●リプレイ本文
ナイトフォーゲル達がマスター達の合図を待ちわびるかの様にエンジンを吹かし始める。
「準備オッケーですよ!」
整備員達の声が白鐘剣一郎(
ga0184)にかけられた。
「賭けの結果だが、観る人々に夢や希望を与えられるならそう悪くもないな」
ナイトフォーゲルF−104のタラップを踏んで、コクピットに収まると、微笑を湛えながら呟く。
そう、この面子は某士官にポーカーで負けて、賭け金を払うよりも、危険な(もっとも能力者達にとってはそれほどでもないが)航空ショーでアクロバット飛行をする羽目になった一団だ。
そこへ被さる様に紹介のアナウンスが入る。
『名古屋の空に、大輪の華を咲かせし天馬の剣士、白鐘剣一郎、見参!』
(今回の仕事は依頼方法が大いに気に入った)
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が不敵な笑みを浮かべながら呟く。
「こういう流儀、俺は好きだな」
士官の仕掛けたトラップにして、発端たる『ファイブカード』を空中で再現したい。
目的は、士官の洒落た依頼に、洒落た飛行で応えること。
ともあれ、任務では合理的な機動を強いられる。
そんな中、折角の機会だ。愛機を馴らしておくか。
「R−01は、南米は【高原の国】ボリビアより飛来。高き蒼穹にてバグアと華麗に死のトレオを踊る者。人呼んで『青空の闘牛士』、ホアキン・デ・ラ・ロサ!」
情熱的なアナウンスが青い機体に乗り込むホアキンにかけられる。
その機体、ナイトフォーゲルR−01には緑でクローバーの模様が描かれていた。
会場を揺るがす大きなどよめきに、大きく手を振って、応えるホアキン。
『こちらペガサス、Quena(ケナ)聞こえているか?」
剣一郎の声がレシーバーから入ってくる。
「こちらQuena、電波状態は良好だ」
ホアキンは言葉を返す。
「こちらIris、あの士官、本当に見事な見事ないかさま───ロイヤル・ストレートフラッシュが普通負けると思う?」
その士官のいかさまにより、絶対の好手を裏切られて大空に舞う事になった緋室 神音(
ga3576)の声が被さる。
「大空を駆る、虹の翼───名古屋にて再び舞う! 緋室 神音登場だ!」
ヘルメットを取るとこぼれ落ちる、美しく腰を遙かに超える長髪と、覚醒した事により光の粒子が無数の色に乱反射する彼女を指して、虹の翼のアナウンスが即興で並べられる 彼女の今の愛機はナイトフォーゲルS−01は塗装は青み掛ったグレーとメタリックシルバーのドットモザイクパターン。その中に映える様にマーキングは赤いダイヤが記されていた。
「こちらENIGMA、ポーカーには自信があったのだがな‥‥。
獲られた負けは、利子をつけて返してもらおう───―観客の心を頂くという形でな」
「ナイトフォーゲルH−114、電子偵察機『岩龍』。特殊電子波長装置を持ち、バグアの力を穿ち仲間に力を与えるJOKER───」
岩龍を駆り仲間と共に航空ショーに挑む、ふてぶてしいとも取れる様なUNKNOWN(
ga4276)が宣言する。
「───JOKER『岩龍』のパイロットは『紫煙の助言者』UNKNOWN。経歴・出身不明の危険な男」
服装はとても航空ショウをこれからするとは思えない様な、黒のフロックコートに色味を合わせたベストとズボンに、ボルサリーノ。
襟口から覗くのは、白い立襟ダブルカフスシャツに、赤いアスコットタイ、ポケットチーフであり、手は黒革手袋に包まれていた。
飛び乗りざまにキャノピーを開けたままで、煙草を取り出し一服する。少し斜に構えた感じで男らしさが溢れかえっていた。当代、ここまでダンディズムという言葉が似合う男はいないかもしれない。
愛機の岩龍の尾翼のマーキングは灰色のジョーカー。
そんなUNKNOWNとは対称的に、まだ15才の軽井 羽澄美(
ga4848)が地上からひねりを加えて、コクピットに飛び乗る。尾翼にはピンクのハートが描かれていた。
「でも、あの士官さんひどいですよ。ポーカーのルール知らないのに、本気でお金を賭けている所に引きずり込んで───」
「それはあなたが悪いわね。本気かどうか相手が察せ無いと、戦場で痛い目に遭うわよ」
IrisがAIを介して伝えてくる。
「でも、5万は払えないし、一瞬‥‥か、体で‥‥とか思ったりしましたけどね。思いっきりパニクっていたし。
でも、みんなから『はぁ? 何考えてんだ? ブス』と言い出しそうな気がしてそれで正気を取り戻したんですけどね。で、結局は『分かりました。やります。いえ、やらせて下さい』と観念したし───」
だが、それから一悶着あった。羽澄美が一言───。
「航空ショーって何すればいいんですか?」
という問いを発したのに呼応して、ポーカーが終わった後、徹夜で各種航空ショーのビデオを見せたのだ。
それを見た羽澄美はおもむろに───。
「凄い特撮ですね? あ、CGでしょ? だまされませんよ」
と、ボケをカマし、その説明だけで午前中が費やされた。
「先ず一緒に参加する皆さんに一生懸命ついて行きます」
羽澄美は勝ち逃げされた士官がそう怖い相手ではないと知ったとたん───。
「バクチの負けで女の子こき使うなんて鬼ですよ〜」
と態度を翻したところ───。
「ああ、鬼だよ。初物だったら取って食えば良かったかな?」
「う〜、もうだまされませんよ!」
そこへ盛大な打ち上げ花火が上がる。出発の準備だ。
それぞれ機体を右に半機ずつずらし、互いのエアインテークが干渉しあわない様に滑走路を滑っていく。
航空ショーに集うマニア達(こんなご時世でもマニアは不滅なのだ)が様々な記録媒体に一同を納める中、ナイトフォーゲル達が重力のくびきから解き放たれ大空へと駆け上がっていく。
AIを仲介して聞こえてくる機種の紹介と共に5方向から順次会場更に上空へ。岩龍から、ENIGMAが大きく迂回すると灰色のスモークを焚きながら、駆け抜ける。そこへ72度角度をずらして、ホアキンが軌道を交差させる───見事な打ち合わせとディスカッションで下から見上げるほどに危なげはない───緑色のスモークが見事な直線を描いていく。羽澄美が駆け抜けていく後に引くは桃色のスモーク。神音が赤いスモークを棚引かせ、剣一郎が青いスモークを焚いた後には見事なペンタグラム───五芒星───が描かれていた。『スタークロス』である。
乗っているのは能力者と判っていても、地上からは喝采の拍手とフラッシュがやまない。
その編隊を再編成、縦一列陣形で大きく渦巻き状に降下の後、円の中心から5機で螺旋を描きつつ垂直上昇。上空で散開。『パームツリー』の妙技である。
更に妙技は続く、剣一郎のスペードの2、神音のダイヤの2、羽澄美のハートの2、ホアキンがクラブの2、UNKOWNがジョーカーの順という順番でトランプのスートと士官の出した数字をスモークで描く。判るヒトにしか判らないメッセージを込めた『ファイブカード』
剣一郎を中心に鏃陣形を組んで編隊インメルマンターンから、全機で上空に舞い上がり名古屋を占拠していた怪物、バグアの象徴、ギガ・ワームをスモ−クで描く。
『ブレイクワーム』は最後が肝なので細心の注意を払う。
「‥‥ここだ、行けっ!!」
どよめく人々。
散開した各機とは裏腹に最後に剣一郎のバイパーは練力を全開で、模様の中央を貫く。マッハ6のソニックブームにギガワームは蹴散らされる。オリジナル業『ブレイクワーム』であった。
ローリングサークルで上空旋回後、そのまま空中で変形しながら再び五芒星を描き、着地。
着陸後はランスを一振りしてから構え、ナイトフォーゲルの勇壮さをアピール。
『こちらファイブカード』
皆のレシーバーに声が飛び込んでくる。例の士官の声だ。
『見事な演技ありがとう。という事で今度は焼き肉をおごろう。その後でマー───」
「お断りですッ!」
羽澄美が一喝した。
ミッション6クリアー。