タイトル:【残間の業】贖罪の鉄槌マスター:中路 歩

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/28 23:41

●オープニング本文


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「諸君! 私は大切な仲間を卑怯な手で傷つけた某が許せない! それは君たちも一緒だろう!」

「‥ぉー」

「うむ、いい返事だ! 我々は某を断じて許しはしない! 我々は一丸となり、同胞の仇を取らねばならぬ! 今こそ、我らの結束を見せるときなのだ!」

「‥ぉー」

「さぁ立ち上がれ、戦士たちよ! 怒りの心を刃とし、果敢に突き進むの‥」

 ここに至り、遂に残間 咲(gz0126)が動いた。
 まだ包帯が取れないまま、ベッドの上で器用に小太刀の修復作業を行っていた彼女だが、視線をそのままに片手を強く翻す。
 幾筋もの銀の煌きが隣のベットで大騒ぎしていた零(gz0128)とリリス(gz0125)(リリスは微妙だが)の周辺に何本も突き立つ。
 『極幻戦士ガオガオガー』の一シーンの真似事をしていた零は、ピタリと口を開いたまま止まる。
 ちなみに、このシーンはマニアの間ではかなり有名なのだが、そもそもこの番組自体がかなりマイナーなので、知っている人は殆どいないだろう。後どうでも良い事だが、この間零が見ていた『ガゴガゴマン』とは全くの別物である。

「‥傷に障ります‥あと鬱陶しいです‥そして煩い‥」

「あはは〜、ごめ〜ん」

 ある意味生命の危機だったと言うのに、零は相変わらずニコニコしたまま謝った。リリスはと言うと、咲が投げたナイフを回収している。

「あぁそうだ、咲〜、一応この前咲が参加した依頼で一緒だった人たちのデータを集めて見たよ〜」

 そう言い、零はノートパソコンをドンと机の上に置く。
 その際修復器具が床に落ちたが、零は気付いていないらしい。
 多少イラツキつつも、咲は冷静に零が操作するパソコンの画面を見つめた。

「この前〜、リリスと一緒に小太刀を探してきてくれた人達の一人がね〜色々情報を送ってくれたんだよ〜。おかげで、結構手早く調べる事が出来たの」

「‥それで? 私を撃った犯人とやらは見つかったのですか?」

 自身の事だと言うのに、咲は無関心に画面を見つめている。
 彼女にしてみれば、『自分が誰に狙われようと別に不思議ではない』と思っているので、小太刀さえ戻ってくれれば正直どうでも良いのである。
 だが、その彼女以外のメンバーはそうは思っていなかった。

 珍しく、非常に珍しく零が『真剣に』声を大にした。

「もう! もう少し当たり所が悪かったら死んじゃうかもだったんだよぉ! 私、そんなので咲がいなくなるなんて嫌だからね!」

 一時の静寂。
 暫くして零が顔を紅くし、気まずそうにちょっと下がる。
 リリスは、ジッと二人の様子を眺めている。

 やがて、咲がポンと零の頭の上に手を置いた。

「‥心配してくれるのですか‥ありがたいことです‥」

 と言いつつ、普段絶対に見せないような微笑で、顔を彩った。

 今度は別の意味で零が顔を紅くし、パソコンに視線を戻す。

「え‥えっとね‥その中で、偽名を使っていて身元が不明瞭な人が2人いるの‥」

 クリック。
 すると、画面に大きく2人の男の姿が映し出された。

「ん‥?」

 思わず声を漏らす咲。
 この男達、両者何処かで見たことがある‥だが、どうでも良いことは忘れてしまう性質なので思い出せない。

「他の人たちは、私達が直接会って色々聞いたんだけどぉ‥何ていうかね、あの依頼で銃を持っていたのは、その身元不明の二人だけなんだって‥あれれ、どうしたの?」

「‥いえ」

 まぁ、忘れるくらいなのだから本当にどうでもいいことなのだろう。
 もしこの二人のどちらかが自分の命を狙っていたとしても、多少痛めつけるだけで済ませるつもりだ。
 今の自分の立場は既に暗殺者ではない。仕事外での人殺しは極力避けないといけない。

「それでね、その二人が入る依頼に、私とLHの能力者さん達が同行して、見極める事にしたの。きっと、犯人を見つけられるから安心してね」




●数時間後
 真っ暗な病室。
 リリスは帰ったが、零は付き添いのために部屋に残っている‥が、『明日の依頼の為に早めに寝る』とか何とかで、夕方には眠ってしまった‥床で。
 咲はと言うと、小太刀の補修を追え、少しだけ自分の過去に付いて思いを馳せていた。

 人を殺すのが人助けになる。本気でそう思っていた時期があった。
 だから、私は暗殺者になった。昔から戦いしか取り得が無かった私が、やっと人の役に立てられると思った。
 だが、現実は違った。
 私は無知すぎた、そして愚かだった。
 気付けば、人の命に重みを感じなくなった。
 気付けば、私の周りから人は消えていた。
 気付けば、自分は周りから命を狙われるようになっていた。
 物心ついた時から持っていた、この小太刀だけが私の‥。

「‥っ!」

 なんとなく小太刀に目を向けたその時、咲の目の前で小太刀が机から落ちる。
 何かの拍子だったのだろうか、それを視線で追い‥慌ててベッドから飛び降り、小太刀を拾った。
 その刃は床をすべり、零の方へ滑っていっていたのだ。

「‥」

 これは偶然か、それとも何かの予兆なのか。
 咲は、嫌な予感を感じつつも、修復を終えた小太刀を鞘に仕舞った。

●依頼の出発
「んじゃ! 行ってくるね〜!」

 見送りに来た紅獣の面々の前で、零は元気良く手を振りながら、軍からの迎えのバスに乗り込んだ。既に中には他のメンバーも乗り込んでいる。
 紅獣からの斡旋依頼ではなく、軍から出されていた依頼に零が入った形なので、他の皆に迷惑をかけないかがとても心配だ。

「‥」

 咲(まだ負傷しているので、ゆったりとした服装で見送り)は、そのバスを厳しい目で見つめていた。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
フォビア(ga6553
18歳・♀・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA

●リプレイ本文

「はいはーい、皆さんごとーちゃくだよぉー!」

 どこから取り出したのかは良く判らないが、観光ガイドが持つような三角の旗を振りつつ登山口の前で待つ零(gz0128)。芸が細かく、旗には『ラスト・ホープ傭兵一行様』と刺繍が施されている。
 少し遅れて、この依頼の参加メンバーである9人が荷物を背負わせながら歩いていきた。それぞれ緊張した面持ちだが、零の芸(?)で若干頬が緩んだ者もいる。

「‥なんか、山に来るとバーベキューをやりたくなるのは何故だろう」

 中々に高い山を見上げながら、ヒューイ・焔(ga8434)はボソリと呟いた。
 丁度その隣にいた旭(ga6764)は、微笑みながら答える。

「あ、良いですね。だけど、それはまたの機会ですよ。今回は任務優先ですからね」

 ヒューイは黙したまま、判っているとばかりに頷く。
 少し離れたところでは、零たちの『本当の目的』である当事者二人、キリトとオスラ=ウェアハーツがなにやら雑談を行っていた。
 その二人を観察しているフォビア(ga6553)だが、最初のバス内から今に至るまでの会話といえば『昨今の銃の性能に付いて』とか『KVをより効率よく操る術』など別に傭兵ならば何らおかしく無い内容であり、疑う点は無い。ウェアハーツなどは、キリト以外の皆にも普通に気さくに話し掛けていたし、キリト自身は静かにしていたが、特に怪しい行動を取っているわけではない。
 唯一それらしいのが『前の依頼について』だったが、これも特に気になる点は無く、単純に『重傷者が一人出た』で終っていた。

 だが、気になる点が無いと言うのが逆に不気味だなのだ。

 仮にも、同行者が一人撃たれているのだ。何の話題もないのはおかしい。
 それに関して、フォビアは色々思うことはあるらしいが、今は何も語っていない。

「(あの咲が手傷を負ったとなると、怪しいのは遠距離攻撃が出来るスナイパーだろうか‥?近距離での殺気ならば、咲ほどの実力者が気付かないはずはないのだが‥)」

 八神零(ga7992)は藤村 瑠亥(ga3862)、須佐 武流(ga1461)と共に申請して借りる事に成功した登山用スパイクのサイズを確認しながら、フォビアと同様に二人を確認していた。
 彼もまた、推測だけで確証は得られていない。

 と、既に登山用スパイクを身につけ、荷物を器用に背負ったアンジェリナ(ga6940)が何気ない足取りで一人キャッキャと騒いでいる零に近づく。
 そして、手をさしだしながら言った。

「零。前に頼んで置いた小太刀の修復、ちゃんとやってくれていたか?」

 零は「アッ」と思い出したように荷物をゴソゴソ探り、暫くして一本の小太刀をアンジェリナに渡した。

「確か〜、銃弾受けちゃってたんだよね〜。結構直すの苦労したんだよ〜」

 この一連の会話、行動の大半は嘘っぱちである。
 アンジェリナの小太刀はもともと損傷していないし、零に渡したのもバスに乗ってすぐなのだ。
 ならば、何故こんな嘘をついたのか。
 それは、零が小太刀に施した装飾に答えがある。

 その小太刀は、残間 咲の持っていた小太刀と瓜二つなのである。

 どうしてその様な小細工をしたのかと言えば、これを見ての二人の反応をうかがう為だ。

「あぁ、ありがとう。私の大切な武器だからな、完璧に治してもらって嬉しい‥」

 そう言いながら、チラリと二人の方を見る。
 だが、二人ともそれほど反応をする事はなかった。

 若干落胆の雰囲気を醸し出しながら、一行は登山を始める。
 ‥9人が登山口に足を踏み入れていた一番後ろで、一人の男が額から汗を流し、振るえる手を抑えていた。


●質疑
「零、そういえばお前の仲間が任務中に誰かに撃たれたそうじゃないか。大丈夫なのか?」

 本当に何気ない一言だ。
 これも勿論二人の出方をうかがう為だったが、やはりと言うかなんと言うか、そう簡単にボロを出してくれそうには無い。
 言った当事者である須佐もそれは予想できていたのか、表情一つ変えずに傍らの零と雑談を続ける。

 ちなみに、零は後衛に着いてくれ‥と頼んだにも関わらず、彼女は思いっきり先頭にいる。と言うより、一人で盛り上がっているうちに自然と足取りが軽くなっていたらしい。
 まぁ、今はキメラの姿も無いので、皆自由に隊列を組んでいるのだが‥。いざキメラが現れると、全員素早い動きで隊列を揃えてくれるだろう‥零が不安だが。

「そう言えば、ウェアハーツさんは銃に詳しいらしいですね。今回の銃を使う戦闘方法に付いて談義しませんか?」

 探りを入れるのとは別として、この依頼自体も完遂しないといけない。
 旭はそう思い、ウェアハーツとの連携のために相談を持ちかけていた。

「OK任せろ。僕の教えられる事なら何でも答えようじゃないか」

 事前情報の通り彼は銃に詳しいらしく、その上依頼成功に貢献出来るならと喜んで談義に応じてくれていた。
 
 一方もう一人の容疑者、キリトの傍らには藤村が並行していた。

「俺の中で一番最悪だったのは囮にされて荷物の護送をさせられたことだな。あの時はさすがにダメかと思ったな」

 そう、苦笑を交えながら藤村は話していた。
 彼が話題に上げているのは、過去に受けた依頼の事であり、この話題が最も確信に触れられると判断しているのだろう。
 そして、仮にこの人物が犯人ならば、残間と以前に何らかの因縁があったのではないか‥とも推測している。もしかしたらその因縁と言うのが、依頼関連だったら尚更だ。

 だが、キリトは。

「‥俺は、半年前に受けた依頼だな‥。強力な酸を吐くキメラでな、得物が破損した時は流石に参ってしまった‥」

 いとも平然と答えた。その苦虫を噛み潰したような表情からは、嘘偽りは無いように見える。

 と、唐突にヒューイが全員の足を止める。

「ここから先が危険地帯らしいぜ‥そろそろ、臨戦態勢に移っておいたほうが良くないか?」

 何らかの高温を受けたのか、グニャリと歪曲した看板を手に取り言った。
 既に道の脇に無造作に転がされており、指摘されないと気付けないだろう。

 臨戦態勢と聞き、八神が容疑者二人にあらかじめ相談していた通りの事を依頼する。
 キリトには隠密潜行で斥候的役割を、そしてウェアハーツには探査の目で周囲の探索を事前に頼んである。二人は素直に首肯し、早速ウェアハーツがスキルを発動し、辺りを見渡した。
 その傍らでキリトが隠密潜行を発動、先に進もうとして‥ウェアハーツに制止される。
 訝しげに見る一行の目の前で、彼は小銃「シエルクライン」を二丁抜いた。

「待ち伏せだ‥来るよ!」

 ウェアハーツの言葉が引き金になったかのように、前方の岩陰からキマイラの群れが飛び出して来た!

●襲撃
「零さん! 貴女は後衛で支援‥」

「うん!」

 フォビアは武器を構えつつ、すぐ後ろにいるはずの零に向け、振り返りながら叫‥ぼうとして、口を閉じた。
 既に『零さん』の部分で、彼女はいつの間にか最後衛に立っている。相変わらず、こういう時の足は異常に速い。
 それを見て、フォビアは少しだけ苦笑し、敵に向き直った。
 まず前衛組みは、邪魔な荷物を後衛に放り投げる。後衛はあらかじめ判っていたので難無く受け取り、道の端に後衛の分も含め置いておく‥確実に安全とは言いがたいが、持って戦うより遥かにマシだ。

「キマイラ‥ギリシャ神話の怪物か‥」

 八神は流れるような手つきで月詠を鞘から抜き放ち、そのままの動きで地上に立っている手近な一体に走る。

 二対の銀光がキマイラの肉に喰らいつこうと奔った!

「八神!」

「っ!」

 その八神の上側方から炎の弾が降り注いだ。
 死角になっていた為、それに気付けなかった八神だったが、ヒューイの警句のお蔭で直撃は免れた。
 だが、一発が足を焼き、八神は膝を付く。
 そこへ容赦なく襲い来るはキマイラ。先ほど八神が狙おうとしていた一体である。

「甘いな‥その翼、叩き斬ってやる」

 八神の前に立ちふさがったのは、須佐だ。
 グラップラーの、そして自らのレベルを最大限に生かしたカウンター攻撃は、キマイラの翼を斬り‥というより引き千切り、そのまま蹴っ飛ばして崖下へと落下させる。
 翼があれば滑空なり出来たのだろうが、あの状況では生き延びるのは難しいだろう。

「ソニックブーム!」

 ヒューイは、先ほど八神に向かって炎弾を発したキマイラに衝撃波を飛ばす。
 それは回避されてしまったが、そこへ叩き込まれた旭の銃弾を回避する事は出来ない。
 血煙を上げながら、キマイラは地に落下する。

 駆け寄ったヒューイはそれを踏みつけ、剣を突き立てた。
 
 キマイラは数回痙攣したが、すぐに動かなくなる。
 安堵するまもなく、ヒューイはその場から飛びずさる。その屍ごと、キマイラが炎で焼き払ってきたのだ。
 だが、そのキマイラもすぐに大人しくなる。
 キリトとウェアハーツの援護、そしてその弾幕を隠れ蓑に背後に回りこんだ旭の流し切りがキマイラにクリーンヒットする。
 早くも、合計三匹のキメラが戦闘不能となった。

 残りの二匹は、真直ぐに後衛へと向かっている。
 ‥が、その前にフォビアが瞬天速を使用し、回り込んだ。

「‥させない!」

 突進してきたキマイラを疾風脚で刹那のタイミングで回避し、すれ違い様にショットガンの銃口を押し当てる。
 
 発砲。敵の頭部に大穴が開いた。

 残るは一匹。
 やはり戦闘生物の本能か、一番弱い対象を狙いに定めたようだ。
 即ち、零である。
 こちらも相変わらずで、意外に落ち着いて対応しようとする彼女だったが、その前にアンジェリナが立ちふさがった。

「‥決して私の側から離れるな。あなたの身は、私が保証する」

 唐突に視界に飛び込んできたアンジェリナに、キマイラは反応が大きく遅れる。
 そしてその隙は、彼女を前にしては致命的過ぎた。

 先手必勝・二段撃で一気に攻撃を叩き込まれたキメラは、急所をズタズタに引き裂かれて、静かになった。
 と、その後ろで動きが生じる。

「動くな。動かなければ危害は加えない」

「な‥なんだよ‥」

 藤村が、ウェアハーツの銃口を上から抑えていた。
 見ると、彼の銃口は零の背中付近に向けられている。

「あわわ‥ど‥どしたの!?」

 おっかなびっくり後退する零。

「僕はただ‥」

「事情は知らないが、仲間に銃を向けるとは許せんな」

 そう呟いたキリトが、ウェアハーツから銃を取り上げる。
 まだ何かウェアハーツは喚いていたが、無視する事にする。

 とりあえず依頼をこなし、その後で彼の尋問をする事に決定した。
 やっと一つ問題が片付いた‥と安堵する皆の中で、八神とフォビアだけが厳しい顔で押し黙っていた。


●分離
「分かれ道‥だな」

 藤村はボソリと呟いた。
 そう、彼の言うとおり、分かれ道だ。
 片方は頂上へ向かう道、片方は目的地である山小屋への道だ。
 だが、こちらも先と同じく看板が歪に曲がっており、今度は閲覧すら不可能だった。

「仕方ないな。ここは分かれるしかねぇか」

 須佐の提案に、一同は首肯する。
 もう山頂までそう遠くないはずだし、間違った方は戻ってくれば良いのだ。

 班分けとしては、ウェアハーツの監視を兼ねるのが須佐、藤村、旭、ヒューイと言う事になった。
 もう一斑は残りの面子で、特にフォビアと八神は自ら進んで零の警護に付きたいのだと言う。やはり、何か思案しているかのような厳しい表情だった。

●虚偽
「たとえいかなる理由があろうとも‥仲間を背後から撃つなどという行為‥万死に値する!」

「目的は紅獣か? それとも残間のみか?」

 歩きながらも、藤村と須佐は詰問を続けている。
 両者とも優秀な戦士であり、紅獣に関わっている経緯がある。
 許せないのは仕方ない事だろうが‥どうも、ウェアハーツの様子がおかしい。

「だーかーら! 僕は何もしないってば!」

 流石に不審に思った旭が、三人の間に割って入る。

「失礼。今更ですが、何故あなたは零さんに銃を向けていたのです?」

 その問に、驚くべき答えが返ってきた。

「さっき崖下に落ちて行ったキメラがいたでしょ、アイツが上がってこようとしたから仕留め様としたんだよ。そしたら、その前にキリトの奴がそれを撃ち落したから、僕は銃口を戻そうとして‥もう、キリトは知ってたはずなのに、酷いよな!」

 戦慄が、全員に走った。
 ならば、犯人は‥。

●暗躍
「これで一安心‥とは行かないようだな」

 アンジェリナは、零に荷物を預け再び武器を構えた。
 狙いは今現れたキマイラだ‥まぁ、二匹だけなのでこの面子でも十分に対応できるだろう。

「すぐに片付けよう。3人とも、いくぞ」

 八神の掛け声と共に、一斉(零以外)に敵に襲い掛かる。
 予想通り、一匹は八神とアンジェリナの攻撃であっけなく沈む。
 っと、そこで!

 銃声が、鳴り響いた。

 狙いは間違いなく零を狙っていた。
 しかし、それを読んでいたかのようにフォビアが飛び出したため、銃弾は彼女の脇腹を貫通し、軌跡が逸れる。

「フォビア‥さん?」

 ぽかんとした表情の零、その姿はあまりにも隙だらけだった。

「零!」

 放たれる二発目。
 これもまた零を狙った物だったが、アンジェリナが彼女を押し倒す事でやり過ごす事が出来た。荷物は崖下に落下してしまったが、致し方ない。
 その際、銃弾はアンジェリナを襲い、血が噴き出る。

 第三発‥は来なかった。

「やはり、スナイパーだったか‥!」

 八神は月詠を持ち、刀の間合いで『キリト』を牽制していた。
 キリトは無表情ながら、口元を歪ませ。

「ほぉ‥どこで気づいた?」

 八神の場合は推測だったが、フォビアには根拠があった。
 キメラとの戦闘中、キメラにも同行者にも気付かれずに、攻撃が出来る唯一の存在。『隠密潜行』を持つスナイパー以外、この二択ではありえない‥という確信を抱いていたのだ。混戦中ならば、どんな負傷かなど一々見ていられないからだ。
 だからこそ、彼女は零に付き添ったのである。

「その女が咲と同業だと聞いて、引っ張り出す為の贄にするつもりだったが。全く、上手く行かない物だな」

「キリト、貴様!」

 八神が一瞬で間合いを詰め‥る前に、キリトが動いた。
 閃光弾をその場に叩きつけたのだ。
 凄まじい爆音と光、一瞬で視界は遮られる。

 視界が晴れたとき、キリトの姿はどこにも無かった。


●結果
 その後、残った荷物は山小屋に届ける事が出来た。だが、少し失ってしまった分、報酬から引かれるだろう。
 犯人捜索に関しては成功だ。声を聞き、顔も見ることが出来た。これを上に訴えれば、キリトをあぶりだす事も容易だろう。