タイトル:診療所ぱにっく。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/18 17:45

●オープニング本文


 日本某所―――

 バグアという存在が襲来してからもうどれくらいか。
 世界では大規模な戦闘が繰り広げられ、軍人たちは死に物狂いで民間人を護るために戦っている。
 そして、ここにも一人、民間人を護っている男がいた。
 ―――主に肩凝りと腰痛から。

「次の患者さんどーぞー」
 余りやる気の感じられない男の声が院内に響き渡る。
 声の主はよれよれの白衣姿の男。年は三十半ばといったところか、無精髭に三白眼で口に禁煙パイポらしきものを銜えている。白衣の胸には取れかかった青糸の刺繍で『みたびカイロプラクティック』と書かれていた。
 呼びかけてから数刻、誰の返事も返ってこない。いつもなら受付兼助手の典子という女性が患者を連れてくるはずだが、その気配もない。
 一瞬今日の患者はもう終わりか、とも思ったがどうも様子が変だ。
「‥‥あー‥‥典子くーん? もう終わりー?」
 気のない言葉。
 いつもなら怒号と共に豪快なドロップキックというツッコミが飛んでくるはずなのだが。
 しばしの沈黙の後、きぃっと不快な音を立てて診察室の扉が開かれる。
 現れたのはいつも見慣れた白衣に身を包んだ長身の女性。
「せんせー‥‥」
 搾り出すようなか細い声で女性は言葉を吐き出した。
「おぉ典子くん。呼びかけても返事がないから驚いた‥‥って後ろの方々はお友達?」
 典子と呼ばれた女性の後ろには覆面を被ったどこかの軍服姿の男が四人、立っていた。
 男たちが手に持っているのはライフルのような銃身の先端に刃がくっついたもの―――銃剣である。
「お友達がこんなことしますかっ‥‥!!」
 涙ながらに訴える典子の頬には銃剣の刃の部分がぴたりと張り付いている。
 何がどうなってそういう状況になったのかはわからないが、彼女が命の危険に晒されていることは一目瞭然だ。
「あー‥‥なんつーか。友達は選んだ方がいいと思うよ、うん」
「絶対後で本気で殴ってやる‥‥!」
「お、お前ら! 今の状況わかってんのか!」
 緊張感の欠片もない二人のやりとりに男の一人が声を荒げ、残りの男たちが典子と白衣姿の男にそれぞれ銃と刃を向ける。
「ねぇ典子くん、これ何のドッキリ?」
「もうあなたは黙ってなさい‥‥」
 こうしてみたびカイロプラクテックは静かに占拠されることとなった。


「テロリストを名乗る一団がとある場所に立て篭もっているそうです」
 UPC本部のオペレーターの口から告げられたのは最近ではさほど珍しくない内容のものだった。
 人質をとって立て篭もっているのは四人。それぞれが銃剣という時代遅れの武装に身を包んだ、素性のよくわかってない者たちらしい。普段なら庸兵の出番などないはずの事件なのだが、立て篭もっている建物の周りに一体のキメラの姿が確認されたため、今回庸兵に依頼する運びとなったのだ。
「今のところこのキメラが犯人が放ったものなのかの確認は取れていませんが、犯人が要求の際にキメラの事を一言も言わなかったところを見ると‥‥全く関係ないのかもしれません」
 犯人の要求は最新の武器数点とありったけの食料、そして逃走用のヘリを寄越せというものだった。
「犯人自体はありきたりな要求ですので、大したことないのかもしれません。問題は、キメラのほうです」
 そう言うとオペレーターは一枚の写真を取り出してテーブルに置いた。
 写されていたのは恐らくキメラと思われる一匹の犬。一緒に写っている建物との比較を考えるに体長三メートルといったところか、大型のようだ。建物は今時珍しい木造二階建ての家で、周囲に家らしきものは見当たらない。聞けば山の麓にある小さな診療所のようなものらしい。
「皆さんにやっていただきたいことは三つ。まずはこの写真のキメラの退治、こちらが最優先事項です。そして人質の救出、こちらの方法はお任せします。最後にテロリストの捕縛です」
 そこでオペレーターは別の書類を二枚テーブルに並べる。
 掲載されていたのは二人の人物のプロフィール。
 一人は桃色のナース服に身を包んだ笑顔の可愛い女性―――猿渡典子(さるわたりのりこ)さん。
 もう一人はやる気のない顔が特徴的な男性―――三度源成(みたびげんなり)さん。
「要救助者はこの二名です。それでは宜しくお願いします」
 

●参加者一覧

リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
ORT(gb2988
25歳・♂・DF
ホゥラリア(gb6032
21歳・♀・SN
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
望月 藍那(gb6612
16歳・♀・ST
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG

●リプレイ本文

●戦闘準備。
「しかし‥‥やる気の無い顔してる人ですねー。なんか気が合いそうですな。ね、そう思わない?」
 今回の救助対象、三度源成の写真を見ながら望月 藍那(gb6612)は、隣にいたホゥラリア(gb6032)に問い掛ける。
「似てる‥‥かも」
 写真と藍那を交互に見比べてホゥラリアはぼそりと呟く。その言葉に嬉しそうに微笑む藍那にORT=ヴェアデュリス(gb2988)は静かに嘆息、やれやれと言わんばかりに頭を振る。三人は日頃から仲の良い友人、今回が初陣となるホゥラリアとORTにとっては気心の知れた仲間がいるのは心強いものであった。
「テロリストにキメラか‥‥ロクでもない時代だな、全く」
「あぁ‥‥馬鹿はいつどんな状況でも沸く事を忘れんということだ」
 乾いた血の色に染めたAU−KV『リンドヴルム』に身を包んだラグナ=カルネージ(gb6706)は身の丈ほどあるツヴァインダーの手入れをしながら忌々しげに言い放つ。同調するように頷くグロウランス(gb6145)は双眼鏡から目を離し、同じように双眼鏡を覗き込むリュイン・カミーユ(ga3871)とフローラ・シュトリエ(gb6204)の方に顔を向ける。
「中の様子はどうだ?」
「さすがに屋内まではわからんな」
 グロウランスの問いに苦笑しながら応えるリュイン。どうやら窓はカーテンで締め切られてるようで視認はできなかったようだ。
「でもキメラの位置は特定できたよー」
 どこかのほほんとした口調のフローラは小さくガッツポーズをする。キメラは建物の東の辺りをのそりと歩行している。特にこちらに気付いた様子もない。
「テロリストが強化人間やバグアでなけりゃいいんだが」
 そう呟く朔月(gb1440)の髪は腰の辺りまで伸び、更に左半身を赤い痣が覆いつくしている。既に覚醒状態の朔月もまた虚闇黒衣を使用して物陰から双眼鏡で建物の様子を探る。バグアが何かを企んでいるかもしれない―――常に最悪の状況を懸念しておくのは戦闘においての基本。だがそうでないことを願うのもまた、人間の心理である。
「ま、なるようになるってー」
 と、笑顔のフローラ。
「‥‥時にはこういうポジティブさも必要なのかもしれんな」
 暗い戦場を数多く経験してきたグロウランスにとって、どこか不思議な感覚―――だが悪くない。
「初依頼ですからね‥‥頑張りましょう、ホゥラリア‥‥」
 暗示をかけるかのように両手を胸の前でぎゅっと握って目を瞑るホゥラリア。と、その肩にそっと乗せられた藍那の手。振り返るホゥラリアに藍那は一枚のカードを取り出す。そこには裸で抱き合う男女の姿が描かれていた。
「今日のカードは正位置の恋人。大丈夫、きっとうまくいきますよ」
 力強く断言する藍那にホゥラリアはにこりと微笑を返した。
「さて‥‥んじゃ行きますか」
 右拳を左掌に当てて気合を入れる朔月。その声にグロウランスがアサルトライフルの照準をキメラに合わせる。
 ―――数秒後。
 一発の銃声と共に八つの影が建物目掛けて疾走を開始した。

●戦闘開始。
 先頭にラグナ、続いてその左右にフローラとリュイン、更に後方に藍那と初撃を放ったグロウランス。V字に陣形を取った五人がキメラの正面目掛けて一気に駆け抜ける。一方弾丸を受けたキメラ、一瞬仰け反るもののすぐに標的を見つけて一声吼え、迫り来る先頭のラグナ目掛けて低空で跳躍。ラグナは足を止め精神を集中、赤黒く煌く上から更に淡い光を放ち始める闇赤の鎧。迫るキメラの牙をツヴァインダーごしに受け止める。ダメージは軽微―――が、勢いで数メートル後退。
「正面から受け止めてやる。それしか脳がないんでな!」
 吼えるラグナ。その間にキメラの左側面へ回り込んだ藍那、キメラを横目に手にした超機械「PB」の蓋を開け放つ。見えない電波がキメラを包囲、その身の箍を緩めていく。
「今です!」
 フローラとグロウランス、藍那の声に反応して右側に展開。建物正面に向かって走りながら手にしたエネルギーガンを放つフローラは、相変わらずののんびりとした口調でキメラを挑発。
「ほらほら、ワンちゃんこっちだよー」
 言葉がわかるのかフローラの方に顔を向けるキメラ。瞬間、その横面に着弾する弾丸―――グロウランスだ。仰け反るキメラの頭上、突如出現するリュイン。
「そぉら、こっちにいるぞ!」
 手にした鬼蛍から素早い斬撃を放つリュイン。しかしそのどれもが峰打ち、ダメージは余りない。が、峰打ちとはいえ高速で打撃を受けているキメラは堪らない。一旦距離を取ろうと跳躍、着地した場所は建物の正面。ベストポジションだ。その場所から逃がすまいと包囲網を敷く傭兵たち。キメラは低く唸りながら目をぎょろりと巡らせる。そこでグロウランスは建物の方に視線を向ける。随分物音を立てた。これで中のテロリストたちの気が逸れてくれれば。見ればカーテンの隙間からチラチラと様子を伺う影が見え隠れしている。
「ふふ、どうやら引き付け役にはなってくれたみたいですね」
 藍那もそれを瞬時に確認したのか、嬉しそうに呟いた。
「アヤツらはもう潜入したかね」
 リュインは鬼蛍を手に遊ばせながら誰にともなく言う。無論キメラから視線を外すことなく。
「注意を引けたなら後は向こうの仕事よー。私たちもしっかりやらないとね」
 機械剣の柄をくるくると回すフローラ。潜入開始のタイミングは打ち合わせていない。しばらくの間時間稼ぎをすればその隙に潜入はしてくれるだろうが。
「ま、俺たちは目の前の敵をぶった切るだけだぁな」
 さして気に留めた様子もないラグナ、ツヴァインダーを肩に担ぎ臨戦態勢に入る。
「ふ‥‥あちらの戦果を期待するとしようか」
 そう言ってグロウランスは口元に僅かに―――ほんの僅かに笑みを浮かべた。

●潜入開始。
 五人がキメラに向かって疾走していくのを見送った朔月とホゥラリアとORTは、彼らとは方向を違え建物の裏手へと素早く、しかし静かに移動を開始した。そのまま窓に映らぬように身を屈めながら勝手口の傍まで駆け抜ける。朔月が移動しながらカーテンの動きや影の動きを観察、途中に人影らしき物が動いた部屋があったのを見逃さない。朔月は後ろの二人に無言で合図。頷くホゥラリアとORT。朔月はそのまま勝手口の扉にそっと手をかけ、ノブを回す―――鍵は開いていた。ほんの少し開けて隙間からホゥラリアが中の様子を探る。幸いそこには人の気配はない。
「‥‥いきます」
 聞き取れるギリギリの声で呟いたホゥラリアはするりとその身を忍ばせ、朔月が見つけていた人影の見えた部屋の前へ。気配を殺し窓から覗き込む。見えたのは四人―――三人は軍服、一人は白衣。全員男だ。確認したホゥラリアは一階には他に誰もいないことを確認、風の如く二階へ。二階にある部屋は二つ。両方の扉に静かに耳をつけ物音を探る。何かが動く気配を感知。こちらは窓がないため視認はできないが、もう一部屋に人の気配は感じられない。そのままそっと身体を離すとすぐに勝手口の方へと引き返す。
「―――という配置のようです」
 戻ったホゥラリアは朔月とORTに状況を報告。
「ん、じゃあ俺とホゥラリアが一階を、ORTは二階を頼む」
「‥‥了解した‥‥」
 朔月の即断に頷く応えるORT。
 そして三人は静かに建物内にその身を滑り込ませた。

●潜入班〜一階〜
「くそっ‥‥なんだってんだあのデカイのは!」
 忌々しげに舌打ちする軍服姿の男。
 それもそのはず、計画では何事もなくこちらの要求が飲まれ、今頃高飛びの準備が整っていたはずだった。それが今外には馬鹿デカイキメラとどこからか現れた庸兵たちがいる。これでは出るに出られない。カーテンの隙間から様子を伺っているものの、しばらく終わる気配はなさそうだ。
「あー、まぁそんな落ち込むなよ。生きてりゃいいことあるって」
 ロープでぐるぐる巻きにされた白衣の男が気だるそうに言う。一瞬怒りの目を向ける軍服の男。しかしこの男に何を言っても無駄だとわかっているのか、何も言わずに再び視線を外へと戻す。他の二人は手にした銃剣を白衣の男に向けながら指示を待つ。
 と、突如扉がガチャリと開かれた。
 全員の視線が扉に集まる。
「まいどー、三河屋でーす」
 どことなく楽しそうな声でそう言いながら入ってきたのは朔月。
 突然のことでぽかんと口を開けたまま固まる軍服の男たち。当然その隙は見逃さない。朔月の後ろから躍り出たホゥラリア、手にしたルドルフを一人が持つ銃剣のグリップ目掛けて発射。命中。思わず武器を落とす軍服の男。それに我を取り戻した他の二人が銃剣をホゥラリアに向ける―――が、既に回り込んでいた朔月が弓を鞭のように振ってそれを阻止。一人をあっという間にロープで縛り上げていく。
「く、くそっ! 動くな!」
 残った軍服男、銃剣を白衣の男に向ける。ピタリと止まる朔月とホゥラリア。
 一瞬の緊張。
「あぁっ!」
 破ったのはホゥラリア。驚いた顔で白衣の男を指差して口元に手を当てる。思わずそちらに視線を向けた軍服男。同時にホゥラリアが右足を思いっきり振り上げる。彼女の足は綺麗に男の股間にヒット。
「‥‥おぉぉぉぉぉぅ」
「あ、それ痛い」
 悶絶する軍服男に同情の声を上げる白衣の男。
 ―――こうして一階は無事に開放された。

●殲滅。
「おらぁぁぁぁぁっ!」
 気合一閃、ラグナのツヴァインダーが上段から勢い良く振り下ろされる。その下にはキメラ。が、これはサイドにかわされ宙を切る。
「ちょこまかと鬱陶しいな‥‥」
 舌打ちして一人ごちるラグナの後ろからフローラがその身を躍らせ、手にした機械剣を振り下ろす。白光のレーザーが噴き出しキメラに襲い掛かる。先端がキメラを掠め焦げた匂いが鼻を付く。苦悶の声を上げるキメラ。更に足元に滑り込んだリュインが鬼蛍を振るいキメラの脚部に斬撃。
「そら、こちらがお留守だぞ!」
 鈍い感触と共にキメラの体液が零れ落ちる。よろめくキメラの顔面にグロウランスの銃弾が命中。更に追い討ちをかけるようにフローラの機械剣がその身を焼きながら切り裂かれ、藍那の超機械から発せられる電波に身をよじらせるキメラ。休む間もない攻撃。随所から体液を零しながら既に立っているのがやっとの状態。
「まだまだぁっ! クリムゾンディバイダー!」
 声と共に低空で滑り込んだのはラグナ。両腕にスパークを発しながら手にしたツヴァインダーを跳躍しながら下段から一気に振り上げる。豪快に体液をぶちまけるキメラ。ラグナは宙でくるりと身を回転、そのまま踵を叩きつける。
「落ちろぉぉぉっ!」
 すぅん、と地響きを立てながら地にひれ伏すキメラの傍には鬼蛍の切っ先を向けたリュイン。
「これで終わりだ」
 呟くような声と同時にキメラの眉間に深々と刃を突き立てる。
 少しの間痙攣を繰り返したキメラはやがてその動きを完全に止めた。

●潜入班〜二階〜
「‥‥ん?」
 二階の一室で白衣の女―――猿渡典子を見張っていた軍服の男は、耳に入ってきた不審な物音に扉の方に顔を向けた。
 外では激しく戦闘をしているせいでそこら中から音は聞こえてくるのだが、今のは明らかに室内から聞こえてきた。女は猿轡を噛ませて縛ってある。それを横目に見た男はゆっくりと扉の方へと歩を進める。扉の前に辿り着いた男はそっと耳を近付ける。
 刹那―――
 扉がメキメキと音を立てて破壊され、その間から腕が伸びて男の顔面を鷲掴みにする。
「なっ!?」
 驚く男。しかし顔面の手はギリギリとその力を増し締め上げてくる。指の隙間から男が見たのは真紅に輝く瞳と残忍な笑みを浮かべる一人の男―――ORTの姿。
 ORTはそのまま扉を破り、男の顔面を持ったまま部屋の中に入る。
「動くな、喋るな。従わなければ、分かってるな?」
 男の顔を持ち締め上げながら徐々に持ち上げるORT。既にその様相と迫力に戦意を喪失している男は掴まれた頭を何度も縦に振る。ORTはチラリと床に転がされている典子を確認すると、そのまま男を床に叩き付けた。衝撃で息を吐き気絶する男。
「‥‥大丈夫か‥‥?」
 ORTは声を掛けながら典子の猿轡を外し、縛ってあるロープを解いていく。
「はぁ‥‥ありがと」
 全身の自由を取り戻した典子は溜息を一つ吐きORTに礼を述べる。
「すまんな‥‥怖がらせてしまったか‥‥?」
「うぅん、頼もしい赤だったわよ?」
 不安に思ったORTが若干申し訳なさそうにそう告げると、典子はゆっくりと頭を振ってにこりと微笑んだ。
 ―――二階、開放完了。

●診療所内。
「‥‥これが依頼でなければ貴様等例外なく射殺している」
 暗い声で縛られた軍服の男たちに言い放つのはグロウランス。会話だけ聞いていれば男たちは震え上がっただろう。しかし、ベッドの上でマッサージを受けながら言われても怖さ半減である。
「お客さん、ちょいと無茶しすぎだな。気ぃつけな」
 言いながら白衣の男―――三度源成はグロウランスの背中をパンと叩いた。
「‥‥善処する」
 応えたグロウランスは苦笑を浮かべる。
「にしても、テロリストを前にして全く動じないとか、ある意味大物よねぇ」
「だってほら、人間死ぬときゃ死ぬし」
 呆れ顔で言うフローラにあっけらかんと答える三度。その言葉にフローラはやれやれと肩を竦めた。
「あんたもやるか?」
 気だるそうに三度が振り向いた先にはラグナの姿。
「いや、俺はこれを脱ぎたくないんで‥‥」
 慌てて手を振るラグナに三度は興味なさそうにそうかと呟く。
「あ、あの‥‥」
 恐る恐る声をかけたのはホゥラリア。何故かピンクのミニスカナース服を着ている。
「うーん、やはりいいねぇ」
 それに満足したのか感嘆の声を上げる三度。
「おい‥‥」
 更にその隣にはわなわなと震えながら立っている朔月の姿。こちらは薄い青のナース服。二人をまじまじと眺めた三度。やがて二人の前に歩を進め、ホゥラリアの肩にぽむと手を乗せる。
「よし、キミがいいな」
「え、えぇっ!?」
「上等だこらぁぁぁっ!」
 無駄に爽やかな笑みを浮かべる三度に困った顔のホゥラリア、そしてグロウランスに両腕を押さえられてじたばたともがきながら怒声をあげる朔月。
「何をしてるのかな〜?」
 そこに飛んできた声。三度がビクリと肩を震わせてゆっくり振り向く。そこにいたのは典子。その顔は笑顔、だがオーラは修羅。直後に跳んだ鉄拳で三度は三秒で地面に沈んだ。
「お似合いだから付き合ったらいいのに」
「それは可哀相すぎるぞ‥‥」
 何かを期待する藍那に苦笑を浮かべて諌めるリュイン。
「‥‥平和、なんだろうな‥‥」
 どこか寂しげなORTの呟きを聞く者はそこにはいなかった。

〜Fin〜