●リプレイ本文
●テスター1:春風霧亥(
ga3077)
とてもいい天気だ。
窓の隙間からカーテンを揺らす風は、気持ちよさそうに眠っている青年の頬を優しく撫でた。
「ん‥」
気がついた拍子に、手に持っていた一冊の本がパサリと床に落ちる。どうやら心地良い環境の最中での読書は、睡魔を誘ってしまったらしい。
質素ながらも掃除の行き届いている施設のリビングで、春風はゆったりとした椅子に腰掛け、読書に耽っていたのだ。
起床したばかりだが、落とした本を拾い上げてもう一度読書を再開する春風。
だが、文字の羅列は再び彼の視界から消失し、代わりにこの施設で使われているスリッパが目に入る。
「春風。あの子達が呼んでいるわよ」
優しげな声。顔を上げると、この施設の責任者である女性が本を取り上げ、こちらを見下ろしていた。皆からは『先生』と呼ばれて慕われている。春風は頬を掻き、苦笑した。
「昨日も山へ遊びに出かけたばかりだと言うのに、あの子達は元気ですね」
「あなたも若いでしょう。ほらほら、早く行かないとまた水鉄砲で追いかけ―」
唐突に、庭から続く扉が勢いよく開く。そこから飛び込んできたのは彼と同年代の男性だ。全身ずぶ濡れで、春風を見つけると一目散に向かってくる。
「き‥霧亥、交代だ! タッチ、タッチ!」
その濡れた手で春風の肩を叩き、そのまま共同の浴室の方へ駆けて行った。そして次に飛び込んできたのは、十代前後の子供達。
「あ! 霧亥だ」
「わぁ、やっと起きたんだー♪」
「ねぇ霧亥。遊ぼう遊ぼう?」
恐らく先生が居たからだろうが、水鉄砲をすかさずズボンのポケットに押し込み隠し、春風に殺到する。
「わかった、わかったから。じゃあ、今日は何して遊ぼうか?」
それらの少年達を優しく受け止め、春風はにっこりと笑った。少年達は大喜びし、口々に遊びの提案をしゃべり始める
鬼ごっこにかくれんぼ、お宝探しにテレビゲーム。お菓子も作ってくれとのこと。どうやら、読書の続きは夜になりそうだ。少年達に引きずられるように中庭に歩いていく彼は、外に出る手前で先生を振り向く。
彼女は笑いながら、行ってらっしゃい、と声を掛けてくれた。
―変わることは止められない。変えないことは出来る。見守り続けた末の答えは、きっと満足するものだ―
●テスター2:織部 ジェット(
gb3834)
笑顔で共に歩く男女。
実は9歳と言う年齢差があるカップルなのだが、恋に年齢など関係ない。愛してしまえば、愛なのである。
ゲームセンターのクレーンゲームで中々の収穫を上げ、満足げに出てくる二人。と、急に女が立ち止まり、慌てて袋の中を漁る。
「どうした? ‥あぁ、あの人形を落としてきたのか。ちょっと見てきてやるよ」
自分が行く、と言った彼女をその場に待たせ、織部はゲームセンターに戻る
。程なく人形は見つかり、彼女の元へ戻ったときだった。あからさまに暴力慣れした男たちが、彼女を囲んでいる。
「小さい子に集るってあんまり格好良く無いぞ。行こうぜ」
無理やり男達の間をこじ開け、彼女の腕を掴んだ。当然因縁付けて来ようとする不良たちだが、その前にダッシュでその場から走り去った。
訝しげな表情の彼女に、少しだけ振り返って小さく笑う。
「今は、俺一人じゃないし、この対応が大人って奴だ。」
そのまま二人は走り続け、海にまで来てしまった。だが、この場所は有名なデートスポットであり、中でも二人乗りのボートは恋愛成就率が高いことで更に有名だ。
丁度良いので、ボートを一艘借りて海に漕ぎ出す二人。織部の力強いオール捌きで、ボートは物凄いスピードで海上を走る。彼女も嬉しそうだ。
と、急にボートが沈み始める。船底に穴が開いていたのだ。あれよあれよと言う間に、ボートは完全に沈んでしまった。
一時間後、なんと織部は彼女を抱いたまま浜まで泳いで到着していた。だが、女は海水を飲みすぎたらしく、おぼれている。
織部は躊躇無く人工呼吸を開始した。
その甲斐あってか、女は程なく目を覚ます。感謝を言いながらも照れている彼女に、織部は気まずそうに言った。
「悪いけど、後で唇の周りは消毒しとけ!」
そっぽを向いた彼を、彼女は優しく見つめていた。
ずぶ濡れになった互いの服を乾かしたいのだが、生憎人気の無い浜に上がってしまい、変えの服が用意できない。
そこで、焚き火の周りに服を干し、互いは全裸のままだが、背中合わせで乾くのを待つ事にした。だが、やはり彼女は寒そうである。
「傍から見たら犯罪なんだろうな、でも、仕方が無い。」
織部は、震える彼女を後ろから優しく抱きしめた。
既に時は夜。満天の星空が、二人を祝福していた。
―いつか叶えたい恋。数多の時間を掛けようと実らせる。時が過ぎる前に―
●テスター3:宇佐美 唯梨(
gb4336)
「ねぇ、この席良いかな?」
その女性の出現に、店内は騒然とした。
魅惑的な肢体を持ち、妖艶な微笑を湛えるバニーガールの女。その美貌に、男達ばかりか女性まで嫉妬や敬意の眼差しで見つめてくる。
宇佐美が真に愛しているのはギャンブル。だが、今回は恋愛の駆け引きを楽しみに来たのだ。
そしてそのターゲットは、今声を掛けた男性。先ほど街中で男達を選定し、この人物に決めたのである。
「あぁ構わないよ」
ターゲットの男は見立てどおり、恋愛慣れしていそうだ。宇佐美は自身も席に着き、男と同じ酒を注文する。そしてグラスが目の前に置かれたとき、隣からもう一つグラスが寄せられる。
「あたしの名前は宇佐美。きみは?」
乾杯をしながら、じぃっと目線を合わせて聞く。男はそれは平然と受け止め、自らの名前を『ロック』と名乗る。ロックとは今飲んでいる酒の名、明らかに偽名だろう。
「洒落た名前だね。じゃあ、あたしは『グラス』とでも名乗っておこうかな」
「今、宇佐美だと言ったじゃないか」
ほんのりと酔いが回り、互いに少しだけ打ち解けあう。
「酒はグラスに注がないと飲めないでしょ? グラスも、入れる飲み物がないとただの飾り‥満たされないと、ね」
含みのある流し目を送る宇佐美。一瞬だけピタリと男の手が止まるも、飽くまで余裕を貫くようだ。
そこへ、追撃するように体を寄せる。
「じゃあ、きみはどうして本名を教えてくれないの?」
「ん、それはね」
ロックは残っていた酒を飲み干し、カウンターに置く。カラン、と言う涼しげな音が奏でられた。
そして、二人分の代金を払い、立ち上がる。
「名前って言うのは一種の縄みたいなもの‥本名をきみに教えてしまったら、あっという間に虜になっちゃうからさ」
そう言い残し、去っていった。
何だか釈然としない宇佐美だったが、とりあえず残った酒を飲んでおく。
「一応、賭けはあたしの勝ち、かな。勝負に勝って試合で負けた‥か。今思ったら、先に名前を名乗った所で負けていたのかも」
ギャンブルの用に白黒付かない結果。これもまた、ギャンブルとは違う恋愛の醍醐味なのだろう。
―駆け引き。恋愛とはそれ以上の何かがある。それに気付きし時、あなたは―
●テスター4:美環 響(
gb2863)
今ではない、別の時間。
時は中世ヨーロッパ。その時代に生きる二人の男女の話。
手品師ヒビキと、貴族のお嬢様ティア。その身分の差は天地。到底、天からも地からも届かない。
だが、二人は愛し合ってしまった。
互いの想いは知っている。言葉で現すことはできないが、それでも二人が共に居る時間は、何物にも変えがたい貴重なものだった。
しかし、神はなんと無慈悲なのだろうか。隣国で起きていた戦禍がこの国まで及び、戦争を望まぬ重役は、ティアを政略結婚の道具にしようとしているのだ。
ヒビキは悩んだ。ティアを愛している。その想いだけが日に日に大きくなっていった。
そして、ついに彼は決意する。
結婚式前夜。ティアもまた、一人部屋で悩んでいる。
「今宵奇術師は魔法使いとなって参上しました。あなたの望みは何ですか?」
その声、最愛の人の声に驚きつつもテラスに目を向ける。そこには、月光をバックに、ヒビキが微笑んでいた。
当然、どうやって登ってきたのかをたずねるが。ただ微笑みむだけだ。
勿論ヒビキが現れて嬉しいティア。このまま一緒に逃げ去りたいのだが、自らは国の運命を背負う身。それは出来ない。
「あなたの望みは?」
重ねて、ヒビキは言う。
「戦争を避け、あなたと共に行くこと」
ティアは呟く。だが、彼は聞き逃さなかった。
「魔法使いは、大切な人の夢を叶えます」
パチン、とヒビキの指が鳴ったと思った瞬間、ティアの意識は無くなった。
戦争は起きなかった。
ティアが消えたことで和平の道が無くなり、戦でも勝ち目は無い。国そのものが全面降伏したのである。
ヒビキの、壮大な消失マジックは大成功だ。
数年後。ある夫婦奇術師が他国で評判をあげるのは、また別の話である。
―人は誰しも魔法が使える。愛と言う魔法を―
●テスター5:ハート(
gb4509)
ここは、どこだ。
暑い‥いや、熱い。
火、炎‥火事か‥家が燃えている。燃えている家に居る。
外が騒がしい?
いや、これは悲鳴。
揺れている、地震?
違う、これは‥空襲だ。
戦わねば、戦わないと。
『どうして?』
‥そうだ、戦う必要など無い。
逃げよう。
出口の扉は‥あれか。
くそ‥鍵が掛かっている。何か壊せる物は‥なんだ、私は剣を持っているじゃないか。
これで出られる‥っ?
血が付いている‥私のではない、では‥?
っ!‥死体‥女性か‥。
空襲に巻き込まれたのだろうか‥いや、今はそんなこと考えている場合ではない。
よし‥開いた。
『それで良いの?』
いや‥あの女性、どこかで‥。
どこか‥‥っ!? 敵‥
ゲームオーバー。
っ‥先ほどと同じ場所‥振り出しと言うことだな。
早く脱出しないと、早く‥。
『助けないと』
あの女性はさっきの‥まだ息がある。
キメラ‥! この程度の敵ならば‥!
よし、片付いた。
「大丈夫‥っ」
‥傷が深い。これでは、もう‥。
「‥っ‥‥っ‥」
!?
今、私の本当の名前を‥?
やはりこの女性、どこかで。
足には義足‥これは‥指輪?
『それは忘れていた宝物』
まさか‥そんな‥。
この女性は‥私の婚約者。
「‥こ‥っ‥て」
なんだ、何を言いたいんだ。
いや、そんなことより!
「喋ってはだめです、すぐに治療を‥」
「‥私を殺して‥」
っ!?
今‥なんて‥。
『最後の望み』
「‥愛する人に‥殺してほしい‥」
『唯一の願い』
もう‥もう、彼女が苦しむだけなら。
それが彼女の望みなら。
彼女を愛しているから。
私は‥私は‥っ。
『戦いの理由、それは』
「‥愛なんて‥」
『取り戻せない愛の、復讐』
「人を愛するなど下らない」
―愛は人を祝福する。愛は人を苦しめる。祝福が消え、苦しみだけが残った愛など―
●テスター6:直江 夢理(
gb3361)
由緒正しき忍者の家系。同時に、かつて愛を掲げた武将の末裔だと言う。
彼女の愛は正義の愛、常に純愛を志している。
が、愛さえあれば何でも‥とかも思っているらしい。
「はっ! 私のお友達(女)がピンチです!」
忍者の耳は正義の耳(?)。
彼女の大切なドラグーンの友人がなんと、変態に狙われていると言うのだ!
これは愛と正義の忍者である自分が、助けねばなるまい!
変態は大胆にも、そのお友達のAU−KVの至る所に(自主規制)や、(自主規制)を仕掛けたという。これでは装着することも出来ない。
しかし! いくら最新テクノロジーだろうと、愛と正義の忍術の敵ではないのだ!
「忍法、身代わりの術!」
×身代わり→○変わり身。
気付くのが遅かった。ポン、とお友達と直江の立場が逆転。しかもAU−KVの中に飛ばされる。
「ま‥間違えましたぁ! あ‥そんなっ‥だめぇ‥」
以降、自粛。場面変更。
「私っ、お姉さまの為に一生添い遂げるって決めたんですっ!」
愛の忍者は愛に生きる!
心より尊敬せし『お姉さま』のためならば、たとえ火の中水の中! それに『お姉さま』は誤字が少し他のより多めで‥。
「あ、皆さん御歯用ですよ〜♪ 凶も居移転機ですね〜」
「コホンッ‥お姉さまはこう仰られています。『皆さんおはようですよ。今日も良いですね』」
直江が付き添っていないと、他者とコミュニケーションも取れないのだとか。(※飽くまで直江の自称)
そんな直江に、ついに運命の瞬間が訪れる!
「え‥えぇ!? 『結婚するから早く電話して』って‥嬉しいです、お姉さまぁ」
照れながらも喜び、教会に電話しようとした‥のだが。
「『血痕があるから(警察に)電話して』‥そうですか‥そうですか」
負けるな正義の忍者。
負けるな愛の忍者。
きっといつか、報われる日が来るだろう!
―‥ぁー‥えっと‥、こう言う愛もある‥頑張れ、本当に―
●テスター7:飯塚・聖菜(
gb0289)
「こ‥これが‥俺!?」
女の子らしい可愛い部屋の鏡の前で、飯塚は思わず自らの髪や体に触れる。
毛先にウェーブをかけた茶髪のロングヘア、ついでにパジャマ姿。そんな彼女の願った『女の子』に、ちゃんとなっている。
これがゲームだと知りつつも、思わずギュッと体を抱きしめた。
と、鏡の端に時計が写る‥時刻はまだ朝10時。約束の時間まで余裕がある。
ん、約束‥?
「そうだ‥今日はアイツと会うんだった」
慌ててタンスの引き出しを引っ張り、服を探す‥だが、どれも随分と地味なものだ。
「そ‥そうか、この日に備えて服も買わずに金を貯めていたんだったな‥よし、少し奮発して色々買ってやるか」
玄関に綺麗に並べてある靴を履き、上機嫌にステップしながら店に出かける。
そして店に到着し、迷わず婦人服コーナーへと向かった。
「これ‥俺なんかに似合うのかな‥いや、アイツと会うんだから、ちゃんとした格好じゃないとな‥綺麗って、言ってほしいし‥」
そう、アイツのため。
大好きで、最愛のアイツのために、今俺は頑張っているんだ。
アクセサリーも買おうかな、香水も買ってしまおうか‥えっと、エステに行くのは‥さすがに時間がな‥。
やっと自らのスタイルがバッチリと決まる。
試着室の中で、くるりと一周回ってみた。全く問題ない、完璧だ。
これで、アイツも俺のことを惚れ直すだろう。
飯塚は彼の驚き、褒めてくれる所を思い浮かべ、嬉しそうにクスクスと笑った。
気付けば、既に時間は迫っている。余裕を持つつもりが、逆に遅れてしまいそうだ。
何とか到着したのは、五分前‥まだ、アイツは来ていない。
ドキドキしながら待つ‥そして、約十分の遅れで、アイツはやって来た。
「遅い! 何やってんだ‥」
あ‥だ、だめだ。
もっと、もっと女の子らしく。
飯塚は深呼吸し、改めて。
「もぅ、遅いよ。 待ちくたびれちゃったんだから」
―今は届かなくとも、心が純粋である限り希望が潰える事はない―