タイトル:【紅獣】無謀な空戦マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/22 07:14

●オープニング本文


 轟音が、施設内に鳴り響いた。
 振動が、施設全体を揺らした。

「ったく‥ここの対空設備もたかが知れてるわね」

 雨在 利奈は危なげなくバランスを取りながら、揺れる世界の中長い廊下を疾走していた。先ほどまで周囲に何人もいたのだが、全員転倒したり壁に頭を打ったりして遥か後方だ。
 現在彼女はとある軍の重要拠点にいる。勿論、何でも屋としての仕事だ。
 最近この辺りにHWの姿が確認されたとも情報があったので、LHの傭兵達とついでに何でも屋である【紅獣】に警戒を兼ねての護衛を要請していたのだ。

 LHでは傭兵を募り、相談し、それから準備して出発だが、何でも屋の場合は受けるかどうか判断、準備して出発‥ただそれだけなので、どちらが早く到着するかは言うまでも無いだろう。
 そして現地にやってきたのは雨在 利奈である。普段はノリと気分でしか動かない彼女だが、KVを動かせるのは彼女か零しかいなかった‥そして零が少し不調だったので、彼女が渋々来る事となったのだ。

「距離から推測して、HWが到着するのは約二日後でしょう」

 そういう話だったのはつい昨日。何処から出た情報なのかは知らないが、予定より一日も早くHWはこの拠点に到着してしまったのだ。
 一応対空部隊が発進していたが、いずれも一般人の軍人が乗った戦闘機や戦車だ‥長くは持たない。

「今日中にあいつ等(LHの傭兵)が来るはずだし、アタシが先に適当に暴れるか‥っと!」

 KV格納庫の扉に至る寸前、突如目の前が大きく崩落し、爆風が起きた! どうやら流れ弾のようだが、運悪く彼女の付近に着弾したのである。
 彼女自身は咄嗟に飛びのいて無傷だったが、当然ながら格納庫への道は閉ざされる。

「クソ‥いくらアタシでもKV無しでHWはめんどくせー‥ん?」

 服の埃を払いながら、利奈はふと左方の扉を見る。
 そこはKVではなく一般の戦闘機が格納されている倉庫であり、今は大半が出計らっているはずだ。
 もしかしたらKVの方の格納庫と繋がっているのでは‥と期待した利奈だったが、生憎そう上手くは出来ていない。
 だが、F−15(戦闘機)が一機、発進準備中で待機していた。
 戦闘が始まってそれなりの時間が経っている、なのに何故この機体はまだ発進していないのだろう。彼女が抱いた疑問はそれだったが、すぐに答えが見つかる。

 その機体の近くで、三人の男達が言い争っていた。

「こ‥こんな機体であいつらに敵う訳ねえよ!」

「だからって、このまま指を咥えてみてるってのか!? お前が行かないのなら俺が‥」

「辞めておけって‥死にに行くようなもんだ」

 どうやら、一人のパイロットが行きたがっているのを二人の仲間が引きとめているらしい‥確かに戦場に出る以上死んでしまう可能性はある。だが、このまま何もしなくても、いずれはこの基地ごと火の海になる。

 利奈はズカズカと三人歩み寄り、そのまま通り過ぎて機体によじ登る。

 一瞬呆気に取られていた三人だったが、慌てて止めに来た。

「ちょ‥おまえ」

「アタシが行くわよ。アタシは余所者だし止められる義理は無い。んで、誰かが行かなきゃならないんでしょうが!」

 それでも止めようとよじ登ってきた反対派二人を利奈は蹴り落とし、コックピットに乗り込んだ。

「ディアブロほど暴れられねぇけど、ハンディと思えば丁度良い!」






「こちらLHの傭兵部隊。これより基地防衛の為、戦闘に介入する!」

 傭兵達の乗るKV達が戦場に姿を見せたのは、利奈が参戦してから十分後のことだった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
天(ga9852
25歳・♂・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST

●リプレイ本文

「ぜ‥全機、後退っ!」

 HWとの激闘の空戦の最中、必死で戦っているF−15の一般兵の間に小隊長の叫び声が通信越しに聞こえる。だが、他の兵も小隊長が命じる前に、慌てて戦域から離脱すべくブーストを掛けていた。
 雨在 利奈(gz0124)のF−15が援軍として上がってきた物の、撃墜者が出なくなった事くらいで戦況が最悪なことには変わりない。いくらパイロットとしての腕前が超一流であろうと、操る機体に問題があるのだ。
 そんな中、真打の登場である。LHの傭兵達が到着したのだ。
 皆が安堵したそのとき、通信機からソード(ga6675)の声が響いたのだ。

「聞こえますか? そちらに大量のカプロイアミサイルを発射しますので急いで後退してください」

 カプロイアミサイル、K−01小型ホーミングミサイルとはいろんな意味で有名な兵装だ。実際に見た者は少なくてもその装備内容は兵達の間でもよく話題になり、当然兵装の無茶苦茶さも広く浸透している。

 巻き込まれてはたまったものではない。

 何とも単純な動機だが、兵達は全速力でその場から撤退を開始する。一応、利奈も戦線から離れておく。
 だが、敵は易々と撤退させてはくれない。一機のF−15に対して十分すぎるくらいのHWがオマケとして追尾してくる。
 その中のHW一機が、突如として爆砕する。金城 エンタ(ga4154)のD−02による援護である。爆砕したHWは最前列で追いかけていたため、その後ろで飛んでいた数機のHWも運悪くそれに巻き込まれてしまった。

「しかし‥本当に多いですね。早く、味方を下げないと」

 金城は自身も装備しているカプロイアミサイルのスタンバイを完了させつつ、撤退機の支援を続けた。その傍らを高速で通り過ぎたのは、御崎緋音(ga8646)のヘルヴォルだ。

「時間を掛けるだけ不利になってしまいます‥一気に決めなければなりませんよ!」

 金城が出鼻を挫いたHWの追跡隊に、ヘルヴォルはF−15との間に強引に割り込む。そして高分子レーザーを照射した。また新たにHWを落とせた物の、敵はまだ押し寄せる。攻撃時に出来た隙を狙い、数機のHWは彼女に牙を剥いた。

「まだ‥!」

 敵の武装が自機の装甲を穿っているのを感じながら、御崎はピッチアップによる百八十度ループ、百八十度ロールを連続的に作動させる。重力に抗いつつ無理やり上昇したヘルヴォルは相手の真上の位置を取る事に成功した。
 少し離れた宙域からその大胆な戦法を見ていた一機が、感嘆の声を上げる。 

「凄いなぁ、俺もがんばらないと。それにしても早く帰りたいよ、爆炎の空なんて飛びたくないし」

 暁・N・リトヴァク(ga6931)はぼやき声とは裏腹に、鋭い航行で一気に敵の間合いに入る。HWに驚く、と言う感情があるのかは定かではないが、唐突に視界に入ってきた暁機に対してとっさの反応が出来ないようだ。やっと銃身を暁機に向けたときには、ミサイルがその身を蹂躙している。仲間の屍の仇討ちをと、一瞬視界が曇る中で残りのHWは弾丸を叩き込む‥が、既にその位置に彼はいない。
 一撃離脱。
 高起動を生かして戦場を駆け回り、確実に敵の戦力を削ぎ落としている。よって暁機は既に少し離れた敵に向かっていた。
 勿論、この残ったHWたちを無視するわけではない。こういうときのために、味方は存在するのだ。

「抜かせる訳には行かないのよね〜。だってそれがあたしのお仕事だもの♪」

 言葉と共に放たれたのはガトリングの雨。
 攻撃を仕損じたことにより隙だらけだったHWに、狐月 銀子(gb2552)が襲撃を掛ける。まるで激しい踊りを踊らされているかのように弾丸に蹂躙されたHWは、蜂の巣になって落ちつつ数秒後に爆破した。

「さってと、次々〜♪」

「もう少し、緊張感を持ったらどうだ‥」

 レーザー砲で確実に敵の数を減らしている南雲 莞爾(ga4272)はぼそりと通信機越しに呟いた。ばっちり、彼女は聞こえている。

「常に明るく元気でGO♪ それが私だから仕方が無いわ♪‥おっとっと」

 運悪く地上の対空戦車の砲撃が左翼をかすり、機体がよろめく。それを隙と見たか、虫のように殺到するHW。
 それみたことか、と内心思いつつも顔にも口にも出さず。彼女の機体を援護するべく、突っ込んでいく。
 死角からの南雲の機体に一瞬反応が遅れ、それは致命打となる。HWはレーザー砲撃を受け、大打撃を受けた。

「今のうちに一時後退しろ、体勢を立て直せ」

「まだ大丈夫だけどぉ。そうね、ちょっとだけ退くわ。でもその前に〜♪」

 南雲が作った血路を暫し飛んだかと思うと、彼女は急に百八十度旋回を行なった。

「シュテルン君、きみの本気を見せてあげるのよ♪」
 
 特殊能力、発動。
 機体に更なる力が宿り、殲滅力を増加させる。
 放たれた高分子レーザーは、確実に相手に損害を与えた。

「やる事はやったわ。また後でね、皆♪」

 そう言い残し、後方へと下がっていった。

「心強いですわね。精神的に切り詰められる戦場で彼女のような存在は貴重かもしれませんわ」

 一機のF−15を無事後方に待機させ、クラリッサ・メディスン(ga0853)は南雲の隣を平行して飛ぶ。

「そうかもしれないが‥」

 南雲は言葉を切る。
 高起動戦闘を行なっていた暁機が撃ち漏らした数機が、こちらに向かってきたのである。

「今は目前の敵を狙いましょう。突破させるわけには行きませんわ」

 そして二機は磁石の対極のように離れる。その間をミサイルが通過していった。

「―――紅の牙は獲物を穿つ‥アグレッシヴ・フォース、起動」

 ディアブロの特殊能力が作動する。
 南雲の機体は素早く相手の後方にピタリと移動した。気づいたHWが振り払おうと動くが、全く意に介さない。

「‥落ちろ」

 牙が噛み砕く。
 大幅強化された攻撃をまともに受けたHWは、まるで獣に噛み砕かれたが如く、粉々に自己爆破しながら地に堕ちていった。

 一方メディスン機だが、こちらは逆に後方に付かれていた。しかもどんどん集まってきて、三機が彼女を追い掛け回している。

「しつこいですわね‥」

 特殊能力を使うべきか‥。あれを作動させれば振り切り、逆に良いポイントを陣取れるかもしれないが、まだ使うには早い。何時終わるかもわからない戦闘において、蓮力の過剰消費は死を意味する。
 幸いにも、彼女はまだそのシステムを使わないですんだ。

「女の人を追っかけまわすなんて、みっともないとは思わないのかな!」

 横槍を入れる、と言う言葉がまさに相応しい。その意味ではなく、言葉そのものにおいて。
 槍の刺突の如く横手からHWに突撃したのは赤村 咲(ga1042)である。まさかそのまま突っ込むのか、とも思ったがそうではない。HWと赤村機との距離がほぼ0に詰まった瞬間、彼はトリガーを引く。
 射程0でのレーザー攻撃はHWを地に沈めるのに十分な威力を秘めている。そのHWの残骸を突っ切りながら、赤村は再度メディスンを追いかける機体に同じ戦法で確実に落としていった。

「ありがとう、助かりましたわ」

「礼なら良い。今は現状を最優先に考えましょう」

 現在の状況だが、まだ半分のF−15が前線から離脱できていない。これは当初にカプロイアミサイルを撃ち込んで戦力を削ぐというプランが難しくなり、下手をすればミサイルを撃ち込む時期を逸してしまう可能性もあった。
 だが、F−15を助けに深追いしすぎても危険だ。ここまでに至って撤退できていないと言うことは、そう簡単に撤退出来るような場所ではない、かなり深い場所で戦っているF−15がいると言うこと。
 この作戦のリーダー的存在のアルヴァイム(ga5051)は状況を鑑みて、通信機に話す。

「現時点で後方に展開している友軍機はそのまま防衛線を形成してください。前線での残存味方機は撤退に専念、私達がカバーします」

 カバーが出来る絶対の自身は無い。だが、やらなければならない。
 その救援に動いたのは、アルヴァイム自身。そして美環 響(gb2863)とヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)だ。

「手を伸ばせば助けられる命‥必ず」

 普段からのポーカーフェイスの微笑を崩さず、優雅なしぐさでKVを操る美環。だがその内心は『目の前で死ぬ人を見たくない』と言う思いが詰まっている。
 大胆で、臆病で、狡猾。
 それが彼の戦闘スタイルだ。
 F−15の撤退路を作るべく、彼は引き金を引く。ホーミングミサイルとロケットランチャーは周囲一帯を蹂躙し、仕留めるまでとは行かないものの、多くの敵に負傷を与えた。
 そして自らたちの突き進む場所に向けてライフルを放つ。先の攻撃で機動系に異常が起きたのか、ノタノタと飛んでいるHWは格好の餌食である。
 レーザーに刺し貫かれるHWは、断末魔の悲鳴のごとき爆炎を上げ、沈んだ。

「撃ち貫く!」

 敵が弱っている中、チャンスとばかりに突き進むヴァレス。
 AAMが発射されるたびに敵が沈み、見る見るうちにF−15を追いかけるHWの数が減っていた。

「後は俺達が引き受ける、早く退くんだ」

 それでもF−15を狙うHWを自らの機体で敵の攻撃を受け止めつつ、ヴァレスは叫んだ。そしてそのままF−15に追走し、後方まで護衛して行った。彼はカプロイアミサイル発射班なので、いつでも発射できるように準備しなければならない。

 その一方で、メディスン機達も二機目の救出に成功した。

「告死天使の裁きの一撃、その身に存分に刻みなさい!」

 ここに至って発動させる、シュテルンの特殊能力。
 その効果に影響された兵装が火を噴き、瞬く間に残骸の霧を作った。

「よくここまで頑張りましたわね。早く後方に待機してくださいませ」

 F−15のパイロットは礼を言おうとして‥警句を発した。
 メディスンは咄嗟に機体を旋回させる。ついさっきまで居た位置に、奇襲を仕掛けてきたHWが突進していた。
 HWは体勢を崩したが、メディスンもすぐに反応できる状態ではない。
 だが、HWは撃墜された。第三者の介入によって。
 御崎である。

「ただの壁とは、思わないで!」

 ヘルヴォルとは雷電に付けたあだ名。
 確かに雷電はその巨体と耐久力ゆえ壁と呼ばれることもあるだろう。
 壁なら恐れるに足りぬとも、要塞となった壁は恐ろしい物なのだ。そして、彼女の機体は要塞と呼べるのに十分の力を有している。
 その空中移動要塞がHWとすれ違ったとき、ソードウィングによって、機体は打ち砕かれた。

「おっと、こういうものも堕ちたら被害は大きいでしょうね」

 ここまで数多くのHWが堕ちてきたが、その幾つかは最後のあがきか基地の方へ落ちていたものもあった。だが、いずれも基地に到達することは無かった。
 なぜか、この点に着目をしていた味方が居るからである。
 ソードは若干下方から皆の援護をしつつ、撃墜されながらも基地に向かっていたHWを撃ち抜いている。時折、撃墜した後の機体の処理は盲点となるのだが、彼はそれに迅速に気づき、処理を行なっているのである。
 皆が安心して敵を落とせるのは、彼のおかげといっても過言ではなかった。

 残りは後一機。だが、それはもっとも深い場所で飛んでいる。しかも煙をあげている所を見ると、長くは持ちそうに無い。
 しかし、そのF−15は助かった。一機のディアブロが、瞬く間に周囲のHWを蹂躙したのである。

「いい加減こいつらも見飽きたな、さっさと終わらせるよ!」

 何時の間に機体を乗り換えたのか、雨在がF−15を救出したのだ。彼女が通り過ぎた後には、残骸が散る。
 実は、事前にアルヴァイムが連絡を入れておき、準備させておいたのだ。現在この宙域には居ない天(ga9852)が何とか交渉を行い、乗り換えてもらったのだ。
 
 これで、全てのF−15は後方に待機、或いは撤退したこととなる。
 すかさず、アルヴァイムが激を飛ばした。

「全員構え! カプロイアミサイル発射準備、その他の物はその支援及び取りこぼしの撃墜を! 当初とプランは変わりましたが、これで終わらせましょう!」

 アルヴァイムの指示通り、防衛ラインに味方機は一斉に並ぶ。並ぶといっても航空機は常に動き回らなければならないが、それでもその光景は壮観だ。
 HWは防衛線を突破しようと試みるのだが、暁をはじめとした高機動KVが邪魔をして、その分厚い壁を破れない。

「PRMシステム起動。皆さん、準備はよろしいですか?」

 ソードがカプロイアミサイル組みとタイミングを計り始める。
 これは一斉に発射するからこそ意味があるのだ。タイミングを逸してはならない。
 そして、時は来た。

「遅れたお年玉です。遠慮せずに、全弾持っていってください!」

「発射ぁ!」

 金城とヴァレスの声が、ほぼ同時に放たれた。

 千を超えるミサイル。
 対空戦車隊の一斉射撃。
 F−15隊のミサイル一斉掃射。

 恐ろしくも美しい、光景だった。


●内通者
 轟音、などという生ぬるい言葉では表せない超振動超爆音が施設内を揺らした。

「っと‥みんな、やったようだな」

 ただ一人、基地施設内を走っていた天は、確信をこめて呟いた。
 彼はここについてすぐに基地に降り立ち、利奈のディアブロの機動の手伝いをし。彼女が戻ってきたときには交渉を行なっていたのだ。
 勿論、ただで願い事を引き受けてくれる彼女ではないので、天は皆から持ち寄った酒で彼女の『依頼』したのだ。
 別に報酬に惹かれた訳ではあるまい。恐らく、彼女は天たちの誠意を見たかったのだろう。あっさりと首肯し、飛び立っていったのだった。

 と、エマージェンシーで誰も居ないはずの廊下に、一人の人影が生じていた。天は別段驚かず、無言で武器を持って歩み寄る。
 そして、単刀直入に言った。

「お前が、内通者か」

 その男は驚く。だが、首を横には振らない。
 予想外の展開、つまりHW側が押される事になるとは予想していなかったのだろう。彼は何も持たず、逃げ出そうとしている。
 男は奇声を上げつつ飛び掛ってきた。だが、天はそれを余裕で避け、死の一撃を叩き込む。
 恐らく、証拠品を処分するような余裕は無かっただろう。この男の身辺を探れば、すぐに内通者と割れる。
 天は通信機に呼びかける。

「内通者は無事処分した、これで本当の意味で依頼終了だな」

●依頼完了
 数多の一斉攻撃を受け、HWは撤退した。
 更に、内通者を暴くことによってこれ以上の情報混乱も未然に防ぐことに成功するという、オマケ付きだ。

「やっと終わった。普通に空を飛びたいよ‥」

 暁は、通常航行状態にKVを戻し、ゆっくりと空を飛んでいた。
 雨在は報酬は振り込んどけ、と言い残しさっさと去っていく。既に、彼女の機影ははるか彼方だ。

 誰もが苦笑してそれを見送った中、一人だけその機影に手を伸ばす。

「僕もいつか‥」

 荒々しくも、心惹かれる美しさもある戦闘姿。
 美環は心に誓った。
 あの高みへ、至って見せる‥と。