タイトル:【VD】小規模的戦争マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/20 17:05

●オープニング本文


 最近、至る所に以下の文章が送られているらしい。

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バレンタイン中止のお知らせ

知っていますか?
そもそもバレンタインデイとは、ローマ皇帝クラウディウス2世が兵士の結婚を禁止していた時代に、聖ウァレンティヌスが秘密裏に兵士を結婚させたことが露見して処刑されたことに由来するものです。
この一見横暴に思える皇帝クラウディウス2世は、当時のローマ帝国を脅かしていた侵略者を撃退した功績によってローマ市民の圧倒的な支持を得ていた人物でもあります。
兵士の結婚の禁止、聖ウァレンティヌスの処刑とは、侵略者と戦う為のやむを得ない処置だったのです。
もちろん、聖ウァレンティヌスの示した愛の尊さは普遍のものです。
ですが、今まさにバグアという侵略者の脅威に晒されている地球人類は、以前よりもクラウディウス2世の心情にこそ寄り添って然るべきではないでしょうか?
私たち傭兵はクラウディウス2世の功績にあやかり、せめて世俗化したバレンタインのお祭り騒ぎ、つまりチョコレートのプレゼントなどというモテない男を浮き彫りにする悲しい行事ではなく、バグア打倒の決意を新たにする日としてバレンタインを迎えるべきだと思うのです!

以上の理由から、バレンタイン中止をお知らせします。

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 それはチェーンメールであったりスパムメールであったり。果ては街頭で叫んでいる人もいる。
 そんなこんなで様々な方法で各地に伝わっており、当然この場所、『何でも屋:紅の獣』にも伝わっている。

「ったくよ‥また来てやがる」

 雨財 利奈(gz0124)は自らのパソコンに溜まっていく迷惑メールをイラつきつつ消去している。
 メールが来るのも腹ただしいのだが自信お手製のメールフィルターまで突破してきているのだ。プライドも傷つけられている。ちなみに零の作成したセキュリティソフトでは一件も来ておらず、やはり零は戦闘面以外では他の皆を凌駕しているらしい。彼女はマウスをテーブルに叩きつけ、傍らに置いてあった『大吟醸【雨在殺し】』を一口飲む。
 と、玄関の方で何やら声が起こる。

「いい加減にしなさい! 私達はそんな依頼一切引き受けないわ!!」

 騒がしさと玄関の扉が勢いよく閉められる音が響く。そして数秒後、清総水 栄流(gz0127)が部屋に戻ってくる。

「あー、また来たの?」

「えぇそうよ! 全く、ここまでしつこい客は初めてよ!」

 勢いよくソファーに座り、客に出す様のレモン水を一気飲みした。
 一週間前あたりから、ある団体がこの何でも屋に依頼を持ち込もうとしているのだ。何でも屋だけに大抵の依頼は引き受けるのだが、この仕事だけは誰も請けたがろうとはしなかった。
 その以来と言うのは、実に微妙な内容だ。

 この街のチョコレートを壊滅させてくれ。

 そもそもどうやって壊滅させるのかと聞かれるだろうが、実はその辺りは不可能ではない。
 現在街の広場では『バレンタイン祭』なるものがスタンバイされており、街全てのチョコレートから新たに輸入されるチョコレートまで全て集められるのだ。形大きさ問わずチョコを街側に申請した人は少ないながらも『協力金』が支払われ、街の大半の人間は広場に集めている。
 例外として、最愛の人に手作りチョコをあげたい! と言う人は除く。

 とまぁ、そう言うイベントがあるので、準備完了であるイベント前日に会場を襲い、チョコを丸々奪おう‥という事らしいのだ。完全に犯罪なような気もするが、この街の自警団の上の上の上の人間がその協力者らしく、重度の傷害や死人が出ない限り目を瞑るらしい。権力の横暴と誰でも言うだろうが‥。
 それでも、息の掛かっていない自警団も多く、中には能力者まで視察に当たっていると言ううわさもある。なので、数が揃っても戦力的に不安があるのだ。

 そこで目を付けられたのが紅の獣なのだが‥相手にされることはなかった。理由としては『面倒くせーな、んなもんやってられるか』『‥くだらない』『あはは、私はどっちかと言うとバレンタイン好きかなー、だってチョコレート美味しいもん』『‥お姉ちゃんが行かないなら‥嫌‥』『そんな横暴が許されるわけがないわ!』などなど、である。

「でもさ、アタシら協力しなくてもアイツら絶対決行するよな‥止めなくて良いわけ?」

「いいえ! こんなこと成功させるわけには行かないわ!」

 今度は机をバンと叩きつけ、護身用の長棒を握った。


●一方LH
 依頼:イベント会場の護衛『このたび私どもの町では『バレンタイン祭』なるものを開催することを決定いたしました。しかし、最近は妙な伝聞が飛び交っており、不安が絶えません。そこで、傭兵の皆様に本番までのチョコレートの警護をよろしくお願いします』

●更に一方、とあるサイトの書き込み
 依頼!:チョコレートの根絶!『諸君! 我々バレンタイン中止派はとんでもないイベントが行われることを知ってしまった! その名もバレンタイン祭だ! これは世間の我々に対する宣戦布告に他ならないっ!!! それを受けてたとうではないか! 有志の者は、イベントの前夜、深夜2時に集合のこと!』

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
天(ga9852
25歳・♂・AA
J.D(gb1533
16歳・♀・GP
黒羽・ベルナール(gb2862
15歳・♂・DG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
九頭龍・聖華(gb4305
14歳・♀・FC

●リプレイ本文

●中止派の事情
「さぁ反対派諸君、今こそ我らの力を見せる時がやって来た!」

 黒羽・ベルナール(gb2862)がスピーカーを持ち、この総勢六十を越える大集団に向かって叫んだ。

「チョコを奪え! 奪え! 略奪しろ! 一片の砂糖屑すら残さず、全てを奪いつくすのだっ! 我らバレンタインデー中止派、ここにアリッ!!!!」
 うおおおおおおおおおっ!!!!!

 近所迷惑関係無しの大歓声が、辺りに響き渡った。怒鳴ろうとして窓を開けた近所のおばちゃんも、その剣幕に思わず口を閉じてしまう。
 その中止派には男女問わず混合であり(それでもやはり、男のほうが多いが‥)、いずれもその目は凄まじい気迫を放って爛々と燃えている。

「皆さん! 私達こそが正義なのですっ! 頑張りましょうっ!」

 悪乗りなのか本気なのかは全く定かではないが、J.D(gb1533)もまた、ノリノリで皆を煽っていた。一般人中止派たちは、四人もの能力者が協力してくれると言うことで、戦意は十分である。

 しかし、皆が皆そうという訳でもないようだ。

 九頭龍・聖華(gb4305)は隅っこのほうで、その盛り上がりようを眺めていた。

「皆‥元気すぎ‥お腹‥すいた‥」

 ぐぅっと、お腹がなり、チョット哀しそうな聖華。
 そんな彼女に、いつの間にかそこに出現していたのか、ベルナールが仁王立ちしていた。
 不思議そうに見上げる聖華に、ビシッと指を突きつける。

「ほらっ、もっと元気出す! 俺達が攻略の要なんだからっ!」

「でも‥」

 再びぐぅぅっとなるお腹。
 ベルナールは、暫く思案し‥ぽんと手を叩く。

「奪ったチョコは、食べ放題だよっ!」

 その言葉の効果は大きかった。
 座り込んでいた聖華がガバッと起き上がり、Jを押しのけて、集団の前に立ったのだ。
 そしてマイクを手に取り―。
 
「チョコ‥食べて‥良い‥! 皆‥がんばる‥!」

 ちょっと威勢には欠けていたが、それでも皆が拳を振り上げた。


 少し離れた所で、冷静な一般人リーダーと麻宮 光(ga9696)が真面目な話をしていた。集団のテンションとは大違いである。
 会話の内容は主に作戦概要‥いくら数が揃っているとは言え、無策に突っ込んでもあっという間に鎮圧されてしまうだろう。

「―と言う作戦なんだか‥これで問題ないか?」

「あぁ、むしろ助かったよ。さすが前線で戦っている傭兵さん達だ」

 リーダーは満足げに頷き、集団を鼓舞する為に戻っていった。
 その背を厳しい表情で、麻宮は見つめている。

「この作戦‥本当に上手く行くのか‥天」

 何故か賛成派陣営にいる傭兵の名前を呼び、犬っぽい形の人形を、握り締めていた。


●賛成派―と言うか、チョコ警備団の事情

「しかし、いくらなんでもこれを襲撃するとは‥」

 須佐 武流(ga1461)はゴンゴンと巨大なコンテナを叩き、呟いた。
 外装はかなり丈夫だが、肝心の鍵の部分は鎖でまいているだけだ。まぁ、チョコ如きに凄まじいロックは掛けないだろうが、これでは簡単に壊されてしまうだろう。

「もっと頑丈な鍵は用意できないの?」

 助っ人である清総水 栄流は警備団に聞いているが。どうやら、この襲撃は想定されていなかったらしく、すぐに用意は出来ないらしい。
 少し焦っている彼女の肩を、美環 響(gb2863)はポンと叩いた。そして優雅に微笑し、コンテナに近づく。

「これでは、コンテナの耐久度は期待できませんね‥これくらいなら僕でも‥」

 彼がパッと腕を振ると、いつの間にか手には大きめのハンカチが握られていた。そして何をするかと思えば、そのコンテナの鎖に布を掛ける。

「ほら、行きますよ‥」

 パチン、と彼が指を鳴らすと同時に、鎖に掛かっていたはずの布がパサリと床に落ちる。するといつの間にか鎖も消えており、見事に解錠されていた。そして「どうだ」とばかりに栄流の方へ振り向く。彼女に少しでも元気になってほしいために、奇術を披露したのだ。

 しかし、解錠してはだめだろう。

「こらっ、もっと別のもので試しなって」

 アズメリア・カンス(ga8233)は美環の頭を軽くペシッと叩き、改めて鎖を巻き始めた。ほんの遊び心だったのか、彼は頭をさすりつつ、すまなそうに笑った。子供なのか、大人っぽいのか、よく判らない青年だ。

「あなたみたいに奇術で消す人はいないと思うけど、一応壊されないように、頑丈にしなくっちゃね」

 そういいつつ、カンスは幾重にもグルグル巻きにしていく。更にその上からローションをぶっ掛け、安全対策を敷いた。

「そういえば‥天はどこに行った?」

 最初は確かにこの場にいたはずなのだが、天(ga9852)の姿がどこにも見られなかった‥と思いきや、なにやら悔しげに倉庫の外から戻ってくる。

「どうかしましたか?」

「いや‥」

 天は美環の心配に片手で答え、須佐のほうへ向かった。
 皆と同じく不審げな表情の須佐だが、彼にはその意味がわかっているらしく、少しだけ表情が違っていた。

「どうした‥?」

「麻宮にアレは渡せたんだが‥雨在ともここの責任者とも連絡が取れない‥ヤバイな‥」

「仕方ない‥ここは俺達だけで、何とかするしかないだろう」

 なにやらよく判らない話をしている二人。
 内部スパイに警戒しているカンスは、疑わしげな目で見つめていた。


●大☆攻☆防

「とっつげきぃ!!!」

 ベルナールの大声と共に、能力者達を先頭に一斉に倉庫へと走った。途中警備員達が数人止めようとしたものの、激流を数個の岩が止める事が出来ようはずもなく、片っ端から弾き飛ばされていった。
 やがて入り口に到達し、その扉を蹴破った。

 すかさず、照明弾が放たれる。

 中で待ち伏せていた数人の警備兵は視界を奪われ、その場にのた打ち回った。

「さぁさぁっ! チョコレートは俺達のっ‥ってちょいまちぃ!」

 ズサッと全員が立ち止まる。その理由は床全体にあった。
 なんと、無数のマキビシが巻かれているのである。これでは、迂闊に進むことも出来ない。
 その向こう側で、須佐がコンテナの前に陣取ってこちらを見つめている。

「どうした、向かってこないのか‥?」

 強大な闘気を放ちながら、こちらを睨みつけている様はとても恐ろしい。そこにたっているのはたった一人だというのに、一般人たちの数人は後ずさりを始めていた。

「くっそー‥このままじゃ先に進めない」

「まか‥せて‥」

 悔しげなベルナールの横にひょっこり現れたのは、聖華である。

「皆‥用意‥」

 その号令(?)にしたがって現れたのは、消火用のホースを持った数人の一般人だ。
 しかし、この季節である。当然水も冷たいし、能力者はともかく、一般人自警団が巻き込まれたらひとたまりもあるまい。
 さすがに躊躇したのか、号令が出ても放水を行う様子は無かった。

「やつらは‥愛とか‥幸福とか‥優越感とかで‥身も心も‥熱い‥から‥冷やして‥やるのが‥いい」

 つまりはこう言いたいのである。
 
 やっちまえ、と。

 大量に放出された水は全てを押し流し、進路を確保した。

 だが。

「甘いな‥この程度では、俺は退かせん‥」

 須佐は立っていた(少し寒そうだが)。
 これでは先ほどと殆ど状況は変わっていない。数人が向かっていくものの、彼は容赦なく蹴っ飛ばし、木刀で弾き飛ばす。
 非殺傷の武器を須佐に何度か試みるも、全てが無駄に終わった。

 この壁は薄いが、とてつもなく硬い。

 と、唐突に離れた場所の扉が開いた。

「さて皆さん、不意打ちで頑張りましょう」

 Jが一隊を率いて、回り込んでいたのだ。
 しかしそれは予想のうち‥ちゃんと、そこにも人員が配備されている。
 一応‥。

「きゃっ!」

 何の脈絡もなしに、二人の少女がその場に現れ、転んだ。―いや、片方はどう見ても大人だが。
 顔はよく見えなかったが、自警団にも見えない。反対派とは言え、ただの暴徒ではない。信念を持って行動している軍隊のようなものだ、一応。
 反対派の数人が、駆け寄って、優しく少女達を抱き起こした。

「あ‥ありがとう」

 一瞬、彼らの視界がばら色に包まれる。
 その少女‥いや、令嬢の何と美しいことなのだろうか。

「あ‥あの‥お礼の代わりに‥女性のスカートの中は秘密でいっぱいなんです‥」

 と、急に令嬢はスカートに手を入れた。
 まさか、これは一般情報では公開できないようなシチュエーションになるのかっ!?!?

 とまぁ、そんなわけは無い。

 突き付けられたのは、催涙スプレーだ。
 この令嬢とは、美環である。

「‥この年になって、こんなことするなんてね‥」

 一緒に微笑んでいた栄流だったのだが、全員の視線は美環に注がれていたようだ。なんとなく、落ち込んだ様子でその場からとびずさる。

 容赦なく吹き付けられたスプレーは反対派の数人を戦闘不能にさせるに至った。その後、更に追撃は加わっていく。

 激昂して突出してくる反対派を掻い潜り、美環はそそくさとその場から離れる。
 入れ替わりに巻き散らかされたのは、ビー玉やオイル‥妨害工作である。

「それ、今ですっ」

 美環がいつも通り優雅に腕を振り上げると、数人の自警団が現れた。そして銃口(ゴム弾入)を向ける
 当たれば、かなり痛いだろう。当たり所が悪ければ、気を失ってしまうかもしれない。

 すると、Jの立っている列にいた反対派が、後ろから何かを持ち出そうとしていた。何か行動を起こす前に‥美環はそう判断し、手を振り下ろす。

 ゴム弾が飛び出たのと‥J達が『自警団』を盾にしたのはほぼ同時だ。

 紐でグルグル巻きにされた自警団たちの悲鳴が響き渡り、美環達は慌てて攻撃を止める。それを見越したJは、なんと捕らえた人たちをオイルとビー玉が散らばる場所へと転がした。

「橋、完成ですね♪ ふふっ」

「いいのか‥こんなことして‥」

 麻宮は額に手を当てつつ考えるも、取り合えずは現状任務を優先することに決めたようだ。慌てて再び銃口を向けてきた自警団に対し、麻宮は銃を抜いた。
 中身は実弾‥しかし、当然だが使うつもりは無い。
 グリップを使用し、そこで思いっきりぶん殴る。単純だが、これもまた立派な鈍器である。効果は抜群だ。
 バッコンバッコンとグリップで敵を薙ぎ倒して行き、道を無理やり築き上げた。

 その『橋』と『道』を渡り、いっせいに反対派が押し寄せてくる。流石に抑え切れなくなり、美環はその場から退いた。須佐は見事に一方からの反対派を全て抑えてはいるのだが、別方向からの奇襲に思わず顔をこわばらせている。
 しかし、コンテナを守っているのは一人だけでは、無い。

 戦闘を切っていた男が須佐の脇を抜け、コンテナの鎖に鉄パイプを叩き落そうとした‥が、その男はいきなり、錐揉みつつ吹き飛んでいった。

「こういう事するからには―」

 更に別の男が頭部をつかまれ、ぶん投げられる。それは数多の人数を薙ぎ倒し、軍の歩みを止めた。

「骨の二、三本は覚悟してるわよね?」

 コキリ、コキリと手を鳴らしながらコンテナの上から降り立ったのは、最後の砦、カンスである。自身の明言どおり、一般人とは言えここまでの騒動を起こした相手を許すつもりは無い。そして加減をするつもりも(あまり)ない。
 打ちこまれてくるペイント弾などは殆どを弾き返し、傷ついてもペイントが突いても、彼女はその拳を振るい続けた。

 しかし、防御できない攻撃もある。

「さぁ、次はだれっ? どこからでもかかって来な―」

 振り向いた所で、不意打ちだ。
 真っ白な粉を掛けられ、一時的にカンスの視界は塞がれた。ベルナールの消火器攻撃である。しかしそれも本当に一時的なことで、すぐに彼女はそれを突破する。

 一時的で十分だ。たった一人がコンテナに到達するためには。

 聖華は、コンテナの前に一人、佇んでいた。
 しかしコンテナには幾重にも鎖が巻かれており、ローションまで塗られているので叩き壊すにしても苦労が生じるだろう。
 ところが―。

「我の‥食事は‥何人たりとも‥邪魔‥させない‥」

 信じられない光景だった。
 聖華が鎖に噛み付いたかと思うと、一気に引きちぎったのである。いったい、どんな顎をしているのだろうか。
 開かれたコンテナには、ギッシリとチョコレートが詰まっている。

「うん‥コンテナ‥一個は‥軽いな‥」

 恐ろしいことを呟いた後、彼女は強奪ではなく『捕食』のためにコンテナへ飛び込んでいった。


●第三軍?

 戦闘が開始して何分経っただろうか。
 聖華の捕食はともかく、状況的には反対派が有利である。やはり、最初の放水とJの奇策(非道策?)が大きいのだろう。
 しかし、コンテナ防衛である須佐とカンスの活躍で、倉庫内から持ち出すことは殆ど出来ていない。

 そんな中、異変は起きた。

「‥何?」

 ペイント弾で楽しむ‥ではなく、闘っていたJが、不審げに外を見る。
 そこには、数多の人影‥自警団の援軍が取り囲んでいた。

「そんな‥聞いてないわよ‥」

 と、変化は更に内部でも起こる。
 唐突に、反対派の一角で爆破が起きたのだ。非殺傷武器を使用することは前もって決められていたので、これは由々しき事態である。
 しかし実際には、中身は呼称であった為、死傷者はでていない。

「これは‥ぬいぐるみか。気をつけろ! この中に裏切り者がいるぞ!」

 麻宮は爆発物である布の欠片‥恐らくは自身が持っていた人形であったものを掲げ、叫んだ。戦況は優勢で盛り上がっていた反対派に、唐突に当惑の波が広がる。やがて、疑心暗鬼が始まった。
 当然と言えば当然だ。彼らは同志ではあるが、大抵はネットで集まってきた者たち‥初対面が多すぎるのだ。誰を疑い、誰を信じたらいいのかなど判りはしない。

 麻宮は、一般人のリーダーに白羽の矢を立てた。
 彼を捻り上げ、皆の前に突き出す。

 そこへ現れたのは、天だ。彼が、この援軍自警団を呼び出したのである。
 ほどなくその援軍が反対派を沈静して行き、事態は一時収拾がついた。

「大切なのは込められた想いだ。それすらも否定できるのか? 出来るはずがない。みんな大切な人がいる‥いた筈だ」

 天は反対派の周りを歩きながら、説教を始める。それにウンウンと賛成派も頷いていたが、ビシッとそれに指をさした。

「賛成派も、悪戯に応戦するな。正しくても間違っていても、両方争えば両方悪い」

 そしてコンテナの前に立ち、最後に高らかに言った。

「どのみちチョコは全部没収だ!」

 この一言が、余計だったのかもしれない。

 はぁっ!? と、賛成反対が奇しくも一体となり、反論を述べた。
 この依頼の目的は、双方共にチョコの保持だ‥それを否定するのは、流石にまずかったかもしれなかった‥。

 結局、『チョコレートは民間からの寄付が多いので、それは認められない』らしく、チョコレートの半分を反対派に譲ることで、決着は着いた‥。


●おまけ
 その後、紅獣事務所にて、およそ四十人分(あのチョコの一割)が届いた。
 あて先は零。届け主は‥聖華‥だった。