●リプレイ本文
正しい心ってなんでしょう。
悪い心って、何をとって言うのでしょう。
一概にこれが正義、あれが正義だなんて、本当に言えるのか。
正義にとっての正義、悪にも悪の正義。考えても、答えはでないのかもしれない。
だが―――
―――それぞれの持つ覚悟の心、それだけは譲れない時がある。
信じ抜かねばならぬ時が、ある。
この場に集まった8人の傭兵はその覚悟を身に纏い、今、そこに居た。
●鬼気迫る
「ひでぇな‥‥こりゃ」
杠葉 凛生(
gb6638)の呟きにフィアナ・アナスタシア(
ga0047)もそれに静かに同意する。
「この状態、一刻も早く暴動鎮圧をしなければなりませんね」
「生き残りの救助もな」
月村・心(
ga8293)はそう言いながら、自らの武器を静かに携える。彼ら三人の目標は暴動の鎮圧、そして人民の救助だ。とはいえ、暴動を起こしている民間人も一般人な上、立派にこの街の市民だ。一切の殺生は禁止されている。だが、同時に状況も切羽詰っている、的確に行動を起こさなければならない状態だ。
「では、いきましょう!」
「少し待て」
時間は無限ではないと、早速動き出そうとしたフィアナを凛生は静かにそれを制止し、後ろにおろおろと控えていた市長に手短に用件を伝えた。それ即ち。
災害用に備蓄している消火器の用意。
屋外消火栓と防火水槽の設置位置を記した地図。
怪我人を搬送する簡易救急避難所の緊急設置。
水や食料、医薬品の準備。
「時間がない、急いで用意できるかね」
「は、はい、すぐに取り掛かりましょう!」
市長に的確に指示を与え、市長がそれを部下へと伝達する。常に冷静沈着、人の上にたつことがどういうことなのか、過去実際に経験している凛生らしい行動だった。
その見事の手際にフィアナも心も感嘆な声を上げる。
「いやはや、大したもんだな、少し俺らも落ち着くべき、かな?」
軽く茶化しながらも、心の口から出たのは素直な感想だ。できる準備もせずに勇んで出て行っては、できることもできなくなる。二人は凛生に素直な感謝の言葉を述べ作業の手伝いに入る。
「気にするな、互いに補え合えばそれでいい」
照れ隠しなのかそうでないのか、俯きがちにくいっと眼鏡を整える姿は彼の心の現われか。
防水車はどこも出払っていたが、それらにも凛生は的確な指示とアドバイスを述べた。ついでにガス漏れ対策に簡易マスクの貸し出し、配布も推薦しておく。
「もし避難所に暴徒が来た場合はすぐに無線で連絡をするように」
用意された消火器とマスクをそれぞれ手に取り、凛生は最終確認を市長に告げ、自分の前をゆくフィアナと心に追いつく。
「それでは」
「いっちょ」
「行くとするか」
三人の傭兵は混乱の街の中へと駆けて行った。
中途報告:
市民救出、傭兵の指示により、順調
救出率50%>70%
●狩人の罠
「まったく、酷い光景だ」
5人の傭兵は警戒しながらも、素早く瓦礫まみれの街中を駆けていた。浅川 聖次(
gb4658)は軽く頭を掻きながら、先ほどから何度目かの呟きを漏らす。それほど、どこもかしこも酷い状態だったのだ。建物の至る所は崩れていて、ちらほら火の手も上がっていた。火の手の消化を試みる人たちと、それを横目に暴動を繰り返す人たち。酷かった。
「この様子じゃ、AU−KVで走るのは難しそうですね‥‥」
建物の様子同様、道路のそれももはや舗装からは程遠い状態だった、これではバイクで走り抜けるのは不可能だ。
「キメラ襲撃と暴動の開始‥‥何か裏がありそうですね」
走りながら、アリエイル(
ga8923)は街の惨状に眉をひそめながらも状況を確認するかのように目を光らせる。
今回の暴動、余りにも不自然過ぎる―――
それが傭兵達が導き出した答えだった。キメラ襲撃、撤退、再襲撃に合わせたかのように始まる一部市民による暴動。こういう災害時、暴動はよくあることだ。何も不自然なことじゃない、だが。今回のそれに至っては『余りにもタイミングが良過ぎる』のだ。
―――裏に扇動者がいる。
それがバグアなのか、そうでないのか、それは判らない。だが、いることは確かだと彼らは睨んでいた。
だが、今の彼等の目的はキメラの殲滅。これ以上の街の被害増長を防ぐ事と取り残された市民の救出。それが目下彼ら傭兵達の最優先事項だった。
「判ったのは事前報告の通り、キメラは狼型だということ。 数は4匹、攻撃方法は圧縮された水流‥‥」
「収穫無しだな‥‥」
聖次と郷田 信一郎(
gb5079)は見張りから他に何かキメラに関する目ぼしい情報が手に入らないか事前に聞き込みを行っていたのだが、返ってきたのは事前情報と変わらない返答だった。
「まぁ、対峙すれば嫌でも判るさ」
ユウ・エメルスン(
ga7691)バツが悪そうに呟く。
「まぁ簡単にヤられてやるワケにはいかねぇがな」
「その通りです」
雪待月(
gb5235)は、静かにユウの言葉に応える。人の心に宿るモノ、それが綺麗なものばかりではないことは、彼女とて十分承知だ。だが、もし、それを煽るような者がいるのなら‥‥彼女はそれを許すわけにはいかない。
各々考えるところはある。
救うべきか。
守るべきか。
聖次はそんな悩みを抱える中で、今回の依頼を見つけ、参加を申し出ていた。自分が何を救うべきか、何を守るべきか。それらを僅かでも見つけられたら。その想いを瞳に宿し、彼は今ここにいた。
アリエイルは守るために。
信一郎は弱き助け強きを挫くという信念のもとに。
それぞれの正義、それぞれの覚悟を胸に、彼らは戦うのだ。
「きたか‥‥」
信一郎はザッと歩みを止め、正面の建物の屋根の上を静かに見据える。
そこに佇むは一匹の狼。体躯は4メートルに及ぶ巨体だ。キメラの出現に、周囲の人たち、暴徒とそうでないものも一気に散り散りとなる。
「ちっ、面倒なことになってきやがったな」
ユウはあからさまに舌打ちをし、素早く仲間へ目配せをする。情報では4匹、だが目の前には一匹。他の気配はどこにもない、つまり。
「予想通りバラバラに現れましたか‥‥」
雪待月は信一郎とアリエイルの目配せに応じると三人で前へと素早く躍り出る。キメラがバラバラに現れた場合、班を更に二班へと分ける手手筈となっていたのだ。
同じく、聖次とユウも二人となって、後方へ下がる。
「ここは任せました!」
「はい!」
雪待月は聖次に大きな声で答えた。過去3度に渡り戦場をともにした二人、互いに信頼はしていた。
走り去ってゆく二人を背に、三人は狼キメラと正面から対峙していた。
「3対1とはいえ、この迫力は‥‥すごいですね」
一匹とはいえ、キメラが放つプレッシャーは凄まじいものだった。アリエイルのその台詞は、故に、ごく自然と出てきたものだった。4メートルのその巨体が更に膨らむ幻覚に、信一郎は一瞬陥る。だがすぐさま気を持ち直す。
まだ3匹いるのだ、てこずっている場合ではない。
3人は己の武器と覚悟を携え、それがキメラとの戦闘の合図となった。
「始まったな」
「私達も急ぎましょう」
戦闘音を背に感じながら、二人は走った。
無線でキメラ出現の情報を暴動鎮圧班に伝達し、ユウと聖次もキメラ殲滅に向かった。
「‥‥‥不穏な感じですね」
聖次は違和感を胸に感じていた。
●Disaster
フィアナ、心、凛生の三人は街一番のショッピングモールへと赴いていた。案の定、そこは暴徒で溢れ返していた。窓を破り、商品を次々と強奪していく人たち、火炎瓶のようなものを辺りへ投げている人たち。まさに暴動だ。キメラがまだ3匹未確認なこともあり、鎮圧と救助を急ぐ必要がある。
「止まりなさい! 貴方達のしていることは犯罪です! 速やかにその場で止まり、両手を上にあげなさい!」
フィアナはアサルトライフルを構え、大きな声で暴徒へ告げる。が、それで止まる気配はどこにもない。むしろ、数人は狂気と凶器を手に、こちらへ近づいている。
「これは脅しではありません! 動けば無力化も辞しません!」
威嚇射撃と警告を放つが、たじろぐだけで、暴徒の歩みは止まらない。
「くっ!」
ライフルを下ろし、格闘で鎮圧を試みるが、フィアナの拳は心により遮られ、心は背中で凶器の一撃を受けた。だが覚醒していた彼にとってはそれはダメージにもならず。それが、能力者だ。だからこそ、彼はフィアナを止めたのだ。
「落ち着け、覚醒を解かずに触れてみろ、致命傷を与えかねない」
能力者の覚醒発現はそれほどに脅威なのだ。能力を解かずにむやみに一撃を加えては簡単に死に至る傷を与えかねない。だが、覚醒を解いてしまっては、こちらが無傷でいるのは難しい。こちらから攻撃は、決してできないのだ。攻撃の時だけ覚醒を解くという手もあるが、簡単なことではない。
暴徒の攻撃が無傷で防がれたことにより、彼らが能力者であることが暴徒らにも伝わっていく。さすがに能力者に勝てるとは思っておらず、後ずさりをする。
ガラッ
「誰かいるのか!?」
瓦礫の下から聞こえた音に凛生は敏感に反応する。すぐさま駆け寄り一際大きな瓦礫をどかしていく。
そこには一人の少女と母親と思しき女性が埋まっていた。少女は衰弱していたが、母親に守られなんとか一命は取り留めていた。だが、母親はその代償を払った後のようだった。
「‥‥俺達は街の代表者に呼ばれて来た傭兵だ」
静かに凛生は背中で暴徒達へと声を飛ばす。
「人が死んでるってのに、自分の住む街を壊して楽しいのかね?」
母親の死は、すでに彼らにも伝わっているのか、答えは返ってこない。
「そんな力が残ってるなら、救助活動に注いで欲しいがな」
それは静かな怒りだった。
暴徒達は強奪行為はやめたものの、協力の姿勢はみせない。苦虫を噛み潰した表情で、ぞろぞろとその場から撤退していく。
「!!」
フィアナは扇動者の元へと彼らが戻ると察し、後をつけようとした、が。暴徒は散り散りとなった。これではどれに付いていけばいいのかわからない。
「今は、ここ一帯にいる救助が優先だな、ここの暴動は、一応は鎮圧したことになる‥‥」
心は無線をとり、救助本部へと連絡をし、ここに人手を寄越すよう指示を入れた。
中途報告:
市民救出、傭兵の指示により、順調
救出率70%>90%
●罠の罠
「おかしいです‥‥!」
「うむ、おかしいな」
狼キメラと対峙していた三人はそろそろ疑問に気付いていた。
先ほどから戦闘を繰り広げてはいるが、キメラは攻撃をしては回避徹し、また逃げては止まり、戦闘を繰り返していた。最初はそれは追い詰めていたと思ったが、ここにきてそうではないと三人は気付いた。
そして気付いたときには遅かった。三人はいつのまにか周りが瓦礫に囲まれた広い一帯へとたどり着いていた。そして気付く、異様な空気。
「‥‥決めつけ過ぎましたか‥‥!」
一体だけ出現したから、バラバラに出現していると思った。
だが、大きな見落としをしていた。
なぜ、狼型なのか。
なぜ、最初は纏まって行動し、後から一体のみだったのか。
狼とは、どういう習性がある‥‥?
導きだされる答えは一つ。
「狩り‥‥囮!」
信一郎が叫んだときにはもう遅かった。
出入り口を一体に塞がれ、前方の一体の後ろに現れるのは更に二体。
万事休すか。一度に3人でこのキメラを4匹相手にするなど、できそうも無かった。
無念。
誰しもがその言葉を思い浮かべた瞬間。
それは獣の断末魔によってかき消された。
「簡単にヤられるワケにはいかねぇっつったろ!」
「雪待月さん、無事ですか!?」
ユウと聖次はそれぞれ後方にいたキメラを一匹ずつ屠り、仲間の下へ駆けつけたのだ。
「途中で違和感を覚えましてね、間に合ってよかったです」
意表を突かれたのか、一瞬キメラの動きが止まった。それを見逃す3人ではなかった。
「渾身の一撃を‥‥蒼電機槍撃!!」
「はっ!」
「吹き飛べ!」
信一郎により飛ばされたキメラをアリエイルの渾身の一撃がそれを屠り、雪待月の六華による一矢が、後方のキメラの命を散らした。
ことはほんの一瞬。
スキを見せれば戦場ではそれが終わり。
キメラ達は身をもってそれを思い知ったのだった。
「危なかった‥‥」
「結果オーライだ」
信一郎の安堵の溜息に、ユウは気さくに笑って肩を叩く。
「これでキメラは全滅ですね、急いで救助班と合流しましょう、連絡は受けています」
聖次は仲間へと駆け寄り、先を促した。
暴動鎮圧は完全にはできず、扇動者も発見ももはや困難。
だが、行動の抑制はできた分、今のうちに救助を進めるのが得策なのだ。
●心の淀み
キメラ殲滅班が合流したことにより、救助活動は円滑に行われた。
ドラグーンもいたことにより、瓦礫撤去も順調に進んだのだ。予想以上より多くの取り残された人たちが各地にいた。
その救助活動を見てか、暴動に参加していた少数の市民も救助へと加わる。凛生の一言が効いたのかもしれない。
「扇動者はバグアかね?」
彼らから何かしら情報を得ようとしたが、彼らにもはっきりとはわからなかった。暴動の人数もそれなり、彼ら全員が扇動者と通じていたわけではないのだ。彼らの中にも更にリーダーみたいな人がいるとのことだった。それは考えてもみれば当然のことだった。扇動者が外部からきて煽ったとしても、その人物だけで見ず知らずの市民を扇動するなどできることではない。
そこに気付き、そこを攻めていれば、また何か違ったのかもしれない。
だが、取り残されたほとんどの市民は救助され、一部暴動は抑えることができ、キメラも無事殲滅することができた。
鎮圧は完璧とは程遠い、扇動者の存在に気付きながらもそれを暴くこともできなかった。恐らく今頃はもうすでに姿を眩ましていることだろう。だが、人命と街は守りとおせた。後は自警団が鎮圧できるだろう。
依頼は、達成されたと言って過言ではない。
一人ひとりの働きによって、それは誇ってもいいことなのだ。
市長は傭兵達へ深く感謝の意を述べた。
最終報告:
市民救出、傭兵の指示により、順調
救出率90%>完遂
キメラ殲滅:
完遂
暴徒鎮圧:
一部鎮圧
扇動者の影を掴むも、逃す
結果:
成功
(代筆:虎弥太)