タイトル:【伝妖】肘駆け婆ぁず。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/30 11:24

●オープニング本文


●国道○○号線
 昔からある、それはそれは古い道路。
 当たり前のようにそこに存在はしているものの、整備することすら放棄されてしまった、片田舎にある道路。
 そのような場所には必ずと言っていいほど付きまとう、噂話。

「おい、聞いたかよ。またあの道路で‥‥」
「聞いた聞いた! やっぱり出るんだよ」
「実はあの道路を走行中に事故にあった人がいて‥‥」
「あそこを通る度に道連れを増やそうと追いかけてくるらしいよ‥‥」
「いやぁこわぁい!」

 次々と噂が流れ、真実がわからぬままに、やがて道路自体が封鎖されてしまった。
 そして月日は流れ―――


●有限会社都市伝説開発機構
 日本某所にある不思議な事象を解明するための会社、それが有限会社都市伝説開発機構―――通称『都伝』である。
 とはいえ最近では伝説といわれてきた生物や妖怪のほとんどがキメラとして姿を現したため、会社の存在価値自体が危ぶまれている崖っぷち企業でもあるが。
 そんな崖っぷち企業の事務所には、今二人の人間が存在している。
「はー、いいのないなぁ」
 手元の新聞に視線を落としたやさぐれた中年男性は、咥えた煙草を押し消しながら呟いた。
 年齢的には三十台半ばといったところか、ぼさぼさの髪にくたびれたスーツと、見た目には完全にやる気のないサラリーマンである。
 そんな男性から少し離れたデスクに座る一人の女性が、高速で動かしていた手をぴたりと止めて大きな溜息を吐き出した。
「社長‥‥社員の目の前で堂々と転職雑誌広げないでくれませんか?」
「いやぁ、だってさー仕事ないじゃない? うちも厳しいからさー。ここのところネタもないしさ? あるのはこんなんばっかだよ?」
 呆れ顔の女性に反論するかのように、中年男性―――どうやら社長らしい―――は持っていたものとは別の冊子をデスクに投げ出す。

『ついに発見!? 溜め息の数と不幸の法則!』

 そんな見出しのついた地域新聞、大風呂敷新聞である。
 怪奇ネタや眉唾物の財宝伝説などを中心に扱う地域新聞で、その内容の九十八パーセントは嘘だとされる新聞である。ちなみに発行会社は謎に包まれており、今までその関係者に辿り着いた者はいないという、新聞自体が都市伝説のような怪しさ爆発の新聞なのだが、意外と購読者は多いらしい。
 新聞には毎回様々な都市伝説を紹介していくコーナーがある。
 今載せられているのは『怪異、走り回る上半身だけの老婆たち』という記事である。
「これって『てけてけ』のことですよね?」
 記事を読んだ女性が小首を傾げながら言う。
「そ。むかーしからあるような怪談話だよ。走ってたら婆さんが追いかけてきて、追い抜かれたら死ぬとかいう、あれ」
「でも社長‥‥これ、お婆さん三人いるみたいですけど‥‥」
「え?」
 言われた男性は思わず記事を読み返す。
 成る程、確かに目撃されている老婆は複数いるようだ。
「‥‥三つ子?」
「そんな設定なかったと思いますけど‥‥」
 男性の言葉に苦笑を漏らす女性。
「だよねぇ。となると何か違うモノか。まぁた模倣キメラかなぁ」
 模倣キメラ―――都市伝説や妖怪など、人間が恐れるものを元に作られたらしいキメラだ。
 特に何かしら死を連想させるような個体には割と強力な能力がつけられていたりもするので、結構な被害が出ることもある。
「あ、ねぇ小金井くん。ちょっとさ、これ調査してきてくんない? 勿論護衛つきでいいからさ」
「え? 私が、ですか?」
 男性の言葉に女性―――小金井という名前らしい―――は、思わず目を見張る。
「そーだよー? せっかくだから調査してネタ売り込んどこうよ。キメラだったら退治すればほら、謝礼金とか出るじゃない。というわけでよろしくねー」
 適当な言葉を投げかけてひらひらと手を振る男性。
 謝礼が出ても傭兵雇ったら赤字じゃないのかと思いながら、女性はその場を後にした。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
アルフレド(ga5095
20歳・♂・EL
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
桜坂 健次郎(gc7704
24歳・♂・FT

●リプレイ本文

●遭遇。
 日中を照らしていた太陽がその姿を地平線に隠し、代わりに闇が空を埋める頃、閑散とした山道を疾走する二台の車。
 普段ならば車など通りそうもない道路のため、走る二台のヘッドライトだけが妙に浮いている。
 そのうち先導する一台からは、これまた道路には不釣合いな声が聞こえてくるため、余計に不気味さを増しているように思う。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
 不可思議な声の主―――ドクター・ウェスト(ga0241)は車窓から半身を出し、愛車のランドクラウン――通称『00(ダブルオー)マシン』を意気揚々と運転している。笑い声と共に浮かび上がるその姿は、闇夜と相俟ってどこか狂気じみた様相を醸しだしている。
 その後部座席では自身の愛銃スコーピオンに装弾する桜坂 健次郎(gc7704)の姿。
「ちょ、ちょっとドクター、前見てくださいよ前っ」
「けっひゃっひゃっ、我輩の手にかかればこれぐらい目を瞑ってでも運転できるのだよ〜」
 心配を余所に笑いながら目を閉じようとするウェストを慌てて止めた健次郎は、溜め息を一つついて車窓の外へと視線を移す。
 視界に映るのは吸い込まれそうな闇と、ガラスに映る自分の姿のみ。
「本当に視界が悪い‥‥ライトの類を用意出来なかったのは悔やまれますね」
「こういうこともあるね〜。ま、仕方がないよ〜。ひょっとしたら目印みたいなものがあるかもしれないしね〜」
「‥‥前向きですね」
 状況を再確認した上で困難さを理解した健次郎にとって、ウェストの飄々とした態度がわからなくもあり、反面羨ましくもあった。
 ウェストは一瞬困ったような表情を浮かべるが、すぐに口元に笑みを戻す。
「我輩たちは出来ることをやるだけさ〜。ね、ニャフニャフ?」
 言いながらダッシュボードに乗せた猫のぬいぐるみをぽふと叩くウェスト。「はひひひ」とかすれた笑い声を上げてぬいぐるみは揺れる。
「さぁ、そろそろ目的だ〜。後ろはちゃんとついてきてるかな〜?」
 アクセルを踏みしめるウェスト。
 健次郎はスコーピオンのセーフティを外し、静かに視線を後ろに移した。
 その視線の先には追随するもう一台の車のヘッドライトが光っていた。

 淡々と走る車の中でどこか肩身狭く座る依頼人小金井。
 ただでさえ曰くつきの道路に通る車などあるはずもなく、今いるのは前方を走るもう一台の傭兵の車と自分達の車のみ。
 現状この空間で、彼女は唯一の一般人と言っても過言ではなかった。
(‥‥何で私、ここにいるんだろう)
 何度も繰り返した自問自答。答えなどあるはずもなく、彼女は今日何度目かの溜め息を吐き出した。
 勿論今ここにいること自体が彼女の気分を落ち込ませているのは間違いない。しかし理由はそれだけではなかった。
「あ、あの‥‥」
 まるで重い空気を払うかのように少し大きな声を出した小金井。
 その隣にはただただじっと前方を見つめたままハンドルを握るキリル・シューキン(gb2765) 。
 車内には二人しかいないので、当然小金井の言葉はキリルに向けたものだ。
 一方のキリルはちらりと視線だけを動かす。それだけだった。
 しばしの沈黙。
「‥‥‥‥なんだ」
「えっえっと‥‥その‥‥き、今日もいい天気ですね!」
 沈黙。
「‥‥‥‥そうだな」
 沈黙。
 沈黙。
(きっ‥‥気まずいっ!)
 そう、これが彼女の気分が優れないもう一つの理由だった。
 キリルが無口だろうということは走行中に嫌というほど理解している。ただ理解していることと居心地は別問題である。
 元々乗り気だったわけではなかった小金井は、胸中でひっそりとまだ事務所にいるであろう上司の姿を思い浮かべ、呪詛の念を送った。
(こんなことなら前の車に乗せてもらったほうが良かったかしら‥‥)
 そんなことを考えた瞬間に、前方の車から「けっひゃっひゃっ」という笑い声が風に運ばれてくる。
(どっちもどっち、かしらね‥‥)
 思い直して再び溜め息をついた。
 と、そこでキリルがバックミラーを何度も睨みつけているのに気付く。
「‥‥‥‥来た」
 キリルの言葉に小金井は思わず後ろを振り返る。
 バックライトの紅い光にうっすらと照らされた闇の中、明らかに不自然な光が三つ、猛スピードで迫ってきている。
 正体は聴くまでもない。
「狭い車内で思いっきり短機関銃を撃つからな。耳栓の用意をしておいた方がいい」
 ぶっきらぼうに言い放ったキリルは、片手でハンドルを固定させたまま胸元からターミネーターを取り出し、器用にセーフティを解除した。


●戦闘開始。
 後方から迫り来る三つの影を確認したウェストは、口元に笑みを浮かべて車のアクセルを踏み込む。
「けっひゃっひゃ、来た来た〜」
 嬉しそうなウェストとは対称的に、顔から表情を消し去った健次郎は、車窓から身を乗り出してスコーピオンを構える。
 アクセルを踏み込んでいるにも関わらず迫る影との距離は徐々に詰まってくる。
 見れば後ろを走っていたキリルの車も、スピードを上げて道を塞ぐかのように並走している。
「‥‥来ますよ! まず右からです!」
 健次郎の声と同時に車の右側に影が迫る。
 視界に飛び込んできたのは、まるで獣のような老婆というには些か無理があるような醜悪な顔。口と思しき場所からは無数の牙が並び、その隙間から涎が零れ落ちる。しかも上半身だけ故に一層不気味だ。
「まずはこちらからいくよ〜」
 言うと同時にウェストはハンドルを大きく右に切る。
 車は進路を急変し、右側の一体を思いっきり轢いた。
 ゴキャッと鈍い音がして車がガクンと揺れる。
 小さな悲鳴のような声がして右側から影が見えなくなる。
「やった‥‥!?」
「いや〜どうせコノ程度では死なないだろうね〜。まあ、自慢のマシンは傷だらけだがね〜」
 ウェストの言葉に反応するかのようにニャフニャフがはひひひと嗤う。
 と、今度は車の後ろ側でドンと音がした。
 振り返ればそこには怪しげな液体―――恐らく血に相当するものだろう―――を振り撒きながら後方ガラスに張り付くキメラの姿。
「けひゃひゃ、この姿を小金井くんに見せなくて良かったかもしれないね〜。桜坂くん、頼んだよ〜」
 ルームミラーで確認したウェストは後部座席の健次郎に声を掛ける。
 短く『了解』と応えた健次郎は、乗り出していた体を更に押し出し、後ろに張り付いているキメラ目掛けて発砲。
 一発、二発と片腕に連続攻撃。
 溜まらず片手を離したキメラ。だが残った腕はしっかりと車に貼り付けたままで、身体だけが反対側に流れる。
 そしてその先にはもう一台のキリルの車。
 ハンドルを片手に既に短機関銃ターミネーターを構えていたキリル。キメラの身体が目の前に流れてくると同時に発砲。
 二十発もの弾丸がキメラの身体のあちこちに突き刺さる。
 びくんびくんと痙攣したキメラはやがてゆっくりと車から身体を剥がし、後方の闇へとその姿を消した。
「次、来ます!」
 響き渡る健次郎の声。
 同時に残りの二体のキメラが猛スピードで二台を追い抜かしていく。
「‥‥チッ、予想以上に速いな。こっちだってそこそこ改造してあるのに」
 舌打ちながらもアクセルを踏む足に力をいれるキリル。
 隣の小金井が余りのスピードとその振動に悲鳴をあげる。
 と、前方を走っていたキメラ二体が突如くるりとこちらを向いた。同時にキメラの口から何かがこぼれる。
 飛来してくる何かに、ウェストとキリルはそれぞれが別方向へとハンドルを切る。
 二台の間をすり抜けた物体は、地面に着地すると同時に―――爆発した。
 爆風が起き、ハンドルが一時的にもっていかれるが、運転者の二人は上手くバランスを取ると、そのまま一気に加速、キメラに肉薄する。
「桜坂く〜ん」
「分かってますっ! 少し左に寄せてください!」
 叫んだ健次郎の指示通りに車を寄せるウェスト。健次郎はキメラの足代わりの腕を狙ってスコーピオンのトリガーを引く。
 放たれた弾丸は一体の腕に命中。バランスを崩したキメラががくんと速度を落とし、車と交差する瞬間、ウェストは手にしたペンサイズの小型超機械αをキメラに向ける。
「これで終わりだよ〜」
 声と同時にウェストの目が紅く煌き、キメラの周囲を電磁波が包み込む。
「グギャアァァァァッ」
 小刻みな痙攣を起こしたキメラは断末魔の悲鳴と共にその身を闇の中へと消した。
 残り、一体―――。

●戦闘終了。
 残された一体。傭兵たちの攻撃直後の隙を狙って飛び掛る。
 狙いは―――キリルの車。
「きゃ〜!? ききき来ましたよっ!?」
「あぁ。黙ってないと舌噛むぞ」
 迫り来る醜悪キメラに悲鳴を上げる小金井にさり気無く黙るように言ったキリルは、ハンドルを思い切りきって間一髪キメラを避ける。ギャリギャリとブレーキが悲鳴をあげ、横滑りしながら回転する車の車窓から一瞬の狙いを定めたキリル。
 キメラの注意が逸れた瞬間、トリガーを引く。
 唸りをあげたターミネーターから放たれる弾丸はそのままキメラの腕に。
 短い悲鳴を上げてバランスを崩すキメラ。
 だがすぐに体勢を整えると、今度はウェストの車へと身を躍らせる。
「けっひゃっひゃ、こちらに来ていいのかい〜?」
 にやりと笑みを浮かべ、周囲に目のような楕円形のディスプレイを発現させたウェストは、ハンドル片手に手にした拳銃「パラポネラ」の撃鉄を起こし、発砲。キメラは身を捩じらせて避ける。同時にウェストはブレーキとアクセルを操り、車をドリフトさせる。滑った車は横を向き―――後部座席の車窓から銃を構えていた健次郎をキメラの正面へと持ってくる。
 無理な避け方だったために体勢を整える余裕はキメラにはない。
「ここで倒しておかないと‥‥道路を使ってもらえませんからねっ!」
 叫びながら発砲。キメラの左目に命中。
 悲鳴をあげたキメラはさすがに一体のみでは闘えないと判断したのか、その場を離れようとする。
 が。
「残念だったな。ここは行き止まりだ」
 キメラの視界の先にいたのは車から身を乗り出して銃を構えるキリル。勿論その手はトリガーに添えられていた。
 自分を撃とうとする傭兵に、キメラは再び大口を開けて襲い掛かる。
 少しでも手傷を負わせようともがいた結果なのかもしれない。しかしそれが叶うことはなかった。
「チェックメイトだ」
 静かな宣言と共にけたたましい銃声が響く。
 こうして最後の一体もまた、夜の闇へと姿を消すこととなった。
 一行はゆっくりと速度を落とすと、他に同様のキメラがいないかを目視で確認していく。
 小一時間ほど周囲を探ってみたが、特に気になる場所はなかった。

●全て終えて。
 キメラを退治した一行は、念の為道路を一通りパトロールしていく。
 全体を通して危険がないことを確認したと同時に二組の車は静かに速度を落とし停止した。
「随分と厄介なキメラでしたねぇ」
 車から降りた健次郎が、背伸びをしながら呟く。
「全くだ。おかげで割と体力使ってしまったぞ」
 やれやれと首を振りながらキリルも手にしたターミネーターの手入れを始める。
「ふぃ〜やれやれ。コガネイ君、大丈夫かね〜」
 戦闘中は車が違ったために姿を見ていなかった小金井に、ウェストは声を掛けた。
 彼は以前依頼で誤って一般人に危害を加えてしまってから、一般人に対して必要以上に気を使う。それが彼の学んだことなのだろう。
「あ、はい‥‥何とか‥‥」
 弱々しく応えた小金井は初めての傭兵の戦いに圧倒されて手が震えてしまっていた。
 実はキメラよりも車に振り回されたことのほうが、しんどかったということはあえて口には出さなかった。
「結局都市伝説ではなくキメラだったのかー」
 キメラであったからこそ退治できたのだが、そこはやはり浪漫を求めるものなのか、少し残念な様子で健次郎は呟く。
「はい。とりあえずこれで社に戻って社長に報告します〜」
 少し元気を取り戻した小金井は、早速報告書の作成に取り掛かる―――と、ふと顔を上げてくるりと見回した。
「どうした?」
「あ、はい‥‥えーっと‥‥」
 キリルに問われた小金井はウェスト・健次郎・キリルの順番で視線を這わせる。
「うーん‥‥人数足りないことありません?」
「え?」
 言われた傭兵達は仲間を見回すが、勿論少ない人数でのこと、間違うはずもない。
「確か四人いらっしゃったと思ったんですけどねー‥‥」
「そんなバカな‥‥」
 そう言い返すものの、どこか自信のない一行。
 言われれば、いたような気がしてくるものだ。
「皆様がご存知なければ恐らく私の気のせいなのでしょう。では皆様、またお会いする機会があればお会いしましょう」
(言われたら余計気になる!)
 一礼して去っていく小金井の後姿に、このとき初めて全員の思惑が揃ったのではないかと思うほど綺麗に突っ込んだ三人であった。

〜Fin〜