉ旧型になっちゃったよ。あはは」
一方、その優美な機体のラインを見て、安則は呟く。
「どうやら、○淵版ではなく永○版の様だな、赤く無い所をみると。ナハティガルと言った所か───」
と、ドイツ語のフレーズを織り交ぜながら、機体のマニュアルを改めて本体と衝き合わせて確認する安則を余所に、ベールクト(
ga0040)は、代理人の無表情な顔に向かって突然に言い放つ。
「ひとつ確認しとくが、別に試作機を破壊しても構わねェのか?」
「何言ってるんですか? 命中判定などはAIが行います。まさかと思いますが、実包を使用するつもりですか!?」
「もちろん、AIの仮想上の話だ。弾代だってタダじゃないしな」
「トライアルっても実戦に近いからね、危機感ぐらいは持ってるよ」
クールながらも飄々と言葉を挟む、斑鳩・眩(
ga1433)。
ベールクトも追い風に気を良くし───。
「場合によってはある程度手加減が必要になるワケだが、仮想上でもOKなら遠慮なくやれる。
ま、ガチでやらねェと、正確なデータは取れ無ェんだがな」
洒落のめす様にヴィス・Y・エーン(
ga0087)が場の空気を和らげる。
「ま、それはそれ。スナイパーにとって最大の敵は赤字だしぃ。残念な事に自分はテストパイロットの座は逃したけど、ま、やれる事をやるとしますかー」
言いながら、手をひらひらさせて、それだけで和んでしまうのは人徳だろうか?
「ま、その為に傭兵にテストパイロットをお願いしたのですから。傭兵ほど様々なシチュエーションを思いつかれる方もない、というのが上の意向でして」
紳士然とした新条 拓那(
ga1294)がさりげなく、言葉のトラップで事態の終結を計る。天然であるが。
「上の意向───という事はあなた自身は、違う意図を持っているかもしれない、とかありませんよね?」
「そんな事はございません」
「ならば傭兵の適応能力をごらん頂きたい
では、僭越ながら、これ新型機に対する意見書です。よければ参考にして下さい」
記憶媒体をしっかりと手渡す、拓那。
内容を大まかに告げるなら、事前にスペックだけから鑑みた試作機への要望、改善案を纏めたものである。
内容は『装備重量を33パーセント上昇』『バイパーの半額程のコストダウン』が中心であった。
それが安直に出来れば苦労はしない。どうせ量産に踏み切った段階のモンキーチューンのツケはどこかの誰かが支払う事になるのだ。
「挨拶、ちょっと遅れたかな、本日、同じチームの槇島 レイナです。宜しくお願いしますね」
と、バスト1メートルを超える爆乳をたゆゆんと揺らしながら、槇島 レイナ(
ga5162)が代理人の顔を勢い余って挟んでしまう。
代理人は文字通り天国をみたのだろうか? それは彼以外には判らない。能面の様な表情の代理人に対し、戌亥 ユキ(
ga3014)は執拗に食い下がる。
「対ジェイド用のナイチンゲールかぁ。
私が気になるのは『ハイマニューバー』なので、それを重点的に評価するね」
「なるほどなるほど」
「『ハイマニューバー』って、AIが自動操縦で行うのか?
どんな体勢からでも使えるのか? その際、失速はしないのか?
急旋回、急上昇や下降などの機動を行っている時でさえ発動するのか? その際のパイロットへの負担は?」
「機能の機動は、機体のAIと能力者のAIをリンクさせて行います。『ハイマニューバー』どんな状況からでも使えるかは判りません。その為の模擬空戦なのですから。パイロットへの負担は、パイロットが人間ではない───覚醒したエミタ能力者である事を前提に設計されてます」
能面の様な表情で、代理人が応える。
大賀 龍一(
ga3786)が一同と顔をつきあわせて作った評価試験の流れは下記の様なものであった。
●補給
弾薬の補給は想定とする。燃料の補給は想定外とし、適宜帰投を以て補給する。
★試験部隊(コールサイン:フェンリル)
安則:コールサイン『フェンリル1』
ヴィス:コールサイン『フェンリル2』でTACネームは『Silver Star』
龍一:『フェンリル3』
・試験機、随伴機(管制指揮官機含む)で構成する。
・随伴機はデータリンクによる戦闘情報支援、管制を実施する。
・フェーズ3発動時、随伴機(フェンリル02、03)データリンクを解除、対抗部隊に編制され、コールサインはシリウス12、13となる。
★対抗部隊
・空戦部隊(コールサイン:ヴァルキリー)
拓那:ヴァルキリー01
真琴:ヴァルキリー02。TACネームは『メビウス(Mebius)』
ユキ:ヴァルキリー03
眩:ヴァルキリー04
・陸戦部隊(コールサイン:トール)
ベールクト:トール1
ライアン:トール2
レイナ:トール3
●試験の流れ
・フェーズ1
試験機は随伴機を伴い、随伴機、付近のレーダーサイト、防空艦等とデータリンクを連接、空戦部隊に対し、会敵する。
・フェーズ2
陸戦部隊が試験機と交戦する。
随伴機は引き続き、情報支援、管制を実施する。
・フェーズ3
随伴機は対抗部隊に編制され、試験機は対抗部隊の包囲網を撃滅、突破する。
「All Station RockN Roll」
龍一の叫びと共に模擬戦が開始される。
フェンリルvsヴァルキリーというカードのフェーズ1に挑む、ナイチンゲールの主武装としてP−115mm高初速滑腔砲を主体にホーミングミサイル、突撃仕様ガドリング砲でサポート。
ヴィスが遠距離からワンショットキルを執拗に狙う眩を足止めしなければ、かなり事態は危うかっただろう。
無理をしても機体がついてくる感触とは裏腹に、基本的な反応の鈍さ。実戦なら命取りになる可能性がある機体の癖の強さに安則はいらつく。
「ふむ、命中精度は悪くないな。だが滑空砲は可能であれば改造により命中と軽量化の必要ありだな。これではシェイドや高機動型のキメラに対抗できるかわからん」
乱戦にもつれこむと微妙にAIの反応速度が追いつけないのが悔しい。
(機体強度は高機動に耐えられても、根っこのアビオニクスが追いついていない様だな。さて、どちらを優先するかで機体の評価が分かれるだろうな、相当癖の強いじゃじゃ馬だ)
上空を制圧すれば陸戦を開始。
陸戦は遮蔽物を生かしつつ接近、移動しながら射撃。
「ガトリングで牽制、滑空砲による止めではきついか。もう少し可能であれば装備搭載能力を上げてもらうべきだな。スナイパーライフルを多用する狙撃重視の人間では、この装備の制限はきつかろう」
そのまま、遠距離からユキがとにかく模擬戦でナイチンゲールの持ってる力を引き出そうと自分自身も懸命になる。もはや、自分との勝負である。
「ナイチンゲールの良いトコも悪いトコも‥‥全部引き出す、その為にはコッチも本気でいかなくちゃ。
行くよ! えすいちッ! 後輩になんか、まだまだ負けちゃダメなんだから!」
通常最高速度はS−01の方がまだ上。
上や後ろといった死角から奇襲して、ピューって逃げるのが良いのかな? と、感性のままに行動。
しかし、龍一に阻まれ、ギリギリの間合いで、ブレスノウでAIとリンクして、先読みしながらH−12ミサイルを乱射する。一気に放出したミサイルの重量バランスにより真琴の機体は微妙に上昇したとAIが判断する。
そのロックオンを感じた瞬間に安則はハイ・マニューバーを決意。機体とAIを通して一心同体になる。
ランダムな機動を取りつつ、飛びかかるミサイルの雨を尻目にガドリング砲がブルースを歌う。
「わっ! あれを半分以上避けたよ!? すごーい」
十数個の爆炎が上がり、ナイチンゲールのAIが機体に電装関係のトラブルが起きたと判断、センサー機能が一部限定される。
うわっ、シミュレーションとは違う! そんな思いを真琴は抱きつつも、自分の機体のAIから被弾有りと報告されると───。
「ちっ! やってくれるぢゃん。このお礼はさせて貰うよ。はんっ待ちなっ! 逃がしぁしねぇよっ!」)
そこへクロスするかの様にレーザー(もちろん、破壊力はなく、ポインター以上の意味はない)が拓那のヴァルキリー01からマーキングされる。
「チェックメイト」
「ヴァルキリー02より、ヴァルキリー01へ、そういうひっかけがあるなら先に言って」
「こちらヴァルキリー01、チャンスには前髪しかないものよ」
フェーズ2に移行。
ナイチンゲールは美脚を露わにして、歩行形態へとスムーズに変更する。
(ここらへんは真っ当だな───もっとも真っ当でなければテストにも回されないか───)
安則が武器の補給を終えて陸戦に挑む。
挑むは雷神達。
トール1、トール3が、ライアンのトール2のフォローを受けつつ、試作機の回頭速度を確かめてみる為、試作機へ回り込みながら接近し近接戦闘をする。
「そろそろ仕掛けさせてもらうぜ‥‥ARNVAL(突撃)!!」
(試作機のスペック上、ロクな近接武装は無ェだろうから、押して押して押し捲るぜ)
レイナも絶叫!
「いくら最新鋭機体だからって殴り合いになったら特殊能力は使えないはず!」
側面を取ったと思わせて背後に急旋回して回り槍での高速チャージングを狙う。
「伊達にチャージンガールと名乗ってないのよ。貫くよ!」
高速でジグザグに接近、直前に走行スピードを緩め、相手僚機が自機を攻撃する瞬間にコーナーを曲がるように急旋回してすれ違いざまにディフェンダーで斬りつける。
「痛っ‥‥乙女の柔肌に何するのよ。このお返しは万倍にしてやるんだから!」
さすがに距離があればクリーンヒットのひとつもある。
「ドリコン仕込みのコーナリングを甘く見るんじゃないよ!」
陸戦ではナイチンゲールの完敗であった。装備の段階でもはや詰んでいたかもしれない。
フェーズ3は機体の調整が必要という事で次の機会に───と、言う事になった。
ベールクトは感想を端的に。
「陸戦ではカタログスペックと実情に、だいぶ差があるように思えるが‥‥所詮は乗り手次第か?」
そこに真琴が入り込んで、
「はぁ〜。疲れたよぉ〜。何か自分が試験されてたみたいな気がするぅ〜。ね ね 乗ってみてどぉだったの? やーくん?」
「まあ、ガトリングで牽制、滑空砲による止めではきついか。もう少し可能であれば装備搭載能力を上げてもらうべきだな。スナイパーライフルを多用する狙撃重視の人間では、この装備の制限はきつかろう」
安則が代理人に声をかけ、代理人はそれを携帯マイクで収集するのみ、責めも労いもしない。
ヴィスは安則の微妙な心情をおもんばかってか。
「戦女神に堕とされるなんて、凄い名誉だよねー。勇者であるアインヘリヤルに認定されたって事だしねー」
ユキも模擬戦が終わったら評価したレポートを提出。
ハイマニューバについて、彼女なりに気づいた点を盛り込む。
航空工学については素人レベルなので、感覚的な意見になってしまうが感じた事を正直に書いておく。
(ムチャをする為の頑丈な機体みたいだけど、その反面、運動性が犠牲になるのってヘン?)
「任務完了、こいつはいい機体だ。しかし、素人にはお勧めできない万能機には無理だな。貧乏人のセカンドか?」
一方、斬りまくったレイナは周囲に謝りつつ。
「皆さん本当にすみません‥‥私、ナイトフォーゲルを操縦すると妙なスイッチが入ってしまい‥‥本当にすみません‥‥」
しょぼん、とするのであった。
枕を抱えたままライアンは単刀直入な感想を述べる。
「‥‥バイパーへの対抗ではなく、違う路線の特化機体にすれば‥‥もう少し変わってくると思うのだが、どうだろう」
と、ありきたりな感想を言ってみたりしたが、バイパー程の自由度が得られないのも事実である。
代理人が本国へとナイチンゲールを伴って去っていくのを一同はただ手を振り見送っていた。
睦月も中盤である。
ミッション8コンプリート。