タイトル:【紅獣】心優豪槍士マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/24 20:26

●オープニング本文


 その女は、唐突に現れた。

「及ばずながら、助太刀しましょう」

 能力者達が注視する中、女はキメラの一匹に突っ込んでいった。

 現在、彼らはラストホープからの依頼で、「キメラ退治」の最中だった。
場所は高高度の山岳地帯、数は報告だけで5匹だ。このキメラ達が麓の街を襲いだしたのは約1週間前、とうとうそのキメラ達の拠点を発見する事が出来た。自然な流れでLHに依頼が出され、今に至るわけである。

 ところが、今回は情報との誤差があまりにも多すぎた。

 まず一つ目、依頼内容では「鳥」型のキメラと報告があった。しかし実際に来て見ると、その鳥には「人間の体」がくっついていた。つまり「ハーピー」だ。
人間の手が使えるのと使えないのでは脅威が全く違ってくる。

 二つ目、敵の数だ。確かに報告数と実際の数は若干違う事もある。だが、今出会っただけでも「10匹」存在している。まだ拠点の奥まで進んでいないのにこの数‥‥実際には何匹いるのだろうか。

 それらの事もあり、能力者達は皆疲弊しきっていた。何とか7匹の撃破に成功したものの、後3匹も残っている。疲れきったこの体と、酸素の薄い山岳という地形、下手をすれば返り討ちにあうし、まだまだ数は残っているだろう。

そんな中、その女は現れたのだ。
 

 背中に引っさげた重量武器「パイルスピア」を何の苦も無く、片手で引き抜き。一匹のハーピーに肉薄した。
 ハーピーは素早く、手に持っていた槍を突き出して来たが、女にとっては避けるほどのものでもない。
 女は突き出された槍を引っつかみ、引き摺り下ろす。そして、片手でパイルスピアを叩き付けた。
 一撃でハーピーは絶命し、それに怯んだ残り2匹の隙を見逃さない。素早く間合いを詰め、たったの二振りで、それぞれの頭は消し飛んでいく‥‥。

 その一連の戦闘は僅か1分足らず、まさにあっけない戦いだった。

「皆さん、大丈夫?」
 
 女は、全く息を切らさずに能力者たちに話しかける。
 能力者の一人が代表して礼を言い、自分達の立場とここに来た理由を話す。

「なるほど‥‥最近現れたキメラを駆逐しに来たと‥‥」

 しばらく思案した後、女は再び能力者と目を合わせる。
 その目は何と温かい事か。深い慈愛と優しさを兼ね備えた双眸、そしてその奥で硬く聳え立つ「芯」。それこそが彼女の強さでもあるのだろう。

 「私も、同行しましょう。キメラがいてはろくに修行も出来ないものね」

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
鐘依 委員(ga7864
20歳・♀・SN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD

●リプレイ本文

【本仕事の陣形】
    1     2    
       5      
      7 8     
       6      
    3     4    

1:ヨネモトタケシ(gb0843
2:須佐 武流(ga1461
3:カルマ・シュタット(ga6302
4:九条院つばめ(ga6530
5:緑川 安則(ga0157
6:鳴神 伊織(ga0421
7:暁・N・リトヴァク(ga6931
8:鐘依 委員(ga7864

・1〜4:近接班(須佐、シュタット、ヨネモト、九条院)
・5〜6:射撃班・銃(緑川、伊織)
・7〜8:射撃班・弓(リトヴァク、鐘依)
・遊撃(清総水)


●助っ人
「一時はどうなるかと思いましたが‥こんな場所にこれ程の武の御仁が居るとは‥」

 ヨネモトはそう言いながら、隣を歩いている栄流に笑いかけた。栄流は苦笑しつつ、首を横に振る。

「私なんてまだまだよ、さっきのは相手が油断してくれていただけ。本当ならあんなに簡単に倒せないわ」

 そう言った後、彼女は少し歩行速度を緩め、シュタットの隣に移動する。
 
「お久しぶり‥というほどではないかしら」
 
 そう言い、笑いかけた。

「ええ。今日は他の二人とは別行動なんですね」

 シュタットも思わず口元をほころばせながら返答した。

「私たちが同じ仕事を請けている方がが珍しいのよ。休日は一緒だけどね‥咲以外とだけど」

 最後の「咲」の部分で少し険が含まれていたが、気にしないことにした。

 少し離れて、鳴神達後衛チーム。

「彼女は随分強い方の様です・・世界は広いと言う事でしょうか」

 そう言いながら、鳴神は月詠を少し鞘から引き抜き、刃を煌めかせる。それはまだまだ強く輝けると刀が意思を持っているようであり、彼女の一層精進しようと言う気持ちを代弁したかのようだった。

「彼女は女神‥いや、ワルキューレかな?」

 暁は、弓の調子を見ながらそう呟いた。彼女とは勿論栄流のことだ。
 それを聞き取った鐘依は、同じく草薙の弦を調整しながら微笑む。

「‥戦乙女、か。美しいですね」

 どうやら、彼女も暁と同意見のようだ。
 
 しかし、またも少し離れて最前列。
 一人だけ、栄流を忌々しげに睨んでいる人物がいた。
 高レベルグラップラーの須佐だ。

(「突然割って入って余計なことしてくれちゃって‥困るんだよねぇ、そういうのさ?」)

 その心情に気付いているものは、誰もいなかった。

●余計
「全方位防御円形陣! 銃器持ちは内部に入り弾幕展開! 弓持ちは翼を狙撃! 白兵担当は外周部に周り、弾幕で落とされたものを仕留めて欲しい! 栄流嬢は遊撃を担当してもらいたい!」

 緑川の的確な指令が、辺りに響き渡った。
 しばらく山を登り、再びハーピーキメラの群れと遭遇した。
 今度の数は五、一行を取り囲んでいる。大した数ではないが、ハーピーキメラは固体が弱いわけではないので油断出来ない。

「行きますよ! 弾幕展開!」

 暁の復唱と共に、後衛四人が一斉に得物を使用する。
 隙を見て襲い掛かろうとしていたハーピーが慌てて回避行動に移行する、が、

「銃はあまり得意ではありませんが‥致し方ありませんね」

 鳴神のその言葉と共に、一匹が避けきれずに羽を撃ち抜かれ落下してきた。

「そこです! きっちり退治させてもらいますよ」

 そう叫び、九条院はルピネススピアを構えて突撃した。目標は当然、たった今落下してきたハーピーである。
 バランスを取ろうと奮闘していたハーピーは、彼女の接近にギリギリまで気付けなかった。滑らかに肋骨をすり抜け、切っ先は心臓を貫き、背中に突き抜けた。当然、致命傷である。
 だが、あまりに滑らかに突き刺さった為、九条院はグラリとバランスを崩した。
 それを、回避行動を取っていた一匹のハーピーが目ざとく見つけ、槍を突き出してきた。

 と、その槍が誰かに掴まれる。

 助けに駆け寄ってきたシュタットだった。
 先ほど、栄流がやっていた事を出来ないかとチャレンジして見たのだが、どうやら成功したようである。

「出来た‥けど、ガラじゃないな」

 苦笑しながらも、そのまま槍を引き寄せ、カウンター気味にショットガンを押し付ける。
 そして発砲。
 散弾は見事にハーピーの頭部を爆砕し、命を断たせた。

 残り、三匹。

 最前列のヨネモトは、器用に突き出される槍を捌く。
 ハーピーは自分が相手の射程外にいることが分かっているのか、弾幕を回避しながらも黙々と槍を突き出してくる。
 ヨネモトもまた、黙って隙をうかがっていた。

 そして、鐘依の放った槍が、見事に槍を持つ腕に突き立った。それを見届け、彼女は満足げにフッと微笑する。

 だが、ハーピーは腕を押さえつつも後退する、どうやら得物を失った事で一時撤退するようだ。

「攻撃範囲を見誤った其方が甘かったですねぇ」

 そう言い、ヨネモトは蛍火を一閃、その軌跡は長く伸び上がり、背を向けたハーピーの頚椎を見事に刈り取った。

 残り二匹‥だが、それらももうすぐ命を絶やす。

「空を飛んでるからって、接近戦が出来ないなんて思われたくないんだよ!」

 須佐が、飛ぶ。
 限界突破を使用し。その後、疾風脚で脚力強化、棍棒を地面に突き立て棒高跳びの要領で空中に跳躍したのだ。
 
 流石に、これには味方も含め全員が唖然となる。

 その隙を逃さず、落下する速度を利用して、一匹に飛び蹴りを喰らわせる。それは正確に頭部を潰し、ハーピーは地面に激突する前に息を引き取っていた。

 そして残り一匹も、暁や鳴神の放った攻撃で地面に落ちた所を、栄流が薙ぎ払っていた。

「皆強いのね、私は必要なかったかしら?」

 栄流は刃についた血糊を拭いながら、微笑する。
 それに答えたのは、たった今着地した須佐だった。

「あぁ、必要なかった。困るんだよね、そういうのさ」

 冷たく、言い放つ。だが、他のメンバーには聞こえていなかったようだ、皆それぞれの治療などを行っている。

「あんたはジッとして置いてくれ、俺が攻撃を受けてやるから」

 そう言い残し、皆の下へと戻っていく。
 栄流は、怒りもせず、ただ微笑してその背を見つめていた。
 
●休息
「ここが、敵の拠点のようね」

 少し開けた場所を見ながら栄流はそう言い、皆を振り返る。

「連戦だから錬力が少ない。時間の戦闘は無理か」

 相変わらず、的確に状況を分析する緑川はそう呟いた。

 その通りである。
 最初の戦いから、今に至るまで、皆かなりの錬力を消費している。そろそろ、決着を付けなければ危ういだろう。
 栄流は途中参加と、普段山で修行をしているだけあって平気そうだが、彼女一人では如何せん荷が重いだろう。
 シュタットは心配げな彼女に微笑み。

「もし良かったらこのあと一緒に訓練してもらえませんか? どんな訓練しているかも興味ありますしね」

 それを聞いた九条院も。

「あ、私も。槍使いの端くれとして清総水さんの槍技、じっくりと拝見したいものです」

 彼女もまた、微笑む。
 栄流は苦笑し。

「では、体力が残っていたら、少し一緒に動きましょうか」

 と約束した。


●闘
 一行が拠点に飛び込んだ時、八匹のハーピーは予見していたかのように襲い掛かってきた。

「陣形は先のまま、行くぞ!」

 緑川の号令と共に皆が各々の位置につく。
 そして、再び弾幕を展開した。

「呼吸を合わせて‥リズムはこっち‥撃つ時は、相手が回避することを読んで‥」

 自らの陣地という事もあるのか、ハーピーは先程よりも軽快な動きで一行を包囲する。その素早い動きを、暁は冷静に追っていた。持っているのは、小銃「S−01」

「そして‥撃つ!」

 放たれた銃弾は、完璧に計算尽くされた軌道を飛び。一匹の脳天を穿つ。

「ふふ‥やりますね」

 暁を賞賛した鐘依は、いつの間にか頭上で槍を振りかぶっていたハーピーを冷静に見つめ。そして同じく冷静に反応。
 
 槍が振り下ろされる前に、弓を番え、放つ。

 この至近距離では回避どころか反応も出来ず、ハーピーは地に落ちた。

 
 一方、鳴神と九条院。彼女達は三匹のキメラに包囲されていた。いつの間にか、陣形から誘い出されていたようである。

「うぅ、ちょっと無茶しすぎちゃいましたか?」

 槍を振りながら、ハーピーを牽制する九条院は横目で鳴神を見る。
 少し焦り気味の彼女と違い、鳴神は冷静に笑う。

「大丈夫ですよ、多少無茶をしなければこの状況は打開できませんから」

 そういうと同時に半歩下がる、その前をハーピーが槍を振り切った状態で通り過ぎようとしていた、当然見過ごすはずは無い。

 すれ違い様に月詠をつき立て、言う。

「終わりですね‥さようなら」

 骸骨の指輪で増幅された攻撃力は、ハーピーを突き刺した胸元から一気に股間まで掻っ捌く事を可能にした。
 
 それに度肝を抜かれたのか、二匹のハーピーも若干怯む。
 そこに飛来する、銃弾。緑川が隙を見てこちらにも弾幕を広げてきたのだった。

「ようし、じゃあ私も」

 先ほどのシュタットの真似、引いては栄流の真似を彼女も実行する。
 流石に栄流みたいに片手で槍を扱うのは不可能なので、一時地面に突き刺し、だらりと下ろされていた古槍を掴み、そして引き摺り下ろした。
 油断していた二匹はアッサリと地面に落ち、九条院が再び手に取った槍で、絶命した。


 そして前衛班。

「その隙‥見過ごせませんねぇ」

 居合いの体勢から放たれた流し切りは、ヨネモトの怒涛の攻めに槍を取り落としたハーピーの首を人形のように吹き飛ばす。

 「残り一体」

 彼はそう呟き、辺りを見回す。
 最後の敵の前には、須佐の姿があった。彼は再び、先ほどの手段で敵を倒そうとしているらしい。

 再び限界突破を使用、棍棒を突き立て上空へ‥そこで須佐の身体に変化が起きた。

 錬力切れ、である。

 空中でバランスを崩し、隙だらけとなる。そこに突き入れられる槍。
 
 血の飛沫が舞う。
 
 須佐はなすすべも無く地面に激突し、痛みに呻きながらも素早く立ち上がり、傷を確認。だが、彼には傷一つ無い。血は服に飛び散っているのにだ。

 答えは、ハーピーを踏みつけ、槍を突き入れている状態で立っている栄流だ。彼女の脇からは血が滴っている。

「全く‥最近のレザー製品は質が落ちたわね」

 傷口に触れながら、栄流は不満げに呟く。
 当然分かる事だが、彼女が須佐を庇ったのだ。
 栄流は須佐と同じ方法で跳躍し、須佐を押しのけ我が身を晒し、受けた傷を気にせずハーピーに槍を突き入れたのだった。

「‥努力の結晶、ですか」

 鐘依は、その様を見ながら亡羊と呟いた。
 だが、やはりダメージは少なくなかったのか、栄流は脇を抑えてその場に膝を付いた。

 と、そこに飛来する槍!
 見ると、一匹のハーピーが急所を外れていたのか、残る力を振り絞り槍を投擲したのだった。
 彼女は避けようとしたが、足に力が入らないらしい。確かに、あんな無茶をやったら錬力も体力も尽きて当然だ。

 だが、その槍が彼女に届く事は無い。

 一人の男が、彼女を抱え上げ跳躍。その着地した先にはあのハーピーが横たわっており、その頭を踏み潰しながら着地した。

「言ったろ? 俺があんたの攻撃を受けてやるってな。これで貸し借り無しだ」

 須佐はニヤリと笑いながら、腕の中の栄流に話しかけた。彼自身も錬力が尽き掛けているはずなのに、無茶をしたものだ。
 栄流はニッコリと笑い。

「えぇ、そうね」


●その後
 流石に、もう訓練する余裕は誰にも無く、栄流も含め、山から降りることにした。

「御助力感謝致します、これで麓の街にも平安が訪れますねぇ」
 
 最初と同じく、ヨネモトは隣を歩いている栄流に笑いかけた、

「あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」

 緑川も笑い、ついでに手の甲にキスでもしようと思ったが、栄流の手は血で塗れており、流石に失礼かと思い止めておいた。
 栄流はそれぞれに笑いかけ、先頭を歩いている須佐に追いついた。

「今回は、私も助けられたわね。このお礼はいずれさせてもらうわ」

 その屈託の無い言葉に、須佐は少し頬を赤らめる。実は照れ屋らしい。

「俺が負けたら麓の村の人達の平和が脅かされるから戦っただけだ。勿論、あんたもその一人だがな」

「あら、私は村の人間じゃないわよ」

 栄流はアッサリとそう言う。
 そして、素早く須佐の前に回り、手を差し出した。

「私は何でも屋『紅の獣』所属の清総水栄流、改めてよろしくね?」

 『紅の獣』の単語を聞いて、彼は僅かに仰け反った。
 以前、その何でも屋所属の『リリス』という子に思い切りぶん殴られた事があるからである。
 
「あ、あぁ。よろしくな」

 照れと困惑で返答したのを、栄流を含め皆が笑った。