タイトル:───パンにはパンを1マスター:成瀬丈二

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/06 04:25

●オープニング本文


「弾薬だ! 弾薬をくれ!」
「駄目だ! 退却だ! こんな所で死にたくない」
 BANG!
「敗残兵に用は無い───生きて戦う覚悟のある者だけ私について来い」
 北海道の千歳基地の守備ラインのひとつで、バグアのキメラと戦う自衛隊の残存部隊達がいる。彼らはスチムソン機関がないという絶望と戦いながら、人類の最後の砦がひとつとして、バグアと戦っているのだ。
 そこで辣腕を振るっているのが、この非情なボリス特務曹長であった。
 まだ30才のこの人物、ロシア方面から転戦してきたという、一種伝説的な影を引き摺り、ただただ戦いの為に生きてきた、壮絶な漢である。
「戦うだけならどこでのたれ死のうが関係ない、生き残るだけなら逃げればいい───私は勝つ! 勝利して、バグアの無い世界を取り戻す、もう一度言う生きて戦う覚悟のある者だけ私について来い!」
 みずから、第二次世界大戦で曾祖父がドイツから拿捕してきたモーゼルミリタリーを振りかざしキメラ達に突撃の陣頭指揮を執り、突入していく。そして夜が更け───。
「高畠軍曹! もう、だめか?」
「ボリス曹長‥‥上層部は例の計画を発動させるつもりでしょうか」
「高畠、どこでそれを───」
 その言葉を残して高畠軍曹は命を落とした。
「こうなったら、覚醒者も何も関係あるか、パンにはパンを、血には血を───バグアの連中をこの世から滅ぼすには手段を選んでいられるか!」
 50人の部下の内、17人を失ったボリスはエミタ能力者の一時増強を具申し、許可が下りるまで何とか戦線を維持し終えたのであった。
 第2の冒険の幕が上がる。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
リリアーナ・ウォレス(ga0350
15歳・♀・SN
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
クラウス・シンクレイ(ga1161
23歳・♂・FT
ゴンタ(ga2177
19歳・♀・FT
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
ハロッズ(ga2754
23歳・♂・GP
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

 ラストホープから高速移動艇で北海道まで到着した一同は、そのままトラックで運搬されてようやく天然自然の大地に足を踏み入れた。
「獣相手は久しいな‥‥もっとも、マトモな獣ではないが」
 防衛ラインへの移動中、窓の外を眺めながら、不破 梓(ga3236)はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべて呟く。
 防衛拠点は『現在』は廃墟の立ち並ぶ中に無数の塹壕を巡らし、第二次世界大戦当時の据え置き式対戦車ライフル(もちろんスチムソン機関など装備されていないし、エミタ能力者などいない、旧態依然たる前世紀の遺物だ)をあちこちに巡らして、キメラの襲撃に備えている。旧時代なら戦車等の装甲を撃ち抜けたそれもバグアの電磁障壁の前には無用の長物に等しい。
 無論塹壕の要所にクレイモアを装備しているが、バグア驚異のテクノロジーの前には無力に等しい事に変わりはない。
 尚、この防衛線も南下する一方で、挽回するチャンスを掴むのはエミタ能力者を以てしても、難しいだろう。
 出迎えを見て、真っ先にトラックを降りたオルランド・イブラヒム(ga2438)は踵を打ち鳴らし、略式の敬礼───。
「オルランド・イブラヒム、他9名ただいま着任しました」
 と、年かさと、元軍属という経歴も相まって、一同の代表という貧乏籤(であろうか?)を引いてしまったオルランドが言外に微妙なトゲを含ませながら着任の挨拶をする。
「如何にも、私の祖父なら『魔女のバアさんの釜の中』と言いそうな雰囲気ですね」
 鳳 湊(ga0109)は殺伐とした風景にそう呟く。
 彼女が思わず感想を漏らしたのは廃墟の中から一層虚無的な瞳を湛えた男がオルランドの敬礼に応えつつ、現れたからであろう。
───彼はボリスと名を名乗った。
「俺が諸君を呼んだ、ボリス特務曹長だ。よろしく頼む諸君。以降、諸君は私の指揮下に入ってもらう」
「まず、能力者の確認ですが、個人差を考慮に入れた上で、覚醒状態を維持できる理論値は3時間から5時間。
 ただ実戦ではフル稼働が前提になりがちですので30分持てば御の字です。
 それ以上は期待しないで下さい。
 しかし、非覚醒時でもそれなりの腕前の人物達です。
 歩兵として使って問題ないでしょう」
 人物評価に、了解した、と応えるボリスに‥‥とオルランドは声を潜めて。
「率先垂範も宜しいですが、特務曹長殿自身の価値と言うものも自覚してください。
 今死なれては非常に困ります」
「ダー」
 一方、梓はボリスの瞳を正面から見据えると。
「最初に言っておく‥‥指揮下には入るが、戦闘中は好きにやらせてもらう。それが守られるのなら、私は依頼を忠実に遂行しよう‥‥安心しろ、引き際は弁えているつもりだ。何より死ぬ気なぞ毛頭無い」
「条件つきでなければ依頼を遂行できない戦士は不用だ───今なら帰りのトラックはあるぞ、荷解きの手間が省けたな」
 ボリスはアゴをトラックの方にしゃくる。
 今回の傭兵達の用兵を勤める言わば野戦指揮官の立場にある時任 絃也(ga0983)は淡々と梓に今回の作戦では、この10人という能力者の内、ひとりでも抜ければ、その穴は埋め難いものである事を説明した。
「───梓、ここで帰るかどうかの選択は、残りの自衛隊員も含めたの42の命を選択する事も同じだ。一応、ボリス特務曹長の指揮下に基本的に入ると申し合わせたはずと思ったが?」
 そこへナレイン・フェルド(ga0506)が───。
「ボリス特務曹長。はじめまして、よろしくお願いするわ。ねえ、梓ちゃん? 前線で命を張ってくれているんだから、私達もジッとしている訳にはいかないわよね!」
 ウェーブのかかった髪に薄化粧といった砕いて言えば女装姿であったが、ナレインは不思議と男臭さはは感じさせない。
 クラウス・シンクレイ(ga1161)は金髪碧眼のクールビューティーに思われがちだが、細身の外見とは裏腹に大剣系統を好む、適性検査で認められてエミタを埋め込んだばかりの青年であった。
「よくまあ、あんなタフガイに突っ込んでいくな、さすがナレインと言った所か?」
「クラウスちゃん、あんたも何か───」
「いや、いい‥‥」
 一方、ゴンタ(ga2177)は硝煙混じりの空気を肺一杯に吸い込んで。
(自分でこの依頼を選んだ訳で文句がある訳じゃないけどさ‥‥また激戦区での戦闘か───まぁ、丁度いいか。
 戦場が激戦区である事 それが依頼を受けた唯一無二の理由───‥‥強くなれるなら捨ててやるさ、人間らしさなど。
 ともあれ、基本方針は事前に時任らと決めていたようにするとして───もっとも、基本方針どおりに行動するのはボリス曹長が許可した場合だけなんだけどさ)
 ノリツッコミをするゴンタと同じく、リリアーナ・ウォレス(ga0350)は胸の内で呟く。
(やれやれ、無茶が好きな上司を持つと部下も苦労するねェ‥‥梓も口は災いの門だって言うのに───
 特務曹長みたいに勝ちに拘るとロクなことがないのにさ。
 ま、コッチもお仕事だし、手を抜くつもりはナイけどね♪)
 湊は梓とボリスに向かい───。
「軍の援護要員。傭兵としては正規の仕事です。施設にいる間は軍部の慣わしに従うのが礼儀ですね。
 ですが、相手はキメラ。戦いは私達に任せて欲しい。
 その為に私達はこの命と体を賭けたのですから‥‥」
「礼儀か───それなら良く判る、良く判る話」
 梓は湊の言葉にようやく絃也に折れる。ボリスに折れないのは半ば意地なのだろう。
 ハロッズ(ga2754)は淡々と梓のものも含めた荷物を積み下しながら呟く。
「高難易度の任務‥‥問題は無い‥‥」
 面長のキツネ顔に被さる髪は細長く束られ腰まで達し、彼自身の国籍は不詳だが、北欧ゲルマン系の顔立ちの無感情、無表情な唇から言葉が漏れた。
 一方、ヴァルター・ネヴァン(ga2634)は念のために確認した、申し送りの書類にはっきりとネバンと自分の名前が明記されているのを発見してめげていた。
「いやぁ、お気になさらず、と確かに言ったでおざるが、肝心の書類までネバンと書かれるのをダイレクトに見ますと流石にめげるでおざる───」
 ともあれ、アルコールは嗜好品ではないと銘記された上で荷物の内に入っている事を確認。
 そして、一同が雪が降り始めた千歳のディスカッションを行う間に伝令が走ってくる。
「北2キロ地点にバグアキメラ2体肉視しました。例のサーベルタイガーです」
「些か回り込まれた様だが、初仕事を頼む」
「戦術は? そもそも地形は?」
 オルランドの質問に、ボリスからは、千歳へのコースを辿っているなら林の中だろうと、推測が返ってくる。
 兵員輸送車に乗り込んで、ガタガタのサスで体力を奪われながら、キメラサーベルタイガーが徘徊しているのを一同は確認する。
 湊が覚醒して、スナイプポイントを慎重に決めていく。バイポットで固定しなければいけない、対戦車ライフルとは取り回し易さが決定的に違う。
 同じく、リリアーナも覚醒し、髪の色が金から黒へ。瞳の色が青から赤へ変化する。また精神が高揚して、己を恐怖から遠ざける。
「いや〜‥‥ココで見つかったらアウトだよね〜‥‥普通に考えて(取り敢えず隠れとこ‥‥獣相手にどこまで通用するかわかんないけど、ないよりはマシっしょ)」
 と、自らの気配を眩ます。
(よォーく狙ってぇ‥‥ワンショットキル! ‥‥みたいに格好良くはいかないか。ま、このアサルトライフルじゃ仕方ないか。でも、スナイパーとしては、こう‥‥もっと高威力で射程の長ーいのが欲しいよねェ‥‥)
 絃也は兵員輸送車の中で覚醒『敵を侮るな、だが必ず仕留める』と己に言い聞かせる。 覚醒し、肌が黒くなり、両手の甲にクロス。左目の下にはティアドロップの白い文様が浮かび上がったナレインは、女性陣が先陣を切っていくのに対し───。
(過酷な戦いになるかも知れない、だけど私は負けられないわ。
 これ以上悲しむ人が増えるのはイヤだし、温かい未来を迎えたいんだから)
「ボリス特務曹長さん。速さくらいしか自慢できる事はないけど、何かあればすぐに現場へ飛んでいけるわよ。
 こういう戦闘は初めてだから、あなたの考えを教えて頂戴。
 私の力で、あなたの役に立てる事はある?何だってするわよ!」
「まず死ぬな」
 あっさりと難しい事を言ってのけるボリス。
「私、素早さには自信があるの、囮役は任せてちょうだい?」
 絃也はそんなナレインの肩を叩き───。
「気負いすぎれば無用なミスを招く」と自分自身とナレインに言い聞かせる。
「戦力は有効活用したいものだ」
「絃也のそういう所好きよ♪」
「───‥‥」
 絃也は絶句した。しかし、闘志は消えず。
 クラウスも勢い込んで覚醒。
 左の肘から先と右手の甲が淡蒼に光り、右目も暗い場所では同様に光る。
「さぁ‥‥いくぞ!」
 ゴンタも無言で覚醒。目がブラックブルーに変色。野獣のような闘気を周囲に振りまく、むしろ、いつ果てる戦いの中でいつ死んでも構わないかの様な無言の意思表示であった。
 オルランドも覚醒。瞳が変色し、発光してるかのように錯覚するほど赤くなる。その様バグアの衛星の如し、禍々しさ。
 ハロッズも束ねた髪がオレンジ色に強く発光、両腕にも同様の光を放つラインが入る。それが覚醒した姿であった。
「開放‥‥完了‥‥! ‥‥始まる」
 弦を張り詰めた弓の様な物言い。
梓の覚醒はまさしく鬼神の如しであった。両腕が変質して赤い皮膚と黒い外殻が現れ、瞳が赤くなる。更に額の皮膚が硬質化して二本の角のように隆起する。
 ふた一班に分かれた編成はは───。
 A班は鳳 湊、ハロッズ、ナレイン・フェルド、 ゴンタ、クラウス・シンクレイ。
 B班は、リリアーナ・ウォレス、オルランド・イブラヒム、時任 絃也、ヴァルター・ネヴァン、不破 梓。
 ナレインは囮を勤める。
「タイガーちゃん、私に付いてきなさい! ご自慢の牙を突き立てられるかしらね〜?」
 ナレインの思惑は、猫科の動物なら素早い動き、音のするものを感じ取りやすい、それを逆手にとって、鈴のような、わざと音のなる物を身に着ける事で、敵の気を常に自分に向けさせるという事であった。
 まあ、化粧のにおいでばれたというウワサもあるが、それはさておき。
 舞の様に見えるナレインの誘導であるが、限界はある。林だけあって、木の根に足を取られる。
 しかし、ナレインの動きが止まったところで湊とリリアーナの弾幕が張られ、サーベルタイガーたちの動きが止まる。
 そこへ、一同がつぐまでの時間稼ぎは十分に出来た。自らの大柄の体故、サーベルタイガーたちも身動きが取れなくなり、ナレインが大勢を立て直す前に振ってきた雪に血しぶきを吹き上げ、倒れ伏す。
 初陣でクラウスはツーハンドソードに自らの体重をかけて立っているだけで精一杯であった。、
ハロッズは───。
(特務曹長に経過を報告、その後次の作戦まで仮眠を‥‥)
「任務達成‥‥次は‥‥(zzz)」
 オルランドは、一同に告げる。
「砦はさておくとして、野営の時は煮炊きの煙に気を使うように」
 そして、輸送車に乗る。
「最悪、暖かい飯は食わないつもりでな。次の温かい食事は北海道を出てからだ」
 彼の言葉通りとなった。