タイトル:ぱにっく再び。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/07 06:18

●オープニング本文


 日本某所。

 豊かな自然が未だ残るその地域で人類の腰痛と肩凝りと戦う者が存在している。
 彼の名は三度源成(みたびげんなり)。

「次の方どーぞー」
 気だるそうな声で呼ぶ白衣の男。彼こそがここ『みたびカイロプラクティック』の院長の三度源成。
 がちゃり、と音がしてピンクのナース服に身を包んだ比較的長身の女性が入ってくる。彼女の名前は猿渡典子(さるわたりのりこ)。『みたびカイロプラクティック』の受付兼助手。
「お入りくださーい」
 典子の声に扉から現れたのは一人の男だった。黄色のTシャツにスラックスという何ともアンバランスな格好のその男は、お世辞にもスマートとは言えない横幅をしている。この時期のせいだろうか、何だか部屋の温度が上昇したようにも感じるほどだ。
「あー‥‥で、今日はどうしました?」
「は、はい‥‥実は胃の辺りがこう、ムカムカして‥‥」
 全くやる気の見えない三度の声に若干の不安を覚えながらも男は答える。
「胃、ねぇ‥‥んじゃ背中かな」
 三度はそう呟いて男の後ろに回りこみ、中指で背中の間接をゆっくりなぞっていく。
 胃痛、胸焼け。そういった類のものは漢方などを飲むのがよいとされているが、実は背中の関節のズレが引き起こしていることも少なくない。
「見た感じひどくズレてるとこはないみたいだが‥‥ちなみに参考に聞いておくが、何か変なモンとか食ってないだろうな」
 三度の言葉にしばし考えた男、やがて首を横に振る。
「じゃあ昨日一日の食事とか覚えてる?」
 男の横から典子が優しく問いかける。男はどぎまぎしながら宙を見て指を折りながら答える。
「え、えーと‥‥朝がカレーパンで昼がスープカレー、それから夜がキーマカレーです」
 男の答えにしばし沈黙する三度。
「ちなみに‥‥一昨日は?」
「え? えっと‥‥確か朝がカレーうどんで昼がシーフードカレー、夜がチキンカレー‥‥」
「帰れ」
 最後まで言い終わる前に三度が溜息混じりに言い放つ。
「な、何でっ」
「胃もたれだろーが、それぇぇぇぇぇっ!? 何でカレーばっかなんだよあんた!」
 机をばんばん叩きながら言う三度。今回は典子もただただ苦笑を浮かべるばかりだ。
「はっはっは! 気に入ったぞそこの男!!」
 どこからともなく声がして、奇妙な音楽が診療所内に響き渡る。
 三人が慌てて辺りを見回すが何も見つからない。と、部屋の中にあったロッカーが大きな音を立てて開かれる。出てきたのは全身赤タイツの変な男。
「炎は熱くて触れない―――ヘタレレッド!」
 意味不明な口上と共に決めポーズを取る赤タイツの男。
 更に診療所の床下がバタンと捲れ、今度は全身青タイツの男が出現。こちらは手に懐かしいラジカセを持っている。
「水に浮かべない―――ヘタレブルー!」
 こちらも決めポーズ。
「全員揃って―――ものぐさ戦隊ヘタレンジャー!」
 更にここで二人の決めポーズ。
 全員の時間が止まり、目をぱちくりしながらぽかんとその様子を見ている。というよりもそれしかできなかった。
「キミ、そのカレー好きを平和の為に生かしてみないか?」
 患者の男の肩を叩きながら強く頷く赤タイツ。
「え‥‥あの、あなたたちは‥‥」
「よろしく、ヘタレイエロー!」
 そう言って握手を求める青タイツ。よくわからないまま握手をしてしまう黄色いシャツの男。
 刹那、部屋の入り口から全身黒タイツに仮面という出で立ちの男が数人雪崩れ込み、黄色いシャツの男を連れ去ってしまう。
 あっという間の出来事―――三度と典子は取り残されていた。
「えーっと‥‥これ、何の撮影‥‥?」
「私が知るわけないでしょ‥‥」
 典子の方に顔を向けて言う三度にこめかみを押さえる典子。
 その様子にしばし考えた三度、思いついたようにぽんと右拳で掌を叩く。
「そうか、典子くん。副業するときは申請してくれれば別に―――ー」
「違うっつってるでしょぉがぁぁぁぁぁっ!?」
 怒号と共に典子の右膝が三度の顔面にめり込む。錐揉み回転しながら飛ばされる三度。
 その様子を唖然としたまま見ていた赤タイツと青タイツはお互いの顔を見合わせると、示し合わせたように頷いた。
「ピンク決定だな」
「異論はない」
 そう言って典子の両側に立った赤と青のタイツ。
「な、何を―――」
「ようこそ、へタレピンク!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 こうして、再び『みたびカイロプラクティック』は占拠された。


「えーっと、またみたびカイロプラクティックが占拠されました」
 淡々と告げるUPC本部のオペレーター。
 それもそのはず、つい最近そこはテロリストに占拠されたばかりの場所なのだ。
「今度も犯人は立て篭もってるみたいなんですが、どうやらキメラらしき存在が犯人と一緒にいるのが目撃されています」
 そう言ってオペレーターは一枚の写真を机の上に置く。写っていたのは全身赤タイツと青タイツの男、更にその周囲にいる全身黒タイツ。その黒タイツを良く見るとどうも背中に羽らしき物が生えている。この黒タイツがキメラのようだ。その数五体。
「とりあえずこのキメラを退治してください」
「この赤と青のは?」
 庸兵の一人が写真を指差す。
「この二人はどうやら軽く洗脳されてるだけのようです」
 オペレーターは更に二枚の写真を取り出して広げた。写されているのは赤タイツと青タイツの詳細のようだ。
「赤い方は田中和彦さん三十六歳独身。青い方は竜間守さん三十歳独身‥‥一応普通の人です。キメラを倒せばそのうち洗脳はとけると思いますが‥‥一応保護対象に入れておいてください」
「それで、相手は何が目的なんだ?」
 庸兵の言葉に深い、本当に深い溜息をついたオペレーター。
「犯人たち曰く―――グリーンが欲しい、とのことでした」

●参加者一覧

アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
橘=沙夜(gb4297
10歳・♀・DG
ホゥラリア(gb6032
21歳・♀・SN
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
ホープマスク(gb6488
24歳・♂・FT
望月 藍那(gb6612
16歳・♀・ST
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG

●リプレイ本文

●あくのぐんだん。
「はーっはっはっは! 出て来いヘタレンジャー! 私は埴輪軍団幹部ハニワマスター! 貴様らの息の根を止めに来た!」
 山の麓にある木造二階建ての建物、その前でハンマーを突き付けて叫ぶアルト・ハーニー(ga8228)。黒いマントに身を包んだハーニーはどことなく笑顔が腹黒い印象の埴輪オーラを纏いつつ仁王立ち。いきなりの宣戦布告、しかも見ず知らずの人間から。普通ならば華麗にスルーところだが―――
「何っ!? 貴様が悪の大幹部ハニワマスターかっ! ついに決着の時が来たようだな!」
 窓から身を乗り出してハーニーを指差す田中和彦―――通称ヘタレレッド。更にその横から姿を現したのは竜間守―――通称ヘタレブルー。
「ふはははは! ここであったが百年目! 我が世界埴輪化の野望を達成するために‥‥!」
「ほざけ悪党! 今こそ我らの力を見せるとき‥‥行け! ブラックファイターよ!」
 ブルーの声に反応し、わらわらと建物から出てくる五つの黒タイツの男たち。
「出たな‥‥よし、こちらも対抗だ! 出でよ、暗黒の戦士たちよ!」
 ハーニーの叫びと共に物陰から飛び出してくる四つの影!
 そのうちの一つが黒タイツの一匹目掛けて一気に加速したかと思うと、そのまま両足を揃えてのミサイルキック。いきなりの攻撃に受身を取れていない黒タイツはそれを受けて数メートル吹っ飛んだ。突っ込んだ影はそのままくるりと宙を舞い再び黒タイツと距離を取る。見る人によっては邪悪な笑みを浮かべながら橘=沙夜(gb4297)は、びしっと天を指差すとそれをそのまま黒タイツたちに向ける。
「さぁ、あなたたち! 一緒にプロレスしましょ♪」
 そんな沙夜の横に立つ大きな男ホープマスク(gb6488)は上半身裸で何だか色々落書きされた白いマスクを被ったままもじもじと立っている。
「えっと、私は正義の‥‥痛っ」
「邪魔しないで」
 名乗りを始めたホープマスクに軽くローキックを入れて黙らせる沙夜。
「で、でも‥‥」
「変わったお客で定評のあるカイロプラクティックはここか?」
 何かを伝えようとするホープマスクの声はラグナ=カルネージ(gb6706)によって再び遮られる。そんなラグナはゴツイAU−KVの上から何故か黒タイツを着用。もう何だかよくわからない格好だ。
「屈辱です‥‥」
 両肩をふるふると震わせながら呟いたのは望月 藍那(gb6612)。彼女もまた何故か黒タイツを着せられている。体のラインが完全にわかるタイツにどこか恥ずかしそうにもじもじしている。何故二人は黒タイツなのか―――
「あは♪ 二人とも似合ってるわよーっ」
 嬉しそうに言う沙夜、犯人はこいつ。どうやら前以って二人の服に何か細工をしておいたようだ。
「んー‥‥ラグナちゃんはソレ脱いだほうが絶対いいのにー‥‥」
「これだけは脱がん!」
 残念そうな沙夜に拳を握って答えるラグナ。
「‥‥ど、どーでもいいが俺たちの存在は無視かお前ら‥‥」
 どこか寂しそうな声のレッド。
「あ‥‥そうだ、私をぜひグリー‥‥」
「とにかく! 我ら埴輪軍団の埴輪魂をお前たちに見せ付けてやるから覚悟しろ!」
 本当に演技なのだろうかと思うほどのタイミングでホープマスクの台詞を遮ってハーニーが手に持ったハンマーをびしっと突きつける。ホープマスクグリーン化計画―――この計画はグリーンの特色をよく理解した作戦であった。だがそこはやはりヘタレの集まりヘタレンジャー、余りに的確なグリーンのイメージをつけすぎたが故に肝心のヘタレンジャーですらその存在感を感じることができず、まるで空気のように消滅してしまった。勿論庸兵たちがそれに気付いたのは随分後になってからの話である。

●せっとく。
「ふむ‥‥まさか我らに立ち向かう悪の軍団があろうとは‥‥面白くなってきたなブルー」
 建物内部の窓から外で戦う黒タイツと傭兵たちを見ながら、何となく嬉しそうに言うレッド。それにブルーは頷きを返す。
「正直正義の味方だけでは何もならんからな。とはいえ我らもまだ揃っていないのだが」
 言いながらちらりと後ろを振り返ったブルー。その視線の先にはロープで縛られた猿渡典子と黄シャツの患者。どうやら何かで眠らされているようで、二人はぐったりとしたまま動かない。
「彼らの加入で随分と揃った‥‥後一人だ」
「うむ」
 頷く二人。外で戦う中にその候補がいたことなど、彼らに知る由もなかった。
 と、そこで部屋の扉がガチャリと開かれる。慌てて振り向く二人の前には一人の美しい女性の姿。
「わぁ! ホンマの正義の味方や! カッコええわぁ!」
 キラキラと輝く瞳で二人を見つめる冴木氷狩(gb6236)。どこからどう見ても可愛らしい女性の姿にしか見えないが、こう見えても氷狩は正真正銘の男性である。が、そんなことは二人にわかるはずもなく。
「おぉ‥‥可憐だ」
「正義の味方にはやはり美しいヒロインが必要だな」
 既に骨抜きのレッドとブルー。何でここに入ってきたとか、そういうことを一切忘れている辺りさすがのヘタレというべきか。内心で気持ち悪いと思いつつも笑顔のままの氷狩は自分の右手をすっと差し出した。
「せっかくやから握手してくらはりますか?」
「うむ、お安い御用だ!」
 言いながらレッドが氷狩の手を握った瞬間―――氷狩の体がするりとレッドの右側にシフトし、そのままレッドの腕をねじり上げたままくるりと反転、そのままレッドの腕を地面に向けて放り投げる。気が付いたときにはレッドは床の上に寝転んでいた。更に氷狩は上から鳩尾目掛けて掌打を振り下ろす。ぐえ、と息を吐いて沈黙するレッド。唖然とするブルーの背後には既に御巫 雫(ga8942)とホゥラリア(gb6032)の姿が。
「そこへ直れ、竜間守三十歳独身ーっ!」
 叫ぶ雫は足払いをして倒れたブルーをブーツで踏みつける。
「ぐおっ‥‥な、何だ貴様‥‥」
「返事はイエスマム、だっ!」
「おっほぅ!?」
 驚くブルーの返答に制裁を加える雫。何故だろう、どこか嬉しそうに見える。
「どっちが悪役なんか、わからへんな」
 苦笑を浮かべつつもやはりどこか楽しげな氷狩。呻き声を上げて意識を取り戻したレッドの顎を右手でがしりと掴むと、にこりと笑みを浮かべたままギリギリと締め上げる。
「殺されへんだけマシや思ぉてな?」
「‥‥い、いえすまむ!」
 ここで氷狩の額に一瞬青筋が浮かんでレッドが沈黙したことは言うまでもない。
「竜間守三十歳独身! お前‥‥会社の金を横領しようとして失敗してクビになったらしいな?」
「なっ‥‥何故ソレを!?」
 手元のメモを読み上げる雫に驚愕の表情を浮かべるブルー―――と言っても仮面があるので表情はあくまで予想。
「人の趣味にとやかく言うつもりはない。だがっ! それはあくまで大人としての責務を果たせて初めて手に入る自由なのだ!」
 びしっとブルーに指を突きつけて言う雫には、何だかとても正しいオーラが浮かび上がっている。
「おぉぉ‥‥くっ、だがっ! 最早我らが戻る場所などどこにもっ!」
「喝ーーーっ!」
「へぶらばっ!?」
 突然放たれた雫の拳に意味不明な悲鳴を上げて吹き飛ぶブルーはそのまま壁に激突。ふらりと立ち上がるブルーの背中を雫は再びブーツで踏みつける。苦悶の中にどこか喜びが混じっている、そんな悲鳴をあげるブルーに、雫はにやりと邪悪な笑みを浮かべる。
「ふふん。なんだ嬉しいのか? この卑しい豚め!」
「あぁっ!? い、いえすまむ!」
 ブルー、調教完了―――
「典子さん! 大丈夫ですか?」
 その隙にホゥラリアは気を失っていた典子を起こす。
「あ‥‥あなたはこの前の‥‥今日はナース服ではないのですね‥‥」
 弱弱しい笑みを浮かべるも軽く冗談を言えるほどではあるようだ。
「先生は‥‥三度先生はどこに?」
「多分‥‥上の階にいると思うわ‥‥でも気を付けて‥‥黒いタイツの人が―――」
「大丈夫です。仲間がいますから」
 典子の心配に感謝をしながらも、ホゥラリアはにこりと微笑みを返し颯爽と二階へと上っていった。その後姿を見守りながら小さく笑みを零す典子。
「いい仲間がいらっしゃるのですね‥‥いい、仲間が‥‥」
「おい‥‥諦めんなよ‥‥諦めんなよ、お前! どうしてそこでやめるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ!」
「あ‥‥姐さぁぁぁぁぁん!」
「イエスマムだこの豚がっ!!」
「あぁっ!?」
「ふふ‥‥どないしたら死なん程度に痛めつけれるやろか‥‥これは?」
「あぎゃあぁっ!? し、死ぬ! 死ぬからっ!! やめてぇぇっ!?」
 目の前で繰り広げられる雫とブルーの熱血劇と氷狩のドSショー。目に入ってきた光景に遠い目をした典子は、今回ほど自分の感想を取り消そうと思ったことはなかったという。

●ぜんりょくぜんかい。
 一方表で戦っていた庸兵と黒タイツ。
 中に潜入したメンバーが問題の二人を制圧するまでの時間稼ぎ、ということで倒さないように、且つ倒されないように立ち回っていた庸兵たち。
「めがとん‥‥はんまーっ!」
 風を巻き込んで振り回されるハーニーのハンマー。当てないように手加減しているため黒タイツは身を仰け反らせてそれを避ける。そしてハンマーの届く先には何故かホープマスク。
「うわあっ!?」
 当然手抜きの上に彼の肉体は鍛え上げられているためダメージはほとんどない。が、どういうわけか彼の周りには災難が一杯。
「恐ろしい‥‥これがグリーンの魔力‥‥」
「そこか? そこなのか? 感心するところ絶対違うと思うんだが」
 ポツリと呟いた藍那に明らかに疲れた様子で言うラグナ。
「さぁ行くのよ戦闘員!」
「誰が行くかぁぁっ!?」
 ただ一人楽しそうに命令する沙夜にラグナは力一杯の声で叫ぶ。
 と、そこで建物の二階部分からホゥラリアが顔を出す。何故かいつもの服ではなく警官の姿をしていたが。
「内部の制圧は完了です! もういいですよっ!」
「ありがとうホーさん! これで遠慮はいらないわね!」
 叫ぶホゥラリアに笑顔で答えた藍那。彼女はもう恥ずかしさやら何やらで我慢の限界だった。そしてもう一人、我慢の限界だった男が。
「ふふ‥‥ふははははは! この私がヘタレの虐められっ子だと本気で信じたのかい?」
 白い落書きマスクを脱ぎ放ち、正規のマスク姿になったホープマスクが高らかに笑う。
「これから私がプロレスの真の楽しさを‥‥痛っ」
「邪魔よ」
 脚部に痛みを感じたホープマスクが視線を下に移すと、そこにはギロリと睨む沙夜の顔。
「‥‥いや、もう私は―――」
「邪魔ですっ!」
 言葉を遮って横をすり抜ける藍那。合わせて沙夜も動き出す。取り残されるホープマスク。
 既にグリーンとしての役割は終えたはずなのに、何故かその呪縛から脱がれられない。恐るべしグリーンの魔力。
「俺の埴輪魂を受けてみろぉぉぉぉっ!」
 今までの数倍の速度で振り回すハーニーのハンマー。当然黒タイツに避けれるはずもなくクリーンヒット。身体ごと持っていかれる感覚に身を包まれながら黒タイツの一人が遥か後方へと吹き飛ばされる。一匹撃沈。
「いっくよーっ!」
 掛け声一閃、一気に加速して黒タイツとの距離を詰めた沙夜は、その勢いのままにその細い腕でラリアットをかます。黒タイツは片膝をついてゴホゴホと咽る。が、沙夜はその膝にとんっと片足を乗せると飛び上り、反対の足で黒タイツのコメカミ目掛けて足爪を放つ。鈍い音がしてゆっくりと地面に倒れこむ黒タイツ。二匹撃沈。
「昔見た戦隊物‥‥悪役なら私のほうが絶対うまくやれるのにと思ったこと数知れず‥‥今こそその鬱憤を晴らすときです!」
 叫ぶ藍那。だが皆絶対それは冤罪だと思っているだろう。
 そんな藍那は手にした超機械「PB」をパカリと開ける。強力な電磁波が黒タイツの周囲を包み、その身を刻んでいく。トドメを刺すには至らないが、それをするのは別の人の役目―――。
「ラグナさん!」
「任せろぉぉぉっ!」
 自分の身ほどある大剣を担いだラグナが黒タイツ目掛けて一気に加速する。ブーストが火を噴きラグナのバランスをコントロール。更に身を屈めたラグナは大剣を大きく振りかぶり、身を限界まで捻らせる。
「喰らえ‥‥クリムゾンディバイダー!!」
 叫びと共に放たれる巨大な刃が地面を削りながら切り上げ、黒タイツを両断。三匹撃沈。ラグナはそのまま空中で姿勢を捻らせると、近くにいたもう一匹の黒タイツをツヴァイハンダーで叩き斬る。これで四匹。
 残るは一匹―――全員がその一匹に視線を移したそのとき、黒タイツの背後からぬっと巨大な腕が現れる。
「私は‥‥グリーンではなぁぁいっ!!」
 ホープマスクの魂の叫びと共にコブラツイストをかけられる黒タイツ。ギリギリと締め上げられた挙句、爪に裂かれて完全に沈黙。
 こうして、全ての黒タイツは一瞬にして庸兵に片付けられた。

●だいだんえん。
 全て片付いた後、傭兵たちは建物の中へ。洗脳されていたと思われた男二人はロープでぐるぐるにされていた。
「後はこいつらの処理なんだけど‥‥」
 ハーニーはちらりと縛られた二人に目を向けた。
「説教してるのもいるし完全に脅してるのもいるし、いいか」
 先程の悪の埴輪軍団とは打って変わってのんびりのハーニーは目の前で叫んでいる一組の男女に視線を移した。
「はっはっは! プロレスは最高だーっ!」
「いぃぃぃやぁぁぁぁっ!!!」
 ホープマスクの高笑い、そして沙夜が口元から両手を広げるようなどこかの団体の社長がやってそうなプロレスラヴのポーズをする。最早目的などない。
「ふふ‥‥どない? もうちょいいけそ?」
「ひぃっ!? も、もう勘弁してくださいぃっ!!」
 以下に効率よく関節を外すか―――そんな実験台にされているレッドこと田中和彦。
「もう‥‥二度とするんじゃないぞ」
「え‥‥許してくれるのか‥‥?」
「ふ、ふん! クズにはクズなりの心意気があるだろうがっ! か、勘違いするなよっ!」
「‥‥あ、姉御ぉ!」
「イエスマムだこの豚がぁっ!!」
 雫と相変わらずのコントを繰り広げるブルーこと竜間守。
「はふ‥‥何だか大変ですね‥‥んっ‥‥そこ、気持ちいい‥‥」
 そんな妙なやり取りを見つめながら悩ましげな声をあげるのは藍那。彼女たっての希望で片が付いたらマッサージを、ということだったのだ。
「あ、あのっ‥‥だから‥‥何で私だけこんな‥‥」
 その横でもじもじしながら必死に講義をしているのはホゥラリア。嫌なら断ればいいのだが、彼女の優しさがそれを拒むのか、満更でもないのか。今日の彼女の姿はミニスカギリギリの警官である。
「こんの‥‥変態整体師がぁっ!」
「へぼらぁぁっ!?」
「あ‥‥もう少ししてもらいたかったのに‥‥」
「カオスだ‥‥なんつーか、カオスだ‥‥」
 それぞれの思惑を通り越し、最後にラグナの吐いた言葉を聴いている者は誰もいなかった―――。

 〜Fin〜