タイトル:【残間の業】小太刀マスター:中路 歩

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/05 14:56

●オープニング本文


●病院
 高速艇から担架に乗って運ばれた人物を、病院側の医師が迅速に回収する。
 そして簡単に様態を調べた後、病院の中に担ぎ込んだ。
 その女性の腹部には大きな裂傷があり、他にも無数の打撲、裂傷、銃痕と思われるものまである。よくもまぁ、ここまで受けて生きていた物だ。
 医師たちはその生命を救うべく、手術室へと駆け込んだ‥。


「‥っ‥」

 肩から腹にかけ、包帯をグルグル巻きにしている「残間 咲(gz0126)」は、唐突に目に飛び込んでくる光に顔をしかめながら、起き上がった。
 その際激痛が走ったのか、反射的に患部を押さえる。
 と、そこで病室の扉が開いた。

「あ! 咲〜♪」

 手土産を持ってお見舞いに来た零(gz0128)が、喜びで涙目を浮かべながら、咲に駆け寄る。
 そして何をするかと思えば、抱きつこうとジャンプしてきた。
 一瞬受け止めようとした咲だったが、流石にこの容態で受け止めたら傷口が開くだろう。素早くベッドから降り、零をやり過ごす。
 スプリングが軋む音と共に、零はベッドにダイブした。

「‥一応、私はけが人なのですよ」

 呆れたように呟く咲。零は愛想笑いをし、ゆっくりと起き上がった。

「だって〜、すっごい怪我だったんだよ〜。珍しいよね〜、咲が怪我するなんて〜」

「‥」

「まぁ〜、仕方なかったかもね〜。難しいで危険依頼だったんでしょ〜?」

「‥」

 この沈黙は怒っている訳ではない。
 自らの力を過信していたわけではないが、まさかここまで不覚を取るとは思っても見なかった。
 今回の依頼は、キメラの討伐‥質より量のタイプで、膨大な数のキメラを相手にする物だった。事実、現場には鬱陶しいほどキメラが生息していた。
 だが、個体の力は大したことは無かったので、咲にとっては雑魚を蹂躙するのとさほど変わらない。現場でも、キメラの攻撃は一つも貰わなかったはず‥。

 いや、それではおかしい。

 自分は、このように無様な姿になっている。それを否定するつもりは無いし、自分とて無敵ではない、怪我もするだろう。
 だが、どうしてもその怪我をした時のことを思い出せないのだ‥。
 
 確か、ある程度のキメラを駆逐し、いつも通り同行者を無視して単独で見て回ろうと決めて‥そして‥。
 そして‥?

 思考に没頭していた咲だが、零は気付いていないらしい。
 よほど咲が気付いた事が嬉しかったのか、嬉しそうに淡々と言葉を紡いでいた。
 それを右から左へと受け流していた咲だったが、ある一言が彼女の注意を向けた。

「そういえば〜、咲が武器を何も持ってないってのも珍しいね〜。ナイフが無いときでも、小太刀は持ってたのに〜」

「!!」

 小太刀‥小太刀が無い!?
 彼女にしては珍しく慌て、ボロボロになった自らの衣服をひっくり返す。
 だが、カランカランと二本のナイフが落ちてきただけで、他には何もなかった‥。
 普段なら18本のナイフが入っているのだが、戦闘のときに投擲しているので、ナイフが無い事に関しては何の問題も無い。
 
 しかし、彼女が普段肌身離さず‥休暇時にすら持ち歩いていた小太刀が見つからないのだ。

「ど‥どうしたの?」

 零が、目を丸くしてみている。
 そういえば、彼女には小太刀の事を話したことはなかった‥信頼している数少ない人物なので、いつか話そうとは思っていたのだが‥。
 だが、今はそんな事どうでもいい。

 咲は床のナイフを再び戦闘(普段)服に押し込み、ボロボロのそれを身に纏う。
 傷があちらこちら痛むが、そんな物に構っていられない、咲は零に一声掛け、入り口に向かって掛ける。
 零はぽかんとしたまま、ただそれを見守っていた。

 だが、打撲音と共に、咲の行動は遮られた。

「全く、怪我人が何してるの‥呆れるわね」

 飛び出してきた咲を反射的に護身用の棒で打ち据えたのは、清総水 栄流(gz0127)だった。その口調には反省の色は全く無い。
 今に始まった事ではないが、彼女たちはライバルであると同時に、かなり仲が悪いのである。
 普段の咲ならばその一撃も避けるか受けるか出来ていただろうが‥今の彼女は満身創痍、加えて冷静さを完全に失っていたのである。

「それで、何があったの?」

 気を失っている咲を無造作に掴み、ベッドに放り出しながら、栄流は零に聞いた。
 零は素直に、今あった出来事を話す‥。

「あぁ‥それならば無理は無いわね」

 栄流は、咲が小太刀を命と同程度に大事にしていた事を知っているのだ。
 なにやら思案していた栄流だったが‥一つため息をつくと、踵を返す。

「私が探してくるわ‥こんな事で、咲が弱くなってしまったら、ライバルとして張り合いがなくなるからね」

 しかし、それを零が制した。

「えっとぉ〜、栄流が見つけちゃうと、咲が必要以上に気負っちゃうんじゃないかな〜? 仲悪いし‥ね?」

 最もな意見だ。
 栄流は暫し考え込んだ後‥やはり、病室から出て行った。




 後日、紅の獣から軍を通し、傭兵達に依頼が公開された。

『当何でも屋の能力者の一人、リリス・グリンニル(gz0125)と共に、XX地点の探索協力者を求む。探索物は「小太刀」』

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
フォビア(ga6553
18歳・♀・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA

●リプレイ本文

 探索を開始して、既に1時間以上が経過した。
 リリス・グリンニルを含めた八人は3班に分かれ、この広大な渓谷の底を探し回っているのだが、今の所収穫は無しである。

●ヒューイ班

「なんか、昔家の近くの川辺で無くしたオモチャを探しに来た時の事を思い出すな‥、ってここ川辺じゃないけど」

 ヒューイ・焔(ga8434)は周囲のキメラの巣らしき横穴を警戒しつつ、呟いた。
 巣といっても、既に大半は空き家でありキメラの出てくる心配は無い。
 今周囲を見た限りでも、先の依頼によって駆逐されたキメラの風化‥或い腐敗した屍骸。そして空薬莢などが散らばっているのみである。

 それでも、万が一の可能性は棄てきれないのだ。

 そのヒューイが警戒しているのとは別の横穴から、男と女がそれぞれ出てきた。いずれも、小太刀の散策に力を入れており、安全を確認した横穴を片っ端から調べているのだ。

「せめて‥手掛かりでもあれば、咲も少しは安心できるんだろうけど‥な」

 八神零(ga7992)は服の砂埃を払いつつ、戻ってくる。その言葉で想像はつくが、探し物は見つからなかったらしい。
 それはもう一人‥フォビア(ga6553)も同様のようだ。
 彼女は双眼鏡とシグナルミラーで、少し離れた位置の横穴も含め、ミラーで反射させた光に更に反射する物がないか調べていたのだが‥やはり見つからないようだ。
 フォビアは何度も小太刀を見たことがあるので、見つけられれば間違えることは無いのだが‥。

「‥」

 彼女はそのまま、先の依頼での戦闘痕と思われる穿たれた穴‥そしてキメラの屍に歩み寄る。
 そして、依頼前に申請し、借りたメモ帳にカリカリと記し始めた。

「これは銃痕‥それとも、キメラの攻撃‥?」

 銃弾は跳弾で何処かへ飛んで行ったのか埋没したのかで、明確に判別する事は出来ない。だが、空薬莢が落ちているのだから銃痕の可能性が大だ。
 しかし、リリス経由で聞いた話では咲は銃痕と思われる傷を受けている‥なので、キメラがその様な攻撃を発していた可能性もある。
 
 考えるフォビアの傍らに、八神が立つ。
 
「気になるが‥今は依頼を遂行しよう‥見つけてやりたいからな」

 その言葉に、彼女は一通り簡潔な状況を書きとめ、立ち上がった。
 と、そこへ。

「おっと‥敵さんのお出ましだぜ」

 そう言い、ヒューイは左前方上の横穴から這い出してきた二匹のキメラに向け、スコーピオンを向ける。
 相手は既にこちらに気付いていたのか、臨戦態勢だ。
 
 八神は肩をすくめ、刀を抜き放ち、前に進み出た。

「やれやれ‥散策だけとはいかないか‥」

 その後方では、フォビアがショットガンを構えている。
 今回彼女は探索を重視しているので、援護に徹する事にしたのだ。

 蜘蛛キメラがこちらに向けてダイブしてくると同時に、ヒューイとフォビアは、引き金を引いた。

●須佐班
 須佐 武流(ga1461)が周囲を見張る中、リリスはグラップラーである事を活かし素早く辺りを探索する。
 かなりテンポ良く探索は進んでいるのだが、肝心の小太刀は影も形も見えない。

「‥こちら須佐だ、やはりまだ見つからない‥」

 彼は軽いため息と共に、トランシーバーのスイッチを切る。
 そして、辺りを走り回っているリリスを呼び寄せた。

「‥無い‥」

 リリスは少ししょんぼりしたように、俯く。
 須佐はその頭に手を乗せ、軽く微笑む。

「無い物は仕方ないさ。別の場所を探そう‥嫌な予感もするしな」

 彼女はちょっと考え、頷いた。
 そして、少し別の場所に移動すべく歩き始める。

 暫くして、リリスは須佐を見上げ、聞いた。
 
「‥須佐さんは‥今回の事‥どう思う‥?」

 辺りを警戒しつつ歩く須佐は、その問いに一瞬ピタリ止まる。だがすぐに警戒を再開した。
 暫く無言だったが、やがて口を開く。

「さぁな‥だが、さっきも言ったが嫌な予感がするのは事実だ。‥こんなところ1分1秒といたくねぇ」

 今回の咲の怪我に関し、疑問を感じているのは彼らだけではない。
 メンバーの大半が‥主に残間 咲を知っている人物が、今回の事にかなりの疑問を抱いている。
 しかし、推測ばかりで物を言っても始まらない‥現状を片付け、その後で改めて考えるのが最善だろう。

 と、その時。リリスが前方で光点を見つける。

「ぁ‥!」

 須佐が何か言う前に、彼女は飛び出していた。
 ‥しかし、刃物は刃物だったのだが、それは小太刀ではなく、少し痛んだナイフだった。リリスはこれに見覚えがあったので、恐らくこれもまた咲の私物ではあるのだろうが‥。
 須佐は、少し遠目だがリリスが少し落ち込んでいるのを見て取り。

「‥まぁ、気にするなよ。俺には小太刀がどう言う物か知らないからな、そう積極的に動いてくれると助か‥」

 言葉の途中で、彼は目つきを鋭くする。
 少し遅れ、リリスも気付いたようだ。

 いつの間にか、キメラが一匹、こちらに糸を飛ばしてきた!

 先に気付いた須佐は回避に成功した物の、落ち込んでいたリリスは反応が遅れる。
 飛び退いたが、その足に糸が絡まり、転倒したのだ。

 須佐は急ぎ、蜘蛛に向かい、駆けた!

●藤村班
(「銃創の原因と小太刀の行方、繋がっているんじゃ?」)

  旭(ga6764)もやはり、今回の事については色々と疑問を抱いているらしい‥何より、「銃創」の部分が一番引っ掛かっているようである。
 これはフォビアも似たような疑問を抱いていたのだが‥おかしいのだ、やはり。
 何か引っ掛かる、何かおかしい‥。

 先頭を歩きながら思考に没頭していた彼の背中を、藤村 瑠亥(ga3862)がぽんと叩いた。

「何を考えているかは大体想像がつく‥俺もだが、今は優先すべき事があるだろう‥」

 奇しくも、八神と似たような言葉であった。
 旭は頷き、改めて周囲の警戒に移る。

 暫くして、三人は足を止める。
 とりあえずは、ここを中心に徹底的に洗うのだ。

 旭を警戒の為に道の中央に置き、藤村とアンジェリナ(ga6940)が周囲の探索に移る。
 やはり、この辺りにも横穴が多数存在し、探索には骨が折れそうだった。

「‥見つからないものだな‥」

 アンジェリナはジッポライターで内部を照らしつつ、穴の内部を探索する。
 気持ち悪い事に風化した人骨などが転がっていたが、ここは我慢するしかない。彼女は静かに黙祷し、探索を続ける。
 中途で小太刀らしきもの‥正確に言えば剣のような物も見つかったが、すっかり錆びてしまっており、これはここ数日のものではないと判断する。
 例え雨に晒されていたとしても、ここまで痛む事はありえない。
 彼女は軽くため息をつき、穴から出る。すぐ隣の穴からは藤村が出てきたが、彼もまた収穫ゼロのようだ。

 二人は旭に視線を飛ばし、目線で安全か否かを問う。
 一通り周囲を見渡し、彼は大丈夫と身体で表現した。

 それを確認し、二人は再び別の穴の散策へと移った。

 と、藤村が別の穴に目を向けたとき‥奇妙な光点を見つける‥。

「!!」

 その光点とは蜘蛛の瞳‥キメラがその穴に潜んでいたのだった。
 三人は各々武器を構え、藤村は後退、すれ違うようにアンジェリナと旭が前に出る。

 ワラワラと穴から出てきた数は、僅か2。
 この程度なら余裕と考えるのだが、藤村は警戒を弱めなかった。

「本当に残間ほどの実力者が重症になるほどの相手なのか‥」

 彼女の実力は、依頼に同行した事のある彼自身が知っている‥生半可な敵では、彼女にあそこまでの傷を与える事は出来ないだろう‥と想定しているのだ。
 
「朱桜漆型−朱雀−!」

 旭が引き金を引き、アンジェリナがソニックブームを放つ。
 それに合わせ、蜘蛛も巣穴から飛び出してきた。

●意外
 数少ないながらも、全ての班がキメラと遭遇してしまった。
 想定してはいたが、キメラとの戦闘は命を賭けねばならないのが上等‥彼らはいつもの通り、緊張を高めた状態で敵に相対していた。
 ‥のだが。

 ヒューイ班。
 八神は刀を振り下ろした状態で停止していた‥。
 彼自身に負傷は無い、それどころか彼の目の前には二つのキメラの屍が横たわっている。
 結果としては万々歳のはずなのに、後衛のヒューイとフォビアも、驚きと言うより、困惑の表情で銃を下ろせないでいる。

 須佐班。
 彼はキメラの屍を踏みつけ、死しているはずなのに警戒心を絶やさぬ瞳で、それを見下ろしている‥同時に、周囲にまだ仲間がいないかと、気配を探っていた。
 リリスは何とか蜘蛛の糸の呪縛から逃れ、同じく緊張を絶やさずに大剣を構えていた。
 しかし、どう見てもこの屍は動かないし、周囲に仲間が入る様子も無い。

 藤村班。
 銃弾でバラバラに、そしてソニックブームで引き裂かれたキメラの屍を三人はただ見つめている。
 やはり3人も疑惑の眼差しで暫く動かなかったが‥やがて、藤村がその屍に慎重に歩み寄る。
 そして、その有様を近くで確認し、やっと緊張を解いた。

「‥妙だな、この程度の相手にあの彼女が?」

 彼は呟く。

 そう、このキメラは凡そ強いとは言い難い‥いや、確かに一般人には脅威の存在だろうが‥言ってしまえば、弱いのだ。
 銃痕を付けられる様な攻撃も行ってこなかったし、この程度ならば何匹出てきても問題ではないはずだ。
 下級‥その更に下級レベルだろう。能力的にはともかく、動きが一般のキメラより単純なのだ‥。

 結果論として‥残間 咲がこの程度の敵に負けるとは考えられない。

●疑惑の裏づけ

「む‥? これだ、この小太刀だ」

 戦闘後、幾つか敵とぶつかる事も会ったが、いずれもアッサリ撃破出来た‥おかしな話だが、探索に支障は無くて助かっている。
 暫くし、藤村の班は遂に小太刀を発見する事が出来た。

 だが‥、それはあの咲の依頼の疑惑を裏付ける事でもあった‥。

 集まった八人は、その小太刀を見て、息を呑んだ。

「これは‥」

 アンジェリナは、『小太刀の柄にめり込んでいる銃弾』を取り上げた。
 目視でも判るのだが‥やはり、銃弾である。
 俄かには信じ難い事態だ。
 フォビアと旭は、少し想像がついていた物の‥それでも、実際に起こってしまっているのだから、驚きは禁じえない。

「‥残間さんはおそらくキメラをあしらっているときに何者かの攻撃を受けたのでしょう」
 
 何者か‥。
 この様な辺境の地‥更に弱いとはいえ、キメラが生息している地域に暗殺者など潜む事が出来るとは考えにくい。
 それに、危険で難しい依頼だったと聞く‥今とは比べ物のならない数だったはずだ。
 
 となれば‥自然と、答えが出てしまう。

「能力者‥」

 フォビアは、ポツリと呟いた。
 
「マジかよ‥また、テロリストとか親バグア派とかじゃないのか?」

 当然だが、『信じられない』という顔で、ヒューイが言った。
 だが、八神が首を横に振る。

「‥たった数人の能力者を狙う為だけに、わざわざ危険地帯に踏み込むとは思えない‥最も、依頼同行者と言う線でも、意図は不明だけどね‥」


●成功‥だが
 小太刀は無事咲に送られ、今回の依頼自体は成功だろう。
 しかし、咲の負傷の疑惑に関しては、その殆どが不明瞭のままだ。

 だが‥彼女を傷つけたのは、キメラでは‥無い。

●???
 リリスは事務所へと帰ったが、そのほかの面子はLHに戻ってきた一行。
 それぞれが解散し、ひと時の休息を堪能する‥また、いつ仕事に行かねばならないかは判らない、休める時に休まないといけないだろう。

 だが、フォビアはそのまま本部の方へと向かっている‥咲が請けた依頼の詳細を確認し、紅の獣に送るためである。
 その背に、アンジェリナが呼びかけ、隣を歩き始めた。

「フォビア、少し聞きたい事がある」

「‥? ‥どうしたの?」

 アンジェリナは、前回の依頼依頼、『紅の獣』に興味を持ったらしく、以前より『紅の獣』関係の仕事を請けているフォビアに、色々聞きたいらしいのだ。

 それを聞いたフォビアは頷き。

「‥じゃあ‥残間さんに情報を届けたらゆっくりと‥ね」

「ありがとう」

 アンジェリナは微笑み、フォビアも思わず口を綻ばせる。

 その二人の傍らを、一人の能力者がすれ違った事に、彼女たちは意識を向けなかった。
 LHは能力者が多数存在するので、珍しい者でもない。意識を向けなかったのは仕方ないとも言える。

 その男が、『残間』と言う単語にビクリと過剰反応を示した事にも‥気付く事は無かった。
 男は、誰にも聞こえない声で呟いた。

「‥仕留め損なっていたか‥」